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俺は待ってるぜ

横浜を舞台にしたモノクロの古い映画なのだが、今観ても洒落た大人の映画になっている。

この当時の裕次郎は痩せていて、スターになっても不思議ではない甘いマスクで長身の青年だ。

内容は、実兄の石原慎太郎が、弟裕次郎が歌ったヒット曲を元に書いた、どこか外国映画でも連想させるような傷ついた男と女の物語だが、後半は、犯人探し風の展開になっている。

二谷英明が敵役だが、その子分で、若い頃の杉浦直樹が出ているのが意外である。

杉浦直樹に日活のイメージはなかったからだ。

裕次郎同様、身体が大きいので、数人いる柴田の子分の中でも目立っている。

杉浦直樹は、この作品と「錆びたナイフ」(1958)に出た後、松竹作品の方に移っている。

日活に残っていても、裕次郎並のスターにはなれないとの判断だったのだろうか?

モノクロと言うのが、作品や劇中のロケーションに格調を与えているように見える。

蔵原惟繕監督の昇進第一作らしいが、手堅い仕上がりには感心させられた。


▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1957年、日活、石原慎太郎脚本、蔵原惟繕監督作品。

雨が地面の水溜まりで跳ね返っている様を背景にキャスト、スタッフロール

夜、レストラン「リーフ」のネオンサイン

タイトル

「リーフ」のネオンが消え、店長の島木譲次(石原裕次郎)は、コートを着て、口笛を吹きながら帰りかけるが、途中、波打ち際近くに立っているコート姿の女を見つけ足を止める。

その女に近づいた嬢次は、君、今頃何をしてるの?何をしようとしているの?と話しかけるが、女は、構わないでくださいと答えるだけ。

バカなこと言うもんじゃない。帰る所、どこなんです?と問いかけた譲次は、煙草に火をつけ、その煙草を女に渡そうとするが、女は受け取ろうともしない。

寒いでしょう。それに濡れている。僕の所に来ませんか?夜の海は冷たいよとなおも語りかけた譲次は、ようやく言うことを聞いた女を連れ、今出て来た「リーフ」に戻って来る。

入口でためらっているかのようなその女早枝子(北原三枝)に、コニャックを、暖まるよと言いながら勧めた譲次は、安心しなよ、ここは俺の店だ。普段も俺とコックしかいないと教える。

カウンターの中に入った譲次は、食事は何を作ってあげようかな?向うの部屋で着替えなさい。男物しかないけど、濡れるよりましだろう?脱ぎたまえ、キッチンの火で乾かしてあげるよと早枝子に勧める。

そして譲次は、奥の寝室に入った早枝子に、男物ようのセーターとタオルを置いてキッチンに戻る。

寝室でセーターを肩からショールのようにかけた早枝子は、表から聞こえて来たパトカーのサイレン音や突然、何かが倒れるような大きな音に怯えたのか、譲次のいるカウンターの方へ戻って来る。

そんな早枝子に、スープを出した譲次は、大分疲れているね?これ飲みなさいと優しく声をかける。

疲れ過ぎたのね…。ただお話ししたところで…と早枝子が言うので、聞いた所で俺に出来ることは、料理のお代わりをするくらいだと譲次が言うので、それ以上は何も言わず、出されたスープを飲み始める。

美味しいわ…と言う早枝子に、あんた、一体、誰なんだろうね?と譲次が問いかけると、カナリアよ、歌を忘れた…と早枝子は答える。

あんた、疲れているだけじゃなく、何かに怯えてるね?誰かに追われているんじゃない?と譲次は聞き、俺は、長く日本にいる訳じゃなく、ブラジルの兄貴から迎えの手紙を待って向こうに行く人間だから、気兼ねなく打ち明けてごらんと話しかける。

でも、もうどうしようもない…、私、人を殺したかもしれない…、きっと殺してしまったんだわ!と早枝子は言い出す。

(回想)キャバレーの一室に連れ込まれて迫られた早枝子は、その男の顔に部屋にあった花瓶を投げつけ、男は倒れて動かなくなってしまう。

(回想明け)あの男を殺したんだわ…。怯えたりする前に疲れたのよ…と早枝子は呟き、あなたには夢があるみたいね。私には何もないの…。コート取ってくださる?乾いたらしいわ。これで失礼します…と言いながら立ち上がる。

ここを出て、又冷たい海の中かい?と皮肉った譲次は、人が死んだら新聞に載るだろう。今晩ゆっくり休むことだよ。あのベッドを使いなさいと早枝子に話しかける。

翌朝、外に出た早枝子は、表で口笛を吹いていた譲次に近づくと、色々ありがとうございましたと礼を言う。

譲次は、どこに行くんだい?朝飯まだだろう?今さら、あの店に帰る訳にも行かないだろうと、夕べ聞いたキャバレーのことを早枝子に思い出させる。

それに、今夜も僕があそこを通るかどうか分からないぜ…と冗談を言っていると、コーヒー出来とるか!と声をかけて来たのは、常連客の老医者内山(小杉勇)だった。

譲次は、いけね!朝の定期便だ!と内山のことを思い出したかのように店に戻る。

結局、早枝子もそのまま店に戻ると、忙しくなった店内で、自然とウエイトレスのような手伝いを始める。

内山は、なかなか良い娘だなと譲次に話しかけると、当の早枝子に名前を尋ねる。

早枝子は、早枝子ですと答える。

忙しい時間が一段落し、コックの栄造(河上信夫)がタマネギを剥き始めると、早枝子は朝刊に目を通し、人が死んだ記事が載ってないことを知ると、ちょっと安堵の表情を浮かべる。

そんな早枝子に、どう?何も出てなかっただろう?安心したまえと譲次が語りかけると、早枝子はラジオをかけ、音楽を鳴らす。

譲次は、まだ居残っていた内山に、ブラジルまでの航空便っていくらです?ポルとベリーなんですとテーブルで聞いていたが、そのときカウンター内にいた早枝子が、この印、何かしら?と壁にかかっていたカレンダーについていた印を見せながら聞いて来る。

すると内田が、去年、譲次の兄さんが日本を発った日だ。あれからもう1年になるのか…と教える。

譲次は、兄に出した手紙の返事が3通ともまだ来ないと内田に打ち明け、待ち遠しいなあ~、僕はもうこの日本には用はないんだ…と呟く。

向こうに行ったらこれやるのか?と内田が両手を前に突き出すジェスチャーをすると、もうこの手は使いたくないと譲次は答える。

その時、突然カウンター内から物を落とす音が響き、早枝子がこぼした液体で服を汚していることに気づく。

その後、部屋で下着姿になっていた早枝子の所へやって来た譲次は、買って来た女性物の服の箱を投げて寄越す。

その後、着替えた早枝子と譲次は町に繰り出してみる。

そんな2人に気づいたサングラスをかけた男が、後を付け始める。

男は右の額に絆創膏を貼っていた。

譲次と早枝子は、映画館でボクシングの新栄谷口が選手権を取ったニュースを観ていたが、何故か、譲次は考え込むような真剣な表情になっていたので、隣に座っていた早枝子はどうしたの?と声をかける。

その後、早枝子はトイレに向かうが、そのトイレの前に付けて来たのはあのサングラスの男だった。

サングラスの男柴田(波多野憲)は、洗面所にいた波多野憲の前にドアを開いて顔を見せる。

早枝子は、兄貴が怒ってた。契約がまだじゃないかってと言いながら迫って来た柴田の顔を見て驚くと、私は歌を歌うだけの契約だったはずよ。人を呼ぶわよ!と言いながら、柴田を押しのけて外へ出ようとするが、もう来てるよと声をかけて来たのは、遅いので心配して来た譲次だった。

お前は誰だ?と柴田から聞かれた譲次は、僕はこのこの兄だととぼけるが、柴田は、どけ!と言いながら銃を突きつけて来る。

しかし、譲次は表情も変えずに、止せよ、そんな危ない玩具…と柴田に言い聞かせようとするが、柴田は早枝子に、レイ子。こっちに来るんだ!と呼びかける。

譲次は、なおも柴田に近づき、銃の方に手を伸ばしたので、柴田はその気力に負け、銃を手渡す。

譲次は、それをパンフレットに包んで、早枝子と共に映画館を出るが、受付の女性に、これを後から来る客に渡してくれとパンフレットを渡して行く。

受付の女性は、丸められたパンフレットを開き、中に拳銃が入っていることに気づくと驚く。

その後、港付近を歩きながら、さっきの男、君をレイ子って呼んでたけど、僕はさんって呼ぶよと譲次が話すと、あんなことがなければ、もっと楽しい1日だったんでしょうけど…と早枝子は残念がる。

でも考えてみたら、あの夜、あの雨の中、あなたにお会いできて良かった…と早枝子は言うので、やっぱり生きていた方が良いよ。僕も、日が昇っても、僕だけは何も良い事がないって意地になっていた頃があったんだと譲次は答える。

2人が「リーフ」に戻って来ると、郵便ポストに、譲次が兄に出した手紙が、該当者なしと付箋が貼られ、3通とも戻って来ていた。

これには譲次もショックの色を隠せず、そんなバカな…と呟くだけだった。

店で落ち込んでいた譲次は、これは兄貴から教わった番地なんだ。これは僕に残されたたった一つの夢なんだ!と何とか慰めようとする早枝子に訴える。

その後、郵便局に言って調べてもらった譲次だったが、やはり3通とも同じ住所だったので戻って来たのだろうと言われただけだった。

譲次は、ブラジルで兄を待っているはずの知人宛てにもう1度手紙を書いて投函してみる。

その頃、「リーフ」に来ていた内山は、留守番をしていた早枝子から手紙が3通とも戻って来たことを教えられ、それは気の毒だと同情していた。

そんな内山に早枝子は、あの方は一体どんな方なんでしょう?と聞いてみる。

あなたは興味があるようだが、この店にやって来る人間はそれぞれ訳がある…と内山は語り出す。

このコックの栄さんも元コック長だったが、交通事故でこうなった。

先生も?と早枝子が聞くと、酒でこうなった…、何でも良い。何か頼れる物さえあれば良い。酒でも恋愛でも…と内山は答える。

あの人のそれはブラジルよ!と早枝子は言い、あの人は遠い人だわ…、先生はあの人の過去を知ってるの?と聞く。

それが必要かな?と内山は逆に問いかける。

その頃、町の中を歩いて店に戻って来ていた譲次に気づいた柴田は、同行していた子分に後を付けさせる。

わしは2度ほど彼の試合を観たことがある…、「リーフ」のテーブルで、内山が語り出していた。

島木譲次は実力では問題ないチャンピオンだった。

その頃、事件を起こした…。そして選手のライセンスを失った…。

人を殴り殺したんだ。彼の腕力が強過ぎたんだ。わしも手術で人を殺したことがある。もう見込みのない病状だったが、わしは酒のせいにした。

あの男も、自分のせいにしている…と内山は言う。

「リーフ」の側の空地まで戻って来た譲次は、付けて来た男がドラム缶の後ろに隠れると、気づいていたよと言わんばかりに石を投げつけてみせる。

子分は逃げながら、覚えてろよ!と捨て台詞を残して行く。

店に入りながら、とうとうここまで犬がついて来たよ。又来たら、追い払ってやるよと笑いながらテーブルに座っていた早枝子に語りかけた譲次だったが、早枝子は、今度はそうはいかないわと心配する。

その後、ブラジルの相手から来た返事には、お兄様は当地にはお見えになっておりません。折りする予定だった200エーカーの農地はまだそのまま残っていますので、もし、あなた様がその気なら、お売りしても構いませんと書かれてあり、それを読んだ譲次は、そんなバカな!兄貴は一体どこにいるんだ?奴まで俺を裏切ったのか!とと絶句する。

いけないわ!と、興奮した譲次をなだめようとする早枝子に、黙ってくれ。君なんか知ったこっちゃない!俺は何のために待っていたんだ?と譲次は邪険にするが、すぐに取り乱したことを詫びると、ここにいてくれたまえ。でもこれは僕の問題なんだ。放っといてくれ。僕がここでやれることは、コートを乾かしてやるか、コニャックをついでやることくらいで、僕は今、黙っているだけなんだと言い渡す。

すると早枝子は、今なら話せるわ。あなたの傷を和らげられるのなら…と自分のことを語ろうとするが、僕は他人に動かされることはない…と譲次は冷たく答える。

それを聞いた早枝子は、あなたは何かに寄りかかることが出来ないのね…と哀し気に問いかけ、あなたはひねくれているわと指摘する。

それでたくさんなんだ!放っといてくれ!と言いながら、譲次は店から奥の部屋に向かう。

店内に1人残った早枝子は頭を抱えるのだった。

翌日、譲次がカウンターのラジオで女性歌手の歌を聞いていると、起きて来た早枝子が、止めて!消して!と大声を出して近づいて来る。

しかし、自らスイッチを消そうとして気持ちが変わったのか、良いわ、お聞きなさい。存分に聞いたら良いわ…、これが1年前の私よ。歌っているのは私よ!分かって?そうよ、カナリヤよ!歌を忘れた…。これが私の過去なのよ…。今はキャバレーのマイクでしか歌えなくなった。歌の先生は私の咽が潰れたら、すぐに私を捨てた…。私は先生を恋人と持っていたわ。私だけがそう思っていただけなのかもしれないと告白すると、何故、逃げるの?と譲次に迫る。

譲次は、逃げやしないよと呟くが、あなたは怖いのよ。私があなたと同じような人間だと知ることが!と早枝子は指摘する。

そんなこと知り合ったってどうにもなりやしないさ…と言い残し、譲次は店を出て行く。

突堤に佇んでいた譲次に近づいた早枝子は、あなたは偏屈で、1人でいようとしているだけよ。何故同じような悩みを持つ人間に頼ろうとしないの?と声をかけるが、譲次は、似たような境遇の2人が惚れあうってことかい?とからかって来る。

あるいはそうかもしれない…と譲次は続け、昔、俺が事件を起こすと、そっぽを向いて逃げて行った女…、もう人間に何かを信じるなんて諦めているんだ。僕は人1人殺したんだ!あの時は一瞬、殺してやろうと思った。その時は畜生みたいになっていたんだ。一旦、事件を起こすと、逃げて行った人間ばかり…。まだ牛や馬と暮らす方がどれだけ楽しいか…と譲次は自嘲する。

あなたは人間の…、女の気持ちなんて分かりゃしないわ!と早枝子が責めると、分かるさ。あの晩、何故君を呼んだか…、いつかは自分を哀れむようになるんだ…と譲次が言うので、噓よ!と早枝子は言う。

自分の気持ちを騙していることが分かる…、でも君なら、騙されたって良いかも…、でも今の僕にはやらなくちゃいけない事があるんだ!騙した兄貴を捜してやる!誰かに仕返ししたい気持ちで一杯なんだ!と訴えた譲次は、突堤から去って行く。

あなたは遠いわ…、近づいたと思っても、又遠のいて行くわ…、1人突堤に残った早枝子は、遠ざかって行く譲次の後ろ姿を見つめながら呟く。

「リーフ」に戻って来た譲次は、店内に見慣れぬ集団が入り込んでいることに気づく。

この間の犬はあんたん所のだったのかい?と譲次は、以前会った柴田に話しかける。

柴田が怒って拳銃を出そうとすると、トシ、止すんだ!今日はイロ出入りのために来たんじゃねえ叱りつけた男、柴田の兄(二谷英明)は、匿っている女を返してもらおうと譲次に穏やかに言う。

彼女が嫌だと言ったら?と譲次が抵抗すると、契約の期限が2ヶ月も残っているんだと言う柴田の兄が言うので、歌以外のことをやらそうとしたんじゃないのか?と譲次が追求すると、時々三下がうろついていただけだと柴田の兄は答える。

3ヶ月分のギャラを俺が払うと言ったら?と譲次が言い出すと、俺にもツラって物があるんだと柴田の兄はメンツを強調する。

そこに戻って来た早枝子は、柴田たちが乗り込んで来たことに驚きながらも、私が戻れば良いんでしょう。余計なことはしないで。ブラジルに行くために貯めてたお金でしょう?と言いながら、自ら柴田たちのまえに出て行く。

柴田の兄は苦笑しながら、女が言ってるじゃないか、余計なことだって…と譲次に言う。

譲次は、柴田の弟がちらつかせたメダルを鎖で付けたジャックナイフを観て、それは!と驚く。

(回想)バーで絡んで来た男(高瀬将敏)を殴り殺した譲次

2度とこの腕を使わせないでくれと頼む譲次に、早枝子を連れて店を出て行きかけた柴田の兄は、おめえ、何とかって言ったな?試合観たことがあるぜ。俺もフェザーでならした柴田だ…と言い残して行く。

店に残った譲次は、メダル…、そんなバカな!と唖然としていた。

その夜、内山が店にやって来るが、閉まっているので、譲次がベッドに横になっていた部屋の窓から、何、しょげているんだ?と言いながら入って来る。

そして、自分で勝手に酒を注いだグラスを持って戻って来ると、早枝子さんはどこ行ったんだ?と聞く。

帰りましたよ、元の所に…と譲次は答える。

それを聞いた内山は、君が悪い。あの人は、君以上にみじめな人だったかもしれんよ。それを分かってやらなかった…と譲次を責める。

そんなことをするまえにやらなくちゃいけない事があるんだと譲次が答えると、兄さんを捜すまえに、自分を捜したまえ!と内山は言う。

あの時…、練習試合があるからとは言え、どうして兄さんを見送りに行かなかったんだろう…と悔みながら、これが僕の探している物ですと言いながら、譲次が写真立ての写真を見せると、内山は、この人!と言い、ちょっと驚いたような表情になる。

何か?と譲次が聞くと、わしはこの人を観たような気がする…。きっと見間違いだ。このところ酒のせいで、物覚えが悪くなってしまって…と内山は答える。

その後、譲次は、入国管理事務所に出向いて、兄の出国に関して聞くが、移民局の事務員(館敬介)は、情勢名簿に兄の名がないので舟に乗ってないことは確かだが、出帆の日、荷物だけは舟で運ばれており、その荷物は戻って来て保管しているので観てみますか?と言う。

すぐさま、そんもトランクの中味を改めた譲次だったが、「アンドロメダ るり子」と書かれた1枚のキャバレーの名刺が見つかる。

移民局の事務員によると、そこは南町にある柄の悪いキャバレーで、今は「地中海」と言う名に変わっているらしかった。

さっそく譲次は、その店に向かう。

「地中海」で歌っていたのは早枝子だった。

テーブルに座った譲次は、やって来たボーイにるり子さんを呼んでくれと頼むが、心当たりがなさそうなので、この店で一番古い女の人を呼んでくれと頼む。

譲次が店に来たことは、カウンター席にいた柴田の弟も気づいており、その同行にじっと注視していた。

支配人室では、柴田の兄が、ヤクの仕事をやるのか、やらないのか、子分に迫っていた。

譲次は、やって来た古手のホステス(堺美紀子)に、2年まえまでここにいたるり子さんを知らないかと聞くと、ミサオさんのことねと思い出したホステスは、今は日ノ出町の「ソレント」と言う店のママになっていると教えられる。

譲次は、歌い終わったら彼女を呼んでくれとボーイに頼むが、それを聞いた柴田の弟は、畜生!と立ち上がろうとする。

しかし、側にやって来た柴田の兄がそれを止める。

歌い終わった早枝子は、ボーイから言葉をかけられ、譲次のテーブルにやって来たので、ホステスは気を利かせて席を立つ。

私にまだ用があるの?と醒めた表情で聞いて来た早枝子に、頼みたいことがある。あの柱の陰にいる男が持っているメダルの裏を一目見たいんだ。助けてくれ、頼む。僕がボクシングをやっていた時の新人王のメダルで、裏には僕と兄貴の2人のイニシャルが彫ってあるんだと譲次が言うと、御用はそれだけ?お帰りになって!私、あなたの前で歌いたくないのと言い去って行く。

そこにやって来た柴田の兄は、良く来てくれたと譲次に話しかける。

一方、弟の方は、楽屋に戻って来たレイ子に近づくと、示し合わせて逃げだそうったってそうはいかないぞと迫るが、そんなんじゃないわと否定した早枝子は、あんた、ナイフ持ってたわね?手で開けられない物があるので貸してと頼む。

メダルをぶら下げたジャックナイフを受け取った早枝子は、楽屋に入ると、中を覗こうとする柴田の弟を叱り追い払うと、紙に口紅を塗り出す。

一方、「地中海」を出て、日ノ出町の「ソレント」にやって来た譲次は、そこのママになっていたるり子(藤代鮎子)に、この男を覚えていないか?「アンドロメダ」で1年前に会っているはずなんだ。今、行方不明になっているんだと言いながら、兄の写真を見せる。

すると、るり子は、テツが3、4回連れて来たことがあると思い出す。

そのテツと言うのは?と譲次が聞くと、「地中海」をやっている柴田の子分だった男だったけど、喧嘩で半年以上前に死んだと言うではないか。

死んだか…と落胆した譲次は、一旦「リーフ」に戻り、ウクレレなど引いて歌っていたが、そこに早枝子がやって来て、お約束の…と言いながら、一枚の紙を差し出す。

そこには、口紅にメダルの裏側を押し付けた跡がくっきり残っており、想像通り、譲次と兄のイニシャルが入っていた。

お役に立てて?と聞いて来た早枝子に、ありがとうと礼を言った譲次は、もう帰るのか?と聞く。

私にまだ用があって?店を黙って抜け出して来たかの。うるさいから帰るわ…と言い、早枝子は帰って行く。

その後、キャバレー「地中海」の前で、柴田の弟を待ち受けていた譲次は、路地裏に引きずり込むと、このメダルはどこで手に入れた!と殴りつけながら聞く。

テツだ!奴は喧嘩で死んだ!と言い、柴田の弟は逃げ去る。

「地中海」の支配人室で兄に報告した柴田の弟は、すぐに仕返しに行こうとするが、思い出したが、あいつは一昨年のウエルター級の新人王だった島木譲次だ。お前らが敵う相手じゃない。喧嘩で相手を殴り殺した奴だと教える。

そして、タケを探して来いと命じるが、タケの野郎、最近川上組にも近づいてますぜ。社長が甘やかすから…とこぼす子分(杉浦直樹)、早く行け!と叱りつける。

譲次は警察署の警部補(植村謙二郎)に会い、テツと言う男が殺された事件のことを聞く。

昭和31年の12月に「アンドロメダ」と言う店で殺されたのだが、他の証言も一致し、相手は正当防衛で保釈されたと言う。

その時の証拠写真を見せられた譲次は、そこで死んでいる男の顔を見て、兄さん!これは僕の兄です!と驚く。

相手の名を聞くと、川上一家の竹田と言う男で、不起訴になったと言う。

今どこにいます?と聞くと、花咲町の白雪と言う寿司屋だと言うので、譲次は早速その寿司屋を探しに行く。

店内にいた数人の川上組の子分(宮崎準)らに、竹田って人いる?と聞くと、最近さっぱりこっちには寄り付かないと言う。

諦めて帰りかけた譲次に、女の店員(清水千代子)が、「ジュン」と言うビリヤード屋に行ってみたら?と教えてくれる。

その頃、柴田の子分も立田を探しまわって入り、「白雪」に来ると、竹田はいるか?と聞いたので、さっきの方はお使いの方で?と川上組の子分は聞き返す。

そいつはどんな奴だった?と聞くと、柄のでかい、メンズレした奴でしたねと川上組の子分は答える。

その後も、譲次は、雀荘などで竹田を探していたが、柴田の子分たちの方は、飲み屋の女(三船明子)から、竹田は最近「キール」と言う店の文子と言う女とつるんでいると聞き、その後、その「キール」のマダム・キール(原恵子)から、竹田と女は「チェリーヒル」にいるんじゃないかとの情報を得ていた。

すぐさま、柴田の子分たちは「チェリーヒル」と言うアパートにやって来る。

すると、女を連れて階段を降りて来た竹田(草薙幸二郎)と遭遇したので、良い気になりやがって!社長がお待ちかねなんだよ!と脅し、その場から連れ去って行く。

一足遅れて「キール」にやって来た譲次だったが、店に戻って来ていた文子(竹内洋子)から、竹田なら、革ジャンを着た背の高い男たちに車に乗せられ連れて行かれたと聞く。

「地中海」に戻って来た譲次は、驚いて逃げ出そうとした柴田の子分(榎木兵衛)を個室に連れ込むと、殴りつけ、竹田をどこに連れて行った?と聞く。

倉庫街と聞いた譲次は、相手を気絶させ、何食わぬ顔をして部屋を出ると、「地中海」の店の奥の通路から逃げ出そうとするが、そこでばったり早枝子と出会う。

お兄さん、見つかりそう?と早枝子が聞くと、見つかったよ。待っても来ないはずだ。発つ前に殺されていたんだ。今、その相手を捜しているんだと教えた譲次は、急いで店を後にする。

その頃、倉庫街裏手に竹田を連れて来た柴田の兄たちは、おめえは女みてえにしゃべり過ぎると迫っていた。

騙しやがったな!と竹田はあがくが、アルコールを取り出した子分を見ながら、おめえは飲まなかったが、へべれけに酔っぱらうのもたまには良いぜ。酔って海に落ち、頭を打って死ぬんだ。可哀想二都御名が泣くぜ。どうしてそんなに飲んだのかしらってね…と嘲る。

そして、子分らに竹田の身体を押さえつけさせ、強引に口の中に酒を押し流す。

その時、近くに譲次がやって来る。

子分に棒で、酔った竹田の頭を殴らせようとした柴田だったが、誰かが来ると言う声を聞き、その子分が怖じ気づいてまともに頭を殴れないでいたので、

焦った柴田の兄は切れ、その子分から棒を奪い取ると、自ら竹田の頭を強打し、その身体を海に放り込ませる。

彼らが車で逃亡した時、竹田が落とされる所を目撃した譲次が駆けつけ、間一髪、沈みかけていた竹田の身体を引き上げると、医者の内山の所へ担いで来る。

何とか助けてやってください!兄貴のこと、どうやら分かりそうです。先生がどうして兄貴のこと、僕に黙っていたかも…と譲次は告げる。

深夜0:50分

内山は、診察台に寝かせた竹田を観ながら、何とか持ちそうだよ…と譲次に教える。

気がついた竹田に、テツを殺したのはお前だな?と譲次は質問する。

金をもらって身替わりになったんだ…と竹田は答える。

誰の身替わりだ?と聞くと、柴田だと言う。

まだあまり話しかけん方が…と止める内山を無視し、竹田は、みんなバラしてやらあとやけになったようだった。

テツも柴田の殺しも俺が背負ってやったんだと言い出したので、柴田の殺し?と聞くと、テツが連れて来たカモを奴がバラしたんだと言う。

そいつはどんな奴だ?と聞くと、南米行って、農業やるって言ってた、小銭を持った若え男だと竹田は教える。

(回想)譲次の兄は、キャバレーで柴田とやったイカサマ博打に引っかかり、逃げ出そうとした所を、柴田に捕まり、その場で殴り殺されたのだった。

(回想明け)噓じゃねえとの竹田の言葉を聞いた譲次は、キャバレー「地中海」に向かう。

「地中海」では、閉店後、まだ早枝子 が柴田の兄から無理矢理歌を歌わされていた。

そして、子分たちにも、今夜は徹夜で飲むんだ!と命じていた。

そこに譲次がやって来たので、柴田の兄は、何だ?と聞くが、弟から奪い取ったメダルを差し出した譲次は、お前がこのメダルを取ったんだろう?

お前が殺した男は俺の兄貴だ。竹田が何もかもしゃべった。お前のイカサマダイスに引っかかり、ブラジルへ行くために持っていた200万円を取られた。貴様の得意なアッパーで…。テツを殺したのもお前だ。おっつけ警察もやって来るだろう。その前にお前にしなくてはならないことがあるんだ。貴様が兄気にしたようにしてやる!と言いながら、譲次は柴田の兄に迫る。

その様子を観ていた柴田の弟が、又銃を懐から出そうとするので、手を出すんじゃねえ!と制した柴田の兄は、てめえ、又人を殴り殺すのか?と譲次に聞く。

すると、譲次は、ありゃ左手だった。貴様のために右手を空けていたのかもしれねえ…と言いながら殴り掛かって来る。

フロアで、元ボクサー同士が殴り合いを始める。

譲次は柴田の兄のパンチを観て、てめえ!やっぱりボクサーじゃねえ!人を殺す気でいやがる!と見抜く。

その戦いを観ていた柴田の弟は、早枝子に一緒に来るんだと誘う。

店の裏手にもつれ込んだ譲次は、兄貴をやったのも、竹田を殺そうとしたのもお前だ!どうなんだ?答えろよ!と言いながら、柴田の兄を殴り続ける。

柴田の兄は、電燈を床下に仕込んだフロアに倒れる。

兄さん!兄さん!待ってたんだよ!譲次は呟く。

その時、発砲音が店内に響き渡る。

バッグを持った柴田の弟が発砲したのだった。

又、玩具か…、それでもかすったぜ…と譲次は、血が流れる右手を垂らしながら近づくと、左手で殴り倒す。

柴田の弟は、持っていたバッグを床にぶちまけ倒れる。

バッグから大量の札束が床に降り注ぎ、倒れていた柴田の兄の背中にも降り注ぐ。

この金は兄貴の金なんだ!と譲次は叫ぶと、他の子分たちは怯えて店から逃げ出して行く。

譲次は、床に散らばった札を拾いながら、兄さん!バカだよ、兄さんは!となおも叫ぶ。

そんな様子を背後で見つめていた早枝子は、溜まらなくなったように譲次に駆け寄ると、右手の傷を手当てし始める。

裕次郎が歌うテーマ曲の中、譲次と早枝子は、そっと身体を支えあいながら、店を出ると、夜の町の中に消えて行くのだった。