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おはなはん 第二部

人気NHK朝ドラの映画化の第二弾

これで、おはなはんの物語が完結しているのかと思いきや、またもや中途半端な所で終わっており、つまりこの作品、願わくば、「君の名は」のように、この後、第三部、さらにはその後のシリーズ化を狙っていたのではないかと思われる。

この後、「男はつらいよ」が長期シリーズになった事を考えれば、当時の人気次第では、この作品も、長期シリーズになっていた可能性もないではない。

「おはなはん 第20部」な~んてあったりしたら、おそらく、その後の岩下志麻さんの女優人生も又違った物になったはずである。(倍賞千恵子さんのように)

しかし、おそらく、人気が今ひとつでなかったので、第三部は作られなかったのだろう。

前作を受けてのこの作品だが、冒頭の夜汽車のシーンこそ、前作のつながりなのだが、そこから回想シーンを使って実は話が少し戻っている。

前作のラスト、やや駆け足気味に展開し過ぎていた感があったラスト部分をもう少し膨らませて描いているのだ。

そのため、前作のラストとつじつまが合わなくなっている所がある。

前作では、速水大尉は、おはなはんの出産とほぼ同時に死んだ事になっているのに対し、本作では、すでに長女が産まれている後も、生きていたと言う設定になっている。

さらに、前作のラストで、速水の上官を演じていた内田良平が、今作では全く別人を演じているので、続けて観ていると混乱してしまう。

どうやら、前作と本作は同時進行で作られていたのではないかと思いたくなるほど、同じ地方ロケ場所が登場している。

速水の郷里である鹿児島のシーンや、おはなはんの郷里である伊予大州などのロケは、それぞれの映画の為に二度出かけたと言うより、同じ期間内に二部作とも一緒に撮ったのではないか。

さて、本作では、内田良平演ずる浜谷大作と言う「無法松」のようなキャラクターが印象深い。

軍人夫婦と付き合うようになった乱暴者と言えば「無法松」そのものなのだが、この内田良平演ずる大作がなかなかハマっている。

もう1人、良いキャラに育って来たのが、おはなはんの義理の祖父に当たる速水襄介役を演じる花澤徳衛。

頑固一徹の薩摩隼人と言うそのキャラクターと、若い娘であるおはなはんとの組み合わせは、後年のコミック「YAWARA!」の猪熊柔の祖父猪熊滋悟郎を彷彿とさせるキャラクターである。

時々、すっとぼけたことをやってしまう憎めない所なども似ている。

さらに冒頭に登場する薄幸の芸者雪奴の小川真由美さん…、実に色っぽい。

そして、前作同様、誠実そうな夫速水を演じている栗塚旭が実に良いと感じた。

テレビ版の方の速水役高橋幸治さんも実にまじめそうで良かったけれど、映画版の方も負けていない。

テレビ版との進行具合との兼ね合いで、こうした展開になっているのかもしれないが、大長編の中頃で中途半端に終わっている印象であるのがちょっと残念でもある。

後半、ちらり出て来た田中邦衛さんなども、ひょっとすると、その後のシリーズに出ていた可能性があるだけに惜しい気がする。


▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1966年、松竹、小野田勇+林謙一原作、山田洋次+元持栄美+桜井義久+吉田剛脚色、野村芳太郎監督作品。

黒地に赤いタイトル文字

NHK連続ドラマより

夜汽車が走る。

客車に乗っていた女の歌声「汽笛一声新橋を~♪」が聞こえる。

亡き夫速水謙太郎の遺骨を膝に抱いたおはなはんこと浅尾はな(岩下志麻)は、長男謙一郎を抱いた母てる(水戸光子)、夫の馬丁であった細倉亀吉(小沢昭一)と、速水の娘弘恵を抱いたその妻おとく(野村昭子)と共に、東京へ向かっていた。

おはなは、向かいに腰掛けていた亀吉が、こっそり酒を取り出そうとするのに気づき、遠慮しないで堂々と飲んで良いのよ。亀吉は、すいません、やりきれんのですと詫び、一旦は酒瓶を隠そうとするが、葬式や引っ越しで疲れましたやろ。良いのよ、細川さんとおはなはんが勧めると、隣で困った顔をしている女房のおとくに、それ観ろ!と小声で言い、酒を飲み始める。

東京戻るの、何年振りかの?とおはなはんが呟くと、丸2年になります。一昨年、私、やっぱりこの列車で…とその時の事を思い出すのだった。

(回想)ここは御国を何百里~♪その時も、速水大尉(栗塚旭)と共に弘前に向かう夜汽車の中、亀吉は酔ってご機嫌に歌っていた。

おとくと別れて暮らせるので、羽目を外していたのだった。

その亀吉が、あの女をごらんなさい。津軽女って言ってね、弘前には、あんな女がゴロゴロといるんですよなどと下品な目つきで、速水に耳打ちして来るが、その後、寄って席で寝ていた亀吉の元に、その女に肩を貸して戻って来た速水は、おい、ウィスキーを出せ!と亀吉を起こす。

どうしたんです?と亀吉が聞くと、自殺しかけてたんだと速水は言い、席に座らせられたその女は泣き崩れる。

速水大尉が、単身弘前にいたのは、日露戦争が終わった明治39年の暮の事であった。

久々に夫から来た手紙を読んでいたおはなはんは嬉しそうだった。

それに対し、庭先で謙一郎を抱いていたおとくは、亀吉から全く手紙が来ないので、うちの人が手紙を書くのは死ぬ時くらいですよとぼやいていた。

その頃、弘前のとある料亭では新任将校の歓迎式が行われていた。

そんな中、第三中隊新入り将校!と速水を名指し、何かやれと命じるが、言われた速水は困惑し、自分は何も出来ないと断ると、上座に座っていた上官(二本柳寛)までもが、何も出来ないのなら逆立ちでもせい!と無理強いをする。

困ってしまった速水だったが、その時、私が大尉さんの代わりをば勤めさせていただきますと座敷中央に出て来たのは、以前、列車の中で助けてやったあの芸者雪奴(小川真由美)だった。

始めは歌だけだった雪奴だが、やがて、踊りまで舞い出す。

出席していた軍人連中からは、お安くないぞ!この二人で来てるな!等と言った下品なヤジが飛び交う。

バツが悪くなった速水は、歓迎されている側にも関わらず、早々に料亭を後にする事にする。

それを雪奴が途中まで送って行く。途

雪の中、しばし速水に傘をさしかけ付いて来た雪奴は、いつぞやはありがとうございましたと改めて、自殺しかけていた所を助けてもらった礼を言う。

何にしても、元気で良かったなと速水は声をかける。

よほど深い訳があったのだろうが、そんな事を聞いたって役に立つ事は出来んと、速水が雪奴の自殺の理由を何も聞かなかった理由を説明すると、どうせ芸者の悩みなんて、金か男か家だのって決まってますからね…と雪奴も自嘲する。

しかし、生きてさえいれば、その内良い事もあるさと速水は雪奴をいたわり、みんなが待っているだろうから座敷に戻れと優しく言う。

東京では、春が近づいていた。

ある日、おはなはんの家を訪問した尾形大尉 (宗方勝巳)は、長い間速水と会っていないおはなはんの気持ちを察して、自分が一つ弘前に寄ってみるかと言い出す。

ある日、亀吉は速水を誘い、「琴月楼」と言う料亭に来ると、今日は芸者遊びを旦那にお教えしましょうなどと手慣れた遊び人らしく座敷に案内する。

速水の方も、亀吉が退屈しているだろうと言うねぎらいの気持ちから付いて来たのだった。

席に着いた亀吉は、料亭の番頭に、こちらの方は連隊の大尉殿だ。東京では新橋、柳橋と言う一流どころでしか遊んでおられない方だから、それなりの芸者を呼んでくれと居丈高に注文するが、番頭は何もかも承知していると言った様子で、お目当ては雪奴でしょう?先ほど呼んだら喜んでおりましたと言うではないか。

それを聞いた亀吉は、ひでえよ、旦那、私に内緒で馴染みの芸者を作るなんて…。私はおとくに頼まれて、旦那を監視する役目なんですよ…とすねる。

そこにやって来た雪奴は、速水を見ると、嬉々として隣に座る。

速水は、すねている亀吉に、この女、知っとるか?と声をかけ、改めて雪奴の顔をまじまじと眺めた亀吉は、自殺!と驚く。

そんな亀吉の方には、金太郎(桜京美)と言う明るい芸者がやって来て、こちらもむしゃぶりついて来る。

その後のある、晴れ上がった日曜日、突然、速水の家を訪れて来たのは雪奴だった。

男所帯の速水に郷土料理でも食べてもらおうと思ってと言う雪奴は、ジャッパ汁を作って振る舞いながら、亀吉には金太郎さんまだかしらと話しかけていた。

その時、玄関が開く音が聞こえたので、金太郎さんだわと言って雪奴が出て行くと、そこにいたのはおはなはんとおとく、尾形大尉たちだった。

その後、顔をのぞかせた亀吉が慌てて速水の所に戻って来ると、大変だ!奥さんが!私、知りませんよと言いながら伝える。

久々に速水に出会ったおはなはんは、尾形さんが弘前に行かれると言うので、急に一緒に行きとうなって…と、突然やって来た訳を説明すると、今日は尾形大尉の歓送会に切り替えましょうと言い出す。

そして、おはなはんは亀吉に、あの人は芸者さんでしょう?この後もいていただくにはどうすれば良いんですか?と聞く。

亀吉が困った顔をしながらも、遠出と言って並みの花代より高くなりますと教えると、じゃあ、その手続きをしといてとテキパキ頼む。

おとくは、奥さんはお辛かろうね…とおはなはんに心情に同情しながら、魔がさしたと言うか何と言うか…と小さくなっていた亀吉を睨みつけていたが、そこに、何も知らない金太郎がやって来て、このおばあ何だ?とおとくの事をバカにして亀吉に抱きついて来たので、おとくは逆上し、外へ逃げ出した亀吉を追って行く。

その夜、雪奴は、速水の家で、芸者として踊りを披露していた。

かくして雪奴は、おはなはんの機転によって、恥をかく事なく、その場にいる事が出来た。

踊った「土佐の砂山」と言うのは、元々、古い盆踊りだそうですと、雪奴はおはなはんから聞かれて答える。

速水は、細川は何をやっとるんだと、なかなか姿を見せない亀吉の事を案じていたが、そこに面目なさそうに出て来た亀吉の顔は、おとくの引っ掻き傷だらけだった。

雪奴はおはなはんに負けたと思った。自分の自尊心が傷付かぬよう心配りしてくれた事が分かったからだった。

その夜、風呂で亀吉に背中を流してもらっていた早瀬は、俺はやましい所がないから心配せんで良いと言い聞かせていた。

何だか痛いなと早瀬が言うので、亀吉は、自分が持っていたのが、人間用のヘチマではなく、馬用のタワシだった事に気づき詫びる。

そんな亀吉を呼んだおとくは、こんな日に、あんたが背中をお流しすることはないんだよ。本当に気が利かない!と睨みつけると、奥様!とおはなはんに声をかける。

おはなはんが変わって背中を流し始めると、あの女は可哀想な奴なんだ。同情した…、ただ、それだけなんだ。やましい事は何もない!と同じように言い聞かせるが、うちは、何も聞いとりゃせんですよとおはなは笑う。

しかし、その時、大尉の背中はタワシでこすられるより痛かったそうである。

その後、雪奴は、ある人物に引かれて、北海道へ去って行った。

その雪奴から手紙をもらったおはなはんは、雪奴の気持ちが良く分かった。

やがて、雪国にも夏が来た。

ねぶた祭り見学に出かけたおはなはんと速水、謙一郎(金子友定)。

おはなは速水に、この後、「ねぶた喧嘩」と言うのがあるのよと教える。

そして始まった「ねぶた喧嘩」だったが、その混乱に巻き込まれて、おはなと謙一郎と速水は二手に別れてしまう。

その中に1人、妙に威勢の良い男がおり、その男は、おはなはんと謙一郎が塀際に押しつぶされかけているのに気づくと、慌てて、それをかばってやろうとする。

しかし、それを、女房子供に狼藉を働いていると勘違いした速水が、背後から持っていたステッキで頭を殴りつけてしまう。

気絶したその男を連れ、自宅で治療をしてやる事にした速水とおはなはんだったが、傷の消毒用に置いておいた丼の焼酎を、気がついたその男は旨そうに飲み干してしまう。

それに気づいた速水が、傷を洗う焼酎を飲む奴があるか!と叱りつけると、俺様を倒すとは大した腕だな。お前の商売なんだば?と聞いて来たその男は、もう一杯と焼酎をおはなはんにねだる。

その男、トテ馬車(豆腐売り)の浜谷大作(内田良平)と言う暴れん坊で、弘前の鼻つまみ者だった。

ある日、トテ馬車に乗っていた大作に声をかけて来たのは、馬に乗った速水だったが、軍服姿のその姿を観た大作は、おめえ、軍人さんか!と驚く。

今度、飲みに来んか?と速水が誘い、家の連隊にもお前に殴られた奴がいるそうだなと笑う。

こうして、大作はその後、たびたび速水家を訪れるようになり、おはなはんも、良い飲み友達が出来ましたねと嬉しそうだった。

しかし、大作の酒量は桁外れだったので、おはなはんはすぐさま、亀吉に酒を買いに走らせねばならなかった。

大作は速水に酒飲み勝負を挑み、速水も、帝国軍人がこれしきの事で…と、自分もお猪口を茶碗に代え、薩摩男が一升や二升で参ってたまるか!と応じていたが、うわばみのような大作には全く歯が立たず、酔いつぶれてしまう。

おはなはんから援軍を頼まれた亀吉が、旦那の敵討ちとばかり、新たな相手となるが、こちらも口ほどにもなく、すぐに酔いつぶれてしまう。

もう、おとくも台所で眠っていた。

泥酔していた大作は、こんなに良くしてもらったのは始めてだ!奥さんも友達だ。歌聞かせてやっからなと言うと、勝手に歌い始める。

それ以来、トテ馬車の大作は、乱暴者の気性が薄れ始めた。産まれてこの方、人に優しくしてもらった事がなかったからだ。

おはなはんは、二番目の赤案坊が産まれかけていたが、あいにく、産婆は、磐城村の方に出かけて留守だった。

その時、亀吉が、トテ馬車の大作に頼んで産婆を連れて来てもらったらどうかと思いつく。

この依頼に張り切った大作は、馬車を飛ばし、磐城村まで行き、産婆(武智豊子)を連れておはなはんの家まで来ると、馬車の振動で気絶しかかった産婆を抱きかかえて勝手口から入って来るが、まだ産まれるのは明日だと聞くと、思わず抱きかかえていた産婆を上り框に落としてしまう。

それから、三日と開けず、おはなはんの家を訪れるようになった大作だったが、ある日、おはなはんが、赤ん坊に土産を持ってやって来た大作に、金を包んで渡しながら、これからは手ぶらで来て下さいねと言い聞かすと、これはまじめに働いたきれいな金で買った物だから…と遠慮する。

それでも、おはなはんが無理に金を渡そうとするので、俺なんかのような汚れた男の為に…と大作は感激する。

あの暴れん坊の大作が、猫のようになったと評判になったのはそれからだった。

ある日、道ばたで油を売っていた大作を見つけた亀吉は、戻ったら、大作が宜しくって、お前、しゃべってくれと大作が言うので、亀吉は近づいて来て、ちょっと「タイガー軒」で聞き捨てならねえ噂を聞いたんだが…と言いいながら、大作に耳打ちすると、注意してくれよ。迷惑するのは奥様だからと言い聞かして帰る。

大作が、タイガー軒で大暴れし、警官3人に捕まったのは、その直後の事だった。

夜、帰宅して来た速水が、その事をおはなはんに話し、半年は臭い飯を食うそうだ…と教えると、一緒に聞いていた亀吉が、ちょっと薬が効き過ぎたかな?いやね、ポンと1本、釘を打っておいたつもりだったんですが…、タイガー軒で、大作が奥様に首っ丈だと言う噂が出てましてね…と言う。

それを聞いたおはなはんは、タイガー軒と言うのは何処です!私は怒っています!といきなり立ち上がって出かけようとしたので、速水が、誰を怒るつもりだ!と叱りつける。

しかし、亀吉は浮かない顔をしていた。

亀吉は、いつかの仇を取ったような気がしていた。良い気持ちだったに違いない。しかし、俺は汚れた男だ…と、奥に下がった亀吉はうなだれていた。

明治41年 夏

ある日、弘前連隊長(笠智衆)に呼ばれた速水が連隊長室にやって来ると、君はドイツ語をやっとるそうだね?と聞いて来る。

は!他の者がみんなフランス語ばかりやっていますので、自分は違う事を学ぼうと思いまして…と速水が答えると、へそ曲がりも時には良い、実は近々、ドイツのベルリン大使館付き武官の仕事があるのだが、君に頼みたいと思う。だが、演習後にしてもらいたいたいと言うといたと連隊長から言われる。

帰宅した速水からドイツ行きの話を聞いたおはなはんは、うちもドイツへですか?と速水は驚く。

謙一郎や弘恵も連れてですか?ドイツでは、みんなドイツ語しゃべるんでしょう?私は何と呼ばれるんでしょう?などと無邪気におはなはんが喜ぶので、名前はそのまま、さしずめ、フラウ・おはなと言った所かな?と速水は苦笑する。

それを奥で聞いていた亀吉も、フラウ・オトクなどとふざけて呼んでいた。

思えば、この頃のおはなはんは幸せ過ぎたのかも知れない。北国の平和に酔っていた時期かもしれない。

やがて、氷雨降る中、秋の大演習会が始まった。

出かけて行った速水を見送ったおとくは、大丈夫でしょうか?旦那様…、熱がおありになって辛そうでして…とおはなはんに告げる。

それから3日後も、雨は止まなかった。

夜中寝ていたおはなはんは、誰かが雨戸を叩いたような気がして起き出すと、雨戸を開けてみる。

すると、そこに、雨合羽を来た速水が立っていたので、あなた!今頃そんな所で…とおはなはんは声をかけるが、速水は何も言わず、おはなはんに敬礼をして背後の闇に消えて行く。

驚いたおはなはんは、奥で寝ていたおとくを起こすと、速水が今!と庭先の方を指差しながら教える。

奥様、何おっしゃってるんです?とおとくは呆れた風だったが、その時、表の戸を叩く音が聞こえたので、出てみると、第三中隊からの伝令が入って来て、一刻も早く奥様をお連れするようにとだけ命じられてまいりましたと言うではないか。

おとくは愕然とし、中尉さん、まさか旦那様に何かあったのでは?と問いかけるが、伝令役は何も答えなかった。

おはなはんが馬車で中隊に着いた時には、もう夫速水はこの世の人ではなかった。

軍隊による葬式に出席したおはなはんは、一緒に連れて来た息子謙一郎やまだ赤ん坊の弘恵のこれからが心配だった。

故郷から、おはなはんの母親のてる(水戸光子)が駆けつけて来ると、おはなはんは、挨拶回りに行っている所だと、出迎えたおとくが教える。

おはなはんは、連隊長にまず挨拶に行くが、その内、追悼会をやりましょうと言われる。

速水が乗っていた馬は、芹川中尉にもらってもらう。

そして、その芹川から、夫が付けを残している店の名を聞くと、そこの支払いに向かう。

店主は、お香典代わりに…と付けの受け取りを拒否しようとするが、おはなはんはきっちり全部払って行く。

さらに、亀吉にまで金を渡そうとするので、亀吉は辞退するが、私たちは一時金や恩給ももらえるからと言うおはなはんの強い希望で、恐縮しながらも受け取る。

かくして、弘前の暮らしも最後の日が来た。

みんなで最後の夕食を取ろうとしていると、幼い謙一郎が、父親の軍服と帽子をかぶり、みんなに敬礼をしてみせたので、おはなはんは驚く。

お父さんは?と聞くので、行かないのよ。お父さんは遠い所へ行っておしまいになったでしょう?と言い聞かせる。

食事も咽に通らないてるは、いつもと変わらず食事をしようとするおはなはんに、私にはお前の気持ちが分からんわ、辛くうないのか?と聞くと、辛うない訳ないでしょう!とおはなはんは言い返す。

その夜、床に入ったてるは、遺影の前に座り込んだおはなはんが、明日、弘前とお別れします。良えでしょう?うち、辛いんです。夕方になるとどうしても思い出します。

あなたの馬の音が聞こえて来て、細川さんがお帰り~と呼び掛け、玄関にどっかと腰を落としたあなたが、腹減ったと言う声が聞こえそうで…、謙一郎は毎日のように、お父さん、いないって、同じ事を聞いてきます。うち、どうしたら良いんでしょう!何で死んでしまったのよ!と泣き崩れるおはなはんであった。

(回想明け)おはなはんは、速水の故郷、鹿児島に向かうことにする。

弘前から鹿児島と言えば、日本の端から端の、長い長い旅だった。

11月も半ばを数える頃だった。

速水の家族は、みな呆然として、速水の遺骨を迎える。

特に、祖父襄介(花澤徳衛)のショックは大きかったようだった。

うちがいたらなかったばかりに…とおはなはんが速水の死を詫びると、父、隆平(龍岡晋)は、何事も運命であり、寿命です。あんたが謝る事はないと言ってくれる。

そして、襄介は、はじめて会った謙一郎に相好を崩す。

そして、おはな、嘆く事はなか!謙太郎は謙一郎の中にちゃんと生きている。ちゃんとした軍人に育てるよう勤めてくれりゃ良か等と言い出したので、おはなはんは、軍人にですか?と驚く。

その夜も、おはなはんとつるは封建的な鹿児島の風習に則り、男である謙一郎とは別々の部屋で寝る事になる。

まだ幼い謙一郎の鳴き声を聞いたような気がしたおはなはんは、そっと男部屋へ向かうと、案の定、廊下の所で謙一郎が泣いていたので、鹿児島では男の子は1人で寝なければいけんのよと言い聞かす。

しかし、それでも泣く謙一郎を観ていたおはなはんは、襄介の咳払いの声が聞こえるなか、今後襄介は、おじいちゃんに怒られても、自分の思い通りに育てようと決心し、その夜も、襄介を抱きかかえて自分の布団に連れて帰るのだった。

翌日、襄介と謙一郎と一緒に墓参りに行ったおはなはんは、立派な軍人になるんだぞ!と謙一郎に話しかける襄介に、軍人だけやのうて、立派な人間に育てますと言い切る。

その後、城山公園にやって来た襄介は、薩摩隼人の魂を吹き込むため、みんな西郷さんのために、この山に集まったんだと説明する。

途中、転んだ謙一郎が泣き出すと、この鹿児島では、泣き虫は軽蔑される。大体、おはなが悪い。女のくせに、わしと並んで歩くから、転ぶんじゃ。三尺下がって歩け!とおはなはんを襄介は責める。

その後、料亭で休憩したおはなはんたちだったが、謙一郎を軍人にしとうないと言うおはなの気持ちが気に入らんのじゃと不機嫌そうな襄介に、5年前、ここに来た時を思い出しますわ、おじいちゃんは何倍も焼酎をお飲みになって…とおはなはんが言うと、あの頃は、お前も娘じゃった。それが嫁になって母になり…と感慨深気に襄介が言うので、そして未亡人になりました…とおはなはんは答える。

はなにとって、おじいちゃんは、千万人の味方出来たような心強い味方ですわと言い出したおはなはんは、謙一郎を大州に連れて帰りたいんですと申し出る。

その時、謙一郎が火山灰を気にして襄介が閉めていた窓を開け、桜島を眺めたので、かつて夫の謙太郎から聞かされた錦江湾に浮かぶ桜島は、まごてぇ見物でごわんど…と言う御国言葉をおはなはんは思い出していた。

その後、自宅に戻って来た襄介は家族全員呼び集めると、はなと謙一郎を大州に帰すことにしたけん。この家にこのまま残したのでは、はなも気を使って子供の教育もできまいなどと伝える。

それを聞いた隆平はあっけにとられ、元々、はなをこの家に呼び込んだんは、あんたでごわすぞと呆れる。

隆平、お前も頑固にならんと、物わかりの良い姑になってやれと襄介は言い聞かすのだった。

この時のおじいちゃんは、おはなはんにとって万人の味方だっら。

明治42年 夏 伊予大州

大州に帰ったおはなはんは、又元気を取り戻していた。

おはなはんは、河原で子供たちがやっている相撲ごっこの行司役をやっていた。

そこに、お嬢様。お客様ですよと下男の吾助(左卜全)が連れて来たのは、先に嫁いでいた元女学生仲間吉野紀代(有川由紀)だった。

遊びに来てくれたんか?とおはなはんが喜ぶと、急に泣き出した紀代は、しばらくあんたの家にいさせて!と頼む。

紀代が嫁いだのは、吉野屋と言う呉服屋の若旦那だったが、翌朝早く、その吉野が徳永(牟田悌三)と言う叔父連れでおはなはんの家にやって来る。

徳永と吉野は、馬車で夜っぴいて来たのにとか、次の舟まで30分しかない等とせかすばかりで、一向に紀代の話を聞こうとする態度は見えなかったので、たまりかねたおはなはんは、自分も友達として同席したいと申し出、この際、ゆっくり話し合ってもらいますと告げる。

しかし、部屋に向かう紀代はおはなはんに、あの叔父来てるのなら会いとうないわとすねる。

部屋の中で待っていた吉野と徳永は、相手は芸者ですよとか、相手に弱い所見せたらいけんなどと打ち合わせしていた。

そこに紀代が入って来ると、大奥さんには私からあんじょう言うてやるから…などと徳永が口を出して来たので、私には詫びて下さらないの?と紀代は言い放つ。

こんな事で離縁にでもなったら、お母さん泣くぞなどと、相変わらず、相手方に紀代に対する誠意は見えない。

奥ではおはなはんが吾助に、風呂準備している?と聞いていた。

そして、徳永をそっと部屋から呼びだしたおはなはんは、お風呂でも漬かって下さいと言葉をかける。

徳永は、何をのんきな!と最初は憮然としていたが、旅の疲れを落とす為にと重ねて勧められると、その気になり風呂場へと向かう。

ところが、広いと聞いていた風呂は1人しか入れないような風呂だし、漬かってみるとまだ水は全く暖まっていなかった。

ぬるま湯で、なかなか外へ出られないように考えたおはなはんの作戦だった。

そこに、吾助も、徳永の洋服をこっそり持って来て、見つからないように隠す。

紀代ちゃんは私がいないとダメなんやとおはなはんは張り切っていたが、横で呆れていたてるは、紀代ちゃんも、紀代ちゃんじゃ。こんなもめ事を、独り者になったはなの所へ持ち込むなんて…と嘆く。

湯船に浸かった徳永は、もっと早く湧かんのかい!と外に声をかけていたが、謙一郎と共に、焚き口の所にいた吾助は、今、焼けます…、否、湧きますと答えていた。

何と、のんびり焼き芋を焼いていたのだった。

その間、夫の吉野と2人きりになっていた紀代は、今度の浮気で6度目やものと怒っていた。

うちもはなちゃんみたいに、軍人さんと結婚してたら良かったわなどと紀代が言うので、その場にいたおはなはんは、うちもあったんですよ、弘前で…と答えたので、で、その人の名は?と吉野が興味津々聞いて来る。

雪奴はん言うて…あの時…と当時を思い出したおはなはんは泣き出す。

さすがに、紀代も、自分のせいで人に迷惑をかけたと気づいたのか、ごめんな、おはなはん…と詫びる。

そこに、くしゃみをしながら戻って来た徳永が、どないなっとるねん?おはなはんが泣いとるとは…と聞いて来たので、吉野もさすがに、静かにせんと!と叱りつける。

年の暮れ

鹿児島からおじちゃんがやって来た。

今は岡山の高校に行っていると言うおはなはんの弟正太(設楽幸嗣)が茶を持って来ると、剣道はやっとるか?とか、柔術は?などと襄介が聞くので、不愉快そうに、やってません!と答える。

何の事はない、襄介は孫の顔を見に来ただけなのだった。

襄介が謙一郎の為にと持って来たコンペイ糖などの菓子を食い過ぎたため、その夜、謙一郎は激しい下痢を起こし、高熱を出した。

これには、地元の大州では手の下しようがなかった。

襄介は、自責の念にも駆られているのか、絶えず、湯たんぽを入れてやったり、オオバコの煎じた物を飲ませれば熱が下がると言って、おはなはんに飲ませる。

しかし、正太が町に呼びに行った医者はなかなか到着しない。

襄介がいら立つ中、ようやく正太が戻って来たと言うが、連れて来たのは産婆だと言う。

怒った襄介が玄関口に出てみると、確かに正太が連れていたのは、小柄な女性だった。

産婆がこんな時に役に立つか!と襄介は正太を怒鳴りつけるが、私は産婆ではありません。丹波桜子(ミヤコ蝶々)と言いますと言い放ったその女医は、おじいちゃん、私の顔に何か付いてますか?と、唖然とする襄介に聞きながら、謙一郎が寝かされている部屋にやって来る。

閉め切った部屋の様子を観た桜子は、すぐに、空気の喚起の為、障子を開けなさいとおはなはんに命じると、すぐに謙一郎の脈を探ろうとする。

その時、布団の中に置いてあった熱々の湯たんぽを発見、盲腸かもしれんのに、こないな物入れられたら、熱が出ますと叱りつける。

さらに、これは何です?とオオバコの煎じ薬の入った吸い口を見つけるが、オオバコも知らんのかいと襄介がバカにすると、オオバコは風邪の薬じゃ。そう言う生半可な知識でやるから、二階から目薬みたいな事になるんやと言いながら、桜子は注射器を取り出す。

それを観た襄介は目を丸くして、そんなもの子供に打つんか?止めい!止めてくれ!と孫可愛さから頼んで来るが、桜子は、気にする風もなく、二本の注射を打ち終える。

見かねた襄介は、わしが精神力で直してやる!と言うと、外の井戸の前で、水を自分の頭から浴び始める。

それを側から呆れたように見守る正太。

朝方、謙一郎の熱を測った観た桜子は、やっと峠を越えたの。危ない所じゃった。もうちょっとで手遅れになる所じゃった…とため息をつく。

先生、ありがとうございました!とおはなはんは心から礼を言うが、病気は怖いもんじゃ…と桜子は言う。

ほんまに先生のお陰ですとおはなはんが感謝すると、桜子は自分の左手の甲の傷を出して見せ、これは人に噛まれた傷や、肺結核の女の子やった。痰が絡んで呼吸困難になっていたので、当時の私は懸命にその子の口を開かそうとしたが、その時噛まれたんや。

その時、その子を助けたのは私やなかった。母親が自分の口で、その子の痰を吸うたんや。子供の病気を治すのは医者やない。母親や。そのお陰で、私は本当の医者になれたんやとと桜子は言う。

それまでは、ハイカラな服を着て、男に混じり勉強し、医者になるのが夢やっただけやったんや…と桜子は、若き日の自分を反省するが、子供の為に医者になりたいと思うんですが、甘過ぎますかいな?ととつぜん、おはなはんが言い出すと、無理無理!と桜子は苦笑する。

明治43年 正月

謙一郎は元気を取り戻したが、分かって、水垢離をした襄介が寝込んでしまう。

おはなはんの両親は、突然、おはなはんが医者になりたいので東京に出たいと言い出したので唖然としていた。

速水の時と言い、今度の事と言い、医学の知識があったなら…と言うおはなはんに、25にもなって、今頃、そんなことを言い出しても…とてるは言葉も出ないようだったが、良く言った!チェスト!さすがは、追いの孫の嫁御じゃ。恩給暮らししに甘んじている事はないと奥から起き上がって来た襄介は、おはなはんを応援し出す。

子供はどうします?とてるが聞くと、連れて行きますとおはなはんは言う。

子供たちはわしが預かると襄介が言い出すと、子供たちの事はわしが見ると、おはなの父親の平造(加藤嘉)も口を出して来る。

学校が落ち着くまで、母さん頼みますと言いながら、その後、料理屋をやっていると言う亀吉夫婦からのハガキを取り出して見せる。

翌日、子供たちに泣かれるのを嫌った早朝の早立ちになる。

船着き場で渡し船に乗り込んだおはなはんは、夫の真似をして、敬礼で、見送りに来てくれた両親たちに挨拶をする。

おはな〜!チェスト!行け〜!と風邪が治った襄介も呼びかけてくれる中、おはなはんが乗った渡し船は出発する。

明治43年1月

おはなはんは、3年振り、2度目の東京であった。

新橋駅に降り立ったおはなはんは、迎えに来てくれるはずの亀吉が一向に現れないので待ちくたびれていた。

そんなおはなはんを田舎娘を思い込んだチンピラ(田中邦衛)が、気安く声をかけて来る。

おはなはんが人を待っている所だと言うと、何かの手違いで来ない事もある…などと言いながら、勝手に荷物を持ってどこかへ連れて行こうとするので、怒ったおはなはんは、私は娘ではありません!東京も良く知っています。銀座7丁目の交番に行きましょうか!と言い放つと、さすがに驚いて離れて行く。

おはなはんは、亀吉の料理屋を1時間も探し歩いて、ようやく見つけるが、中に入ってみると、亀吉らしい姿は見えない。

細倉と言う人はいませんかと聞くと、主人らしき男が出て来て、その人なら、前にこの見せをやっていた人でしょう。何でも、借金をこしらえて夜逃げしたそうですよと言うではないか。

いなくなったのは2ヶ月前くらいの事で、それ以上は分からないと言う。

途方に暮れたおはなはんだったが、取りあえず、牛込の河田町にあった東京女医学校を見ておく事にする。

しかし、その学校は、松山の女学校の方が立派に見えるような貧相なたたずまいだった。

そこから、決して若くはない女性が出て来たので、先生ですよね。私、ここに入りたいんですけど、難しいですか?と話しかけたおはなはんだったが、私は先生ではありませんと答えたその女性は、入るのは難しくありませんが、出るのが大変です。創立8年になり、昨年卒業生が出ましたが、たったの1人です。私は創立以来在席していますが、まだ卒業していませんと言い残し去って行く。

その後、取りあえず下宿を見つけたおはなはんは、郷里に手紙を書いていた。

そこに女中が、注文しておいた天丼を持って来たので、お茶を頼むと、外から懐かしい軍隊ラッパが聞こえて来る。

茶を持って来た女中は、うるさいわ〜毎日と言い捨てて帰るが、松山の4年間、弘前での3年間、ずっと聞き馴染んで来た軍隊ラッパは、おはなはんにとって何より心丈夫になった。

毘沙門の縁日の夜、おはなはんは神社に参拝に出かける。

そこは昔、速水と良く散歩した場所だった。

その沿道で、バナナの叩き売りをやっていたのが、何と細川亀吉だったが、大勢の通行人に紛れ、互いに気づかないままだった。

おはなはんにとって、今日は嫌な事ばかりだった。しかし、明日もそうだとは分からない。

参拝をすませたおはなはんが神籤を引いてみると、大吉が出た。

尋ね人近くにあり…と書いてあったが、おはなはんにはしゃがみ込んでバナナを食べていた亀吉は見つけられなかった。

おはなはんは、これからもまっすぐ生きようと思った。東京の第一日目の夜の事だった。

おはなはんは、人ごみの中、下宿へと帰って行く。