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のれんと花嫁

松竹お得意の淡々とした日常ドラマであるが、この時代のこの手の映画は、後年の同じような素材の映画と、どうして1画面ごとの風格のようなものまで違って見えるんだろう?と首を傾げたくなるくらい堂々とした作品になっている。

話のベースは、長崎に店があるカステラ屋の息子を巡る三角関係を描いたラブコメで、素材自体はありふれた何気ないものに見えるが、そこから紡ぎ出す話の密度が濃いと言うか、練り上げられた丁寧さを感じさせてくれる。

地方ロケなども丁寧に行われており、全体的に贅沢な気分になれるのも、予算や手間ひまをかけられた撮影所システム全盛期のなせる技だろう。

2人の娘に愛されるイケメンを演じているのは、若き日のプリンス的な存在だった津川雅彦である。

そこに、伴淳、高橋とよ、月丘夢路、藤間紫、桂小金治、大泉滉と言った芸達者たちが脇を固め、どちらかと言うと「受け芝居」に徹しているように見える佐野周二も、どこか朴訥でとぼけた味わいのあるキャラクターとして浮かび上がらせている。

津川の恋人役を演じている倍賞千恵子は、まだ、顔に幼さが残る時代。

内容的にも時代を感じさせる部分が多々あり、興味深い。

津川らのコーラスグループ「ブルー・ロビンス」が「クレージードックス」の代わりに銀座の店で歌うようになると言う冒頭部分の「クレージードックス」とは、おそらく「クレージーキャッツ」の事だろう。

ちなみに、劇中で「ブルー・ロビンス」が歌っている声を当てているのは「ボニー・ジャックス」

コーラスメンバーの中で実際に歌が歌えるのは小坂一也だけだったろうから、これは当然だろう。

「KRC 国際ラジオセンター」と言うのは、当時、青山付近にあった録音スタジオらしい。

金三が城兵衛らを案内する東京タワーも、まだ出来たばかりで珍しかった時期だろう。

派手な事件は起こらないが、展開が面白く、退屈しない娯楽映画の秀作だと思う。


▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1961年、松竹、柳沢類寿+菅野昭彦脚本、番匠義彰監督作品。

木場付近なのか、川に丸太が大量に浮かんだ場所を背景にタイトル

アヒルが数羽歩いている所に、昔~アヒルは~♪と材木置き場の上で、5人の青年たちが歌を歌っている。

「ブルー・ロビンス」と言う駆け出しのコーラスグループだった。

その材木置き場の所有者で、近くにある材木屋「丸長」の営業部長木曽金三(桂小金治)は、社長の長田周太郎(佐野周二)に、幼なじみの「開花堂」の女社長から電話がかかって来たので、受話器を渡す。

みっちゃんか…と気さくに電話口に出た周太郎に、電話して来た女社長西浦光代(月丘夢路)は、すぐ来てくれない?と甘えたように言って来る。

周太郎は、仕方なさそうに、麹町に行って来ると金三に言って、店を出て行く。

そこへ、周太郎の娘和子(倍賞千恵子)が、片手のお盆に大量の菓子パンと湯飲み、片手には大きなやかんを下げて来ると、金三にやかんを持たせて外に出て行く。

和子がお茶とパンを運んでいたのは、材木置き場で歌の練習をしていた「ブルー・ロビンス」の為だったが、近づいて観ると、「開花堂」の娘で「ブルー・ロビンス」のマネージャーでもある敬子(瞳麗子)が先にメンバーたちに会いに来ており、銀座の「ニューオーリンズ」と言う店で、急ぎの仕事が入って来た。「クレージードックス」が出られなくなったピンチヒッターらしいのと伝えていた。

近づいて来た和子に気づいた敬子は、和ちゃん、ごめんなさい!と詫びて、メンバーを連れて行こうとするが、和子に近づいて来たメンバーの1人、石原城太郎(津川雅彦)は、和子が持って来たパンを取ると、走って行くメンバーたちに投げて渡して行く。

上野のおにぎり屋「さくら」に、メンバーの城太郎、酒井健吉(山本豊三)と一緒に帰って来た小山和彦(小坂一也)は、二階に上がろうとして女将の清川たつ子(藤間紫)から呼ばれ、部屋代が3ヶ月も溜まっているし、2階はあなた1人で住む契約になっているのに、いつの間にか3人になっているじゃない!と小言を言われてしまう。

部屋に戻って来た和彦に、ユニフォームは?と先に着替えていた城太郎が聞くと、質屋に入れたのでないと言い出す。

出して来いよと言っても、3000円がないのだと言う。

呆れた城太郎は、敬子さんに話してみろよと提案するが、どっちかが代わって、敬子さんに話して欲しいんだなどと小山は言う。

どうやら、小山は敬子に気があるので、恥ずかしくて言えないらしいと気づいた城太郎は、やって来た敬子に、健吉の奴、質屋にユニフォームを入れちまったんで、3000円貸してやってくれないかと頼む。

酒井は、いきなり濡れ衣を着せられ、敬子からはバカにされてしまい唖然とするしかなかった。

その頃、周太郎は、麹町にあるカステラの「開花堂」の社長室に来ていた。

この間の銀行融資の件、巧く行ったよと周太郎が教えると、じゃあ、練馬の工場の拡張が出来るわねと喜んだ女社長の光代は、周太郎用に用意したらしい机を見せ、これ、お兄ちゃんのデスクと言うので、周太郎は困惑するが、宣伝部の男子社員が、ポスターのデザインの確認をしに来ると、常務さんのご意見をなどと光代は周太郎を観ながら言う。

周太郎は、その呼び方にも戸惑いながらも、ポスターへの注文をてきぱきと付けて見せる。

光代は、お兄ちゃんは、会社の大株主なんですもの…と、常務の椅子は当然かのように説明するが、周太郎は、僕には丸長材木店の社長と言う仕事があるんだよと抗議する。

その時、娘の敬子から光代に電話がかかって来て、ママ、お願いがあるの。ラジオセンターを借りることにしたので、お小遣いの前借りをさせて欲しいと言って来る。

母親として光代は、来月分まで渡しているじゃない!と叱る。

その電話を横で聞いていた周太郎は、すっかり「ブルー・ロビンス」と言うコーラスグループのマネージャーになりきっているつもりの敬子のことをからかい気味に話すが、光代の方は、あの子にはちゃんとしたお婿さんをもらって、この店を継いでもらいたいのと母親らしい意見を述べる。

「丸長」の二階にいた和子は、小学生の弟正ちゃんが帰って来て、ズボンが破れていることに気づくと、どうしたの?と聞く。

相撲で引っ掛けちゃったんだよと言うので、縫ってあげるから脱ぎなさいと、母親代わりの姉らしく命じる。

そんな「丸長」にやって来たのは、周太郎の妹である清川たつ子だった。

周太郎が留守だと知ると、兄さんの返事を聞こうと思って…、再婚の話があるのよ。写真渡しといてと、応対に出た和子に言う。

見合い写真を受け取った和子は、私、何も聞いてないわよと言うと、呆れたようなたつ子は、麹町と兄さんどうなんだい?いくら幼なじみで友人の奥さんかもしれないけど…、カステラやと材木屋じゃ変でしょう?と問いかける。

その頃、周太郎は、お兄ちゃんなどといつまでも呼んで甘える光代に、みっちゃんと呼び返すと、僕は君を昔、お風呂に入れてやったこともあるんだぜと、両者の年の違いを認識させていた。

銀座の「ニューオーリンズ」と言う店のステージでは、「ブルー・ロビンス」が、窓は~夜露に濡れて~♪と歌っていた。

店の支配人はマネージャーの敬子にギャラを手渡す。

「丸長」に戻り、昼食が終わった後で、周吉は娘の和子に、上野の伯母さんの所へ持って行ってくれと見合い写真を手渡す。

受け取った和子が、おばさん、がっかりするわよと言うと、お父さん、再婚の話なんかしないよ周太郎は言う。

その上野のおにぎり屋「さくら」で、慌てておにぎりを頬張っていたのは金三だった。

金三は、この店の手伝いかつ枝(千之赫子)とは恋仲だったのだった。

かつ枝は、女将さんは髪結いに行ってるから、なかなか帰ってきやしないよと安心させようとするが、集金の途中で立ち寄った金三は、2人で会っている所を誰かに観られるんじゃないかと案じ、落ち着かない様子。

金三は、お嬢さんとの縁談話があったんじゃないのとかつ枝から聞かれて、あったのを断ったんだ。何せ、俺は、おじいちゃんの代から、あの店の番頭なんだよと自慢げに話していたが、そこに、そのお嬢さんである和子が御二階の一彦さんたちは?等と言いながらやって来たから、慌てた金三は、カウンターの中に逃げ込んで隠れる。

女将さん、お父さんを一緒にさせようと張り切ってるのよとかつ枝は和子に言う。

そこに二階から降りて来た城太郎が和子を観て、今から練習に行くんだけど、今度からラジオセンターを借りることになったんだと言うので、和子は突然の話に戸惑ったようなので、時々、材木置き場も使わせてもらうよと城太郎はフォローして、小山らと出かけて行く。

その直後、女将のたつ子が帰って来たので、和子は、当分再婚しないんですってと言いながら、見合い写真を返す。

思惑が外れたたつ子は、こうなったら、あんたが先に結婚するんだねと和子に勧める。

それを聞いたかつ枝は、お店の金さんが、身に余る光栄ですって言ってたらしいですね?と聞いて来たので、カウンターの奥に身を潜めていた金三は焦って物音を立ててしまう。

何だい?とその物音に気づいたたつ子が聞いて来たので、犬が入って来たんですよとかつ枝が答える。

すると、追い出しちゃいなさいよと座敷にいたたつ子が命じたので、かつ枝も面白がって、その言葉通り、箒を使って、四つん這いの金三を表まで追い立てて行く。

「KRC 国際ラジオセンター」のスタジオを借りて練習を始めることにした「ブルー・ロビンス」だったが、ここは借り賃がかかるので、その金の捻出のため、テレビで使うCMソングをうちで作ってもらうの。作曲は城べえにやってもらうのよと敬子は提案していた。

城べえとは、城太郎のニックネームだった。

そもそも城兵衛の家だってカステラ屋だよ。屋号も同じ「開花堂」だし、案外、城兵衛の家が本家だったりしてな…とメンバーたちは混ぜっ返すが、敬子は、知らないわね〜と首を傾げていた。

でも、はじめて会った時から、城べえのこと、他人だと思えないんだとも敬子は打ち明ける。

そんな敬子は、ラジオセンターにやって来た周太郎と出会ったので、ママにお説教頼まれて来たんでしょう?と突っ込み、でも、ロビンスは、今が売り出す大切な時なのよと説得する。

周太郎はそんな敬子に、今の敬子ちゃんには、しなければ行けないことがあるんだよと言い聞かすと、お茶にお花…、花嫁修業と店ののれんを守ることでしょう?と敬子は混ぜっ返す。

それを聞いた周太郎は、ちゃんと分かっているじゃないか。大体、カステラとコーラスは関係ないじゃないかと言うと、材木とカステラも関係ないと思いますけど?カステラの本場は長崎よ!と敬子はからかう。

その長崎…

「開花堂」の番頭小石原保吉(大泉滉)は、外から店に戻って来ると、旦那は、「おくんち」の練習で、帰ってきやしませんと女将のおきん(高橋とよ)に報告していた。

おきんは、そんな保吉に、博多から旦那の女子が来とりますと言ってみろと知恵を貸す。

「開花堂」の主人城兵衛(伴淳三郎)は、笛を吹きながら、地元の祭りである「おくんち」に出す出し物の稽古を見守っていた。

カピタンと日本芸者に扮した女同士の踊りを観ていた城兵衛は、もっと丸山の女は色っぽく!とダメ出しをして、自ら演技指導をする。

そこに戻って来た保吉は城兵衛に、女将さんがカンカンですよ。博多から女子が来ていますと、言われて来た通りに伝えると、急に真顔になった城兵衛は保吉と共にまっすぐ店に戻って来る。

おきんに会った城兵衛は、あの女は、何もなかったと…と言い訳するが、おきんは、お客さんは男ばいと言い返す。

後ろから付いて来た保吉が笑ったので、城兵衛は騙されたと気づき、殴ろうとする。

城兵衛を待っていたのは、全国各地から集まった「開花堂」の店主たちだった。

代表して、大阪「開花堂」主人(須賀不二男)が、東京の「開花堂」に関して、元祖に頼みたいと城兵衛に提案し、東京「開花堂」が使っている商品の文字デザインを披露する。

それはとてもモダンに見えたが、大阪「開花堂」は、これは元祖さんのお許しあってのことでしょうな?と城兵衛に確認する。

このまま放っておくと、「開花堂」は2つあって、東京の方が元祖のように思われてしまいますと迫られた城兵衛は、分かっとると鷹揚な態度を見せようとしながらも、火の付いてない煙草を口にくわえていたので、動揺していることが見て取れた。

ある日、又、「開花堂」の光代は、「丸長」の周太郎に電話をかけ、商店街のことで観て欲しいことがあるなどと相談していた。

周太郎は、今忙しいから…と行くのを断り電話を切ろうとするが、和子ちゃんの理想の男がコーラスの中にいるらしい?と周太郎は、光代から聞いた内容をおうむ返しに怒鳴ってしまう。

すると、それを側を通りかかった和子が聞いて表情が変わる。

周太郎は、このこともいずれ会った時に聞くから…と電話を切ろうとするが、側で話を聞いていた金三は、込み入った話なら、出かけて行かれた方が宜しいのでは?と言葉をかけたので、手太郎も素直に、そうするか…と呟いて出かける。

金三はそんな周太郎を見送りながら、行きたいくせに…とぼやく。

その日も、「ブルー・ロビンス」は、「ニューオーリンズ」のステージで歌っていたが、客席には、和子が聞いていた。

ステージを降りて楽屋に帰る途中、城太郎は和子に気づく。

和子は、城太郎さんにお願いがあるのと切り出す。

その後、2人は近くの中華料理屋で差し向かいになっていた。

和子は、弟の数学の家庭教師を城太郎に住み込みの条件でやって欲しいと頼みに来ていたのだ。

しかし、城太郎は、数学は得意ではなかった。

そこに、他のメンバーが嗅ぎ付けてやって来て、2人のことを冷やかしたので、弟さんの家庭教師を頼まれていたんだよと城太郎は説明するが、数学なら健坊だろうとみんなは言い出す。

その場の成り行きで、家庭教師は酒井健吉になってしまったので、城太郎が目当てでやって来た和子は複雑な表情になる。

長崎の「開花堂」では、城兵衛が上京することになり、おきんから、シルクハットをかぶらせられていた。

さらに、浮気予防のお守りまで持たせられた城兵衛は、監視役としても同行する保吉と共に、列車で一路東京に向かう。

父、城兵衛上京の手紙を受け取った城太郎は、弱ったことになったな。俺まだ、大学院に残って、カステラの研究やっていることになっているんだ…と小山に打ち明けていた。

小山も、ここに来るのかい?と驚いていた。

困った城太郎は、「丸長」の家庭教師として住み込みするようになっていた酒井健吉と交代してもらうことにする。

荷物の入れ替えをしていた城太郎に近づいて来た和子は、私、始めから、城太郎さんに来て欲しかったのと打ち明ける。

すると、城太郎の方も、分かってるよと答える。

やがて、上京した城兵衛と保吉が「丸長」にやって来る。

城兵衛は、立派なお宅だ!と部屋の中を観て感心し、城太郎は材木屋さんだもの…と説明する。

さらに、ここの子供の家庭教師をしているので、ただなんだとも教えられた城兵衛は、すっかり息子のことを感心する。

城太郎は、3時から練習…、いや、実験…、カステラの材料の…と言い訳し、すぐに出かけようとする。

保吉は、自分たちも一緒に…と付いて行きたがるが、城太郎は何とか振り切って出かけてしまう。

一方、何の事情も聞かされていなかった周太郎は和子に、どうしたんだい?あの青年?と城太郎が急に引っ越して来たことを聞こうとするが、和子は、都合で選手交代したのと言うだけ。

そんな周太郎の元へ、城兵衛と保吉が挨拶にやって来る。

手みやげとして、長崎「開花堂」のカステラを差し出し、主人でございますと城兵衛は自己紹介したので、東京の麹町にも同じな前の店がありますよと周太郎が教えると、それは暖簾分けしてやった店で、今回、厳重な抗議しに上京したのですと城兵衛が説明し、保助までもが、とっちめて、ぎゅーっと言う目に遭わせます!と意気込んでみせると、光代を知っている周太郎だけに、これは厄介なことになったとでも言いたげな複雑な表情になる。

城太郎は、ラジオセンターに集まっていた小山たちに、自分はカステラの研究をしていることにしちゃったら、観に来たいとオヤジが言ってるんだと悩みを打ち明ける。

すると、それを聞いた敬子が、逃げ出しちゃえば?ちょうど今、3日間、静岡から声がかかっているのよと言い出す。

その日、城兵衛、保吉は、金三に案内されて、東京タワー見物などをしていた。

その内保吉が、若旦那が研究している所を観ませんか?と城兵衛に提案、それを聞いた金三は、この間まで隣の池で研究していたんですが…と困った表情になる。

しかし、場所を知っている以上、教えないわけにはいかず、金三はラジオセンターの城太郎たちのスタジオに城兵衛と保吉を案内して来る。

ピアノの前で集まっていた息子たちの様子を見た城兵衛は、お前、こげな所でカステラの研究が出来るとね?と聞くが、城太郎はとっさに、今日は販売促進の研究で、宣伝の歌の練習をしていた所なんだと言い、和子の「開花堂」用に用意していたCMソングを、メンバーたちとその場で聞かせてやる。

カステラ~は開花堂!おいしくって困ってる♪などと言う歌を聴いた城兵衛は、開花堂と言う名前が入っているのですっかり信用し、新しい商売はこうでなくては…と感心する。

その後、麹町の「開花堂」にやって来た城兵衛と保吉は、ものすごい自社ビルが建っていたので、大したもんだな~…とあっけにとられる。

そして、店頭の売り子に、社長さんに会いたいと伝える。

城兵衛が来ていることを光代に説明しに先に来ていた周太郎は、城兵衛がやって来たことを知ると、お通しして!と命じ、自分は隣の部屋に逃げ込み様子をうかがうことにする。

応接室に招き入れられた城兵衛は、光代を観ると、社長さんにお会いしたかったのですが…と困惑するが、自分が社長の西浦光代で、主人は亡くなりましたと聞かされると、驚いた!こげな別嬪じゃったのか…といつもの女好きな性格が出てしまい、ちょっとご挨拶に…などと言い出したので、同席していた保吉が呆れ、反省ば、求めに参りました。こちらが現在使われている商標の書体を、暖簾分けの時の定め通りに戻してもらいたいと契約書を取り出して抗議する。

さらに、終戦の時まで、暖簾料として金10円、毎年収めていたものも、近年途絶えていると保吉は言い渡す。

その時、隣の社長室に潜んでいた周太郎の元に、敬子が帰って来て、何とかして、おじ様!あの人と結婚できなければ困るのよ。これから静岡に行くので、帰って来るまでに仲直りさせといてと一方的に頼むと出て行ってしまう。

光代は、今頃、家の商標に因縁をつけて来られても…と憮然としていたが、そこに周太郎が出て来て、こちらの社長さんとは幼なじみでして…と挨拶したので、「丸長」さん!と驚いた城兵衛は、そんならそうと、昨日…と困惑する。

周太郎は、そんな城兵衛に低姿勢で、ここの所は一つ、私に任せていただけませんか?必ずご期待に応えるようにいたしますから…と頼む。

城兵衛も仕方なく、後2、3日は、東京におりますので…と答えるしかなかった。

社長室を辞去する城兵衛に、付いて出て来た保吉は、あんな弱腰では…、旦那さんは本当に別嬪に弱かとじゃけん…と呆れる。

一方、光代の方は、周太郎から、娘の敬子が、今帰って行った城兵衛の息子と結婚したがっていると聞き仰天していた。

周太郎は、ここは敬子ちゃんが幸せになるのが一番だから、あの人が帰るまでに話をつけちゃおうと提案する。

その夜、周太郎と光代は、る城兵衛と保吉を、ナイトクラブに招待する。

女好きなる城兵衛は、ステージで踊っていた踊子のアクロバッチクな動きに目を奪われていた。

ビールを勧められたる城兵衛は、すっかり上機嫌になる。

何しろ、城兵衛側の話を光代側が全部飲み込んでくれただけでなく、自分の息子と光代の娘が一緒になれると聞かされていたからだった。

喜んだ城兵衛は、光代にダンスの相手を申し込む。

それを観ていた保吉は、何を思ったか、テーブルに残っていた周太郎にダンスの相手を頼み、困惑する周太郎と踊りながらフロアに出て行くと、光代と踊っていた城兵衛に、いきなり、チェンジパートナー!と申し込む。

かくして、城兵衛は保吉と踊る羽目になりげんなりするが、光代の方は周太郎と踊ることになったので笑顔になる。

「丸長」に帰って来た城太郎を出迎えた和子は、親父は?と聞かれたので、家の父と出かけて、まだ帰ってないわと教える。

家の親父、東京の「開花堂」に抗議に来たんだって?と城太郎が聞くと、家のお父さんが巧くまとめているらしいわ。お父様は明日帰られるそうよと和子は答える。

そこに、泥酔した保吉を抱えて、周太郎と城兵衛が帰って来る。

城兵衛も酔っており、明日もう1度、麹町に行って来る。「開花堂」バンザイ!「丸長」バンザイ!と上機嫌で叫ぶ。

これで、お父さんも手伝った甲斐があったと言うもんだ。城太郎くんと敬子ちゃんが結ばれれば、長崎も東京「開花堂」の経済力を受け取ることになると周太郎も嬉しそうに言うと、それを聞いていた和子の表所が凍り付く。

こっちの話は全部まとめたと城太郎に満足げに報告する城兵衛に、城太郎の方も驚いたように、敬子ちゃんとはただの友達だよ!と訴えるが、酔った城兵衛と周太郎は、そんな話は聞こえないように寝に行ってしまう。

とんでもない事態になったことを悟った城太郎は悩む。

翌日、早めにラジオセンターの第5スタジオに啓子を呼びだした城太郎は、夕べ、親父に聞いたんだけど、どう言う訳で僕たち結婚することになったんだい?何の相談もなしに…と問いつめる。

敬子は申し訳なさそうに、「丸長」のおじ様に頼んだら。おじ様が…としどろもどろになる。

僕、君のことを結婚の相手と考えたことはないよ!この話はなかったことにしてくれないか?と城太郎がきっぱり言い渡すと、ひょっとしたら城べえが乗って来てくれるんじゃないかと思って…、でもやっぱり、ダメだったらしいわね…と寂し気に言い訳し、他に誰かいるの?ひょっとしたら和子さんじゃないの?と言い当てる。

良いわ!私、諦めることにする。ちょっぴり残念だけど…と敬子は答える。

そこに、小山らほかのメンバーたちが集まって来て、何話しているんだい?と聞いて来るが、城太郎は仕事の話さと言ってごまかす。

敬子はすぐに母親光代に電話をかけると、城太郎さんとの話、なかったことにしてくれない?敬子、失恋しちゃったわと伝える。

それを聞いた光代は驚くが、どうしたんだい?城兵衛さんたちがもうすぐ来るよと聞いて来た周太郎に訳を話し、お兄ちゃんの口から断ってくれない?契約のことも白紙に戻してください。城太郎さんが好きなのか和子さんなのよ。私、敬子のためだと思って、一旦は承知してたけれど、やっぱり今の経営方針は変えませんと言い出す。

その後、城太郎に会いに戻って来た城兵衛は、お前のお陰で、喧嘩のやり直しだ!と一転して不機嫌になっていた。

しかもお前は、父さんに、えろう噓ばついとったな?本当は歌の練習ばしとるそうじゃなかか!わしと一緒に長崎に帰ろうと、城兵衛は息子に言い聞かす。

城太郎は真顔になり、僕たちの「ブルー・ロビンス」は、今が大切な時なんだ!と説得しようとするが、帰らんと勘当だ!と城兵衛は迫る。

城太郎が返事を渋っていると、帰らんのだな?二度と「開花堂」の敷居は股がせんぞ!今日からお前は他人だ!と城兵衛は宣言し、列車の時間のことを伝えようとした保吉には、飛行機じゃ!、こげな所にこれ以上おられん!と癇癪を起こす。

周太郎は、おにぎり屋「さくら」の妹たつ子の所に来ていた。

話を聞いたたつ子が、和子とカステラ屋はうまくいかないの?と聞くと、和子に当たってみたけど、はっきりしないんだ…と周太郎は困りきっていた。

大体、兄さんがいけないのよ!家のこと、和ちゃんに任せるから…、やっぱり兄さんは、「開花堂」の光代さんのことが好きなんでしょうとたつ子は迫る。

そんな「さくら」に銭湯帰りに寄ったのが金三だったが、かつ枝から、奥に女将と旦那がいるよとジェスチャーで教えられ、慌てて帰ろうとする所を、おい金三!と周太郎に見つかってしまう。

旦那の帰りがあんまり遅いんで…と金三はごまかそうとするが、もう良いよ、金さんと声をかけたたつ子は、うちのかつ枝と金さんは結婚することになったのよ。和子が教えてくれたのよと周太郎に打ち明け、2人とも、こそこそしなくて良いのよと店の中にいた金三たちに話しかける。

こっちで一緒に飲もうと周太郎は金三を誘うが、金三は、お店の方でこいつと2人きりで…などと言いながらも、今夜のお勘定は…と聞いて来たので、良いよ良いよ、俺が払うよと周太郎は呆れたように答える。

「ニューオーリンズ」では、「ブルー・ロビンス」がステージで歌っていたが、小山がソロになると、ソロも良いね…と、客席の背後で聞いていたレコード会社の人間が敬子に話しかける。

上役らしき男も、早速決めようと契約を示唆したので、支配人は敬子に良かったねと言葉をかける。

「丸長」の二階では、城太郎が荷造りをしていたので、どうしたの?と和子が聞きに来ると、やっぱり、長崎に帰ることにしたんだ。

材木置き場にデートに来ていた金三は、かつ枝から、私たちが結ばれたのも和子さんのお陰だから、今度は私たちが2人を…と言われ、分かってるよと答えていた。

そこに、和子と城太郎が揃って近づいて来たので、金三は慌てて、木材の陰に身を隠す。

長崎に帰ったら、カステラの焼き方を一からやり直すんだと城太郎は抱負を和子に話していた。

東京と長崎の「開花堂」は仲良くしなくちゃいけないんだ。きっと迎えに来るよと城太郎は熱っぽく語っていたが、和子は、木材の陰で川の方を向き踞っていた金三とかつ枝を見つけてしまう。

金三は罰が悪そうに、向うを向いてますから…と川の方を観ながら、気を利かせていると言う所を見せる。

駅に着いた城太郎は、そこからラジオセンターにいる小山に電話を入れ、そろそろテスト盤の吹き込みが始まるぞと言う小山に、急な話で申し訳ないが、俺、ロビンスを辞めさせてもらうことにしたよと伝える。

小山は驚き、みんなと良く話し合おうよと説得するが、駅から電話をしたのも引き止められないためなんだ。何にも言わずに長崎に帰してくれないかと城太郎は頼むと、敬子マネージャーと巧くやれよと言い残し電話を切ってしまう。

小山は、電話1本で、こんな大事な話を…と呆然としていたが、そこに、今、契約を交わして来たわと書類を持って敬子が近づいて来たので、今、城べえが辞めるって…と小山は電話があった事を知らせる。

敬子は仰天し、どうして止めてくれなかったの!と悔しがるが、今頃はもう汽車に乗ってるよ…と小山は言い聞かす。

しようがないわ。こうなったら、私たちだけでやりましょうと敬子は気持ちを切り替える。

長崎では「おくんち」が始まっていた。

それを懐かしそうに見物する城太郎。

城兵衛は、みんな、良かか?元気ば出して行こう!と笛を吹き、南蛮船を象った山車を登場させる。

そこに駆けつけて来た保吉が、旦那!大変です!すぐに帰って来てください!と城兵衛に耳打ちする。

店に戻ってみると、店頭でカステラを客に売っているのは城太郎ではないか。

驚いた城兵衛が、お前、コーラスは?と聞くと、辞めたと城太郎はきっぱり答える。

保吉は感激し、良かったですな、若旦那と声をかける。

その頃、東京の「丸長」の二階では、ズボン出してと、アイロンをかけていた和子に周太郎が、お前、何かあったのかい?と聞いていた。

城太郎くんのことで、「開花堂」や敬子さんに気兼ねしているんだったら、もう気にしなくて良いんだよ。もう父さん、「開花堂」の仕事は辞めるから…と周太郎は言い聞かす。

一方、敬子の方は、プリンスレコードの巡業で長崎へ行くことになったのとメンバーたちに報告していた。

その後、和子に会いに来た金三は、敬子が長崎に行くらしい。城太郎さんに会いに行くんじゃないかと思うので、お嬢さんも行ってやってください。男って、遠い所を会いに来てくれただけでもがっくり来るもんなんですから…。名が先に行って、城太郎さんの気持ちをがっちり掴んじゃいましょうと勧める。

その後、金三は、周太郎に会い、今度、かつ枝を田舎のおふくろに一回会わせてやろうと思いまして、つきましては、お店の方が1人付いて来ていただけると光栄なんですが…と頭を下げる。

それを聞いた周太郎は、良いじゃないか、私が行くよと言うと、いや!旦那さんではダメなんで…、ここはお嬢さんに…と強引に頼む。

承知した周太郎がいつ行くんだね?と聞くと、明日出発しますと言うので、その手回しの早さにびっくりする。

その金三の話を、廊下で和子も聞き入っていた。

金三は、かっちゃんの所へ行ってまいりますと言い、さっさと外出してしまう。

そんな周太郎の所に光代が訪ねて来る。

最近、ちっとも顔を出してくれないから。まだ気兼ねしてるの?と光代は甘えて来る。

周太郎が、この際、「開花堂」の仕事は辞めさせてもらえないかと言い出すと、光代は、明日、飛行機で長崎へ行こうと思っているんだけど、お兄ちゃん、一緒に行ってくれない?とまたもや甘えて来る。

私たちが意地を張っていると和ちゃんと城太郎さんが結ばれないわ。私にしてみれば、お兄ちゃんの娘は私の娘のようなもの。敬子は関西に行っちゃったわ。はい、切符!お兄ちゃんと二人きりで旅行するの初めてねと、光代は一方的に周太郎を押し切ってしまう。

ところがその頃、敬子は長崎「開花堂」を訪ねていた。

城べえ君いますか?と店頭にいた保吉に聞いたので、保吉は、旦那のことと思い込み、城兵衛を呼ぶ。

わしが石原城兵衛だが?と出て来た城兵衛は啓子を見て首を傾げるが、城太郎君のパパねと笑った敬子は、仕事現場から呼ばれて出て来た城太郎に、会いに来たの。グラバー邸に案内してくれない?お借りするわね、パパ!と、こちらも一方的に押し切っていた。

あっけにとられて見送った城兵衛が保吉に、誰だ?と聞くと、東京「開花堂」のお嬢さんですと教えられる。

オランダ坂にやって来た城太郎は、どうして帰って来たの?和子さんはどうするつもり?あなたのお父さんとうちのママのトラブルが再発しちゃうよと敬子から突っ込まれていた。

その後、城太郎がグラバー邸にやって来ると、そこで「ブルー・ロビンス」の面々が歌の練習をしていた。

プリンスレコードの巡業で来たのよと和子は種明かしをする。

その頃、長崎「開花堂」を探してやって来たのは、金三、かつ枝に付いてきた和子だった。

3人がやって来たのを店頭で観た保吉は、どげんしたとですか?と驚くが、金三は、このたび、結婚することになりまして…と挨拶すると、それは宜しゅうございましたと答えた保吉は、それで、どちらと?と聞く。

金三は、一瞬、和子の方を指し掛けて、かつ枝に睨まれる。

お宅の若旦那は?と金三が聞くと、東京「開花堂」のお嬢さんとグラバー邸の方へ…と保吉が答えたので、ほらやっぱり!と金三は不安顔の和子を見やる。

案内してくださいと金三は保吉に頼む。

その直後、長崎「開花堂」で電話を受けた女将のおきんは、床の間で昼寝をしていた城兵衛を起こし、今、東京「開花堂」の社長がお詫びに来るって…と伝える。

そういえば、さっき東京「開花堂」の娘が来たな…と城兵衛は思い出す。

そこへ、周太郎とみつ江が尋ねて来たので、出迎えたおきんは、元祖の家内ですと挨拶する。

グラバー邸では、「ブルー・ロビンス」の歌を久々に聴いた城太郎が、良いな…、久しぶりに聞くと…と聞き惚れていると、今夜一緒に歌ってみない?と啓子が誘って来る。

しかし城太郎は、今夜は客席の方で手を叩く方に回るよと答える。

そこに、保吉から教わった道を通って、金三、かつ枝、和子らがグラバー邸に近づいて来る。

和子は、敬子と一緒にいる城太郎の姿を見つけると落胆する。

金三は下の方から城太郎を呼びかけ、あなたに会いたい一心でお嬢さん出て来たんですから!と伝えるが、城太郎が喜んで和子を観ると、和子の方は恥ずかしがって逃げ出してしまう。

驚いた城太郎は和子の後を追いかけ始める。

金三とかつ枝もその後を追い始める。

オランダ坂に周太郎とやって来ていた光代は、敬子が先に来ていたと聞いて、敬子ったら、城太郎さんのこと諦めたとか言ってたのに…とがっかりしていた。

そこに、金三が走ってやって来たのを見つけた周太郎は、お前、木曽に行ったのでは?と呼び止める。

金三はまずい所を見つかったと言う風に身をすくめるが、お嬢さんが行方不明なんです!と言うので、とにかく訳を話しなさいと周太郎は迫る。

城太郎は、坂道を逃げ回っていた和子をようやく捕まえ、和ちゃん、どうして逃げるんだよ?と問いつめる。

和子は、敬子さんが…と口ごもるが、そこに捕まえたわねと言いながらやって来た敬子が、今夜は2人で観に来てねと笑いかける。

一方、お嬢さんがどうしても見つからないと知らせに来たかつ枝に、金三は、お嬢さん、人生悲観して…と悪い想像をすると、見つからなかったら俺たちも死んじまおう。表が出たら向うを、裏が出たらあっちを探そうなどとコインを持って言っていたが、そこに保吉が近づいて来て、金さん、うちの旦那観ませんでした?店をほっぽり出していなくなったんですよ。一緒に探してくれませんか?と声をかけて来るが、それどころじゃないよと金三とかつ枝は、和子を探しに向かう。

その頃、城太郎は和子をグラバー邸に連れて来て、ピンカートンはここでお蝶さんを待っていたんだよと説明していた。

和子は、私はもう待つ必要はないのねと嬉しそうに聞いていた。

そんな2人を発見した光代は、どうやら円満に行ったみたいね。和ちゃんがお嫁に行ったら、今度はお兄ちゃんが行かないと…と周太郎に笑いかける。

グラバー邸に近づいた保吉も、息子たちの様子を見つめていた城兵衛に気づくと、女将さんが心配していますよと声をかける。

何だ、あんなくそったれババア!と城兵衛は吐き捨てるが、保吉の後ろからそのおきんが近づいて来たことに気づくと黙り込む。

和子を探して金三とかつ枝もやって来るが、帰りましょう。すべては終わりましたと城兵衛が説明し、みんなでグラバー邸を後にする。

グラバー邸に残っていたのは、城太郎と和子の2人だけだった。