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森繁の僕は美容師

NHKの人気ラジオドラマをベースに映画化した作品らしい。

下町で、男手一つで家族と姪を育てて来た美容師の日常を描いたホームドラマになっている。

映画用の説明として、冒頭部分で、貫一と家族との関係が新聞記事に載る…と言うエピソードが設定されているので、ラジオドラマを知らない観客にも基本的な人間関係は分かるはずだ。

ただちょっと分かり難いのは、中村メイコ演じる杵子を、貫一が姉の子と紹介している所。

貫一の姉として、沢村貞子演じるおしゅんも登場しているので、戦争中亡くなった杵子の母親と言うのは、そのおしゅんとは別の姉が、貫一にはいたということなのだろうが、その辺の細かい解説はない。

森繁が、当時まだ珍しかったらしい男性美容師を演じているが、常におねえ言葉を使っている所を見ると、昔からこの職業の男性は、こういうしゃべり方だったのかもしれない。

下町の話だし、作られた時代が時代なので、今では聞き慣れない言葉も登場している。

貫一が杵子を称して「ハンチク(中途半端)なんだから…」等と言っているのも聞き慣れない言葉だが、注目すべきは、都家かつ江扮する女客が、自分のことを「あてくし」と気取ったように言っていること。

今、ネット用語として時折見かけるこの言葉、元々は、この時代の東京の下町特有の気取り言葉だったということかも知れない。

「キム・ノヴァク」や「グレース・ケリー」と言った往年の映画女優の名前や、貫一の子供たちが、しょっちゅう映画を観に行っている様子などから、当時、映画が庶民の娯楽の花形だったことが分かる。

おばあちゃんまで「ピクニック」等と言う洋画を知っていると言っているくらいだから、洋画人気も今よりはるかに高かったのだろう。

まだ、テレビが完全に普及して、洋画をテレビで観るような時代ではないはずである。

実際、劇中の家庭にテレビはまだない。

森繁は白髪まじりの老けメイクをしており、鼻の下には、ちょびヒゲより小さな蝶のような独特の口ひげを生やしている。

中村メイコは、普段の明るい彼女のイメージとは違う、叔父に面倒を見てもらっていると言う引け目なのか、常に暗い目をして常に一歩引いているような屈折した姪を演じている。

江利チエミは高校生役なので、ひばり、いづみらと共演した「ジャンケン娘」(1955)の少し後の時代だということが分かる。

そのお見合い相手は、ちょっと頼りない二枚目半的な青年役がぴったりの江原達怡。

「若大将シリーズ」でもお馴染みの江原達怡と飯田蝶子は、松竹の「鐘の鳴る丘」にも出ており、共に芸歴の長さを感じる。

全体的な印象として、良くあるホームコメディと言ってしまえばそれまでだが、今やこの手の素朴な人情ドラマがほとんどなくなったこともあり、新鮮に見える部分があるし、特に、この作品のラストは感動的ですらある。

若い頃の森繁の魅力を知る上でも、貴重な1本ではないだろうか。


▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1957年、宝塚映画、水木洋子原作、長瀬喜伴+新井一脚色、瑞穂春海監督作品。

小岩の商店街に救急車が入って来たので、隣の蕎麦屋(?)の主人長吉(坂本武)が、先生、川で何かあったんじゃ?と表で声をかけて来る。

先生と呼ばれたのは、やはり、救急車のサイレンに驚き、店の前に出ていた「カン美容室」の主人川田貫一(森繁久彌)だった。

店に入った貫一は、客の相手をしていた姪の杵子(中村メイコ)を横目に、奥の自宅部分に入り、白衣を脱ぎながら、そこにいたおばあちゃん(飯田蝶子)に、万作はまだ帰ってないのかい?と心配げに聞く。

万作なら映画を観に行ったと言うので一安心していると、そこにやって来た杵子が、先生、北川さんの奥さんが「キム・ノヴァク」にしてくれとおっしゃっているんですが、分かりますか?と声をかけて来る。

そんな女優さんの名前を言われてもね〜…と困った貫一は、お前もそのくらい覚えておかないといけないよなどと杵子を叱りつけると、その辺の雑誌で探してみなさいと指示を出す。

しかし、雑誌を開き出した杵子は困ったような顔になり、先生、今言った女優さんの名前何でしたっけ?と聞く始末。

もう忘れちまったのかい?と怒った貫一は、ちょっと考えて、「決めのバック」だろう?等と答え、何とかなるだろう?等と言いながら、又白衣を来て店に出ると、北川の奥さんに対し、今時、「決めのバック」などちょっとお古いのでは?などと話しかけるが、客は呆れたように「キム・ノヴァク」どっせ?と答えながらも、古いやろか?などと不安がるので、貫一は奥様の髪の質には合わないのでは…などとごまかし始める。

そこに、次女の蓮子(江利チエミ)と三女のちどり(磯村みどり)が一緒に学校から帰って来る。

その直後、店の奥から杵子が貫一を呼び、先生、蓮子ちゃんたちに聞いたら分かりました、「キム・ノヴァク」の事…と教える。

それを奥で聞いていたおばあちゃんまで、「キム・ノヴァク」なら私だって知っているよ。「ピクニック」で…などとバカにしたように言うので、頭に来た貫一は、雑誌で確認しながら、何だ、単なるショートカットのことじゃない。私はグレース・ケリーでも何でもやりますよ!などとふてくされる。

その時、電話がかかって来たので貫一が出ると、バーバラ美容院の店主からで、貫一は、北川の奥さんの相手をする杵子に「黄金の首」にねなどとトンチンカンの指示を出したので、笑われてしまう。

電話の内容は、チューリップ美容室で電気パーマが故障してしまい、客の髪が焼けこげて丸坊主になってしまった。そのお客さんはまだ婚礼前だと言うのに…と言うものだった。

どうやら、さっきの救急車はその被害者を運びに来たものらしい。

客の北川の奥さんも、その会話が気になったようで、何だったの?等と聞いて来たので、かいつまんで事情を話した貫一だったが、客を不安がらせてはまずいと思ったのか、言っちゃ何ですが、チューリップさんは薬も安いの使ってますし、機械も旧式、その点うちは大丈夫ですと太鼓判を押すが、言ってる先から、パーマを当てていた客(塩沢登代路=とき)が、何か変じゃない?熱いわよと言い出す。

慌てて、杵子が機械のスイッチを切ろうとするが、切れないと言う。

焦った貫一も手伝って、何とか頭のカバーを外し、鏡の前の席に座らせると、私人一倍暑がりで…と言うその客の頭を、貫一は気まずそうな顔で団扇で扇いでやる。

その後、組合の会合から店に戻って来た貫一は、嫁に行っている長女の沙羅子(北川町子)が来ていることに気づく。

赤ん坊は置いて来たと言う沙羅子が、忙しいのね、お父さんと声をかけるので、今、組合で、お客様に火傷をさせた店を損害賠償ですますよう話し合って来た。新聞なんかに書かれたんじゃたまらないからねとぼやき、卓袱台で飯を食っていた長男万作(立野一義)に、お前、映画に行ってたそうだけど、入学試験どうするんだ?と小言を言う。

すると万作は、父さんが僕をどこに受けさせるのか希望校を決めない以上、勉強できないなどと反論して来る。

それを聞いた万作は、どうして最近は修身を教えないんだろうねと嘆き、おばあちゃんも同意する。

漣子とちどりも、私も許しがたいわと言い出す中、沙羅子がちょっとお願いがあるのと言うので、貫一は一緒に二階に上って話を聞くことにする。

そんな貫一に、漣子が、お父さん!宝くじ当たった?とからかうように聞いて来る。

二階に上がった沙羅子の話とは、金の無心だった。

うちのが梯子から落ちて、ブリキの仕事ができなくなった上に、奈々子が肺炎起こしたりして…、あんまり悪いことが続くので、占い師にみてもらったら、屋根の北側が下がってるからって言うじゃない。

つまり、人相ならぬ屋根相が悪いので、このままにしておくと死人が出るんだって。だから屋根を持ち上げるのよなどと言う。

その間、貫一は新聞で宝くじが当たっていないかどうか確認しながら聞いていたが、その時、下から上がって来た杵子が、新聞社の人が来て、先生にインタビューしたいって言ってますと知らせに来る。

それを聞いた貫一は、チューリップ美容室の事件のことだと思い、困ったわ、私、組合の役員だから、無責任なことも言えないし…、全く、お前のやることは半チクなんだから…などと杵子に文句を言いながら下へ降りて行く。

取り残された沙羅子は、私の方はどうなるのよ…と二階でぼやく。

下では、おばあちゃんが記者(瀬良明)の、おばあちゃんは、亡くなった奥さんのお母さんなんですってね?と言う質問に先に答えて、いつものように、冷や麦でも取ろうか?などと御節介を焼いていたので、降りて来た貫一は奥に追いやる。

毎朝新聞の記者と写真班(吉川孝)が挨拶をし、ご主人が立派なそうですので、世間に刻苦精励させている姿を美談として紹介しようと思いまして…と言うので、チューリップの事故の話ではないことに貫一はようやく気づく。

自分のことが新聞に載ると知った貫一は、急に機嫌が良くなり、ビールがあるだろう!杵子!と呼んだりするが、記者が、時間がないので、皆さんのお写真だけでも先に撮りたいと言い出したので、二階の沙羅子や奥にいた家族と杵子全員を呼び集める。

記者は、杵子を見て、その方が、ご主人がずっと面倒見ておられると言う姪御さんで?と聞いて来たので、ええ、姉の子なんですが、爆弾で両親を亡くしまして…、当たり前のことをしているだけなんですけどねと謙遜する。

長女の沙羅子は24だと答えていると、おばあちゃんが、この子が出来たんで娘と結婚したんですよなどと、貫一は「でき婚」だったことをバラしたので、貫一は慌てて、又余計なことを…と注意する。

翌朝、カン美容室に来る客が目に見えて増えたので、はやるね、今日は…と、隣の長吉のかみさん(出雲八重子)が感心していると、この町内で新聞に出るのは初めてだから…と、店の前を掃除していた長吉は答える。

美容室の中も、新聞に出た貫一の美談のことで持ち切りだった。

貫一は、満更でもなさそうな顔をしながらも、口では謙遜して答えてみせていた。

そんな中、待合室にいた客(都家かつ江)が、どうして女が子供を育てるのは当たり前で、男が育てると美談になるんでしょう?などと言い出す。

すると、貫一に髪を当たらせていた客が、女が生むのは天職ですからねと答えるが、そらま、生むのは天職でしょうけど、育てるのは…と議論が白熱し出す。

奥では、おばあちゃんが、貫一から言われて古いドライアーを出していたが、こんなもん、今頃使えるのかね?とぼやいていた。

あてくしには腑に落ちないんですよ…、店ではまだ先ほどの客が、男が育てるとどうして美談になるのかに疑問を呈していた。

言わば、男が育てるのは、猿が餌を運ぶようなもんじゃないですか?それに、亡くなったおばあちゃんと、姪の娘さんを育てたって言うけれど、その付録が良かったんでしょうねなどと言う結論になり始めたので、黙って聞いていた貫一は内心面白くなかった。

そこに、薬屋「健康堂」をやっている、貫一の姉のおしゅん(沢村貞子)が、見たわよ、新聞…と言いながらやって来て、あの毛生え薬、お客さんたちに売ってくれた?と聞いて来る。

おしゅんが奥に消えると、あの御節介が来た所を見ると、どうせろくなことじゃないんだろう…と貫一はぼやく。

奥に落ち着いたおしゅんは、貫一が来ると、為造の毛生え薬の広告を新聞に出したら5万じゃどうだろうね?などと、貫一の新聞記事の効果が高いと褒める。

その直後、連子やちどりが、いつもは禁止されている店の入口から帰って来たので、貫一は勝手口から入りなさいと叱りつける。

すると、万作までも、下駄の鼻緒が切れたのか、裸足のまま店の入口から堂々とは言って来る始末。

貫一が叱ると、父さん話があると万作が言い出し、親が子供を育てるのは当たり前だろ?などと生意気なことを言いながら奥へ言ったので、今、反抗期の第二期に入っておりまして…と貫一はお客さんたちに苦笑してみせる。

夕方、仕事が一段落して奥に行った貫一は、卓袱台を囲んで家族全員が紅茶を飲んでいることに気づく。

おしゅんの土産なんだそうである。

貫一は、みんなに脅迫されてね。さっきは猿にされたよと、新聞なんかに載ると風当たり強くてさ…と先に言い、何か又、買わせようと言うんだろう?と集まっていた家族に聞く。

すると、案の定、ちどりたちは、うんと答える。

今は修身なくなったから…とおしゅんも嘆き、今の子は楠木正成を知らないんだよ。忠臣楠子などと言うと、中国のことかなんて言うんだよと呆れて風にぼやくと、だって、南支だもの…と漣子が膨れてみせ、どうせ私たち、リベラル低いもんね…とわざと洒落てみせる。

いつも浴衣姿のおばあちゃんは、私は着物が欲しい。小千谷の安いので良いんだよ…。外に出て、いつも洗いざらしの浴衣を着ていると言われるとね…などと言い出す。

恥よねとおしゅんも手助けをする。

これ以上ここにいると何を要求されるか分からないので、今夜はチューリップの件で、組合の会合があるんだ…と言いながら、貫一が出かけようとすると、おしゅんが、縁談の話があるんだけど…と言いながら、忙しいんじゃ又にするわと言いながら、持って来た見合い写真を持って帰ろうとする。

すると、急に態度を変えた貫一が、ちょっと二階で話を聞こうかと誘って来たので、おばあちゃんは、都合の良い組合なんだから…と嫌味を言う。

二階に上がった貫一がいくつ?と聞くと、おしゅんは23歳と言うので、若過ぎないかい?私は良いんだけど、何だか娘みたいだ…と貫一が言い出したので、おしゅんは呆れて、誰の候補者と思ってるのさ?漣子ちゃんのお婿さんよと言い、見合い写真を見せる。

てっきり、自分の相手だと思っていた貫一は、複雑な顔でその写真を見ながら、でも、まだ高校生ですよ…とぼやく。

来春卒業よとおしゅんも反論する。

そんな2人の会話を、おばあちゃんたち家族全員、階段の下で聞き耳を立てていた。

その後、組合の役員の1人として「パーマ チューリップ」に1時間も遅れてやって来た貫一は、自分以外の会員が誰も来ていないことに気づく。

1人で待っていた「チューリップ」の主人千代乃(水戸光子)は、「カナリア」さんも「クレオパトラ」さんも電話で先ほど都合が悪いと言って来られて…と言い、先生の新聞読んで、私、涙ぐんでしまいましたわ。今度の事件も、換算が一番親身になって頂けるんじゃないかと思って…、他のみんなは、ざまあ見ろ!と内心思っているに違いないんですよなどと哀れっぽく言いながら、サイダーを注いで差し出す。

組合も、20万出せとか、カツラを作って差し上げろなど、女1人には無理なことばかり言って来て…、頼りになるの、先生1人ですのと言いながら、千代乃は貫一の手を握りしめて来る。

その時、電話がかかって来たので、千代乃が出ると、組合長の「ガーベラ」と「ひまわり」も来られないと言う連絡だった。

それを知った貫一はまずい所に来てしまったと内心後悔するが、先生!と千代乃にすがりつかれ、私のことなんか、みんな何とも思っちゃくれないんだわ…などと色っぽく迫られると、席を立つのも憚られた。

その時、奥から千代乃の弟子(若水ヤエ子)が、お寿司何人前頼みますか?と聞きに来たので、千代乃は悔しそうに、1人前で良いのよ!と叱りつける。

帰宅した貫一は、背広の襟口の所に付いてしまった千代乃の口紅をベンジンで拭き取りながら、杵子は気づいただろうか?あいつは疑りぶかいんだから…などとぼやいていた。

その時、背後にあった仏壇の亡き妻の写真に気づき、何でもないんだよ。ちょっと紅がついただけなんだ…と言い訳しながら、神妙に仏壇に手を合わす貫一だった。

そこに連子とちどりが帰って来たので、今までどこに行っていた?と問いただすと、映画よと言う。

そんな連子に話があると声をかけた貫一は、ちどりは先に寝なさいと言いつける。

残った蓮子は、臭い!ベンジン?と父親に聞いて来る。

隣の部屋で寝ていたおばあちゃんも、その言葉で目ざとく目を覚ます。

貫一はそんな蓮子に、お前をお嫁にもらいたいって人がいるんだよと打ち明けると、蓮子は急に笑い出すし、隣の部屋のおばあちゃんは、障子に聞き耳を立てる。

静かにしなさい!おばあちゃんが来るとうるさいからと叱りつけた貫一は、女は望まれるうちが華なんだよと言い聞かすが、うるさくて悪いけど、わたしゃ良い話だと思うよ…とおばあちゃんまで障子を開けて部屋に入って来る。

良い縁があるうちに決めないと、すぐにオールド「メス」になってしまうよなどとおばあちゃんは蓮子に迫り、わたしゃ、すぐに片付くでしょうけどね…と嫌味ったらしく貫一を見る。

先方は足駄(あしだ)で有名な「曾根屋」と言う店の息子で…と貫一が打ち明けると、おばあちゃんも、草履も売ってるよと、横からフォローする。

健康堂の伯母さんの顔もあるんだから…と貫一は説得を続けるが、そんな話を、二階のちどりや万作はしっかり聞いていた。

後日、蓮子の見合いをすると言う日の朝、貫一は洋服屋に電話をして、午前中に出来ると言ってたじゃないか!と催促をしていた。

それを横で聞いていたおばあちゃんは、何もお前の見合いじゃないんだから…と呆れるが、それにしても姉さん、どうしたんだろうね?と貫一はいら立っていた。

仲人役のおしゅんも姿を見せていなかったからだ。

その時、人が来た気配がしたので、洋服屋かと勝手口に出てみた貫一だったが、そこに立っていたのは、姉の息子の為造(井上大助)だったので拍子抜けする。

為造は、母は流感で熱を出して来れないので、自分が母の代理で仲人を…などと言うので、お前、見合いやったことあるのか?と貫一が聞くと、さあ〜…などと頼りない返事。

その時、又人が来た気配がしたので出てみると、又洋服屋ではなく、馴染みの大工の棟梁源吉(田武謙三)だった。

万一、蓮子が結婚した場合、恥ずかしい思いをさせないようにと、家のあちこちを手直ししようと思って貫一が呼んでいたのだった。

まずは、台所の上にある天窓を見てもらい、次いで、おばあちゃんの部屋や今も見せた貫一が勝手口の方に戻って来ると、そこですわって待っていた為造が洋服の箱を持っているではないか。

たった今洋服屋が持って来たと言うので、全くもう…と貫一が呆れていると、そこに着飾った蓮子が杵子に付き添われて二階から降りて来る。

貫一は、ペティコートが出てるわよと注意すると、蓮子の方も、お父さん、鼻毛が出てるわよと言い返す。

急いで、鏡の前で鼻毛を切った貫一は、出来て来た洋服の上着を羽織り、仏壇の前に座り込むと、蓮子の縁談、巧く行きますように…早くほっと肩の荷を下ろしたいよ。母さん、お願いしますよと手を合わせて祈る。

その後、為造と貫一が蓮子を連れて、見合いの場所の劇場へ向かうと、おばあちゃんも買ってもらった着物を来て、杵子に留守番を頼むと、今日はあんたも冷蔵庫の中のもの自由に食べていいよ。何だか世間では、あんたや私が貫一の世話になっているように言われているけど、本当はあんたや私があの人の面倒を見てるようなもんよと本音を言う。

留守番を引き受けた杵子も、私も厄介者みたいにひがんで生きるのを止めようと思うのと打ち明けると、おばあちゃんは、新しい草履を履いて、観音講へ出かけて行く。

貫一は、先方の母親とも(中野トシ子)と会っていた。

一方、喫茶室で向かい合っていた蓮子は見合い相手の曽根文平(江原達怡)から、君、案外子供だねとからかわれたので、あんたノッポね。そのネクタイ安っぽいわよなどと言い返す。

その時、川田貫一様、お宅からお電話が入っておりますと言う場内アナウンスが聞こえて来る。

慌てて貫一が美容院へ駆けつけると、二階で杵子が寝かされており、横にいたおばあちゃんが、杵子が塩豆200匁も食べて胃けいれんを起こしたんだと説明する。

布団の中から、すみません!と恐縮する杵子を見ながら、本当に世話の焼ける子だね〜…と貫一は口走る。

その後、仏壇に向かった貫一は、お母さんはこの中で何してるんだろうね?お母さん…と呼びかけるが、ふと仏壇に供えたご飯の匂いを嗅いで、汗かいてるじゃないと言いながら取り上げる。

後日、貫一は健康堂のおしゅんを見舞いを兼ねて訪ねる。

風邪はどう?今日も蒸すわね〜…などと言いながら、手みやげを渡すと、まあ、松栄堂さん?とおしゅんは喜んで受け取りながら、どうなの?蓮子ちゃんの感想は?ダメなの?と聞いて来る。

まだ結婚と言う気持ちになれない。青春を楽しみたい。1人の男性に決めて、世間の男性をシャットアウトしたくないなんて言うのよ…、止めた方が良いみたい…。先方が下駄屋とも言うのも気に入らないみたいなのと貫一が言うと、日本で下駄を履くのが、どうして時代遅れなのよ!とおりょうは憤慨する。

おばあちゃんも、アスファルトの時代に足駄なんてと言うんだよと貫一が付け加えると、じゃあ、靴屋に行けば良いのよ!あんたは父親として、腰が弱いのよ!とおりょうは怒り出す。

あんたは乗り気じゃないもんね?と皮肉を言い出したおりょうは、あんたはあるんじゃないの?どこかに…?良く我慢できるわね〜…などと意味ありげなことを聞いて来る。

その時、突然、店先で爆発音が響き、おっかさん、又失敗した…、毛生え薬…と言いながら、ぼろぼろになった為造が出て来る。

姉の「健康堂」からの帰り、頭領の源吉と道で出会った貫一は、馴染みの飲み屋に連れて行くと、せっかく見積もってもらったんだが、蓮子の見合いも止めたし、家の修繕も止めようと思っているんだと打ち明ける。

源吉は残念そうに、でも、引き窓だけは直しとかないと…と粘るが、貫一は酒を振る舞ってごまかす。

「カン美容室」に帰って来た貫一は、隣の長吉が、走り去って行く車を見送りながら、蓮子なかなかじゃないなどと言う。

何のことか分からず、店に入ると誰もいない。

店の脇に廻ると、杵子が白玉を作っている所だった。

話を聞くと、蓮子ちゃんのお婿さんがドライブを誘いに来たんですと言うではないか。

貫一は、そんな!今姉さんの所で断って来て、油を搾られて来たばかりなんだよ。一体どう言うことなの?…と言って絶句する。

しかし、蓮子と文平の乗った曾根屋の車は、その後、すぐにエンコしてしまう。

一方、「カン美容室」の自宅部分では、貫一が、文平と蓮子が戻って来たら、酒の仕度でもしておかないと…と焦っていたが、杵子とおばあちゃんは、出来上がった白玉を食べていた。

万作に特級酒を買って来いと命じると、駄賃をねだられたので、ちどりに買いに行かせることにすると、私も飲むわよなどと言い出し、鰻も頼んだ方が良くないなどと言う。

全部で6人前か…と家族を数えた貫一だったが、彼氏も入れると7人前だよと万作が指摘する。

すると、杵子が私は良いですなどと言い出したので、それがいけないんだよと貫一は注意し、鰻と刺身を7人前注文して来なさい。私はヤケだからなどと命じる。

店の裏手に出てみると、杵子が泣いていたので、お前がいるから、いつも助かっているんだよと貫一は優しく声をかけるが、杵子は、良いんです。おだてないでくださいと言うと泣きながら奥へと走って行く。

夕食時、ちどりと万作は、儲けちゃったねと喜んで、うな重を食べていた。

しかし、文平と蓮子はいつまで経っても帰って来なかった。

おばあちゃんは杵子にももう食べなさいと勧めるが、杵子は、先生まだですから…と遠慮していた。

貫一は心配して、外でずっと娘の帰りを待ちわびていたが、商店街の中にある温泉マークのネオンを見上げ、まさか…と心配げに呟く。

その頃、文平と蓮子は踊っていたが、踊りつかれてテーブルに座ると、蓮子はスロージンと注文し、こんな所で値段のことを言うのは興ざめじゃないと言うが、文平は、ここのビールは200円するんだけど…と商人らしいことを言い出し、結婚したら、金銭にも厳しく、両親の事も心配してもらいたいんだなどと注文し出す。

それを聞いた蓮子は、そんな女中さんみたいな…。私は何億って言う財産と同じなんだからねと憤慨する。

蓮子帰って来たか?と言いながら貫一が店に戻って来ると、店先に1人残っていた杵子が、私、待っていますから、先生寝てくださいと勧める。

どうしたの?何を考え込んでるの?と貫一が聞くと、杵子は急に、先生、私、お暇を頂かせてください!と言い出し、泣き出す。

お前、ご飯食べてなかったのか?一緒に食べようとうな重を取ってやった貫一は、おつゆ冷えちゃったね。お茶を入れようと言い、自分でやかんで湯を湧かそうとする。

そして、訳があるんなら話しなさい。叔父と姪の関係は、言ってみれば親子みたいな仲じゃない。何なの?悩みは?と貫一が聞き、誰だってあるんだよ悩みは…。人間はしょせん孤独なんだと言う。

それを聞いた杵子が、そうですね。本当に1人ですねと同意すると、「アイアム アローン」良い響きだろう?と貫一は呟く。

先生って、詩人ですねと杵子が感激すると、今分かったの?と貫一は笑う。

だって、先生、いつも怒ってばかりいるから…、先生が詩人だなんて思わなかった…と甘えたように言う杵子。

その時、店に入って来たのが蓮子だった。

杵子は慌てたように、自分のうな重を持って、二階に上って行く。

どこ行ってたんだ?と貫一が聞くと、ドライブ、食事、キャバレー…と蓮子は答えるが、変なこと、なかったんだろうな?と貫一が聞くと、変なことって何よ?親って勝手ね。付き合わないと怒るし、付き合えば付き合ったで怒るし、そう何
にでも首を突っ込まないでね!と蓮子は反発すると、二階へ上がって行く。

その後、布団の上に座った貫一は、どう言うつもりなんだか…とぼやくが、台所の天窓が明けっ放しだと気づくと、それを閉めに行くが、その時、遠くから雷鳴が聞こえて来たので、夕立来るね…と呟くのだった。

ある日、隣の物干し台にいた長吉が、同じく美容室の上野物干し台に来た杵子に、先生、熱海に行ったんだって?と聞くので、杵子は組合の会合でねと教えるが、先生、チューリップの先生と何だってね…などと嬉しそうに長吉が聞くと、それには答えず、杵子は下にやって来た文平の車に気づく。

そして、蓮子ちゃん、あの人が来ましたよと教える。

おばあちゃんも、曾根さんがお見えになりましたよと下から呼びかけて来る。

蓮子が下に降りると、文平が又ドライブに誘って来たので、杵子ちゃんもどう?と杵子を誘い、良いでしょう?と文平の方に聞くので、文平も嫌とは言えず、良いですよと困った顔で答える。

すると蓮子は、万作やちどりまで誘い、同じように文平の許可を得ると、おばあちゃん、留守番しててね。冷や麦でも取って…と頼む。

しかし、その日のドライブも、途中の峠で車がエンコしてしまい、文平が必死に故障を直している間、蓮子は1人「シンコ・ロブレス」の曲を歌い始めると、杵子や兄弟と一緒に先に歩いて行く。

一方、熱海の旅館に来ていた貫一は、女性ばかりの美容師仲間の中で、1人「浜千鳥」を歌いながら踊っていた。

それを観ていた「チューリップ」の千代乃は、途中で席を立つ。

それに気づいた貫一も宿の外に出て、千代乃の姿を探す。

すぐに千代乃を見つけた貫一は側に寄り、そのまま近くの射的場で身を寄せあい、鉄砲の撃ち方を教えるようになる。

そんな射的場の真ん前でエンコしたのが、曾根の車だった。

車を降りた万作は、つまんない所でエンコしちゃったな?廻りはアベックばかり通りやがる…などとぼやきながら周囲を見回していたが、その時、射的場から出て来る父親貫一と千代乃の姿を見つけたので、驚いて、姉ちゃんたちに教える。

そんなことには気づかず、千代乃は本当に楽しかったと喜び、貫一も又、私も青春が蘇ったようですなどと感激していた。

千代乃が夜の海を眺めながら、あんなに漁り火が…と呟くと、寄り添った貫一は、人間、孤独ですね〜…、「アイアム アローン」、家族があってもね…などと気取って言う。

そして、2人は、お宮の松の前のベンチに座る。

千代乃は貫一に、ご結婚なさったら?と言い出し、別居結婚だったら良いじゃありませんの?2人が気分の良いときだけ外で会えばロマンチックだわ等と言うので、すっかりそのムードに酔いしれてしまった貫一は、千代乃の手を握ってしまう。

その後、熱海から店に貫一が帰って来ると、何故か店が閉まっている。

勝手口から中に入ると、家族全員と杵子が卓袱台を囲んで黙り込んでいる。

そんな中、貫一に気づいた蓮子が、お父さん!こっち来て頂戴!と厳しい表情で言ったので、又何かあったのかい?と言いながら卓袱台に近づいた貫一は、もう女たちとの旅行はこりごりだよ。このレンズなしの伊達カメラは役に立たなかった。すぐに見破られちゃったから返すよと言い、万作にカメラを渡す。

すると、それまで黙って座っていた杵子が、先生、私、幻滅を感じました。全部うかがいましたと言い出し、ちどりも、卑怯よ、お父さん!と急に責め出し、万作までもが、俺、ひっぱたいてやろうかと思った等と言い出す。

おばあちゃん、これはどう言うことです?と貫一が戸惑いながら聞くと、みんなも文平さんの車で熱海に行ってね…、子供たちも私も邪魔者だって言ったそうだね!などとおばあちゃんまで悔しそうに言う。

貫一は何とか言い繕うとするが、お為ごかしは聞きたくありません!と杵子が厳しい口調で封じ、私は私なりに一生懸命やって来たつもりだよ?と言いながら、おばあちゃんも泣き出す。

蓮子も、私を追い出そうとしてたのねなどと怒り出す。

先生に採ってはあばたもえくぼかもしれませんが、「チューリップ」の先生は、だらしなくて、男垂らしのケチンボの女と評判ですよ!とまで杵子が言うので、貫一は、つい、黙れ!と声を荒げてしまう。

ちどりまで、私、父さんを嫌いになったわと責めるので、何だい、こんな家!父さんだって幸せになる権利はあるだろう!出て行きゃ良いんだろう!と興奮した貫一は吐き捨て、家を出て行くが、万作はそれを止めるどころか、「蛍の光」のメロディをハミングし出す。

その足で「チューリップ」の店を訪ねた貫一は、奥の部屋で茶漬を食べていた弟子たち3人(黒田隆子、氏家真紀)の姿を観る。

弟子たちは、貫一と知ると、恥ずかしがって沢庵の皿を隠そうとするが、先日、寿司の注文を聞いていた弟子は、隠さなくても良いのよ。毎日、沢庵の尻尾ばかり食べさせているのは先生じゃない!と不満をぶちまける。

その時、二階から千代乃が降りて来て、貫一と知ると二階に誘う。

二階に上がって来た貫一を迎えた千代乃は、「アイアム アローン」と言って色っぽく笑うと、こんな部屋お見せするのは恥ずかしいわ…、でも、これからは先生の家みたいなものですもんねとなどと色目を使って来る。

そして千代乃は貫一に酒を振る舞おうと棚の上に置いてあった洋酒の瓶を持つが、定規を使って中味の高さを測りながら、目が離せないのよ、特に出かけた時なんか…などとケチンボ振りを見せつける。

そして、下の弟子に、フォークとお皿を持って来てと声をかけると、先ほどの弟子が、皿とフォークと一緒に、今日の売上の精算帖を持って来る。

それにざっと目を通した千代乃は、60円足りないじゃない!と弟子に文句をつける。

弟子は困惑したように、レジスターですから間違いないはずなんですがね〜…と首を傾げる。

しかし、金にうるさいらしい千代乃は、徹底的に確認するため、その弟子と一緒に下に降りてしまう。

1人残された貫一は、ベッドの上に腰を降ろそうとするが、足が何かを踏みつけたのに気づき、拾い上げると、それは千代乃のブラジャー用のパッドだった。

「アイム ロンリー」と呟いた貫一は、そっと階段を降りるが、店の方からガミガミ言っていた千代乃が、誰なの?と聞いて来たので、思わず、ニャ〜ッと鳴きまねをする。

すると、隣のノラか…と言う千代乃の声が聞こえたので、そのままそっと逃げ出すのだった。

その後、飲み屋でやけ酒を飲んでいた貫一だったが、肴としていた沢庵を見ると、それ以上飲む気にもならず、店を出ると、陸橋脇にやって来て、通り過ぎる汽車の煙に巻き込まれる。

ある日、貫一が家出したと聞いて、しょうがないわね、貫さんも…と嘆きながら「カン美容室」にやって来たおしゅんは、1人で客の相手をしていた杵子に、杵ちゃん、ご苦労さんと言いながら、店内を通り過ぎ、奥の台所で包丁を使っていた蓮子を発見する。

蓮子は、うちは新聞に載った美談だからねなどと笑う。

万作とちどりは、感心にも、ガラス戸の掃除をしていた。

それを観たおしゅんは、こう肴にされたんじゃ、父さんも帰り難くなったろうねと同情する。

帰る途中、おしゅんは、小さな石橋の所で赤ん坊を背負い、子守唄を寂し気に歌っていた貫一を見つけ、のんきな人だよ、全く…と呆れながら近づく。

聞きましたよ、電話がかかって来てねとおしゅんが話しかけると、そう言う奴らだよ。あたしゃ、レジスタンスやったんですよなどと貫一は言う。

あんまりバカにするから…、今頃困っているでしょうよなどと貫一が言うと、それが、みんな困ってないんだな。みんな大きくなったから…とおしゅんが教えると、赤ん坊が泣き出したこともあり、貫一は寂しそうな顔になり、厄介になっている長女沙羅子の家に戻って来る。

背負っていた赤ん坊は、沙羅子の娘奈々子だったのだ。

家の中では、沙羅子の夫の鳴夫(佐田豊)が鍋の底の修理をしている中、沙羅子は、みんな心配しているわよと声をかけて来る。

しかし、布団に奈々子を寝かせ、おしめを取り替え始めた貫一は、みんな、こんな風に育てられたことを忘れやがって…と、悔しそうに呟く。

そんな沙羅子の所に、杵子がやって来て、ちょっと外に出ていただきたいんですけど…と貫一に声をかけて来る。

石橋の所まで出てみると、先生、私、どうかしてたんですと杵子が言うので、何を?と貫一が聞き返すと、夢中であんなことしゃべっちゃったんですけど、私、悪かったと思うんです。先生だって、好きなものは好きなんだから…などと杵子は続ける。

1人でてんてこ舞いしてると思ってたんだけど、私がいなくても平気だって聞いてがっかりしちゃった…。嬉しいんだろうね〜、この気持ち…と貫一も神妙に答える。

先生、すみませんと杵子が謝ると、良いんだよ。いつもお前が小さくなっているのが嫌だったんだ。夕べは勇敢に言ってくれてね。

あの方とはどうなったんですか?と杵子が聞くので、あれはもう壊れたよと貫一が答えると、私、先生が幸せになるんだろうと思って…と杵子が言うので、良いんだよ、もう終わったことだから…と言って慰める。

先生、家に帰って来てくれますか?と杵子が言うので、ちょっと敷居が高くなったかな…と呟いた貫一は、先に夕食を鳴夫が食べ始めていた沙羅子の部屋に戻って服を着替え始める。

一緒に夕食を食べるとばかり思っていた沙羅子は、あら、帰るの?と驚く。

商店街まで杵子と戻って来た貫一は、ちょっと付き合ってくれと誘う。

やけ酒ですか?と杵子が聞くと、バカ言いなさいと否定した貫一は、馴染みの飲み屋で酒を飲み始める。

杵子にも勧めるが、杵子は首を振り、途中で、先生、帰りましょうと貫一に言う。

空きっ腹で飲んだ貫一は、店を出た所で既に足がふらついていた。

誰に遠慮がいるものか、我家に帰るのに…、自分に言い聞かせるように呟きながら帰り始めた貫一だったが、途中で腰が抜けたように道に座り込んでしまう。

表の様子をドア越しにそっと除いていた万作が、来たぞ!と店の奥に知らせる。

店に酔った貫一を抱えて連れて来た杵子に、待っていた蓮子が、杵ちゃん、ご苦労さんとねぎらいの言葉をかける。

そして、家族全員で眠り込んだ貫一の身体を布団まで運んで寝かせる。

万作は、台所からコップに水を入れて枕元に運んで来る。

蓮子とちどりは、父親の布団の上に蚊帳を張ってやる。

そんな子供たちの様子を、狸寝入りをしていた貫一は、そっと目を開けて眺めていた。

おばあちゃんも、そんな貫一の様子を優しく見守っていた。

夜中、咽が渇いて目覚めた貫一は、枕元に置いてあったコップの水を、坊主にしちゃ、気が利いていると言いながら旨そうに飲み干す。

しかし、飲み足りないので、水差し置いときゃ良いのに…とぼやきながら起き上がると、台所に言って蛇口の水をコップに注いで飲むが、その時、天窓が開きっぱなしなことに気づき、ほらね、私がいないと…と呟きながら天窓を引っ張って閉める。

その後、又、裸になって寝てるんだろう…などと言いながら二階に上がる。

その様子を寝ないで様子をうかがっていた子供たちは、一斉に布団に潜り込み、寝た振りを始める。

そこに上がって来た貫一は、そら、やっぱり…と言いながら、子供たちの掛け布団を直してやった後、窓が開いたままの縁側に出て、ああ、星がきれいだな〜と呟きながら、満天の星空を眺める。

子供たちは全員、肩肘をついて、そんな父親の後ろ姿を投げ目始める。

それに気づかない貫一は、月の君〜、空にきらめいて〜♪などと歌を一節口ずさんだ後、「アイアム アローン」か…と口走る。

その時、背後から、子供たちがハミングする声が聞こえて来たので、起きてたのか…と、感極まったように目をしばたかせ、又星に目をやる貫一だった。