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君の名は 第二部

第二部は、佐渡、東京に加え、美しい北海道ロケとアイヌの人たちの登場で、主婦の妄想物語に伝奇色のような要素まで若干加わってきて、ますますご都合主義の嵐、通俗路線まっしぐらと言った感じになっている。

アイヌのユミや、鳥羽の海女奈美など、野性味溢れ情熱的な現地の女が登場するパターンは、同じ菊田一夫原作「極楽島物語」(1957)等に似ている。

当初、純愛ドラマのつもりで観ていたら、すぐに「結婚生活って大変よ」と言う主婦の苦労話に変化して行き、さらにどんどん関係者が死んで行くと言う意外な展開になっているし、峠に、真知子巻き姿の岸惠子さんが来ると不吉なことが起こると言う、まるで、後年の「悪魔の手毬唄」を連想させるような雰囲気まである。

活発で明るい戦後派の女性像を描いた陽性の映画もある一方、こうした暗いお涙頂戴映画も熱狂的な人気を得ていたと言うことは、戦後、表面上は男女平等になったとは言え。実際は、女性の地位がまだまだ低く、社会的にも家庭の中でも虐げられていると感じる女性が抱く「悲劇のヒロイン」への共感と、一方では「他人の不幸は密の味」と言う部分もあったのかも知れない。

ロケ風景もある反面、ホリゾントに描いた書き割り背景とかスクリーンプロセス合成やオーバーラップなどの多用などで、大作と言うよりは、どこか安手の印象がつきまとい、次はどうなる?と言う「引っぱり要素」も、さすがに前作で慣れてしまったせいか、もうそんなに無我夢中になるほどの吸引力はない。

この作品を観ていて気づくのは、劇中に一切電話が登場しないと言うことだ。

終戦直後はともかく、昭和23年頃になっても、登場する連絡手段は電報と手紙だけ。

当時、携帯がなかったのは当然としても、電話自体がなかった訳ではないだろうが、各家庭に普及していた訳でもないだろうし、やはり遠隔地だと料金が高過ぎて気軽に使えないと言うこともあったのだろう。

それに加え、不倫の話なので、うかつに手紙のやり取りや電話などかけられず、密会と言う形になってしまう。

だから誤解も生まれるし、すれ違いもしょっちゅう。

真知子の夫、浜口とその愚かな母徳枝は、ますます憎まれ役に徹してきているし、真知子の御節介な友人綾は、はっきりトラブルメイカーとしてのポジションを確立している。

この回では、予想通り、春樹の姉の悠起枝がトラブルの一角にいるし、一見、不運に見舞われ通しの悲劇の恋人同士に仕立てようとしている春樹と真知子は、実は、自己中心的で人の気持ちをもてあそぶ嫌な人間であることがますますはっきりしてきた。

春樹と真知子は、どちらも現実の困難にぶつかると、自分で選択した道故に耐え忍ぼうとする気概よりも、現実逃避の為にすぐに過去のロマンにすがりつこうとする悪癖があるようで、それが敵わぬのは、自分たちが不幸だからと考えている節がある。

基本的に弱いと言うか、情けない人間にしか見えない。

笠智衆演じる元軍人加瀬田は、案の定、又すぐにドラマに復帰、「男はつらいよ」の御隠居様を思わせるセリフ回しで、義侠心溢れる…と言うか、どこか説教臭い善人を演じている。

この第二部まで観た印象だと、やはり一番の悪人は、その美貌故に、出会う女たちの心をことごとく奪ってしまう割に優柔不断な春樹に絞られてきたような気がする。

モテ過ぎて困る男の物語は、プログラムピクチャーなどでは良くあるコミカルパターンだが、ここではそれが、次々と女を不幸にしている所がミソ。

本人は弄んでいるつもりはないにせよ、結果的に、出会う女すべてを苦しめる憎い存在である。

ある意味、女の敵なんじゃないかとさえ思うが、女性はきっと、いつの時代もこんなモテモテのドンファン男に憧れているのかも知れない。

女性客たちは、自らをヒロイン真知子に重ねて観ているに違いないからだ。

実際、春樹が、全く女性に持てないような泥臭いタイプの男だったら、こんなにまでヒロインが執着するはずがない。

本作での真知子は、突如現れたライバルに対し、どこか優越感を匂わせる態度や目つきを持っているような気がする。

それは、口先で言っている、自分が悪かった、来なければ良かった…と言うような自虐とは裏腹なもの。

自分と春樹の愛を確信しているからの態度だと思う。

この作品で、情熱的な女ユミを演じているには北原三枝らしいが、日活で活躍するようになる彼女とは大分印象が違う。

前作ではっきり顔を確認できなかった戸村奈美役の淡路恵子さん、第二部では出番は少ないが、アップを良く観察してみた所、やはり淡路恵子の面影がある。

年齢が若いので、顔の肌が張り切っている感じで、その後のちょっと痩せた風貌と印象が違っているだけだと言うことが分かった。

北原三枝さんの印象が違うのも年齢的なものか、メイクのせいかも知れない。

タイトルバックにも使われている、どこか物悲しい曲「花のいのちは」や、ユミが歌っている「黒百合の歌」などが随所に流れるのは、それなりに効果的かも知れないが、テロップ文字が次々に画面に登場するのはさすがに古くさい印象を受ける。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1953年、松竹、菊田一夫原作、柳井隆雄脚色、大庭秀雄監督作品。

霧に包まれた、東京、銀座数寄屋橋の欄干に身を持たれかけ、憂いに沈む男、後宮春樹(佐田啓二)

(回想)彼は、昭和20年5月24日の夜、東京が大空襲を受けた夜に、一緒に逃げ回った氏家真知子(岸惠子)との出会いを思い出していた。

二人は何とか生き延びた翌日、もし今後も生き延びていたら、半年後、その時会えなかったら、さらに次の半年後の夜8時にこの橋の上で再会しようと約束して別れる。

君の名は?と春樹が尋ねた時、又空襲警報が鳴り響いたので、名前は次に会うときまで知らないままでおこうと言うことになる。

それから半年、1年が過ぎ、春樹は数寄屋橋で真知子を待ったが、来なかった。

そして1年半過ぎた11月24日、ようやく春樹は、待ちわびた真知子と再会を果たすが、その時、真知子は、明日結婚すると告げるのだった。

しかし、真知子の結婚は、夫の春樹に対する嫉妬と嫌な姑のために巧く行かず、真知子は春樹の面影を求め、心は千々に乱れるが、郷里佐渡に逃げ帰った所で、夫、濱口勝則の子供を宿していたことが分かる。

春樹が、真知子の友人綾と共に佐渡に駆けつけ、何とか尖閣湾の吊り橋に所にいた真知子を発見するが、真知子が妊娠している事を知った春樹は、生まれて来る赤ん坊の為にも、濱口の元へ帰った方が良いと言い聞かせ、自分は傷心のまま東京に戻り、今こうして、再び数寄屋橋に立っていたのだった。

(回想明け)お兄さん!と春樹に笑顔で駆け寄ってきたのは、買い物してきた物を抱えた元パンパンのあさ(野添ひとみ)と梢(小林トシ子)だった。

たくさんの買い物は、密輸容疑で捕まっていた掘建て小屋仲間の加瀬田修造(笠智衆)が、無事出て来れたお祝いをする為だった。

あさと梢は、春樹が北海道の友人に誘われて行くと聞き、よく見ておくが良いよ。数寄屋橋は北海道にはないよ!などと寂しがる。

そんな春樹、あさ、梢たちが、加瀬田の保釈祝を始めようとしていた掘建て小屋に訪ねて来たのは、仁科(日守新一)と言う、加瀬田の軍隊時代の仲間で、今は神田の青果会社の重役をしている男だった。

小屋の前では、梢の子供が三輪車に乗って遊んでいた。

そんな仁科の来訪を喜びながら、春樹たちをその場で紹介した加瀬田は、あさや梢たちに何か良い仕事はないだろうかと以前から相談していたのだった。

今日、仁科が来たのはその返事をする為もあり、人形町に果物屋の出物があるので、どうだろう?と言う話をする。

加瀬田も、みんなで果物屋を始めたらどうかと思ってねと打ち明ける。

私たち、親切な男に凝りてるからね…とあさが冗談めかして答えると、何だか僕のことを言われているみたいだ…、自分のことばかりにかまけてしまって…と落ち込んだのは春樹だった。

今の春樹には、頑張ってくれたまえと励ますくらいしか出来なかった。

そんな春樹に加瀬田は、前に、人の善意に付いて話したことがあったが、私はいつしか人の善意を信じられなくなり、密貿易などをやってしまいましたが、私もこれからは頑張ります!と決意する。

その夜、上野駅の青森行き列車に乗り込んだ春樹を見送りにきたのは、料亭「春日」の女中頭になっていた綾(淡島千景)だった。

春樹は、黙って立ち去りたかったので連絡はしていなかったのだが、又、いつもの綾のお節介で勝手に来たのだった。

真知子は明日、佐渡を発つそうよ。何か言づてはない?と綾がホームから聞くと、もうあの人のことは言わない約束じゃないか…と春樹はやんわり諌める。

みんな散り散りになるんだね~…と寂し気な表情を浮かべた綾は、こうやってると、何だか恋人同士の別れみたいだねと茶化し、あんたん所に鳥羽から手紙が来ていたよと言いながら、立ち寄った下宿から預かって来た春樹宛の手紙を渡す。

気を付けてね!と呼びかけてきた綾に別れを告げ、出発した列車の中で、手紙を読み出した春樹だったが、それは、公民館に勤める姉の元恋人水沢謙吾(須賀不二男)からのものだった。

又、君の姉さんのことで詫びなければならなくなった。悠起枝が姿を消してしまったのだ。自分は入院中の身と言うこともどうすることも出来ない。私は妻の奈美も死なせてしまったのだ…と、衝撃的な書き出しで始まった手紙は、数日前の出来事を説明し始める。

(回想)浜木綿の咲く浜辺で、勤め帰りの水沢を待っていたのは、妻になった海女の戸村奈美(淡路恵子)だった。

先生!私と夫婦になったこと後悔してるんだろう!と一方的に責めて来たので、どうしても分かれよう。僕たちの出会いは最初から間違っていたんだと水沢は言い聞かせようとする。

すると突然、奈美はナイフを取り出すと、いきなり水沢の左肩部分に突き刺してきて、その直後、抜いたそのナイフで自らの胸を突き刺してしまう。

僕たちは呪われた夫婦だったんだ。

負傷して入院した水沢を見舞いにきた春樹の姉、悠起枝(月丘夢路)は、こんなことになったのも私に責任があったんでしょうね。自分の不幸をあなたたちに見せ過ぎたんですわ。私の存在が、常にがあなたたちに、暗い影を投げかけていたのです。謙吾さん、もう二度とお目にかかることはありません!それが奈美さんへの供養だと思いますと言い残し、悠起枝は姿を消す…

(回想明け)悠起枝さんは、東京へでも出たのではないか。異常なければ良いのだが…と、水沢の手紙は結ばれていた。

その後、綾は、東京に帰ってきたと聞いた友人真知子に会いに、浜口家を訪れる。

応接室に招き入れた浜口の母徳枝(市川春代)は、浜口と真知子は、今、温泉に出かけている。こんな年寄り1人に留守番させるなんてね~…、こちらから頼んだのでもないのに、勝手に真知子さん帰って参りましてね…などと、迷惑気に教える。

そして、あなたは後宮さんとご一緒だったんですか?などと綾に探りを入れてきたので、綾は、持参した安産のお守りを渡そうとすると、失礼ですが、これはどなたかにお頼まれになって?と徳枝は聞いて来る。

いいえ…と綾が困惑すると、それなら宜しいんですが…、後宮さんが北海道へ行ったのは本当ですか?私は何でも知ってるんですよ、ホホホ…などと、上から目線で徳枝が言い出したので、玄関を出かかっていた綾はさすがに切れ、おばさん!聞きしに勝るって言うけど、本当だよ!と吐き捨てて帰る。

料亭「春日」に戻ってきた綾は、北海道の後宮に、嫌な浜口の母親に会ってきた…と手紙を書いていた。

私もいい加減御節介は止めて、自分のことを考えなくちゃ…、誰かいないかな、後宮さんみたいな人…などと独り言を言っていた綾だったが、その時、二階に上がろうとする女性を見かけた綾は。ダメじゃない!そんな人を上げちゃ!服装でどんな人だか分かるだろう!と女中たちに声をかける。

部屋に呼んだその女性を前に、あんた、前にも一度来たわね?カモを探しにきてるんだろう?

うちも大した店じゃないけど、高級パンパンが出入りしているなんて言われたくないんでね…と綾は言い聞かし、今日の商売を邪魔したお詫びに取っといて…と言いながら、幾ばくかの金を手渡そうとする。

その金を前に恥じ入る女性を観察していた綾は、あんた、戦争未亡人じゃないのかい?出来ればもっと強くなっておくれと声をかけると、たまらなくなったのか、女は泣き崩れてしまう。

東京に出て来たばかりのことでした…とその女性、後宮悠起枝は語り出す。

(回想)職業安定所から出てきた悠起枝に声をかけて来たのは、見知らぬ男(桂小金治)だった。

姉さん、仕事探してるんだろ?良い仕事世話しようか?きれいなべべ着て、美味しい物食べてできる仕事さ…、分かるだろう?などと馴れ馴れしく絡んできたので、警察に言いますよ!と悠起枝が気色ばむと、警察に行こうじゃないか!と相手は開き直って来る。

その時、君!失礼じゃないか!ご婦人に向かって!と声をかけて来た青年があった。

チンピラを追い払ったその青年に、どうしたんだい、野添君とその青年から呼びかけたのは、紳士を気取っていたが、横山(三井弘次)だった。

横山は、悪い奴がいますから気をつけなさいと悠起枝に言い聞かせ、野添と呼ばれた青年は、こちらは仕事をお探しで困っておられるようですから「白光寮」のような所はどうでしょう?と横山に説明すると、悠起枝には、学生ばかりでやっている寮ですから安心ですよ。名刺一枚に承諾を書いていただければ…と親切に言ってくれる。

すっかり2人を信じきった悠起枝が、その「白光寮」と言う所へやって来ると、実はそこは高級パンパンの集まる宿で、先ほど悠起枝に声をかけて来たチンピラもそこに帰ってきており、戻って来た横山に笑いかけて来る。

(回想明け)その人たちはグルだったのね…、悪い人もいるもんだね~…と、悠起枝から話を聞いた綾は同情する。

その頃、浜口と真知子が静養のため来ていた温泉宿に訪ねて来た役所の局長(柳永二郎)は、これは第二の新婚旅行のような物だよと励まして帰る。

その後、河原に出た浜口は、過去が夢のような気になる。明日から、又、母さんと一緒にやってくれるね?と優しく問いかけると、そのつもりで帰ってきたんですから…と真知子も答える。

今までの僕は、君に取って良い夫じゃなかった。嫉妬でしか、自分の気持ちを現せなかったところがある。これからは大人になるよ。だから、君も後宮君のことは忘れてくれたまえ、子供の為にも…。僕たちの心の溝はどうしても埋めなくては…と頼む。

ねえ、あなた…、私たち、幸せになれますわね?と真知子が聞くと、それは君の気持ち次第じゃないかと浜口は答える。

その時、真知子は、佐渡で死を覚悟してさまよっていた吊り橋のイメージを思い浮かべる。

浜口は、宿に戻ろうと誘うが、真知子の様子がおかしいことに気づく。

真知子はその場に倒れ込む。

北海道に来ていた春樹は、棒状に寝そべり、綾からの手紙を読んでいた。

その時、春樹~!俺と一緒に行かないか?と元気良く声をかけて来たのは、アイヌの娘、ユミ(北原三枝)だった。

牧場主で、春樹を北海道へ呼び寄せた友人である末永(磯野秋雄)も、原始林に行って、過去の夢を捨てて来い!と春樹に声をかける。

ユミが乗る幌馬車に同乗した春樹は、ユミが歌う歌に聞き惚れる。

ユミは歌が巧いねと褒めると、アイヌはみんな巧いよと答えたユミは、末永に聞いたけど、春樹は内地のメノコのことばかり考えてるんだってね?忘れてしまえ!俺が忘れさせてやるよと言うと、黒百合は恋の花~♪と又歌い始める。

幌馬車は美幌峠にやって来る。

その頃、入院した真知子を見舞いにきた義母の徳枝は、あなた、流産なさったんですってね?楽になったでしょう。身体も心も…。でも、生まれて来る人1人が、親の不注意で日の目を見れないなんて、大変なことをなさいましたね。この前、綾と言う人が安産のお守りを持ってきましたよ。後宮さんと言う人が頼んだんでしょう。後宮さんの為にも、生んであげた方が良かったのにね…などと嫌味を言って来る。

さすがに、それを聞いた真知子は、お義母様!それどう言うことですの!あんまりです!と泣きじゃくり始め、驚いた看護婦もやって来たので、徳枝は知らん振りをして宿に帰ってしまう。

真知子は看護婦に、佐渡のおばに電報を打ってください。急用あり、至急お出でを乞う…と頼む。

ある日、あさと梢が始めていた神田の果物屋に綾が立ち寄る。

その時、青い目の見覚えがある子供が店から出て行ったので、それを観た綾は、奥にいた梢に、あんた、私を覚えてない?いつか数寄屋橋で…と声をかけると、梢の方も綾と会ったことを思い出す。

私、あの時悪いこと言っちゃった。考えなしにぽんぽん言っちゃうたちなのよと梢に詫びる。

梢は、後宮さんが北海道へ行って寂しい。昨日始めて手紙が来たけど…と言い、綾は、偶然だね、みんな後宮さんの知り合いなんて…、実はあの人の姉さんは、私の所にいて、良い仕事ないかと探してるのよと打ち明ける。

不幸な方なんですねと梢が同情すると、あさが、ここで働いてもらったら?と言い出す。

梢も、そうだね、後宮さんのお姉さんですものねと賛成する。

真知子の病室に、佐渡のおば信枝(望月優子)を案内してきた徳枝は、誰がお知らせしたのか存じませんが、今日が退院日ですのよ。自分たちが温泉遊びをしたあげく子供を流産させてしまい、この頃は一切、真知子さん、口を聞いて下さいませんのよと嫌味を言う。

信枝は、お義母さんに謝りなさいと言い聞かすが、真知子は泣くばかり。

それを観た徳枝は、若い人は良いですわね。泣けばすむんですから…と又嫌味を言うと、私がいたんじゃ話せないようなら、私は宿に帰りましょうと言い残して病室を出て行く。

信枝は、電報で、大体察して出てきたんだが…と声をかけると、真知子は、私、ダメです!どうしても我慢できなくて…と又泣き始める。

宿に真知子を連れてやってきた信枝は、やって来た浜口に、お義母さんと別居してください!自分の妻があることないこと言われているのに、何も出来ないなんてでくの坊です。この世で真知子さんを守れるのはあなた一人なんですよ。こんなへそ曲がりの分からず屋を相手の親孝行も結構だが、言い聞かせるのも親孝行です。私は漁師のかみさんだが、物の道理は分かっとるつもりです!どうじゃ!どうして下さるんじゃ!離婚してくださるよりしょうがないだろうときっぱり迫る。

しかし、苦し気に聞いていた浜口は、真知子、どうして我慢してくれないんだ?と言うばかりなので、常識通りのお義母さんと思っていなさるだか?と信枝はなおも責める。

さすがに、一緒に聞いていた徳枝は激高し、出て行きたいなら、出て行ってもらったら良いじゃないですか!と浜口に言う。

浜口は、2人きりで話そうと真知子を誘い、部屋の外に出る。

後腐れないように話し合いなさいと2人を見送った信枝は、あんたも良い息子さんも持って幸せじゃのと嫌味を言い、徳枝も、あなたも立派な姪御さんを持って…と言い返す。

外の河原に出た浜口は、真知子、君は子供の為だけに帰ってきたんだね?僕の為じゃなかったんだね?と問いかける。

それに対し真知子は、私もうダメです。お義母様と別居と申しましたけど、お互いあまりにも深く傷つけあいましたからね。

僕を理解してくれないんだね?と浜口が聞くと、もう理解する気力もございませんわと真知子は呟く。

真知子、君は冷たい女になったね…と浜口が言うと、私も苦労しましたからねと真知子が言い返したので、皮肉かい?と浜口は答える。

僕がどうしても離婚に承知しなかったらどうするつもりだね?と浜口が聞くと、私をもう1度佐渡へ返してください。もう1度考えてみたいんですと真知子は頼む。

しかし、浜口は、僕は君を離さないからね。前にも行ったけど、僕は誰にも負けたくないんだ。君自身にも負けたくないんだ。それだけは忘れないでくれたまえと言い渡す。

北海道 

その日、話あるんだ、良い所に連れてってやると言いながら、春樹を幌馬車で迎えにきたのはユミだった。

ユミが春樹を連れて来たのは摩周湖だった。

摩周湖はカムイの湖と言われているんだ。ここで男と女が誓いを立てる所だ、それを破ると神様に怒られるって言うけど、そんなの迷信だろ?とユミが聞いてきたので、美しい習わしじゃないか。人間も、誓いを立てたら守らなければ行けないね。

さすが神秘の湖と言われるだけあって美しい所だ…と春樹は湖を見渡す。

そんな時、春樹は俺のこと嫌いか?とユミが聞いてきたので、嫌いじゃないさと答えると、じゃあ好きか?と言うので好きさ店と春樹は社交辞令で答える。

すると、俺、ここで春樹と誓い立てたいよ!と言いながら、突然ユミが抱きついてきたので、春樹は驚いて、止さないか!と春樹は押し返すが、ユミは、俺、春樹とカムイの湖に誓ったんだ!とユミは1人で興奮していた。

春樹はやりきれない思いで摩周湖を観る。

その後、摩周湖の側でユミが1人祈りを捧げていると、その蕎麦の木の幹に、どこからともなく飛んできたナイフが突き刺さる。

ユミは驚いてその場を逃げ去るが、そんなユミのことを、木の陰から見つめるアイヌの男がいた。

ユミとかつて誓い合ったサムロ(岸本公夫)だった。

その夜、牧場では末永が、おい、後宮、ユミの奴が、君の嫁さんになると喜んでいるぞと話してきたので、そんな話してないよと春樹は苦笑するが、北海道に言葉のアヤはないからな…、ああ言うのをもらって北海道に永住するってのも良いぞ。いつまでも真知子の事を思ってばかりいても仕方ないだろうなどと末永は言う。

そんな中、牧場の一室で鏡を見ながら嬉しそうにしていたユミは、いきなりサムロが入ってきたので驚く。

摩周湖で何してた?おめえ、摩周湖で俺と誓ったこと、忘れたのか?とサムロが詰め寄ると、あの時はあの時、俺、春樹の嫁さんになるんだぞ!帰れ!サムロなんて嫌いだ!とユミは睨みつけて来る。

ユミ、おめえ、カムイの罰、怖くねえのか?と言い残し、サムロは帰って行く。

その後、ベッドに入ったユミは何かに怯えていた。

そんな事を知らない春樹は、別室で熟睡していた。

一方、佐渡に戻る連絡船に乗っていた信枝は、連れ帰ってきた真知子に、バカな結婚したもんだ。あんた、春樹さんと結婚しない限り、幸せになれんかも…。後宮さん、どうしておられるやら…などと言葉をかけていた。

ある日、青果市場に、リヤカーを曳いて果物を仕入れにきたあさと悠起枝に、応対をしていた仁科は、加瀬田さんから話、ありませんでしたか?と言葉をかけて来る。

悠起枝がいいえと答えると、そうですか…と言いながら帰る2人をいつまでも見送っていた仁科を、はるは、仁科さん、きっと姉さん、好きなんだよ。まだ観てるもんと冷やかす。

果物やに戻った悠起枝は、加瀬田から、仁科君も戦争で奥さん亡くし、その後、男手一つで子供を育ててきたんだ。あなたになら話をしても大丈夫と思ってね。人間、倒れても、立ち直れるものですと、仁科との結婚を勧められる。

みんな少しずつ幸せになって欲しい…と加瀬田は言い添え、一緒に聞いていた梢も、姉さんが幸せになってくれると。あたいたちも希望が持てるのさと賛成する。

彼女らは、自分たちと引き比べようとしてるんですななどと加瀬田が言うと、梢はちょっと複雑な顔になる。

その頃「春日」では、綾が友人の仲居に、前に話した数寄屋橋エレジーの2人から同時に手紙が来たんだよ。

女は亭主と分かれたいって言ってるのに、男はアイヌと結婚するかも知れないってさ…、私だって、そうそう面倒見きれないからね等と言いながら、二通の手紙を畳に放るが、2通の手紙が重なりあって落ちたので、二人はいつかは結ばれるってことかね~…と綾が驚くと、友人の方は偶然だよと笑う。

そんな綾を訪ね、「春日」に悠起枝が話があるとやって来る。

結婚を勧められている話を聞いた綾は、なかなか良い話じゃないと喜ぶが、悠起枝の方は、ただ…、私のような過去を持つ女がお受けしても良いのかどうかと思いまして…と迷いを口にすると、知らん振りして結婚するんだよ。知ったって幸せになれる訳じゃないよ。どんな人だって、結婚の資格がない人なんていないよと綾は励ます。

後日、男の子を連れてきた仁科は、悠起枝ろあさを同行してきた加瀬田に、遊覧船の上で、あの方には子供はいないんでしょうな?等と確認していた。

加瀬田は、保証しますよ。しかし、仮に暗い過去を持っていたらどうします?終戦後の何年かのことを聞かれると、背筋が寒くなることがあると話す。

確かに、お互い、過去のことは聞かないのが礼儀かもしれませんと仁科も頷く。

その時、離れた所に乗っていた悠起枝に、姉さん、しばらく、何だか景気が良いみたいじゃないですか?良いカモ捕まえたらしな…等と話しかけてきたのは横山だった。

何をおっしゃりたいんですか!と驚いた悠起枝が聞くと、さぁ~、何が言いたいのかな?などと迫ってきた横山だったが、仁科の子供の手を引いていたあさが、早く行きましょうとその場から悠起枝を連れ去ろうとし、それを止めようと近づいた横山は、彼女らの背後に加瀬田がいることに気づき、思わずコートの襟で顔を隠す。

旅館に着いた悠起枝が、子供を寝かしつけて座敷に戻って来ると、加瀬田は、どうですか?お母さんになっても良いとお思いですか?と尋ねる。

悠起枝が、はあ…と答えると、加瀬田は喜び、仁科君、良かったなと語りかけ、本当に良かった、めでたい!と感激する。

そん座敷にやって来た仲居が、下で、横山さんと言う方がお待ちですと悠起枝に伝えると、それを聞いた加瀬田が、その人なら私が良く知っている人だ。私が会ってきましょうと言って部屋を出て行く。

夜の川縁で待っていた横山に会った加瀬田が、何だね?あの人に用と言うのは?と尋ねると、ご明察恐れ入りますと、横山はおどけて頭を下げてみせる。

あの人は大事な時だ。つまらんことはしないでくれと頼むと、閣下、昔は偉かったかも知れないが、それがどうしたと言うんです?あの女には元がかかっているんでね…と、急に横山は態度を変えて来る。

おい!横山!と加瀬田が睨みつけると、お!威張りましたね?読みましたよ、沖縄の密輸…と横山はからかって来る。

加瀬田は黙れ!と怒鳴りつけ、横山につかみ掛かるが、ご冗談でしょう?あんたはまだ保釈中のはずだ!と横山は振り払う。

貴様と言う奴は何故人を不幸にすることしか出来んのだ!と加瀬田は激高するが、横山は全く意に介さない素振りで、あの人に直接会ってきますよと言い立ち去ろうとするので、加瀬田はつい、貴様!と言いざま、ビンタをする。

叩かれた横山は、ひでえな、今は戦争中とは違っているんだぞ!老いぼれのくせに俺に勝てると思っているのか!などと逆襲してきたので、加瀬田はもみ合いの末、背負い投げで、横山を川に叩き込む。

しかし、すぐに、横山のことが気になり、土手から呼びかけるが返事がない。

そこに、おじさ~ん!加瀬田のおじさ~ん!とあさたちが探しに来る。

川から引き上げられた横山は怪我をしており入院、加瀬田は事情を聞かれるため、近くの警察に引っ張られる。

その警察署から出てきた仁科は、外で待っていた悠起枝に、相手の素性が良くないことは警察も分かっているらしいんですが、何せ相手は相当の怪我をしたらしく、加瀬田さんは頑として何も語ろうとはしないようだと教える。

ずっと迷っていた様子の悠起枝は、係の人に事情を話してきますと言い出したので、何か詳しい事情をご存知なんですか?と仁科は聞く。

仁科さん…、私は…、何もかも申します…、実は私…と悠起枝が口を開こうとすると、悠起枝さん、お止しなさい。加瀬田さんのために係の人に言うのは良いですが、私に言うのはお止しなさい。

実は僕は以前から知ってたんですよ。いくら私だって、そう軽率に妻を迎えませんよ。調べました。びっくりしました。でも、現在の姿を観ていたら…、過去の足跡がどうあろうと、現在の姿が清ければ、それで良いんじゃないでしょうか?結婚してくれますね?子供を可愛がってやってください。2人でもう1度、警察に行きましょう。事情を話せば、きっと釈放してくれるでしょうと仁科は言う。

そんな度量を見せた仁科の胸に、感激した悠起枝は飛び込むのだった。

同じ頃…、佐渡

信枝は、良い天気じゃ…な、又すぐ寒くなるなどと庭先から真知子に話しかけながら、手紙が来ちょったようじゃけど?と聞く。

綾さんですと真知子が答えると、何と言ってきたのかね?と聞く。

真知子は言い難そうに、後宮さんが…と説明する。

それを聞いた信枝は、まあ、北海道で結婚するって本当じゃろか?と驚く。

真知子はため息をついていた。

それにしても、勝則さん、どうするんじゃろ?あんたが又、帰って来ると思っとるんじゃろか?と信枝は首を傾げる。

その時、おじの角倉勘次(市川小太夫)が帰ってきて呼ぶ声が聞こえたので、又うるさいのが帰ってきた!全くろくな男がおらん!勝則さんのことでは?と信枝はぼやきながら夫の元へ向かう。

庭先の柿を眺めていた真知子は、その後、急に上京すると、浜口の役所に突然姿を現す。

真知子、しばらくだね?と応接室にやって来た浜口は驚いたように声をかける。

たった今、東京に着いたばかりですのと答えた真知子は、帰って来たのかね?と聞かれると、私、お願いがありますの。離婚のことなんですけど…、私、急いでおりますの!と頼む。

何故急ぐんだね?それを言いにわざわざ出て来たのかね?僕がどう言う返事をするか分かってるはずじゃないか。こんな所では出来ない、会議中だし…、今夜ゆっくり話そうじゃないかと言い残し、浜口はそそくさと出てってしまう。

一方、加瀬田は、仁科と悠起枝の結婚式にやって来る。

その時、あさが、後宮のお兄さんが来たよと言いに来る。

会場に姿を現した春樹は、しばらくぶりでした。もっと早く来たかったんですが…と言い訳をしながらも、姉さん、おめでとうと悠起枝に声をかける。

ありがとう、みんなのお陰で…と悠起枝は喜び、仁科さん、宜しくお願いしますと春樹は頭を下げる。

式の帰り、一緒の車に乗って帰っていたあさは、後宮のお兄さん、北海道で結婚するって本当?と聞いていたが、その時、銀座を通りかかったので、数寄屋橋だよ。お兄さん、東京で暮らそうよと頼む。

車が通り過ぎた数寄屋橋に立っていたのは真知子だった。

夜霧の町~♪と歌が重なる中、真知子は、川面に映るネオンを眺めながら、春樹とここで再会し、明日結婚するんです!と打ち明けた時の事を思い出し、泣き出していた。

その後、駅の待合室にやって来た真知子は、壁に貼られた大きな日本地図の北海道の部分を見つめる。

北海道

美幌駅に幌馬車でやって来たのはユミだった。

春樹が帰って来るのを毎日のように気にしていたのだ。

その日、もう汽車が来ないことを駅員に確認したユミは、いつ帰って来るんだ!といら立ちながら馬車に戻ろうとするが、牧場に戻るんなら、1人乗せて行ってくれないかと駅員に頼まれたので承知する。

幌馬車に乗り込んだのは、東京からやって来た真知子だった。

牧場へ向かう途中、ユミは真知子に、牧場に何しに行くんだい?と話しかけて来る。

後宮さんって言う人がいるはずなんですと真知子が答えると、春樹に何の用だい?と急にユミは真知子を睨んで来る。

お目にかかって、ちょっとお話したいことがあるのと真知子が答えると、お前、名前、何て言うんだい?真知子って言うんだろう?そうだろ?とユミは睨みつける。

春樹はいないよ、東京に行ってるよ。帰ってきたら、俺、春樹の嫁になるんだぞ!とユミは偉そうに教え、馬を急がせる。

そして、おっかないか?ユミは平気だぞ!と言うと、さらに馬を急がせるのだった。

一方、浜口を訪ねて来た局長は、その後別居してるんだってねと聞いて来る。

出たり入ったり困った女なんですよと徳枝も呆れたように説明する。

すると、局長は、会ったんだよ、函館で…と言い出したので、驚いた浜口は、局長、それは本当でしょうか?と聞き返す。

ご存知ですか?北海道にはあの女の前のがいるんですと徳枝が告げ口すると、気の毒に、泣いとったぞと局長が言うと、あの女は泣いて脅かすんですと、又、徳枝が口を挟む。

一方的な話だけでは、僕も片○落ちになるんで…と局長が判断に迷うと、うちの中の恥をお見せしてしまって…と徳枝は恐縮してみせる。

早く離婚してしまえば良いのに…、北海道に何しに行ったか分かるでしょう?あの男の所に戻ったんですよ。恐ろしい女だこと…と徳枝は浜口に言い聞かせる。

それまで黙っていた浜口は、局長、真知子の事は自分で解決しますと告げる。

その後、榊原法律事務所に何者かがやって来る。

その頃、北海道の牧場にいたユミを、祭りの日だからと言い、迎えにきたのは、ユミの母親とサムロだった。

ユミ!おめえ、このサムロをどうするつもりだ?と母親が聞くと、あの人を待ってるんだ!とユミは答える。

せっかくの休みだ、帰るんだ!といくら末永が言い聞かせても、俺、春樹が帰って来るまで、ここを動かない!とユミも頑として言うことを聞かない。

ユミは、窓辺に佇む真知子の姿を観て、ニシパ、あの女が来たんで、帰れって言うんだろ?春樹と分かれたら、俺死んじゃうよ!とユミは言い張る。

ユミ!そんな聞き分けのないこと言わないで、今夜は帰れ!と末永は叱りつけ、母とサムロが抱えて連れ帰ったので、いや~!とユミは絶叫する。

真知子の元に戻って来た末永は、いや~、驚いたでしょう?北海道は荒っぽいのが多いから…と言い訳する。

私、来ては行けませんでしたのね…と真知子が沈み込むと、あの子のためにはね…と答えた末永は、でも、後宮の為にはどうか分かりませんよ。奴は明日帰ってきますと慰める。

そこに自転車でやって来たのは、地元の警官の本田だった。

隣の牧場の牛が一頭いなくなったので探している所だ。コタンの祭りでも見学に出かけたんでしょうなどと冗談を言っていたが、真知子に気づくと、お客さんですな。そうそう、浜口真知子って方の調査依頼があったもんですから…と言いながら、手帳に何か書き込みながら帰って行く。

翌朝、アイヌの家にいたユミの母親は、どうしても停車場に行くか?サムロだけではなく、カムイの湖騙したらどうなるか?お前、カムイのバチが恐ろしくないのか?と叱りつけるが、俺、カムイより春樹の方が好きだとユミは言うばかり。

あの人は末永のニシパの大事な人だ。お前はコタンの娘だ。コタンのものはコタンのものと一緒になるんだと母親は言い聞かすが、嫌だ!俺はあの内地の女に負けたくないんだ!と言い捨てると、ユミは幌馬車で駅に向かう。

後に残った母親は、サムロ、俺は何だか恐ろしいことが起きるような気がしてな…と怯える。

美幌駅

駅のホームで待っていたユミは、列車が到着し、春樹が降りて来ると、春樹~!と呼びかけながら近寄る。

ユミの姿を観た春樹は、嬉しそうに、迎えに来てくれたのかい?と語りかけるが、その時、ユミの背後に立っている真知子の姿を観て愕然とする。

一緒に駅に来ていた末永が、後宮、この間から見えていたんだよと教える。

スカーフを顔に巻いた真知子の側に近寄った春樹は、どうしてこんな所に…と聞く。

私…、お会いしたかっただけなんですと真知子が答えると、じゃあ、行きましょうかと春樹は誘うが、背後に取り残され、睨んでいるユミに気づくと、土産を買って来たんだと、思い出したように紙包みを渡し、今日はお客さんがいるんで、ユミは1人で帰ってくれと頼む。

末永の馬車で、春樹と真知子が牧場に向かうのを見送ったユミに近づいて来たのはサムロだった。

観ろ!とサムロは、遠ざかって行く幌馬車の方を観ながら言う。

その夜は、アイヌのコタンの祭りだった。

日を囲んで踊るアイヌの中、1人、林の中で、春樹からもらった土産の化粧箱を手に思い詰めていたのはユミだった。

白樺林の中で会っていた春樹は真知子に、僕はこの地であなたを忘れ、居着こうと思っていましたと打ち明ける。

あのユミと言う子と、無理に結婚しようと思っていたんですが…、危うく僕は永久にあなたを失ってしまう所でした。良く来てくれましたと感謝する。

矢も盾もたまらなくなってきたんですが、こうしてあなたにお目にかかれて、本当に良かったと思いますわと真知子も感激していた。

ここは北の果て…、こんな地の果てでしか、僕たちは会えないんでしょうかねと春樹は嘆く。

後宮さん!と真知子が抱きつこうとした時、近くの草むらに化粧箱を投げつけて来たのはユミだった。

その場を逃げ出したユミは馬で摩周湖に来ると、湖畔で泣き崩れる。

春樹への想いに焦がれ、草地を転がりながら嘆くユミ。

そこにサムロがやって来たので、サムロ!俺、悪かった…。サムロにも神様にも噓ついて悪かったよと詫びるユミに、もう内地のことは忘れろとサムロは優しく言い聞かす。

しかし、ユミは、俺は神様の罰が当たったんだ!もう村には帰れないんだ!俺、春樹が好きなんだよ!サムロ!俺…と言ったかと想うと、そのまま崖から湖に身を投げる。

驚いたサムロも、後を追うように湖に飛び込む。

その夜、ユミとサムロの姿を求めて、村中の人間たちが松明を片手に探しまわる。

翌朝、後宮と共に牧場に戻って来た末永は、待っていた真知子に、ダメです。一度沈んだら、絶対浮かび上がらない湖ですから…と説明すると、後宮、疲れただろう?すぐ湯を沸かすから…と言って奥へと消える。

苦悩する春樹と真知子。

やっぱり、私が…、私が来たのが行けなかったんです。大変な罪作りをしてしまって…と悔む真知子。

春樹も、僕が悪かったんだ…、ユミの心を偽った僕が…と落ち込む。

そんな後宮を呼び寄せた末永は、真知子さんの所にこんな手紙が…と言いながら渡すと、裁判所からの出頭命令じゃないかと聞く。

その手紙を真知子に差し出しながら、濱口さんが同居請求を出されたんですと春樹は教え、あくまでも、あなたの離婚を許さないつもりなんですねと嘆息する。

とにかく、あなたは東京にお帰りにならなくては行けない。裁判所命令ですからね。僕も、ユミの後始末をして東京に戻ります。すべてはそれからです…と春樹は言う。

せっかく遠い所まで来てくれたのに、こんなことを言うのは辛い。僕たちは、間違わないで、正しく生きましょう。僕たちにどんな不幸が続こうと、美しい心を持っていれば必ず巡り会えます。その時を待ちましょう…そう続けた春樹は、窓の外に雪が舞い始めたことに気づく。

いつしか真知子は泣き出していた。

翌朝、雪が舞う駅に、傘をさしかけながら真知子を見送りに来た春樹は、どんなことがあっても、絶望しないでねと声をかける。

こんなみじめなお別れをするために、こんな所へ来たんじゃございませんでしたのに…、後宮さん!帰りたくない!と真知子が哀しむと、僕だって帰したくない!と春樹は答える。

しかし、列車が到着すると、後宮さん、帰ります!と真知子は告げる。

真知子さん!

後宮さん、私たち、又お目にかかれるんですわね?何だか二度とお会いできないような気がして…と言いながら、列車に乗り込む真知子。

真知子さん!元気出しましょう!と春樹が呼びかけると、ええと真知子は答え、その時、列車の汽笛が響き渡る。

じゃあ、気をつけてね!と声をかける春樹。

あなたもお大事にね…と答える真知子。

列車は出発する。

(歌が重なる中)こうして、真知子と春樹は、再び悲しい別れをしなければならなかった。(と文字が出る)

君の名は 第二部 終