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鐘の鳴る丘 隆太の巻

人気ラジオドラマの映画化作品で、3部作の1作目に当たる。

作品タイトルと主題歌には聞き覚えはあるものの、さすがにラジオドラマを聞いていた世代ではないので、内容に関しては全く知らなかった。

戦後、増えて来たこの手のラジオやテレビドラマの映画化の初期の頃の作品だと思う。

元々の原作ドラマが人気があったくらいだから、やはりストーリー展開は面白い。

さすがに今観ると、観客をハラハラ(…と言うか、実はイライラなのだが)させるために、会うべき2人が、劇中でいかにもわざとらしくすれ違うパターンや子供を意識した説教臭いセリフなど、古くさい演出も目立つのだが、低予算なりに波瀾万丈感はある。

戦後、日本中に、親を亡くした戦災孤児が溢れていた時代が背景になっており、彼らが毎日、食べ物も住まいもなく、互いに群れあって獣同然の暮らしをしていた様子が、フィクションながら伺い知れる。

子供が平然とタバコを吸っていたりする様子も、当時の記録フィルムに残っており、この作品の冒頭にも登場している。

今観ても、何ともやりきれない気持ちにさせる光景である。

当時の大人たちも、こうした子供たちに何の手も差し伸べてやれなかったと言うのが辛いが、みんな貧しく、自分たちが生き抜くだけで精一杯の時代だったのだろう。

主人公修平は、戦争から帰ってみると、弟は感化院から脱走しており、その弟を探す途中で、悲惨な浮浪児たちの現状を目の当たりにし、自分で彼らが住める家を作ろうと立ち上がる…と言う発端である。

この時代特有の理想主義的な内容ではあるが、時代背景を考えると、こうしたドラマが当時の大衆の支持を得たのも頷ける気がする。

冒頭に献辞が捧げられている「フラナガン神父」とは、「赤い羽根助け合い共同募金」や「少年の町」を作ったことで知られるエドワード・ジョゼフ・フラナガン氏の事であろう。

作られた時代が時代だけに、登場している役者たちも全員若い。

主役を演じている佐田啓二は、痩せた甘いマスクで、いかにも子供たち思いで優しそうな青年を好演している。

その主役を助ける婆や役の飯田蝶子も、「若大将シリーズ」の頃に比べるとはるかに若い。

当時はまだ、老婆と言う感じではないが、入れ歯を外して老け役を演じているように見える。

叔父の家の長男役を演じているのは、何と江原達怡らしいが、まだ、小学生くらいの子役であり、全く気づかなかった。

分からないと言えば、殺人強盗犯立花を演じているおじさんも、最初は誰だか分からないが、しゃべり始めると、笠智衆だと気づく。

笠智衆は、戦前の「人妻椿」(1936)などでも悪役を演じているが、本作では子供には優しい極悪犯と言う特殊な役を演じており、天井にしがみついたりと、アクションめいたことまでやっている。

ラストはあっけないような気もするが、かなり印象的な役どころではある。

最初の方の食堂の主人役として、いかにもコント風の悪人メイクで登場している山路義人と言う人も、有名な悪役らしい。

子供向けの映画にはうってつけの「分かり易い記号化された悪役」だったのだろう。

列車の車窓などにスクリーンプロセスが使われていたり、トラックが崖から落ちるシーンがミニチュア特撮になっていたりするが、銀座や新橋界隈の様子はロケで撮っているように見える。

ラストの修吉が路面電車を松葉杖を使い追いかけ、途中で転ぶ所などは、和光時計台の位置から推測して、今の東銀座辺り…、つまり、今、歌舞伎座や松竹本社がある辺りのすぐ近くではないだろうか?

新宿駅なども登場するし、戦後間もない頃の東京の姿を知る資料的な価値もあるのではないだろうか。

3部作の映画だけに、残りの2本もぜひとも観てみたいが、なかなか観るチャンスがない映画であるのが悔しい。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1948年、松竹、菊田一夫原作、斎藤良輔脚色、佐々木啓祐監督作品。

花束が回る地球の上に浮かんでいる会社ロゴ

この作品を、フラナガン神父に捧ぐ…のテロップ

戦後、東京には大勢の浮浪児がいた。

町が彼らの住処である。

親を亡くした彼らは、腹が空くとかっぱらいをして食う。

まるで虫けらのような生活を送っていた。

この物語は、昭和21年、夏も終わり頃に始まる。(…と、当時の浮浪児たちを写した記録フィルムにナレーション)

新橋駅前に降り立った1人の青年、賀々見修平(佐田啓二)は、通りすがりの勤め人を呼び止め、この辺に浮浪児がたくさん集まっている所をご存知ありませんか?と聞く。

聞かれた勤め人は、浮浪児ならその辺にいくらでもいるじゃないか。ほらあそこにも。そら!今、あの子はかっぱらいをした!と周囲を指差してみせる。

確かに、駅前のあちこちに、タバコを吸ったりする浮浪児の群れがいくつもあった。

修平は、実は弟を捜しているんです。

感化院に入っていたのが逃げ出してしまいまして…。それで、今、弟が浮浪児の仲間になっているのではないかと思って自分は信州の田舎から出て来たんですが…、弟は賀々見修吉(本尾正幸)と言い、14になるんです…と説明すると、勤め人は大変だね~と同情して立ち去って行く。

取りあえず、修平が一番近くにたむろしていた子供たちに近づいてみると、子供たちはモクをくれよと煙草をねだり出す。

僕はタバコを吸わないんだと断り、弟のことを聞こうとするが、その時突然、持っていたバッグを1人の浮浪児にかっぱらわれてしまう。

驚いて追いかける修平。

川っぷちに来た浮浪児の少年は、もう逃げ切れないと悟ったのか、盗んだバッグを修平に投げつけ、殴るのか?!と粋がる。

お前名前は?と修平が聞くと、新橋の隆太(野坂頼明)と言い、子分は100人も200人もいるんだなどとうそぶく。

年はいくつだ?と聞くと、14だと言うので、修吉と同じか…と嘆息した修平は、どうしてこんなことをするんだ?と聞く。

すると、隆太は、腹が減っているんだと言うので、君には親はいないのか?兄さんや姉さんは?と聞くと、そんなものいらねえ!と隆太は突っぱねる。

1人ぽっちなんだね?と同情した修平は、僕と一緒に来たまえと誘い歩き出したので、隆太は戸惑いながら立ち上がると、あんちゃん、サツはこっちだぜと反対方向を指差すが、君は逃げたかったら逃げても良いだぜと修平は苦笑する。

すると隆太は、縛らないから逃げないんだ。俺の顔が潰れる…、張り合いがないよなどと、奇妙な理屈で答え、急に修平につかみ掛かって来る。

止せよ!と良太をはねのけた修平は、一緒に食堂に行って食べよう。僕も昼飯前なんだと誘う。

しかし、外食券食堂「巴屋」と言う店に来ると、店主が、ダメだよ、こんな汚いの連れ込んじゃ!うちじゃ、浮浪児やコ○キは相手にしてないんだなどと入口で断って来る。

修平は、金は僕が払うし、ここでまずいのなら、台所でも良いんだ!食べさせてやってくれないかと頼むが、他の客たちも、飯がまずくなるから追い出せなどと言い出したので、それまで悔しそうに話を聞いていた隆太は、思わず、店の勘定場に置いてあった札束を引っ掴んで逃げ出してしまう。

驚いた修平はその後を追うが、店の主人も追いかけて来て、修平の方を捕まえてしまう。

そして、お前は浮浪児を使った新手のこそ泥だろう!などと言い出し、そのまま警察へ連れて行こうとする。

その近くの物陰に身を潜めていた隆太は、その様子をじっと眺めていた。

その夜、隆太は、警察の前の物陰で1人で夜を過ごしていたが、そこに近づいて来た2人の浮浪児がその姿に気づき、小さい方の少年謙一(小野寺薫)が、修吉兄ちゃん、あそこに変なのがいると指差して来る。

隆太が立ちはだかり粋がってみせると、小さい方の浮浪児も、俺だって、修吉兄ちゃん、感化院から出て来たんだ!と威張ってみせる。

隆太も負けまいと、俺も兄ちゃん待ってるんだ。俺が食堂の鐘を盗んだんで、その兄ちゃんが警察に連れて行かれたんだ。すげえ良い兄ちゃんなんだぞと威張ってみせる。

すると、修吉も、俺にも兄ちゃんがいるぞ。ずっと前に戦争に行ったんだ。良い兄ちゃんだ!と見栄を張るので、俺、食堂に金を投げ返して来たんだ!と隆太も自慢げに言うが、それを聞いた修吉は、何だ、本当の兄ちゃんじゃないのかとバカにしたように言い捨てので、隆太はちょっとしょげながらも、お前たち、今夜はここで泊まってけよ。そして、俺の兄ちゃんに会って行けよ。とても良い兄ちゃんだぞと誘う。

しかし、修吉は謙一に、汽車に乗ろう。そして田舎に帰ろう。兄ちゃん、戦地から帰っているかもしれないと言い、そのまま停車場に向かって歩き出したので、後に残された隆太は、おい泊まってけよ!さみしいじゃねえか!と呼びかけ、悔しそうに石を投げつけるのだった。

翌朝、警察署から出て来た修平の背後から近づいた隆太は、兄ちゃん、新橋の隆太だよ。昨日はごめんねと謝って来る。

俺、昨日かっぱらって来た金、返して来たよ…、そしたら、兄ちゃん、許してもらえるって思ったんだ。あんちゃん、俺がカバンを取っても、殴らなかったじゃないか。食堂へ連れて行ってくれたじゃないか。そんな大人に会ったの、初めてだったんだ。あんちゃん、怒ってないかい?と隆太が言うので、怒ってないよ。君は良い子だと修平が褒めると、お世辞言うない!と照れくさそうに隆太は笑う。

さらに隆太は、俺たちの塒に来ないかい?芝浦の倉庫の軒下に寝ているんだよと隆太がいるので、そんな所で寝て病気にならないかい?と修平が驚くと、ならないよ。でも、冬の間に2人死んだよ。朝死んでたんだ。死ぬって、案外、何でもないねなどと言う始末。

その時、タレコミだ!と叫び声が聞こえ、追いかけて来る警官から逃げて来た浮浪児の一団とすれ違う。

隆太と修平は、近くに身を潜めてみていたが、川に浮かんだ舟の上に逃げ込んだ浮浪児たちが、次々に捕まっていた。

修平は、悔しそうに唇を噛み締めて観ていたが、気がつくと、修平は側に腰掛け、隆太君、相談があるんだ呼び掛け、自分の横に座らせる。

僕と一緒に信州の日本アルプスの麓に行って、仕事を手伝ってくれないか?今はおじさんの家を手伝っているんだが、丘の上に土地を持っているので、そこに家を建てたいと思っているんだ。君たちの家だ。夕べも一晩中考えたんだよ。感化院に勤める人がもっと優しかったら…、弟も逃げ出さなかったかもしれない…と修平は悔む。

そんな話を聞いていた隆太は、あんちゃんの弟は感化院にいたのかい?そう言えば、夕べ、感化院を出て来たと言う子に会ったよ、警察の前で…と言い出したので、その子の名前は?と、驚いた修平は聞いて来るが、覚えてねえな〜…、忘れちゃったと隆太は言う。

その頃、とある列車の中で切符の点検をしていた車掌は、客席の下に潜り込んで寝ていた修吉と謙一の2人に気づき、引っ張り出す。

客たちは、上野からずっと乗ってたよと証言したので、車掌がどこまで行く気だったんだ?と問いつめると、修吉は、信州だ。兄ちゃんに会いに行くんだ!と答えるが、車掌は、この記者は青森行きだと呆れたように教える。

その途端、車掌の手を振り払った修吉は、警察に行くと、感化院に入れられる!と暴れながら客車の中を走り抜けと、いきなり窓から外へ飛び出そうとする。

車掌は、そんな修吉を何とか掴んで戻そうとするが、修吉は、列車が鉄橋に差し掛かった時、石河原に飛び降りてしまう。

列車が通り過ぎた後、左足に大怪我をした修吉は、苦しみながらも何とか這いずって逃げようとする。

しかし、途中で力尽きた修吉は、兄さ〜ん!と叫んでその場で泣き出してしまうのだった。

修平はその夜、隆太の塒である芝浦の倉庫の軒下に来て、仲間の浮浪児たち俊次(前田正二)留男(芝田幸雄)謙一(小野寺薫)みどり(伊藤和子)らと会っていた。

隆太は、俺が今日お前たちにごちそうするのは、俺が仁義を切ったんだ。俺はこの修平兄ちゃんと一緒に行くんだと田舎に行くことを打ち明けていた。

しかし、それを聞いた仲間たちは、みんな行かないでくれと言い出す。

それを聞いた隆太は、兄ちゃん、俺、やっぱり行かない。俺はみんなの親分なんだよと修平に断って来る。

君たちが寂しがるのは良く分かるけど、ここは倉庫の下なんだよと修平が言って聞かすと、家がないから仕方ないじゃないかと仲間が答える。

かっぱらいは悪いことなんだよと教え聞かせても、腹が減ってるんだよ。ご飯食べないと死んじゃうよ。友達が雪の日、何も食べないで死んじゃったよと言って来る。

みんな、かっぱらいなんかしないでも、食べて行ける方法を考えようじゃないか。君たちは大きくなったら何になるんだい?普通の子供は夢を持っているものだよ?と修平が問いかけると、仲間たちは口々に、パン屋さん、ご飯屋さん…などと食べ物関係の店をやりたいと言う中、紅一点のみどりだけは、あたい、おもちゃ屋さんになるわと答える。

修平は、このままだったら、一生浮浪児でも良いのかい?と聞くと、隆太は、俺やっぱり、兄ちゃんと田舎行くよと言い出す。

みんなで相談してごらん。僕はその辺を散歩して来るからと言い残し、修平がその場を離れると、最初は、隆太が田舎に行くのに反対していた子たちも、徐々に、待っていても良いかな…と意見が変化して来る。

でも、一番年下のみどりが泣き出し、それに合わせるかのようにみんなも泣き出してしまう。

そんな中、1人の子がハーモニカを吹いてみんなを励まそうとする。

翌日、新宿駅の4番線松本行きの列車に乗り込んだ修平と隆太であったが、隆太は何故か浮かない顔で、兄ちゃん、俺、卑怯者じゃないかい?みんなを置いて来てしまって…と言うので、隆太君、君は楽をしに行くんじゃないんだよ。僕と一緒に苦しみに行くんだ。決して卑怯者じゃないよと修平は言って聞かせる。

やがて、列車が出発するが、隆太は、駅構内に入り込み、手を振って見送りに来ていた俊次たちに気づき、修平と共に手を振りかえす。

兄ちゃん、俺、働くよ!一生懸命働くよ!兄ちゃんの弟が田舎に帰っていたら、俺子分になるよなどと隆太が言い出したので、親分だの子分なの、そんな言葉、使うんじゃないよと修平は優しく教えるのだった。

その頃、岩手県立水沢病院から、男に背負われて出て来たのは、修平の弟、修吉だった。

おじさん、俺、ビ○コになるのかい?お医者さん、首振ってたじゃないか?と背中で聞くと、そのおじさんは、医者だって分かるもんかいと慰める。

おじさんの弟がビ○コだったら。おじさん、笑うかい?と又、修吉が聞くと、笑わねえよとおじさんは言ってくれるが、俺の足を観たら、修平兄さん、きっと怒るよと修吉が案ずるので、兄ちゃんどこにいるんだ?とおじさんは聞く。

信州だよ。だけど、兵隊から帰って来たかどうか分からないと修吉は教える。

おじさんも、親も兄弟もいない1人ぽっちなんだよ。一緒に暮らさないか?と途中で休憩して、腰を降ろしたおじさんが聞いて来る。

おじさんも寂しいんだよ。子供のときから1人ぽっちななので…と言うと、そのおじさんは、あそこに、世界に6つしかないと言う緯度観測所が見えると指差す。

そこには、大村栄博士の肖像画が飾ってあった。

おじさんは、何をやって金儲けしているの?おじさんは何している人なの?と修吉が聞くと、そんなことどうだっていいじゃないかとごまかしていたおじさんだったが、小さい頃から酷い目に遭って暮らして来たんだ。石炭屋だよなどと言う。

しかし、その足下に落ちていた新聞には、「恐怖の夜、盛岡」「強盗犯人」の記事が載っていた。

日本アルプス

修平と隆太は、馬車にゆられて、手兵の叔父の家である賀々見勘造(井上正夫)の家にやって来る。

婆やのしの(飯田蝶子)は隆太に、茶を出してくれたが、座敷では、叔父の勘造が、修平が連れて来た隆太を浮浪児と見抜き、家には子供もいるので、あんなのに感化されたらえらいことになると文句を言っていた。

修吉も家に置いていられない。ありゃ不良だ。お前は修吉をわしが感化院に入れたのが不服なのか?お前らには親がないから面倒見たのに!と言い聞かせようとする勘造。

修平が、修吉は感化院を脱走しましたと報告すると、俺に謝れとでも言うのか!と勘造は逆上したので、横で話を聞いていた勘造の妻のかね(英百合子)は、両者を取りなそうと、修平に謝んなさいとなだめる。

しかし、修平も、もう少し導いてやって欲しかった。私は修吉を諦めることが出来ないんです!と言うだけで折れようとしない。

第二、第三の修吉を作らないためにも、お父さんにもらった丘の上の土地を耕して、浮浪児が住める家を建てるつもりですと修平が決意を述べると、お前には家の仕事を手伝ってもらうつもりでいたのだが…と勘造は不平を漏らす。

そんな2人の話を隣の部屋でじっと聞いていた隆太は、たまらなくなって屋敷を飛び出すと、表札に向かって石を投げながら、こんな所に住むもんか!と叫ぶが、その時、背後に近づいて来たのは、勘造の息子の昌夫(江原達怡)と姉まき子(大塚とみ子)だった。

君は誰だい?ここは僕んちだよ。何故、石なんか投げるんだい?あっちへ行けよ!と隆太に文句を言って来たので、僕は修平さんについて来たんだと隆太が説明すると、修平さんは分家の子ですよ。あんたなんか知らないわ…とまき子も冷たい返事をして来る。

さらに、昌夫が石を隆太の顔にぶつけて来たので、隆太はさすがに耐えかね、相手に飛びついて行く。

驚いた昌夫とまき子は、大きな声を上げならが門前で家人を呼んだので、下男の源吉(山路義人)が飛び出して来て、隆太を投げ飛ばす。

騒ぎに気づいて出て来た修平は驚き、興奮状態になっている隆太をなだめようとする。

源吉は、門前で喧嘩をするなんてと修平を睨んで来るし、母親のかねにしがみついた昌夫は、僕、何もしてないのに…と嘘をついたので、それを聞いたかねも、家の昌夫は一度も喧嘩をしたことないのよと、冷たい目線で修平を睨みつけて来る。

隆太は、石を投げたんだ!兄ちゃん、俺は何もしてないんだ!と抗議するが、修平は、そんな隆太に、乱暴するのは良くないんだと優しく言い聞かせる。

隆太は、こんな家いたくない!東京に帰るんだ!とだだをこね始めたので、又浮浪児になるのかい?君は僕の助手じゃなかったのか?みんなを迎えに行くんだったんじゃないのか?と修平が諌めると、隆太は悔しさから泣き出してしまう。

兄ちゃん、ごめんよ、俺もう乱暴しないよと隆太が冷静さを取り戻すと、修平は、丘の上に行こう!と良太を誘う。

丘に登って来た修平は、どうだ、良い所だろう。ここが君と僕と、東京に残っているあの子たちの物だよと言い聞かせる。

すると隆太は、東京はどっちだい?と聞くので、あっちの方かな?と大体の方角を指すと、ケン坊!俊次!留夫!みどり〜!と大声で、東京に残っている仲間たちの名を呼びかけるのだった。

その深夜、盛岡の旅館に土砂降りの雨の中やって来たのは、刑事3人だった。

応対に出て来た女将に、立花と言う男が泊まっているはずだが?と聞くと、頷いた女将は、その部屋の前まで刑事たちを案内する。

障子を開けた刑事が目にしたのは、寝ている修吉の姿だけで、その隣に敷かれた布団は無人だった。

立花はいつも遅いのか?と刑事が聞くと、立花さんはいつも貨車の所でなんか打ち合わせがあるとかで、いつも明け方にならないと戻らないと言う。

修吉が目を覚ますと、お前、あの大泥棒と一緒なのか?あいつは殺人強盗犯だぞ!と刑事は脅して来る。

驚いた修吉が起き上がろうと布団をはねのけると、右足に包帯を巻いているのを見られ、お前、足を怪我してるな?どうしたんだ?とさらに刑事から突っ込まれる。

しかし、肝心の立花がいないと判断した刑事は、一旦部屋から離れて行く。

部屋の窓を開けて外を観た修吉は、雨の中、警官たちが慌ただしく、路上を行き来しているのが見えた。

その直後、天井裏から部屋に降りて来たのは、あの優しいおじさん、実は殺人強盗犯立花(笠智衆)だった。

おい、逃げるんだ!と声をかけて来た立花に、おじさん、泥棒じゃないよね?と問いかける修吉。

お前も一緒に逃げるんだ。林の中にトラックが隠してあるとだけ立花は答えるが、おじさんは好きだけど、泥棒は嫌だよ!泥棒すると、修平に兄さんに会えないんだと抵抗する修吉。

すると立花は、俺がお前を見つけなかったら、死んでいたかもしれないんだぞと、石河原で助けたことを恩着せがましく言い出した立花は、俺も孤独なんだ…と表情を曇らせる。

そんな立花の顔を見ていた修吉は、俺、おじさんと一緒に行くよ!だから、泥棒は止めてよ!と言いながら立花に抱きついて来る。

俺は捕まったら、死刑か、一生監獄から出られないんだ…と告白した立花に、おじさん、良い人じゃないか!泥棒止めろよ!と迫る修吉。

坊主、お前、本当におじさんが好きか?と聞いた立花は、お前は田舎に帰れ!修平兄さんの所へ帰れ!ここにお金がある。歩けるようになったらこれで帰るんだと言い出す。

俺は昔、ある店の丁稚をしていたら、そこの店の子供が俺のことを親なし子とバカにしたんで、そいつのナイフを盗んでやったんだ。

それが悪いことに手を染めた初めだった…と打ち明けた立花は、胸から下げていた鎖付きのナイフを外すと、それを修吉に授け、これからどんなに哀しくても苦しくても、このナイフを観て我慢するんだ。本当におじさんを好きなら、言うことを聞いてくれよと言い聞かせた立花は、廊下に足音が聞こえたので、又急いで天井裏に逃げ込む。

その直後、さっきの刑事たちが障子を開け、天井裏に逃げた立花の姿を目撃、窓から呼子を吹く。

土砂降りの雨の中、1台のトラックが走り出す。

その背後から警官たちが発砲する。

トラックを運転していたのは立花だった。

やがて、山道に差し掛かったトラックは、ハンドルを切り損ね、崖から転落してしまう。

雨の中、運転席から放り出された立花の手が、少し地面をかきむしるように動くが、すぐに止まってしまう。

ある朝の穂高駅

駅前の交番を訪ねて来たのは修平だった。

14歳くらいの子供が駅に来なかったか?実は夕べ、教育のことで叔父と口論していたら、それをどう聞いたのか、家を逃げ出してしまったと説明すると、応対に出て来た警官は、東京から来た浮浪児ではないか?それなら夕べ、町長の秦野さんの家に泥棒に入ったよと言うではないか。

驚いて、町長の秦野豊(菅井一郎)の屋敷に出向いた修平だったが、妻芳枝(平野郁子)と共に出迎えた秦野が言うには、その子は飯を食いにに入ったんだ。こそ泥はあんたに会いに来たと言っていたと言い、芳枝は、名前は俊次だって行ってましたと言うではないか。

東京に残して来たあの俊次の事に違いなかった。

あんたが浮浪児を集めようとしているのに、町として排撃してくれって、あんたのおじさんは言って来たなとも秦野は教える。

子供たちのためなら、どんなことでもしてやりたいんですと修平が答えると、まるで夢のような話だな…と答えた秦野だが、家に帰ってごらん。その子はもう戻っておることだろうと言ってくれたので、修平は礼を言って、取りあえず帰ることにする。

そんな修平を見送りながら、浮浪児が増えると困りますねと芳枝は案ずるが、秦野の方は、しかし、夢を持っていることは貴いよと言い聞かせる。

その頃、丘の上に上がって来ていた秦野の娘由利江(高杉妙子)は、そこに、俊二と共にいたしのから、修平さんはもう家には帰りはしなさらん。夕べの旦那様との言い争いは、それはとても激しいものでしたから…と教えられる。

修平さんは、この丘を開墾して、家を建て、東京から浮浪児をたくさん呼ぼうとしていなさるのだが、旦那様は、そんな浮浪児のクセが村の子供にうつったら大変だと猛反対されて…、それは凄い喧嘩だったと言う。

それを聞いた由利江は、坊や、あそこに白樺の木があるでしょう?と俊二に話しかけ、その上に枝を乗せて…と言い出したので、しのは、お嬢さん!あんた、居場所を作りなさるおつもりか!本当に修平さんのために…と驚き、感激すると、すみません、お嬢さん!修平さんがどんなに喜ぶことか…。私も藁をもらいに行きましょうと丘を降りかけた時、下から登って来る修平の姿を見つける。

修平さ〜ん!と出迎えた俊二と無事再会した修平に、しのが、お嬢さんが修平さんのために家を作るんだって…と教えると、由利江は恥ずかしそうに、小屋ですよと訂正する。

修平は俊二に、君、泥棒したそうだな?と問いかけると、だって、腹が減ったんだよ…と俊二はうつむくが、隆太兄ちゃんは?と聞いて来る。

それが、夕べから家を飛び出して、どっかに行ってしまったんだと修平が答えると、急に激高した俊二は、兄ちゃん、俺は隆太兄ちゃんに会いに来たんだ!だからあれほど行かしたくないって行ったじゃないか!隆太兄ちゃんは俺たちの親分だぞ!と言いながらむしゃぶりついて来る。

修平が、僕を信用しないのか?と哀し気な目で訴えると、俊二は怒りが収まらないのか、修平の身体に挑みかかって来たので、修平は、止さないかと投げ飛ばし、すぐに、乱暴してすまなかった…と詫びる。

俊二は、会いてえんだよ!みどりが…、病気になっちゃって、大人に捕まっちゃったんだ。俺、2日も飯を食わず飛んで来たんだよと訴える。

それを聞いた修平は、良く知らせてくれた。これから隆太を一緒に探そうと修平は頼む。

その頃、当の隆太は、林の中をうろついていた。

隆太は、何かに絶望したような表情になっており、俺んか、死んじゃえば良いんだ!死んじゃえ!とわめいて倒れる。

そんな林の中にやって来たのは、山の案内人の息子龍太(深沢博夫)だった。

先を歩いていた龍太は何かを見つけ、驚いたように立ち止まると、お父!子供が死んでるよ!と後ろからやって来た山の案内人泉沢万次(山口勇)に声をかける。

その言葉に驚いて、万次が前に出てみると、確かに子供が倒れている。

抱きかかえてみると、まだ息があったので、龍太に沢で水を汲みに行かせる。

その直後、目覚めた隆太は、目の前に迫っていた万次の顔を見て驚き、お前、何だ?クマか?と聞くので、万次は、バカ言え、立派な人間で、万次と言う山の案内人だと教える。

俺なんか、死んだ方が良いんだと隆太が呟くと、人間、一度死んだらお終いだ。お前は何と言う名前だと万次が聞くので、隆太だと答えると、俺の倅も龍太だ。同じ名前か…、嫌な野郎だと言いながら万次は笑う。

そこに戻って来た龍太は、水ではなく、大きな鐘を下げており、沢に降りたら、大きな岩の下に鐘があったよと言うので、ずっと前、夏中、子供らがテントを張っていたから、その時忘れて行ったんだろうと思い出した万次が、水は?と聞くと、忘れた!と言うので、もう良い!こいつは水より、飯の方が良さそうだと言いながら、隆太を抱きかかえる。

その頃、修平の叔父、賀々見勘造は、村のもの売りたちに、丘の上の者に売ってはならんと言いつけていた。

村の実力者である勘造に楯突いてはまずいとばかり、その噂はたちまち村中に広まる。

丘の上には、俊二たちが住む小屋が出来ていたが、村から戻って来た修平は、そこにいたしのに、村ではどこでも食料を売ってもらえない。俊二には可哀想に、昨日も1食しか食べさせていないんだと打ち明ける。

旦那様は、浮浪児を東京に帰したいのだろうとしのが推測すると、そんな非道な話が…と修平は絶句する。

その時、俊二が、兄ちゃん!隆太兄ちゃんが帰って来たよ!と叫び出す。

確かに、隆太が、鐘を手に持った見知らぬ子供と一緒に上がって来たではないか。

俊二は喜び、兄ちゃんいないうちに、畑も家も出来たよと隆太に駆け寄って教える。

金を持っていた龍太は、いぶかし気な顔で観ていた修平たちに、山の案内人の子だよと自己紹介する。

隆太は修平の前に来ると、兄ちゃん、ごめんよ…、俺、死のうと考えたんだよ。だって、俺のために、兄ちゃん、いつも酷い目に遭ってるじゃないか。留置場に入れられたり、家を追い出されたり…と詫びる。

それを聞いた修平は、人間、一度生まれたら、最後まで生きなければ行けないんだよ。自分から死のうなんて思う奴は卑怯者だ、臆病者だよと言い聞かせる。

みどりが病気なんだって?と隆太が聞いて来たので、相談があるんだ。僕たち一度引き上げようと思う。作物もすぐに出来そうにないし、食べ物がないんだよと修平は打ち明ける。

それを聞いていた俊二が、買えば良いじゃないかと言うと、しのが、村じゃ、浮浪児には食いもの、売らないんだよと哀しそうに教える。

みどりも謙坊も留男も、ここに来るのを待ってるんだぞ!と俊二は興奮し出し、隆太兄ちゃん!下に行って、村の奴ら、ぶっ殺すんだ!と言い出す。

隆太がそれを止めようとすると、だって、奴らは飯食ってるじゃねえかよ!離せよ!バカヤロー!と俊二は暴れ出す。

しかし、隆太はそんな俊二に、やたらと人をぶっ殺すなんて言うんじゃないよ。俺らも悪い所があるから非難されるんだ。俺たちがかっぱらったりするから嫌われるんだ。分かったら、修平兄ちゃんに謝れと言い聞かせる。

そんな隆太の言葉を聞いていた修平は、隆太!お前はもう立派な子供だ!もう、どこに出しても恥ずかしくない立派な子供だと感心して褒める。

夕べ、父ちゃんの夢を見たんだ…と隆太は言う。

俺がこの丘に立っていたら、蜘蛛の切れ間から父ちゃんの顔が見えて、お前、元気にいろよと言ったんだ。俺嬉しくなって、父ちゃん!って言おうとしたら、父ちゃん、笑って消えたんだよと隆太は語る。

それを聞いていたしのは、隆太坊主、良かったな、お父に会えて…と涙ぐみ、こんな子供たちを大人は何故虐めるんだろう?と嘆く。

東京に行こう!と相談していた修平たちの所に由利江が登って来て、食料を運んでくれるように万次さんの所に頼んできましたと報告する。

それを聞いていた龍太が、おらのお父だよと自慢げに言う。

僕たち、ここにいられるんですね!と修平は感激する。

みんな呼ぼうよと俊二も喜ぶが、さらに由利江は、家の父が5万円寄付したいと申しておりました。私の嫁入り支度のお金です。ここに立派な家を建てて欲しいって…と言い出したので、修平は喜ぶよりも戸惑うが、しのが、お嬢さんはテキパキ決めることがお好きなお方だから、そのお金は受け取っておきなされと勧める。

大きな家を立てたら、屋根の上に吊るそうよと言いながら、龍太と俊二が木の棒で鐘を叩いて鳴らし始める。

その後、修平は、弟修吉を探すため、一旦、列車で信州を離れる。

丘の上の小屋で留守番をしていた由利江は、外に吊るしている鐘の音に気づいて出て来ると、郵便屋が来て鳴らしていたことに気づく。

郵便屋は、電報を由利江に渡して帰るが、その中には、修吉が水沢から東京に行ったとだけ書かれていたので、修平さんに知らせたいわね、東京のどこだろう?と俊二たちと話し合う。

その頃、東京に出て来ていた修吉は、銀座の和光時計店が見える道路脇で靴磨きの仕事をしていた。

足が悪いので、松葉杖を横に置いていたが、そんな修吉の側に寄って来た浮浪児2人が、ここは遠藤組の縄張りだぞ!タバコを買え!と迫って来る。

僕はタバコを吸わないんだと修吉が断ると、浮浪児を背後で操っているらしき地回りの男がやって来て、修吉を殴りつけて来る。

地面に倒れた修吉は、俺、兄さんに会うために金がいるんだよ!後で信州から送るよ!と訴えるが、地回りはそんな言葉に耳も貸さず、ポケットには行っていた売上の金を奪って行こうとする、

その時、抵抗していた修吉は、近くの停車場から路面電車に乗り込もうとしていた兄、修平の姿を目撃する。

修平は、兄さ〜ん!と呼びかける修吉の声にも気づかず、そのまま乗り込んでしまう。

地回りから殴りつけられた修吉は、松葉杖を使い、兄さ~ん!と叫びながら必死に路面電車を追おうとするが、途中で転んでしまう。

遠ざかって行く路面電車を見つめながら、修平、兄さ~ん!と路上で絶叫する修吉は、いつしか泣き出していた。

「修吉の巻 近日上映」とテロップが出て、暗転した画面に、「とんがり帽子の時計台〜♪」と主題歌が重なる。