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花荻先生と三太

ラジオドラマ「三太物語」の映画化らしいが、さすがにオリジナルのドラマは知らない。

古い作品だけに、音質が悪く、セリフがあまり聞こえないのが残念だったが、製作が民芸なので、清水将夫、滝沢修、宇野重吉、多々良純、細川ちか子、小夜福子ら、当時の所属俳優たちが総出演している。

地方の小学校での、新任女教師と子供たちの心の触れ合いを描く…と言えば、「二十四の瞳」や「白雪先生と子供たち」のような映画だと想像してしまい、実際、そのような系統の映画なのだが、映画用に無理矢理短縮したのか、あまりに展開が唐突過ぎると言うか、あっけない幕切れにちょっと唖然となってしまう作品になっている。

この作品はあくまでも三太の物語であり、花荻先生は付けたし的な要素…と考えれば良いのかもしれないが、「三太物語」と言うラジオドラマが浸透していた当時ならまだしも、後年に見るものが、タイトルの「花荻先生」から、花荻先生をメインとした物語と思ってしまうのは仕方ないと思う。

しかし、花荻先生の登場シーンは意外と少なく、その心理描写などもあまりはっきり描かれていないこともあり、最後の転校の決断への展開もしっくり来ない。

では、三太の方のエピソードが面白いかと言えば、それほどでもないような気がする。

あくまでも、小学校などで見せられる教育映画のような雰囲気と言えば良いだろうか。

見所と言えば、ロケ地となっている当時の相模湖周辺の風景と、山田五十鈴と加藤嘉が夫婦役で登場していることくらいだろうか。

この2人がかつて夫婦だったらしいと言う噂は知っていたものの、あまりに自分が知っているお二人のイメージが違い過ぎるため、本当かどうかの確信もないのだが、この映画で若々しい二人が仲睦まじく夫婦役を演じている姿を観ると、この頃のお二人なら、一緒に生活していても全く違和感はないなと言う印象を受けた。

特に加藤嘉は、太い眉も凛々しいおじさんと言う感じで、大きな目はギラギラしており、入れ歯を外した老け役用の顔とは全く違う。

山田五十鈴さんの方も、映画用に、右頬に大きなほくろなど付けてキャラクター作りしているが、若々しくきれいな頃である。

花荻先生を演じている津村悠子は、小柄で声も小学生とあまり違わないような、笑顔が可愛い童顔の女優さんなのだが、この「花荻先生は小学生と体格があまり違わない」と言うのがラストを厄介なものにしている。

ラストシーンは、橋を帰って行く三太たち友達グループをやや下からのロングで捉えた映像なのだが、当然彼らの顔などは映ってない。

ただ、数人の子供たちが橋を渡って帰っている様子が小さく写っているだけだ。

この一団に、花荻先生が混じっているのか、いないのかが判然としないのだ。

このシーンの直前のカットからすると、このグループに花荻先生が混じっていてもおかしくない。

しかし、花荻先生が混じっていると解釈するか、いないと解釈するかでラストの印象はがらりと違ったものになる。

観るものが自由に解釈できるように、わざと、どちらとも取れるような曖昧な撮り方をしているのだろうか?

舞台となる相模湖周辺の様子も珍しい。

今でもそんなに都会化している場所ではないが、当時は本当に田舎と言った様子。

途中で、女性たちが摘んでいる植物は何なのだろうか?

牛乳缶を収集する冷蔵車が登場していることから、酪農家も多かったと言うことなのだろう。

三太も、生まれて来た子猫にやろうと、牛乳缶からミルクを注いでいるシーンがあるので、三太の家でも乳牛を飼っていると言うことだと思う。

クライマックスの見せ場となる相模湖祭りの様子も珍しい。


▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1952年、民芸、青木茂原作、大黒東洋士脚色、鈴木英夫監督作品。

相模湖を繋ぐ橋を渡る4人の子供たち。

定(田中晋二)、留(古市久己)、マサ、お花(長澤みどり)は、湖面を眺めていた。

そこに小さく見えているのは男の子の頭。

彼らのクラスメイト三太(大橋弘)が、1人で泳いでいたのだった。

お~い!負けず嫌いの三太~!と声をかけながら、定や留、マサは学校に向かうが、その時、学校が始まる鐘の音が聞こえて来たので、男の子は走り出すが、お花は、まだ泳いでいた三太に向かい、お~い!三太~!鐘が鳴ったぞ~!と叫ぶ。

湖面に浮いた小舟に泳ぎ付いた三太は、バカ野郎~!早えだけが偉いんじゃねえぞ~!と怒鳴り返す。

小学校の校庭ては、全校生徒が整列する中、台に上った校長先生(清水将夫)の挨拶が始まろうとしていた。

その時、誰も号令をかけないので、隣に立っていた奥さん(細川ちか子)に、今日の号令は誰だったかね?と聞くと、三太なんだがね~?と三太の姿を探しながら答える。

仕方がないので、校長先生は、そのまま話を始めることにする。

山川先生に代わり、新しい先生が、今日の午後の2番バスでお見えになる。花荻先生と言う方だ。みんなは、花荻先生と呼ぶんだよ。

東京の学校を出て、初めてこちらに来られるのだから、みんながあんまり汚い顔や格好をしていてはびっくりなさるから気をつけるように。

今後は、青大将を学校に持って来てはいけないよと校長先生は言い渡す。

その頃、相模湖を上がって、山伝いに学校に向かっていた三太は、途中で何かを見つけ、雑嚢を投げて懸命に捕まえようとする。

その日、最初の授業は、図画の時間で、自分の左手を描くと言う課題だった。

奥さん先生は、前の教壇で居眠りしている。

定は、隣に座っている三太が描いていた左絵の絵を観て、指が4本しかないぞと注意する。

言われた三太は、驚いて、絵の指の数を数えるが、確かに4本しかなかったので慌てて消しゴムで消して修正する。

その後、三太は定に、良いもの見せてやろうか?と小声で囁きかけ、雑嚢の中を開けてみせる。

定は、その中を除き込み、青大将じゃねえか!と驚く。

騒ぐんじゃねえ!と教壇で寝ている奥さん先生の様子を気にして注意した三太は、こんな大きな青大将だと300円で売れる。野球のボール買わねえか?と相談する。

そんな2人の会話を盗み聞いていた花が、何事かと近づいて来て、雑嚢の中を除き込み思わず悲鳴を上げる。

三太は慌てて奥さん先生の方を見るが、まだ先生はのんきに寝ている。

青大将は、腹が減って弱っているようだから、午後まで生かしておく為に、センブリを飲ませようと思うんだと言い出した三太は、そっと席を立ち上がると、前の教壇に近づく。

そこには、奥さん先生がいつも飲んでいるセンブリの入った茶瓶が置いてあったからだ。

三太は、その茶瓶のすぐ側で寝ている奥さん先生を起こさないようにしながら、そっと茶瓶を取り上げると、急いで一番後ろの自分の席に戻り、青大将をその茶瓶の中に入れる。

その時、奥さん先生が目を覚まし、三太の机の下に自分の茶瓶が置いてあることに気づくと、何してるだ?オラの大切なセンブリを…と言いながら近づいて来て、青大将が入っているとも気づかず、茶瓶を持って教壇に戻る。

その時、終業の鐘が鳴ったので、立ち上がった奥さん先生は、今度鐘が鳴ったら、新しい先生をお迎えするので、みんな正門の前に来ることと言い渡し、茶瓶を持って教室を出て行く。

三太や定は、えらいことになったな…と顔を合わせる。

何とか、あの茶瓶に入った青大将を取り戻さねばいけないと思った三太たちは、奥さん先生がいる音楽室を覗きに行く。

三太は、四つん這いになって教室に忍び込もうとするが、その姿を通りかかった校長先生に見つかってしまい、何してるだと声をかけられたので、一目散に逃げて行く。

小学校の校庭では、花荻先生を出迎えるため、学校に来ていたPTA会長の強羅さん(滝沢修)と村長(宇野重吉)が丸太で出来たシーソーに乗りながら、神奈川県の収入源を考えると、競輪事業もやむを得ないかどうかを話し合っていた。

そんな中、校長室の窓から顔をのぞかせた校長先生が、そろそろ花荻先生が見える時分だと声をかけて来る。

大きな木の枝に登って遠くを見ている三太に、下にいたお花が、三太、まだ見えねえか?と呼びかけていた。

その時、相模湖を繋ぐ橋の上をこちらに向かって来るバスが見えたので、バスが見えたぞ~!と三太は大声で叫ぶ。

奥さん先生が鐘を鳴らし、全校生徒が正門の所に集まって来る。

そんな奥さん先生は、茶瓶のセンブリを少し湯飲みに注いで飲みかけて所で、自分も正門の所へ行く。

その奥さん先生の様子を物陰から監視していたお花が、急いで教室内に入り込み、センブリの入った茶瓶を外へ持ち出す。

校長は、花荻先生は、村長の家に泊めてくれないかと頼んでいた。

そして三太には、良いか、三太、しっかり号令をかけるんだぞと声をかける。

学校前の坂道に整列した全校生徒たち、その一番してのバスの停留所の近くに立っていた三太は、バスが到着し、ドアが開いた瞬間、気をつけ!礼!と大声で号礼を言う。

その号令に合わせ、全校生徒や先生、村長や強羅さんたちが一斉に頭を下げるが、校長は慌てて、違うんだ!違うんだとわめき出す。

何と、一番最初にバスから降り立ったのは、凄く太った女性だったからだ。

本当の花荻先生(津村悠子)は、その後ろから、笑顔で降りて来た小柄な女性の方だった。

三太たちは後に、最初の太った女性が花荻先生とばかり思ったと笑いあう。

その時三太は、青大将を置きっぱなしだ!と気づく。

お花から受け取った茶瓶の蓋を山道の真ん中で開けてみると、青大将は溺死していた。

そこにやって来たのが奥さん先生で、何してるだ!道草してたらいけねえぞ!と叱りながら、茶瓶の所に近づいて来る。

三太たちは一目散に逃げていたが、蓋の開いた茶瓶の中を除き込んだ奥さん先生は悲鳴を上げる。

その後、教室に戻った三太たちは、全員教室の後ろに立たされていた。

教壇で授業をしていた奥さん先生は、おめえたち、今日は晩まで立ってるだ!と言いつける。

放課後、さすがに疲れて座り込んでいた三太たちの所に、花荻先生がこら!と言いながらニコニコしながら近づいて来たので、三太たちは慌てて立ち上がるが、三太たちを待って、残っていたお花も、興味深そうに廊下から覗き込む。

花荻先生は、立っていた3人の後ろに廻ると、順々に、三太!定!マサ!留!と呼びかけたので、呼ばれた三太たちは元気良くはい!と返事をする。

そして、今度は彼らの前に出た花荻先生は、先生のすること良く見るのよと言うと、後ろ向きになり、ちょっとスカートをたくし上げて足を見せる。

次に、片足バランスのようなパーズを取ってみせ、先生は何ですか?と聞く。

すると三太たちは声を揃え、は~い!花荻先生で~す!と答える。

そして、皆さんの友達でしょう?と花荻先生は笑顔で教える。

花荻先生から、帰って良いとの許可を得た5人は、わ~い!と喜びながら下校しかけるが、その時、学校から、オルガンに合わせて、きれいな女の人の歌声が聞こえて来る。

どうやら花荻先生が歌っているらしかった。

5人は興味を惹かれ、坂道の途中から崖を這い昇り、校庭に出ると、オルガンのある音楽室の入口から中をのぞいてみる。

するとやはり、花荻先生が1人でオルガンを弾きながら歌を歌っていたので、5人はその唄に合わせて歌い出す。

花荻先生は、戻って来た5人に気づくと、嬉しそうにオルガンを弾き、5人が一緒に歌えるように歌い出す。

白い雲が飛んで行くよ~♪

すぐに、5人は先生の歌を覚え、全員で合唱し出す。

翌朝、村長の屋敷に揃って来た5人は、一斉に「花荻先生~!」と呼びかける。

その声を庭先で聞いた村長が、縁側から出かけようとしていた花荻先生に、迎えに来ましたよと教える。

花荻先生は、昨日の歌を生徒たちと歌いながら、橋を渡って学校へと向かう。

その日の授業で、花荻先生は、赤十字を作ったナイチンゲールの若い頃のお話をする。

坊さんと2人で歩いていたナイチンゲールは、羊番の犬が苦しんでいるのを見つけました。

子供に石を投げられ、足に怪我をしていたのでした。

坊さんはその内直るだろうと言い立ち去ろうとしますが、ナイチンゲールは、坊さんに犬の怪我の手当の方法を聞きます。

足を温めるのが良かろうと坊さんが言うので、ナイチンゲールはすぐにお湯を沸かすと、暖かいシップを作り、犬の足の手当をしてやりました。

それを読み上げる花荻先生の優しい笑顔に、三太はうっとりしていた。

自宅に帰った三太は、木から落ちていた2匹の蝉を拾い上げ、捕まるで、降りるでねえぞと言い聞かせながら、もう1度木の幹にしがみつかせてやる。

表の筵で籾を干していたお父(多々良純)の側に行くと、トラが又2匹も生んだと言うので、喜んで猫のトラの所へ行ってみると、確かに赤ん坊の猫が2匹生まれていた。

ところが、表に出ると、お母が、お父が、今のうちに捨てて来いと言っていると伝えたので、三太は、そんな酷いことできねえ!と抵抗するが、匿って、猫屋敷みてえになったらどうする?とお父は言い、ダムさ捨てて来いと命じる。

仕方なく、ダムの放水口の横まで来た三太は、勘弁しろよな。おらを恨むでねえぞ…などと語りかけながら、子猫を川に捨てようとするが、結局、捨てきれず、家に持って帰ると、水車小屋の二階に隠しておくことにする。

その後、ミルクを皿に入れて持って行ってやり、トラと2匹の子猫に、ちょっとの間辛抱しろと声をかけながら飲ませてやった三太だが、翌朝、父親が探しに来てあっさり見つかってしまう。

何と、三太は猫を抱いたまま、水車小屋の二階に眠りこけていたからだ。

又、猫を捨てに行かされた三太は、桑(?)の実をもいでいる女性2人(小夜福子、斎藤美和)が、忙しいな、猫の手でも借りたいな…などと話しているのを聞きつける。

喜んだ三太は、姉ちゃん、猫の手を欲しいって本当け?と聞き、女性たちが運ぼうとしていた駕篭を自分が率先して運んでやったりし始める。

女性たちは、三太の意図が分からず、そのまま作業を手伝わせていたが、戻って来た三太が、猫の子をもらってくれるな?と言い出すと、さすがに、猫の子?と首を傾げる。

意味を取り違えていたことに気づいた三太は途方にくれ、猫をもらってくれる人はいねえか?と呼びかけながら村中を歩いて廻る。

途中、山の崖から流れている清水を飲んでのどの渇きを癒していたりしたが、さすがに遠くまで来てしまい、三太は歩きつかれてしまう。

そこに通りかかったのが、森永牛乳の冷蔵車で、馴染みの運転手(春日俊二)が、帰るのなら乗せて行ってやるぞと声をかけてくれる。

車の助手席に乗せてもらった三太から、猫の貰い手を探している。家にもって帰ると叱られるんだと聞いた運転手は、俺が一人者じゃなければもらってやるんだがな。家で世話するものがいないと気の毒がってくれる。

次の牛乳缶の収集場所に到着した冷蔵車から降りた運転手は、缶を運び入れる人たちに猫の貰い手はいないかと声をかけてみるが、みんないらないと言う。

そんな中、天神下の婆様ならもらってくれるかも知れねえぞと教えてくれる。

天神下で冷蔵車から降ろしてもらった三太は、運転手に礼を言い、その後、持っていた猫を入れて来たかごを遠くに捨てて喜ぶ。

婆様が猫をもらってくれたのだった。

その後、三太は、祭りの練習なのか、笛や太鼓の音が遠くから聞こえて来る道ばたで、大人たちが、天神下の婆様の家に猫の子が生まれて、その内の三毛の雄を金を払って買ったものがいるそうだ。北国では、竹網で魚を捕る時、三毛猫がなくてはならねえそうだなどと噂しているのを聞き、跳び上がって喜ぶ。

ある日、自転車に乗って花荻先生が三太の家にやって来る。

家庭訪問だった。

花荻先生は、家の壁に貼られていた三太が書いた「美しい心」と言う習字を観て微笑む。

出迎えた両親は、三太は今、珍しく水車小屋で粉まみれになって働いていますと言うので、花荻先生が感心すると、いつもはそんなことしないんですが、今日は、先生が来なさるのを知っているからですなどと言って笑う。

そうした側に、全身粉で真っ白になった三太がやって来て、先生もつまらねえことを聞くんじゃねえぞと花荻先生に言うので、先生は笑って、先生は、良いことも悪いことも聞いて、三太さんがもっともっと良い子になるようにするのよと教えると、だったら良いやと納得し、水車小屋に戻ると、前の小川で嬉しそうに顔を洗う。

その後、三太は、花荻先生の自転車の後ろに乗り、家庭訪問について行くことにする。

次の家では、子供用の虫下しの薬を花荻先生は両親に渡していたが、三太と一緒に橋の所でトウモロコシを食べながら待っていた子供の方は、自分で勝手に使ってしまい学校に収めていなかった給食費の催促に来たと思い込んでいるらしかった。

それでも大好きな花荻先生が戻って来ると、子供と三太は、大喜びで先生の手を引っ張ってじゃれ付く。

その後、しばらく花荻先生の自転車に付いて歩いていた三太は、血相を変えて近づいて来た音さんの奥さん(山田五十鈴)から、お父知らねえか?と聞かれたので、又、喧嘩したのけ?と聞く。

音さんと奥さんは、しょっちゅう喧嘩をしている夫婦だったからだ。

三太と花荻先生は、渡し船で向こう岸に渡るが、そこの川岸で釣りをしている音さん(加藤嘉)を見つけたので、おかかが探してたぞと三太が声をかけると、おかかは又怒っていたか?と心配げに聞いて来る。

又、競輪か?と三太が聞くと、子供が余計なことを聞くな!と音さんは不機嫌そうになったので図星のようだった。

そこに、おめえさん!と怖い顔をした奥さんが駆けつけて来る。

河原で音さんは奥さんに捕まり大喧嘩になりかける。

それを近くで心配げに見つめる花荻先生と三太。

その時、小舟に乗った仙爺(左卜全)が近づいて来たので、三太は声をかける。

金輪際絶対許さねえだ!と息巻く音さんのおかかを観た仙爺は、すぐに事情を察し、音の奴は、おめえさんに申し訳ねえと猛反省し、さっき水の中に飛び込んでおっちのうとしとったぞと噓を教える。

すると、それを聞いたおかかは驚き、本当け?と音さんに確認したので、音さんもつい、おえあ、申し訳ねえだと話を合わせる。

おかかはすっかり機嫌を直し、そうけ…と言いながら喜んだので、三太は仙爺に別れを告げる。

その後、三太は花荻先生の自転車に又乗っていた。

ある日、花荻先生と子供たちが校庭でドッジボールをやっている最中、小学校に郵便屋さんがやって来て、転がって来たボールを投げてくれる。

その郵便屋さんは、校長に書留を持って来たのだった。

送り主は「日本音楽学院」とあり、その中身を読んだ校長先生は、ちょっと考えると、職員室に残っていた女先生に、校庭にいる花荻先生を呼んで来てもらう。

花荻先生が校長室に来ると、椅子を勧めて、今届いた書留の中の手紙を読ませる。

それを読んだ花荻先生はいつになく真面目な顔になる。

わしは誇らしいことと思いますと校長は話しかけるが、花荻先生は、私はお断りしようと思いますと答えたので、人間、機会あるごとに前進しなければなりません。音楽学校の先生として招聘されることは名誉なことです。色々迷うこともあるでしょうが、人間一度は通らなければいけないことです。一時の感傷に流されんことですと言い聞かす。

無人の教室に戻って来た花荻先生は、壁に貼られている子供たちのえをみたり、机を触ったりしながら考え込み始める。

机の一つには「はなおぎ先生」と書いてある落書きまで見つける。

やがて、地元の「相模湖祭り」が始まり、三太たちは花荻先生と一緒に祭りを観に出かけようと、村長の家に呼びに来るが、その時花荻先生は、荷物をまとめている所だった。

祭りには、音さん夫婦も来ており、仲良く一緒にベンチに腰を降ろしていた。

湖の上には提灯をつけた舟が近づいて来て、その上ではひょっとこの面を付けた男が踊っていた。

音さんは、屋台の中を歩き始めると、何だか女房と一緒に歩くのは具合が悪いなどと恥ずかしがるので、奥さんは、何が恥ずかしいことあるかと嬉しそうに手を組むと、本当におらのこと好きか?と聞く。

すると、音さんも好きに決まっとると笑顔で応え、2人は身を寄せあう。

もうすっかり仲直りしたようだった。

花荻先生と三太たちは、花火大会を座って見始めるが、花荻先生は、自分の手をしっかり握っているお花たち子供たちの様子を複雑な表情で観ていた。

祭りも終わり、帰る時、三太たちは愕然としていた。

花荻先生が他の学校に転校すると言う話を、本人の口から聞かされたからだ。

オラ嫌だ!と子供たちは口々に怒り出す。

ごめんなさいね。本当は先生も行きたくなかったのよと花荻先生が詫びても、三太は納得せず、先生、前に、どこにも行かねえって言ってたじゃねえか!嘘つき!と罵る。

しかし、お別れの日は来てしまう。

全校生徒が集まった小学校の校庭で、台に登った校長先生が、急な話ですが、花荻先生は、もっと勉強なさって、もっと立派な先生になられるのだから、私たちはその門出をお祝いしてあげなくてはならんと説明をする。

続いて台に上がった花荻先生は、赴任して来た時、どこにも行きませんと言ったのに、その約束を破って皆さんとお分かれしなければ行けないことになありました。三太さんには、嘘つきと叱られました。嘘をついては行けないと教えて来た私が、嘘をついてしまったことは恥ずかしいことです。

皆さんは、清く明るく美しい心の人になってくださいねと挨拶する。

校長先生が、花荻先生がお作りになった歌を歌おうと生徒たちに呼びかけ、全校生徒が歌い始めるが、後ろの方に立っていた三太は、うつむいたままで決して歌おうとはしなかった。

そんな三太に近づいて来た花荻先生は、バスが出る時、お別れの号令をかけてねと声をかけ、お別れの握手…と言いながら手を差し出すが、三太はうつむいたままだし、廻りにいた定やお花たちは、先生、どうしても行っちゃうのけ?オラたち、嫌いになったのけ?と聞いて来る。

オラたち、もっともっと良い子になるだ!と定たちは約束する中、他の生徒たちはまだ歌い続けていた。

がらんとした小学校の廊下。

定やお花たちはがっくり気落ちして、他の生徒らと共にバス停の方に向かうが、気がつくと三太の姿がない。

バスはもう近づいて来ていた。

お花は校庭に戻って三太を捜す。

すると、校舎の影で踞っている三太を発見すしたので、三太、何してるだ?花荻先生、おめえの号令を待っているだよと声をかける。

お花は三太を連れて、学校前の坂道の下にある停留所にやって来るが、もうバスは出発した後で、全校生徒が手を振っている所だった。

その先頭に出た三太とお花も、手を振って見送るが、三太は急に走り出したので、定や留、お花たちも走り出す。

バスの車窓からは、花荻先生がハンカチを振って、みんなに答えていた。

そんもバスを必死に追いかける三太たち5人組だったが、相模湖の橋をバスが渡り出すと、その手前で手を振る。

バスの中の花荻先生はうなだれていた。

その時、三太は山に向かって走り出したので、他の4人も後を追う。

山を越え、山道に出たお花は、間に合ったな!と叫ぶ。

九十九折の道を走って来たバスの前に出ることが出来たのだ。

花荻先生は、バスの前から駆け寄って来る三太たちの姿を目にする。

三太たちは、通り過ぎるバスと一緒について走ろうとするが、その時、お花が転んだのでみんなで助け起こそうとする。

そんな三太たちの姿が山陰に消えて行ったので、思わず花荻先生は、停めてください!と運転手に叫ぶ。

バスを降りた花荻先生は、三太たちの元に歩み寄る。

相模湖の橋を渡る子供らの姿…