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花くれないに

NHK連続放送劇の映画化作品。

地方の高校に赴任して来た新人教師が、町の有力者と対立する…と言う、良くある「学園もの」なのだが、作られた時代を考えると、かなりそのジャンルの走りに近い作品かもしれない。

「坊ちゃん」を連想する部分もあるし、「青い山脈」(1949)に近い雰囲気も感じられる所から、ひょっとしたら「青い山脈」人気への便乗商法的な部分もあったのかもしれない。

この映画の2ヶ月前に、雪村いづみ主演版の「青い山脈」が公開されているのも単なる偶然とは考え難い。

旧弊な封建主義が残っている地方独特の閉鎖性。

それをぶち破ろうとする若者たちのエネルギー。

それを、傍観者として眺め、応援する主人公は、当初は新人教師朝田恵太郎の方だったはずなのだが、途中から徐々に印象が薄くなり、むしろ、学歴がないばかりに出世が思うに任せない哀れな教頭を演じている中村是好の方が印象に残るような気がする。

出来としては、この当時の松竹作品らしく実に丁寧に撮られており、チャチさはほとんど感じない。

さすがにオリジナル版の記憶も全くないので、比較してどうこうと言う意見も出て来ない。

これはこれでまとまっているし、それなりに完成度の高い作品のような気がする。

ドリーム先生を演じている小山明子も若々しいが、個人的には、渋い演技を見せてくれる柳永二郎の方についつい注目してしまいたくなる。

柳永二郎、渡辺篤、須賀不二男、中村是好、笠智衆…、渋いおじさん俳優ばかりである。

愚連隊を演じている磯野秋雄もおじさんだし、脇役好きにはたまらない映画ではないかと思う。

ただし、一般的にはどうだったのだろう?と言う素朴な疑問をわき上がる。

高橋貞二、小山明子、夏川かほる…、こういった若手で当時は客を呼べたのだろうか?と感じてしまう部分もある。

いわゆる「スター」が出ていない所から、ひょっとしたら「添え物映画」風の扱いだったのかも知れないと思い調べてみたが、併映作品は分からなかった。


▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1957年、松竹、阿木翁助原作、猪俣勝人脚色、田畠恒男監督作品。

上野発青森行きの機関車に乗って陸奥に向かっていた朝田恵太郎(高橋貞二)は、仙台を過ぎた辺りで、席のない老婦人水沢まき(夏川静江)に席を譲ってしまったため、その後はずっと通路に立っていなければならないはめになる。

さらに、その水沢まきは琴のお師匠であったので、持参の大きな琴まで恵太郎が抱えて持ってやると言う負担を背負う事になり、13000円もした新調のスーツの上着もよれよれになってしまう始末。

恵太郎は、西北大学では柔道三段の腕前だったが、折からの就職難から浪人を余儀なくされ、ようやくこのたび、今石東高の教員として採用されたので、そこへ向かう途中だった。

駅に降りると、高校の小使いをやっている千厩(せんまや)(渡辺篤)と言う男が旗を持って出迎えに来てくれていた。

駅前の橋を渡った所で、水沢まきにお琴を返し別れるが、幸運な事に、彼女の家に下宿させてもらう事になる。

千厩と2人きりになった恵太郎は、これから学校へ行って校長に挨拶したいと申し出るが、今日は日曜だし、校長なら3日前から出張で出ていると言う千厩は言う、

では、大学の先輩の佐久間先生の所に行きたいと言うと、まずは、PTA会長の五本松の家に案内される。

造り酒屋らしき五本松の家に入ると、教頭の押川(中村是好)が待ち構えており、土間に置いてあった配達用のスクーターに乗っていた五本松の娘ミキ(山田百合子)が恵太郎を観ながら、側にいた兄の武富(清川新吾)に、「ちょいボーイね」と笑いながら囁きかける。

会長の五本松重吉(柳永二郎)には、病弱そうな妻(三谷幸子)がおり、2人で恵太郎を座敷で接待する。

半年浪人しましたなどと恵太郎が自己紹介すると、宿はどうなっているかね?と重吉は聞いて来て、押川教頭が南部屋です、今石一番の宿で五本松さんの息がかかっていると報告する。

今日はお顔つなぎですからと、五本松から勧められるまま、酒を軽くよばれた恵太郎は、その足で、先輩である佐久間大造(菅佐原英一)の家にやって来る。

佐久間はちょうど、庭先で、まだ幼い娘の百合と七輪で、夕食用の焼き魚を焼いている所だった。

佐久間は、長門教授から宜しくと連絡があったと言うと、疲れただろうとねぎらいながら家の中に招き入れる。

恵太郎は、正直に、仙台からちょっと…と疲れた様子を見せる。

宿はどこに決まった?と佐久間が聞くと、先ほど、南部屋だと教頭先生が…と恵太郎が教えたので、タヌキが?と佐久間先生は顔を曇らせると、化かされんように注意せんといかんですぞと忠告する。

それで恵太郎は、実は、そこは今日だけのつもりで、明日からは水沢まきさんとか言う老婦人の家に下宿をすることに決めていますと言うと、何?水沢まき?と佐久間は驚く。

何か?タチが悪い人ですか?と不安げに恵太郎が聞くと、タチは極上です…と何やら奥歯に挟まったような言い方。

そこに、焼き上がった魚を持った百合が戻って来たので、これは明日のおかずにしようと言い出した佐久間は、百合を背負って、恵太郎を「山小舎」と言う飲み屋に連れて来る。

佐久間は、その店の娘阿津子(中川弘子)を山小舎小町などと紹介するが、どうやら気がある様子。

妻を亡くし、今は一人身の佐久間は、娘の百合を阿津子に渡すと、恵太郎と腰を落ち着けて飲み出そうとする。

その時、敷居の隣から声をかけて来たのは、町医者で教育委員でもある若杉慎吾(笠智衆)だった。

阿津子の父で、店の親父(小林十九二)が、この前酔った時の服、クリーニングしときましたと言いながら若杉に返す。

その時、店の外が騒がしくなったので、佐久間と恵太郎が出てみると、高校生とチンピラらしき男たちが喧嘩をしていたので、何をしている!と佐久間が声をかけると、薩摩大根だ!逃げろ!と言い、生徒たちはちりじりに逃げてしまう。

店に戻って来た佐久間は、相手は愚連隊です。東京から出て来たんですと若杉に報告すると、元々この辺にはヤクザや博打はなかったのに、最近では競輪場まで作るそうだ。町の有力者がそんな事だから、世も末だと嘆かわしそうに若杉は吐き捨てると、酔ったのか、その場でごろりと横になって寝てしまう。

仕方がないので、阿津子と恵太郎が、泥酔した若杉をリヤカーに乗せ、自宅まで送り届ける事にする。

自宅から出て来たのは、若杉の娘、朝子(小山明子)だった。

阿津子は、この先生が南部屋に行くので手伝ってもらったんですと説明すると、朝子は礼を言って、父親を抱えて自宅に入れる。

帰りがけ、阿津子は、ドリーム先生に会えて嬉しかったでしょう?と突然言い出す。

今の朝子は南高校で、夢のようにきれいな所からそう言われている音楽の先生なのだと言う。

実は私も、この町では五本の指に入ると言われている美人なのよ、失礼ね!一晩で2人も美人に会えて、先生は幸せ者なのよと阿津子は言うので、黙って聞いていた恵太郎はしらけてしまう。

翌日の月曜日、今石東高の3年A組

教室に入った恵太郎は、黒板に大きく、昨日、駅から千厩と水沢まきと共に、琴を持って橋を渡っていた時の再現図が「朝田先生 渡御の図」と題され描かれていたので苦笑する。

何となく挨拶を始めた恵太郎だったが、ついつい堅苦しくなり選挙演説みたいな口調になったので、気分を切り返し、ざっくばらんな感じで、ま、仲良くやろうやと生徒たちに声をかける。

見ると、一番前に座っていたのは、五本松の長男武富(たけとみ)だった。

出席を取り始めようとした時、メガネをかけた大山新吉が入って来たので、遅刻じゃないかと言うと、まだ名前呼ばれてないから遅刻じゃないでしょうと言うし、他の旧友たちも、こいつの家は南高の近くなので30分以上かかるんですと弁解してやる。

その時、教壇の横に蛇がいたので、驚きながら無視しながら出席を取っていた恵太郎だが、五本松武富を「ぶゆう」と読むと、ちゃんと呼んでくれと本人から注意される。

その時、いつの間にか黒板の上に這い上がっていた蛇が落ちて来たので驚いた恵太郎が逃げ出すと、生徒たちはしてやったりとばかり大笑いを始め、ムジナに似ているが若いので「若ムジナ」だななどと、早くも恵太郎のあだ名を付けてしまう。

職員室に戻って、今受けた悪戯の事を報告した恵太郎は、まだ「坊ちゃん」の伝統は生きとりますな~、私の時はカエルでしたなどと先生たちは笑い出す。

いっその事、男女共学にすればいいのに…と佐久間は言い出すが、それを聞いていた押川教頭は、太陽族的風潮が出来たら困るなどと横やりを入れて来る。

そんな押川教頭に、北向校長(須賀不二男)が、委員会に出す書類はまだかね?と声をかけて来る。

その後、水沢まきの家に、千厩が恵太郎の荷物を運んでくれる。

まきの娘の水沢節子(夏川かほる)と水沢征子(勝間典子)が恵太郎に挨拶しに来て、節子は、自分のあだ名は「ノット」と言うと自己紹介する。

ドロームにノットか…と恵太郎が感心すると、朝子先生は節子の担任だと言う。

妹の征子は、恵太郎にこけしをプレゼントしてくれる。

その時、長女の幸枝(杉田弘子)が挨拶に来ると、押川教頭がしょっちゅう尺八を持って来ては、幸江の琴と合奏したがるのよと告げ口する。

まきも姿を見せ、歓迎会をしなくちゃねと恵太郎に声をかける。

その頃、押川教頭が「花の字」と言う料亭に来ると、芸者で五本松の二号であるさわ子(雪代敬子)が、うちのパパさん、じりじりよとせかす。

座敷では五本松が待っていた。

あの新任、武富の担任になったそうだなと五本松が聞くと、気を揉んでいるのは教頭先生の方でしょう?そんな方があの家にいるなんて…と冷やかす。

夕べ、「山小舎」に連れて行かれたそうだ、佐久間君と。その後、阿津子さんと2人で若杉を自宅まで送り届けたらしい。若杉は不平分子だから近寄らん方が良いと五本松は忠告する。

僕は女の色香に迷って、あんな飲み屋に行きたくないですと押川教頭は答える。

翌朝、恵太郎は目覚まし時計と征子に起こされる。

朝食の席では、まきが超大盛りご飯を差し出して征子を戸惑わせる。

その後、ノットこと節子の用心棒役も兼ね、途中まで一緒に行く事にする。

すると、五本松武富がノットに近づいて来る。

その時、ドリーム先生こと朝子も登校途中で出会うが、恵太郎は生徒たちの手前もあり、何となく無視してしまう。

僕はもう、酔っぱらいをリヤカーで運ぶの早めにしたんだよ、あの先生の側にいると指が震えるんだなどと恵太郎が照れ隠しにノットに言うと、嫌だな、放射能じゃあるまいし…とノットは呆れる。

南高の音楽室でピアノを弾いていたノットの側にやって来たドリーム先生は、芸大の器楽科志望のノットに母親が反対している事を心配する。

さらにノットは、怪し気な手紙を最近良くもらうので気味が悪いと言いながら、その手紙を見せる。

こんなものを出すのは意気地なしに決まっているからと、そのラブレターらしき者に目を通しながら慰める。

そんな今石の町では、愚連隊の「ブクロのマー坊」こと滝村(磯野秋雄)の仲間が、五本松武富から生徒手帳を密かにスリ取っていた。

その日、宿直だった恵太郎に、弁当を持って来たのは幸枝だった。

教頭はいないと知るとほっとしたようで、自分は盛岡に嫁いだが、夫が胆嚢炎で急死したので、半年で未亡人になって実家に戻って来たなどと打ち明け話をする。

母も私が面倒観なければいけませんとぼやく幸枝の表情は暗かった。

その後、小使いの千厩と将棋をして時間を潰していた恵太郎は、教頭には5人も子供がいるが、独学で成り上がって来た人なので、関東大学出身者で固めている校長とはそりが合わない。

それで、実力者である五本松に近づいているのであり、五本松がその内議員にでもなれば、教頭も教育委員会の長くらいにはなれる可能性がある等と言った内情を、30年も小使いをしていて事情通の千厩の口から聞かされる。

その後、校舎内を見回っていた恵太郎は、校内に侵入して生徒手帳をわざと落とし、逃げ出そうとしていた不審者を見つけたので校庭まで追いかけて捕まえる。

この事は、翌朝の地元新聞にも大きく載ったので、それを読んだ若杉慎吾は、あの新任教師が泥棒を捕まえたそうだよ。どこか頼もしい青年だと思っていたが…などと話して聞かせると、ドリーム先生こと朝子は、必要以上の腕力があってもね…と皮肉る。

一方、ノットと一緒に登校していた恵太郎は、やはり、新聞で知って感心した「山小舎」の阿津子から花を渡されるが、ちょうどそこに、ドリーム先生がやって来たので、バツが悪くなり、南高へと向かうノットにその花束をやってしまう。

それを睨んでいたのは、五本松武富だった。

やがて、初雪が降る季節になり、学園祭が近づく。

今石東高では、出し物となる赤毛ものの演劇の練習を始めていたが、男子校なので、全員男がやるしかなく、何ともしまらない劇になりかけていた。

それを見かねた恵太郎は、ノットのいる女子校の南高に協力を求めてみよう。皇太子の恋人がオカマではまずいと決心する。

職員室で恵太郎の意見を聞いた押川教頭は、PTAが心配だねと首を傾げるので、一緒に聞いていた組合所属の小泉先生(佐竹明夫)は、五本松」会長は男女合同運動場の件も反対しているほどの封建思想の持ち主だからねと嫌味を言う。

すると、押川教頭は、封建思想なんて言わん方が良いよと睨みつける。

それでも、恵太郎は今石南高校に出向き、ドリーム先生こと朝子に女子の演劇への参加を打診するが、朝子は、お断りします!とその場で拒否する。

恵太郎は、今日は教師としてお願いしたい。まさか、僕に対する感情から反対なさっているのでは?と意外な返答に戸惑うが、間違いを犯したくないのです、東姣の3年生がうちの生徒に付け文をしている事をご存知ですか?と朝子は、ノットに届いた手紙を見せる。

その内容は、誤字だらけの酷い恋文だった。

さすがに、それに目を通した恵太郎は、こんな酷いラブレターがありますかね?と呆れる。

校庭では、ドリームが東高からの男女劇を拒否すたには、付け文のせいらしいわよと女子高生たちが噂しあっていたが、それを聞いていたノットは笑い出してしまう。

結局、男女劇の構想は実現せず、東高の第13周年文化祭では、男性だけの劇が上演されるが、舞台はドタバタ劇に成り下がり、会場は爆笑の渦と化す。

その夜、男子生徒たちは、たき火を囲んでキャンプファイアーのような盛り上がりになる。

それを校舎から観ていた千厩も身体を動かして楽しんでいた。

校舎内の浴場で佐久間と一緒に入浴していた恵太郎は、権力におべっか使うのか?と言う佐久間に、中間じゃダメですか?と聞くが、理想ですが、難しいでしょうねと言われてしまう。

その頃、料亭「花の字」では、芸者の真ん中で、押川先生が踊りまくっていた。

そこに、北向校長と五本松がやって来る。

東高でのキャンプファイアーは終盤を迎えていた。

その時、入浴上がりの恵太郎は、火の周囲に集まっていた五本松武富たちが、家から持って来た日本酒を飲んでいるのを発見、注意する。

すると酔った武富は、今頃親父は二号さんと楽しんでいるよなどと言い出したので、親の事をなに言ってるんだ!と、思わず殴りつけてしまう。

それを知った五本松は、暴力教員だ!この町に来て、五本松に逆らうとどうなるか思い知らせてやる!と激怒する。

翌日の東高の職員会議では、恵太郎の暴力行為についての話し合いが持たれていた。

殴った時、酔っていたのか?と聞かれた恵太郎は、風呂上がりですっきりしていた。酔っていたのは武富の方だと証言。

その時、職員室の前の廊下をやって来た五本松を、地元の新聞記者たちが取り囲んでいた。

恵太郎は、いかなる処分もお受けしますと謙虚になっていたが、そこに乱入した五本松は、そんな恵太郎の側に来ると、言うことを聞かん奴は殴るしかない。それは愛の鞭だと言い出し、恵太郎の肩を抱くと、付いて来た記者たちに、ツーショット写真を撮らせる。

翌日、啓太郎を許した五本松の写真が掲載された地元紙を、若杉とドリーム親子は読んでいた。

その後、料亭「花の字」に押川教頭を呼びだした五本松は、あれは男女共同運動場を止めさせるため、朝田啓太郎を味方につけるんだと言い、金を渡す。

どうせ反対するのは、佐久間と組合の小泉くらいですよと言いながら、押川は金を受け取る。

やがて、地元の祭りが始まる。

押川教頭は、自宅で、盛岡に出かける妻(三田玲子)から4女1男の子供たちを祭りに連れて行ってくれと頼まれていた。

しかし、押川は、妻が不在なのを良い事に、久々に尺八持参で水沢幸枝を訪ねると、恵太郎も不在と知り、これ幸いとばかり、お手合わせを願いますと頼み込む。

幸枝は、押川を迷惑がるが、無下に断る事も出来ず、仕方なく押川の尺八に合わせて琴で演奏し始めるが、そこに恵太郎が帰宅して来る。

押川はそんな恵太郎と対座すると、用向きを話し始める。

ノットと征子は、嫌いな押川に出す紅茶に七味唐辛子を入れる。

五本松会長の意を受けて一度君と話し合おうと思っていた。合同運動場に競輪場を作る計画をお持ちだ。男女合同運動場は風紀上問題があると思う。君は就職の時も、今度の事件でも、会長のお世話になっているね?と言いながら、五本松から渡された金の封筒を差し出す。

それを観た恵太郎は、買収ですか?と憮然とし、男女の合同運動場を作った方が良いと思いますと自説を述べる。

押川は紅茶を口にし、あまりの辛さに跳び上がってしまう。

押川が帰宅した後、恵太郎にお茶を入れて来た幸枝は、あんなにはっきり言って良いんですか?と心配する。

恵太郎は、兄貴の所で半年も居候していましたから、職を失うのは慣れているんですが、今さらながら、教育を神聖と信じて来た僕は教師として自信がなくなりました。東京に帰ろうと思っていますと打ち明ける。

すると、幸枝は、いけません!私たち、先生を他人と思っていませんから…と説得する。

その後、恵太郎は、ノットと征子を連れ、八幡神社の祭りにやって来る。

すると、浴衣姿のドリーム先生も近づいて来たので、この間は失礼しました。ある人から、若杉先生に近づくなと注意されていた物ですから…。その後、注意して来た方が腹黒い事が分かってきましたので…と恵太郎が詫びると、ぬれぎぬを着せたかったんですねとドリーム先生は納得し、実は、節子さんの芸大進学をお母様が反対なさっているんですが、昔、私の父が節子さんのお母さんにラブレターを出したそうなんです。それで、先生に、お手伝い願いたい事がありまして…とドリームは恵太郎に頼む。

やりましょう!何とかなりそうじゃないですか!と恵太郎も乗り気になる。

その後の休日、ドリーム先生が父親の若杉慎吾をとある茶店前に連れて来ると、先に来ていた恵太郎は、ノットの母親である水沢まきを、あらかじめ店先の縁台に座らせて待っていた。

御初にお目にかかりますと挨拶したドリーム先生は、うちの父は今石中学でしたの。お母様が女学校の時、今石小町って言われておられたとか?その時、うちの父がラブレターを差し上げたんですとまきに打ち明ける。

いきなり初恋の人の前に連れて来られ、過去の恥を娘にバラされた若杉は戸惑いながらも、ドリームと恵太郎が気を利かせて座を外すと、意を決したように縁台に腰を降ろし、養子に行って若杉姓になった為、お分かりにならなかったでしょうが、中学の時あなたにラブレターを出したのは私です。何ともお恥ずかしいと告白する。

すると、まきの方も、私もお手紙を頂いたのに、先生に見せたりして…、その事が原因で東京に行かれたとか…。今更謝っても仕方ありませんが…と詫びる。

40年の歳月が噓のようですな…と若杉は懐かしそうに微笑む。

一方、近くの牧場に恵太郎とやって来たドリームは、巧く行きましたね。人はいくつになっても、初恋を忘れられないものですか?などと聞いて来る。

草原に寝そべった恵太郎は、「砂山の砂に腹這い 初恋のいたみを遠く思い出ずる日…」と石川啄木の詩を引用し、今時、こんなロマンチックな生徒がいますかね?とぼやく。

でも、夢を持たないのも不幸だと思いませんか?今石の女は夢が多過ぎたんだと思いますとドリームこと若杉朝子は言う。

後日、馬に乗って往診に出ていた若杉は、患者の息子の学生から、薬代をちょっと待ってくれないかと頼まれるが、そんな事は気にせずに、もっと勉強せいと言い聞かせ、お前、最近、不良仲間と付き合っとるそうじゃな?と聞く。

その学生が、先生は学生時代、まじめに勉強ばかりしてたんですか?と聞いて来たので、ラブレターも書いたが…とつい口を滑らせてしまう若杉だった。

やがて、馬市が始まる。

佐久間先生は娘の百合を連れて観に来ており、ノットや若杉も見学に来ていた。

そんなノットに、わざと身体を密着させて来た不良がおり、気味悪がってノットは逃げるが、帰る途中、近づいて来たブクロのマー坊から、いけないね、あんな悪戯をしては…と言いながら、身せらぬ財布をノットの手提げバッグから取り出して見せる。

ノットはそんなもの知らないと答えるが、マー坊が、ふざけるな!と凄みながらノットを連れ出すと、近くでそれを見ていた学生が五本松の家に報告に来る。

武富は驚き、妹ミキのスクーターに乗ると、ノットが連れ去られてと言う現場に向かう。

現場にやって来た武富はチンピラたちに待ち伏せされていた。

ブクロのマー坊は、この子がレコをやったんで(と小指を鍵型に曲げて見せ)、警察に連れて行くんだ!と言いがかりをつけ、武富と乱闘になった隙に、武富の財布を掏ってしまう。

この事件は警察沙汰になるが、武富が頑強に、自分がやったの一点張り。

東高でも、職員会議の席に呼びだされた武富が、詳しい事情を聞かれる。

北向校長は、しばらく謹慎しておきたまえ。町一番の有力者の息子なんだから…と武富に命じる。

佐久間は、別に犯罪を犯している訳じゃないんだから…と弁護するが、押川教頭は、喧嘩をする必然性がないと言ってるんだよ!と反論し、恵太郎は責任は。担任である僕に全部ありますと謝罪する。

そんな押川教頭に、北向校長は何やら耳打ちして来る。

その後、「花の里」で押川教頭と密会した五本松は、あいつを東京に転校させる事で解決できんか?これからは、あいつが側にいると具合が悪い事がある。競輪場建設も間近だしな…と打ち明ける。

協力して欲しいんだ。してくれれば、君を教育委員会の最高位に推薦してやると五本松は持ちかけて来る。

その頃、ノットは自宅で、母親のまきから、今回の不祥事の事で叱られていた。

側で話を聞いていた恵太郎は、愚連隊の芝居に違いないと睨む。

しかし、まきは、元を正せば、節子!お前のせいじゃないですか!と叱る。

ノットは、本当の事を言ったのに、誰も信じてくれないんですもの…と膨れる。

その場には、ドリーム先生も来て、武富君は東京に行くそうです。節子さんに宜しくって…と伝えると、ノットは溜まらなくなり泣き出してしまう。

その後、汽車で東京に向かう武富を、のとやドリームや級友たちが踏切に見送りに来ていた。

その踏切を通過する際、ノットに気づいた武富は、窓から、ノット〜!と呼びかけて遠ざかって行く。

こうして、万引き事件は闇から闇へと葬られた。

そんな中、競輪場の建設が具体化し、ドリームは恵太郎に、競輪場反対運動に参加している父を説得していただこうと思って…と相談するが、自分の仕事だけしていれば良いんですか?世の中には見逃しては行けない事もあるんですよと、恵太郎は言い返す。

そんな2人は、東高の男子学生と南高の女子高生が輪になって、合同会議をしている現場に通りかかる。

こんな所で男女が一緒にいてはダメだと恵太郎は注意するが、座って話をしているだけじゃないですか!それを認めてもらえないなんて…、大人はええ格好しだ!男女の自由交際です!と生徒たちは騒ぎ出す。

学生たちは、自分たちは合同運動場が欲しいんだが、風紀が汚れるなどと大人は言う!と文句を言って来る。

その場に参加していたミッキーことミキは、立場上微妙じゃない?とドリームが心配する。

何しろ、競輪場推進している立役者はミキの父親五本松だからだ。

競輪場反対運動を始めた。ミッキーも我が校の同士だ…と書かれたハガキを、東京の高校に転校していた武富は、複雑な気持ちで読んでいた。

雨の降る中、競輪場反対の演説をしていた若杉慎吾の元に、恵太郎は様子を観に来るが、客たちは雨を嫌い、次々に帰って行ってしまう。

反対運動をする学生たちが配ったチラシも、雨の歩道に大量に捨てられていた。

一方、「花の字」に押川教頭を呼び寄せた五本松は、朝田の奴、反対運動に学生を動員しているそうじゃないか!と不愉快そうに問いつめていた。

県の方に連絡します。いかがですか?会長…と押川が説明すると、五本松は満足そうな表情になる。

そんな「花の字」を帰りかけていたさわ子は、道にぽつんと立っていた恵太郎を見つけると、流会になったそうじゃない?五本松は東京から代議士を呼んだわ。堂々と競輪場建設をやるそうよ。教頭はあの人に乗っかったみたいと、甘えたようにすり寄って来て話しかける。

すると、憮然とした恵太郎は、君は自分の問題だと本気で思ってないんだ?と言い捨てると、そのまま帰ってしまう。

やがて、東京から、小久保代議士がやって来て、五本松たちの競輪場建設運動は盛り上がりを見せる。

そんな中、恵太郎を訪ねて来た佐久間先生は、君は生徒たちを先導したそうじゃないか!集団行動させるのはまずいぞと警告する。

その場にいた若杉は、我々は自分の為にやっているんだと反論し、恵太郎も、相手は五本松ですよと言う。

その頃、市制刷新運動の横断幕を張ったトラックの前に、デモをしていた東高と南校も男女が立ちふさがり、ノットも含めた全員で歌を歌って走路を妨害する。

そこに、騒ぎを知った佐久間、ドリーム、恵太郎が駆けつけて来る。

この騒ぎは全国紙でも報道され、東京にいた武富も深刻そうに読んでいた。

翌日の職員室で、あのデモを先導したのは誰だ?あれじゃ、無頼漢じゃないか!と押川教頭は佐久間に問いつめる。

すると佐久間の方も、人を無頼漢とは何ですか!といきり立ち、教頭ともみ合いの喧嘩になる。

そんな中、東京に行っていたはずの武富が突然帰って来て、お父さん、あんまりボスになるのは止めて下さい!と父親の五本松に頼む。

それを聞いた五本松は、いつからそんな立派な口を聞けるようになった?それもこれもみんなお父さんのお陰だ!と五本松は言い返す。

それでも武富は、ボスになるのは止めて下さい!と必死に訴える。

その頃、南高の音楽室でピアノを弾いていたノットの元にやって来たドリーム先生は、お母様からよ、ピアノの指導宜しくって…と言いながら手紙を見せる。

そこにやって来たミッキーは、お兄さんがノットにこれをって…と言いながら、武富から預かって来た手紙を渡す。

これはいつものラブレターではない…とその手紙は書き出してあった。

父を説得しようとしたがダメだった。最後に、一目でもノットに会いたいが、未練だから止す。

君に止められるのが嫌だから…と意味深な事が書かれてあった。

それを読んだドリームは、早くしないと大変な事になるわ!と緊張する。

事情を聞いた東高と南高の男女生徒たちが、武富〜!と呼びかけながら町中を探しまわる。

その頃、当の武富は、鉄橋を一人渡っていた。

向かい側から列車が接近して来る。

それに気づいた恵太郎が、危ない!と叫びながら、武富に飛び込むと、線路脇に転がり、何をするんだ!と叱りつける。

しかし、ぐったりした武富の様子がおかしい。

毒を飲んだらしいと恵太郎が言うと、駆けつけて来たミッキーが、お兄さ〜んと涙ながらに呼びかける。

その後、料亭「花の字」にやって来たミッキーは、お兄さんが死にかけているの!あんたなんか、死ねば良いのよ!と興奮気味に、その場にいた五本松に告げる。

ミキ、どうした?と五本松が問いただすと、ワッとミッキーは泣き崩れる。

武富は、若杉慎吾の病院に入院していた。

佐久間も心配して駆けつけていた。

その時、五本松が来たと聞いた若杉は、わしが会うてやると言うと、白衣を脱ぎ捨てて玄関に向かう。

そこに立っていた五本松に向かい、若杉は、この場に及んで父親面するな!お前の為に、若いもんがどれほど困っとるか知っているか?貴様なんかに子供のことを言う資格などない!と言い放つ。

さすがに、見かねたドリーム先生が出て来て、父親を取りなし、五本松には、経過は良いですと伝える。

五本松はそれを聞くと、ちょっと安心したようで、貴様こそ、こんな良い娘さんの親父にしては出来損ないだぞと若杉に言い返しながらも、発った1人の息子だ。頼むぞ!と声をかける。

それを聞いた若杉も素直になり、良し任せとけ!老いぼれでも腕は鈍っとらん!と言いながら五本松を見返すが、2人ともいつしか涙ぐんでいた。

若杉!と五本松が手を差し出すと、若杉の方もその手を握り返す。

互いに我を張り合っていた男同士の心が通じ合った瞬間だった。

それを背後から観ていたドリームも思わず涙ぐむ。

佐久間は、僕は学校を辞める事にします。責任取らねばならんから…、いかなり利用があろうとも、目上の者を殴ったのは恥ずかしい。自分の愚かさが恥ずかしい。一旦こうと決めたなら、どうにもならん性分ですたいと恵太郎らに打ち明けていた。

翌日、押川教頭も北向校長に辞表を提出して、受理されていた。

さらに北向校長は、君には県から注意書きが来とるよ。政治運動に携わり、権力者にすり寄っていたらしいね?とは言え、これまでの30年の功績も加味して、転勤させる事にしたと言い渡す。

その後、「花の字」にやって来た押川教頭は、あの校長、昼間のネオンサインと思っていたが、とんだ食わせ物だったと言う訳か…。関東大が何だ!とぼやきながらやって来ると、五本松に、会長、助けて下さい!と頭を下げる。

すると、さわ子が突然、今度お暇を頂く事にしたの。こんな生活が続くのが嫌になりました。小さい頃から水商売にいたせいか、他の事にはメ○ラなのよ。チャンスの時、立ち上がらないとダメねと言い出す。

さらに五本松までもが、わしも一切から手を引く事にしたよ。市会もPTAも、それからあんたとも、さわ子とも…と言い渡す。

「山小舎」では、佐久間先生の壮行会が行われていた。

君も良く飽きずに飲ませてくれたからな…と佐久間は、阿津子に礼を言った佐久間が、アッちゃんの心境は?と聞くと、阿津子 は思わず涙ぐむ。

佐久間は北海道へ行くのだった。

妻をめとらば才たけて〜♪と佐久間は歌い出す。

佐久間の娘百合を、奥の座敷に寝かせに来た阿津子に、料理をしていた親父が、なして一緒に行かない?好きなんだべ?と聞いて来る。

私がいないと、お父さん、困るくせに…と阿津子が言い返すと、俺なんてよりどりみどりだ!と親父は冗談で返して来る。

翌朝、駅に見送りに来た山小舎の親父は、一升瓶を列車のデッキに乗った佐久間に手渡す。

阿津子は、佐久間に洗濯物と弁当を渡していた。

北海道には、山小舎なんて町にないだろうな…と佐久間が寂しがると、こんな哀しい女もね…と阿津子はつぶやき、急行青森行きの発射ベルが鳴り出すと、何を思ったか、急に自分もデッキに飛び乗り、私も行く!先生と行く!お父さん、荷物は後から送ってね!と親父に声をかけ汽車と共に遠ざかって行く。

見送りに来ていた若杉慎吾は、それを見て微笑む。

その駅には、5人の子供と女房同伴で、押川教頭が新しい赴任先へ転勤する為やって来ていた。

さわ子が、そんな押川教頭に、尺八と子供たちへの土産を手渡す。

誰が悪人か善人なのか、神のみぞ知ろしめす…だと押川教頭を見つけた恵太郎が呟くと、往事茫々だ…と若杉先生も感無量と言った表情で答える。

後日、南高と東高の生徒たちは、恵太郎とドリーム先生同伴で、陸中海岸にハイキングにやって来る。

男女生徒が何の垣根もなく、自由に相交わって楽しんでいる様子を見ていた恵太郎は、我々も自然に手を繋ぎましょうと言いながら、そっとドリーム先生の手を握りしめるのだった。

その後、すっかり元気を取り戻した五本松武富もノットと手を繋ぎ、波打ち際を駈けて来る。