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裸足の青春('56)

火野葦平原作の映画化で、一見「潮騒」を連想させるような島の中の男女の恋物語になっているが、本当の主人公は頑固一徹、頑迷固陋な親を演じている東野英治郎のようにも見える。

全体のタッチも、ユーモアまじりで面白く出来ているので、単なる通俗娯楽かと思ってしまうが、良く見ていると、信仰の矛盾などを突く鋭いテーマ性も持っており、なかなか侮れない。

一種の風刺劇と見るべき作品かもしれない。

「ゴジラ」では宝田明の相手役だった河内桃子が、この作品では名もない娘役を演じている。

代わって宝田明のお相手役を勤めているのは、「潮騒」(1954)で初江を演じた青山京子。

この作品でも、愛らしさと、体当たり演技を披露している。

「ゴジラ」で、ゴジラよりも怖いので「本ゴジ」と呼ばれたと言われる高堂国典も、ちゃんと仲代達矢の父親役で登場している。

その仲代達矢は、あごひげを生やし、ずる賢いと言うか、要領の良い、憎まれ役の若者を演じている。

とは言え、特に悪役と言うほど性根が腐っている訳でもなく、案外さっぱりとした、根は良い奴である。

同じイケメンタイプの宝田明が主役であるため、そちらを立てるため、わざとアクの強いライバル役を演じているのだろう。

マリ子は、「カルメン故郷に帰る」(1951)のリリイと「潮騒」の千代子を合体させたような役回りに見える。

やはり、都に錦を飾る感じである所から、本人は「芸術家」のつもりだったのだろう。

神父役の上原謙は、戦後はユーモラスな役も多いので、この作品でのおとぼけ振りはそう珍しくはないのだが、気取った奥様役が多い一の宮あつ子の修道尼の最後の登場振りは意外だった。

他にも、駐在、警察署長など、登場する人物に根っからの悪人はおらず、みな善人ばかりと言うのも、当時の映画らしい。

喧嘩をスポーツとして、村人みんなで見物するなどと言う辺りの平和な雰囲気も、宮崎駿監督のアニメを観ているようだ。

おそらく、宮崎監督が観ていたと言う古い映画の中にこういった作品も含まれていたのではないかと思う。

おそらく当時の娯楽映画としては平均的な出来なのかもしれないが、観ていて心地よい、ステキな映画に出会ったと言う気がする。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1956年、東宝、火野葦平「銀三十枚」原作、井手雅人脚色、谷口千吉監督作品。

(空撮を背景に)西海国立公園、九十九島

ここは昔、キリシタン信徒たちが迫害を逃れ、隠れ住んだ島だった。

その中の一つ「虹ノ島」では今でも、カトリック信徒たちが住む「黒村」と、仏教徒の村「白村」が対立しており、ことごとくにいがみ合っていた。(とナレーション)

「白村」と「黒村」の境界地点にやって来た駐在の三松巡査(尾上九朗右衛門)は、地蔵の足下に、ハンカチで包んだ何かを置いて、傾いた、両方の村への方向を書いた道しるべを直す。

畑仕事をしていた岡野大蔵(小杉義男)は、三松巡査から「ダイナマイト密漁」の話を聞き驚く。

1万円奮発すれば、1晩で20万は儲かる仕事なのだと言うので、そんな事をするのは「白村」の奴らに決まっとる!と吐き捨てるように言うと、大体、そのピストルが気に食わん!物騒なもの持ち込みやがって!と文句を言うので、これがないと格好がつかんのでな…と言いながら、三松巡査は、空のピストルホルダーからハンカチを取り出して汗を拭く。

確かに、「黒村」には喧嘩は起こらんからな〜…とカトリック信徒たちの温厚さを褒めるが、その瞬間、「喧嘩だ〜!」と言う叫び声が聞こえて来る。

村境にやって来た三松巡査や岡野たち「黒村」の住民たちは、そこに来ていた「白村」の連中が、「黒村」の松谷三吉(宝田明)を捕まえているのに遭遇する。

弟の五郎(伊東隆)が三吉にしがみついている。

「白村」の網元で漁協の組合長でもある林新兵衛(東野英治郎)が、1人娘のキクエ(青山京子)を伴い、血相を変えて怒っているので、ヨハネ三吉が何をしたのかね?と前に進み出て聞いたのは、「黒村」の教会の竹内神父(上原謙)だった。

夜ばいだ!と新兵衛は言う。

それを聞いた「黒村」の連中は、たらし込んだの女の方に決まっとる!と騒ぎ出す。

「白村」の連中もいきりたっており、石を投げて来たので、怒った竹内神父は、私が昔、野球選手だったのを覚えているかね?と言いながら石を拾い上げる。

三笠巡査はそんな両村の間に入り、いつ頃からだ?と聞くと、三吉は、去年の秋の鎮守の森以来と答える。

何回ぐらい会った?と聞くと、一日おきだと言う。

場所はと聞くと、色んな所でと言うので、手を握った事はあるのか?と聞いてみると、一度だって、手を握った事もない。キスもしとらん!と強く指定する。

一日おきに会っていて、手も握らんはずがないじゃないか!等と言うヤジも飛ぶ中、2人の恋愛はどうするかね?と三松巡査が竹内神父に聞くと、前例のない結婚は不幸だからね…と神父は答える。

かつて、「黒村」と「白村」の恋愛や結婚が成立した前例はなかったのだ。

今後、キクノに色目を使ったら、目ん玉くり抜くぞ!と新兵衛は三吉に怒鳴る。

何とか両村の争いは避けられた…と三松巡査がほっとした時、3人の青年が走って近づくと、その中の1人和田雄次(仲代達矢)が、喧嘩してえ奴はかかって来い!と挑発したので、「黒村」の連中は投石を始める。

その時、三松巡査は、隠しておいた銃を取ると、空に向かって発砲したので、みんなは驚いてその場に伏せる。

自宅に戻って来た新兵衛は、なんちゅう事をしてくれたんだ!俺の顔に泥を塗ったんだぞ!とまだ機嫌が悪かった。

妻のお松(沢村貞子)は、キクエに、お父さんに謝んなさいと何度も言い聞かすが、キクエは何も言おうとしない。

そんな中、父親の和田助太(高堂国典)と共に招かれていた雄次は、よか、よか、そんな話は酒飲んでからな…と仲裁に入り、みんな酒を飲み始める。

わしはバテレンは大嫌いだ!二度と三吉と口を聞いたら、ただじゃおかんぞ!と新兵衛はキクエに怒鳴りつける。

その頃、「黒村」の教会では集会が行われていた。

参加者の中には、若い娘(河内桃子)も混じっていた。

修道尼(一の宮あつ子)は、姦淫の心を持っただけでも罪を犯したのと同じ事ですと教え、ヨハネ三吉に、十戒の中の色欲に関する部分を言わせる。

汝、姦淫するなかれ…

新兵衛の家の台所で、締めのうどんの準備をしていた女中たちが、キクエさんの婿が決まったぞ!と、二階で聞いて来た情報を仲間たちに伝える。

二階では、雄二とは良い縁だと思うと、新兵衛も満足げだった。

近頃の雄二さんは、えらい景気が良いからね〜。何で儲けたんだろう?若い頃から金儲けが巧い男なんて…と台所の女中たちも噂しあう。

そんな中、二階の自分の部屋に閉じこもっていたキクノは、窓から下を観て、そこに三吉の弟五郎がこちらを見上げて合図をしている事に気づき、喜ぶ。

その頃、三吉の家にやって来た竹内神父と修道尼が、まだ三吉に説教しており、今後、異教徒の娘と会わないと、亡きご両親と天と地と精霊にお誓いなさいと詰め寄っていた。

そんな2人に向かって、ヤギの小屋の中にいた五郎は、メエエと舌を出しからかう。

三吉はその後、小舟に乗って1人で釣りに出る五郎に、沖に出ちゃいかんぞと注意しながら舟を押してやる。

五郎は、左舷に青い灯、右舷に赤い灯が灯っている幽霊船が出ると死んだ父ちゃんが言っとったと言い、幽霊船の存在を信じているようだった。

一方、先ほど五郎に知らせた海岸にやって来た三吉は、そこで待っていたキクエが、私たち、どうしてこんな島に生まれたのかしら?いつも会いに来る時、波の音も風の音も怖いくらいよ。森の中を通り過ぎる時なんて恐ろしくて…と泣くのをどうすることもできなかった。

俺はその内船頭頭になるんだ。漁師の腕前だけが俺の取り柄だと三吉が言うと、あんたシャチみたいと父ちゃんも言っていた。私、博多人形みたいにきれいになって結婚するの…とキクノは、憧れの花嫁衣装の話をするのだった。

白無垢ってのはね、どんな色にも染まりますって意味よ…とキクノは熱弁するが、照れくさくなった三吉が、五郎は大丈夫かな?と話をそらしたので、バカ!と膨れて逃げ出す。

すると転んで、貝殻で切ったみたいと言うので、三吉はキクノの怪我した右足の裏の状態を観ようとするが、キクノはくすぐったいと笑い出す。

そんなキクノの笑顔と、手にした彼女の足の感触から、三吉は欲望を感じてしまうが、教会の鐘の音が聞こえた途端、我に帰り、海に飛び込んで心を冷やすのだった。

一方、小舟で糸を垂らし、1人釣りを楽しんでいた五郎は、怪し気な舟が接近して来たので身を伏せて様子をうかがう。

その舟の前方の海面が突如爆発する。

ダイナマイト漁をやっている舟だった。

虹ノ島に向かう「黒島丸」の上で、ああ~、懐かしいわ~とうっとりしながら踊っていたのは、東京でストリッパーをやっている岡野マリ子(谷洋子)だった。

その頃、駐在所では、三松巡査が電話を受け慌てていた。

署長が不意打ちで、5年間、この島では無事故のこの島の視察に来ると言う知らせだったからだ。

それを聞いた妻お照(三田照子)は、赤ん坊の世話をしながら、事故がないのはバテレンの「黒村」のお陰よと声をかける。

船着き場で、マリ子から大量の荷物を陸揚げさせられていた船長は、他の乗客からマリ子の事を聞かれ、東京では裸踊りの名人じゃと紹介する。

迎えに来た父親の大蔵の後ろから母親ハツ(小沢経子)と一緒に自宅に帰るマリ子は、お父さんの死に水を取ってやろうと思って…などと無神経な事を言い、母さん、三吉さん、どうしてる?と聞く。

その後、畑に寝ていた三吉を見つけたマリ子は近づいて話しかける。

三吉はバツが悪そうに立ち上がるが、実は、その背後にキクノがいたのだった。

キクノはいたたまれなくなり、立ち上がってその場を逃げ出すが、それに気づいたマリ子は、そう…、そうだったのと複雑な表情になる。

そんなマリ子に、三吉は、2人の事は内緒にしといてくれと頼む。

その夜、マリ子は村人を集め、自分の踊りを披露する。

そのメロディが聞こえる中、浮き浮き気分でリズムに腰を動かしながら外から教会に入って来た竹内神父は、神父様、告白ですといきなり声をかけられたでびっくりしてしまう。

そこにいたのは三吉だった。

いつ来たんだ?と聞くと、今来た所ですと言うので、教会に入って来た私を観たのか?と聞いた竹内神父だったが、三吉は何の事か分からぬように、いいえと答える。

三吉は懺悔室に入る。

その頃、マリ子の踊りを観ていた雄次が、前に飛び出すと、マリ子と一緒に踊り出す。

見物客からは「若大将!」と声がかかる。

一緒に踊るマリ子に向かい、随分脂がのって来たなと雄次がからかうと、あんたこそ油虫に似て来たわとマリ子はやり返す。

キクエさん、別嬪になったじゃないの?あんたの嫁さんにはもったいないねぇ〜…とマリ子が踊りながら話すと、言いてえことは分かるよ。結婚式には呼んでやるよと雄次がにやけると、急に笑い出したマリ子は、女房寝取られて気づかないんだものねと意味ありげな事を言い出す。

一方、懺悔室に入った三吉は、神様と私のどっちが大事なの?と彼女から言われました。神様と言いかけたら泣き出しましたと告白していた。

あれから何度会ったのか?と竹内神父が聞くと、一日おきと言うし、どんな罰でも受けますと三吉は言うので、地獄に堕ちても良いのか?と神父が聞くと、キクエのいない天国なんて地獄と同じだとまで言う。

私には、前にいたシメノン神父だったら許してくれただろうと思う。2人が不幸になるのが主の思し召しなのですか?と三吉が聞くと、お前は懺悔に来たのか脅迫に来たのか?と竹内神父は怒り出す。

その後、教会を出て黒薮の中を帰っていた三吉は、何者かに襲撃される。

竹内神父は、漁協の林新兵衛を訪ねる。

西洋坊主は頼まん!と新兵衛はまともに話し合う気はなさそうだったが、あの2人は一緒にさせた方が良いと思うろ説得しようとした竹内神父に、うちの婿はわしが決める!と新兵衛は聞く耳を持たなかった。

さすがに切れた竹内神父は、大津波が起こって「白村」が襲われるぞ!と脅し、塩持って来い!と叫んだ新兵衛に事務員が持って来た塩壺の塩を、机にぶちまけて帰って行く。

それと入れ違う形で漁協にお松とやって来たのは雄次で、娘が何しとるか、知っとるか!と新兵衛に詰め寄る。

新兵衛は、蚫を取りに行くと言っとたが…と狼狽する。

その頃、キクエは、岩場で待っていた五郎と三吉の元へ泳いで近づいていた。

三吉は、近づいて来るキクエの背後から接近して来る小舟を発見する。

その小舟には新兵衛が乗っており、岩場に着く前に、キクエは小舟の新兵衛に無理矢理引き上げられてしまい、そのまま引き返してしまう。

連絡係を勤めた五郎は、俺、誰にもつけられなかったよ。どうして分かったんだろうな?誰が言いつけたのかな?と泣きそうになっていた。

その夜、新兵衛の自宅に五郎を連れてやって来た三吉は、俺、計画を立てとるです。5年もすればチャーター船を手に入れられると説明するが、俺の機帆船やてぐり舟を狙っとるだろう!と新兵衛は睨みつけるので、お松が仲裁しようとする。

三吉は、自分のイワシ漁の獲れ高を観てくれと訴えるが、世界中にお前1人しかおらんかっても、キクエはやらん!と新兵衛は罵倒する。

俺たち、20歳過ぎです。結婚しても誰も文句は言えないはずですと三吉が言っても、新兵衛はいきなり殴りつける。

そんな2人の会話を、離れで聞いていた女中や下男たちは、黙って駆け落ちすれば良いのにとか、あいつ、肝っ玉が小さいんだなどと噂しあっていた。

お松は、落胆する三吉に、堪忍してくれ。うちの人は口が悪いからと詫びるが、五郎と三吉はとぼとぼと帰って行く。

あんた!若いもんを叩いたりして!自分の若い頃の気持ち、忘れたんか?自分1人のそろばん勘定で決めてしまうて!と新兵衛をなじると、布団に横になった新兵衛は、俺1人を虐めるなやと情けなそうに頼んで来るが、あんた1人が悪か!とお松は責める。

しかし、帰る途中、三吉を密かに追って来たキクノが抱きついて来る。

人が来るよ!と慌てた三吉は、キクノを木陰に連れ込み、彼女が裸足で家を飛び出て来た事に気づく。

2人が木陰でいちゃついている間、道に一人取り残された五郎はしょんぼりする。

後日、「黒村」の教会では、いつものように礼拝が行われていたが、マリ子は、トランジスタラジオをイヤホンで聴きながら参加していたので、側に座っていた父親の大蔵は焦っていた。

礼拝が終わって、みんなが帰る中、五郎が竹内神父に告白がしたいと言って残ろうとしたので、三吉は慌てて連れて帰る。

教会の外にやって来たのは、三松巡査と新兵衛だった。

三吉は五郎に、何を告白しようとした?幽霊船の事だろう。雄次の爆弾漁の事なら分かっているが、告げ口は意気地なしのすることだ!と言い聞かす。

すると五郎は、今まで耐えて来た不満が爆発したのか、闇討ちされても黙っとる。かくうちする元気もない。学校でも雄次の方が偉いとみんな言っとる!と言いながら泣き出す。

それでも、告げ口するなと三吉が言うと、もうせんと五郎は約束する。

そんな五郎に三吉は、雄次の所に行って来いと頼む。

五郎は雄次に会いに行くと、兄ちゃんが村の境に来いって。それから黒薮の奴も呼んで来いって告げると、それ、何の事だい?と雄次は不思議そうな顔をするが、多分、とぼけるだろうって言ってたよと五郎は付け加える。

まさか、闇討ちするとは知らなかったと雄次に語りかけて来たのはマリ子だった。

雄次は、闇討ちしたのは誰だろう?と考え込む。

教会では、竹内神父が訪ねて来た三松巡査と新兵衛に向かい、「白村」の業突く張りにはやれん!と三吉を婿に出すのを拒否するが、それを聞いた新兵衛は愉快そうに、聞いたか?2人を不幸にしたのはこのクソ神父だと三松巡査に告げる。

女房に泣かれたら言い訳聞かんぞ。噓を言ったら、十戒とやらに背く事になるだろうと新兵衛は笑う。

そんな話を聞いていたのか、キリストの敵ですから仕方ありませんと言いながら竹内神父にバットを渡したのは修道尼だった。

それに気づき、身の危険を感じた新兵衛は、慌てて、駐在!止めんか!と怒鳴る。

その頃、五郎は、喧嘩だぞ〜!兄ちゃんが雄次をやっつけるぞ〜!と村中に触れ回っていた。

面白がった村人たちが続々と集まって来る。

三吉が村の境に来てみると、先に来ていた雄次が、黒薮で三吉を襲った5人組を殴りつけていた。

やって来た三吉に気づいた雄次は、殴られて、頭の具合はどうだ?と聞いて来たので、元に戻った!と三吉もシャレで答える。

キクエから手を引いたら許してやると雄次は言うが、神様に誓って嫁にする!と三吉は答える。

そこにやって来た三松巡査は、これは喧嘩かスポーツか?と聞くと、野次馬の中に混じっていた修道尼が、スポーツ!と答える。

スポーツじゃ止める訳にもいかんな…と、三松巡査も傍観する事にする。

野次馬の中にはマリ子もいた。

虹ノ島郵便局では、わざと受信機が故障した事にし、みんなで喧嘩を見物しに行く。

そんな最中、野次馬の中に混じっていた黒村の娘(河内桃子)を白村の青年(橋本巖)がそっと連れ出して行く。

そんな虹ノ島に舟でやって来たのは、抜き打ちの視察に来た警察署長(千葉一郎)と、教会の前任者シメノン神父(ローラン・ルザッフル)だった。

駐在所の電話が鳴るが、そこにいたのは赤ん坊だけだった。

村の境では、三吉と雄次のスポーツ喧嘩が始まっていた。

倒れた雄次にマリ子が駆け寄って励ますと、お前、よか女房になるぞと雄次は笑う。

一方、三吉を介抱するキクエが、私たち、どっかに行って一緒になろうよ!と言うと、駆け落ちするのか?と三吉は驚く。

両者の戦い振りを観ていた三松巡査は、三吉の5点リード!と発表する。

私は東京で場数踏んでるのよ!とマリ子が恋愛自慢すると、私は一度や!とキクエも言い返す。

お前、イワシ漁の船頭頭になるそうやな?と一升瓶の酒をぐい飲みしていた雄次が、その酒を三吉に浴びせかけ、スポーツ喧嘩再開する。

そこに、三松巡査の赤ん坊を抱いたシメノン神父と署長がやって来たので、驚いた竹内神父は、子供たちにシメノン神父を紹介する。

今日は、島の運動会ですか?とシメノン神父は聞いて来たので、竹内神父は答えに窮するが、スポーツならやらしときなさいと署長自ら言ってくれたので、赤ん坊を受け取った三松巡査も胸を撫で下ろす。

喧嘩を観ていたシメノン神父は、あれはヨハネ三吉君ですか?そろそろ嫁を探してやらないといけませんね。三吉は心の正しい青年です。良いお嫁さん、来るでしょうなどと言い、フレエ、フレエ!三吉!と応援し始めたので、横にいた竹内神父は複雑な顔になる。

駐在所に戻って来た三松巡査に署長は、君はスポーツの交通整理に出かけていただけだろ?と物わかりの良い所を見せる。

再び新兵衛に会った竹内神父は、2人に引導を渡すと言い出し、新兵衛も、わしは元々ヒューマニズムだったんだなどと言い出す。

坊やはみんな最初は裸ですが、大人になって着物を着ると窮屈になります。まとまる話もまとまりませんとシメノン神父が言うと、みんな考え込んでしまう。

その後、竹内神父は、イワシ漁で先に大量旗挙げた方に、キクエを嫁にすることになったと三吉と雄次に告げる。

三吉は、両親の眠る十字架の墓に参ると、お父っつぁん、おっかさん、俺に力を貸してください!イワシ漁で勝たせてください。キクエさんと一緒になれるよう応援してくださいと祈るのだった。

一方、マリ子は雄次に、三吉さんに負けないでねと応援するので、負けたら、お前と結婚するかと雄次は笑う。

いよいよイワシ漁勝負の日、浜にやって来た三吉に舟の影から声をかけて来たのは、黒村の娘と白村の青年だった。

今度、三吉さんがイワシ漁で勝って、キクエさんと一緒になったら、私たちも…と言うので、そうか!辛い想いをしていたのは俺たちだけと思ってた。きっと勝つぞ!と三吉は約束する。

出航する三吉は、自宅の二階の窓からランプを振って合図をして来たキクエに気づくと、自分もランプを振って答える。

キクエの部屋に来たお松は、三日も食事を取ってないキクエに、手作りのぼたもちを持って来てやる。

女子は色恋となると強くなるもんやとお松が励ますと、少し頂こうかなとキクエもボタもぼたもちに箸を伸ばす。

あの人とは20年も住んどるけど、これからは尻に敷いてやるなどとお松が新兵衛の事をからかっていると、そこに当の新兵衛がやって来て、何しとる!5日も飯を食わんと思っとったらこんなもん食ってたのか!お前もおれを尻に敷くだと?と2人に文句を言い、ぼたもちのお重を蹴飛ばしてしまう。

その時、外が騒がしくなったので、キクエは思わず外へ出てみるが、港から戻って来た五郎は泣いていた。

大漁旗を揚げて戻って来たのは雄次の舟の方だったのだ。

それを観たキクエも思わず泣き崩れる。

その日、新兵衛の家は、雄次の祝勝会で大にぎわいだった。

雄次と父親の和田助太が旨そうに酒を飲んでいる。

そんな中、娘を案じた新兵衛が、どんな案配だ?と聞くと、お松は、可哀想に…、泣いて、泣いて…と、辛そうに教える。

それを聞いた新兵衛も、さすがに胸が痛んだのか、落ち込んでしまう。

一方、海岸で悔しがっていた三吉は、やけ酒を飲んで教会に来ると、邪魔してるのはあんただ!と竹内神父に迫る。

男らしくない。イワシ漁で負けたくらいで…と竹内神父は叱りつけるが、神様の思し召しって何ですか?人を不幸にする事ですか?キクエの親父だって、俺が貧乏だから嫌ってるんです。俺の親父は20年かけて貯めた大金を、この教会の鐘の為に寄付し、今では、田圃が一反分しか残ってない!貧しきものは幸いなりか…そう呟いて、三吉は教会を出て行く。

その頃、浜で空を見上げていた2人の漁師たちが、これは一嵐来るかな?と話し合っていた。

翌朝、貧しい家の中で目覚めた三吉が外で顔を洗っていると、弟の五郎が、おまんまが焚けたぞと声をかけて来る。

家の中に入ってきた三吉は、五郎に、もう1人でおまんま焚けるな?イワシ漁の時くらい、岡仕事できるな?お父っつぁんたちの命日覚えているか?と聞くと、母ちゃんは11月26日で、父ちゃんは10月17日とちゃんと覚えていたので、命日にはちゃんとミサ挙げてもらうんだぞと言い聞かせると、夕べ一晩中考えたんだが、俺、出稼ぎに行く。再来年には戻ると言い出す。

それを聞いた五郎は、俺も行く!とせがむが、父ちゃんの田圃をどうするんだ?月一回の墓参り、誰もしてやらんかったら、父ちゃん、母ちゃん、寂しがるぞと三吉は説得する。

2年も経てば、みんな忘れるし、俺も忘れられる…。イワシ漁で負けたら、兄ちゃんに何の取り柄もないんだよと三吉は呟く。

そんな三吉の話を、たまたま家にやって来たマリ子は外で聞いてしまう。

五郎がたまらなくなって家を飛び出して行くのとすれ違いで家の中に入ってきたマリ子は、あんた、それほど好きってことではないのね?さっさと逃げようってほどのものじゃない。ねえ、あたしじゃダメ?考えずにやっちゃえば良いのよ。マンボ族の方が得意だわと誘惑して来る。

しかし、三吉は、俺、ダメなんだ…と言うので、キクエじゃなきゃ?とマリ子もがっかりする。

そこにやって来たのが、三松巡査と新兵衛、竹内神父で、いきなり三吉の家の中を物色しながら、腹いせにバカな事をしようとしたんじゃないだろうな?などと聞いて来る。

何事かと三吉が聞くと、駐在のピストルがなくなったんだと新兵衛が言う。

いつも、村の境に来るときは、地蔵の所にハンカチで包んだ拳銃を置いておく習慣だった三松巡査が、弾は5発入っていると言うと、五郎はどこに行ったんだ?と慌てて三吉は探し出す。

兄ちゃんが待っていると言われ、階段を登って神社の境内にやって来た雄次は、後ろから付いて来た五郎が、背中に隠し持っていた拳銃を突然突きつける。

三吉を先頭に、巡査、神父、新兵衛たちがやって来ると、五郎は、来ちゃいかん!と叫び、拳銃の引き金を引く。

雄次は、いきなり撃たれ、身をすくめるが、まだ五郎が銃を向けているので逃げられない。

その時、イエス様の弟子にペドロと言う漁師がいました…と、突然語りながら階段を登って来たのは竹内神父だった。

イエス様は、湖で奇跡を起こしたのです。水の上を絨毯を歩くように歩いたんです…、竹内神父はそう続けながら階段を登る。

五郎は、来ちゃいかん!と叫ぶと、又発砲する。

しかし、次の瞬間、五郎の背後まで来ていた神父が、五郎の手から拳銃を奪い返す。

五郎!人を殺したら、どんな事になるか知ってるか!と三吉は五郎に詰め寄るが、拳銃を手にした竹内神父は、緊張のあまりその場で気絶してしまう。

五郎は泣き出していた。

三吉と五郎には、島を出て行ってもらおうと新兵衛は、三松巡査に自宅で言い渡していた。

二階にいたキクエは、マリ子が上がって来た事に気づくと、何しに来たの?私が泣いている顔、観に来たの?と振り向きもせず問いかける。

あんた、前に、一度きりの色恋って言ったでしょう?だったら、あんたに教えてあげる事があるのとマリ子は言う。

その夜、五郎が寝た後、嵐が迫る中、三吉は海辺に向かい、舟に乗り込もうとする。

その時、舟の影に隠れていたキクエが立ち上がり、連れてって!どうして一緒に行こうと言ってくれないの?と責めて来る。

そんな中、家で寝ていた五郎が、兄がいなくなっていることに気づき、兄ちゃん!と叫びながら海辺に来る。

新兵衛の家に竹内神父と共にやって来た三松巡査は、がっくり気落ちしている新兵衛とお松の様子を見て、そうか…、キクエさんもおらんのか…と愕然とすると、あんたら2人のせいだぞ!と新兵衛と竹内神父をなじる。

一方、雄次も、三吉が逃げ出したと言う知らせを受け、仲間たちを港に集結させる。

舟を出航させた雄次は、武器庫の中を五郎が乗り込んでいるのに気づく。

五郎は、ダイナマイトを持っており、舟を出すなら、火を点けて爆発させるぞ!と脅して来る。

野郎!二度も脅かしやがって…と睨みつけた雄次だったが、五郎が、密漁だって知っとるぞ!兄ちゃんと俺は知っとるぞ!と言うので黙り込む。

兄ちゃんはそれでも駐在にも神父にも言うとらん。男らしくない事はするなって!と言いながら五郎は泣き出す。

それを聞いた雄次は、分かった。俺が悪かった。しかし、この舟は出さにゃならん。兄貴を助ける為に出すんだと優しく言って聞かす。

こうなるしかなかったんだ。島出るしか…、二度と島の連中の顔を見なくてすむんだ!と、荒れ狂う夜の海の中に漕ぎ出した小舟の中で三吉は言っていた。

しかし、一緒に乗っていたキクエは、ねえ、島に戻って!といきなり立ち上がると、櫂をこいでいた三吉に抱きついて来る。

危ないったら!俺と一緒になりたくないのか?と三吉は狼狽するが、抵抗するキクエともみ合っているうちに、いつしか櫂を流してしまう。

いや!帰して!みんなにすまないじゃない!神父さんや駐在さんや、父さん、母さんにも…

みんなが許してくれないからって、こんな真っ暗な海で一緒になれる訳ない。幸せになれる訳ないでしょう!とキクエは訴える。

みんなを哀しませたくない。みんなを怒らせたくない!そう言って、キクエは夜の海に飛び込んだので、驚いた三吉も飛び込んで後を追う。

人の大事な娘をかどわかして、みんなで、わしの大事な娘を奪ったんだ!と新兵衛は家で怒鳴っていた。

そこへ、舟が見つかったぞ!キクエさんも三吉も乗っとらん!と漁師が知らせに来る。

海岸に、舟だけが流れ着いたのだった。

そうか…!心中しとったんか…、そんなに好きおうとったのなら、一緒にさせてやりたかった…と集まっていた村人たちは泣き出す。

お松も、だから、一緒にさせてやれと言っとったのに!と新兵衛を叱りつけるが、さすがに新兵衛は返す言葉もなく、憔悴しきっていた。

みんなが2人を殺したのよ!とマリ子が叫ぶ。

お松は仏壇に手を合わせる。

その時、三吉じゃねえか!と叫ぶ声が表でしたので、思わずお松が玄関から出てみると、そこにキクノを抱きかかえた三吉が歩いて来ていた。

キクノの意識はなく、その場にいた村人たちが受け取ると、三吉も力尽きたようにその場に倒れ込む。

キクノの往診に来た保健所の老医(安芸津広)は、いかんのか?と新兵衛が聞いても、助かるのか?と聞いても、う〜ん…と唸るだけなので、新兵衛は癇癪を起こしかけるが、老医は、佐世保から医者を呼んでくれと言い出す。

その時やって来て、カンフルを打ってください!などとてきぱき老医に指示を与えて来たのは修道尼だった。

気がついた三吉に、見直したぞ、バテレン!良く帰って来たなと褒めていた雄次は、棒を持って、バテレン、ぶち殺してやる!と血相を変えてやって来た新兵衛を止める。

キクエさんに腹が立った。俺よりも家族や村人の事を考えるキクエさんに腹が立った…と三吉は告白する。

暗い海で一緒になるのは嫌だの、明るい日の下で、島の人に祝福されて結婚したいのと言い、泳いで帰ろうとしたんだ!俺も、キクエさんが言うように、島で一緒になります!と決意を述べる。

まだ言うか!と新兵衛が殴り掛かろうとすると、竹内神父が制止する。

貴様も、キクエを洗礼させんと結婚させんと言っとじゃないか!と新兵衛が責めると、ヨーロッパでは洗礼しなくても結婚出来る方法があると、シメノン神父がおっしゃっていましたと竹内神父は答える。

その時、一緒にさせてやれと声をかけたのは雄次だった。

権六!一緒にさせてえか?と仲間に聞くと、権六は頷き、庄六!良介!雄太!勝二!と次々に聞いて廻ると、みんな頷き、賛成だ!一緒にさせてくれ!と声を挙げる。

それを聞いていた三松巡査も、ちゅう事たい…と新兵衛に言う。

その時、二階から降りて来た老医が、引き潮は何時だ?と聞いて来る。

潮の引く時が、もしかしたら…と老医は呟く。

それを聞いた新兵衛は、ふらふらと立ち上がると、玄関から表に出て行く。

その場にいたみんなは、宗派を越え必死に祈り始める。

港の突堤に来た新兵衛も、手を握りしめ祈る。

マリ子も祈っていた。

明け方、水をくれ…と言って、老医が降りて来たので、末期の水か?とみんな緊張するが、俺の飲む水だよ。助かった…と言う。

二階の部屋では、修道尼が祈りを捧げていた。

お松が見守る中、布団に寝かされていたキクエは目を開いていた。

キクエの目の前には、三吉と五郎がいた。

その姿を観たキクエは泣き出す。

階段口でその様子をうかがっていた雄次は、そっと五郎を下に降ろしてやる。

下では、全員が炊き出しの飯を食べていた。

新兵衛は愉快そうに、二階から降りて来た五郎に、でっかい握り飯を2つ持たせてやる。

台所では、マリ子が器用に漬け物を切っていた。

その側にやって来た雄次は、俺は料理の巧い女を女房にしようと思ってると話しかける。

その後、村の境にあった道しるべから、「黒村」と「白村」への方向を示す板が外されていた。

村では祭りが行われており、マリ子と雄次が楽しそうに踊っていた。

あの黒村の娘と白村の青年も手を繋いで、笑いながらどこかに去って行く。

三吉とキクエも手を繋ぎ、楽しそうに、踊りの輪から抜け出して行くのだった。