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御用聞き物語

ニッポン放送の連続放送劇の映画化で、上映時間61分の中編。

ニッポン放送は1957年に設立された会社のようだから、すでにその直後の人気番組から東宝で映画化されていたことになる。

つまり、ニッポン放送とフジテレビの関係を考えると、その後のフジテレビと東宝の長い付き合いのきっかけは、もうこの当時から始まっていたのかもしれない。

内容は、当時お馴染みだった庶民の人情ものだが、映画版の舞台は、どうやら東宝がある世田谷砧近辺のように見えるので、下町人情ものと言うより、山の手人情ものと言った方が良いかもしれない。

比較的裕福な家が多い山の手なので、御用聞きが毎日廻るのも不自然ではない。

とは言え、「御用聞き」と言う仕事自体、今は見かけなくなったので、ピンと来ない人もいるだろう。

酒屋や肉屋、魚屋、クリーニング屋などが、毎日、町内の各家庭を廻り、その日の注文がないかどうか聞いて廻る仕事で、昔の日常ドラマには良く登場していたが、個人的に実際に観たことがあるかと言うと、ないような気がする。

食品や日常良く使う雑貨類などは、わざわざ店まで買いに行く必要がなく、配達もしてくれるし、ツケもきくので、それなりに便利なシステムのように見えるが、時代の変化と共に、なくなって行ったシステムの一つなのだろう。

このドラマでは、九州(?)から上京し、大学まで出た青年が就職難でなかなか仕事口が見つからず、やむなく、下宿をしている親戚夫婦の店の手伝いとして、何となく御用聞きを始めると言う展開になっている。

そもそも御用聞きと言うのはインテリがやるような物ではないと言うイメージがあったからか、大学出の青年と御用聞きと言う仕事のギャップの面白さを強調しているように見える。

しかし、当たり前のことだが、職業に貴賤なしで、最後は、御用聞きの仕事にどこか偏見を持っていた主人公が同業者に諭され、その考えを改めるようになるまでが描かれている。

主人公平九郎を演じている小林桂樹は、この当時からややぽっちゃり体型でおじさん風に見えるので、大学出たばかり青年と言う感じには見えないのだが、柔道をやっている朴訥で人当たりが優しいキャラクターになっている。

地方出身の平九郎と対比的に、クリーニング屋の娘トシ子を演じている中村メイコは、小柄ながら、口が達者で元気一杯で明るい都会型の少女を演じている。

当時、23歳くらいのはずで、「田舎のバス」が大ヒットした後なので、今で言うアイドル人気のピークだった頃かもしれない。

いわゆる美人と言うタイプではないが、やはり20前後の年頃なので、それなりに愛らしい顔つきである。

ちなみに、この映画の音楽を担当しているのは、この年に中村メイコと結婚する神津善行。

平九郎の両親は、左卜全と三好栄子と言う、当時のお馴染み脇役。

その左卜全の役名が平吉で、三河屋の主人の名前が常吉であることから、この両名が兄弟同士と言う設定なのかもしれない。

つまり、主人公平九郎は、東京の叔父夫婦の家に居候していると言う設定になっているのだろう。

平九郎の出身は、両親の言葉などから推測して、九州福岡辺り…ということではないだろうか?

平九郎の幼なじみとして、「ゴジラ」(1954)の河内桃子が出ているし、大村千吉なども出ているので、怪獣世代にも嬉しい。

大村千吉は堺左千夫と共に、ちょっと柄の悪いライバル御用聞きの役だが、東宝の作品だし、内容も明朗ドラマなので、悪役と言うほどのキャラクターではない。

クリーニング屋のトシ子の父親を演じているのは松竹の坂本武で、この人もなかなか存在感がある芝居を見せてくれる。

全体的に、特に大きな事件が起こるでもなく、淡々とした日常ドラマで、貧しい家庭の描写などもあるが、特に、お涙頂戴のようなベタベタした印象はなく、ユーモア表現もあっさりした印象で、濃いドラマや派手な展開が好きな人には物足りないかもしれないが、当時の東京の町並みの様子などは今観ても興味深いし、穏やかに楽しめる内容だと思う。


▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1957年、東宝、山下与志一原作+脚色、笠原良三脚色、丸林久信監督作品。

三河屋酒店の文字が入った自転車がとある家の前に置いてある。

瀟洒な家の玄関でチャイムを押していたのは、臨時の御用聞きをやることになった平九郎(小林桂樹)だった。

いぶかし気に庭先から出て来たその家の婦人(宮田芳子)は、不審気に平九郎を観るが、三河屋の臨時のアルバイトみたいな物で…と挨拶した平九郎が、ビールを6本お持ちしました!と用件を伝えると、婦人は一応納得しながらも、こんな玄関から来ないで、お勝手口の方へ廻って頂戴と注意する。

その頃、三河屋では、女将のミネ(沢村貞子)が、戻って来た主人の常吉(富田仲次郎)に、職安どうだった?と聞いていた。

常吉は困った顔で、今頃、酒屋の小僧なんかになりたい奴はいねえよ…、三平の奴、急に辞めちまいやがって…とこぼす。

すると、ミネは、平九郎さんに頼んだのよ。就職難だから…、就職が決まるまででも…と思ってさと教えたので、田舎の酒屋をいやがって出て来たのに、なんて言われるか分からないぞと常吉は呆れたように答える。

その夜、三河屋の二階で就職用の履歴書を書いていた平九郎に、夕食の準備ができたと、いつも宿題を手伝わされている三河屋の高校3年になる娘久美子(野上優子)が伝えに来る。

夕食の席で、ビールを常吉からついでもらった平九郎は、ちょっとお手伝いをしたくらいでこんなことされても…と恐縮するが、そんな平九郎に常吉は、続けてやってもらえないかな?と言い出す。

え?毎晩?と平九郎は、晩酌のことだと一瞬勘違いするが、常吉は、手伝いの方だよ!と呆れて訂正する。

三平の奴が自衛隊に入ると言ってるんで弱ってるんだ…と常吉が事情を話し、就職するまで…とミネも頼む。

すると、平九郎の方も、僕も漠然とそんなことを考えていた所ですと真面目な顔で言うではないか。

喜んだ常吉が、もちろん金も出すよと言うと、そうですか!と急に笑顔になる現金な平九郎だった。

久美子は、三河屋で~す!なんて言えるかしら?と平九郎をからかう。

翌朝、平九郎は、自転車に乗り、ちわ~!と御用聞き風の挨拶の練習をしながら仕事に出かける。

最初の家に入り、何か御用は?と聞いた平九郎だったが、出て来た婦人(藤間紫)は、あんた八百金って知ってる?その駅前の八百屋で大根を一本買って来て。それから、消防署の側の蕎麦屋で、タヌキうどんをお昼までに届けさせて、揚げ玉大目にってね!と言うので、バカ正直にそれをメモし、あっけにとられたように家を出て来る平九郎。

次の家にやって来ると、家の前で若い娘と男の子たちが野球ごっこをしており、その玉がそれて飛んで来たので、投げ返してやる。

あんたどこの?とその娘が聞いて来たので、三河屋ですと名乗ると、あんた、三平ちゃんの代わりなの?と言い、奥さんなら、今電話をかけに行ったのと教えてくれたので、お嬢さん、ありがとうございますと礼を言うと、その娘はお嬢さんじゃないわよと笑って名刺を渡して来る。

そこには、「ホワイト軒」と言うクリーニング屋の名前が入っていたので、その子も御用聞きのトシ子(中村メイコ)だと分かるが、トシ子は、一応先輩になるって訳ねと威張ってみせると、奥さん、帰って来たら、注文取っといてあげるわ!と言うと、又、子供たちと野球ごっこを始める。

とある日曜日、偶然そのトシ子と一緒にとある家を訪ねると、出て来た主人(有島一郎)が、大きな声を出さないで!家内がまだ寝ているから!と低姿勢で勝手口に出て来る。

そして、女房の物らしい下着を、これは絹糸だから家では洗えないと言い、トシ子に渡すと、一緒に持って来たワイシャツの方は自分で洗濯すると言う。

そして、平九郎の方には、ビールの小瓶3本と言いかけて、葡萄酒の方が良いかしら?と迷い出す。

奥さんが飲まれるんですか?と平九郎が聞くと、僕は飲まないの。ちょっと飲んだだけでも頭が痛くなっちゃうからなどと言う。

後、磨き砂とちり紙などと言うので、うちでは扱っておりませんと平九郎が断ると、奥から女房(一の宮あつ子)が起きて来て、あなた!何だらだらおしゃべりしているの!男って本当におしゃべりね!と睨みつけながら、冷蔵庫から牛乳瓶を取って奥へ戻って行く。

表に出た平九郎に、もう一軒あるぞと言い出したトシ子は、後で焼酎1本うちに届けてと言う。

店に戻って来たトシ子は、店番をしていた職人の助さん(佐田豊)に、父ちゃんは?と聞くと、組合に行きましたと言う。

そこに幼い弟の正夫(伊東隆)と妹の路子(宮本良子)が遊びから帰って来たので、正夫の方には、あんたも店が忙しい時には配達手伝うのよと言い聞かせるが、正夫は、恥ずかしいんだもん。友達の家行くからとすねる。

姉ちゃんだって最初は恥ずかしかったのよと言い聞かせ、新しい下着を持たせて路子と共に銭湯に行かせる。

助さんは、そんな母親代わりとしてかいがいしく働くトシ子に同情したように、母さんが亡くなって…と思い出す。

7年よ。私が小学校出る時で、ちょうど、この店をやり始めた頃だった…とトシ子が捕捉し、助さん来てから、父ちゃん怠け癖がついちゃったと嘆く。

寂しいんですよと助さんは、店の主人のことを弁護するが、トシ子には良く理解できなかった。

そこへ、平九郎が、先ほどトシ子が頼んだ焼酎を持ってやって来る。

133円ねと言いながら、金を渡そうとするが、細かいのがないと言うと、後でお釣りを持って来ると言いながら金を受け取った平九郎は、店の奥にかけてあるスーツを観ながら、凄い服だな~と感心する。

あんただったら安くしとくわよとお愛想を言ったトシ子だったが、そのまま帰ろうとする平九郎に忘れ物!と声をかけ、何か忘れたかな?と戸惑う平九郎に、まいどあり~!と挨拶を先輩として教える。

その晩の夕食時、卓袱台を挟んで食事するトシ子に、正夫と路子は、それぞれ学校から熱海と三浦半島へ遠足があり、弁当がいることを打ち明ける。

トシ子は任しておきなさいと答えるが、正夫は持っている水筒が漏れていると言い出すし、路子の方はリュックサックの肩ひもが取れていると言いながら持って来る。

縫ってあげるわよとトシ子が答えると、水筒は縫えないよと正夫が不満そうに言うが、その時、水筒くらい買ってやれよと言いながら父ちゃんの広介(坂本武)が帰って来る。

俺の小使いで買ってやるよなどと景気のことを言うので、正夫は喜ぶが、あんまり当てにするなよと広介はトーンダウンする。

そして、晩酌の1本くらい付けろよと言い出したので、父ちゃん、寂しいのね…とトシ子は、助さんから聞いた通り繰り返し、本当はね、1本買ってあるのと言いながら、さっき平九郎に届けさせた焼酎を取り出すと、今日はお目出たい日だもの。父ちゃんの誕生日じゃない!と教える。

それを聞いた広介は、喜びながら、お前、言うことが最近、母ちゃん、そっくりになって来たなと言いながら、壁に掛けてあった亡き妻(日本髪を結った中村メイ子)の写真を見上げるのだった。

翌朝、三河屋では、朝御用聞きに出かける平九郎を前に、ミネが常吉に御用聞き用の帳面を渡したかい?と聞きに来る。

すると常吉は、もう自分で帳面作ったんだってよと教える。

平九郎が出してみせた手帳には、担当する2丁目と3丁目の地図が書かれており、そこで廻る家の中に赤い印が付けられた家が数軒あり、そこは先月分の借金が溜まっている家なのだと言うので、やっぱり違うね、大学出は…とミネは感心する。

その後、借金が貯まっている都民住宅の一軒に向かった平九郎は、家の前で泣いているランドセルを背負った女子児童を見かける。

やがて、その母親が家の中から出て来て洗濯物を干し始めるが、やっぱりその女の子は母親の背中に向かって泣き止もうとしない。

えい子と呼ばれたその女の子が泣いているのは、どうやら、学校に持って行く来月の給食費がなくて、どうそれを先生に説明すれば良いのか分からないかららしかった。

母親が言うには、亭主が先日トラックに撥ねられて入院したので、借金も、もう5〜6日何とか待って欲しいらしかった。

さらに、小学生のえい子は、明日、学校から映画に行くので30円いるのだと母親に言うが、その内もっと良い所に連れて行ってやると母親は言うだけで、無理矢理娘を学校に行かせる。

平九郎は、哀し気に学校に向かうその娘の後ろ姿を観て耐えきれなくなっていた。

母親の方は、平九郎が借金を待ってくれると分かると、ミソを50匁持って来てくれるかしら?とちゃっかり注文する。

それを聞いた平九郎は、自転車で先に出かけた娘の後を追いかけ、追いつくと、お手手を出してごらんなさいと言い、少女が差し出した手のひらに30円握らせてやる。

そして、これはお母さんにあげるお釣りだから良いんだよとごまかすと、嬉しそうになった少女に、行ってらっしゃい!と見送るのだった。

橋の所で休んでいた平九郎に、声をかけて近寄って来たのは、御用聞きの途中のトシ子だった。

平九郎が気落ちしているようで、集金の帰りと言うので、お金を落としたんだろうと思い込み、良く探してみたまえなどと偉そうに言うが、落としたんじゃなく、お金を全然もらえなかったんだ。さっきは女の子にお小遣いを上げたくらいだよと平九郎がしょげるので、私たち御用聞きは民政委員じゃないのよ。御用聞きは御用を聞いて来るだけではなくて、集金を卒業しないと一人前になれないのよとトシ子は指摘する。

そんな2人の様子を近くから観ていた2人の御用聞きが、バイクに乗って2人の横を通り過ぎながら、からかって来る。

何だ?あいつら?と言う平九郎に、あんたの商売敵よ。高井屋の鉄(堺左千夫)と六(大村千吉)って言う嫌な奴よとトシ子は教える。

その後、踏切の前にやって来た平九郎は、先輩に当たる吉沢(伊豆肇)の姿を見かけたので、思わず声をかけて呼び止める。

吉沢は、丸菱工業に入社した、平九郎の憧れの先輩だった。

この近所におるとですか?と九州訛がつい出てしまった平九郎だったが、吉沢の方も、大村くん!と懐かしがり、どっか飲む所ないか?と言い出したので、小料理屋「ちどり」に案内し、一緒に飲み始めることにする。

サラリーマンに憧れている平九郎は、吉沢の給与のことなどについて詳しく尋ねてみる。

固定給に加え、能率給があり、年二回の賞与もあるし、退職金もあると吉沢が教えたので、やっぱり就職するには大企業が良いなと平九郎はため息をつく。

しかし、吉沢は、一流は狭き門だと言い出し、うちなんかは650人に1人、一流の銀行や会社だったら、3000人に1人の割合でしか採用されないと言う。
その頃、三河屋では、常吉とミネが、算盤を前に、平九郎の月給をいくらにしようか相談していた。

やはり、大卒ということを考えると、そうそう安くも出来ず、住み込みということも考慮して大体の金額を弾き出していた。

「ちどり」では、吉沢の意見を熱心に手帳に記していた平九郎だったが、サラリーマンも大したことはない。あれこれ払うと、小使いはゼロに近い。靴は減るし、君には分からんだろう。自転車に乗って口笛吹いていられる君の方が羨ましいよなどと言うので、からかわないでくださいと平九郎はむっとする。

そして、タイムレコーダーを押さんと残業にならないんだと言い、立ち上がった吉沢は、すっかりごちそうになっちゃって…と言いながら、さっさと帰ってしまう。

残された平九郎は唖然とし、店の女将(水の也清美)に、お勘定、2、3日、待ってくださいと頼む。

すると、女将も笑いながら、良いわよ。うちもお宅の店からツケで買っているんだからと言い、今月分、もうちょっと待っててねと逆に頼んで来る。

その後、三河屋に平九郎が帰って来ると、待っていた常吉が話があると言うので、平九郎の方も話があると言い、今日が月末なんで…と言うので、そのことだったら、こっちも考えていた所だと常吉は喜び、まずは平九郎の言い分を聞こうと言う。

平九郎は手帳を取り出すと、それを読みながら、サラリーの額なんですが、要求額を割り出してみました。固定給と能率給に世間一般の通年を考慮し、データに基づいて…とか、給与ベースの問題ですねなどと急に難しい言葉を言い出したので、聞いていた常吉やミネはハラハラし出す。

それをひっくるめて、こういう金額になりましたと言いながら手帳を差し出したので、それを受け取り読んでみた常吉は、急に拍子抜けしたような顔になり、笑い出すと、お前本当にそれで良いんだな?だったら100円別に出そうと言い出したので、横で聞いていた常は驚くが、これでさっきお前と決めた額になったのさと常吉が言うので、ミネの方もほっとし、みんなで笑いあうのだった。

ある日、御用聞きから三河屋に戻って来た平九郎に、ミネが速達が届いていると渡してくれる。

それをざっと読んだ平九郎は、弱ったな…、両親が国から出て来ると言うので、ミネも、兄さんたちが?と驚く。

靖国神社に康彦さんの納骨に来るんだと平九郎は教え、実は両親には、丸菱工業に就職したって言っているので、来ている間だけでも話を合わせていてくれないかと常吉らにも頼む。

あんたは、兄さんたちが年取って出来た子だからね〜…とミネが感慨深気に言うと、横で聞いていた久美子が、ついでに会社も見せてあげたら?などとからかって来る。

二階の部屋に上がった平九郎はまだ考え込んでいた。

手紙には、幼なじみで東京の学校を卒業した小松川夕子も一緒に上京します。会社勤めしているお前の夢を良く見ます。背広姿で銀座とやらを案内してもらいたいものですと書いてあったからだ。

平九郎は、タンスに箱に入れたまましまい込んであった背広を取り出して、じっと眺めるのだった。

やがて、東京駅に、平九郎の父平吉(左卜全)、母シズ(三好栄子)、そして幼なじみの小松川夕子(河内桃子)を背広姿で迎えに来た平九郎は、両親をタクシーに乗せるが、夕子は、目黒の妹の家に行くと言って、別の車で行ってしまう。

その夜、三河屋に落ち着いたシズは、ほっとしましたばい。この子は人一倍わんぱくでしたからと嬉しそうに言っていた。

それを聞いたミネも、今ではお得意さん廻ってますからね〜と相づちを打つが、それが御用聞きのことだと気づき、慌てて取り繕う。

久美子が、今、高校3年生だと挨拶すると、それじゃあ、そろそろ嫁に行く年頃じゃの〜などと言っていた平吉は、平九郎にも嫁を見つけてやろうと思っていると言い出す。

夕子さんと言う方はどうなんです?とミネが言うと、シズは、あの娘なら申し分なかが…と満更でもなさそうだった。

そんなシズは、気まずそうな表情の平九郎に酌をしてやり、それを観た平吉は、こいつ、もう一人前に飲みよるばいと我が子の成長振りに目を細める。

翌日、両親と夕子と共に靖国神社を詣でた平九郎は、今度はいつまでいるつもり?と夕子に聞く。

夕子は、予定なしよと答え、私、平九郎さんにお話があるのと言う。

兵吉は靖国神社詣でが無事終わり、浮かれ気味に喜んでいた。

夜、銀座の喫茶店で平九郎と2人きりになった夕子は、相談に乗ってくれる?と言うと、私、平九郎さんのことが好き。でも、死ぬほど好きってほどじゃないと言う。

あなたは私のこと、好き?と聞かれた平九郎は、僕は御用聞き…とうっかり言いかけ、みたいなものだから…と曖昧な返事をすると、やっぱりあなたもそうなのねと言いながら、夕子は平九郎にシガレットケースのタバコを勧める。

そして、私、結婚するかもしれないと言うと、驚く平九郎に、行きましょうか?と言い、席を立って店を出る。

翌朝、三河屋の二階では、背広を着込んだ平九郎が、両親に挨拶して会社に行く振りをしていた。

そして、下に降りた平九郎は、休んだって良いのよと言うミネに、そう言う訳にも行きませんと言い、カバンを預けると、自転車に乗って、いつのものように御用聞きに出かけるが、その後ろ姿を二階の窓から目撃したシズは、東京では、自転車で会社に行くのが流行りなんか?と不思議がっていた。

その日、平九郎は、建築中の家の大工に、この家の人は、いつ頃入られますか?などと聞いていた。

それを遠くから観ていた高井屋の鉄と六は、その直後、バイクで自転車の平九郎に近づくと、話があるんだ。ちょっと来いよ!と呼び止める。

そして、他の御用聞きたちも集まっていた近所の公園に連れて来られると、この頃、売り出し過ぎじゃねえか?少しは仁義をわきまえろ!人のお得意様取りやがって!と因縁をつけて来る。

そして、憮然とする平九郎に、分からなけりゃ、分からしてやらあと言いながら組み付いて来たので、平九郎はやむなく、背広姿のまま喧嘩の相手をすることになる。

そこに自転車でやって来たのが、ホワイト軒のトシ子で、空手の真似をする鉄を、あっさり背負い投げしていた平九郎たちの間に入り、六が平九郎の背広の左袖を引きちぎっていたところで、勝負あった!と声をかけ、喧嘩を止める。

鉄はしらけたように、お前柔道やってんのか?と聞き、平九郎は2段だよと答えると、こいつ…、この方が、縄張り開拓していらっしゃるから…などと、急に低姿勢な口調でトシ子に喧嘩のきっかけを説明する。

それを聞いたトシ子は、あんただって、三平ちゃんの馴染み、2軒取ったじゃない!とたしなめると、三河屋君、君も先輩を立てなくちゃと平九郎にも説教し、両者に握手をさせ、仲直りさせる。

御用聞きたちが立ち去った後、残ったトシ子は、ハンカチを水飲み場の水で濡らし、顔を押さえて元気がない様子の平九郎に冷やすように勧める。

しかし、平九郎は、僕は今日つくづく嫌になった。殴り合ったり…、これじゃあ、御用聞きそのもの、小僧だよと自嘲する。

それを聞いたトシ子は、どうして自分の職業をバカにするの?私だって最初は嫌だったわと言い聞かすが、君は単純で羨ましいよ等と平九郎が言うので、私はね、私たちがいなけりゃ、お客様が困ると思ってやっているのよ。それを、そんなノイローゼのコンプレックスみたいになるなんて…と怒り、そのまま去って行ってしまう。

1人公園に残った平九郎は、トシ子の言葉を噛み締め、あの子の言う通りだと初めて納得する。

三河屋に帰って来た平九郎は、二階でシズに背広の袖を縫ってもらうが、シズは、夕べ、夕子さんと何を話したんだ?と聞いて来る。

実、未だ熟さずってことになっちゃったんだと平九郎は答えるが、そこに風呂上がりの平吉が戻って来て、六、お前も汗流して来い。良う聞きゃあ、埃をかぶる仕事だそうじゃないかと声をかけて来たので、平九郎は、自分が御用聞きをしていることがすっかり両親にバレていたに気づく。

シズも何もかも知っている風で、父さんも昔やっとった。大学出のお前がそんなことをやっとるとは…。お前にも国の仕事を手伝ってもらいたい。人間、修行が大事だと嬉しそうに言い聞かせる。

背中流して来い!と平吉から勧められた平九郎は、爽やかな顔になり、はい!と答える。

翌日も、自転車に乗り、口笛を吹きながら御用聞きに出かけた平九郎は、踏切の所でトシ子と出会うが、トシ子は昨日のことがあるためか、つんとした顔のまま、平九郎のことを無視している。

走り去るトシ子の自転車を追いかけた平九郎は、横に並んで走るが、まだトシ子の機嫌は直らない。

それでも、いつしかトシ子は笑顔になり、平九郎に微笑みかけるのだった。