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永遠の0

製作委員会の幹事が東宝であるせいか、どこか、かつて東宝が作っていた「8.15シリーズ」を連想させるような感動(お涙)戦争映画。

…とは言え、もはや、戦争を知る者は、製作側、観客共にほとんどいないはずで、戦争を全く知らない姉弟が、祖父のことを調べて行くうちに浮かび上がる意外な事実…と言う、あくまでも現代目線の内容を、現代と戦時中の回想が交差する形式で描いた展開になっている。

つまり、どっぷり戦時中を再現するようなドラマと言う訳ではないので、激しい戦闘シーンの連続や、リアルな軍隊生活のようなものを期待しているミリタリーマニアのような層には、少し期待はずれではないかと思う。

その分、いつもの山崎監督らしく、老若男女、どの層にも受け入れ易いマイルドな仕上がりになっていると思う。

原作は未読だが、話の展開もなかなか巧妙に出来ており、最初は、臆病者と言うネガティブな評判しかなかった祖父が、物語が進むにつれ、徐々に、素晴らしい人格者だったことが判明して行く過程は面白い。

VFXも、日本の乏しい予算枠にしては良く健闘しており、シーンによっては本物か?と疑いたくなるような巧妙な部分もある。

ただ、真珠湾攻撃からミッドウェイ海戦など、太平洋戦争の有名な戦いを、ざっとダイジェスト的に繋いでいる印象がないではなく、その辺を見せ場の連続と取るか、総花的で、一つ一つの戦いの描写が弱いと感じるかは観る人の意見が分かれる所ではないだろうか。

基本、大衆受けが良い「お涙頂戴もの」要素があるため、その辺に抵抗感がある人もいるかもしれない。

ただ、もはや、今の時点で、万人が納得する戦争映画など望むべくもないような気がするので、これはこれで、娯楽映画としては、それなりに巧くまとめた映画と言っても良いのではないだろうか。

先頃他界された夏八木勲さん、「47RONIN」では奇妙に見える浅野内匠頭を演じていた田中泯さんら、ベテラン陣の圧倒的な存在感も素晴らしいが、主役、宮部久蔵を演じた岡田准一のストイックな演技は必見だろう。

もはや、アイドルと言うような雰囲気ではない。

見事な役者だと思う。

この映画の上映前に、ハリウッドの新作「GODZILLA」が流れたりするのも、往年の東宝映画ファンには懐かしいのではないだろうか。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

2013年、「永遠の0」製作委員会、林民夫脚本、山崎貴脚本+監督作品。

後方見張り確認!ゼロだ!アメリカの兵士が叫ぶ。

空母に接近する一機の零戦

2004年

大石松乃の葬儀が執り行われ、火葬場の扉の前に遺族たちが居並んでいたが、その中央に立っていた松乃の夫、賢一郎(夏八木勲)が、その場に泣き崩れる。

葬儀場を後にした松乃の孫に当たる佐伯慶子(吹石一恵)と佐伯健太郎(三浦春馬)姉弟は、いつもは観たことがない祖父の嘆き振りを見て驚いたと話し合う。

おばあちゃんの最初の旦那さんが特攻で死んだりして…と、慶子が、祖母の一生が大変だったんだろうな…と呟くと、健太郎はあっけにとられる。

一緒に歩いていた母清子(風吹ジュン)が、私の本当のお父さん…と付け加えたので、健太郎は、自分の知らなかった家族の話があることをその時初めて知る。

その間も、賢一郎は、火葬場の前に1人で立ちすくんでいた。

翌朝、まだベッドで寝ていた健太郎は、姉、慶子からの携帯で叩き起こされる。

慶子は、おじいちゃんのことを調べない?本になると思うの。私もこのままフリーのライターで終わりたくないし…などと言って来たので、正直、面倒だった健太郎は、そのまま電話を切ろうとするが、バイト代出すから…と言う最後の姉のこと我が見にに入ってしまったので、取りあえず手伝ってやることにする。

健一郎は、今のおじいちゃんに無断で、そう言う調査を始めるのが嫌だったので、慶子と共に弁護士をやっている賢一郎の家にやって来る。

机の上に置かれていた書類を眺めた健一郎は、お金にならない案件ばかりだね。弁護士って、お金が儲かるってイメージだったんだけど…と嫌味を言うと、庭いじりをしていた賢一郎は、お前はやってんのか?と聞いて来る。

司法試験を4年連続で落ちている健一郎としては嫌な質問だった。

慶子が、おじいちゃんに断らないと嫌だと言うんで…と、圭一郎の言い分を説明すると、賢一郎はあっさり、調べて欲しい。お前たちのためにもと快諾してくれる。

宮部久蔵と言うのが、おばあちゃんの最初の旦那の名前だった。

南西諸島沖で戦死しており、昭和16年おばあちゃんと結婚、翌年に清子が生まれた。結婚生活は4年くらいしかなく、享年26…、今の健太郎と同じ年だったと慶子は報告する。

その後、当時を知る関係者からインタビューを取るため、2人は車で出発する。

車内で慶子は、ネットで呼びかけたら、何通かの返事があったのだと健一郎に教える。

最初に会ったのは、長谷川(平幹二朗)と言う老人だった。

長谷川は、奴は海軍一の臆病もんだった!と吐き捨てるように言う。

命を惜しむ男だった。命が惜しかったということだろう。

飛行機乗りとは命を国に預けているんだ!宮部久蔵と言う男は、勝つことよりも、おのれの命を守ることが大事だったんだ。

乱戦を嫌い、俺が右腕を失った日も、あいつは一発の銃弾も浴びずに帰還して来た。遠くに退避してたんだ!と罵倒するので、健一郎はさすがに耐えかねて、でも、命が惜しかったら特攻に行きますかね?と反論するが、おそらく奴のことだから、上からの命令で、泣きながら行ったんだろうよと長谷川は答える。

母親のいる実家に戻って来た健一郎と啓子は、宮部さんのことをおばあちゃんに聞かされてないの?と聞くが、清子は、聞いたことあるけど、おばあちゃんは笑って何も話してくれなかったのよと教える。

それを聞いた慶子は、幸せな結婚じゃなかったかもしれないねと呟き、健一郎も、もし評判が良くない人だったら…と、インタビューの感触からの想像で言うと、話さなかったのは、そう言うことだったのかもしれないね~…と清子も納得する。

その後にインタビューした老人たちも口をそろえたように、帝国海軍の恥さらし!と言われていましたなど、宮部の評判は散々だった。

景浦と言う老人に会った健一郎は、相手があまりに不気味な雰囲気だったので、祖父は臆病者だったんですよね…と、つい先に話しだしてしまうが、それを聞いた景浦は、帰りなさい!お前に話すことは何もない!出て行けって言ってるだろう!と怒鳴りつけ、宮部が臆病者なら、何故、特攻に行った?と逆に聞いて来ると、そのまま不愉快そうに部屋を出て行ってしまう。

車で帰る途中、慶子は健一郎に、止めたい?と聞いて来る。

健一郎は、がっくり気落ちしており、ア~ア、そんな人の血を引いていたとは…、臆病者…とぼやく。

次に会った老人は、病院に入院している井崎(橋爪功)と言う老人だった。

井崎が語る宮部像は、これまでと少し違っていた。

宮部さんは腕の立つ飛行機乗りでした。凄腕中の凄腕で…。そんな人でしたから、軍隊では期待されていた人物なんですが、小隊長殿は醒めていました。

乱戦が嫌いで、乱戦になると遠くに逃げるんです。、零戦はご存知ですか?と聞いて来たので、あまり…と健太郎たちが答えると、脇に控えていた娘に棚の上に置いてあった零戦の模型を取らせ、それを持って説明し始める。

零戦は大した戦闘機でした。短い半径で旋回できるし、武装も強固でしたし、長い距離も飛びます。その素晴らしい戦闘機が小隊長と組み合わされると無敵と言って良い。

それがさーっと逃げ出すんですから、臆病者と言われても仕方がない…と井崎は語る。

(回想)1941年(昭和16年)

空母に着艦訓練する零戦を、整備士たちは愉快そうに見物していた。

海の上に浮かぶ舟の上に降りることは至難の業だったからだ。

その日も、先に着艦した2機の零戦は、目標地点を大きく外れ、無様な降り方だったので、甲板上で見ていた整備士たちはあざ笑っていたが、3機目に降りて来た零戦は、目標でぴたりと停まってみせる。

その機体から姿を見せた宮部久蔵(岡田准一)一飛曹に、あまりの着艦の見事さに感激し、思わず声をかけたのが若き日の井崎(濱田岳)で、それが2人の初めての出会いだった。

しかし、そんな井崎に近づいて来た他の搭乗員たちは、あいつは日本帝国海軍一の憶病者だ!と囁きかける。

それから、宮部や井崎たちの厳しい訓練飛行の日々が始まる。

零戦は世界最上の飛行機で、その搭乗員も世界最高の飛行士でした…と(現在の)井崎は言う。

間もなく、そんな私たちの腕を試される機会が訪れる。

1941年12月8日 真珠湾攻撃…、太平洋戦争の勃発であった。

真珠湾攻撃は一見成功裏に終わり、空母赤木に帰還して来た操縦士たちは、武勇伝で沸き立っていた。

そんな中、ただ1人、宮部だけはくらい顔のまま人ごみを外れて行ったので、それに気づいた井崎が歩み寄り、宮部兵曹は嬉しくないんですか?と話しかける。

宮部は、真珠湾には空母が一隻もいませんでした。今日の作戦は失敗だったと思います。未帰還機が29機も出たそうです。私も、途中、海上に撃墜し、一瞬に3人の命が吹き飛んだのを見ました。私は死にたくありません!…そう答えたので、聞いていた井崎は、今、何と言いましたか?!と宮部に詰め寄る。

(回想明け)その時、私は嫌悪感を持ったのを覚えています…と、ベッドの上の井崎は慶子と健太郎に告げる。

しかし、その時宮部さんが言った、空母を取り逃がしたことのツケが翌年6月5日、我々に襲いかかってきました。ミッドウェイ海戦です…と井崎は続ける。

(回想)1942年6月5日

空母赤木の中では、敵空母の姿が見えないことから、攻撃機の魚雷を取り外し、陸上爆弾に付け替えている所だった。

その最中、敵空母発見!ただちに、魚雷へ交換せよとの放送が船内に流れる。

それを聞いた宮部は、こんな時に攻撃されたら!敵空母が発見できないのなら、最初から魚雷を付けたままにしておくべきだったんだ!と怒りを露にするが、もうそんなことを言っている余裕はなく、すぐさま甲板から飛び立ち、敵機を迎え撃つしか方法はなかった。

しかし、敵機は空母赤城目がけ爆弾を投下し、赤城は爆発炎上する。

上空から沈没する赤城を見ていた宮部や井崎は、ただ呆然とするしかなかった。

(回想明け)それがミッドウェイ海戦でした。母艦を失った私たちは海上に不時着し、駆逐艦のカッターに拾い上げられました…そこまで話した井崎は咳き込んでしまったので、娘は今日はこのくらいで…とインタビューを終わらせようとするが、井崎は、話さなければ行けないんだと娘を拒否する。

昭和17年、我々は一旦内地に戻された後、ラバウルに送られたんです。選りすぐりの搭乗員たちが送り込まれました。有名なラバウル航空隊です…と井崎は続ける。

(回想)宮部さんは小隊長になり、私と小山と言う飛行士が、二番機と三番機を勤めることになりました。

小山は井崎に、宮部の悪い噂を聞いて来る。

小隊長は細かい所はやけに細かくて、整備士にも煙たがられていたからだ。

ある日、攻撃から帰って来た井崎が、夜、近くのジャングルに入ってみると、その暗闇の中、筋肉トレーニングや、木の枝を使い、背面飛行用の逆さ吊りに耐える訓練をしている宮部の姿を発見し驚く。

聞けば、毎日、攻撃から戻って来た日も、こうやって訓練を続けているのだと言う。

宮部は驚く井崎に、写真館が送ってくれたと一枚の写真を出してみせる。

そこには、妻らしき女性が生まれたばかりの娘を抱いている姿が写っていた。

妻と娘です。辛いと思ったときはこれを見ます。私1人が死んでも、戦局は変わりません。しかし、少なくとも妻と娘の人生は大きく変わります。死ぬ訳にはいかないんです!そう言う宮部に、そんなに命が大事ですか!と井崎は詰め寄る。

(回想明け)つまり…と、病室で涙ぐみながら話を来ていた慶子は、祖父は祖母と母のことを愛していたんですね?と問いかけると、愛?私たちは愛などと言う言葉は使いません。しかし、小隊長は、生きて帰りたい!とはっきり言われました。せれは、私たちの世代にとって、愛しているのと同じことです…と井崎が言う。

ただの臆病者じゃなかったんだ…、健太郎も祖父宮部のことを見直していた。

その内、ガダルカナルと、ソロモン沖の戦いが始まり、日本は、珠玉とも言うべき熟練搭乗員たちを失って行くことになるのです…と井崎はさらに続ける。

(回想)ラバウル基地

その日予定されていた空襲が急遽取りやめになる。

上官が、アメリカは卑怯にも、我々が建設している飛行場を完成を待って攻撃を加えて奪ったと報告し、これから敵上陸部隊に爆撃を行う。弔い合戦だ!と通達する。

しかし、その後、地図とコンパスを使い、目的地までの距離を測った宮部は、560海里も距離があると知ると、無理だ!こんな距離では戦えないと漏らす。

それを側で聞いた他の搭乗員は、気合いを入れろ!士気が下がる!二度と言うな!と気色ばみ、宮部を殴りつけて来る。

井崎はそんな宮部を助け起こし、発言の真意を正す。

宮部は、片道560海里もあるのだったら到着まで3時間半はかかり、帰還時間を考慮すると、上空で戦えるのは10分少々しかないと教える。

その言葉は現実の物になり、攻撃に出た宮部隊の小山は、機体も自分も傷を負ってしまう。

小山は、宮部に操縦席から合図して、その場で自爆をさせて欲しいと願い出るが、宮部は止めろ~!と叫ぶと、帰還するよう指示を出す。

小山は何とか基地にたどり着こうとし、両脇を、井崎と宮部が寄り添っていたが、基地が見えた辺りで、プロペラが停止してしまう。

やむなく、小山機は海上に不時着する。

すぐに救援要請するから、何とか耐えろ!と上空から宮部は呼びかけ、沈み始めた機体から外に出た小山は、スカーフを振ってそれに答える。

その後、基地に戻って来た救援隊の搭乗員は、待ち構えていた宮部と井崎に、着水地点に小山三飛曹の姿はなく、その周辺にはフカが泳いでいたとの報告をする。

それを聞いた井崎は逆上し、小隊長!なして自爆させてやらなかったのですか?!と宮部に迫る。

あの時点では助かる可能性があった。生きるべきなんだと宮部が苦し気に答えると、どうせこの戦争で生き残ることは出来ません…と井崎は呟く。

すると、今度は宮部が激高し、井崎、まだ分からんのか!お前が死ぬことで悲しむ人はいないのか!と詰め寄る。

いなかに父と母と、…弟がいます…と井崎が答えると、家族はお前が死んでも悲しまないのか?苦しくても生き延びる覚悟しろ!と宮部は迫る。

(回想明け)後にも先にも、宮部小隊長から叱られたのは、その時だけでした…と病室の井崎は言う。

その言葉を思い出したのは、昭和19年マリアナ沖海戦でグラマンに燃料タンクを撃たれ時でした。

私は、敵機と刺し違えようと思ったことがありました。しかし、小隊長の言葉が頭に浮かびました。

私は急降下して海面に不時着した後、フカに怯えながら、9時間泳ぎ続けました…

何度かくじけそうになりました…。その度に、何度も小隊長の言葉が蘇りました。

この娘も、小隊長がおらなければ、この世に生まれておりません…と言う井崎の横で、介護していた娘が恥ずかしそうに身をすくめる。

今ならはっきりと言えます。あの時点であの生き方を選んだ隊長は、誰よりも強かったんです。強いから貫けたんです。決して臆病者ではなかったのです!…そう井崎は締めくくる。

結局、祖父は、祖母と母には会えなかったんですね…と慶子が涙ぐみながら呟くと、否…、一度だけお会いになったはずです。横須賀港に入港したことがありました。その時、自宅に戻ったと話しておられましたと井崎は言う。

(回想)海軍服を着込んだ宮部は、「宮部」と表札がかかった自宅の前に立っていた。

玄関を開け中に入ると、そこには箒を長刀のように振りかざした松乃が、硬直した顔で立っていた。

どうしたんです?と宮部が聞くと、帰って来るなら連絡くらいしてください!と言いながら、急に箒を降ろし、力の抜けた表情になった松乃は答える。

すみません。横須賀に入港するのは極秘事項だったもので…と詫びながら、上がり込んだ宮部は、初めて観た娘と対面する。

君が清子ですか?と赤ん坊に話しかけると、キヨちゃん、お父さんよと言いながら、松乃が抱き上げ、宮部と対面させる。

夕食準備をしていた松乃は、清子と一緒に風呂に入っていた宮部が奇声を上げたので、何事かと風呂に駆け込むと、清子が風呂の中で粗相していたことが笑い、よっぽど気持ち良かったんでしょうと笑う。

翌朝、家を出る宮部は、では行ってきますと清子をおぶった松乃に別れを告げる。

どうかご無事で…と言いながらも、背中を向け歩き出そうとした宮部の腕を取る松乃。

必ず帰ってきます。例え腕がなくなっても、足がなくなっても戻って来ます。例え死んでも…、それでも僕は戻って来ます。生まれ変わっても、必ず君と清子の元に戻って来ます…、そう宮部は告げる。

(回想明け)話を聞いていた慶子と健太郎は泣いていた。

私は末期ガンです…、そう井崎が告白する。

半年前、医者から後3ヶ月と言われました。ところが半年経った今でも生きています。何故今日まで寿命が延びたのか…、今分かりました。この話をあなたたちに語るためです。小隊長の話をするためだったのでしょう…、そう言った井崎は、部屋の上の方に目をやると、小隊長、あなたのお孫さんが見えましたよ。小隊長!見えますか~!と呼びかける。

病院の外に出た健太郎は、俺…、もっと知りたい。もっともっと知りたい!と興奮気味に慶子に伝える。

自宅でその話を慶子から聞いた母清子は、妻と娘の元に戻るまでは、何としても死ねない…、もうそれだけで良い!私はその言葉が聞けただけで…。しかも、一度だけ会ったことがあるなんて…と感激する。

しかし、健太郎と慶子は釈然としなかった。

だったらどうして、おじいさんは特攻なんかを選んだんだろう…?そう慶子が呟く。

その後も、図書館であれこれ調べていた健太郎は、とある大企業の会長になっていた武田(山本學)に思い切って会いに行ってみることにする。

会社で待ち構えていた健太郎は、お付きを伴って出社して来た健太郎は、武田会長!私は宮部久蔵の孫です!と呼びかけてみる。

お付きの者たちは、マスコミ取材かと判断したのか追い払おうとするが、宮部の名前を聞いて立ち止まった竹田会長は、その日の午前中のスケジュールを全部キャンセルして、会長室に健太郎を招き入れてくれる。

教官のことは良く覚えている…。宮部さんは、私ら予備学生の教官だったんだ…、そう武田会長は語り出す。

(回想)昭和20年

戦況は悪化しており、それまで兵役を免れていた学生たちもが急遽搭乗員の養成を受けることになった。

肉体も若く、物覚えも良かったからだ。

しかし、空中戦の訓練だけはほとんどなかった。

私らは特攻のために訓練させられていたんだんだが、そのことに最初は気づかなかった。

ある日、突然、特攻志願署が配られた。

それを受け取ったみんなは衝撃を受けたが、3日後にはほとんど決めたんだ。

特攻で死んだ4400人の約半数が、学徒出身の予備士官だったと言われている。

ある日、宮部教官に予備士官の1人が、今日の突入訓練、どうして可じゃないんです!と階段で詰め寄る。

宮部は、見事な腕でしたが、不可ですと答えるだけだった。

予備士官は、部屋に戻って来ると、教官はいつになったら可をくれるんだ!と苛つく。

すると、集まって来た仲間たちが、聞けば、あいつ、前線では逃げ回っていたらしいぞと噂を教える。

噂と言えば、あの男、フィリピンで特攻を拒否したそうだと言う者がいたので、腰抜けなんだな。俺たちが巧くなるのが気に入らないんだろうなどと陰口を叩き合う。

そんなある日、飛行訓練を終え、着地しようとしていた51機が着地に失敗して、炎上、登場していた伊藤少佐は死亡する。

その後、全員を集めた少佐は、今日死んだ予備士官がいたそうだが、特攻する前に機体を壊すとは軍人の風上にも置けぬ奴だ!と死んだ伊藤の悪口を言い出す。

それを聞いていた宮部は、少佐、伊藤少佐は軍人の風上に置けない奴ではなく、立派な軍人でしたと異議を唱える。

すると、反論された少佐は、特務上官の分際で何を言うか!と激高し、貴様、こいつらに可を出さんそうだな?特攻に出したくないのか!国家存亡のこの時期に何たるていたらくだ!と怒鳴りつけ、徹底的に宮部を殴りつける。

立てなくなるまで殴られた宮部は、医務室から包帯だらけの姿で戻って来るが、階段の途中で、予備士官たちが全員自分の方を見つめ、宮部教官、大丈夫ですか?と声をかけ、敬礼をして来たことに気づく。

宮部は、そんな教え子たちを頼もしそうに見つめ返すのだった。

ある日、空戦を交えていた宮部は、被弾後、敵機に背後にぴったりくっつかれてしまう。

完全に捕まってしまったと感じた次の瞬間、味方機がその背後の敵機に機体ごとぶつかって行き、敵機はジャングルに落下し大破する。

突っ込んだ予備士官の方も大怪我を負っていたが、仲間の予備士官や宮部によってすぐさま病院に送られる。

担架に乗せられ運ばれるその予備士官から、教官は死んではならないんですと言われた宮部は、違う!あなた方こそ、生きて、戦争が終わった後、立派な仕事をするべきなんです!と言い聞かす。

その言葉は、一緒に担架に付き添っていた予備士官の中にいた武田会長も感激して聞いていた。

(回想明け)私はその後、九州の富高基地に送られ、教官と会うことはなかった。

その教官が、特攻で死んだと聞いたときはたまらなかった。あの人こそ生き残るべきだった…そう話し終えた武田会長に、どうして、祖父は特攻したんでしょうと健太郎が聞くが、分からない…、その気持ちは出撃した人にしか分からない。

出撃した人と生き残った者とには、雲海万里の隔たりがあると思っている。ただ…、友を見送るときの気持ちだけは覚えている。あの時の気持ちだけは忘れられるものではない…と答えた武田会長は、君、今、仕事は?と聞いて来る。

健太郎は、恥ずかしそうに、ぶらぶらしてます…と答えると、宮部さんの血を引いているんだ、立派な仕事をするんだね。こんな日が来るとは思ってもいなかった。教官のお孫さんに、私がこんなことを言うことになろうとは…と武田会長は苦笑する。

その後も、自宅のパソコンを使い、何で、特攻を…と考え込んでいた健太郎だったが、旧友から携帯が入り、前から言われていた、サイパンか沖縄か、ハワイかに旅行に行く打ち合わせに遅れてるぞと言われる。

軽装で出かけた健太郎だったが、待っていた3人の友人たちはみな正装しており、女性も来て、合コンみたいな食事会になると教えられえる。

女性がやって来て、食事を始めるが、その席で、健太郎が特攻のことを調べていると漏らすと、特攻って、自爆テロと同じだと外国では思われてるよなと友人が話しだしたので、健太郎は思わず、それは違う!と反論してしまう。

特攻が狙うのは敵の航空母艦であり、民間人を犠牲にする自爆テロとは別ものだと健太郎が言うと、でも、信念のために命を捨てると言うのはヒロイズムだよなと、別の友人が茶化すように言い出す。

分かってないよ!と健太郎はムキになるが、お前は自分探しに逃避してるだけなんだろ?等と言われると、さすがに切れた健太郎は、怒って帰ってしまう。

それを見送る友人たちは、面倒臭え奴…と苦りきる。

電車で帰宅しかけていた健太郎だったが、駅で乗り換える時、ふと思いつき、以前話を聞きそびれた 景浦の屋敷にもう1度行ってみることにする。

怖そうな若い衆に応接室に押し込まれた健太郎は、刀掛けにかかっているに本当を目の前にしてぎょっとなる。

その刀、人の血を吸っているぞ!今、何時だと思ってるんだ!応接室に出て来た景浦は不機嫌そうだった。

宮部久蔵…、僕のおじいさんの話を聞かせてください!健太郎は真剣なまなざしで頼む。

その顔を見た景浦は、少しは良い面構えになって来たようだな…と言うと、お前は、自分の爺さんのことを臆病ものだと言ったな?そんな奴に話すことなどないと思っていたが、あれから調べたのか?と聞いて来る。

答えは見つかりません。宮部が何故特攻を選んだのか…と健太郎は答えるしかなかった。

奴は最後の最後に、その希望を断ち切ってしまった…。俺は空戦が大好きだった…と景浦は語り始める。

(回想)1943年 ラバウル

乱戦になればなるほど俺の血はたぎった。俺はかつての剣豪のように生きたかったのだ。だが、その戦いのただ中で必ず無傷で帰って来る奴がいた。俺はそんな奴の存在そのものが許せなかった!と景浦は言う。

ある日、空戦から降り立った景浦(新井浩文)は、一度、自分と模擬空戦をやってもらいたいと宮部に申し出る。

宮部はすぐに断るが、癇に障った景浦は、俺に負けるはずがないと思っているからですか?と挑発する。

その後、空戦の最中、いつものように上空に退避していた宮部の零戦を見つけた景浦は、自分から急上昇して接近すると、わざと宮部機の側に撃ってみる。

撃たれたことに気づいた宮部は、否応なく、景浦と模擬空戦をやることになる。

乗って来たと喜んだ景浦は、宮部機の背後にぴったりついて、もらった!と叫ぶと照準を合わせるが、次の瞬間、目の前にいた宮部機は、上空に向かい急旋回し、気がつくと、自分の背後に付けられていた。

宮部はこちらにぴたり照準を向けていた。

そんな!と絶句する景浦は、もう1度宮部機の背後につくと、あろう事か、味方機である宮部に向け、機銃掃射をしてしまう。

しかし、その機銃は、宮部機の右側にそれていた。

次の瞬間、また、宮部機に背後を取られた景浦は、やけになり、撃て!俺を撃て!と絶叫していた。

(回想明け)言い訳はしない…、俺は決してしてはならないことをした…と今の景浦は言う。

弾は何故避けたのか?奴はまっすぐ飛んでいると見せ、実は飛行方向をわずかにずらして飛んでいたんだ。奴は俺を試したんだ!

あれから俺は命を惜しむようになった。宮部を落とさねば絶対死ねんと思ったんだ…と景浦は打ち明ける。

マリアナ沖海戦からサイパンを奪われ、敵はフィリピン沖まで迫って来た。追いつめられた日本は、ついに狂気の手段に出た。特攻だ!と景浦は続ける。

特攻の話を聞いたときはぞっとしたよ。九死一生ならまだやる気も起きるが、十死零生なんて…、成功することイコール死なんてそんな作戦はない!

こんな作戦を考えるようでは日本は負けると思った。

俺は直掩機の搭乗員として九州鹿屋基地に送られた。そこで又奴に会った。その宮部は、かつて俺が知っている宮部ではなかった…と景浦は言う。

(回想)1945年 鹿屋基地

トラックで到着した九州の景浦が兵舎の中に入ってみると、部屋の隅に踞っているおかしな男の姿を見つける。

惚けたような顔つきになっていたが、間違いなく宮部だった。

あまりの様子の変わりように、景浦は絶句する。

その後、景浦と宮部は、特攻部隊の護衛として直掩機に乗って随行するが、特攻機の大半は、空母にたどり着く前に撃墜され、全滅状態だった。

基地に戻って来た景浦が、零戦の前に立ち尽くしていた宮部の前に通りかかると、宮部はじっと1枚の写真を見つめていた。

あれが特攻です…、そう宮部は呟く。

教官として、彼らを送り出すのが私の仕事です。あんなもの…、私は毎日見てきました…、そう言う宮部は涙を流していた。

彼らはあのような状況で、一体何が出来ると思いますか?敵機は零戦よりも優秀になっているし、砲火も勢いを増している…。今日もほとんど敵艦にたどり着けなかった。

みんな…、こんなことで死ぬべき人間ではなかった…。戦争が終わった後、日本に生き残るべき人なんだ…、俺は…!絶句した宮部に、あの状況では仕方ないと思いますよと景浦が答えるが、簡単に言うな!直掩機は特攻を守るのが勤めだぞ!と声を荒げた宮部は、それなのに、俺は又…、彼らを皆殺しにした!自分は生きながらえようとした!彼らは死んでいるのに!俺はどうしたら良い?と景浦に詰め寄った宮部は、家族写真を握りつぶそうとするかのように握りしめていた。

俺はずっと特攻を断り続けていた。無駄死にだと思っていたからだ。

そんなある日、特攻貼りの中に、宮部の名前を見つけた…と景浦が言う。

熟練パイロットを特攻させるなんて!ほとんど敵艦にたどり着けないと言うのに!と逆上した景浦は、廊下に出て行った宮部を追いかけ問いつめるが、良いんだ…、景浦、良いんだ…と宮部は答えるだけだった。

(回想明け)俺は心に誓った。宮部を守る。弾がなくなったら、体当たりしても守る!だがな…、私は又しても奴を見失った…と景浦は語る。

奴の特攻機を護衛して200海里飛んだ所で乱戦になった。その最中、俺の機のエンジンが不調を起こしやがったんだ。宮部は空域から離れて行った。俺は追ったが追いきれなかった。奴の機体はこつ然と消えたんだ…景浦が話している間に、外は雨になっていた。

戸を開けた景浦は、もう1つ、奇怪なことがあった…と続ける。

奴は、52型機ではなく、21型機で出て行ったと言うので、何故ですか?と健太郎が聞くと、分からんと景浦は答える。

21型で行くことに拘っていた。慣れ親しんだ機で行きたかったのかもしれない…。だが、その52型もエンジン不調を起こしたんだ。52型機は喜界島に不時着したと景浦ガオしえると、まさか!その中に乗っていた人は生き残ったんですか?と健太郎が驚きの声を挙げる。

そんな…、機体の交換をしなかったら、おじいさんは助かっていたかもしれない!と健太郎が絶句すると、分からんと言いながらも、景浦も、その可能性は高かった…と肯定するしかなかった。

じゃあ、おじいさんは、偶然、運を手放してしまったということですね…、そんなことって!と健太郎は唖然とする。

おじいさんと会って話したかったですと健太郎が言うと、あの日、21型機に乗り込む奴の目は、死を覚悟した人間の目ではなかった。ようやく家族の元に戻れるような…、そんな目をしていた…と話す景浦は、生きた奴を知りたいか?と聞いて来たので、健太郎は、会ってみたいです!と即答すると、景浦は机の引き出しから封筒を取り出し、渡してくれる。

俺の話はこれで終わりだ。若い者に送らせようと景浦が言うので、健太郎は、いえ、姉が迎えに来てくれるそうですと答える。

いきなり健太郎を抱きしめると、俺は若い男が好きでなあ…と言い、部屋を出て行く。

慶子が車で景浦艇の前にやって来ると、玄関先で健太郎が雨の中、濡れ鼠になって立っていたので、全く…、何やってるのよ…、あんた、ぐしょ濡れじゃない!とぼやきながら、運転席を出て近づくと、封筒を握りしめていた健太郎は、呆然とした様子で、おじいちゃん!おじいちゃんだったんだ!不時着した52型機に乗っていたの、僕らのおじいちゃんだったんだ!とわめく。

後日、「大石賢一郎」と表札がかかった祖父の家に、母親清子と慶子、健太郎が集まる。

出迎えた賢一郎は、いつかお前たちに話そうと思っていたが、ようやくその時が来た…と話し始める。

宮部さんに会ったのは筑波航空隊にいた頃だ。

あの時、命がけで宮部を守ったのは、おじいちゃんだったんですね…そう健太郎は指摘する。

そう…、宮部機の背後についたグラマンに体当たりして撃墜し、自らも重傷を負って、病院に担ぎ込まれた予備士官搭乗員こそ賢一郎だったのだ。

(回想)1945年、海軍病院に入院していた大石賢一郎(染谷将太)は、見舞いに来た宮部が、妻が手直ししたコートを君にもらって欲しいと差し出したので、驚き、恐縮する。

そして、写真を見せ、清子と言いますと宮部が言うので、てっきり奥さんのことだと思って、きれいな方ですね…と答えるが、宮部は慌てて、それは真珠湾攻撃の後に生まれた娘の名前で、妻は松乃と言うと訂正する。

そして宮部は、大石君、戦争がもし終わったら、どうしますか?考えられませんか?と聞いて来たので、大石は、もし生き残ったら人のためになる仕事がしたい…、そんなことを考えたことがありますと答えると、そんな日が来るといいですねと穏やかな表情で返す。

その後、無事退院し、鹿屋基地にやって来た大石は、そこで、部屋の片隅に踞り、生気を抜かれたように様変わりした宮部の姿を見つけ衝撃を受ける。

うつろな目で大石に気づいた宮部は、大石君…、直りましたか?とだけ囁くように聞いて来る。

はい!おかげさまで…と大石が答えると、良かった…、いえ…、そうでもありませんね…と宮部は、部屋の隅の安置されていた位牌と遺影を横目にしながら力なく言う。

大石は、その後、特攻して行く寺西や山田ら仲間たちを見送っていたが、やがて、特攻貼りの中に書かれた名前を発見して立ち尽くす。

仲間は、大石の名前が書かれていた頃だと思い慰めるが、大石が驚いていたのは、一緒に宮部の名が書かれていたことだった。

その後、近くの川に素足を入れ涼んでいた大石の元に、良いな…、気持ち良さそうだな…と言いながら宮部が近づいてので緊張する。

一緒に、足を水に漬けて座った宮部に大石は、不思議なことに、水が冷たい。廻りの雑草が風に吹かれている。こういう、今までどうでも良かったことが何もかも愛おしくなっています。今まで、自分が死んだ後のことをこれほど考えたことはない…と、今の心情を打ち明ける。

これからもこの国は続いて行って欲しい。その頃の人はこの国のことをどう考えるのか…、そんなことを考えていますと大石が言うと、その頃の日本はどんな国になっているんでしょうね~…と宮部も答える。

やがて、宮部と大石の出撃の飛がやって来る。

別れの盃を飲み干し、地面に叩き付けて割った彼らは、夫々の搭乗機に乗り込むが、その時、大石に近づいて来た宮部が、大石少尉、お願いがあります。飛行機を替わってくれませんか?と言って来たので、大石は戸惑い、宮部さんの飛行機は52型じゃないですか?と答える。

52型の方が新しかったからだ。

すると宮部は、21型機は私が初めて乗った機なんです。一緒に行くならこの機が良い。私の最後のわがままを聞いてくれませんか?と言うので、大石としては承知するしかなかった。

やがて、特攻隊は出撃するが、途中、大石が乗り込んだ52型機は、エンジンの不調を来す。

大石は悔しがるが、風防にガソリンが飛び散り、視界も閉ざされてしまった以上、もう手の施しようがなかった。

大石がふと横を観ると、宮部が戻れと操縦席から合図していた。

嫌です!宮部さん!と大石は絶叫するが、もうどうしようもなかった。

(回想明け)宮部さんは帰って来なかった…、そして私はここにいる…、そう賢一郎は話し終える。

それが、おじいさんの運命…と、聞こ終えた健太郎が呟くと、違う!違うんだよ!と賢一郎は言い出す。

私はそれを話すために今まで待っていたんだ。

戦争が終わった後、私は松乃を探した。

宮部さんの実家があった横浜は、すべて焼き尽くされており、廻りの人も、松乃の行方を知る者はいなかった…

その後、厚生省に勤める友人からの知らせで居場所が分かったのが2年後のことだった。

(回想)松乃は、大阪のバラックで最低の暮らしをしていた。

女手一つで清子を育てながら、相当苦労しているようだった。

ある日、バラックの中で幼い清子とおり、嘘つき…と呟いていた松乃は、突然、戸をノックされたので緊張する。

また、箒を握りしめようとした松乃は、戸を開けては行って来た男の姿を見て、思わず、あなた!と叫んでしまう。

一瞬、宮部に見間違った訪問客は、大石だった。

大石が、私は大石賢一郎と申します。ご主人にお世話になった者ですと名乗ると、箒を捨てた松乃は、慌てて、宮部の妻です。主人がお世話になりましたと礼を言う。

2人の生活振りを見た私は、胸が潰れる思いだった。あれほど守りたかった人が、こんな最低の暮らしをしていることを目の当たりにしたことが哀しかった。

大石が、機体の交換をしたことを話すと、松乃は、覚悟していましたと気丈に答えたので、すみません!私のせいです!と大石は詫びる。

それがあの人の運命だったのです…、あなたのせいではありません…と松乃は慰めるが、違うんです!宮部さんが52型機を譲ってくれたのは、偶然とは思えないんです!と大石は言う。

喜界島に不時着した後、操縦席の中でこれを見つけましたと言い、大石は、持参した写真とメモ書きを松乃に手渡す。

52型機に乗り込んだ宮部さんは、エンジンの不調を見抜いたんだと思うんです。そして、これを遺したんです…と大石は説明する。

メモを開いた松乃は、そこに書かれた夫の字を見て目を見張る。

もし、大石少尉が生き残っていたら、その時、家族が路頭に迷っているようだったら、助けてやって欲しい…と書かれていた。

なぜ?…と松乃は呟くが、許してください!私が死ぬべきでした!と大石が土下座をして詫びると、帰ってください!と言い出す。

仕方なくバラックを出た大石だったが、その直後、同じく家から出て来て道の反対方向へ向かった松乃に気づくと、いつの間にかその後を追っていた。

桜並木の所までやって来た松乃は、その場に泣き崩れたので、それを観ていた大石もたまらなくなって涙ぐむ。

それから私は、この母子に出来るだけのことをしようと思った。時間があれば大阪に通った…

ある日、松乃のバラックを訪ねた大石は、出て来た清子に、ジュースでも買いなさいと小遣いを渡すが、買って良いの?と清子が家の中で縫い物をしていた松乃に聞くと、首を振り、入口にやって来ると、その小銭を大石に突き返し、どうか私たちのことは気になさらないでくださいと答える。

それでは宮部さんに顔向けが出来ませんと大石が言いながら、持って来た金の入った封筒を出すと、いけません!大石さん、これは受け取れませrん!ときっぱり松乃は拒否する。

給料が出るたびに、大石は大阪に通った。雪の降る冬になっても、大石の大阪通いは続いていた。

何度も何度も通った。そうすることが義務だと思ったのだ…と、今の賢一郎は言う。

たびたびやって来る大石の姿を見た清子は、おじちゃん!と喜ぶようになっていた。

いつしか、松乃の警戒感も緩み、大石は清子を肩車して、松乃と共に満開の桜並木を歩くまでになっていた。

夏のある日、清子と共にスイカを買いに行き、夕立に会い、慌ててバラックに戻って来た大石に、どうしてそんなに優しくしてくださるんですか?と松乃が聞いて来たので、宮部さんに命を救ってもらったからですと大石は答える。

だからと言って、自分の人生を犠牲にすることはありません。あなたはもう十分、責務を果たしました。これ以上甘えている訳には…と松乃は言いかけるが、その時、違う!と大石は遮る。

最初は義務でした…、部屋で松乃の前に座っていた大石は、その内に、生活を少しでも支えているということが私の人生の励みになって行ったのですと続けた大石は、正直に言います。はじめて会ったときからあなたを…、私は汚い人間です!と言い立ち上がって帰ろうとする。

そんな大石に、行かないでください!と松乃はすがりつく。

今分かりました!あの人は約束を守ったんです。あの人は言っていました。例え死んでも、それでも僕は戻って来る。生まれ変わってでも、必ず君と清子の元に戻って来る!そして今、あなたがここにいます。宮部は約束を守ったのですと松乃は訴えかけて来る。

(回想明け)賢一郎は母の清子に、宮部が52型機の操縦席に遺して行った松乃と赤ん坊時代の清子の写真と最後のメモを見せる。

慶子と健太郎も、それを見せてもらい感激していた。

どうしても生きて帰りたかったんでしょう…、でもどうして?…と慶子は、最後の最後に宮部が特攻を選んだ理由が分からなかった。

私にも分からん…、言葉にできない…、言葉にできるようなことではない…と賢一郎も言う。

ただ一つ思ったのは、あの人は死ぬのを恐れていたのではない。松乃やお前の人生が壊れてしまうのを恐れていたんだ。生き残った者がしなければ行けないのは、生き残ったことを無駄にしないこと。物語を続けることだ…

やがて、私たちは結婚した。2人の間で宮部さんの話が出たことは1度もない。でも、忘れたことも1度もない!と賢一郎は言う。

おじいちゃんとおばあちゃんにそんなことがあったとは…と健太郎は感動していた。

私たちが特別なのではない。あの当時の1人1人の中に同じような物語があったんだ。みんな、何事もなかったかのように生きているんだ。それが戦争で生き残ったということなんだ…と賢一郎は語る。

後10年もすれば、私たちの世代のほとんどはいなくなるだろう。この話をお前たちに伝えられて良かった…と賢一郎は安堵したようだった。

そんな賢一郎は、かつて松乃が言っていたことを思い出していた。

(回想)不思議なことが前にも一度ありました…、そう結婚前の松乃が大石に告げたのだ。

あなたには正直に話しておこうと思うの…と続けた松乃は、以前、人に騙されてヤクザのか囲い者にさせそうになったことがありました。

その時、ある人が身体を張って守ってくれたんです。

その人は、血まみれの刀のような物を持っており、財布を私に投げつけて来て、生きろ!って言いました。私には、宮部が助けてくれたように思えました。その人がどこの誰だったのか分かりません。その後、私と清子はこっちに来ましたから…mそう話し終えた松乃の言葉を聞いた大石は、もっと早く来るべきでした!と自分を責める。

もっと早く見つけ出さなければ行けなかったんです!そうまで自分を責める大石に、松乃は抱きついて来る。

(回想明け)その人は、誰だったんだろうな〜?松乃…と賢一郎は呟く。

祖父の家を辞去し、母の清子、慶子と共に帰る途中、健太郎は、目の前に広がる今の平和な日本の日常風景に目を留める。

そこには、穏やかな人間たちの営みが、当たり前のように行われていた。

その時、日本は、どんな国になっているんでしょうね〜…?宮部の言葉が蘇る。

(回想)玉音放送を聞く大石。

直掩機に乗り、特攻に向かう宮部に随行しながら、途中、エンジン不調で宮部機を見失った井崎は、宮部〜!宮部〜!俺を追いて行くのか〜!と、操縦席で絶叫していた。

宮部〜!許してください!井崎は叫ぶ。

特攻の朝、52機に乗り込んだ宮部は、機体に違和感を感じ、このまま飛び立てば途中で離脱することになると直感し、気落ちする。

その時、ふと横を観ると、21型機の横に立ち、遠くを見つめているかのように立ちすくんでいる大石の姿を発見する。

奴は、海軍一の臆病者でした!と吐き捨てた長谷川はじめ、今生き残っていた老人たちが、宮部を称した言葉が蘇る。

あの人は約束を守ったんですと言う松乃。

(回想明け)陸橋の上に立っていた健太郎は、遥か彼方から急接近して来る零戦を見たような気がした。

健太郎のすぐ脇をかすめて飛んで行った零戦の操縦席には、健太郎に向かって敬礼をしている祖父宮部久蔵の姿が見えた。

飛び去って行く零戦を見送る賢一郎は、橋桁にすがりつき泣いていた。

(回想)ゼロだ!何で弾が当たらない!

宮部が特攻する敵母艦の乗組員たちは、海上すれすれに接近して来る零戦に驚いていた。

「マジック・ヒューズ」だ!混乱する米兵たちの声が交差する。

宮部は操縦桿を強く引き、敵母艦の上空高く跳び上がると、そのまま甲板目がけて急降下して行く。

操縦桿を握りしめる宮部の顔は、どこか微笑んでいるように見えた…

タイトル


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