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蠢動 しゅんどう

まじめに作られたセミプロ風時代劇

単館作品としてはまずまずの出来だとは思うが、うなるほど感心すると言うほどでもない。

知名度の高い俳優を使った「老人部分」と、イマイチ知名度が低い俳優が集まった「若者部分」が分離している感じで、双方ともに今ひとつ魅力がないのが残念。

何だか、主役は、若林豪演ずる城代のようにしか見えないが、権力を持った城代の独りよがりの苦悩等、観ていてあまり面白いものではない。

どちらかと言うと、城代は悪役でしかないように見えるのだが、その悪役が成敗されないと言うのも時代劇として不完全燃焼に感じる所だろう。

もちろん、大義のため…やむを得ず…と言う動機は分かるものの、その城代に感情移入できるかと言うと全く出来ない。

主役にしては、城代の人間としての魅力のようなものが何も描かれていないからだ。

それは、準主役風の原田(平岳大)や香川(脇崎智史)にしてもそうで、もう一つ、その人間味が描ききれてない気がする。

本来は、原田か香川が主役の方が分かり易いと思うのだが、両方とも主役に見えないと言うのが辛い。

チャンバラが撮りたいから、人間ドラマは弱くなった…と解釈しても、では、そのチャンバラ部分がそれほど素晴らしいかと言うと、普通…くらいにしか見えないので困るのだ。

もちろん、ちゃんと殺陣師が動きをつけてやっているのは分かる。

雪原でのチャンバラと言うのも悪くない。

キャメラを引いての長回しで、じっくりアクションを見せると言うのも良いだろう。

演じているのが全部がプロならば…である。

斬られ役…と言うか、討手の若侍の人たちは、全員、プロの役者さんなのだろうか?

草加など、何人かの藩士役は、セリフ回しなどからして役者のようなのだが、その他の人たちはどうなのか?

エンドロールで、キャスト部分に(ボランティアエキストラ)と言う文字が見えたのが気になるのだ。

エキストラと言っても、侍以外の町人とかは一切出て来ないのだから、本編に登場する人物でエキストラらしき人物と言えば藩士…、つまり若侍しかいない。

劇中で、若侍同士が雑談をするシーンがあるのだが、そのセリフがあまりにも下手なので首を傾げていたのだが、あれがボランティアエキストラ(つまりは素人さん)だと考えると納得がいく。

そうだとすると、あの雪原での立ち回りも、大半は「素人さん」が演じていた事になる。

素人さんと考えると良く頑張っていると思う。おそらく何度も何度も練習をさせられたのだろうと想像する。

とは言え、その練習通りの再現が、若干「段取り芝居」に見えてしまっている部分があるような気がする。

もちろん、昔の時代劇の斬られ役も段取り通りに斬られているのであり、何だか斬られるのを待っているように見える作品も多い。

その辺の嘘くささを、巧い人は編集でごまかしているのだ。

それを今回は「長回し」で撮っているため、編集で迫力を出すと言うことが出来ず、「斬られるのを待っている感じ」が如実に見えてしまっているように思える。

素人さんはアドリブ的な即興の動きは出来ず、言われた通りに斬られ芝居をしているのだろう。

そのために、「え?今は完全に相手を斬れたんじゃない?」と感じるような部分でも、刀を動かしていないように見える。

動き難い雪の中のアクションだし、修行中の若侍なので剣は未熟と言う設定なのも分かるが、だとしたら、もっと「無様さ」が出てても良いのではないかとも感じる。

そう言う「若侍同士の必死で稚拙な戦い」と言う感じもあまり伝わって来ないので、全体的に「普通」に見えるのではないだろうか。

ドラマ部分にしろアクション部分にしろ、無難にまとめてしまっている印象が強いため、完成度はそれなりにあり、粗はあまり目立たないのに、ものすごく強烈に心に焼き付くようなインパクトもないのだ。

室内シーンは、セットを組んでいるのではなく、どこかの施設を使わせてもらっているようで、カメラは引けない(広い部分が写せない)し、移動やパンも出来ないので、全体的に、役者が向かい合っている平板なシーンばかり。

屋外でやっているアクション部分も、予算の関係で、クレーンやレール移動撮影等が出来なかったのかもしれないが、その分もっと、破天荒なアイデアがあっても良かったような気がする。

さとう珠緒の姉役と言うのも、若干違和感がある。

さとう珠緒は、確かに実年齢は香川廣樹役の俳優より上かもしれないが、童顔なので年上に見え難い。

もっと姉顔の女優さんがいたのではないかと言う気がしないでもない。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

2013年、三上康雄事務所、三上康雄原案+脚本+監督作品。

城門への橋を渡る因幡藩城代家老荒木源義(若林豪)と付用人舟瀬太悟(中原丈雄)

享保20年(1735年) 山陰 因幡藩

3年前の飢饉から立ち直ったのに、抗議から無理難題…、頭の痛い事ばかり…と愚痴っていた荒木は、遠くから聞こえて来る人声に気づく。

藩士たちによる寒稽古でしょうと舟瀬が言うと、ちょっと覗くとするか…と呟いた荒木は、藩士たちが稽古をしている場所に向かう。

若い藩士たちが乱取りをやっており、教えているのは、公儀から差し向けられた剣術指南役松宮十三(目黒祐樹)と因幡藩剣術師範原田大八郎(平岳大)であった。

荒木と舟瀬が見物に来たので、原田は全員に声をかけ、一旦乱取りを止めさせると、草加と木村を指名し、手合わせを命じる。

木村はあっさり、草加に力負けし押されて倒れてしまうが、すぐに香川廣樹(脇崎智史)が、草加さん、俺が相手だ!と声を挙げ勝負を挑むが、その戦い方は乱暴で、草加を足蹴にして倒すと、のど元に木刀を突きつけると言う荒々しいものだった。

見かねた原田が、止めい!御城代様の前で無様な真似を!と、苦々しそうに制止する。

荒木から今の試合の感想を求められた原田は、真の戦いのおりにはこのような戦い方かもしれませんと弁解する。

そんな原田に、剣の心を見いださねば、武士の道を見極める事は出来ぬぞと言い聞かし城へ戻る。

意思階段を登る途中、荒木は舟瀬に、先ほどのものは?と最後に買った若い藩士の事を聞く。

香川廣樹と言い、香川廣之進の子であると知った荒木は、あの香川の…と感慨深そうな顔つきになる。

タイトル

場内での家老が顔を合わせる中、城代は、今日は、舟瀬に報告がある故、同席させたと断る。

進み出た舟瀬は、松宮殿の件だが、やはり藩の内情を探っている様子だと申し出る。

それを聞いた家老たちは、やはり、多摩川上水の治水助成金に関係した事だろう。

御公儀が、信影流の指南役などを送り込まれる等おかしいと思っていたなどと口々に言い合い、松宮はどこまで探った?と問いただすが、そこまでは…と舟瀬が口ごもったので、急ぎ調べねばならぬと命じる。

御公儀からの多摩川治水の助成金を出されるおつもりか?と家老たちから問いただされた城代荒木は、今出せば、これまで苦労して溜め込んで来た余剰金を失う事になる。万一、松宮が余剰金の事を知ったら、余剰金を出さねば、即刻半はお取り潰しになろう…と答える。

吉宗公は、まだお取り潰しをされた事はないが、5代綱吉公同様、容赦のない方と聞くと家老たちは噂する。

10年前も危うかった。香川廣之進が罪をかぶってくれたから助かったものの、今の城主忠康様はご養子なので、以前のようにはなりますまい…と家老どもは暗い顔で話し合う。

その頃、香川廣樹は、先ほど、草加に手ひどく痛めつけられた木村を自宅に連れて来ていた。

木村の婚約者である姉の由紀(さとう珠緒)に手当をさせるためであった。

香川は、刀はおのれの身を守るもの、自分の身体の一部のように使いこなしたい!と夢を語り、何としても他藩に修行に出たい、居丈高な松宮様では話にならんと不満を明かす。

由紀の手当を受けた木村に、香川は、お前には学問がある。人より抜きん出るものが一つはあるのだと慰めるが、俺は人より抜きん出ようとは思わん。父は干ばつ凶作に強い稲を考えている…と木村は答え、すぐに香川の父の事を忘れていた事を思い出し、お前の父上は立派だと思うと言い添える。

しかし香川は、それ良いのか?人の罪をかぶって1人腹を斬ったのが…と不満そうに呟いたので、横で聞いていた由紀は、廣樹!と諌める。

俺は学問の道を歩む…と木村は決意を述べる。

原田から、香川の修行をお許し願いたいと伝えられた城代荒木は、認可を出しても良いが、松宮殿の推挙がなければの…と迷い、まず松宮殿からの推挙状をもらって来る事…と返事する。

そして、近頃、孫を連れて来ぬが、時々連れて来るが良い。早苗にそう伝えてくれと祖父としての顔をのぞかせる。

そんな中、松宮は1人山道を歩き回り、田圃の側で立ち止まると、何事か懐から取り出した書状に書き始める。

その様子を草影から監視している隠密。

その隠密からの報告を受けた舟瀬は、まだ松宮殿に当藩の隠し蔵は見つかっておらぬとか…と荒木に知らせる。

何か妙案はあるか?内情を掴まれぬ内に、何とか去って頂かねば…、他の家老たちも妙案浮かばぬのか?…と問いただした荒木は、舟瀬が何も答えないのを知ると、そうか…、あの時もそうであったな…、廣之進の忠義心を知るものはおるまい…と嘆く。

多くの民が香川の手で救われた…、改易になりかけたのを、香川は藩を救ったのだ…と荒木は思い出すように呟く。

その後、原田は松宮に会い、香川の修行を認めて欲しいと願い出るが、相手に足をかけ、木刀をのど元に突きつけるとは…、あのような者をわしが認めれば、御公儀が認めた事になると松宮は言うだけ。

すると、原田はその場に土下座をする。

その様子を観ていた隠密からの報告で、その事を舟瀬から伝え聞いた荒木は、おそらく推挙状の事であろう…と原田の行動の意味を推測する。

木村、香川と一緒に帰っていた若い藩士の山崎は父親になったと喜びを語り、藤田は、自分は剣よりも算盤の方が好きだと手真似をしてみせ、人との争いごとは嫌いだと言う。

木村が近々、香川の姉由紀と祝言を挙げれば、木村は香川の義兄になるんだなと原田は面白がる。

その頃、松宮は、城内で掃除をしていた小者に、書状と金を渡し、これをいつもの者に…と伝える。

小者がその書状をもって林の中を走り出すと、横合いから飛び出して来た隠密が羽交い締めにし、今預かったものを出せ!と迫り、書状を受け取ると、命が惜しければ黙っている事だ…と脅す。

その書状を舟瀬から受け取った城代荒木は、いつの間にここまで…と驚いていた。

当藩の内情を全て探ったと…と舟瀬も驚いた様子で、申し訳ございませんと、荒木に詫びると、隠密役の伊藤に、引き続き松宮を探れ。抜かるでないぞと命じる。

荒木は、読み終えた松宮の書状を握りつぶすと、火鉢の火で燃やしてしまう。

由紀は、弟の香川廣樹に、柛代大社のお守りを入れた袋を渡し、木村様と2つ用意しましたと言う。

それをありがたく受け取った香川は、父母を亡くして、姉上には苦労をかけて来た。姉上には木村と幸せになってもらいたい。少し、気の弱い所があるが…と伝える。

それを聞いた由紀は、廣樹はまっすぐ過ぎますと注意する。

父上は、藩から命じられた普請した事を、御公儀から武家諸法度に反すると言われた…。今、俺に出来る事は強くなる事しかないと香川は力んでいたが、そこに木村が訪ねて来る。

由紀から、木村も又、守り袋を受け取る。

翌日、原田から呼ばれた香川は、御城代は認可してくださったが、松宮様の許しがいることになった。渋っておられたが、今一度、わしが頼んでみると言われる。

その頃、舟瀬は城代荒木に、伊藤より火急の知らせがあると伝えていた。

すぐに招き寄せると、江戸を出た御公儀の使者が、美作藩を出立したそうで、間もなく当藩に到着しますと伊藤は伝える。

御城代!もはや猶予はありませぬ。公儀の使者が松宮殿と出会うことにでもなれば…と舟瀬は荒木に迫る。

その後、木村は伝家の宝刀を香川に渡していた。

俺はこれをもらったと、木村は昨日由紀からもらった守り袋を取り出して見せるが、俺はここにつけていると香川も、腰にぶら下げた守り袋を見せる。

そんな2人に、先日痛めつけられ草加とその取り巻き連中が近づいて来て、香川に因縁を付けて来るが、香川が相手をせずにいると、止めた木村につかみ掛かって行ったので、腹にすえかねた香川は、草加たちと喧嘩になる。

そこに通りかかったのが松宮で、先日、お前のために原田殿は土下座までされた。その時は少し気持ちが動いたが、もはやその気も失せた。多藩で修行させる事は許さんと香川に言うと、倒れていた草加には、今度一献やろうと声をかけて立ち去ろうとしたので、香川は、お待ち下さいとその足にすがりつこうとするが、無礼者!と弾けれてしまう。

その後、木村と香川はその場を立ち去るが、そこには香川が落とした守り袋が落ちており、誰かがそれを拾って行く。

翌日、家老たちは城内で、使者が来ると言うのに、松宮殿の前で、香川が狼藉を働くとは…と頭を抱えていた。

御城代どうされますか?と家老の1人が聞くと、何の労もせず、わしに一任するばかりではないか!もう良い!とそのふがいなさを嘆いて座を外す荒木。

その頃、香川は、昨日、草加ともめたので、もう修行の認可もなくなった。姉上からもらったお守り袋もなくしてしまった…と由紀に詫びていたが、その時、原田が訪ねて来る。

原田は香川に、お前には10年以上教えて来た。今は我慢だ。我慢してこそが真の力だ、お前は炎のように熱過ぎる。火ではなく水だ。水のような心であらねばならぬと言い聞かすのだった。

その夜、原田を呼び寄せた城代荒木は、藩のためだ…、くれぐれも申し付けるが、藩に疑いが及ばぬようにせねばならぬ…と松宮暗殺を命じる。

帰宅した原田は、燭台の横で刀を抜き、その刃をしっかと見据えていた。

翌朝、舟瀬は原田に、良いな!と最後の念を押していた。

その頃、由紀は、木村の母美奈江(増田久美子)と歩いていた。

12年前、父亡き後、母も病に倒れ、その時以来、由紀と廣樹は美奈江の世話になって来たのだった。

父の一件で、決まっていた縁談もなくなり、本来なら和弘様に嫁げる身でもないのですが…と、由紀は美奈江に感謝していた。

和弘をしっかり支えてやってねと頼んだ美奈江は、婚礼は、伯耆の国の縁者にも来て欲しいと思っている。今は雪深いから、桜の頃なら大丈夫ね…と優しく応じていた。

その日、香川家に城から使いが来て、香川に、明日、お勤め前に舟瀬様に赴くようにと言い渡す。

翌朝、舟瀬に会った香川は、伯耆藩の笹山陣九郎への推挙状と通行手形を渡され、修行願いが許されたと知らされる。

今よりすぐ出立いたせ。明日、福音寺に寄って、亡き父母の墓参りをいたせ。そして翌日、伯耆藩に行くが良いと進めた舟瀬は、御城代は、そなたの父の忠義を全ての藩士に伝えねばならぬとお考えじゃ。12年前のそなたの父の行いは立派であったと言われたので、感激した香川は平伏して礼を述べる。

いつも稽古をしている丘で、1人剣の稽古をしていた原田の元にやって来た香川は、このたびのご配慮ありがとうございましたと礼を言うが、何の事だ?と原田が聞かれたので、今しがた舟瀬様からお聞きしました。原田様のご尽力のお陰だと思っておりますと答える。

それを聞いた原田は、何事か考えているようであったが、伯耆藩の師範は、武蔵延命流の使い手と聞いている。遠い所ではない。いつでも戻ってまいれと告げ、香川も、春には姉が祝言を挙げます。その時は戻る所存でございますと答え、2人は別れる。

その頃、由紀は木村と散策していた。

木村は、由紀からもらった守り袋を取り出し、由紀に嬉しそうに見せていたが、木にぶつかってしまい、由紀に笑われる。

一方、城では、城代荒木が、無辜のものを…ましてや…と悩んでいた。

横に控えていた舟瀬は、松宮殿に裏未を持つのはあの者しかおりませぬ。藩士たちも納得しますと言い聞かす。

とうとう俺の夢が叶った。木村、くれぐれも姉上を頼んだぞ。お前からもらったこの刀、帯びさせてもらうぞと、香川は木村に別れを告げていた。

旅支度を住ませ、家を出る香川を見送る由紀は、廣樹、気をつけて。嫌な事があっても我慢するようにと言い聞かす。

春の祝言には戻ってまいります。くれぐれもお身体大事に…、そう姉に言い残し、香川は出立する。

自宅に戻っていた荒木は、久々に遊びに来た娘の早苗と孫の市之助が球遊びをしているのにも気づかぬように思いに沈んでいた。

そんな市之助から爺爺と呼ばれて我に帰った荒木は、自分の足下に転がっていた玉を拾ってやり、市之助は元気だなと言いながら、玉を放ってやる。

その夜、松宮は、草加たちと飲み屋から出て来ていた。

酒を振る舞われた礼を言う草加に、剣術指南を目指しているらしいが、心で勝て。精進いたせと言い聞かせ、送ると言う藩士の言葉を断り、提灯だけ受け取って、夜道を1人で帰って行く。

その直後、雪が降り出すが、そんな中、松宮は、目の前に立ちふさがった男を観て、貴様!と驚くと剣を抜く。

その声を聞いた草加等藩士は、声のした方へ向かう。

しばし剣を交えた後、松宮は斬られ、落ちて燃え上がった提灯の横に倒れる。

松宮を斬った男が立ち去った後、別の男が松宮の死体の側に近づくと、何かを側に置いて行く。

その直後、草加等が駆けつけて来て松宮の死体と、その側に落ちていた守り袋を発見する。

守り袋を拾い上げた佐伯は、これは香川のものだ…と呟く。

荒木の元にやって来た原田は、首尾良く事は運びましたと報告する。

荒木は、松宮殺害の下手人は香川と言うことにする。この事は、そちに邪念が入ってはならんと思い、伏せておった。松宮は信影流の使い手だ。無頼の徒に斬れれるはずがない。私恨と言うことにするしかない。藩を守るためには仕方がない…と苦し気に言うので、それを聞いていた原田が、私が…と申し出ようとするが、よく考えろ。そなたが咎を受ける事になれば、藩にまで咎を問われるのは必至。ここは耐えるのだ。ここは藩店、否、民のためだ…。討手を組め。香川を討て!と荒木は言い聞かせる。

その夜、帰宅した原田は、眠っている息子、市之助の寝顔を見つめる。

その後、藩士たちが次々に叩き起こされ、城に集められる。

山崎は、産まれたばかりの赤ん坊を気にしながら家を後にする。

原田は裸になり、頭から水を浴びて、身を清めていた。

城に集結した藩士たちを前に、待ち受けていた舟瀬は、松宮殿が殺害された!下手人は香川廣樹だ!香川は、多藩の修行を求めていたが許されず、それを遺恨に殺害を企て、逐電した…、よって香川を斬れ!と命じる。

その時、木村だけが前に出て、本当に香川がやったのですか?と聞くが、佐伯が守り袋を持って来て見せる。

それを観た木村は、そんな…と絶句する。

これが動かぬ証拠だ!嫌なら、討手に参加するな!と草加は木村を叱りつける。

今夕、公儀の御使者が参られる。それまでに香川を討て!と舟瀬は言い渡す。

続いて前に出た原田は、雪が深くなるかもしれぬ、備えを怠るな!と念を押し、藩士たちは一斉に動き出すが、そんな中、木村だけはその場を動こうとしなかった。

貴様はどうするんだ?と草加が聞くと、行きます!確かめに行きます!と木村は答える。

その後、槍や蓑を用意した討手が出立する。

そんな騒ぎを知らず、雪が降る中を香川は旅を続けていた。

城代荒木は、1人部屋にこもり、香川香川廣之進…、香川廣樹…と呟いていた。

雪の中、追う原田と藩士一同

何も知らず、旅を続ける香川

そんな中、荒木の元にやって来た舟瀬は、公儀の御使者、西崎様が参られますと伝える。

柛代山の追分に到達した時、原田は草加を呼び寄せ、地図を出される。

そして、ここで二手に分かれ、草加以下藩士たちは、柛代山を迂回しろ。自分は1人は進み、伝令役として1人連れて行き、香川を見つけたら知らせに走らせると告げると、その伝令役として深雪を指名する。

その時、又木村が前に出て、本当に斬ったんでしょうか?と聞くが、それには答えず、原田は草加に、奴を見つけても、わしが着くまでは手を出してはいかんと釘を刺す。

その草加は木村に、お前は来るな!と制止するが、私を原田様に連れて行ってくださいと頼み、原田、深雪と同じ道の方に進む。

原田から、心してかかれ!と言われた草加たちは、迂回路の方へ進む。

その後、小休止した草加に、仲間たちは、良く香川に松宮様が斬れたな…と不思議がる。

あの時、松宮様は酔っておられたから…と答えた草加は、俺は香川を許さん!と息巻く。

先を急いでいた原田は、松宮と剣を交え、斬り殺した時の事を思い出していた。

歩き始めた藩士の中、藤田が、争いごとは嫌だ!帰る!と言い出し、他の仲間たちから落ち着け!となだめられていた。

原田たちは、福音寺に到着する。

木村をその場に残した原田は、寺の裏手の墓の方へ探しに向かう。

その頃、由紀を訪ねて来た美奈江は、廣樹さんの事を聞きました?剣術指南役の松宮様が斬られたそうで、その下手人だと言われています。

和弘たちは討手として集められたそうですと不安そうに伝える。

福音寺では、木村が、ひょっこり姿を現した香川と再開していた。

香川は、木村と深雪がいるのを観て、どうしたんだ?と笑いながら近づくが、深雪は刀を抜き、原田様〜!いました!と絶叫する。

そんな深雪にしがみつきながら、木村は香川に、逃げろ!国境まで逃げるんだ!と叫ぶ。

訳が分からない香川は動けなかったが、そんな香川に斬り掛かろうとした深雪は、思わず香川の前に飛び出しかばった木村を袈裟がけに斬り捨てる。

驚いた香川は、倒れた木村を抱き起こそうとする。

木村は、由紀殿を…と呟いて息絶える。

木村〜!と絶叫した香川は、なぜ、こうなるんだ!と言い、深雪を斬り捨て、その場を逃げ出す。

その直後、原田が深雪の死体の所に駆けつける。

雪の上に、香川の守り袋が落ちている。

香川は必至に国境に向け逃げていた。

城では、公儀の使者西崎隆峰(栗塚旭)を迎え、城代荒木以下家老たちが控えていた。

松宮の一件の事でござるが、修行の許しが得るのが叶わん故、殺害に及んだと申すか?と西崎に聞かれた荒木は、すでに討手に追わせておりますと答えると、本日中に下手人討つと言うことでござるな?と西崎は念を押す。

私恨とは言え、わしが選び、差し向けた者を…、藩士が下手人となれば、公儀に痛くもない腹を探られる事になるやも知れぬ。多摩川治水のこともある故、下手人を討った後、ゆるりと話し合う事にしようか?と伝える。

その間も、香川は逃げ続けていた。

その頃、由美は自宅の仏壇に手を合わせ、父上、母上、廣樹をお守り下さい!と祈っていた。

木村、すまぬ!と言いながら、滝の側に来た香川は、舟瀬から渡された推挙状を開いてみる。

中に入っていたのは白紙だった。

俺は騙されたのか!くそ!と叫ぶ。

(太鼓の音が重なる)

草加たち藩士の一団も進んでいた。

雪山を走る原田、草加たちも走り出す。

茶室で荒木と退治していた西崎は、貴藩に遣わす新たな師範を考えねばならぬが、松宮より強い者でなくてはならぬな…と言い、城代家老は代々世襲だとか?これはいかがなものかと…と荒木に迫る。

由紀は、仏壇の下に置かれた箱を発見し、開けてみると、中に夫婦茶碗が入っている事に気づき、弟からの贈り物と知ると、廣樹!木村様!と言いながら泣き出す。

その香川は、国境に到達していた。

そこへ、香川がいたぞ!と叫びながら、草加と藩士たちが雪原の方へ駆け寄って来る。

全員、蓑を外し、持っていた槍を香川目がけて投げて来る。

草加は剣を抜くと、松宮殿殺害の咎により、斬る!刀を抜け!と言い出したので、他の藩士たちは、原田様の到着まで待つのだ!と諌めるが、草加は聞く耳を持たない。

藤田は必至に、止めてください!と止めようとするが、仲間に、刀の柄で突き放されてしまう。

貴様等〜!と香川も興奮し出すが、原田だけは、止めて!みんなで帰りましょう!と必至で声を挙げる。

しかし、そんな制止も空しく、香川を取り囲んだ佐伯、合田、白井たちは全員、香川の剣に倒されて行く。

最後まで戦うのを拒否していた藤田も、草加に押し出される形で香川の前に来ると、あっさり斬られてしまう。

とうとう草加と香川の一騎打ちになるが、香川は、雪の中に押し倒した香川ののど笛を斬り裂いてとどめを刺す。

その直後、全滅した草加たち藩士の死骸の前に、原田が駆けつけて来る。

何故このような事に!何故俺を討たなければ?何故、多くの者が斬り合わなければ行けないのですか!?と香川は問いかけるが、雪の中、香川と退治した原田は、何も答えない。

原田様!お答え下さい!これが武士道ですか!と原田は迫り、両者は共に剣を抜き合う。

(太鼓の音が重なる)

香川の方が先に飛びかかり、両者は相打ちのように剣を刺し違えるが、倒れたのは香川の方だった。

原田も右胸を貫かれていたが、太刀を収め、小刀を抜いた原田は、倒れた香川に近づき、小刀を振りかざす。

夜中、城代荒木と共に城に残っていた使者の西崎は、夜空にかかる満月を愛でていた。

良い月なれど…、月は満ちても欠けて行くもの…と西崎は呟いていた。

その時、御城代様!と舟瀬が呼びかけ、右胸に包帯を巻いた原田が担ぎ込まれて来る。

舟瀬は、香川廣樹を討ち取り、元取りを持ち帰られた!と荒木に伝える。

原田が苦し気な息の下、差し出した懐紙には、香川の髪が入っていた。

それが真、下手人の?…と西崎は聞き、荒木も、それで、討手の者たちはどうしたのだ?と問いかける。

香川によって、全て討たれたとの事…と、舟瀬が原田から聞いた事を伝える。下手人とは言え、松宮を斬っただけの事はある…と西崎は妙な感心をする。

ともかく、藩士総員力を合わせ、下手人を討った事は見事!しかと公儀に伝えますぞと西崎は荒木に伝える。

その時、原田は、御城代!と叫びながら、必至に香川の元取りの方へ手を伸ばそうとしていたが、もう良い!原田の手当を!と舟瀬に命じ、原田を連れ出させる。

荒木殿…、これで、今しばしは安泰でござるの?今宵だけでも…と皮肉を言うが、自分を睨みつけるような荒木の表情に気づくと、何だ?その顔は!と西崎は気色ばむ。

家老たちが、気が動転したのでございましょうと取りなしながら、荒木を部屋から連れ出す。

その後、1人になった城代荒木は、片手を前に上げ、許せ!と呟きながら泣き出していた。

その頃、つきの光に照らされた雪原。

草加たち藩士の死体が散らばる中、1人の藩士が、這いずって丘の方へ進んでいた。

丘の上に立ち上がったのは、髷を斬られた香川であった。

香川は無念そうに、夜空に向かい、うわ〜!と叫ぶのだった。