松本清張原作「砂の器」(1974)、横溝正史原作「八つ墓村」(1977)の名匠野村芳太郎監督が、今回は遠藤周作の原作を得て、新たに挑んだミステリ映画の新境地…と言った所だろうが、実際は、何だか奇妙な映画になっている。
この時期の野村監督は、「震える舌」(1980)の監督、「きつね」(1983)の製作と、難病と怪奇、恐怖をミックスしたような奇妙な映画を相次いで発表している。
この作品も、実はそうしたテーマの映画であり、前半部分は、オカルトじみた怪奇小説のような不気味で不可解な事件を描いてあるのだが、後半の謎解きで、それが、ある種の病気と関わっていたことが明かされる…と言う展開になっている。
おそらく、当時話題になっていた「エレファント・マン」(1980)を意識した企画だったのだろうが、前半の怪奇趣味が通俗な上に、後半のまじめな真相まで見せ物趣味で撮られてしまっている結果、典型的な「キワもの映画」になってしまっていると言わざるを得ない。
もともと野村監督は、父親と二代に渡り、松竹を支えて来た監督であるにも拘らず、器用過ぎるためか、通俗な娯楽映画等も量産して来たため、後輩や仲間たちからある日、実力はあるのだから、もっと本格的な映画を作るべきだと叱咤激励され、その言葉に奮起して作ったのが「砂の器」だったらしい。
ところが、その「砂の器」が成績評価とも高く、名匠の地位を確立したかに思えたのに、「八つ墓村」では、当時流行っていたオカルト趣味を全面に取り入れ、原作とはかけ離れたショッキングな映画に仕上げ、これ又、興行的には大当たりしたのが災いしたのか、その後も、芸術派の監督と言うより、どんなまじめな内容もキワものっぽく撮ってしまう通俗監督のような印象になって行かれたような気がする。
別に、芸術派の監督が上、娯楽派の監督が下と言うことではないが、普通は、ある程度まじめな映画で評価を得たら、その後は、いわゆる巨匠映画のような重厚な作品を目指しそうな気がするだけに、ベテラン野村監督の、「砂の器」以降の作品傾向は、非常に変わっているように思える。
ひょっとすると、興行的に低迷していた松竹を救うため、やむを得ず…と言うことだったのかもしれないが…
この映画の「キワもの」要素はキャスティングにも現れており、モデルや歌手、女優として、一時期人気があった小林麻美が主役のヒロインを演じ、劇中で胸も露なベッドシーンまで披露している。
もう1人、あの頼近美津子さんが女優として出ていることも驚きである。
NHKの美人アナウンサーとして人気が出、その後、フジテレビに移籍、そして、当時のフジテレビ社長夫人になると言う典型的な玉の輿と思われながら、その社長は4年後に若くして亡くなり、ご自身も53歳と言う若さで亡くなると言う数奇な運命の方だった。
この作品は、NHK退局後、フジテレビに移籍した直後に出演したものらしい。
当時は順風満帆の時期だっただけに、役柄も、現実の華やかな彼女とのギャップを狙ったのか、夫に先立たれ、片想いの相手と運命を共にしてしまう薄幸の美女を演じているのだが、その後の人生を知っている目で観ると、何だか、暗示的なものを感じてしまう。
北林谷栄が老け役ではなく、年齢相応の役を演じているのも珍しいような気がするし、藤田まことまでが、この種の、コメディではないキワもの映画に出ているのもあまり観たことがない気がする。
丹波哲郎が登場し、心霊写真や呪いのようなものの権威として説明するのは、その後の「大霊界」ブームの先駆けのようなものだろうか。
前半、渡瀬恒彦さん演じる和生の職業が東海村原子力研究所で、高速炉の技術主任などと言うのも、一見意味ありげで、謎解きに関係ありそうなのに、実は全く無関係だったりするのも、キワもの発想と言うしかない。
また、謎解きの重要な要素になる「絵」は、それなりにリアルに見えないと迫力がないからと言うことだろうが、ずぶの素人が描いているにしては、玄人はだしの達者なデッサン力で描かれているのも不自然と言うしかない。
このように、話の随所に「奇妙」な要素が溢れており、この手のキワもの映画、ゲテもの映画の類いが好きな人には、たまらない作品かもしれない。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼ |
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1981年、松竹、遠藤周作「闇の呼ぶ声」原作、野上龍雄脚本、野村芳太郎監督作品。 どこかのホテルらしき一室から、外の都会の夜景を見る男女の背中 キャストロール 東京タワー等、東京の空撮 病院の前に停まった車から降り立った稲川圭子(小林麻美)は、受付カウンターの予約係に神経科の会沢先生に会いに来たと伝える。 神経科の前の椅子に座った圭子だったが、両隣に座って待っている患者(丹古母鬼馬二ら)の様子は、微妙に不気味だった。 病室に入った医者の会沢吉男(高橋悦史)は、他の医者が絵を見せていた患者の様子を横で観察していた。 その山崎と言う患者は、右足が動かないと訴えていたが、身体的には異常はなく、明らかに、心理的に自ら動かないと思い込んでいる患者だった。 出された絵が何に見えるかと言う心理テストをやらされていたその患者は、苛立たしそうに、こんなことで足が直るんですか?と抗議をするが、あなたはどっこも悪くないんです。心理的なものなんですよ。もう1度やり直しましょう。私も協力しますよと声をかける。 しかし、松崎は、もうよかです…と諦めたように言うと、松葉杖を使って帰って行く。 次いで呼ばれた圭子は、会沢医師に会うと、外科の中村先生からの紹介で来たこと、相談は自分のことではなく、フィアンセのことであることを打ち明ける。 一月ほど前…と、圭子は語り始める。 (回想)友達の誕生パーティが、その友達の自宅プールで行われていた。 フィアンセの田村樹生(小林薫)に、電話が入ったと言うので、一旦プール際から屋敷内に入った後、戻って来た樹生の表情は暗かった。 お仕事の話?と圭子が聞くと、水戸の兄さんがこれから東京に来るって…、沼津の兄さんが蒸発したらしいんだと樹生は言う。 樹生は、4人兄弟の末っ子で、出身は熊本なのだが、7年前に長男が蒸発していたのだった。 バーで会った水戸の二男原田和生(渡瀬恒彦)は、熊本の兄さんのときと同じで、沼津の弟も、真夜中、ふらっと出て行ったっきり行方不明になったらしいと言う。 沼津の弟は気が弱く、人の恨みを買うような男じゃないとも言う。 万一、俺が蒸発するときは、お前に知らせておくと冗談めかして樹生に告げると、改まって、圭子さんに1つお願いがありますと言い出す。 私たち4人のうち、2人も蒸発したことで、何かうちに変な血が流れているとか思わないでくださいと頼む。 その数日後、東海村原子力研究所に勤めていた和生兄さんも蒸発したんだ!今度は僕の番だ!ただの偶然じゃなかったんだ…と樹生は、怯えたように圭子に伝える。 (回想明け)話を聞き終えた会沢医師は、田村さんのご家族に神経病にかかった人は?と聞き、樹生さんはノイローゼなんですと訴える圭子に、一度お会いしてみますか。ただし、相手に診察を受けることをあらかじめ承知させておいてください。それと、あなたは、私のやり方を信用してくださいと圭子に念を押す。 病院を出た圭子は、樹生のアパートにやって来るが、308号室のチャイムを鳴らしても返事がない。 留守かと思って、ドアノブを回してみると明いていたので、中に入ると、煙草を吸った後がある。 樹生は、近くの公園で1人座り、放心したようにぼーっとしていた。 その夜、自宅で彫金をやっていた圭子の部屋に入って来た父親の稲川英輔(芦田伸介)は、中村先生から聞いた。婚約は延期したらどうか。社員として優秀と言うことと、家族として向かえることは別だからと言って来る。 そこに、母親が野田専務が見えたと英輔を呼びに来て、圭子、ママも反対ですからねと言うので、意地になった圭子は、私、樹生さんと結婚しますから!と頑に返事をする。 一方、帰宅した会沢医師の方は、宿直じゃなかったんだ?ハルオのおできの薬、もらって来てくれたと寝ぼけ眼で聞いて来た妻に、忘れたと答えると、自分の部屋に入り、ノートに「蒸発」とかき込むと、猿の玩具のネジを巻くが、壊れているのか、猿はシンバルを叩かなかった。 後日、圭子から指定された六本木のクラブにやって来た会沢医師は、明石さつき(頼近美津子)と言うママを紹介される。 何を差し上げましょう?とさつきから聞かれた会沢は、胃が悪くて酒は飲めないので、ミルクを摂氏20.5度にして下さいなどと細かな注文をする。 そして、圭子に用意して来てもらった樹生の家系図を観た会沢医師は、他の兄弟たちが原田姓なのに対し、樹生だけが田村姓になっているので首を傾げる。 圭子は、樹生だけ、養子に出されたのだと説明する。 その後、会沢医師は圭子と共に、圭子の自宅にやって来る。 圭子が母親に、樹生さんは?と聞くと、まだだと言うので、自ら電話をかけてみる。 応接室に案内された会沢医師は、先ほど会ったさつきのことが気になるようで、圭子にどういう人かと聞いた所、一緒に日本舞踊を習っている間柄だが、5年前、ご主人を交通事故でなくされている方だと圭子は説明する。 それを聞いた会沢医師は、やっぱりそうですか…と合点が言ったようで、手を組んでいましたが、右の親指を上にして組んでいる人は、疲労か老化していると言うホヤ・ボンセと言う人の学説があるのです。活力がある人は、左の親指を上にしてこう組むんですと説明する。 樹生が来たので、部屋のカーテンを閉め、圭子は部屋を出て、会沢医師は、ソファに腰掛けた樹生の背後に位置し、話を聞くことにする。 小学校3年の時、熊本の父親が死に、母親はそれ以前に亡くなっていたので、それ以来、熊本には帰っていない。 水戸の兄さんとは良く会っており、唯一の肉親みたいに思っていた…と話し始めた樹生は、変な電話がかかって来たのは夜中だと言う。 その音で目が覚めると、電話は鳴り止む。幻聴かもしれません等と言うので、不安神経症ですねと会沢医師は意見を言う。 樹生は、右手の親指を上にして手を組んでいた。 会沢医師は、私は3人の兄さんの行方を探してみようと思うと告げると、今晩から、夢に出て来たことをメモしておいてください。夢はこれから起きることの予見であるとダーンと言う人物が言っています。100%じゃないけど、あり得ることです。ネズミ等が自身等災害が起きる前に逃げ出すのと同じような防衛本能が人間にも本来あるのですと樹生に伝える。 あなたを直すためには、あなたの心の中にメスを入れ、深いあなたの心の中をかき回さなければならないが、その時、不安神経症は直るのですと会沢医師は説明する。 その時、約束通り1時間経ったので…と言いながら、圭子がお茶を運んで来る。 樹生は、東海村の兄から来た手紙を会沢医師に見せる。 長いトンネルをくぐり抜けると、深い谷が現れ、又長いトンネルを通り過ぎると、城跡らしい場所に出ると書かれてあり、これも、危険の予告なのでしょうか?と樹生は聞いて来る。 会沢は、水戸の東海村に行ってみましょうと答える。 後日、東海村へ向かう列車の中で、会沢医師は、圭子と隣り合って座っていた。 上野駅で圭子が現れたのだった。 数日前、酒は飲まないと言っていたはずの会沢医師だったが、列車が動き出すとすぐに、ポケットウィスキーを取り出し、医者の不養生ですよなどと言い訳をしながら飲み始める。 会沢はユンクの夢判断等の話を圭子に聞かせ、トンネル、山、谷、城跡と言った和生の手紙に書いてあった要素は、どこにでもありそうに思えるが…と判断の難しさを指摘する。 東海駅に着いた2人を待ち受けていたのは、和生の妻の妹の夫で、茨城新聞に勤めている藤村邦直(下絛アトム)だった。 藤村の車で、取りあえず、和生の勤め先だった原子力研究所の前を通り、和生は技術部主任で高速炉の技術始動等をしていたらしいなどと藤村が運転しながら教える。 職員住宅の和生の家にやって来た藤村は、家の中にいた、和生の妻の広子(中島ゆたか)に、義姉さん、どうするんだい?と声をかける。 夫は失踪した広子は、けだるそうに、分かってるわよと答えると、娘のよし子を連れ、家の前で圭子と会沢に挨拶をすると出かけて行く。 あのよし子には、パパは外国に言ったと説明しているそうですと藤村は会沢医師に説明する。 和生の家の中に入った会沢と圭子に、藤村は、和生は、9時頃帰宅して、この部屋に入ったそうですと警察が調べ終わった和生の部屋を見せ、義姉さんは、こっちで寝ていたそうですが、気がつくと、スタンドはつけっぱなしになっていたそうです。警察は、女性関係まで調べたそうだと教える。 圭子は、よし子が描いたらしき塗り絵を見つけ、何とも言いきれない気持ちになる。 最近では、沼津の弟さんのことを心配していましたが、良く海に行くようになったそうです。久慈川の河口ですと藤村が言うので、3人でその場所に行ってみることにする。 あの辺で、ぼんやり海を眺めていたそうですと言う藤村の言う場所に、会沢医師も同じようにしゃがんで、海を見てみる。 圭子はその後、山、谷、線路、城跡等をヒントに場所が特定できないか、会沢から教えられた郷土史家の鳥羽を訪ねていた。 鳥羽は、怪訝そうに、会沢君の紹介ってことは、夢判断ですか?と聞いて来たので、圭子はそうですと答える。 その後、会沢医師と啓子は、沼津の兄捷平(竹内のぶし)の家に行ってみることにする。 まず、捷平が働いていた魚河岸に来てみた2人は、実家に戻っていた捷平の妻里江(鹿沼えり)を訪ねる。 里枝の母親は不機嫌そうだったが、里江は、捷平がいなくなる前頃、真夜中、何度も電話がかかって来たことがあり、受話器を取っても、相手は何も言わなかったと言う。 その後、夫と半年暮らしていたと言う家に向かい、その後、海辺の突堤にやって来た里江は、ここにあの人のサンダルが片方だけ落ちていたのだと会沢と圭子に教える。 あの頃、変なことばかりあり、きっと、呼ばれたんですよ、うちの人…などと里江は言い出す。 熊本から変な写真を持って帰って来たことがあり、それには姉と一緒にうちの人が写ったものだったが、その背後の窓に、不気味な老人のような顔が映り込んでいたと言う。 その写真は?と会沢が聞くと、東海村の兄さんが持って行ったと里江は言う。 助野先生もその写真を観たと言うので、その心霊研究家と言う助野(北林谷栄)と言う人物に会いに行ってみることにする。 助野は、写真には霊が写っていた。原田捷平さんは、死んだと思われる熊本の兄さんと交信したかったのですと言うので、霊との交信なんて出来るんですか?と聞くと、肉親の間での方が強く出来ます。ちょうど今、お母さんを亡くされた娘さんが交信しますから、観て行きますか?と誘う。 会沢と圭子は、隣の部屋で見学させてもらうことにする。 丸テーブルには、その娘らしき女性が既に座っており、助野もその隣に座ると、ひげ面の男が部屋に入って来る。 どうやらその会長と呼ばれた男が霊媒役のようで、女性の向かい側に座ると、助野がオカリナを吹き始める。 すると、にわかに会長の様子が変化したので、助野は、お母さんが来られましたよと娘に言う。 娘は、テーブルに突っ伏した会長に向かい、お父さん、来なかったのと詫びる。 すると、会長は苦しみ出し、床に転がり落ち、呻き始める。 その様子を見た助野は、何か、動物のようですね。絵画っていた動物がいますか?と聞くと、娘は、太郎と言う犬がいます!と答える。 心霊研究所からの帰り、車の中で、会沢と圭子はすっかりしらけたと言うか、落ち込んでいた。 一方、樹生は、海岸で和生が自分の名を呼びかけ、待ってくれ〜!と言いながら走る自分の姿を夢に観ていた。 目覚めた和生は、薬を飲む。 後日、藤沢が、会沢が勤める病院にやって来る。 原田さんは何ものかに誘拐されたんですと藤沢は、面会した会沢医師に告げる。 重要な事実を発見しました。秘密を知られたくない人間がいたんですと言う藤沢は、原研の和生のロッカーから手帳が見つかったのだと言う。 そこには、Xと言う謎の人物を想定した犯罪記録めいた記述があった。 原研も義姉も、書かれていることに関しては知らないらしいと言い、手帳の間に挟んであったと言う1枚の写真のコピーを見せる。 それは、窓に、不気味な老人のような顔が映った心霊写真のようなものだった。 会沢はそれを見て、沼津の弟さんが、熊本から持って来た写真だ!と気づく。 圭子は、今朝早く熊本に出かけたことを会沢は知っていた。 熊本空港に着いた圭子は、案内係で、しないまで車で40分くらいだと聞いていたが、その時、表で車を持っていた明石さつきがいることに気づき、名前を呼ぶが、さつきは気づかないままタクシーに乗り込み、どこかへ出かけてしまう。 熊本の原田の長男の実家の薬屋「原田南雲堂」を訪ねた圭子だったが、店は閉ざされており、近所の住民の話によると、蒸発した長男順吉の妻は、兄さんの所に身を寄せていると言うので、その兄の住所を教えてもらう。 京町2丁目にタクシーでやって来た圭子は、久世商事と言う店を見つけることが出来た。 中に入って、応対に出て来た久世豊吉(米倉斉加年)に、原田順吉さんの奥さんはいるかと尋ねると、妹は病気だと久世は言うが、奥で掃除をしていた女性がそうらしいと見当をつけた圭子は、順吉さんの奥さんですねと思い切って話かけてみる。 順吉の妻原田ミツ(宮下順子)に、樹生のフィアンセだと自己紹介した圭子は、今回のことで、すっかり樹生さんはノイローゼになってしまったと伝える。 一緒に話を聞いていた久世は、和生までもが蒸発したと知ると、本当ですな?と驚いたようだったが、祟りですたい…、原田の家には祟りがある。兄弟して3人も消えるなんて…、手を引いた方がよかですよと圭子に言う。 しかし、圭子は、捷平が持って行ったと言う写真を見せて頂きたいと頼むと、捷平が描いた絵ならあると久世は言う。 そんな絵、どこにあるか…と困惑するミツに、探しておいて、後で圭子が泊まっているホテルまで届けると言う久世は、ホテルの名を聞くと、気持ちの悪か絵ですたい。順吉は、あの絵を残して蒸発したとですと言う。 その頃、東京では、さつきから圭子に宛てた手紙が配達されていたが、宛名の住所には誰もいなかった。 熊本のホテルに戻った圭子は、そこで明石さつきに出会ったので、声をかけ、後でお茶でも飲みましょうと約束して自分の部屋に向かう。 その後、東京の会沢医師に電話を入れた圭子は、こちらで、六本木のお店のさつきさんとお会いしましたと報告する。 それを聞いた会沢は、和生の手帳に書かれていた「五月」と言うのは「さつき」の事ではないかと気づく。 さつきは、東海村の原田和生のことを何か知って、熊本に行ったのではないかと想像したのだ。 その後、ホテル内のティーラウンジに向かい、さつきを待っていた圭子だったが、一向に姿を現さないので、フロントで確認してみると、明石様はもうお発ちになって、部屋はキャンセルになったと言うではないか。 その頃、久世は、昼日中から、ミツを布団の中で抱いていた。 ミツは愛撫されながらも、あの絵ば捨ててください。何で渡すんですか?と頼んでいたが、執拗にミツの身体を求める久世は、捨てられるか!あの絵が!とわめく。 帰京した圭子は、久世から渡された絵を持って、病院の会沢医師を訪ねる。 会沢医師は、さつきさんと東海村の兄さんには何か関係があり、兄さんは熊本に来ていたんだと思うと言いながら、沼津の弟からもらった写真のコピーを圭子に見せる。 その写真の窓の部分に映っていた不気味な顔と、圭子が熊本の久世から預かって来た絵に描かれた顔とはそっくりだった。 そして、樹生がつけていた夢の記録を読んだ結果、列車に長いトンネル、深い谷、又長いトンネル、城跡…と、お兄さんの夢と同じことが書かれていたので、大体見当がついてきましたと報告すると、明日の晩7時、東大医学部に田村さんとご足労願えませんかと告げる。 翌日、圭子が樹生と共に、東大医学部に行くと、そこには会沢が待ち構えており、彼の先輩だと言う杉林(丹波哲郎)が、セーラー服姿の女子高生に、催眠療法をやっている所を外から覗かせてくれる。 杉林は、少女に暗示をかけ、斜め後ろに身体を傾かせた状態のままにしてみせたりする。 本人は、後ろに支えがあると信じ込んでいるんですよ。意識の力って恐ろしいですよねと会沢が、圭子らに説明する。 そして、術をかけられている少女と、かけている人の表情を良く見比べてくださいと言う。 少女への催眠術を解いてやった杉林は、別室に、圭子や樹生を連れて来る。 会沢医師は、圭子が熊本の久世から預かって来た絵を取り出すと、ここに描かれている人物は、頭が異常に大きく、口は半開き状態。マッコーワの説によると、これは、本人の社会的責任感から外界に強い憎しみを持っている。さっきの、催眠療法をかけている時の術者の顔に似ているでしょう?催眠術師が、被験者の覚醒後、姿を消すことも可能なんだと説明する。 すると、杉林は8mmフィルムを映写し始める。 それは、遊園地で遊ぶ子供を撮った短い日常風景だったが、映写が終わると、タバコを吸いたくなったでしょう?と杉林は樹生に聞く。 そして、もう1度、フィルムを写すと、遊園地の中でタバコを吸っている男のカットが数枚挿入されていたと種明かしをし、つまり暗示にかかったのです。今度の場合、呪いと言って良いと思うと杉林は言う。 憎悪している女の息を入れた瓶の中に、ハエを入れると、すぐに死んでしまう。呪いと考えれば、この写真の説明はつくと杉林は解説する。 すると、樹生は、日付のことで気がついたことがあるんですと言い出し、熊本の兄さんが蒸発したのは9月11日、沼津の兄さんが蒸発したのは7月11日、和生兄さんが蒸発したのは8月11日、全て11日なんです。今日は7日だから、次は僕の番なんです!と怯える。 人間の心なんてもろいものです。呪いと分かったんだから、自信を持って、見えない敵と戦うんですよ!と会沢は樹生に言うと、圭子にも、力になってくださいと頼む。 樹生と圭子が車で帰って行くと、それを見送った杉林は、大分、乗って来たようだねと笑い、会沢も、これからが勝負ですよと真剣なまなざしで答える。 帰宅した樹生は、相手はどこにいるんだよ!と苛つき、圭子は、しっかりして!とそんな樹生にしがみつくのだった。 その日、圭子は樹生の家に泊まるが、翌朝、樹生は、圭子さん、帰ってくれないか?僕は1人で大丈夫だ。11日なんて、ただの偶然に違いないんだと言うが、圭子は、一緒にいたいの。樹生さんの力になりたいのよ。良いでしょう?と頼む。 すると樹生は、情けないんだよ、自分が…、考えてみれば、こんなバカなことがある訳がない。今の世の中に、呪いや霊魂なんてあるはずがないんだ!と言うが、その時、電話がかかって来たので、圭子が出ると、相手は会沢医師だったので、今朝の樹生さんは落ち着いていますと答えると、樹生には、夢の記録を続けてくださいってと会沢から言われたことを伝える。 結局、11日まで圭子は樹生と一緒に暮らすことになり、一緒に外にランニングに出かけたり、夜、ベッドで抱き合ったりする。 10日 樹生は、急に会社に行くと言い出したので、だって、明日じゃないと圭子は反対するが、一生、この部屋に閉じこもる訳にもいかない。君が言う戦うって言うのは、こんなことじゃないはずだと言う。 樹生が出社したとの連絡を受けた会沢医師は、良い傾向ですよと電話で答えるが、圭子は、私、どうしたら良いのか分からなくなって…と弱気を見せる。 会沢医師は、樹生君の思う通りにやらせてみなさい。良い結果が出ますよと言い、電話を切ると、今度は、新聞社にいた藤村に電話をかける。 藤村は、樹生さんとは会ったことがないので、面識はありませんと答える。 その後、会沢医師は、霊の足が動かないと訴える山崎と言う患者に、何でも良いから絵を描いてみてくださいと説得していた。 その日、圭子は、花屋で花を買ったり、なるべく普通に暮らすよう心がける。 しかし、その夜、樹生は悪夢にうなされていたので、目を覚ました樹生に圭子が聞くと、中学時代の遠泳の夢で、先を和生兄さんが泳いでいる。その和生兄さんが僕を呼ぶんだ。でも僕は苦しくて…、それで、和生兄さんはどんどん泳いで行き、いくら呼んでも追いつけない。やがて僕は列車に乗っており、列車は長いトンネルに入る。その暗いトンネルを抜けると、深くて吸い込まれそうな谷が見え、又列車は長いトンネルに入る。それを抜けると、左手に何か…、城跡のようなものが見える!と言う。 3人の兄たちと老人の絵を思い出したのか、和生は悲鳴を上げる。 11日 宿直明けだったのか、病院で電気シェーバーでヒゲを剃りながら、会沢医師は、圭子からの電話で、又、霊の夢を樹生が観たことを聞く。 今日1日です。よろしくお願いしますと圭子は伝える。 1時半、営業の樹生に圭子は電話をかけてみる。 樹生は、5時きっかりに退社すると言うので、久しぶりに、外で食事をしましょうと圭子は誘う。 その後、茶店で時間を潰した後、樹生の会社があるTOWAビルにやって来た圭子は、もう1度、樹生に電話を入れる。 すでに、5時2分だったので、すぐに降りるよ。じゃあ下で!と約束して、樹生は電話を切る。 ところが、20分経っても樹生は降りて来ないので、営業課にやって来た圭子が、残っていた女子社員に聞くと、樹生は20分ほど前にもう帰ったと言うではないか。 驚いて、下に降り、受付で聞くと、まだ会社にいらっしゃるんじゃないですかと言うので混乱し、会沢に電話を入れ、たった今、樹生さんがいなくなってしまったんですと知らせる。 ところが、会沢医師は、心配いりませんよと言うではないか。 その頃、こうなることを予想した会沢医師から、樹生の尾行を依頼されていた会沢から依頼を受けていた藤村は、TDAの旅客機に乗り込んでいた樹生と同じ便にこっそり乗り込んでいた。 圭子さん、私はあなたを騙していたのです…と会沢医師は説明し出す。 案じや鈍い等と言うのは作戦だったんです。樹生さんの夢には疑問を持ったからです。長いトンネル、谷、城跡等、水戸の兄さんと全く同じだ。あまりにも作為的です。樹生君が僕を騙すつもりなら、逆にしかけて観ようと思った。案の定、罠をかけたら樹生君は乗って来た。そして、自分の方から11日と言い出して来た。真相は、割らしにもあなたにも知られたくないもの。おそらく、あなたが熊本から帰って来た後、樹生さんは何かを知ったんじゃないですかね。藤村君の報告を待つだけです。大丈夫ですよ。ゆっくり休んだ方が良いと言う。 その夜、熊本に着いた藤村から会沢に電話が入り、何度もタクシーを乗り換えられ、まかれてしまった、ここは熊本のさんロード新市街のどこかです。これから僕はどうすれば良いんです?と言う。 一方、帰宅した圭子に、以前、夢に出て来た場所の捜索を依頼していた鳥羽から電話が入る。 鳥羽は、調べて観た結果、夢に出て来たトンネルや谷や城跡が揃っているのは、熊本の高森から高千穂、天岩戸辺りではないかと言う。 16世紀頃、当地の豪族たちは覇権を競い合っており、山塞や砦に近いのだと言う。 その事を知った圭子と会沢医師は、東京国際空港から一路熊本へ飛ぶことにする。 樹生にまかれた藤村も熊本からの連絡だったからだ。 高森から高千穂にかけて、城跡があるんですってと圭子は言うが、夢が近い将来の予言をするなんて誰も信じないでしょうと会沢が答えると、私、信じたいんです!知りたいんです!私、賭けてみたいんです!と圭子は訴える。 熊本空港で2人を出迎えた藤村は、立田公園で死体が見つかり、それは和生兄さんですよ、心中は偽装工作です。相手の女性は身元不明ですと教える。 3人はその足で、熊本県警の死体安置場に向かう。 シートを剥がされた男女の死体を見た会沢は、それが和生と明石さつきと知り、手帳にあった「五月」と言うのは、やはり明石さつきのことだったのだと気づく。 そこに、順吉の妻ミツもやって来て、和生さん!何で、あんたが…と死体にすがりつく。 刑事課長の説明によると、女性が首を吊っていた死体の木の下に、男性が寝かされていたが、それぞれの死亡時刻は12時間以上の開きがあった。おそらく、女性が男性の縊死体を発見し、俺を気の下に降ろして、その後、自分も自殺したのではないかと言う。 その後、4人は、ミツの家である原田南雲堂に来る。 あのお嬢さんは、和生さんの事件を1人で解決しようとしたんでしょう…と話しだしたミツは、夫の順吉と捷平さんは久世に殺されたんです。あの男は私の兄でも何でもない。私は、自分の亭主とその弟さんを殺した男と暮らしていた。罰当たりですよ…と告白する。 会沢が、謎の老人の絵のことを尋ねると、それは老人ではありません。久世の子供ですとミツは言う。 20になるかならんとに、口も聞けないのだと言う。 私は、7年間、その子の面倒を見させられたのだとも。 この子をこんな姿にしたのはうちの人です。原因は薬です。この子はリュウマチを病んどったのです…とミツは語り出す。 久世と古い付き合いだったうちの人は、新薬を久世に渡したのです。はじめは効いていたんですけど、飲み続けているうちに顔が腫れて来たのですと言うミツの話を聞いていた会沢医師は、副腎皮質ホルモンでしょうと指摘する。 ステロイド治療に使うものですが、使い方次第では非常に危険だと言う。 半年間、病院に行ったけど、医者はさじを投げてしまったとミツは言う。 久世は男手一つで育てて来ただけに、子供がこのようになると、鬼のようになりました。 順吉がいなくなったのはそのためです。私は、夫の罪滅ぼしをせんといけんと思うて、久世に抱かれてきました。地獄でした…、この7年間…とミツは告白する。 奥さん、樹生さんは今どこにいるのですと聞くと、今、久世と2人で、子供のいる実家に匿われています。場所は、高千穂線の「日ノ影」と言う所だとミツは教える。 さっそく4人は、高千穂駅から天岩戸行きの列車に乗り込む。 最初はみんなと一緒に、ボックス席に座っていた圭子だったが、やがて立ち上がると、運転席側の窓から、進行方向の景色を観始める。 それに習うように、会沢と藤村も景色を観始める。 列車はやがて長くて暗いトンネルに入る。 そこを通り過ぎると、深い谷が見えた。 そして、また、長いトンネルに入り、それを通過すると、左手に城跡が見えた。 夢の中に出て来た風景と同じであった。 これは…、夢の!と圭子は驚く。 やがて「日ノ影」駅に着き、4人は降りて、久世の実家に到着する。 先に上がって様子を見て来たミツは、上がってください。奥で久世が待っておりますと、玄関先で待っていた3人に伝える。 対面した久世は、ミツが何もかも話してしまったことを聞いていたようだった。 良かです。いつまでも隠し通せるもんじゃないですから…と覚悟している様子だった。 しかし、自分は、順吉も捷平も、直接殺したのではない。もし私が懲役に入ってしまったら、どぎゃんして息子は生きとります!と言う。 それでも、わしは順吉の奴は許すことは出来ん!生きている間、あいつの胸の中に、息子の姿を忘れんごと、刻み付けたかったとです! わしはあいつに、息子の姿を絵に描けと命じました。最初は喜んで、1日に6枚も7枚も描きよりましたが、やがてスピードが落ち、やがて描けんごとなったとです。死なしてくれと言うとりましたが、1000枚描き上げるまでは、どぎゃんしても死なせる訳にはいかん! そんなある日、この家を抜け出した順吉は、追いかけた私の目の前で、鉄橋から川に身を投げました。おそらくあの時、死んでしまったのでしょうと久世は語り終える。 薬のことで、うちの人をそそのかしたのは捷平さんでしたとミツが口を挟む。 その捷平が、わしとこいつの関係を知って、今年になって脅しに来るようになった。それで、こっちにあいつが来た時、息子の絵を二重写しにした写真を、あいつのポケットに入れましたと久世が付け加える。 後は声を聞くだけでした…と言うので、電話ですね?真夜中の…と会沢が指摘する。 (回想)無言電話の脅迫でノイローゼになった捷平は、ある晩、港の突堤から海に飛び込んでしまったのだ。 (回想明け)東海村の和生さんは良か人でした。事情を知ると、涙を流し、手をついて詫びてくれました。私も嬉しかった…。その和生さんがなしてあげなことを…、もう、どげんしても、倅の身体は元に戻りませんと久世は悔しがる。 樹生の事を聞くと、久世がいる場所に案内すると言い出す。 久世が一行を連れて来たのは、座敷牢のような場所だった。 久世が鍵を明けると、突然、中に閉じ込められていた樹生が久世に飛びかかって来る。 獣と一緒にこんな所に閉じ込めやがって!と半狂乱になっていた樹生に、獣?倅を獣と言うとか!と久世も興奮する。 その時、部屋の奥の方から呻く声が聞こえて来たので、よしかず、どげんしたと?父ちゃんが来たばい。苦しいかか?と言いながら、久世が中に入り、その息子のよしかずとやらの背中を優しくなでてやるだけだったが、そのよしかずは、頭部が腫れ、わずかばかりの白髪が垂れ下がった、老人のような哀れな姿だった。 言葉も話せず、呻くだけのその姿は不気味と言うしかなく、座敷牢の入口で目の当たりにした圭子は思わず泣き出してしまう。 圭子、樹生、会沢、藤村らは、久世の家を出ると、近くの河原にやって来る。 久世さんのこと、いつ知ったの?ねえ、教えて…と圭子は樹生に問いかける。 和生兄さんから手紙が来たんだ…、君にだけは知られたくなかった…、君との将来をめちゃめちゃにされたくなかったんだ。それで、久世と取引しに来たんだ。あの息子があんな風になったのは僕には無関係だ。それで、1000万渡す事にした。僕には大金だ。金で解決するしかなかったんだ。それが、僕に出来る精一杯の償いだったんだよ…と樹生は打ち明ける。 私の前から突然姿を消したのは、私に心配させまいとしたのね?11日の事を言い出したときだって、私、本気であなたのことを心配して…、それ、分かってらっしゃる?と圭子が迫ると、君を愛していたんだ。こんなことを君に知られたくなかったんだと樹生が言うので、お金の他に、あなたに出来ることはなかったのかしら?と圭子は問いかけながら泣き出す。 圭子たちから少し離れた所にいた会沢は、トンネル、谷、城跡…、不思議なことがあるもんですね…とつぶやき、やはり、久世の怨念が呼び寄せたのでしょうか?と藤村も怯えたように答える。 分からんことがあるもんですね…、そう話し合っていた2人の背後には、賽の河原のように、石がいくつも積み重ねてあった。 後日、会沢のいる神経科に、松葉杖でやって来た山崎は、相変わらずです…と症状に変化がないことを報告すると、家で描いて来た絵を取り出す。 どうんな絵でも良いと先生がおっしゃったから…と言うその絵は、久世の息子を描いた、あの老人のような絵だった。 それを見て驚いた会沢は、思わず、順吉さん!と呼び掛け、山崎(藤田まこと)は、えっ!と驚く。 数日後、ロスアンゼルス支店の経理課長になった樹生を見送りに、圭子は空港に来ていた。 それを、テーブル席から見送っていたもう2人の男がいた。 会沢医師と、今では山崎と名を変えていた樹生の一番上の兄、原田順吉だった。 兄弟の中で、あいつだけは幸せにやって欲しいと言う順吉に、声をかけてやったらどうですか?と会沢は勧めるが、原田順吉は7年前に死んでいます。今ここにおるのは別の人間です。ではご無礼…と頭を下げ、順吉は立ち去って行く。 もう松葉杖こそついていなかったが、やはり右足は不自由なようだった。 そこに近づいて来た圭子は、お知り合いの方ですか?と順吉の事を聞くが、会沢は、患者さんです。気の毒ですが、もうあれ以上良くならないでしょうと答える。 先生、さつきさんが出した手紙、住所が間違えていて、今届いたんです。あの時、東海村の兄さんを待っていたんですってと圭子は手紙の内容を教える。 男は忙し過ぎ、生きることに退屈していた。さつきさんは、死に場所を探していたのですよと推測を語った会沢は、あなたはいつロスへ?と聞くが、圭子は、行きません。色々あり過ぎて、婚約を解消したんです。自分で自分の気持ちが分からなくなって…と答える。 復讐に固持した久世も、金で解決しようとした樹生君も、みんな歯車が狂っている…と会沢はやりきれないように吐き出す。 でも私の気持ちもどうなるか分かりません。1年後、樹生さんを追いかけて行くかもしれませんし、先生を好きになるかも…、その時はよろしくお願いします…と言い残し、圭子は立ち去って行く。 後に残った会沢医師は、自分が右手の親指を上にして手を組んでいることに気づいていなかった。 |
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