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真夏の方程式

「容疑者Xの献身」(2008)に続く、「劇場版ガリレオシリーズ」第2弾で、冬が舞台だった前作とは対称的に、今回は真夏の海辺が舞台。

前作同様、トリック重視と言うよりは、事件に関わる人間関係に重きを置いた「人情ミステリ」「家族愛ミステリ」とも言うべき、泣かせを強調したような内容になっている。

話が錯綜しているとは言え、特にビジュアル的に映画でなければ表現できないと言ったような展開でもないように感じるが、丁寧なカットの積み重ねで、完成度は高くなっている。

ただ、インパクト的には前作の方が大きかったような気がするが、それは映画としての優劣ではなく、原作自体の性格の違いであるような気がする。

つまり、今回の話の出来が悪い訳ではなく、前作のような「大どんでん返し」のアイデアではなく、過去と現在の2つの事件の謎が、それぞれ解明されて行く展開なので、物語全体としての意外性がやや弱くなっているだけだと思う。

今回は、どちらかと言えば、ミステリ映画としてよりも、美しい海辺で少年と戯れる湯川の心温まる「夏休み」風景を楽しむ、番外編的な作品と捉えるべきかもしれない。

川畑重治、節子夫婦のキャスティングは、合成に利用できる若い頃の写真がたくさんあると言うこともあったのかもしれない。

個人的には、中学時代の成美を演じている子役が、本当に杏さんそっくりなのに驚かされた。

夏休み映画としては、まずまずと言った所ではないだろうか。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

2013年、フジテレビジョン+アミューズ+文藝春秋+FNS27社、東野圭吾原作、福田靖脚本、西谷弘監督作品。

1998年 冬

線路上の陸橋を渡る赤いパラソルの女性。

誰かが、その女性に駆け寄り、女性はその場に倒れる。持っていた赤いパラソルは、線路上に落ち、通り過ぎた列車の風圧で弾き飛ばされる。

倒れた女性の腹部からは大量の出血がある。

元ホステス殺害事件は、すぐに仙波容疑者(白竜)が逮捕されたと事件は新聞に載る。

ごめんね、成実!母さんのせいで…、この事は誰にも、お父さんにも一生の秘密だよ!母親の川畑節子(風吹ジュン)は、中学生の1人娘成実にそう詫びると、急に台所に立ち、何事もなかったかのように食事の準備を始める。

大人になった川畑成実(杏)は海中を泳いでいたが、海面に浮き上がると、浜辺で、ウェットスーツを脱ぎ始める。

成実〜!と、側の道路を通りかかったライトバンに乗っていた母親の節子が声をかけて来たので、成美も手を振って答える。

車を運転していたのは父親の川畑重治(前田吟)だった。

成美は、後頭部の髪を握って、海水を絞る。

タイトル

トンネル内で、列車のパンタグラフが火花を散らす。

湯川学(福山雅治)は、地方の短い列車の中で、クロスワードパズルをして時間つぶしをしていたが、後部座席から携帯の着信音が聞こえ、子供がしゃべり出したので、思わずペンを止める。

どうやら、親に、今列車に乗っていることを報告しているようだったが、なかなか話が終わらないので、湯川は苛つき出す。

少年は、母親が作ってくれたらしき握り飯を頬張りながら携帯を話し終えるが、隣のボックス席に座っていた老人が、列車の中では携帯を切るのが常識だろうがと少年に注意する。

ところが、少年は、電源を切ったら、すぐに警察に通報される非常通報システムになっているんだ。知らないの?などと小馬鹿にしたような返事をしたので、かちんと来た老人は立ち上がり、その少年の携帯を奪おうとし、もみ合っているうちに、携帯は前に座っていた湯川の席に飛んで落ちる。

老人の妻らしき女は、どうも…と湯川に詫びるが、立ち上がった湯川は、無言で少年の席に来ると、半分食べ終えていた握り飯を少年に食わせると、残った包み紙のアルミホイルに少年の携帯を包んで渡しながら、こうすれば、電源を切らなくて、電話はかかって来ないと説明する。

人気のない「玻璃ヶ浦駅」で湯川は降りるが、先ほどの少年も同じ駅で降りる。

その少年を迎えに来ていたのが、先ほど、バンに乗っていた節子と重治で、少年は、節子の弟の子供、つまり成美とは従兄弟に当たる、小学4年の柄崎恭平(山崎光)だった。

夏休みなので、2年振りに1週間だけ、節子と重治が地元でやっている「緑岩荘」と言う旅館に遊びに来たのだった。

恭平は、おじさんである重治のライトバンに乗り込む前に、あの列車で会った湯川が、ポスターを観ている姿を確認する。

そのポスターは、「玻璃ヶ浦の海底鉱物資源開発計画に関する説明会」に関するものだった。

会場では、「海洋開発機構」のメンバーたちが、地元の住民相手に、レアメタルの調査が行われるのは、50kmも沖合ですと説明していたが、そうした開発側に真っ向から反対していたグループの代表として、質問に立っていたのが成美だった。

そんな質問中、突然、背後のドアから入り込んで、説明者側の一角に座ったのが、招待されていた湯川だった。

調査は、深海の生態系にほとんど影響はないと説明していた開発側の発言に、突如、良くないな…と声を出した湯川は、深海生物の事は分かっていない。分からない事は分からないと言うべきだ。一方、開発によって得られる恩恵は君たちも受けて来たはずだと成美の方にも意見し、後は、選択の問題だと言う。

成美は、そんな唐突な発言に戸惑ってしまう。

自転車に乗って、自宅である「緑岩荘」に戻って来た成美は、宿泊カードを書き終え節子に渡していた客が、先ほどの説明会にもいたことには気づかなかった。

その客が部屋に向かった後、恭平が来ている事を知った成美は喜び、いつまでいるの?と聞く。

恭平は、1週間!うちの新しい店が始まるまでと答えるが、ちょうどそこに、予約をしている湯川です…と言いながら入って来たのが、先ほど自分を煙に巻いた学者先生だと気づく。

夕食は、広間で湯川が先に食べ終わると、節子に、娘さんですね?さっき玄関でお会いしたのは?と聞き、部屋に戻ろうとする。

酒を飲んでいたもう1人の客塚原正次(塩見三省)はあまり食事が進んでいない様子で、節子に対し、川畑さん、私は昨年まで刑事をやっていた。仙波英俊を逮捕したのは私です。ご存知ですよね?と話しかけて来る。

しかし、節子は、知りませんと言い、調理場に戻ろうとするので、話だけでも聞いてください!と塚原は呼び止めようとするが、節子は、湯川のお膳を持って調理場に戻って来る。

その節子の狼狽振りを見かけた重治は、どうしたのか?と聞くが、節子は何も答えなかった。

一方、ロビーで新聞を読みかけていた湯川に、博士!大学の先生なんでしょう?と恭平が馴れ馴れしく話しかけて来る。

しかし、子供嫌いの湯川は、今、僕は何をしている?と聞き、新聞読んでる…と恭平が答えると、邪魔しないでくれと頼む。

恭平はむっとするが、そこは子供なので、成美ちゃんの敵でしょう?僕、味方だよ、従兄弟だもの…などと意味不明な事を言って来たので、もっと論理的な考え方をしなさいと湯川が注意すると、理科みたいな事?嫌いなんだよね、理科…と恭平は言う。

その時、節子が、先ほど湯川が尋ねた地酒が飲める店に案内すると出て来て、恭平の方は、足の悪い重治が花火をしようと誘いに来る。

成美は、例の反対グループの面々と一緒に、地元の「玻璃料理」の店に向かう途中、海に向かいタバコを吸っていた節子の姿を観かける。

店に入ると、カウンター席で1人飲んでいた湯川を見かけたので、断って隣に座った成美は、会議でおっしゃった、選択の問題ってどういう事ですか?無責任な発言に聞こえるんですけど?と聞く。

湯川はそんな成美に、無責任なのは君たちの方だろう。私は物理学者であり、今回は、電磁探査のアドバイザーとして招かれただけだと答える。

開発は、環境破壊になるのではないですか?と成美が突っ込むと、全てを知った上で、自分の通る道を選んだ方が良くはないかね?と湯川は諭す。

私は、手つかずの海を守りたいだけなんですと成美は答える。

その頃、「緑岩荘」の表では、恭平と重治が花火に興じていた。

翌朝、目覚めた恭平は表が騒がしいので、窓から下を見ると、そこにパトカーが停まっていたので、好奇心に駆られ、ロビーに降りてみると、節子が、刑事たちから事情を聞かれていた。

この人で間違いないですか?と写真を見せられていた重治は、事故ですか?と刑事に聞いていた。

堤防の下を覗き込んでいた鑑識たちは、岩場に転落して死亡していた塚原正次の遺体を観ながら、ここから落ちたんだろうな?と呟いていた。

朝食の納豆を混ぜようとしていた湯川のいる広間にやって来た恭平は、博士、お客さんが死んじゃったんだって。大事件だよと御注進に来る。

来なくて良い!と湯川は恭平を側に寄せ付けまいとするが、下駄が落ちてたんだって。でも変なんだよ、あんな所、下駄で登れる場所じゃないし、夜は真っ暗だよ。散歩なんてするかね?などと名探偵振りを見せ始めたので、そんな事より、もっと理科を勉強しろと湯川が忠告すると、理科なんて、何の役に立つのさと恭平は聞いて来る。

聞き捨てならないな…と憮然としながら、湯川は納豆を混ぜ始める。

恭平が去って行った後、湯川は、浴衣を着た自分の右手を観る。

塚原が部屋に残していた遺留品を調べていた地元刑事たちは、バッグの中にあった身分証明書から、塚原が、元警視庁の刑事だった事を知る。

あり得ないな…、あの人が堤防から落ちるなんて…、東京の警視庁内でそう呟いていたのは、警視庁刑事部捜査一課の多々良管理官(永島敏行)だった。

多々良管理官は、草薙俊平(北村一輝)に、殺人の可能性ありとして調査してみるよう命じる。

その草薙から呼びだされた岸谷美砂 吉高由里子)は、何故自分がそんな事件の調査に行かされるのか?第一、玻璃ヶ浦なんて知りませんよと抗議するが、被害者が泊まっていた旅館にはもう1人客がいたんだと言いながら、名簿の写しを見せられると、口を閉ざしてしまう。

その玻璃ヶ浦の夕方、堤防に腰を降ろしていた恭平の側にやって来た湯川は、この下で死んでいたのか?と聞くが、事件現場は少し先だと恭平は答える。

どうしてここを「玻璃ヶ浦」っていうか知っている?と恭平が聞いて来たので、この辺は火山地帯なのだろう。玻璃と言うのは、火山岩中に含まれる非結晶質物質の事だから…と湯川は答えるが、ブーッ!と言った恭平は、水晶の事だよ。この辺の海は、水晶がキラキラ輝いているみたいに見えるから「玻璃ヶ浦」って言うんだと教える。

そんなに透明なのか…と湯川は感心するが、恭平は、観たいな…、海の中…と言う。

潜って観れば良いじゃないかと湯川が言うと、泳げないし、200m沖合だよ。船にも酔っちゃうから…等と言う。

その頃、「緑岩荘」では、どうしてうちに泊まったんだろう…、塚原さん?と重治は首を傾げ、かえって来た成美は、節子が右手を痛めているのに気づく。

そこに、この辺では、必要な時にタクシーが拾えないなどと文句を言いながらたくさんの買い物をして来た湯川が戻って来る。

そして湯川は成美に、1.5lのペットボトルが5、6本ないか?と聞いて来たので、あると思いますけど、何に使うんですか?と聞くと、海の中を観ると湯川は答える。

そこにやって来たのが岸谷美砂で、湯川先生がこちらに…と成美に聞きかけるが、すぐにロビーにいた湯川に気づく。

岸谷君?と湯川の方も気づき、何しに来たんだ?と聞くと、捜査です。事件があった事知ってるでしょう?と美砂が答えたので、成美と、奥から覗いた節子も、この闖入者を見つめる。

自分の部屋に戻り、何をしているのかと聞かれた湯川は、科学嫌いの少年に理科の面白さを教える実験さと言うので、美砂は、子供苦手だったんじゃないですか?ジンマシンでるんじゃなかったんですか?と聞き返す。

苦手なんじゃない。嫌いなんだ。でも、あの子の場合は痒くならなかった…と湯川は答える。

岩場に落ちて死んでいたと思われた塚原正次の死因は、一酸化炭素中毒でした。外で一酸化炭素中毒で殺すのは不可能ですと美砂が報告書を渡しながら説明すると、車の中等だったら可能だ、尿から睡眠導入剤が出ているじゃないかと湯川は報告書を観ながら指摘する。

そもそも何故、木原さんはここに来たのか?

15年前起きたある事件を追っていたのではないのか?と美砂は説明し出す。

2月15日、夜10時頃、荻窪の陸橋の上で、三宅伸子(西田尚美)と言う女性が刺殺された。

その後逮捕された仙波英俊と伸子は、事件前、馴染みの店で会っていたらしい。

アパートに捜査に向かった塚原さんの目の前で、仙波は逃亡。室内で、血の付いた包丁が発見された。

動機は金銭トラブル、逮捕後、仙波は罪に服し、釈放後は行方が分かっていません。

仙波は、玻璃ヶ浦の出身です。塚原さんは、今は誰も住んでいない自宅にも寄ったようです。

美砂が説明している話を、お茶を運んで来た節子は、扉の外でじっと聞き耳を立てていたが、思わず湯飲みの音を立ててしまったので、お茶を持ってきました。ここに置いておきますと中に声をかけ下に下がる。

成美も、どうして警視庁の人が…と怪しんでいた。

事件の解明を依頼された湯川は、そんな暇はないと断るが、塚原さんは、多々良管理官の先輩で、直々に先生にと!…と言いかけた美砂だったが、興味ない?と湯川の表情に気づき問いかける。

その頃、恭平は、携帯で父親に、今、警察の鑑識は、ボイラー室の不完全燃焼を調べていると報告していた。

そんな恭平に会いに来た湯川は、明日海に行く。携帯忘れるなと告げる。

翌日、東京に戻り、塚原の葬儀の準備中だった妻早苗(根岸季衣)に話を聞きに行った美砂は、引退後の塚原は、一番印象に残った事件は仙波の事件だった。あれは悔いが残るって言ってましたと教えられる。

その頃、恭平は、湯川について、海岸沿いに歩いていた。

どこまで行くの?と聞くと、泳ぐのもダメ、船もダメなら、歩くしかないと湯川は答える。

捜査本部に戻った美砂は、塚原が使っていたタウンページで折ってあるのは、簡易宿所やマンガ喫茶のページの所だと草薙に報告し、塚原さんは仙波を探していたんです。行ってきますと言い、又出かけて行く。

恭平と湯川は、海の突堤部分に到着していた。

湯川は早速、持って来た釣り竿の糸に、ペットボトルロケットを結びつけ、会場目がけて飛ばしてみる。

その頃、「海洋開発機構」の地元住民への二度目の説明会が開かれており、開発機構側が、開発が成功すれば、地元の経済効果が上がりますと発言したので、すぐに成美がそら出た!経済効果!とバカにしたように発言するが、住民たちの中には、経済効果の話を聞かせてもらいたいと言うメンバーもおり、反対派と小競り合いが始まってしまう。

そして、恭平に、竿に付いている距離計で、ペットボトルの落下地点が何mの距離だったかを読ませる。

135mだったので、リールを巻き戻し、ペットボトルロケットを回収すると、もう少し圧力を増やして、飛ばしてみる事にする。

東京では、美砂が、簡易宿泊所巡りをしていた。

説明会は、開発反対派と開発推進派との間で喧嘩になっていた。

湯川は、何で?どうしてと聞いてばかりいる恭平に、自分で考えろ。答えを知ったときの喜びが大きくなるからと教えていた。

マンガ喫茶で仙波の写真を見せて探していた美砂は、この人を探している人ならいた。店内の監視ビデオを全部見せてくれなんて言われたとバイトらしき店長が言うので、塚原の写真を出して見せると、この人だと言うと、ビデオ、私にも見せてくださいと美砂は頼む。

湯川は、目的とした200mにほぼ接近できる圧力を割り出したと考えたのか、それまでペットボトルに付けていた錘用の粘土を捨て去ると、その代わり、携帯をペットボトルロケットの中に埋め込むと、本番だ!と恭平に言い、恭平の携帯が鳴り出すが、まだ出るな!と制止すると、ペットロケットを打ち上げる。

恭平が釣り竿に付いた計器で読んだ数字は203mだった。

湯川は、携帯に出ろと命じる。

恭平が鳴っていた自分の携帯の画面を観ると、そこにはテレビ電話の要領で、今203m先に着水させた携帯から送られて来る水中の映像が映し出されていた。

画面が観難そうだったので、湯川は、しゃがみ込んでいる恭平の頭の上から黒いシートをかぶせて、暗室状態にしてやる。

恭平の喜びようは大きく、実験は成功だ!僕にも見せてくれないかと湯川が頼んでも返事すら返って来なかった。

満足顔の恭平と「緑岩荘」に戻って来た湯川は、建物の屋上に何かあるのか?と聞くと、煙突だよと恭平は言う。

その恭平は、台所でしゃがんでいた成美のジーパン目がけ、ペットボトルロケットで浣腸をする。

その頃、まだ外にいた湯川は、地面に落ちていた、恭平と重治が遊んだ花火の燃えカスらしいものを観ていた。

恭平は、マジで感動しちゃったなどとまだ興奮冷めやらぬ様子だったが、節子はそんな恭平に、湯川先生、何か言ってなかった?人が死んで気持ち悪いとか…と聞く。

恭平は、何もと答えるだけだった。

その夜の夕食は、恭平と湯川は一緒の席だった。

その夜、塚原が泊まっていた虹の間の前で待っていた湯川の元に、恭平は、重治が管理している鍵の束を持って来る。

室内案内図を観ていた湯川は、このやどの興味ある構造になっている…と呟くと、同じ階の「海原の間」に向かうので、恭平は、現場は虹の間だよと教える。

湯川は、鍵を使い「海原の間」に入ると、恭平には中のものには絶対手を触れるな!と命じると、懐中電灯を使い、中が掃除されている事を確認すると、部屋の中の匂いを嗅ぎながら、花火をやった時、あの窓しまっていたか?とその部屋の窓を指して恭平に聞く。

すると、恭平は、閉まっていたと言うので、どうしてそう言いきれると聞くと、やる前に調べたから。ロケット花火が飛び込んだらいけないからって、やる前に調べたんだ。それがどうしたの?と恭平は答える。

この旅館は、おばさんの実家だったの?と聞くと、東京から引っ越して来たんだと恭平は答える。

それはいつ頃?と湯川が聞くと、成美ちゃんが中学生の頃と言うので、今いくつなの?と聞くと、アラサーだってと言うので、湯川は、14、5年前か…と計算する。

おじさんは、自動車のエンジニアだったってと恭平は言う。

湯川は、そんな恭平の答えを聞きながら、押し入れの中の布団を外に出し、その中に入ると、天井と壁の隙間辺りに懐中電灯を当て、何かを熱心に探す。

そして、部屋を出ると、再び鍵をかけ、その鍵束を返して来るよう恭平に渡す。

警視庁に戻った美砂は、パソコンのテレビ電話を通じて、いなくなった仙波は、何かの病気にかかっていたらしく、やつれていたそうです。もし、塚原さんがそんな仙波を見つけたら、どっかの病院に入れてやったんじゃないかと指摘した湯川は、ここの家族の事を調べてくれ。奥さんは玻璃ヶ浦出身で、14、5年前に東京から引っ越してきたそうだ。ちょうど仙波が事件を起こした時期を重なると湯川は伝える。

部屋で横になって考え事をしていた湯川だったが、パソコン画面には、恭平と海で行ったペットボトルロケットの写真が流れていた。

東京での節子の住所は、北区王子本町の夫、重治の社宅。

その後、夫の重治は名古屋に単身赴任、節子と成美が東京に残ったのは、成美が私立中学に合格したためと、美砂が分かった事を湯川に連絡して来る。

15年前の仙波の住所は江戸川区、殺された三宅伸子の住所は江東区木場、事件現場は荻窪…、何でそんな所で口論したんだ?

塚原さんもそこに気づいたから、誰が殺したか知っていたんじゃないのか?と一緒に報告を聞いていた草薙が呟く。

仮説は実証して初めて真実になる…と湯川はパソコンに向かって告げ、厄介な事件だ。ある人物の人生をねじ曲げてしまう可能性があると指摘する。

そんな湯川に会いに来たのは、海洋開発機構の人間で、その人間に連れられ、湯川はAUV無人型探査艇を見学に出かける。

そこには成美も来ており、AUVの写真を撮っていた湯川に近づいて来ると、結局、住民の声を無視して掘削するんですか?と皮肉を言って来る。

湯川は、この潜水艇は、海底にぶつかる事はないし、環境破壊する事もない。環境破壊を調べているのなら、もっと勉強してもらわないとねと言い返す。

恭平に海を見せてくださったそうですけど、どうでした、玻璃ヶ浦の海は?と成美が聞いて来たので、素晴らしかったと湯川は答える。

君はここで生まれた訳でもないのに、何故そんなにこの海に思い入れられるのか?君はブログを作っているね。そこに書かれている言葉を読むと、まるで誰かを待っているようだ。君は誰かに帰って来て欲しいんじゃないのか?と湯川は聞き、成美の顔を勝手に写真に収めたので、憮然とした成美は立ち去って行く。

成美の中学校を訪ねていた美砂は、成美は1年で転校した子だったので、北区王子本町と言う社宅の住所しか知らないと教師から言われていた。

がっかりした美砂だったが、ふとガラスケースの中に、馘首の優勝トロフィー等が飾ってあるのを観たので、成美さんは何か部活をやってませんでしたか?と問いかけてみる。

その日の夕食は、紙鍋料理だった。

湯川と恭平が一緒に食べていると、重治が地元のものですと言いながら、1品小鉢を湯川に持って来る。

好奇心は人間を成長させる最大のエネルギーだと湯川は恭平に教え、何故、紙鍋の紙は燃えないのかを説明してやる。

恭平は感心したのか、手近にあった紙のコースターを、鍋を温めているアルコールランプの上に置いたらどうなるかな?と言いながら、箸でコースターをランプの炎の上に置こうとする。

すると、湯川は黙って、コースターを弾き飛ばし、さあ、食べようと言うだけだった。

側の冷蔵庫にビールを詰めながら、重治はそうした湯川の行動を監視していた。

下では、成美が誰かと電話していたが、電話を終えると、力が抜けたようにしゃがみ込んだので、それに気づいた節子が、成美、どうしたの?と聞く。

成美はどこに住んでいたのって聞かれた。警察が来たのよ!と成美が言うので、誰?と節子が電話の相手を聞くと、ユカリ、中学時代テニス部で一緒だった…と答えた成美は、もう無理だよ!と言うので、あの事は秘密と言ったでしょうと節子が励ますと、もう無理だよ、秘密にしておけないって!と成美は泣き始める。

その声に気づいた重治が近づいて来て、何を騒いでいるんだ?節子、湯川さん、気づいているよと教える。

それを聞いた成美は、もう無理だ!と泣き崩れる。

その後、美砂からの、節子と成美がすんでいた場所は荻窪で、三宅伸子殺害現場の近くだったと言う連絡を受けていた湯川は、自分は明日出て行けと言われた。重治は自首するつもりだと告げる。

翌日、湯川が「緑岩荘」を追い出され、ホテルを探しに向かっていると、恭平も後を付いてきて、明日、お父さんが来るんだって…と教える。

そんな2人を追い抜いて、パトカーが通り過ぎて行く。

そのパトカーに乗せられていた重治は、湯川の方に会釈して来る。

湯川は恭平に、君はここにいるべきではないと告げる。

地元署の取調室で重治は、すらすらと自供を始めていた。

事件当夜、甥っ子と花火をした。塚原さんは強い酒が欲しいと言われた。旅先では寝付きが悪いからだとおっしゃって…。

それで、睡眠薬を差し上げました。自分も不眠症になった事があるので、駅前の内藤医院で処方してもらいました。

花火の後、虹の間に電話をしました。朝食の時間とかを確認するためなんですが、塚原さんはお出になりませんでした。

塚原さんは、海原の間に倒れておられました。

1階のボイラー室に行って調べてみると、ボイラーが停まっていました。

あの旅館は、壁の間を煙突が通っているのですが、壁のあっちこっちに亀裂が入っており、中の配管も古びていました。

海原の間は、時々、煤の匂いがしていたので、普段は使わないようにしていたんです。

その後、女房が観に行って、塚原さんを発見しました…と言う。

虹の間に泊まっていた塚原さんが、何故、海原の間に移ったんだろう?と刑事が聞くと、花火を観ようとしたのではないか。鍵は普段からかけていない。掃除の時面倒なので…。

女房は警察に知らせようと言ったんですが、運び出そう。うちで死体が見つかったら、宿は終わりだと自分が言い出したのだと重治は答える。

節子の方も別室で同じように事情聴取されていた。

足の悪いご主人が良く死体を運べましたねと刑事が疑問点を聞くと、あの時は無我夢中で、2人で何とか車に乗せて、堤防の上に塚原の死体をシートごと運び上げると、メガネをかけさせ、包んで来たシートを引っ張って、死体を岩場に落としたと節子は言う。

あの家族は全員秘密を抱えている…、母と娘には秘密がある。でも父にも欺かれている…、湯川はそう草薙に連絡していた。

ある人の人生をねじ曲げる可能性がある?…草薙は湯川の言葉を反復していた。

湯川は、パソコンで見つけた「マイ・クリスタル・シー」と言うタイトルの成美のブログの事を思い出す。

節子が昔勤めていたと言うとある料亭で、美砂は、川畑重治と節子の結婚当時の写真を見せてもらっていた。

若い頃の節子はなかなかの美人だった。

その写真の中に、仙波英俊も写っていた。

その頃の仙波はなかなか羽振りも良く、節子さんの顔見知りだったんじゃないかと、店の主人は言う。

アルバムをめくっていた美砂は、節ちゃん、成美ちゃん2ヶ月と書かれている部分の写真がない事に気づく。

節子と仙波は仲が良かったと主人が言うので、まさか男と女の関係が?と美砂が聞くと、それはない。仙波さんには奥さんいたものと言う。

写真に写っている仙波の隣の女性が奥さん?と美砂が聞くと、それは殺された三宅伸子だと言うではないか。

金にだらしなかったからね、伸ちゃんと主人は言う。

三宅伸子と節子夫婦には接点があったのだ。

29年前、節子は結婚した…、美砂が運転する車に乗った湯川は、そう美砂から聞かされていた。

冤罪でした。犯人は仙波じゃありませんと草薙は多々良に報告していた。

しかし、仙波は公判でも一切、否認しなかった。今さら反論する証拠もない…と多々良管理官は言う。

塚原さんはその事に気づいていた。三宅伸子を殺したのは節子?仙波は節子のために罪を受けたって言うの?美砂は運転しながら、後部座席の湯川に聞く。

君は、10年前好きだった男の罪をかぶれるか?と湯川が問い返すと、無理ですね…と美砂は正直に答える。

仙波が守りたかったのは、男女間の愛情以上のものだよ。それは、節子が生んだ子供である川畑成実 。彼女は仙波の子供だ!と湯川は指摘する。

(回想)雪の降る夕方、三宅伸子は、1人留守番をしていた成美の家を探し当てやって来る。

成美が節子の娘だと知ると、やっぱりね…と笑い、節子がいないと知ると、寒いじゃない!と言いながら勝手に上がり込んで来る。

自分は、節ちゃんの昔の友達と自己紹介した伸子は、部屋の中を見回し、結構良い暮らししてるじゃないと呟く。

そして、棚の上に飾ってあった家族写真を見つけ、成美に向かうと、あんた、お父さんとお母さんのどっちに似ているって言われる?私、本当の事知ってるのよ。あんたの唇なんてあの人にそっくり…とからかうように言う。

全然俺に似てないんだってさ…、昔、酔って帰って来た父親の重治が、そう言っていた言葉を成美は思い出す。

伸子は、家族が写った写真立てを奪い取り、帰ろうとしたので、奪い返そうと成美が飛びかかると、押し倒し、何、睨んでるんだ?と怒鳴りつけ、節ちゃんに言っといて、通帳用意して待ってって…と言い残し家を出て行く。

伸子が陸橋を渡っていたとき、背後から包丁を持って追いかけて来た成美は、身体ごと伸子にぶつかり、伸子が差していた赤いパラソルは下に落ち、通りかかった列車の風圧で弾き飛ばされる。

ごめんね、成美…、母さんのために…、節子は、仙波の写真が載った新聞を前に、中学生だった成美を抱きしめていた。

(回想明け)湯川と美砂は、「聖ヨゼフ ホスピス」と言う終末期ケア施設を訪れていた。

ここにいる人たちに、残されている時間は長くない…と湯川は呟く。

そこに、看護士に押され、車椅子に乗って近づいて来たのは、明らかに仙波英俊だった。

美砂は自分と湯川を紹介し、湯川は、僕は今朝まで玻璃ヶ浦にいました。海底資源開発に関わっています。

玻璃ヶ浦の海は、あなたが知っている頃と変わらない。我々科学者も、あの海を壊そうとは思いません。今日は、ある人のブログを観てもらいます。どうか海の色を確かめてくださいと言いながら、成美のブログをアイパッドで見せる。

このブログを書いているのはこの女性です…と言いながら、湯川は、AUV無人型探査艇見学の時に撮った成美の今の写真を見せる。

塚原さんは玻璃ヶ浦に行かれました。理由はお分かりですか?と問いかけてみるが、仙波は、知りません。私は何も知らないと答えただけで、手元に置かれていたナースコールを押そうと手を伸ばしかける。

そうですか…と呟いた湯川は、それ以上何も言わずに、ありがとうございましたと礼を言い、美砂を連れて帰ろうとする。

そんな湯川の背中に、仙波は、ありがとう…、玻璃ヶ浦を守ってくれてありがとう…この人に…と、テーブルに湯川が残して行った成美の写真を観ながら言う。

伝えますと湯川は答える。

(回想)テレビで、三宅伸子が荻窪の陸橋で殺されたと言うニュースを仙波は、節子に電話をかけ、夕べ、伸子、そっちに行かなかった?と聞く。

何の事?と訳が分からない様子の節子だったが、テレビを付けて!と言われたので、テレビを付け、ようやく、伸子が殺されたニュースを見る。

江東区木場に住む三宅伸子が、荻窪で殺害されたと言うニュースを観た節子は、電話の受話器を持ったまま、成美の部屋に入ってみると、足下に包丁が落ちており、成美はベッドの中で疲れ切ったように熟睡していた。

成美!と悲鳴のように呼びかける節子の声を、受話器越しに仙波は聞き、何が起こったか推測する。

(回想明け)病室のベッドに寝ていた仙波は、おぼつかない手つきで側の棚の引き出しから二枚の写真を取り出して見比べる。

それは、料理屋のアルバムから昔抜き取っておいた、節子が生後2ヶ月の成美と一緒に写っている写真と、先ほど湯川が置いて行った今の成美の写真だった。

(回想)踏切の所で、節子と出会った仙波は、節子が持って来た紙袋を受け取る。

中には、血の付いた包丁が入っていた。

もう会社も潰れたし、女房も死んだ。何も心配せんで良か…と仙波は言い、節子は、近くの建物の中で待たせていた成美のことを仙波に教える。

仙波は、建物の窓の奥に座っていた成美の姿をしっかり目に入れると、又警報が鳴り、閉まりかかった踏切を渡って去って行く。

(回想明け)仙波は自ら罪をかぶり、刑に服すると、その後、末期の脳腫瘍で人生を全うしようとしている。三宅伸子事件はもう立証できない…。負けたよ…と、湯川は美砂に荘説明する。

良いんですか?先生!こんな終わり方で!と美砂は悔しそうに問いかける。

言い訳がない!だから、玻璃ヶ浦に戻るんだと湯川は答える。

いつ帰れるか分からないって、姉たちがやった事だから。オープンには間に合わせなきゃいかないだろうと、恭平を迎えに来た父親の柄崎敬一(田中哲)は、ホテルの外で携帯で妻か誰かに話していた。

ホテル内のレストランで、海老フライを前に食欲がなさそうにしていた恭平は、紙なのに、何故この鍋は燃え出さないのか、不思議だと思わないかい?…湯川と2人で紙鍋料理を食べた夜の事を思い出す。

そこに、見覚えのある東京から来た女刑事岸谷美砂がやって来たので、湯川もホテルに戻って来たと感じた恭平は、湯川の部屋に行き、ノックをしたりドアを開けようとするが、湯川は不在のようだった。

翌日、地元警察署に留置中だった川畑重治に面会人があると言うので、取調室に向かうと、そこにいたのは湯川だった。

警察は、何度もボイラーの不完全燃焼テストをやっているが、未だ実証できていない。僕には再現できます。あれは事故じゃない。殺人ですよ…と湯川は話し出す。

そう…、あなたは何もやっていない。手を下したのは恭平君です。

緑岩荘の上に何かあるのか?と僕が聞いたとき、恭平君は煙突があると答えた。下から見ただけでは分からない。そう、恭平君は屋上に登ったんです。

足の悪いあなたの代わりに、恭平君は煙突の上によじ上った。

花火が飛び込まないように、煙突も塞いでおこうと恭平君に言ったのは、あなたの指示です。

あなたは、段ボールを水で濡らしたものを恭平君に渡し、それで煙突の上に蓋をさせたのです。

塚原さんには、何か理由を言って「海原の間」に移ってもらい、睡眠導入剤は酒に混ぜれば良い。

煙突を塞がれたボイラーは不完全燃焼を起こし、行き場を失った煙は、壁の隙間から「海原の間」で寝ていた塚原さんを窒息させた。

自動車エンジニアだったあなたには、室内の一酸化炭素は1分足らずで致死量になる事を知っていたはずです。

その後、あなたは死体を確認しに行った。

あなたが塚原さんを殺さねばならなかったのは、仙波英俊がかつて、三宅伸子を殺害したと言われていたからです。

それは、あなたが名古屋に単身赴任していた時に起こった。

そして、あなたは、成美さんが仙波の子供だと知っていたが、隠し通した。29年間、自分の娘として受け入れて来た。

(回想)まだ幼女時代の成美が先に寝ていたとき、同窓会から酔って帰って来た重治は、出迎えた節子に、俺には全然似てないって…、そうだよな…、似てないよな…と、自分の定期入れに入れていた家族の写真をリビングのテーブルの上に放り投げた後、節子を突き飛ばして、成美の横の布団に寝る。

何も知らない成美(豊嶋花)は、父親の声でちょっと寝覚めかけるが、重治の方を向いて寝直す。

(回想明け)耐えられる理由はただ一つ、あなたが成美さんを本当に愛しているからでしょうと湯川は、取調室で向き合った重治に語りかける。

その取調室の横はガラス張りになっており、ハーフミラーの後ろ側には、美砂に連れて来られた成美がじっと重治の話を聞いていた。

彼女が必死に玻璃ヶ浦を守ろうとしているのは、本当の父親を守るためだと知っていた…と湯川は話し続ける。

それでもあなたは黙って見つめて来た。

あなた方家族は全員秘密を守って来た。それは、互いに愛し合っていたから…。

そこに塚原さんが来た。あなたは、塚原さんが葬り去りたかった過去を開く恐れがあると思った。

あなたは、一酸化炭素中毒を出せば、緑岩荘が立ちいかなくなる事も知っていた。

それでも、成美さんを守らなければならなかった。

取調室横で聞いていた成美は泣き出していた。

さすが学者さんだ…と、川畑重治は答えるが、見当違いです。途方もない作り話だ。私も、妻も娘も、秘密なんて持っていません。辛いとか哀しいと思った事もありません…と言う。

今もそうだが、若い頃の節子はそれは別嬪でした。気だても良く、廻り中の男に人気があった。

そんな高嶺の花が私と結婚してくれた。それだけでも私は有頂天だった。

そんな節子が生んでくれた赤ん坊が可愛いのは当たり前です。私の娘なんですから…そう語る重治の言葉を聞いた成美は、その場にしゃがみ込んで号泣し始める。

そうですか…、つまらない話をしてすみませんでした…と詫びた湯川は、最後に一つだけ…と重治に問いかける。

恭平君に伝えたい事はありませんか?

さすがにこの問いには、一瞬考え込んだ重治だったが、ごめんな…と、せっかくの夏休みだったのにごめんな…と答える。

湯川は、分かりましたと返事をし、取調室を出て行く。

部屋に1人残った重治は、横の大きな鏡がハーフミラーと知っていたのか、その奥にいるものを探すように覗き込み始める。

それに気づいた美砂は、しゃがんで泣いていた成美を抱き起こしてやる。

成美の方も、自分を捜している父親の姿に気づき、お父さん…、お父さん!ごめんなさい!と泣き出す。

緑岩層に戻って来た成美は節子に、お父さん、全部知ってた…と伝え、節子も一言、そう…と答える。

(回想)「海原の間」で塚原の死体を前に、部屋で死んでいるのがバレたら、宿潰れるだろう!と叫びながら運び出そうとしていた重治に、本当に事故なの!と節子は疑問を口にするが、重治は、事故だよ!早く手伝え!とだけ怒鳴り返していた。

(回想明け)お母さん…、あのね…、私やっぱり…と成美はつぶやく。

後日、成美は湯川と共に、玻璃ヶ浦の海を潜っていた。

その時、潜水中の成美は、突然水中メガネを外し、海底に沈んで行く。

それに気づいた湯川は、何とか救い出そうと成美に近づこうとするが、呼吸が苦しくなり一旦海面に浮かび上がるしかなかった。

大きく深呼吸し、再び潜ろうとしていた湯川の目の前に、成美は何事もなかったかのように浮かび上がって来る。

成美は泣いていた。

付き合ってくれてありがとう。良い思い出になった…と湯川は、成美に礼を言う。

湯川さん、私は罰を受けようと思います…と成美が言い出したので、玻璃ヶ浦の海を守ってくれてありがとう…、仙波さんがそう言ってたと湯川は教える。

君はみんなから愛され、守られていると湯川が続けると、私にはそんな資格ありませんと成美は否定する。

使命はある。これからの君は、恭平君を守る事だと湯川は教える。

父親と一緒に駅に向かっていた恭平は、お父さん?あれが事故でなく、殺人だったら?と聞いていたが、敬一は何のことか分からず、相手にしなかった。

(回想)花火をやろうと誘われたあの夜、恭平は重治から、水で濡らした段ボールを渡され、それを煙突の上に置いておくよう命じられる。

(回想明け)恭平君は今後、秘密を抱えながら生きて行くんだ。あの時、おじさんは何故あんなことをさせたんだろうと疑問を持つはずだ…と湯川は成美に話していた。

その時は、君が、包み隠さず真実を教えて欲しい。全てを知って、自分の進むべき道を決めるんだ…そう湯川は説得する。

(回想)ホテルに移った恭平は、食堂で美砂の姿を観た後、湯川に話を聞きたくて部屋を訪れるが、湯川は不在でドアは開かなかった。

花火をしていた夜、恭平は、宿の上の方に向かって合掌する姿を観ていた。

ホテル中、湯川を探し求めて走り回っていた恭平の、背負ったリュックの中から、ペットボトルロケットの先端がプールに落ちる。

「玻璃ヶ浦駅」に着いた恭平は、父親がジュースでも買ってくると言い、近くの売店に向かった後、駅舎の中に座っている湯川の姿を発見する。

博士!と思わず恭平は、湯川の側に駆け寄る。

君が今日帰ると聞いたんでね。ペットボトルロケットを飛ばした時のデータだ。これがないと、自由研究の宿題できないだろう?と言い、湯川は、プリントアウトして来た書類を手渡す。

博士…、僕、花火やっちゃ、いけなかったのかな〜…と恭平が尋ねると、楽しかったな…と湯川は答える。

この夏休み、君は色々な事を学んだ。問題には必ず答えがある。だけど、それをすぐに導き出せるかは分からない。

君はこれから色々な事を経験して行くだろう。焦る事はない。僕たち自身が成長すれば、答えを見つける事が出来るはずだ。

君がその答えを見つけるまで、僕も成長する。一緒に悩み続ける。忘れるな。君は1人じゃない!と湯川が教えると、恭平は素直に、はい!と答える。

父親の敬一が駅に戻って来るのとすれ違う形で駅舎を出た湯川は、外で車を停めていた美砂に近づく。

これで良かったんですね?美砂はそう湯川に問いかける。

もう夏も終わりか…、そう呟いた湯川は、遠くの海に浮かんだ研究船を見つめていた。

列車の中、恭平が湯川からもらった実験データを読んでいた敬一は、さっぱり分からん…と投げ出すと、いつの間にか眠り始める。

恭平は、湯川とやったペットボトルロケット実験の日の事を思い出していた。

トンネル内で、列車のパンタグラフが火花を散らす。

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