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キューポラのある街

貧困の中で育つ姉弟の姿を通して、時代の矛盾を告発する作品。

「貧しいから人間が弱くなるのか、弱いから貧しくなるのか」というジュンの問いかけは重い。

上の学校に行きたがる子供達に言い放つ辰五郎のセリフ「ダボハゼの子はダボハゼじゃい!」は、戦後、みんな平等になったと言うけれど、職業に貴賤はないと言うけれど、やはり親の仕事の階級差のようなものは歴然と残っており、子供はその親の宿命からは逃れられないのか?という疑問から出たのであろう。

しかし、ジュンはその言葉に納得できず、何とか貧困苦に対し、懸命に立ち向かおうとする。

それにしても、本作のヒロインジュンは、学級委員長のようにまじめで、年上の相手にも意見をはっきり言う、ものすごく強い女の子だ。

若い頃、東映の組合で高畑勲さんらと共に戦っていた宮崎駿氏描く所のアニメのヒロイン像のようだ。

その強く賢いヒロインにも、子供から大人にさしかかる時、世の中の壁にぶつかり、跳ね返されそうになる。

健気に生きようとする少女の心は、この暑い壁の前で揺れ動く。

そんなヒロインに、温かい言葉で励ますスーパーマンと言うニックネームの野田先生を演じているのは、「金田一耕助シリーズ」で、「良し、分かった!」といつも早合点している警部役の加藤武である。

確かにこの当時の、加藤武さんは、がっちりしていて、(ジョージ・リーブス主演のテレビ版の)スーパーマンに雰囲気が似ている。

貧困に打ち勝つには、それを恥ずかしいと引きこもるのではなく、同じような境遇の仲間が集まって、みんなで力を合わせて乗り切ろう!

ラストは、定時制高校や労働組合の宣伝風になっているように見える。

理想的な生徒と理想的な先生、理想的な組合仲間たち…、この時期特有の、教育的と言うか、理想主義的な映画と言えば言える。

しかし、この当時の貧困振りを観ていると、そう言う組合運動や理想主義が一時期盛り上がった背景は、何となく分かるような気がする。

その後、日本は繁栄し、ゆとりのある人の方が増えて来ると、この手の弱者に目を向ける考え方は関心が薄れ、むしろ、バカにするような風潮さえ一部に生まれているように思えるが…

ジュンは明らかに、こういう風に生きて欲しいと言う、当時の若者の理想像だったのだろう。

この作品、公開当時は、何の違和感もなく観ていた人が多かったと思うが、さすがに、今の若者が観ると、訳が分からない部分が多いのではないかと思う。

日本人が貧乏なのは、戦後間もない頃だからかな?と想像できても、何故、朝鮮人が近くに住んでいるのか?何故、朝鮮人は、当時の貧しい日本人よりさらに貧しく、掘建て小屋なんかに住んでいるのか?

ジュンの父親の辰五郎が忌み嫌っている「アカ」とか、「ニコヨン」とは何なのか?

何故、小学生のタカユキまでもが、水爆などと言っているのか?

何故、この映画では、労働組合を推奨するような描き方をしているのか?等々…

タカユキやサンキチが、草っ原の中に作った秘密基地に入って一夜を過ごす所などは、正に「二十世紀少年」の世界であるが、同じく劇中で登場する、鳩の飼育と共に、当時の男の子の間では流行っていた遊びだ。

久しぶりに見直してみると、あれこれ気になることが出て来た。

まず、父親役の東野英治郎と母親役の杉山徳子がえらく老けて見えることだ。

北林谷栄さんは明らかに老け役を演じていると分かるのだが、菅井きんなども、まだ当時30代半ばなのに、十分老けて見える。

父親が25前後くらいで、最初の子供であるジュンが生まれたと仮定しても、ジュンは中学3年なので15〜6歳くらいだろうから、東野英治郎は劇中では40前後くらいのはずなのだが、どう観てもおじいさんである。

40前後で職を失うと辛いだろうなとは思うが、今の感覚で観ていると、もう退職間際くらいに見えるので、何となく父親のやけっぱちさが共感しにくい部分がある。

東野さんの当時の実年齢は55歳くらいなので、大体観た目通りなのだが、劇中でもその年齢設定だとすると、ジュンは父親が40歳くらいで生まれた子と言うことになり、今度は随分遅く出来た子供と言うことになり、それはそれで若干不自然に思えなくもない。

何故、父親の年齢に拘っているかと言うと、あまりにも東野さん演じる父親辰五郎の考えが偏見に満ち、頭が固過ぎるからだ。

学がない職人だから仕方ない部分もあるのかもしれないが、その親の頭の悪さが、子供たちをさらにいら立たせる。

辰五郎があたかも戦争を密かに待ち望んでいるような発言をするのは、かつて日本を潤わせた朝鮮戦争のことがあるのかもしれない。

この辰五郎が40歳くらいの働き盛りだと考えると、その頑固さは、単に学がないからとか、職人気質だからと言うだけではなく、時代や技術の進歩の速さに追いつけなくなった中高年全体に共通する悲哀でもある。

だから、大人になった立場で観ると、自分の気持ちの中に、ジュンやタカユキ側の気持ちもあれば、辰五郎側の気持ちも両方混じっていることに気づく。

辰五郎が単なる頑固なだけのどうしようもないクズとは思えないのだ。

他にも、ジュンの級友の朝鮮人の娘ヨシエが、他の仕事ではなく、パチンコ屋で働いていると言うのも意味があるような気がする。

余談だが、劇中、タカユキが友達と映画を観に行くシーンがあるが、大人120円と書いてある。

初任給が1万数千円くらいだった時代の120円である。

川口市と言う場所を考えても、封切ではなく、二番館、三番館の類いだった可能性もある。

決して昔は、映画料金が安かったと言う訳でもなかったことが分かる。

さらに余談の続き。

この映画を作っていた当時、日活スタッフたちは労働組合を持っておらず、労組が出来たのは、この映画の後の事らしい。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1962年、日活、早船ちよ原作、今村昌平脚色、浦山桐郎脚色+監督作品。

※劇中、今では差別用語と言われる言葉が登場しますが、作られた時代背景を知る手掛かりになることも考慮し、そのまま文中でも使用しております、ご理解のほどお願いいたします。

(空撮を背景に)

今や、世界第一となったマンモス東京の北の端から、荒川の鉄橋を渡ると、すぐ埼玉県川口市に繋がる。

川一つのことながら、我々はこの町の生活の中に、東京と大きな違いを感じる。

500を数える鋳物工場、キューポラと言う特色のある煙突

江戸の昔から、ここは、鉄と火と、汗に汚れた鋳物職人の町なのである(…とナレーション)

タイトル

鋳物工場で働いていた辰五郎(東野英治郎)は、2人の従業員仲間がやって来たことに気づくと、そっとその場を離れ、タバコを吸う。

従業員は、この工場が丸三に買収され、3人が首になることになったと仲間たちに知らせに来たのだった。

その1人は辰五郎だと言う。

そこに住む貧しい家の娘、石黒ジュン(吉永小百合)は、クラスメイトの金山ヨシエ(鈴木光子)の自転車に乗せてもらい中学校から帰宅すると、内職をしていた母親トミ(杉山徳子)の陣痛が始まったことを知り、あわてて、隣に住む塚本家のテレビで相撲観戦の夢中だった弟のタカユキ(市川好郎)に、父親の辰五郎を呼びに走らせる。

ちょうど大鵬戦を観ていたタカユキは、克巳の祖母うめ(北林谷栄)が、良い所でスイッチを切ってしまったのでがっかりする。

工場では、鋳造工の塚本克巳(浜田光夫)が、工場長の松永親方(殿山泰司)に、辰五郎が身体を壊したのは誰のせいなんだと談判していたが、昔から松永とは付き合いが長い辰五郎自身が克巳をなだめる。

そんな事務所にやって来たタカユキは、父親の辰五郎に赤ん坊が生まれるんだよと知らせる。

病院の診察室では、ジュンがトミの腰をさすってやっていたが、父ちゃんの工場でごたごたが起きたらしいとトミは苦しそうに呟いていた。

工場から帰って来た克巳が公園の所に来ると、そこでタカユキら兄弟が、布団をかぶって遊んでいたので、病院に持って行くんだろ?父ちゃんはどうした?と聞くが、父ちゃんは飲みに言っちゃったと言うので、一緒に病院について行く。

分娩室からジュンが出て来たので、生まれたか?と克巳が聞くと、何故かジュンは、克巳の胸に飛び込んで泣き出す。

数日後、第二中学の校庭では、女子野球をしており、バッターボックスにはジュンが立っていた。

ジュンは見事にヒットを打ち、走者を返す。

それを見学していたタカユキは、さよならだ!と喜び、ズク(西田隆昭)からマイクを向けるジェスチャーをされたサンキチ(森坂秀樹)は、何と、申しましょうか…と野球評論家の小西得郎の物まねをする。

同じく見物していた級友のヨシエに近づいたジュンは、彼女がパチンコ屋で働いていることを聞き、自分もそのアルバイトをパートでやりたいと申し出る。

そこに近づいて来たのは、リス(青木加代子)と言うちょっと素行の悪い同級生で、スーパーマンがジュンを呼んでいると言う。

自分は、この前、赤羽に遊びに行ったので怒られたとリスは笑う。

スーパーマンこと担任の野田先生(加藤武)は、やって来たジュンの志望校が県立第一だったなと確認すると、模試の結果を観て頷き、お父さんと良いと言ってるのか?お母さは?と聞いて来るが、ジュンが答えないので、その内、僕が行こうか?何でも困ったことがあったら、先生に言うんだよと言ってくれる。

タカユキ、サンキチ、ズクの3人で下校していたが、ズクが、うちは赤ん坊生まれないんだよ、何でかな?等と言い出したので、タカユキは、お前んとこは、父ちゃんいねえじゃないかとからかう。

だって、赤ちゃんは、母ちゃんが生むんだろ?と不思議がるズクが、まだ何も知らないことを知ったサンキチも子供扱いし、3人揃って、立ち小便をする、

その時、クラスの女の子たちが3人、歌を歌いながら帰って行くのを見つけたので、タカユキたちは相談し合い、インディアンの真似をしながら女の子たちに近づき、スカートまくりして逃げ去る。

「丸三鋳公行」にやって来たタカユキらは、二階の鳩小屋の所にいた松永の息子ノッポ(川勝喜久雄)を呼ぶ。

ノッポの鳩の雛を育てる駄賃として800円受け取ったタカユキは、その額に不満だったようで、所得倍増!他の買い手も付いたし、親父も食をなくして苦しいんだとねだり、さらに200円受け取る。

その頃、ジュンは、赤ん坊を抱いて退院した母親トミと共に、駅前辺りを帰宅していたが、トミは、悪い時には悪いことが重なるもんだよ。乳も出ないし、ミルク代5000円もかかるんだってとジュンに愚痴をこぼす。

そんな母親は、今川焼の店の前に来た時、食べて行かないかい?とジュンを誘うが、ジュンは、映画館の方に走って行くタカユキ、ズク、サンキチたちの姿を観かける。

タカユキたちは、子供3人150円払って、映画を観る。

夕食の準備中だったトミは、タカユキからトレパン代を要求されるが無視したので、タカユキはあれこれ文句を言いはじめる。

自分で買えば良いじゃないかとトミが言うと、金なんか持ってないもんとタカユキは答えるが、噓を言うんじゃない!ズボンのポケットに入っていた150円は何だ!とトミは叱り出す。

タカユキは、あれは人から預かった金なんだと反論したので、人の金を何でお前が持っているんだ!とトミはタカユキにつかみ掛かり、ちょうど酔って帰って来た辰五郎も、今の話を聞いていたらしく、いきなりタカユキを殴りつけて来る。

タカユキは、もうトレパンなんていらないや!こんな家出て行ってやる!と言い残し、家を飛び出して行く。

トミは心配して、近くの公園に探しに来るが、タカユキの姿はなかった。

タカユキは、屑鉄回収業をしているサンキチの住む掘ったて小屋に来ていた。

父ちゃんと喧嘩して家出して来たんだとタカユキが外から声をかけると、サンキチは、どうせ腹が減っているだろう?母ちゃんの所へ行こうと小屋の奥を気にしながら答える。

2人はその後、サンキチの母親美代(菅井きん)が勤めている「鶴亀食堂」で丼をごちそうになる。

サンキチは美代に、家に帰ってくれよ、父ちゃん、一杯話したいって言ってたよと伝える。

サンキチの父親は朝鮮人で、近々祖国へ帰ろうとしているようだとサンキチが言うと、美代は、最近、父ちゃんのこと、考えないようにしてるんだと言う。

明るいサンキチは、また、小西得郎の真似で、何と申しましょうか〜、どこの親父連中も、言うならばサイテーじゃないでしょうかと言い、タカユキを笑わせる。

辰五郎は、家で寝転び、ラジオで浪曲を聞いていた。

次男のがジャズに換えようとすると、うるせえ!止めろと怒鳴りつけたので、は、つまんねえのと言いながらスイッチを切る。

トミは、松永の息子に聞いたら、タカユキに鳩の雛の手付けとして、確かにお金を渡したんだってさと言い、ジュンも、噓言ってたんじゃなかったのねと喜び、大丈夫よ、鳩の顔観たくて帰ってくるわよと答える。

あんまり遅いようだったら、ヨシエちゃんの所へ行ってみる。サンちゃんのお姉さんの所とジュンが言うと、あの朝鮮人の所かい?危ないよとトミは案じ、辰五郎も、朝鮮人なんかと付き合っているのか!このろくでなし!と怒鳴って来る。

それを聞いたジュンは、朝鮮の子と付き合って何が悪いのよ!父ちゃんみたいに、何にも分かってないくせに、頭から思い込んで換えようとしないのは無知蒙昧って言うのよ。そう言うの一番いけないのよ。さっきもろくろく話を聞かずにタカユキ殴ちゃうんだもの。あれじゃあ、ぐれちゃうわよと叱ったので、親に向かって意見しようって言うのか!と辰五郎は怒り出す。

いけないのは親でもいけないわ!と、ジュンは、辰五郎が取ろうとした酒瓶を奪いとる。

そこに塚本克巳がやって来て、みんなの志、餞別みたいなものなんだと金を辰五郎に渡し、丸三の組合の委員長とも話したら、おじさんの2年前の事故のこと話したら、設備不十分の疑いがあれば、組合で問題にしても良いって言ってる。そして退職金は予告手当と言って最低1月分は出さなきゃいけないそうだと伝えると、一緒に話を聞いていたトミは、じゃあ2万円はもらえるんだね。入院費を払えるもんねと喜ぶ。

その話をしたいので、明日、委員長の家に来てくれないかと言ってるんだと克巳が言うと、せっかくだがな…、お前の好意はありがてえよ。でもよ、俺、どうも組合ってのが気に入らないんだと辰五郎は言い出す。

俺は根っからの職人だ。それがアカの世話になっちゃ世間の物笑いだなどと辰五郎は言う。

克巳は、組合がアカだなんか、それこそ物笑いだぜ。最低のことを要求するだけじゃないか。第一これは、法律で決められていることなんだぜと笑う。

内職の涙金だって、いつまでか分からないじゃないかとトミも言い聞かせようとするが、辰五郎は、すんだ話を言うのはみっともねえやと言い、話は雨が降って来た中、傘をさして、タカユキを探しに出かける。

酔って近づいて来た辰五郎に気づいたタカユキとサンキチは、新聞紙を頭からかぶって草っ原に入り込むと、自分たちで作っていた秘密基地の中に入る。

蝋燭を点けると、そこに敷物を拡げて座り込む。

タカユキは、明日日曜だから具合悪いな。父ちゃんがいるとこっそり飯食いに行けねえやと思い出すが、サンキチは、また母ちゃんの所に行けば良いよと言う。

だけどよ、北鮮に帰るったて、お前の母ちゃん帰るかな?母ちゃんは日本人なんだろう?とタカユキは案じる。

でも夫婦は夫婦だからな…、仲が直ると一緒に帰ると思うんだけどなとサンキチはキャラメルと取り出し寝転ぶ。

どうして南鮮と北鮮は仲が悪いんのかな?同じ朝鮮人なのによなどとタカユキが不思議がると、2つの世界の対立なんだってさ。東と西のドイツみてえによとサンキチは答える。

それを横で聞いていたタカユキは、そうすっと、戦争が起こるかもしんねえな。ヤバいぜ、サンちゃん、北鮮なんてよと真顔で言い出す。

だけどよ、戦争んになりゃ、日本だってヤバいじゃないかとサンキチは言う。

そうだな、川口だって、水爆でイチコロだよなとタカユキは納得する。

だから、朝鮮人は朝鮮に帰った方が良いだろう?どうせ貧乏なんだしよとサンキチが言うと、そうだな、今より貧乏になりようがないしなとタカユキも笑う。

翌日、2人は、川に浮かんだ「双葉鉄工所」と書かれた船に乗り込んで、荒川に出ようなどと言っていた。

2人が漕ぎ出すと、タカユキ!何やってるの?上がっておいで!と呼びかけて来たのは、弟を捜しに来ていたらしいジュンだった。

タカユキを家に連れて帰りながら、ジュンは、鳩の売買は禁止されているそうじゃない!と叱りながらも、家に入ると、茶箪笥の上に置いてあるトレパンを見せ、母ちゃんが無理したんだよと言い聞かす。

喜んで、早速新品のトレパンを履いてみたタカユキだったが、そこに弟が、兄ちゃん大変だ!鳩が!が言いに来る。

驚いて弟と一緒に家を飛び出したタカユキは、近所のスレート屋根の上に居座っていた猫を発見する。

石を下から投げて猫を追い払ったタカユキだったが、屋根に上り、猫の餌食になった鳩を持って降りて来た弟は泣き始める。

タカユキも困惑し、俺だって泣きてえや、もう手付け取っちまったんだから…考え込む。

パチンコ屋でバイトを始めていたジュンは、一緒に台の内側で働いていた金山ヨシエから、リスの兄さんが来ていると教えられる。

隙間から外をのぞいてみると、明らかに不良グループの一員のようだった。

嫌ね…顔を見合わせた後、ヨシエはジュンに、あんた、修学旅行に行く?と聞いて来る。

ダメだ、この調子じゃ…、父ちゃんの仕事見つからると良いけどね…とジュンが答えると、ヨシエも、私もダメ…と哀しそうに言う。

その直後、63番だ!玉が出ねえぞ!と言われたジュンが、上から顔をのぞいて客の顔を観ると、それは克巳だったので、バレたと気づいて慌てたジュンは、台を踏み外して転んでしまう。

2人は一緒に帰ることにするが、最初の日からめっかっちゃったわ。でも、内緒よとジュンが照れくさそうに笑うと、アルバイトっていくらになるんだ?と克巳は聞いて来る。

大体3000円くらい、12月までに9000円でしょう?それで入学の時の費用払えるもんとジュンが教えると、受験勉強間に合うかい?と克巳は聞く。

今でも、補習、半分くらい出られるでしょう?12月の末から2月までガリガリやったら追いつくわよとジュンが言うので、偉いなジュンは…、でも身体続くか?と、土手に座りながら克巳は案じる。

ジュンは、へいちゃらよ!と言って、小石を川に投げる。

頑張れよと克巳が励ますと、勉強しなくても高校に行ける家の子に負けたくないんだジュンは言う。

俺もよ、高校行けなくてぐれちゃったけどさ、最近、組合に参加すると分からないことだらけさ。無理しても高校行っときゃ良かったなあって思うよと克巳はしみじみと呟く。

翌日、辰五郎は、「三ツ星鋳造株式会社」で働いている馴染みの平さん(小林昭二)に、4日にいっぺんの臨時仕事で困っているんだと相談に来る。

忙しそうに働いていた平さんは、内山に聞いてみねえとだけ教えてくれるが、その内山(溝井哲夫)に会いに行って観ると、その内山は、ツルハシを使った力仕事をやっていたので、辰五郎は声をかける前に諦めてしまう。

ジュンのクラスでは、今度の修学旅行に持って行く小遣いが、去年と同じ500円で良いのかどうか話し合っていた。

その結果、小遣いは1000円に決まってしまう。

自転車を押すヨシエと一緒に帰っていたジュンは、どっからそんなお金が出て来るんだろうと、裕福な家庭の子たちのことを不思議がっていた。

そんなジュンを呼び止めたのは、その裕福な家のクラスメイトである中島ノブコ(日吉順子)だった。

彼女が話があると言うので、ヨシエは先に帰って行くが、その途中、ノッポと一緒に入るタカユキ、サンキチ、ズクらの姿を土手で観かける。

ノブコの話とは、ジュンに、自分の家庭教師をしてもらうことだった。

数学の問題を家で教えていると、ノブコの父親が、青図を取りに戻って来て、下から呼びかける。

ノブコは、ジュンを紹介して、二階の窓から青図の入ったプラスチックケースを、車の横に立っていた父親に投げてやる。

父親が出かけると、ノブコはジュンに紅茶を勧め、あれでも慌てん坊で、怒ると怖いのと父親のことを言うので、うちは桁違い、一昨年、工場で怪我してから酷くなったわとジュンは答える。

ノブコが蒸し暑いので、窓を開け放つと、そこから夕日が見える。

その時、下から音楽が聞こえて来て、ノブコは、兄貴の自慢のステレオよと言う。

何もかも、ジュンの家とは別世界だった。

やがて、ノブコは、おばさんの土産だと言い、口紅をジュンにプレゼントする。

ノブコはそれをジュンの唇に付けてやろうとするが、どうして大人ってこんなことするのかしら?とジュンは拒む。

あなたも大人でしょう?とノブコが不思議そうに聞くと、私はまだ…、母さんも遅かったんだってとジュンは答える。

その日もパチンコ屋にバイトに行ったジュンは、ヨシエから、大変よ!タカちゃんが松永の息子と泥棒やるらしいわよ。鳩の雛を返せない代わりらしいの…と教えられ驚く。

その頃、ノッポに案内され、無人の工場の中に忍び込んでいたタカユキたちは、暗闇の中で転んだりして音を立てていた。

その時、懐中電灯に照らされたので、タカユキたちは慌てて隠れようとするが、タカユキ!外に出なさい!と、入口から怒鳴って来たのはジュンだった。

近くの公園にやって来たジュンは、同行していたズクを先に帰すと、いくら過失があると言っても、小学生を泥棒に誘うなんて!と松永の息子のノッポに文句を言う。

その迫力に圧倒されながらも、いかにも気が弱そうなノッポは、じゃあ、手付金返してくれるのか?と言って来る。

私が払うわ!でも3ヶ月の月賦よとジュンが提案すると、それじゃあ、組の兄貴が承知しないよ…とノッポはぼやく。

じゃあ、その組とやらに行きましょう!あんたじゃ分からないからよとジュンは果敢に言う。

ノッポに連れて来られたのは、チンピラたちがたむろするビリヤード場だった。

ジュンはすぐにトイレに入ると、ノブコからもらった口紅を付け、外に出て来ると、リスちゃんの兄さんでしょう?と、奥の方でビリヤードをしていた青年に直接話しかける。

あんた妹を知ってるのかい?とビリヤードをしていた兄が聞くと、友達よ、学校のとジュンは答える。

あんたの子分の松永さんが、弟を屑鉄盗みに誘ったのよ。小学生をよ!とジュンが言うと、ノッポは、鳩の金返さないんだよ、死んじゃったって言ってよ…とぼそぼそと言い訳する。

だから話し合えば良いのよ!私が分割払いにすると言ったら、あんたに叱られるって言うのよとジュンが言うと、バカだな、ノッポ、俺は知っちゃいねえからよとリスの兄は言う。

話はそれで終わったようだったが、周囲にいたチンピラたちが、いきなりジュンに抱きつき、キスをして来る。

一緒に付いて来たタカユキが、クラブでチンピラの後頭部を殴りつけ、その隙にジュンを連れ外に逃げ出す。

川口市役所前に逃げて来たジュンは、広場の水飲み場で、口紅を落とすと、口の中も濯ぐ。

ごめんな、姉ちゃん…、タカユキは、ジュンに多大な迷惑をかけてしまったことを後悔したようだった。

母ちゃんだって、あんな連中と付き合ってないものとジュンは言い、タカユキを連れ一緒にラーメンを食べる。

姉ちゃんも苦労するな、こんな弟を持って…。俺も高校行けないだろう?赤ん坊生まれたしさ。父ちゃんも臨時の仕事ばかりだしさ…などと、タカユキが殊勝なことを言うので、あたい高校に行くよ!どんなことがあっても!父ちゃんだって何かあるわよとジュンは言い、川口も不景気だからその内良いこともあるよなとタカユキも楽観的な意見を言うと、カウンターでそれを聞いていたらしいおじさんが、そうだとも!働く気があれば何とかなるよと2人に話しかけて来て、シューマイをおごってくれる。

ノブコの父親、中島東吾(下元勉)だった。

父さんもお気の毒だね〜、でもジュンさん、今の気持ちだよ、人間へこたれたらお終いだからね。ビー アンビシャス!希望を持ってね!と中島は言ってくれる。

しかし、その辰五郎は、翌日、バイクレース場で臨時の仕事で得たなけなしの金をすってしまっていた。

その日、帰宅したジュンにトミは、お前、友達の家で勉強するの辞められないのかい?と聞いて来る。

今日キンさんが来てさ、夕方から働く口があるんだってさ、母ちゃんに。待遇良いんだよ。店番みたいな仕事らしいんだけどさ…。だからヨチ坊観ておくれよと言うのだ。

勉強勉強って言うけどさ、少しはうちのことも考えてみな。高校行くったって大変なんだからよ、うちはとトミが言うと、父ちゃんがわがままで、自己中心主義だから行けないんだわ。あたい、うちの犠牲なんかになりたくない!とジュンは反抗し、家を出て行く。

ちょうど家庭訪問に来ていた野田先生は、家を出て行くジュンの後ろ姿に気づき、後を追うと、パチンコ屋の前で入ろうかどうか迷っていたが、その時、スーパーマン!先生、何やってんだい?といきなり背後から声をかけられたので固まってしまう。

声をかけたのは、昔の教え子だった克巳だった。

先生も辛いな、パチンコしようたって、勤務評定がうるさいんもんなと克巳が笑うと、バカ言え、仕事中だよ。うちの生徒がこの中にいるんだと言うので、先生、ジュンのことかい?と克巳は聞く。

何だ知ってるのか?そういや、お前、隣だったなと野田先生は納得する。

自宅前の水道で、ジュンが米を研いでいると、そこに克巳が酔って帰って来たので、誰と飲んでいたの?とジュンが聞くと、スーパンマンとだよ。お前褒めてたぞ、若きジェネレーションとか何とか言ってたと愉快そうにしゃべっていると、側にやって来た克巳の婆さんが、わたしゃ西洋人じゃないよなどと答える。

そこに辰五郎も泥酔して帰って来て、家に入るなり、松永の息子から1000円も借りやがって…と言いながら、倒れるように寝てしまう。

そんな亭主のズボンのポケットを探ったトミは、小銭しか残ってないので、たったこれだけ?どうしてくれるんだよ!明日からどうやって食って行ったら良いんだよ!と言いながら、辰五郎の身体を叩く。

そこにやって来たのはノブコで、後からお父さんが来て話すけど、あなたのお父さんの仕事あったわよ。埼玉鋳造ですって!と嬉しそうに言うではないか。

それを聞いたジュンとトミは、大感激する。

埼玉鋳造と言えば有名な会社だったからである。

翌日、グラウンドでバレーボールをしていたジュンは、スーパーマンから呼びだされる。

職員室で、修学旅行のことで困っていないか?もし、お金のことで困っているんだったら、市の方で援助することになっている。これは宿泊と交通費だ。後で返せば良いんだ。これにご両親の判子をもらって来なさいと言う野田先生からジュンは、2500円と書かれた領収書をもらう。

一方、埼玉鋳造に勤め始めた辰五郎は、全てオートメーション化されていると言う工場内の説明を聞きながら戸惑っていた。

これまでの職人としての勘など、全く必要ないと言われたからだ。

そうした辰五郎の気持ちを察してか、中島東吾は、辛抱してくださいと声をかけて来る。

教室にいたジュンは、帰って行くヨシエに気づくと、慌てて飛び出して後を追いかけて行くと、今日からパチンコ屋辞める。父ちゃん、仕事決まったからと断ると、ヨシエの方も、もうすぐ辞めるのだと言い出す。朝鮮に来月帰るのだそうだ。

荒川の土手で釣りをしていたタカユキも、サンキチから同じことを聞かせれ、やっぱり帰るのか…とがっかりしていた。

母ちゃんどうするんだ?とタカユキが聞くと、ダメらしいんだと言うサンキチは、親方と呼んでいるタカユキに頼みがあると言い出す。

川口の思い出にさ…と何か言いにくそうだったので、何のことか考えたタカユキは、これだろ!と言いながら小指を出すと、サンキチは大当りの福の神!と喜び、またズクが小指の意味が分からないので聞いて来たので、学芸会の主役はさおりちゃんがやるに決まってるだろ!とタカユキは教えてやる。

やがて、川口第三小学校の学芸会が始まり、サンキチは念願通り、「にんじん」と言うお芝居の主役になる。

お相手役のアンネット役は、もちろんかおりちゃんだった。

サンキチが、僕はにんじんとアンネットに自己紹介する所で、観ていた子供の中から「朝鮮人参!」とからかう声がし、行動中の子供たちは笑い始める。

それに怒ったタカユキは、悪口を言った奴を外まで追って行き、殴りつけるのだった。

修学旅行当日、嬉しそうにジュンが旅行の準備をしていると、まだ辰五郎が寝ているので、トミが起こそうとすると、バカバカしくて会社なんか行かれるか!今日からさっぱり辞めるぞ、埼玉鋳造!言いながら、二日酔いの頭を叩きながら辰五郎は置き出して来る。

まさか首になったのかい?とトミが聞くと、俺の方からから辞めてやったと言いながらは、若いのが偉そうに人を顎でこき使いやがって!ちょいと仕上がりが悪いと俺のせいだ。猫なで声を出して来やがって、俺をボタンを押すニコヨンだと思ってやがる。こちとら職人のいじってものがあらあ!と息巻く始末。

鏡台の前で聞いていたジュンは、父ちゃん、ニコヨン、ニコヨンって言うけど、職業に上下なんかないわよ。職人がそんなに偉いの!とジュンが横から口を出し、

それを奥で聞いていたタカユキは、茶碗を投げつけ、俺、高校へ行くぜ。面倒見てくれよなと嫌味を言って来たので、ダボハゼの子はダボハゼだ!中学出たら働くんだ!鋳物工場で…と辰五郎は怒鳴りつける。

働け、働けって言ってもよ、今にどの工場でもオートメ化されてよ。父ちゃんみたいな鋳物職人はどうしようもなくなっちゃうんだよとタカユキが言うと、ばかやろう!この川口がある限り、鋳物職人はなくちゃならないんだ。又戦争でも起きてみろ。朝から晩まで炉は吹きっぱなしだと辰五郎は反論する。

戦争だって!?とタカユキは驚き、父ちゃんなんて、戦争怒れば良いと思っているんだろ!自分のことばっかり考えて!とジュンも立ち上がる。

そう言うのがいけねえんだ。自己中心主義って言うんだぞ!とタカユキも辰五郎に近づいて来る。

ジュンも、自己中心主義!と罵ったので、何を!と言いながら立ち上がった辰五郎は、ジュンとタカユキの頬をひっぱたく。

トミはそんな辰五郎にすがりつき、とにかく会社を辞めないでおくれ!ジュンも高校に行けるって、やっと元気になったんじゃないか!と諭そうとするが、辰五郎は俺の知ったことか!と言いながら、朝から酒瓶を持ち出して来たので、お願いだからよ!とトミは再度辰五郎に頼むが、辰五郎に殴られてしまう。

暴力ふるって!とジュンはトミをかばい、母ちゃん虐めたらただじゃおかないぞ!とタカユキが箒を持ち出すと、良いかタカ、おめえの行くのは高校なんかじゃねえ。不良が行く感化院だ!

その時、柱時計が8時の時報を鳴らしたので、トミはジュンに時間だよ、行っといでと優しく話しかける。

ジュンは、何となく沈んだ気持ちで家を出て行く。

トミは、家の前まで見送りに出てくれた。

ノブコが歌を歌いながら近づいて来たのに気づいたジュンは、慌てて、停まっていた軽トラの後ろに身を隠す。

ノブコの父親にせっかく紹介してもらった仕事を辰五郎が勝手に辞めることになった恥ずかしさだった。

第二中学の面々は川口駅に集合していたが、スーパーマンは、ジュンが来ていないと聞き、しばらく待ってみることにする。

ジュンは、荒川の土手に座り、先生からもらった領収書を破り捨てていた。

その目の前を、仲間たちが乗っているはずの電車が通り過ぎて行く。

「ダボハゼの子はダボハゼだ!中学出たら働くんだ!鋳物工場で」辰五郎の先ほどの言葉が頭をよぎる。

その時、ジュンは腹痛を覚え、高架下の草むらに駆け込む。

しゃがんで用を足した後、立ち上げって下を観たジュンはあっ!と驚く。

初潮が来たのだった。

川口駅にふらりやって来たジュンは、その目の前を、鳩を入れたかごを下げたタカユキが同じように駅の構内に入って行ったことに気づかなかった。

浦和までの切符を買ったジュンがやって来たのは、埼玉県立第一高等学校前だった。

学校横の石塀を登って、学校の中をのぞいたジュンは、グラウンドで、女生徒たちが体操をしている所を目撃する。

実は、タカユキも同じ浦和に来ていたが、彼の行く先は、朝辰五郎が言っていた「浦和鑑別所」だった。

何となく気になり、鑑別所の周囲を観ながら裏手の扉から中をのぞいて観ると、中ではボーイスカウトが集まっていた。

その時、頭を誰かが叩くので振り向くと、それは出席簿を持った鑑別所の教師(小沢昭一)だった。

何をしとるんだ?と怪しんで聞いて来たので、慌ててタカユキは、鳩を飛ばしに来たんですと言って、その場から二羽の鳩を解き放ってやる。

ジュンは夕方になっても家にも帰れず、駅前をうろついていたが、その時、「もつ焼き」の店の中を何気なくのぞくと、そこで酔客相手に働いていた母トミの姿を観て衝撃を受ける。

待遇が良い仕事とはこんなことだったのだ。

悲しんだジュンは、近くをうろついていたが、そんなジュンに声をかけて来たのは、級友のリスだった。

どうしたの?旅行行かなかったの?と聞かれたので、つい、うん…、つまんないからとジュンが答えると、遊びに行かないとリスは誘って来るが、ジュンが落ち込んでいるので、不審そうな顔になる。

しかしジュンは、何でもない!行こう!と笑顔になる。

その後、ジュンの石黒家に電報屋がやって来る。

隣の塚本克巳が窓から顔を出し、そんも家、今は誰もいないよ。どこから?と聞くと、京都からだと言う。

結局、克巳がその電報を預かることにし、読んでみると、「旅行止めた訳学校に知らせろ」と言うスーパーマンからのものだった。

その頃ジュンは、リスと、バーで踊っていた。

そこは不良のたまり場で、ジュンに目をつけたリスの兄の仲間たちは、ノッポに命じて、ビールの中に眠り薬を仕込んでいた。

その後、ビールを飲んで、リストジュンがテーブル席で寝てしまうと、チンピラたちはジュンだけ、そっと奥の部屋に運んで畳に寝かすと、服を脱がそうとする。

1人、卓袱台に乗って電気を点けてしまったので、他の仲間が叱りつけると、その男は慌てて電気を消そうとして卓袱台ごとジュンの身体の上にひっくり返ってしまう。

その時、ジュンはぼんやりしながらも、うっすら目を開け、男たちの姿を観ると悲鳴を上げ起きる。

そんなジュンを黙らせようとチンピラたちがジュンに襲いかかる。

その時、店にやって来たのは、ジュンを案じた克巳と、彼が連れて来た刑事(河上信夫)だった。

バーテンに女の子が来てないかと刑事が聞くが、バーテンはごまかそうとするので、テーブル関で寝ていたリスを揺り起こすと、気がついたリスは奥の部屋に入って行き、ジュンを襲っていた連中に、何してるのよ!デカが来てるのよ!と教える。

チンピラたちは慌てて逃げ出し、リスは、服を破られたジュンを抱えて裏口から逃げ出す。

途中、工場内でジュンは転んで、足を怪我してしまう。

リスは、そんなジュンに詫び、薬を探しに戻って行く。

その時、工場の外を、ジュンの名を呼びながら探している克巳の声が聞こえて来るが、ジュンは答えず、物陰に隠れようとし、自分のみじめさに思わず泣き出すのだった。

ある朝、タカユキとサンキチは、他人の牛乳箱から配達されたばかりの牛乳を盗み、例の隠れ家近くの小舟に向かっていたが、その時、こら!お前らだな!いつもやるの!と怒鳴って来たのは、牛乳配達の少年(手塚央)だった。

2人は慌てて草原を逃げ出すが、途中で牛乳屋にサンキチが捕まってしまう。

タカユキが助けて、何とか船に乗り込み川に漕ぎ出して逃げ延びるが、対岸にそって追って来た牛乳配達の少年は、俺は病気のお袋の面倒見ながらアルバイトしてるんだ。お前らの精で俺は一銭にもならないから、薬も買えないんだ!と叫んで来る。

銭払えば良いんだろ!とタカユキが叫び返すと、恥ずかしくないのか?お前ら!と言われたので、タカユキもサンキチも小舟の中でしゅんとなってしまう。

牛乳配達の少年が見えない所まで来た時、嫌だな〜、嫌な感じだな〜…、あいつ、可哀想だな…と言い出したサンキチは、いつだってお前が言い出すじゃないか!と珍しくタカユキに反抗し、岸に小舟が着くと帰って行く。

そんなサンキチに、早く朝鮮に帰れ!朝鮮!とタカユキは罵ってしまう。

最近、学校に来なくなったジュンを案じ家庭訪問に来ていたスーパーマンこと野田先生は、勉強なんて意味はない!とすねるジュンに、高校行かなくても勉強しなけりゃいかんのだぞ。働いても、何をやっていても、その中から何かを掴んで、理解して、付け刃じゃない知識を身につけるんだ。気持ちさえあれば、どこでやってたって勉強できるんだ。とにかく明日から学校来なさいと言い聞かし、帰って行く。

一緒に話を聞いていたトミが、お前、あんな良い先生に心配かけて、罰が当たるよ!と叱ると、何さ、母ちゃんだって、嫌らしい飲み屋で騒いで!こんなの嫌よ!と言いながら、ノブコからもらった口紅をトミの元に投げつけて来る。

トミは何も言い返せなかった。

嫌だよ〜!あたい、こんなの嫌だよ〜!泣き出したジュンに、赤ん坊の泣き声が重なる。

12月10日、ようやくジュンは学校に行くようになっていた。

その日は、「今年を振り返る」と言う作文を書く授業だった。

窓の外を眺めながら、考え事をしていたジュンは、私には分からないことが多過ぎる…と言う言葉が浮かんで来る。

第一、貧乏なものが高校へ行けないと言うこと。今の日本では、中学だけでは一生うだつが上がらないのが現実だ。

下積みで貧乏で、喧嘩したり、酒を飲んだり、博打を打ったり、気短で気が小さく、その日暮らしの考えしか持っていない。みんな弱い人間だ。

もともと弱い人間だから貧乏に落ち込んでしまうのだろうか?

それとも貧乏だから気が弱くなってしまうだろうか?私には分からない…

その作文を読むスーパーマンの顔は哀し気だった。

下校時、ジュンはクラスメイトから、ヨシエさん、今晩北朝鮮に帰るんですって。7時半、今日は上野まで行って、明日の朝、新潟に行くんですってと教えられる。

その日の夕方、駅前には、北朝鮮に帰る集団が集まり祖国の歌を歌っていた。

その中に、朝鮮人の父親(浜村純)と姉のヨシエと共にいたサンキチは、必死に誰かを探していた。

その目が急に輝く。

やっぱり、タカユキとズクがやって来てくれたからだ。

タカユキは鳩が2羽は言った籠を渡し、ズクは、ビニール袋に入れたビー玉をサンキチに手渡す。

感激だ!親方!すまねえ、ズク!とサンキチは2人に感謝するが、タカユキは、この鳩はやるんじゃなくて、途中で放してくれ。西川口と大宮だと頼み、母ちゃんは?と聞く。

来ると思うんだけど…とサンキチは不安そうだった。

ヨシエはジュンを少し離れた場所に連れて行くと、これ、使ってもらえない?仲良くしてもらったからと、自分が乗っていた自転車を見せる。

ジュンは感謝し、大事にするわと約束する。

心配していたの、あの日から学校来なくなって…、早く元気になってもらえないと、あなたらしくないもの…とジュンを励ましていたヨシエだったが、ふろしき包みを持って、人ごみに近づこうとしていた母親の美代に気づくと、慌てて、停まっているバスの間に連れ込み、母ちゃん、行かないで!昨日あんなに約束したじゃないと言い聞かせる。

美代は、これをサンキチに渡そうと思っただけなんだよと言うが、それも行けないのよ。父ちゃん弱いから、行かないと言い出すかも知れないじゃない。

その時、ヨシエを見送りに来ていたスーパーマンが出発だ!と声を挙げる。

ご免ね、母ちゃん!と言い、ヨシエは駅の方へ向かう。

改札口の所へ来たサンキチは、タカユキに、盗んだ牛乳代を手渡すと、母ちゃんに会ったら…と言いかける。

うん、言っとくよとタカユキは約束する。

ジュンもヨシエと別れを惜しんでいた。

翌朝、学校から帰って来たタカユキは、箱小屋の中にいた弟のテツから、早速戻って来た鳩の足首に付いていたサンキチから母親に宛てた手紙を見せられる。

それを持って、サンキチの母親が勤める鶴亀食堂にやって来たタカユキだったが、その店の前で泣いているサンキチを発見し仰天する。

訳を聞こうとしても、母ちゃん、いねえんだ。結婚するんだって…と言うので、どうしてこんな所にいるんだよ?とタカユキが聞いても、泣きじゃくるばかりでなかなか要領を得なかった。

(回想)夕べ、列車に乗り込み上野に向かっていたサンキチは、タカユキとの約束通り、西川口から、まず1羽鳩を窓から飛ばすが、その鳩が川口に向かって帰って行くのを観ているうちに、急に1人ボッチになった母ちゃんが可哀想になって、サンキチは大泣きし始める。

そして、驚いた父やヨシエがなだめようとしても、川口に返してくれ〜!と車内で暴れ出したと言うのだ。

仕方ないので、父とヨシエは、サンキチを大宮で降ろし、母ちゃんとしばらく暮らせ、働いて住み良くしとくからと言われたのだと言う。

(回想明け)父ちゃん、笑ってたけど、げっそり痩せちまったみたいだったと、自分の掘建て小屋のある橋の上まで泣きながらサンキチは説明し続けていた。

これからどうなるか考えなくちゃな、俺たち…、元気出せよ!とタカユキは言い、2人で川に向かって小石を放り投げる。

苦しかった中、あなたとパチンコ屋でバイトしたこと、一番楽しかった思い出でした…、ジュンは、同じく、鳩の足に付いて遅れれて来たヨシエからの手紙を家の中で読んでいた。

あの頃、あなたと、辛いことをもっと話し合えば良かったと思います。恥ずかしかった…。あなたは今、1人だけで悩んでいるんじゃなくて、同じように苦しんでいるみんなの問題にして、一緒に考えた方が良いんじゃないでしょうか?私がいなくて残念ですけど、きっとそう言う人はたくさんいると思います…、そうヨシエは書いていた。

後日、ジュンは、就職組の友達と一緒に日立の武蔵工場を見学に行く。

トランジスタの部品の自動選別機など、女工が働く様子を見て回るジュンたち。

昼食時、ジュンは女工の1人(吉行和子)が隣に座って来たので、働きながら勉強するのって、よっぽど…と聞くと、それほどでもないわよ。学校が面白いからねとその女工は答える。

色んな人が集まっているでしょう?だから、みんな助け合うのねと女工が説明していると、外で、女子工員たちが、アコーディオンに合わせコーラスを始めたのが聞こえて来る。

その真ん中で指揮を執っている女性を観ながら、あの人面白いでしょう?私より年上なのよ。でもやっぱり今年から定時制に行ってるのと女工は教えて、自分も一緒に歌い始める。

ジュンはその日から明るくなり、ヨシエからもらった自転車に乗り、工場で覚えた歌を、1人だけで泣くんじゃない〜♪と歌っていた。

その時、新聞配達をしているタカユキとサンキチが別れて行くのを見かけたので呼び止める。

サンキチは唐草模様の風呂敷で顔を覆面のように覆い、素顔を隠しているようだった。

あんた、どうも夕方以内と思っていたら…。あの子、サンちゃんでしょう?どうしてサンちゃん、泥棒みたい格好しているの?とジュンがタカユキに詰め寄ると、母ちゃんに会いたくて戻って来たらさ、あいつの母ちゃん、結婚して、どっかに行っちゃったんだよ。それで今、母ちゃんの家に住んで、帰るまで朝鮮人学校に行ってるんだよ。人の世話になっちゃいけないって2人で相談して、アルバイトやっているんだよ。

案外感心なことやってるね。そうでもないけどよ、俺たちもそろそろまじめに考えないと…、親父はダメだし、姉ちゃんも何だかふらふらしてるしねなどとタカユキが言うので、姉ちゃんはふらふらなんてしてないよと答えたジュンは、タカユキに配達間違えないようにねと言って別れる。

タカユキは、親父には内緒だぜ!と言いながら配達に出かける。

その頃、家では、辰五郎が隣の克巳と酒を飲み、待てば海路の日和あり〜♪などと上機嫌に浪花節など歌っていた。

帰宅したジュンが、何かあったの?と聞くと、辰五郎は、おおあり名古屋の金の鯱、お酌しろと上機嫌で一升瓶を差し出して来る。

克ちゃんの会社、西川口に新工場作るんでね、人手が足りなくなったんで、正月から父ちゃんも元の工場に戻れるんだって!良い月給でさとトミが嬉しそうに教える。

克巳様様だぜと辰五郎が感謝すると、俺じゃないよ。組合がやってくれたんだ。みんなで集まってさ。そこんとこが大事なことだからと照れながら説明する。

ありがてえものよ、組合は…、おら、悪口言ってたけどよと、すっかり考えを改めたらしい辰五郎は謝る。

とっつぁんも復職すれば、そこの組合員。勤続労働者って訳さと克巳が言うと、いややっぱり俺はおめえの前だけどよ、労働者とか言われるより、職工とか職人とかさ…と辰五郎が拘るので、だからとっつぁんは古いんだと克巳は呆れる。

ダメよ、克ちゃん、父ちゃん、いくら言っても、根本的に古いんだものと、ジュンも酌をしながらからかう。

てやんっでぇ、親を小馬鹿にするもんじゃねえぞ。ジュン、お前だって、県立第一に行くんだ。うんと勉強して、金持ちの子なんかに負けるんじゃねえぞ!と辰五郎は言い、久しぶりだな、トミ。こんな旨え酒はよ…、おまけに、生まれて初めて娘の酌だよとしんみり漏らす。

だけど父ちゃん、私、県立第一行かないよとジュンは突然言い出す。

私、定時制高校に行く。働いて、自分の生活はちゃんとしてねとジュンは明るい表情で言う。

だっておめえ、あれほど高校に行きたがっていたじゃないか?いってえ、どういう了見なんだ?反対ばっかりしてるじゃないか、親の…と辰五郎が聞くと、反対してるんじゃないわ。自分で一旦決めたことだから、変えないってことよ。

父ちゃんは、何てったって、身体に無理が利かないんだし、この先又何が起こるか分からないでしょう?だから、あたいは、父ちゃんに頼らなくても良いような生活立てるつもりなのよ。

しかしよ、これからの父ちゃんは違いよ。俺たちの仲間でよ。前みてえにすぐに首になったりしねえからよ。ジュンも安心して昼間行ったらどうだ?そりゃ、うちのために働くってのは立派だけど、夜間たって、実際、勉強するとなると…と克巳が口を挟む。

トミも、同じ高校でも違うよねと克巳に賛同するが、でも母ちゃん、昼間にはいないような頑張りやでイカす人がいるわよ。それにね、うちのためって言うじゃなく、自分のためなの。例え勉強する時間は少なくても、働くことが別の意味の勉強になると思うの。色んなこと、社会のことや何やら。そして、何年でこうするって計画を立ててやりたいとジュンは言う。

それを聞いていた克巳は、参ったよ。おばさん、偉いよ、ジュンは…、よく考えたな…と褒める。

そんなことないわ。色んな人が教えてくれたのよ。廻りの人みんながさ…とジュンは言う。

年が開け、辰五郎は久々に、克巳と一緒に工場へ出勤して行く。

家の中の鏡台の前で髪を編んでいたジュンに、大会社の試験って、家庭の事情を調べるんだろ?うるさく…とトミが聞いて来る。

そうよ、お父さんいないとダメな所ある。あたいなんかまだ良い方よとジュンは答える。

本当に良いのかい?就職試験受けて…。母ちゃんが飲み屋に行っていたからやけくそになってるんじゃないかい?とトミは寂し気に問いかける。

そんなことないわよと言い、出かけようとするジュンに、だけどお前は頭良いんだし…、県立第一に行った方が…とトミは諦めきれないと言う風に話しかけて来る。

良いのよそれは。スーパーマンも励ましてくれたもん。1人が五歩前進するよりも、10人が一歩ずつ前進する方が良いって…、分かる?後で教えてあげるね!と笑顔で言ったジュンは、とにかく私はダボハゼじゃないから!信じてよ、母ちゃん!と言い残し、家を出る。

橋の上でタカユキと落ち合ったジュンは、やって来た列車を見つめる。

その列車には、いよいよ朝鮮に帰ることになったサンキチが乗っており、窓から手を振っていた。

タカユキ〜!

さよなら!サンちゃん〜!頑張ってな〜!タカユキも手を振って呼びかける。

ズクによろしくな〜!とサンキチは車窓から叫ぶ。

ヨシエちゃんによろしくね〜!とジュンも手を振って叫ぶ。

さよ〜なら〜!親方〜!サンキチは、親方からもらった鳩の入ったかごを手にしていた。

朝鮮で、どんどん雛孵して、威張るんだぜ、列車が遠ざかると、タカユキがジュンに言う。

タカユキ、あたいを駅まで送って!とジュンが言い出したので、俺腹減ってるんだ、まるで送り屋だななどとぼやくタカユキだったが、ジュンと一緒に駅まで駆け出すのだった。


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