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狂った果実('56)

石原慎太郎の原作の映画化で、いかにも弟顔特有の甘いマスク時代の実弟裕次郎が、劇中では兄役をやっている作品。

同じくきれいな顔立ちだった時代の津川雅彦が弟役なのだが、美貌の青年と海と言う組み合わせと、意外なラストで有名な、アラン・ドロン主演の「太陽がいっぱい」(1960)より、4年も前に作られた作品であると言うのが興味深い。

この作品は別にミステリではないが、ラストの衝撃は大きい。

もともと純文学なので、娯楽小説のような分かり易さはなく、若い作家独特の生硬なセリフを、劇中の裕次郎たちに無理矢理しゃべらせているので、早口と言うことも相まって、その言葉も観客に素直に届きにくい部分がある。

それでも物語の骨格はシンプルで、1人の女を奪い合う形になる兄弟の悲劇なのだが、不良気質の兄と、世間知らずの金持ちの坊ちゃんタイプの弟の対比が描かれている。

ここに登場するヒロイン役の恵梨は、まだ20と言う若さなのに魔性の部分を持っており、バンプと言うほどではないにせよ、外国人の夫を持つ傍ら、他の男との浮気にも、さほど抵抗感がない優柔不断な女として描かれているのが、この三角関係を厄介なものにしてしまっている。

また、改めて観ていると、この作品で印象に残るのは、裕次郎でも津川でもなく、実は、遊び人のように見えて、案外、一番大人の考え方をしているファンファン(岡田真澄)ではないかと言う気がしないでもない。

演技も、一番自然に見える。

この作品は、ファンファンの魅力が光る代表作の1本と言っても良いのではないだろうか。

冒頭、鎌倉駅から電車に乗り込む兄弟のシーン、2人ともサングラスをかけているのだが、弟役の津川雅彦は、顔の下半分、鼻から口元にかけて辺りを観ていると、兄の長門裕之にそっくりである。

その長門裕之も、原作者の石原慎太郎と一緒に、葉山のチンピラとしてちらり登場している。

互いに劇中では、名前を交換して名乗っているのがミソ。

津川の乗るボートの名前が「sun season(太陽の季節)」だったりと、本作の2ヶ月前に公開された、長門裕之主演の「太陽の季節」を意識したようなお遊び感覚もうかがえる。

「太陽の季節」では主役でこそなかったが、それなりに目立っていた裕次郎を抜擢し、主演させた本作は、裕次郎人気が爆発するきっかけになった作品と言えるのかもしれない。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1956年、石原慎太郎原作+脚色、中平康監督作品。

暗い海を走るモーターボート

それを操縦しているのは、目をぎらつかせた美貌の青年、滝島春次(津川雅彦)だった。

タイトル

鎌倉駅の改札に飛び込んで、出発間際の電車に飛び込んだのは、滝島夏久(石原裕次郎)と春次の兄弟だった。

兄弟は車中であれこれしゃべっていたが、夏久が、女に持てない弟の春次をからかい、ママの反対にもめげず、アロハ姿に合う刈り上げの髪になったことを指摘すると、凄みがある方が良いよ。ちょっとニヒルだろう?などと、まだ童顔の春次が胸をはだけて自慢してきたので、夏久は笑いながら、その貧弱な胸を叩いてみせる。

厨子駅の階段を降りる所で、ハンカチを落とした春次は、美しい女性恵梨(北原三枝)からそれを拾ってもらいぽかんとしてしまう。

夏久に、すごく可愛らしいぜとすれ違った女性のことを教えると、改札口に先に出た夏久は、後から出て来るその女性の顔を確認しようと振り向くが、もう恵梨はサングラスをしていた。

その後、2人は「sun season(太陽の季節)」号に乗って海に出、春次は夏久が操縦するボートで水上スキーを始めるが、すぐに転んでしまう。

お前といると収穫なかったなどと夏久がぼやくので、さっきの人良かったろ?踊子かしら?などと春次は、まだ駅で会った女性のことを忘れならないようだったので、娘だよと夏久は言い聞かす。

その後、2人は、夏久の悪友たちが集まっていたの平沢の家に向かう。

夏久は、屋敷の留守番を任されている平沢フランク(岡田眞澄)に、お前のこと好きだって言ってたぜと春次の言葉を教える。

フランクが人から奪ったと言う道子(東谷暎子)が、春次に飲み物を持って来て、水槽の青い熱帯魚を日本テトラと教え、今度あげるねと坊や扱いする。

そこに集まった若者たちは、全員暇を持て余しているようだった。

他にもっと他のことすりゃ良いじゃないかと春次は呆れてみせるが、要するに退屈なんだよ。インテリどもは色々理屈を行ってみせるけど、そんなの」この熱帯魚みたいにもろいものさ。この熱帯魚だって、ちょっと水が濁ったり冷えたりすりゃ死んじまうじゃねえかと言いながら、夏久が灰皿の吸い殻を水槽の中に落としたので、春次は驚く。

昔と違って、今の俺たちがそんな上品な思想に溺れてられるかってんだ。話すにしても、考えるにしても、もっとぴりっとした言葉が欲しいじゃないか…と夏久が言うと、学校の教授どもの話を聞いてみろよ。昔はあれで通ったかもしれねえが、今じゃ時代錯誤の世迷い子とじゃねえか。ソ連と中共のいる今時によ、良くそんな見果てぬ夢を追ってるもんだよななどと仲間たちも同調する。

ああ言う奴らが、日本を代表する学者や思想家で通っているんだ。俺たちは俺たちに合ったやり方で生きてくよと夏久が言うと、ただ、だらだら生きているだけじゃないかと春次は反論する。

これでも精一杯なんだぞと夏久が言うと、兄貴たちは、自分で自分のやろうとしていること、良く分かってないじゃないか。だから退屈なんて言うんだ。兄貴たちみたいなのを太陽族って言うんだ。僕はそんなのは嫌だ!と春次は言い返す。

それじゃ、他に何をすりゃ良いんだ?俺たちが、思い切ったことをしたくても、正面切ってぶつかる何があるんだよ?と夏久は言い、要するに退屈なのよと道子が口を挟む。

そうだよ、その退屈が俺たちの思想ってもんで、その中から何かが生まれるかもしれないと夏久は自己弁護のようなことを言い、道子は、お腹空かない?飯にしよう!と言い出す。

有り合わせのものを奪い合うように食べながら、どっかにいねえかな?ホウボウみたいなとげのある女が…などとバカ話をしていたが、とげがあるかどうか知らないけど、さっきいたよ、ちょっと良い女が…などと春久が言うものだから、みんな驚き、春坊のために、その女を草の根分けても探さなきゃいけねえな…などと混ぜっ返す。

その時、夏久が女を使った身体勝負みたいなものがやってみたいなと言い出し、それに乗った仲間たちが、どっかでダンスパーティーやって、女連れて来て、後で、その善し悪しを投票で勝負する。3人で勝負しよう!期間は一週間!と話をまとめると、フランクは勝手に使ってくれと、この屋敷を使う許可をくれる。

その後、みんなは海に出て、水上スキーに興じる。

やがて、春次の操縦するボートでスキーをやっていた夏久は、弟がよそ見しているので、ブイはそっちじゃねえぞ!と注意するが、春次はボートを停め、女の水死体だよと言い出す。

観ると確かに沖合に、女らしき人影が見えたので、人命救助のつもりで近づいてみると、それは泳いでいる恵梨だった。

春次は、その顔を観ると、この間の人だと驚く。

どこまで行くの?と夏久が聞くと、恵梨は指を指したので、一式?と春次は驚き、送りましょうか?と声をかけると、お願いします。少し疲れたわと言いながら、恵梨が春次らのボートに乗って来る。

どっから泳いだんです?と夏久が聞くと、柴崎のクラブの下からと恵梨は言い、広い海で泳ぐの、ちょっと怖いけど楽しいのと言う。

あなたとお会いしたの、2度目ですねと春次は言うが、恵梨は覚えていないようだったので、こいつ、駅で会ったみたいなんですよと夏久が教えてやる。

恵梨を陸まで送り届けると、夏久は、どこへ消えて行くか、良く観とけよ。お前のためだぞと言う。

その時、春次は、恵梨が海水帽をボートに忘れていることに気づくと、ほ〜ら、チャンスじゃないか。あの子はお前にお似合いだよと夏久はからかう。

鎌倉の自宅で、その海水帽をかぶり、バーベルを持ち上げていた春次は、婆や(紅沢葉子)が夏久の事を聞いたので、慌てて帽子を取ると、兄貴なら向こうに泊まって来るそうだと答える。

その夜、夏久は、フランクの車に仲間たちと乗って、遊園地に行って遊ぶと、海の家などが建ち並ぶ一角にやって来る。

その時、フランクと道子の姿が見えなくなったことに夏久たちは気づく。

フランクは、数名の男たちに囲まれており、それならこの子はお返ししますと道子をあっさり引き渡そうとしていたが、当の道子はその場を逃げ出す。

そこに夏久たちがやって来て、どうしたんだと声をかけたので、フランクも、俺も良く分かんないんだよと言うので、夏久が代表して、相手の素性を低姿勢に聞く。

どこかでレスリングをやっている石原(長門裕之)と長門(石原慎太郎)と名乗る2人が中心らしかった。

夏久は、仲間らと相談し、その場で喧嘩を始めることにする。

その間、フランクは、射的をやって時間つぶしをしていたが、そこに道子が不機嫌そうな顔で近づいて来る。

石原と長門を殴り飛ばした夏久は、退屈しのぎで相手を蹴散らした仲間らと共にフランクを探すが、気がつくと、目の前に、景品を山のように持ったフランクが平然と座っていた。

鎌倉の自宅には、春次の父親(深見泰三)が帰って来ていた。

母親(藤代鮎子)が、春次に、夏久も電話で呼びなさいと言いつけ、友達とばかり遊んではいけませんよ。夏久はあなたには、まだ危険ですなどと、自分の息子なのにおかしなことを行って来る。

直接、迎えに行くことにした春次は、鎌倉駅に来るが、ホームで三たび、恵梨と再会する。

恵梨は、外国人の横に座っており、登りの列車にその外国人ともう一組の外国人男性と日本人女性を見送ると、春次に挨拶に来る。

あれ、友達の旦那さんで、昨日アメリカから来たのだと言う。

この前、海水帽忘れたでしょう?と春次が言うと、やっぱりなくしたんじゃなかったのねと恵梨は安心したようだった。

今度持ってきますと春次が言うと、では明後日の3時過ぎ、この前送ってもらった場所で会いましょうと恵梨は言う。

厨子駅の改札を出た所で、春次は、電話をするので…と言い、恵梨と別れる。

フランクの家に電話を入れた春次は、いきなり、電話に出たフランクが倒れるような音を立て、何よ!とオンアの声が聞こえて来たたので驚く。

自由に出て行って良いと言われた道子が、フランクをビンタして出て行った音だったが、春次には訳が分からなかった。

フランクに兄の居場所を聞くと、夕べから鎌倉の間の家に遊びに行っている。光明寺の境内にいると言うので、その寺へ行ってみた春次だったが、そこにいたおばさん2人(原恵子、潮けい子)が、起きるのが昼過ぎなんだよ。中で何やってんだか…、こっちの方が恥ずかしくて、中に入って行けないよなどと立ち話をしているのを目撃する。

バツが悪くなりながらも、仕方なく中に入ると、それに気づいたおばさんたちは、又来たよなどと白い目で見る。

ごめん下さいと中に声をかけると、蚊帳の中から、女(竹内洋子)が出て来たので、うちの兄がおりませんでしょうか?ここ、相田さんのお宅でしょう?と聞き、滝島ですがと名乗ると、今、泳ぎに行ってるのよと言う。

女は、本当にみんなが言う通りだわ…と春次の顔をまじまじと観ると、ねえと手を触って来る。

その時、夏久らが帰って来たので、パパが呼んで来いって。一緒に食事をするんだよと春次は伝えるが、夏久は、つまんねえ付き合いだな〜と言い、嫌そうだった。

それでも着替えて、春次と一緒に帰る途中、あの女、俺たちが夕べへとへとになって寝てたのよ。だけど、その中で一番惚れたのは、今一目見たお前だってよ。だから言ってやったんだ。あれだけはダメ。奴はそっとしといてやってくれってさと夏久はからかう。

数日後、初次は約束通り、恵梨に水上スキーを教えていた。

その後、岩場で並んで寝そべる2人。

春次は、ボートが流されちゃうと慌ててボートに飛び移るが、恵梨はそんな春次の様子を暖かいまなざしで見つめていた。

夜、帰宅した春次に、ウクレレを弾いていた夏久は、今までどこに行ってた?と聞くが、伊豆の大島さと春次は答えるだけだった。

その後も、葉山のボートの所にいたフランクに挨拶に来た春次は、また、ボートで恵梨と会い、仲間がやるパーティに正装して来てくれないかと誘う。

迎えに行くから家を教えてよと春次は頼むだったが、恵梨は、ダメ、うちはママがうるさいの。バスストップの所で待っていてと言うだけだった。

翌日、春次もお粧しをして、岬のバス停前で待っていると、そこに正装をした恵梨がちゃんと待っていてくれた。

2人は、目の前の屋敷に入って行くが、出迎えた仲間や夏久たちは、春次が連れて来た恵梨を観て愕然とする。

フランクは、素人にしてやられましたとつぶやき、夏久も、こうなると、素人の強みですよと相づちを打つ。

その後、夏久はウクレレを弾きながら歌を歌い出すが、春次と踊りながらそれを聞いていた恵梨は、巧いわ、あなたの兄さん。ボリュームがあって、声が甘くて…とうっとり聞き入っていたので、春次はちょっと面白くなかった。

その後、その兄と恵梨が踊り始めると、嫉妬心から、春次は恵梨を奪い返し、又踊り始める。

あの女、ただもんじゃねえな…と、夏久はフランクに耳打ちする。

その後、春次に、あいつ誰だよと夏久が聞くと、この前の人だよ。まじめな人で、普通の人だよと春次は答える。

ベランダにいた恵梨に外に出ようと言い出した春次は、コップを外に投げつける。

そして、玄関前に停めてあったフランクの車を無断拝借して、恵梨を乗せ、海辺までドライブする。

きれいね。葉山でこんなきれいな所来るの初めてだわと「感激したらしい恵梨は、歩きましょうと誘い、自分はヒールを脱いで裸足になる。

やがて、2人は倒れ込むようにキスをする。

翌朝、夏久が口笛を吹きながら着替えていると、ようやく目を覚ました春次がお早うなどと挨拶して来たので、今何時だと思っているんだ?と笑った夏久はあ、夕べはお前のお陰で横浜行きそびれたよとぼやいてみせる。

その夜、夏久ら仲間は、フランクの車に全員乗り込んで「ブルースカイ」と言うクラブにやって来る。

ホールで踊る客たちの間をわざとじろじろ眺めながら物色していた彼らは、女性3人だけのテーブルを見つけると、全員、その前に座り、みな一斉時煙草を口にくわえてすかしてみる。

ボーイが注文を取りに来たので、それぞれ酒を注文するが、最後のフランクを外国人と勘違いしたボーイが、英語で注文を聞くと、焼酎ある?とフランクは、はっきりした日本語で答える。

その後、女と踊り始めたフランクは、二階フロアで外国人(ハロルド・コンウェイ)と踊っている恵梨を発見し、夏久に、この前の女じゃないかと教える。

ホステスかな?と夏久が呟くと、踊っていた女たちは、夫婦じゃない?別の所で見かけたことがあるものと言うではないか。

踊り終えた恵梨が、螺旋階段を降りて来て化粧室に入ったので、その入口で待ち構えていた夏久は、出て来た恵梨とわざと鉢合わせになると、今日辺り、弟とご一緒だと思ってましたよと皮肉を言う。

恵梨は、お願いがあるの。明日の7時頃、「シーサイドクラブ」で待っていてくださいと頼む。

翌日、「シーサイドホテル」の庭先で恵梨と会った夏久が、どうしたんです?と用件を聞くと、用事があるのはそっちでしょう?何故聞かないの?何故、夕べ、あんなことをおっしゃったの?と聞いて来る。

弟をたぶらかすのは止めてくれ。あいつはまだ何も知らねえんだと夏久が頼むと、夕べのは私の夫よ、バカにしないで!夫は忙しいので時々来るの。春次さんとは決して浮気じゃないの。今、私は、結婚前にしておかなかったことをやってるの。浮気は何度かやったけど、この間はキスだけして帰って来た。その時、自分が信じられないくらいだったわ…と恵梨は打ち明ける。

あなた、弟さんに妬いてるの?と恵梨が聞き返すと、じゃあ弟に素性を明かしてごらんよ。奴はきっと、怒るか泣き出すよと夏久が言うと、少なくともあの人と会ってると、ずっと以前の私に戻れるのと恵梨は答える。

あんたいくつなんだい?と夏久が聞くと、20と言うので、随分男を知っている女にしては、凄い文句に聞こえるけどね。同じことを春次の前で言いなよ。奴はもう葉山に来なくなるよと迫る。

どうだい?俺と浮気しないか?付き合うんだな。そしたら黙っていてやる。あんた浮気は嫌いじゃないな?あの時会った時そう思えたぜと言いながら、いきなり夏久は恵梨にキスをする。

顔を離した夏久の唇からは血が流れていた。

夏久は、その抵抗でより興奮したのか、いきなり噴水脇に恵梨を押し倒し、もう1度濃厚なキスをする。

その後、フランクの家に来た夏久に、この頃滅多に、夜、顔を見せねえな?春坊、あの女とよろしくやっているのかな?などと仲間が聞くと、うるせえな!俺は御節介が嫌いなんだ!と怒り出し、持っていたグラスを投げつけて壊したので、それを観ていたフランクは、兄弟でコップ割ってやがると呆れる。

家に帰った夏久は、酒を飲みながら、横のベッドで寝ている春次の顔を忌々しそうに見つめる。

ある夜、自転車に乗って家に帰って来た恵梨は、玄関先で待っていた夏久に気づく。

2人はそのまま無言で屋敷に入ると、二階の寝室で寝る。

俺は一体、何人目の男なんだい?と夏久が聞くと、初めてよと恵梨は答える。

そこに、突然、夫が帰宅して来たので、夏久は、慌ててベランダから外へ逃げ出し帰って行く。

翌朝、夏久と春辻は、自宅で向かい合って朝食を食べていたが、夏久の弟を観る目は鋭くなっていた。

春次は、兄が食べていたブドウを取ってよと頼むと、てめえで取れよ!と怒鳴り、夏久はブドウをちぎって、弟のテーブルの上に投げつける。

春次は、その後も恵梨に水上スキーを教え、その後、岩場で並んで午睡を取っていた。

恵梨にキスをしようとすると、軽く恵梨が顔を背けたので、春次は戸惑うが、目覚めて気づいた恵梨は、自分からキスをする。

ボート付き場に戻って来た2人は、そこに夏久が待っていることに気づく。

どうしてここが?良く分かったな…と春次は話しかけるが、何故か、終始夏久は無口で、帰って行く恵梨をじっと見つめていた。

その夜、また、恵梨の家にやって来た夏久だったが、二階の寝室に夫婦のシルエットが見えると、悔し気に帰って行く。

その後ろ姿に、二階にいた恵梨も気づき、鏡台に座ると、急に口紅で鏡に落書きを始めたので、側のソファに座っていた夫は、どうしたのか?と声をかけて来る。

フランクの家には、兄弟とフランク以外はいなくなっていた。

女と魚はいつの間にかいなくなるさとフランクは呟く。

春次は、相変わらず、自分をバカにして来る兄にいら立っていた。

そんな春次に、何か夕食の材料を買って来てくれとフランクは頼む。

春次が出かけると、初久はフランクに、俺はあの恵梨と言う女と出来たんだと打ち明ける。

フランクは薄々気づいていたようだった。

あいつは春次が思っているような女じゃねえよ。あの女が男を愛したくなったのは春次が初めてだなんて言いながら、その一方で俺を誘うんだぜ。どういう訳なんだい、そりゃあ?俺は今、てめえでやりきれねえほど、あの女を欲しいんだ!身体は俺と遊んでも、決して落ちやしない!と夏久が訴えると、だから春ちゃんに当たるのかい?そうさ、俺は春次が好きだけど、恵梨の事を考えると叩き付けたくなるんだ!でも、春次のヒャツは何も知らないんだ。俺はどうすりゃ良いんだ?と悩みを打ち明ける。

それを俺に話すのは間違いじゃないか?お前があの女の真相を俺にぶちまけても、俺は春ちゃんに告げ口はしないよ。お前がやっていることは自分本意な御節介なだけ。ミイラ取りがミイラってあんたのことだぜとフランクは答える。

買い物を済ませ店を出て来た春次に気づいて声をかけて来たのは、自転車に乗った恵梨だった。

うちの兄貴と何かあったんですか?兄貴、この頃変なんだ。何かと言うと俺に当たるし…と春次が聞き、明後日、親父の車が空くから、東京に行かない?と誘うが、恵梨は、まだママに話してないの。ママ、本当にうるさいのよと噓を言い、いつもの所で待っていてくださらない?必ず行くからと答える。

その後、2人はバーで飲んでいたが、春次が黙ったままなので、どうしたの?何か変よ、今日は…と恵梨は聞く。

春次は、出よ!と言うと、自分が運転して、車で海辺にやって来る。

車を降りた恵梨は、また靴を脱ぎ、裸足になると、初次の手をとって、側にあった洞窟内に連れ込む。

その場に座って微笑みかけた恵梨だったが、春次はまだ硬い表情をしていたので、その足に恵梨がすがりつくと、春次も自然にキスをして来る。

その場で寝た恵梨は、上に覆いかぶさって来た春次の手を自分の胸に誘う。

その後、恵梨と一緒に並んで寝ていた春次はランニング姿になっており、満足そうに微笑んでいた。

翌日、ウクレレを弾いて楽しそうな春次に対し、夏久の方は不機嫌で、お前、夕べどこに行ってたんだ?随分遅かったじゃないかと聞くだけではなく、俺ね、夕べは恵梨をと…と嬉しそうに報告するが、おろしたって言うのか?お前も随分悪くなったもんだと、最初は余裕で答えていた夏久だったが、徐々にいら立ち出し、お前がいじるとコードが狂っちまうぜと言い、ウクレレを奪い取ってしまったりする。

俺ね、明後日から3日、キャンプに行くんだ。クラブのヨット借りて、油壺の方にね…と春次は嬉しそうに言い、フランクにテントとヨットを借りるため、電話をしに行く。

その後、部屋に戻って来た春次だったが、もう夏久の姿はなかった。

夏久は、恵梨の二階の部屋に忍び込んでいた。

恵梨はダメよと抵抗するが、結局、夏久と寝てしまう。

ことが終わると夏久は、どうだった弟は?などと嫌味を言い、お前には俺が一番お似合いだろうな…、兄弟か…などとうぬぼれてみせるが、恵梨はそんな夏久の態度に切れたようで、もう帰って!もう二度と来ないで!と追い返す。

フランクの家に来ていた夏久は、春次が奴と出来たのなら、春次とも気兼ねせず、五分で渡り合えると息巻いていた。

春ちゃんはまだ知らないんだろ?罪なことだとフランクが言うので、もう面と向かって話したって良いことなんだよと夏久は答える。

しかしフランクは、どんなにお前が焦ったって、春ちゃんにあるものは、お前には出てきやしないよ。お前と遊んだって、代わり映えしない男を掴んだに過ぎないさと指摘する。

その後、車で外出したフランクは、通りかかかった春次を観かけ、春ちゃん、恵梨と会うのか?と聞きかけるが、いや、思い違いらしい…とそれ以上のことは話さず別れる。

自宅にいた夏久は、婆やが、春次に届いた速達を持って来たので受け取ると、勝手に中身を読んでしまう。

それは恵梨からのもので、キャンプ、都合で、1日早くしてください。3日間の予定も2日にして下さいと日程の変更を頼む内容だった。

夏久は、読み終わった手紙を破り捨ててしまう。

翌日、葉山のヨットハーバーに来た夏久は、フランクのヨット「LUCIA号」を借りようとしたので、それは春ちゃんが明日から使うとリザーブしてあるんだとフランクは注意するが、恵梨は俺が連れて行くよと夏久は言う。

1日外泊して、帰宅した春次は、婆やから速達が来ており、机の上に置いてありますと聞いて部屋に向かうが、机の上にあったのは、破られた手紙だった。

その断片を繋ぎ合わせ、何とか内容を読み取った春次は愕然とする。

その頃、夏久は「LUCIA号」で出航していた。

春次は、鎌倉駅から電車に乗り、厨子駅からタクシーに乗り込むと、ヨットハーバーに急がせる。

ヨットが近づいて来たので、待っていた恵梨は手を振るが、近づいて来たヨットに乗っているのが夏久と気づくと、硬直する。

行こと夏久が話しかけて来たので、どこへ?と恵梨は聞き返すが、弟は来ねえよ。手紙は俺が読んだよ。俺だったら、いやってことはないだろ?一か八か試すんだ!と言い、無理矢理恵梨をヨットに引き入れる。

その時、恵梨が持っていたトランジスタラジオがボート乗り場に落ち、弾みでスイッチが入り、音楽が流れ出す。

ヨットハーバーにやって来た春次は、ヨットがなくなっていることに気づき、ボート・マスター(近藤宏)に聞くと、あんたの兄さんが乗って行ったよ。森戸の方に行くと言ってた。フランクサンに聞いてごらんと言うので、近くにいたフランクに訳を聞くと、恵梨は諦めろ。奴は恵梨を連れてった。君より先にあいつと出来てたんだと言うではないか。

春次は、初めて聞いたその話を到底信じられず、ボート・マスターに自分用のモーターボートを出してもらうと、恵梨とのいつもの待ち合わせ場所までやって来るが、そこには音楽を鳴らしているトランジスタラジオがあるだけだった。

その後、ヨットを探すことにした春次は、近くに船を浮かべていた漁師たち(山田禅二、峰三平)に聞いてみるが、葉山方面から来たヨットのことは知らないと言う。

春次は、このまま油壺へ行けるはずがないと呟いていた。

その後も、それらしきヨットに近づいたりするが、どれも別人のものだった。

一旦、ヨットハーバーに戻って来た春次は、ボート・マスターにガソリンをもらうが、ちょうど伊東の方から帰って来た若者らに、ボート・マスターがヨットのことを聞いてみると、多いその方から伊東の方に行くのを見かけたと言うので、それだ!と叫んだ春次は、また、ボートに乗って海に出る。

その頃、夏久のヨットに乗っていた恵梨は、暗くなって来たので、一体どこまで行くのよ!と警戒するが、夏久は、伊東か熱海だよと言うので、そんな遠く…と恵梨は戸惑う。

帰しゃしねえよ。春だけにじゃねえぞ、旦那もみんな捨てちまえ!黙って俺に付いて来いよ。俺もこんなの初めてなんだ。春だって、俺だって…、畜生!惚れちまったんだよ。どうしようもないんだ!と自分の気持ちをぶつけて来る。

その間も、春次は、暗くなった海を必死にモーターボートで走っていた。

抱き合った後、ヨットの中に寝そべる恵梨と夏久。

ボートの中でウトウトしていた春次は、気がつくと、夜が明けており、ボートはどこかの海岸に打ち寄せているに気づく。

海に入って海水で顔を洗うと、ボートを海に戻し、又捜査を開始する。

夏久と恵梨は、ヨットで眠っていた。

やがて、春次は、目的のヨットを発見する。

恵梨は、近づいて来るモーターボートに気づくと、船だわ!春次さんが乗ってる!追って来たのよ!と喜ぶ。

ヨットに接近していた春次のボートは、ヨットの周囲をぐるぐると旋回し始める。

春次も無言だったし、それを見つめる、夏久の方も無言だった。

追って来たのよ!夜通し、私を追って来たのよ!と叫ぶ恵梨。

春次のボートはまだ延々とヨットの周りを回り続ける。

急に笑い出した夏久は、俺の負けだ。恵梨、お前の勝ちだ!と言い、恵梨は、春次さ〜ん!と呼びかけながら海に飛び込む。

春次のボートは一旦遠ざかったと思うと、方向転回して恵梨の浮いた海面の方に突っ込んで来る。

驚く恵梨。

ボートは、恵梨を撥ねると、そのまま夏久の乗っていたヨットに体当たりして行く。

驚愕する夏久。

ヨットは大破し海面にはその残骸だけが浮かんでいた。

ボートを操縦する春次の目から大粒の涙が流れていた。

モーターボート「sun season(太陽の季節)」号は、海をどこまでも遠ざかって行く。