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紅の流れ星

喧嘩っ早くて、遊び感覚で人殺しをするが、心は満たされないヤクザを描いた、一種のピカレスクロマンとも言えるが、むしろ、軽いタッチの青春映画に近い。

生きる目的が見いだせないヤクザな若者が関西で暮らすようになり、東京へ戻ることだけが夢になるが、ある日、その東京からやって来た身分違いの女に一目惚れし…と言うシンプルな展開なのだが、結構明るく、飄々とした主人公のキャラクターの面白さで見せて行く。

一応殺し屋が主人公なのだが、アクションやサスペンスタッチと言う訳ではなく、セリフがやたら多い青春映画に近いような気がする。

アクションメインのヤクザ映画とか犯罪映画のようなものを期待していると、肩すかしを食う。

若い頃の藤竜也や杉良太郎、そして、歌手の奥村チヨが出ているのが懐かしかったりするが、東宝で活躍していた山田真二が出ているのがちょっと珍しい。

あまり良い役とは思えないのだが、東宝が製作を分離し始めた時期なので、こういう他社の、従来の甘い二枚目タイプとは違った新境地に挑んでみたかったのかもしれない。

珍しいと言えば、杉良太郎が、渡演じる五郎を慕っている、妙に明るくテンションが高いペエペエのチンピラ役と言うのも、今となっては信じられないような役だ。

奥村チヨの恋人役で、一緒に「北国の青い空」をデュエットする杉良太郎と言うのもなかなか貴重。

この当時から、その歌声は伸びやかである。

後年、トレードマークのようになった口ひげがない藤竜也も、ぱっと観、誰なのか判別できないくらい若い。

この当時の渡さんは、どう観ても可愛い坊や顔でしかなく、全く強面風の要素がないので、こう言ったキャラクターにするしかなかったのかもしれない。

後年、レイバンをかけて目を隠し、無理矢理ハードボイルドなイメージを強調していたような無理は感じられず、むしろ、この時代の渡さんの方が好感が持てるような気もする。

対する浅丘ルリ子さんの方は、かなりやせ細り、無表情に大きな目を見開いているだけに見える、この時代特有の大人の女性キャラクターになっている。

正直な所、この時期の朝丘さんのイメージは好みではない。

それを補うかように、付けまつげがやたらに長く、その観た目通り、頭が少し弱くコケティッシュな役を演じている奥村チヨと、ひたすら主人公を愛する一本気な女を演じる松尾嘉代が登場している。

ラストも、青春ものとしても、ピカレスクものとしても、こうなるだろうと予想出来る範囲の良くあるパターンに見える。

典型的なプログラムピクチャーではあるが、この手のムードが好きな人には、そこそこ楽しめるのではないだろうか。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1967年、日活、池上金男脚本、舛田利雄脚本+監督作品。

口笛の音色が聞こえる中、日活マーク

羽田空港の駐車場に真っ赤なスポーツカーを乗り付けて来た男が降りて行くと、その様子を側で観ていた杉浦五郎(渡哲也)が、何食わぬ顔で車に乗り込み、コードを接触させ、エンジンをかけると、口笛を吹きながらそのまま駐車場を出て、空港の玄関口に車を回す。

そこで、車に乗り込む加鳥組の組長(久遠利三)を見つけた五郎は、そのまま、鹿島が乗った車の後を尾行を始める。

タイトル

高速の料金所で、金を出した五郎だったが、細かいのがなかったので、釣りを待つのが面倒で、さらに札を追加し、回数券を購入すると、釣りはもらわないまま出発する。

そして、鹿島の車と高速上で横に並んだ五郎は、銃で後部座席に乗っていた鹿島と運転手を狙い撃つ。

鹿島の車は、高速の側壁を突き破って、半分車体が飛び出てしまう。

その後も口笛を吹きながら車を走らせていた五郎は、高速を降りた所で待ち受けていた大沢(深江章喜)を助手席に乗せて走り出す。

この車は最高だぜ!車は女と一緒で、最初に乗る奴が肝心だ。変な癖をつけちまうからななどと五郎が冗談を言うと、鹿島は殺さなかっただろうな?と大沢が聞いて来る。

急所は外したが、運転手がドジでドカン!だから、どうなってるかな?と答えた五郎は、切符と金を要求する。

それを渡しながら、大沢は、向こうには話をつけてある。鹿島組も親分がこうなってはこちらの言うことを聞くはずだと言い、東京駅で降りた五郎に、バッグを投げて渡す。

そのまま五郎は東京駅に入って行く。

新幹線の走る情景

それから1年 神戸

港の突堤で、外国船が来るのを待ちわびていたのは、地元の関興行のチンピラたちだった。

柱に登って双眼鏡を覗いていたキー坊こと竹越喜一(杉良太郎)に、見えるか、まだか?と催促している仲間たち。

そんなうるさい連中を黙らせ、立ち上げって、わいだけに言うてくれと頼んだのは、外国人の血が入っているらしきカビ(ケン・サンダース)だった。

そんな突堤の一番端に置いてある揺り椅子に座って寝ている男は、白い帽子を顔にかけていたが、その帽子のリボンには、高速道路の回数券が挟んであった。

やがて、外国船が到着したのを発見したキー坊の合図で、全員、停めてあった車の方に走り出すが、揺り椅子から起こされて立ち上がったのは、用心棒として雇われていた五郎だった。

彼らが乗り込んだ車は、外国船から降り立った外国人を客引きに出かける。

すぐに、別の組の連中が同じように車で駆けつけて来て、客の奪い合いになる。

のろのろと五郎が車を降りると、相手の組の1人(吉田武史=沖田駿一)が、お前がこのアホンダラたちの頭か!と因縁をつけて来たので、五郎はいきなり喧嘩を始める。

ホテル「シーサイド」で待機していたユカリ (松尾嘉代)は、男たちからの電話を受けると、カモが来るぜ!仕度しとき!とホステスたちに命じる。

カウンターには、ベトナム帰りらしい米兵が、夕べから酔いつぶれて寝ていた。

やがて、キー坊たちが連れて来た外国人を中に引き入れると、室内を暗くし、派手な証明と音楽をかけて、いきなり外国人と一緒に踊り始める。

カウンターでは、待ち構えていた新聞記者の黒岩(谷村昌彦)が五郎に、強請れるネタがあるんだが、買わないかと誘っていた。

五郎は、お前のネタはヤバいので…と、笑って断る。

外国人客の1人()が、カウンターで寝ていた米兵の耳元で爆竹を鳴らしたので、驚いて飛び起きた米兵は怒り出し、2人は喧嘩を始める。

店が潰れるじゃないかと五郎が止めに来ると、米兵と外国人客は一緒に五郎に向かって来る。

そんな外国人客を、カウンターの上に投げ上げ滑らせる五郎。

その時、五郎の落とした帽子と回数券を拾ったキー坊が返そうとするが、それを観たカビが、何や首都高速の回数券やないか、東京の…とバカにする。

五郎は、そんなカビから、触るな!まだ使えるんだと言って回数券を奪い取ると店を出て行ってしまう。

キー坊はカビに、アホやな、あれ触ったら、あれは兄貴のお守りみたいなもんやないかと注意する。

すると、おのれのペンダントと同じやなとカビは笑い、他のチンピラが、キー坊が胸から下げていた成田山のお守りを触ろうとしたので、振り払い、観たらただで済まさんぞと凄んでみせる。

外に出た五郎は、顔なじみの宇須刑事(藤竜也)からねちねちと話しかけられる。

しばらく歩きながら相手をしていた五郎だったが、お前さん以外のデカに捕まるようなドジなことはしねえよと言い残し別れる。

関興行の組事務所にやって来た五郎は、ちょうど取引が終わったらしい客たちが、東京もんはルールを守らんさかい困るわ…とぼやきながらかえって行くのとすれ違う。

組の中では、今取引が終わったらしい宝石を包んでいた男を観かける。

組員は、今月の手当か?と五郎に聞き、そっちで待っとけと命じる。

ゴーゴー喫茶になだれ込んで来たのは、五郎のおごりでやって来たキー坊たちチンピラだった。

景気ええやないのとキー坊に話しかけて来た駒子(奥村チヨ)は、ステージに上がると、ゴーゴーを踊りながら「北国の青い空」を歌い始める。

すると、キー坊も一緒に歌い出し、カビは、得意のダンスを踊り出す。

そんな店の中に、テーブルに葉巻を並べたサングラスの男がいた。

五郎に、えらい派手にやってるやないかと話しかけて来たのは、関興行の田辺(杉江弘)だった。

さっきダイヤを受け取っていた東京の男を連れて来ていた。

こいつも小島はんと同じ東京もんですねん。なかなか腕は立つし、気のええ男ですねん。何か御役に立つことがあったら言うてくださいと田辺が紹介すると、五郎は小島(山田真二)に向かい、東京もこの1年で変わったでしょうねと愛想笑いを浮かべて聞く。

すると、終始視線をそらし、迷惑そうだった小島は、新聞を読めば分かるでしょうと冷たく言い放ち、東京はどちらですか?と五郎が聞くと、小島は、君のような男に軽々しく住所を言いたくないねと無愛想に答える。

五郎は、笑顔のまま黙ってしまう。

田辺も、こいつ、東京に帰りとうて敵わんらしいんのですわと仲を取り持とうとすると、僕はこういう人種との付き合いはご免被りたいね。僕廃止でも人間でも傷もんには手を出さんと言い放つ。

なるほど、傷もんか…と笑った五郎は、だがな…、お前さんみたいな上品ぶったまがいもんよりはましだぜと言うと、立ち上げって小島を殴り倒す。

田辺は、その男に詫びながら店を出て行くが、五郎は照れ隠しのつもりか、帽子を顔にかけて、ちょうど演奏が始まった「ジェンカ」に合わせ、身体を揺すり始める。

キー坊たちは、そんな五郎を心配そうに観ながら、女たちとジェンカを踊り出す。

その後、五郎に抱きついてキスをしていたのはユカリだった。

五郎は、キスしながらも、ウィスキーを飲む。

そんな五郎に怒り出したユカリに、好きやねん♪と歌い出した五郎は、ベッドに入ったユカリを前に、もう1度、ウィスキーを口に含むと服を脱ぎ、はいお待ちどうとおどけながらベッドインする。

しかし、翌日、五郎は、ベランダの椅子に腰掛け所在な気にしていたので、ユカリは不機嫌だった。あんた、この頃、冷とうなったわね。私のこと、嫌いになったんやわ…とすねると、嫌いなんじゃない。飽きたと五郎は言い出す。

お前のことは飽きたけど嫌いじゃない。一緒に寝ているじゃないか。ただ、女と寝るのに飽きたんだよ。どうにもならねえな…、関組も夜になれば真っ暗になるんだろ。でも明日になれば又明るくなる。それが飽きた。どうにもならねえからな…などと言うので、東京に帰りたいんやろ?とユカリが聞くと、ああ、帰りてえな…。帰っても別の殺しを頼まれるか…、そんなのでも良いと言いながら、部屋の中の冷蔵庫からコーラを出すと歯で栓を抜き、飲み始める。

そして、甘えて来たユカリにそのコーラを渡すと、部屋を出て行ったので、残されたユカリは、五郎なんて嫌いや!死んじまえ〜!と言いながら、ベッドに倒れ込む。

外に出た五郎は、道ばたに立っていたサングラスに口ひげの男とすれ違うが、その口ひげの男は、ゴーゴークラブで葉巻をいじっていた男だった。

「金の鍵」と言うホテルに戻って来た口ひげの男は、五郎が写った写真を破り捨てる。

港の突堤にやって来た五郎は、自分用の揺り椅子に誰かが先に座っているのに気づく。

キー坊だった。

キー坊は、五郎に気づくと慌てて立ち上がり、兄貴と同じことやったら、兄貴が何を考えているのか分かるんじゃないかと思って…。兄貴はいつも、そうやって何を考えてるのかいっぺん聞こうと思って…と聞いて来る。

何か考えることねえかって考えてるんだ。要するに何も考えてねえんだ。海の向うはどうなっているか分からない。分からねえから何かあるんじゃねえかなって思っているだけなんだ…などと五郎は答える。

今度、ベトナム行きの船に乗り込んで2人で戦争行きまひょう。かっこいいで、戦争は…。でもあかん。この間写真観たけど、死体が山積みされていたり、胸くそ悪うなって反吐あげそうやったで。やはり日本が宜しいで…などとキー坊がしゃべりまくるので、将棋でもやるか、溜まりで…と五郎は誘い、一緒に関興行に事務所に向かう。

事務所では、兄貴分たちがアタッシュケースから別のバッグに札束を詰め替え、宝石は袋に入れている所だったので、ある所にはありまんな〜などとキー坊が愉快そうに声をかけると、いきなり田辺から殴りつけられ、お前は何も観てへんのやど!と念を押される。

その後田辺たちは出かけるが、空アタッシュケースをキー坊は渡される。

そのケースを確認した五郎は、そこに「T・KOJIMA」と名前が書かれていることに気づく。

新聞には、「東京の宝石商仕入れ係 神戸で失踪 2千8百万持ち逃げ?」の記事と共に、小島の顔写真が掲載されていた。

その頃、三ノ宮駅に、1人の女が降り立っていた。

警察署にやって来た白川商会の娘、白川啓子(浅丘ルリ子)は、警察主任(木島一郎)から宇須刑事を紹介され、話を聞くため一緒に外に出るが、それを目撃した黒岩は、何事かと宇須刑事に聞いて来るが、宇須が答えるはずはなかった。

ヤク中らしき男女が寝転がっている所を通り過ぎる時、こういう連中が話してくれれば分かるんでしょうが…と宇須刑事はぼやくが、啓子は、まさか!あの人はこんな所に出入りするような人じゃありませんわと答える。

連絡を受けて調べたんですけど、この辺の貿易商で白川商会や小島と取引をしたと言う会社は見つかりませんでしたと宇須刑事が教えると、そんなはずはありませんわ。父の話によると、この半年の間に4回も取引が会ったそうですと啓子は反論する。

だとすると、密輸品に手を出して、引っ掛けられて殺されたか…と宇須刑事は呟く。

曖昧なお話ね…と啓子は呆れたようだった。

喫茶店に来て、小島とのご関係はと宇須刑事が聞くと、使用人です。大学を出てからずっと働いてましたと啓子が答えたので、婿養子だ!と宇須刑事は指摘する。

父は、小島と結婚させるつもりだったんですと啓子は肯定する。

婚約なさっていたんだ。肉体関係は?と宇須刑事が突っ込むと、ありますと啓子もはっきり答える。

私は神戸に来たのがそんなに重要なこと?御分かりになってませんねと啓子が嘲ると、あなたは美人だ。婚約者が2、30万の金くらいで逃げやしませんよ。早く、東京に帰ることですと宇須刑事は言い聞かす。

それでも啓子は、探すの、自由でしょう?と反発し、あまり事件増やさんといてくださいと言い残して帰る宇須刑事とその場で別れる。

1人残っていた啓子のテーブルに、先ほど、警察署の前で出会った黒岩がやって来て名刺を手渡す。

その後、関興行にやって来た啓子は、1人留守番をしていた五郎と出会う。

誰もいねえよ。俺は数に入ってねえんだと答えていた五郎だったが、ここで密輸の宝石扱っていると聞いたので…と啓子が言うと、やっぱり俺はいない方が良さそうだと五郎は逃げ出そうとし、誰から聞いて来た?と聞く。

黒岩さんって言う新聞記者からと啓子が教えると、いくら取られた?と五郎が聞くので、5万円と啓子は答え、ボラレたなと五郎が嘲ると、だから、名前を言わない約束だったけど言ったわと啓子もすまして答える。

小島ってもにが取引に来たことがあるでしょう?自分は婚約者で、小島は父の金を持ち逃げしたのですと啓子は聞き、あんたみたいな人は刑務所に入れた方が良さそうねと呆れて帰りかけたので、そう言えば、ダチに聞いたことがある。そのダチの所へ連れて行ってやろうか?と五郎が親し気に近づいて来たので、あなた意外と良い人ねと啓子が感心すると、ムショに入れなくていいのか?と五郎は聞き返す。

許してあげても良いわと啓子は答え、そら、すまないね…と答えた五郎は妙に笑顔になっていた。

一緒に外に出た五郎は、あんた神戸は初めてか?と聞く。

大学時代に来たことがあると啓子が答えると、大学出か…と五郎は感心する。

まだ遠いの?トランク置いてくれば良かったと啓子が聞くと、五郎はそのトランクを持ってやり、面白い所知らないだろう?とあれこれ、神戸の遊び場を挙げて行く。

神戸って下品ねと啓子が言うので、上品な所が良いのか?寝るには最高だぜなどと五郎が言うので、あんたも下品ねと啓子は呆れる。

下品な方が面白えだろう?行こうか?面白い所…などと五郎はしきりに誘う。

元町で、顔の長いヤクザ(榎木兵衛)に会い話を聞いて観ると、学生に胸ぐらを掴まれ、頭どつかれたとそのヤクザは言う。

まあせいぜい、馬草でも食って精付けることだと言い残して五郎は啓子の元に戻って来ると、福原行ってみたらどうかって言ってたんだなどと遊郭の名を挙げて説明する。

しかし、啓子が相手をしないので、今から行くと面白いんだけどな〜と残念がりながら、次の証言探しに出かける。

水商売の女(石井富子?)に話を聞こうとした五郎は、俺と寝ようか?などと誘ってみるが、女は、ユカリはんに知られて良いん?と聞くので、知ってるのか、じゃあ止めたと断り、五郎は啓子の元へ近づく。

そんな五郎を見かけたのは、駒子だった。

見つかるかしら、そのお友達?と啓子は歩きながら五郎に問いかけていた。

五郎の話は当てにならないと感じているようだった。

畜生!東京に帰りたいな〜!と言い出した五郎は、真っ赤なジャガーを君に〜♪と「愛しのマックス」の替え歌を歌い出す。

東京ってつまんないと啓子は呟くと、それは俺がいねえからさと五郎は言う。

どうして神戸に来たの?と啓子が聞くと、関西旅行がしたかったからさと答えた五郎は、路上で啓子をしみじみと観察しながら、やっぱり神戸の女と違うな〜、懐かしいな〜、東京の匂いだなどと迫って来る。

バカね、人が観てるわ!と呆れる啓子。

そんな2人を尾行して来た駒子は、言いつけてやろうと言うと、側の公衆電話ボックスに入ろうとするが、そこに、見知らぬサングラスに口ひげの男がしゃがんでいたので驚く。

男は、ボックスを出て行くが、その後中に入った駒子は、床に落ちていた銃弾を拾い上げる。

五郎と啓子は、遊園地で遊ぶことになる。

そんな遊具に乗った五郎に銃を向けて構えていたのは、先ほどのサングラスに口ひげの男沢井(宍戸錠)だった。

その夜、五郎は、ホテル「シーサイド」に啓子を案内して来ると、ママさん(富永美沙子)に、最高の部屋を!と頼む。

ママさんは、変なことするんじゃないよ。あんたなんかと釣り合うお嬢さんじゃないよと五郎に囁きかける。

五郎に部屋に案内された啓子は、なかなか帰ろうとしない五郎に、どうしてここにいるの?と聞くと、あんたと寝たいからさと正直五郎は告白する。

あなたとは今日会ったばかりで、何も知らないわと啓子が呆れると、女はそうやって、いつも、付き合って誠意見せなくちゃなんて言うんだと五郎も反論し、あんた、小島と寝たことあるだろうと聞いて来る。

ないわと啓子が嘘をつくと、一応あんたを信じるけど、女はケチで、いつもびくびくしてやがる。こうやったらどうする?と啓子の腕を掴むと、ひっぱたかれる。

五郎は、まだ何もやってねえよ。じゃあ、本当にするぞと言いながら、抱こうとするが、啓子は無表情に何度もビンタして来る。

そんな啓子をベッドに押し倒したとき、ママさんが花を持って部屋に入って来る。

あんたもママさんもサイテーだよと言い残し出て行こうとする五郎に、あんたはどうなの?とママさんが聞くと、俺もサイテーだよと五郎は笑って帰って行く。

あれでも良い男なのよ。でもヤクザなのとママさんが言うので、あなた、私に何を?と啓子が問いかけると、何もない。あなたのような利口な方だから…、明日はおいしい朝食を用意しておくわと言い、ママさんも出て行く。

キー坊と待ち合わせた駒子は、歌を歌いながら、あの沢井の止まっているホテルの近くで見張っていた。

沢井が出かけたのを確認したキー坊は、部屋に入り込み、家捜しをするが、ユニットバスのトイレの水槽の中に隠してあった拳銃を発見する。

やっぱり、臭い奴が臭い所に臭いもんを隠しとった…とキー坊は嬉しそうに呟く。

一方、沢井は、港の突堤の揺り椅子にいつものように座っていた五郎に近づいており、それを尾行して来た駒子が観ていた。

公衆電話から、ホテルのロビーにいたキー坊に電話をかけ状況を知らせると、俺がタクシーで行くまで、お前が持たしとけと命じる。

何かあいつ、気味悪いもん…と尻込みをしていた駒子だったが、思い切って、突堤の所で腰を降ろしていた沢井に話しかける。

しかし、沢井は相手にせず、この次会ったら抱いてやろう。さあ、歩いて行くんだ!と言って駒子を遠ざける。

そこにキー坊がやって来て、上着の中の銃を突きつけながら、兄さん、両手挙げてもらおうか?と沢井に接近する。

そして、駒子には、モーターボートを探させる。

すぐに、ボートは見つかったので、駒子が操縦し、沢井とキー坊を乗せたボートは海に出て行く。

「六甲山中に怪死体」の記事が載っている新聞を顔にかけ居眠りをしていた五郎は立ち上がり、沖合を走って行くモーターボートを観ていた。

沖合に出た所でボートを停めさせたキー坊は、銃を沢井に突きつけながら、これは世界で一番好きな男やと、ホテルで見つけた五郎の写真を突きつけ、証拠は挙ってるんやと詰め寄る。

沢井は悪びれる風もなく、そうだ、殺しに来た。人を撃った奴は、いつかは自分も腹に弾を受けるんだ。因果応報、第一、もう五郎は生きていられねえよ。俺がやらなくても、又次の奴がやりに来る。俺は人間じゃねえ。金で動く殺し屋だ。坊やの玩具には、今度水鉄砲を買ってやろうなどとキー坊を挑発し、怒って隙を見せたキー坊の銃を奪い取ると海に突き落とす。

そして、海面で泳いでいたキー坊に数発銃弾を浴びせ殺害する。

その頃、ホテル「シーサイド」前で張っていた五郎は、ホテルから出て来た啓子がタクシーに乗り込んで走り始めると、横から飛び出してそのタクシーに勝手に乗り込む。

そして、無茶しなはんなと怒る運転手に、三ノ宮警察へと行き先を告げると、啓子には、君に土産をやるよと言う。

警察署前で、ばったり出会った宇須刑事に、五郎は新聞を見せ、この死体を白川さんに見せてやって欲しいんだと言うと、一緒にタクシーに乗せ、県警監察医務院、つまり死体置き場に向かわせる。

俺は神経質なんで、死体を観るのは嫌なんだと言い、玄関前で待つことにした五郎を残し、宇須刑事と啓子は、死体安置所で問題の死体と対面する。

それは小島の死体だった。

それを見た啓子は、確認して来た宇須刑事を無視して無言のまま建物を出る。

後を追って来た宇須刑事は、外で待っていた五郎に近づくと、お前、知っとったんやな?小島ってことを。やったのはどこの誰や?まさかお前じゃないやろな?と聞くが、五郎はいつものように、何も知りませんと惚け、それじゃあ、デートがありますさかいな…と言い残し去って行く。

啓子に追いついた五郎は、昔、銀座を歩いていた時、後から追って来た、その頃付き合っていた女が目の前で交通事故で死んだときの話をする。

知っている奴の死に顔と、知らない奴の死に顔は全く違うんだ。俺はそのまま行っちまったよ。

死んだらみんな良い人間になると言うのは日本人の悪い癖だ。悪党は死んだら地獄に行くに決まってるんだ。

俺だって少しは良い所あるだろ?だけど、死んだ小島って奴は、何もねえぜ。あいつが死んだのは日本のためだ。あんたは寝てねえって言うけど、俺は寝ていると思う、そう思うだけで頭に来ちまうんだ!とべらべらと五郎は話しかけて来る。

俺はあんたと寝てえんだよと五郎が迫ると、あなた、女に寝たいとしか言えないの?と啓子が問いかける。

上品に言えば、好きだってことさ。女っていつももったいぶりやがる。好きか嫌いか、今日中に決めてくれないかな?などと五郎がしつこく迫ると、神戸って、面白い所たくさんあるって言ったわね?昨日言ってじゃない。連れてって、たった今から、早く!と啓子は真顔でせかして来る。

啓子は五郎と一緒に、洒落たホテルで踊り始める。

チークを踊った後、五郎は部屋のキーを受け取るが、その時、宇須刑事がいることに気づきしらける。

宇須刑事は、無粋を詫びながらも、3分借りまっせと啓子に言うと、五郎を部屋の隅に連れて行き、割れた成田山のお札の付いたペンダントを見せる。

キー坊が殺されたんや。体中蜂の巣のように撃たれて港に浮いとった…と教えると、五郎は握っていたコップを握りしめて割ってしまう。

辛いやろ?やるんやろうな?相手を捜し出して、この手で…、今度やったら現行犯で、俺がワッパかけてやるでと宇須刑事が警告すると、期待はずれさ。死んだ奴が生き返る訳じゃなし…、今の俺にはそんな暇はねえんだよ。色濃いのチャンスは二度とないって言うからよと言い残し、待っていた啓子と共に、ホテルの部屋に向かう。

部屋に入った啓子は電気を消し、好きよと言いながら五郎とキスをする。

五郎は、啓子をベッドに押し倒すが、待ち構える圭子に対し、何か困ったような顔になった五郎は、俺帰る!と言い出す。

どういうこと?私に恥をかかせるつもりでこんなことをしたの?と啓子が聞くと、今晩はダメなんだ。これからしなくちゃいけない事があるんだと言いながら、五郎は後ずさりし始める。

啓子はベッドの上で服も下着も脱いで挑発して来るが、それを哀しそうに見つめた五郎は出て行ってしまう。

啓子はベッドの上に横たわり、外に出た五郎は、しばし呆然とした表情で煙草をくわえると、非常口から外に脱出する。

案の定、ロビーで張っていた宇須刑事の姿を外から確認した五郎は、そのまま夜の港へ向かう。

そこにあったモーターボートの中を調べた五郎は、破り捨てられていた自分の写真の裏に「銀の鍵」と言うホテル名が書かれているのを発見する。

沢井の部屋に乗り込んだ五郎は、そこに下着姿になった駒子がベッドにいるのを知ると、今助けてやる!と言い、沢井を殴りつけると、てめえ、鹿島組から来やがったな?何で、関係ねえキー坊をやりやがった?!と言いながら殴りつける。

床に倒れ、五郎から銃を向けられた沢井は、やるのか?俺を…と聞く。

五郎はやる!と言い、消音用に、枕を銃の前に構える。

俺をやっても、後から誰かやって来るんだ。お前は鹿島組から狙われていると思っているだろうが、自分の組からも狙われているんだ。敵の親分を殺したてめえは邪魔になるだけだからな。てめえはもう、行き場所がないんだ。哀れな野郎だ…と沢井が言うと、次の瞬間、五郎は何発も発砲し、懐中時計を持って倒れていた沢井を蜂の巣にする。

そして、駒子を連れ、ホテル「シーサイド」にやって来た五郎は、心配して出迎えたユカリに、カタをつけて来たと告げると、ママさんに駒子を預けて出て行こうとする。

行くあてはあるのかい?とママが聞くと、そんなもんあるわきゃないと言うので、ママさんは、南京町の店に隠し部屋があるからそこに連れて行くんだとユカリに頼む。

後は何とかするからと、2人を送り出したママさんは、どこかに電話を入れる。

数時間後、隠し部屋にやって来たママさんは、昔なじみに船の長さんがいるので、密航させてもらうことにした、取りあえずマニラに…と言い、五郎とユカリに、割り符を1枚ずつ手渡す。

五郎は、俺は甘えさせてもらうが、ユカリは…と困惑するが、当のユカリは、連れてって!と哀願して来る。

五郎は怠け者で、自分の始末も出来ない男だけど、面倒観るんだよとユカリに言い聞かせたママさんは、五郎とユカリの手を繋いでやる。

ベッドから立ち上がった五郎は、ママさん、世話になったな。いつかこの恩返しはさせてもらうぜと言いながらも、どこか表情は硬かった。

そんな頃、三ノ宮駅に降り立ったのは大沼だった。

大沼は、田辺と一緒に「シーサイド」に来ると、帰っていたママさんに、五郎をこのままここに置いといちゃ危ないので協力してくれと頼みに来るが、ママさんは、いつも東京に帰りたがっていましたよ、一体どこに行ってるんだろうね?ととぼける。

帰って来たら知らせてくれと田辺が頼み、2人が帰って行くと、すれ違うように宇須刑事がやって来る。

今の連れは東京の組のもんか?五郎を殺しに来たんやとカマをかけて来るが、ママが何も答えない事を知ると、カウンター席にいたユカリに近づき、どうした震えてるやないか?五郎があないなことになったさかいな。五郎の奴諦めた方がええで…と言葉をかけ帰って行く。

そのカウンターの内側には、旅行準備をすませたトランクが置いてあった。

ホテルのロビーで、松浦五郎が指名手配になったと書かれた新聞を呼んでいた啓子の元に、従業員が、飛行機の切符が取れたと知らせに来る。

旅行代理店で航空券を受け取った啓子は、空港行きのバスに乗り込もうとするが、途中で気が変わったのか、止めますと言い降りてしまう。

バスはそのまま出発し、町をぶらついて港にやって来た啓子が橋を渡っている時、横を走り過ぎかけていた車が止まり、中から、サングラスをかけ、ハンカチで口元を覆った五郎が降りて来て、見つけた!会いたかった!と寄り添って来る。

啓子も無表情に、良かった…、あなたに会えて…と答え、新聞読んだわと教える。

新聞読む奴なんてバカだ。他人のこと知ってどうなる?関係ねえだろと五郎は吐き捨てる。

そして、お前マニラ行かないか?と急に言って来る。

啓子は戸惑い、行くならパリが良いわなどと答えるが、パリなんて暑くて寒くて、人間はお高くとまっているし…などと五郎は悪口を言い出す。

マニラはどうなの?と啓子が聞くと、マニラは良いさ。一年中夏さと言うので、暑いじゃないと啓子が言うと、ここだって暑いじゃないか。まさか人間が死ぬことはないよなどと五郎は答える。

誰が行くの?と啓子が聞くと、俺たちが行くんだと答えた五郎は、2枚の割り符を取り出して見せると、船の切符みてえなもんだ。きれいだろ?恋人同士みてえだろと啓子に話しかける。

人を殺したときの気持ちってどう?といきなり啓子が聞くと、もう分からねえ。そりゃ、怖かったさ。死ぬか生きるかだぜと五郎が言うので、じゃあ、警察は?と聞くと、あれは別だよ。どかんと壁にぶつかるようなもんさ。壁は壊れない。退屈するのが怖いんだ。壁の中で何もしないのが怖いんだと五郎は答える。

そして、公衆電話で、「シーサイド」を呼びだすと、最初にママさんが出たので、ユカリに代わってもらった五郎は、俺のことは心配いらねえよ。お前と一緒では危ない。時間稼いで出て行く。俺が迎えに行くまでそこにいるんだぞ。出航は遅れるとよと噓を教える。

その会話を聞いていた啓子は、隣の電話からどこかに電話をかける。

電話が終わった2人は港に停泊していた大きな外国船に向かって歩いて行く。

マニラに出航だ!向こうに行けば、良いことあるぜ。好きな奴と2人で住むのが夢だったんだ。もう、ヤバいこと止めた!などと1人ハイテンションでしゃべりまくる五郎。

しかし、それを無表情な顔で聞いていた啓子は、私、行けないの。行かないのよ、私…と、急に言い出す。

気でも狂ったのか!と五郎が驚くと、行けなくなったの、あなたも…。私ってバカね。あなたを愛してしまいそうになったの。そしたら怖くなったの…。電話したわ、警察に…、聞こえるでしょう?もうすぐ来るわと啓子が言うので、唖然とした五郎は、もう一度言ってくれ!好きだったんじゃなかったのか?と聞く。

あなた言ったでしょう?女は違うのよ。好きなのよ…、でも一緒に暮らすのは溜まらないわと答えた啓子は、警察が来るのよ、逃げないの?今ならまだ間に合うわと逆に聞く。

おめえに裏切られたらお終えだな…。もう逃げるのは止めたよ。あばよ!いつか好きな男が現れたら、すぐに寝るんだなと言い残し、五郎は1人で船に向かおうとする。

そこにパトカーが到着し、宇須刑事ら刑事と警官が降りたって、五郎に止まるよう命じるが、五郎は銃を向けて撃って来る。

その時、出航を知らせる汽笛が聞こえて来る。

仲間の刑事が五郎の脇腹を撃ち抜く。

五郎は苦しみながらも、まだ銃を手放さず、後ずさって行くので、宇須刑事はやむなく発砲する。

倒れた五郎は、口笛を吹きながら、自分で帽子を顔にかぶせた後、息絶える。

側には2枚の割り符が落ちており、帽子のリボンには、首都高速の回数券が挟まっていた。

波止場の突堤に置かれた揺り椅子には、もう誰の姿もなかった。

啓子は、その場から静かに立ち去って行く。