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鑑賞用男性

ファッションをテーマにした、ファンタジックなラブコメ映画。

タイトルロール部分に「帰国第一回作品」と書いてある所から、有馬稲子さんがヨーロッパ旅行から帰国して来た直後の作品だと分かる。

親戚同士で、昔から密かに心惹かれているくせに、互いにプライドが高いため、意地を張り合って、本心とは裏腹にツンツンしあってしまうが…と言った、良くあるすれ違いパターンのラブコメである。

テイジンが全面協力しており、ファッションショーの場面では、一々、テイジン提供の素材を紹介していたりする。

ここで言う観賞用男性服と言うのは、一般的な男性用のカジュアルファッションだけではなく、スーツに代わる全く新しい感覚のフォーマルウエアも含むと言う所がミソで、何だか、古代劇に登場するキトンを連想させるような上着に、腰巻きと言うかスカートを組み合わせると言った奇妙なシルエットのデザインの服を、国会議員やサラリーマンが公の場で来ていると言う珍妙さが、前半のお笑い要素になっている。

確かに、男性のフォーマルと言えば、ある時代からずっと、スーツにネクタイにほぼ固定している事は事実であり、それを覆そうと言うヒロインの趣旨は真っ当だが、あまり実用性を重視したデザインにしてしまうと、映画的な面白みに欠けると言うことで、わざと受けを狙った極端なデザインにしているのだろう。

政治家のように、基本、座っているだけだったらまだ様になっているが、さすがに町中までも動き回る仕事には適していないような気がする。

ただ、それも、普段見慣れてないからそう感じると言う部分もあるかもしれず、国民全体が一斉にファッションを換えれば、それはそれで慣れて来るかもしれない。

何十年も代わり映えのしない男性服の保守性をからかう反面、この作品では、移ろい易いファッションに振り回されている女性たちをも皮肉っているように見える。

特にこの当時は、ファッション=フランスのパリと言ったイメージが強かった時代で、そうした「パリかぶれ」「外国崇拝」をも皮肉っている。

最近でも「パリコレ」と言う言葉はあるようだから、今でもパリがファッションの中心地なのかも知れないが、何を言うにも、二言目には「おフランスでは」と言って気取る当時の一部女性層等のパリかぶれは鼻持ちならず、60年代の子供マンガ「おそ松くん」に登場したイヤミなども、そうした種族を皮肉ったキャラクターだったように思う。

ヒロインと文二郎と言う、 2人の我の強い男女を登場させ、そうした当時の男女双方のダメな部分を批判し合うと言う趣向は面白い。

途中に挿入されるアニメや、イメージ映像の部分も楽しく、野村芳太郎監督の若い頃の器用さがうかがえる作品になっている。

女子大生兼モデルとして、吉村実子の姉である芳村真理さんが出ているのも見所。

後年、テレビの人気歌番組「夜のヒットスタジオ」の司会等でも知られた方だが、この当時は、モデルから女優に転向した直後だったようで、モデルの役は慣れたものだったはず。

新人なので芝居は特に巧いとも思えないし、顔も妹さん同様、いわゆる正統派の美人と言う感じではなく個性派なのだが、妹の実子さんのようなギラギラした部分がなく、女優としては、好き嫌いがはっきり分かれそうなタイプのように見える。

ヒロインのお相手役を演じている若き日の杉浦直樹や、全編、奇妙な服を着て気取った芝居をしている仲谷昇などの姿を観るのも面白い。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1960年、松竹、中林洋子原案、水沼一郎脚本、野村芳太郎監督作品。

セットで作られた家の窓から顔を出している人気デザイナー芦谷理麻(有馬稲子)は、女性の真の美しさを見いだせるのは男性だそうです…と、画面に向かって演説を始める。

私は、女性も男性の美を見出せると信じ、ここに鑑賞用男性を提唱します。

殿方のおしゃれは、中国から紅白粉が伝来した時から始まっています。

戦国時代になると、出陣の際には香を焚き、緋威の鎧に身を固めました。

江戸時代には、庶民を刺青を入れ、美を競いました。

現代の殿方も、斬新で美しい服を楽しまれてはいかがでしょうか…

(合成を加えた大胆なタッチのアニメをバックに)タイトル

8月9日、羽田空港に降り立ったスカンジナビア航空機で、3年振りにフランスのパリから帰って来た芦谷理麻を出迎えたのは、「広報堂」の先代未亡人芦谷松子(細川ちか子)、現社長芦谷桜子(楠田薫)とその社員たちであった。

同機には、前衛芸術家の桑村麻朱麿(三井弘次)も乗っており、2人は空港内で、待ち構えていたモード記者たちに写真に撮られた後、インタビューに応じる事になる。

続いて出演したテレビ番組では、司会の三木鮎郎(本人)相手に、観賞用男性論を展開する理麻。

そんな理麻の様子を、祖母の松子や母親の桜子ら親族一同は、芦谷家のテレビで鑑賞していた。

母親の桜子は祖母の松子に、そろそろ理麻の結婚の心配をしなければいけませんねなどと話していた。

そんな中、1人、面白くなさそうに、ミニチュアビリヤードをやったり、釣り堀の真似をしてテレビから目をそらしていたのは、理麻の姉原理恵(日比野恵子)の夫原雅太郎(仲谷昇)の弟、原文二郎(杉浦直樹)であった。

パリモードか…とバカにしたような事を言っていた文二郎だったが、注意されたので、渋々テレビの前に来て、一緒に大人しく、理麻の番組を観る事にする。

芦谷理麻モード事務所で、雅太郎用の観賞用男性服を着せながら、文二郎さん、うちの会社に入ったんですって?もう随分会ってないわなどと聞いていた。

テレビでは、桑村麻朱麿が草月会館で前衛パフォーマンスを披露していた。

大きな毛筆で一気呵成に文字を書くと言うもので、彼が披露した字の意味を聞かれると、ポワッソンルージュ、金魚です!と答えたので、それを観ていた理麻は、そうだ!とひらめく。

革新党北尾稲太郎(石黒達也)の為に、闘争的な赤を基調とした服をデザインした理麻は、議員秘書たちにも、革新党は黒を基調にした服、保守党は剣道着をヒントにした服を着せ、闘争心を煽る事にする。

(幻想)そうした両派の秘書たちが入口を固める中、始まった予算委員会では革新議員は赤、保守党議員は白の衣装をまとい、意見を戦わせる事にする。

もちろん、予算委員長(左卜全)も総理大臣(渋谷天外)も、古代ギリシャやローマ時代を彷彿とさせるような衣装を身に纏っていた。

議論が紛糾し出したので、秘書たちが会場になだれ込み、剣道着に似た服を着た保守党秘書たちが、首相を部屋の外に連れ出して行く。

(幻想開け)自宅に戻って来た理麻は、部屋の中央に立てたガラスに思いつくまま色を塗って、次のショーのデザインを考えていた。

そこに、母親の桜子が、出来たの?ショーのデザイン?と聞きに来たので、理麻はガラス絵を見せ、「虹 ボン!」と叫ぶ。

理麻のファッションショーでは、桑村麻朱麿が進行役をやっていた。

最初のモデルは、入江美樹、次いで木村洋子、松田和子、高島三枝子…と続き、その次に登場した学生モデル園村亜矢子(芳村真理)は、会場に観に来ていた雅太郎と文二郎に向かって髪をまるめたものを投げつける。

文二郎が拾って拡げると、「今日の私、きれいだろ? ほれろ」と書かれていた。

最後の女性モデルは河原日出子で、次いで、観賞用男性服が披露される。

胸毛を強調したスケスケルックや、バーの女性にモテる服等、数種類の奇抜なファッションが披露される。

大学の原雅太郎の授業を受けていた園村亜矢子は、授業が終わると、全学連は滑稽だねなどとタバコを吸いながら男子学生とおしゃべりすると、教室の外で雅太郎と一緒だった原文二郎を誘って、謡曲研究会に参加する。

一方、自宅にいた理麻は、用意された夕食にも全く手を付けず、2階の部屋で野球チームのユニフォームをデザインできず悩んでいた。

それを聞いた祖母松子は、鑑賞用男性服を広報堂のユニフォームにしたらどうだろう?と言い出し、今までのPRバッジだけじゃ物足りないと思ってたと、2階の理麻に伝えると、理麻は乗り気になる。

それを知った社長である桜子は、会社の専務である夫の梅二(十朱久雄)に、すぐに実行するよう命じる。

気の弱い養子の梅二は困った顔になるが、松子は、広報堂は、おじいちゃんが鹿児島から上京し、10間の煙草問屋から始まった会社だが、おじいちゃんは真っ赤な衣装に真っ赤な天狗の面を自らかぶり町を練り歩いき、それが評判になり問屋は繁盛し、今日を築いたのだと説明を始める。

翌日、会社屋上の朝礼の席で、桜子は社長訓辞として、社長の次女芦谷理麻が提唱する観賞用男性服を、我が社のユニフォームにすると発表し、脇に控えていた専務を中央に呼び寄せる。

すでに上役用試作服を着込んでいた梅次と、もう1人社員用試作服を来た社員が前に登場すると、スカート型のユニフォームのあまりの珍妙な格好に、社員一同大笑いする。

社員の中にいた文二郎は、反対!と声を挙げるが、社長の桜子は、現代はオールPR時代である!と主張する。

部署に戻って来た文二郎は、あれじゃあ全体主義の再来だよと腐るが、他の社員らから、一族としてどう思う?と聞かれたので、おかしくて着られるか!ああ言うのは鼻持ちならない!と文句を言う。

部署内には、いまだに神棚が祀られており、部長が手を合わせている姿を横目に、我が社の伝統である知性あるバーバリズムをなくなしかねないと社員たちは不満たらたらだった。

その隣の社長室では、常務(上田吉二郎)が、新しいユニフォームを着せられていたが、あまりに太っているため、なかなか巧くスカートがはけず、悪戦苦闘していた。

それを見かねた専務の梅二は、実はコルセットをはめている事を明かしたので、常務は自分もこの年でコルセットをしなければならないとは…と愕然とする。

その時、隣の部署から、これはファシズムだ!とか、知性あるバーバリズムをなくす事だ!などとシュプレヒコールが聞こえて来たので、社長室から出て来た理麻は、それを言っていたのが文二郎だと知ると、嬉しそうに近づき、この前会ったのは、あなたが学生時代だったかしらなどと嬉しそうに話しかける。

すると、文二郎は、他の社員たちの手前、立場がないので、観賞用男性服反対!と叫び逃げ出して行く。

結局、広報堂社員たちは、否応なく、奇妙なスカート型のユニフォームを着ざるを得なくなり、出勤途中でキ○ガイ扱いされたり、笑われるので、みんな恥ずかしがって、タクシーで出社すると言う事態になる。(俺たちゃピエロ〜♪哀しいピエロ♪と自虐的な歌が重なる)

バーに集まった社員たちが肩を落としている中、文二郎だけはスーツ姿のままで、やっぱり背広は良いねなどと笑っていた。

そんな社員たちを前にしたママ(小林トシ子)は、でも、社長の狙いは当たったわね、今じゃ、その服着ている人は広報堂の社員って、みんな分かるようになったんだからなどとからかう。

重役も大変だよと社員の1人が呟く。

(常務が、あんまり妙な服を着ているので、夫婦喧嘩の末、奥さんに逃げられるエピソード映像)

恋人に振られたと鳴きながらバーにやって来る社員(喫茶店で落ち合った恋人が、スカートを履いているその社員に怒り、出て行ってしまう映像)

ガード下の飲み屋に河岸を変えた文二郎は、組合の幹部もユニフォーム着てるんだから…と諦め顔に仲間に対し、第二組合を作って戦うしかないか!と気勢を上げる。

みゆき(桑野みゆき)司会のテレビ番組に出演していた理麻は、赤ちゃんの時は男も女も同じように可愛い。女はその後、毛虫が蝶になるように美しくなるのに、男は毛虫のままなでしょう?などと鑑賞用男性論を主張していた。

みゆきは、理麻さんには、男性ファッションばかりでなく、若い女性にも新しいモードを発表して欲しいのと提案する。

そのテレビ局の喫茶室のカウンター席では、文二郎が、兄、雅太郎の番組スポンサーと話し合いをしていたが、そこに、収録を終えた理麻とみゆきがやって来て近くのテーブルに座る。

理麻は、そこに文二郎がいる事に気づかず、女の人に比べて男性は遅れているわねなどと悪口を言っていると、それを耳にした文二郎は、聞こえよがしに、ああ言うのが鼻持ちならない代表みたいですよねなどとスポンサーに向かって話し、コーヒーに添えられていたフレッシュミルクを理麻のテーブルのコーヒーカップの中に放り投げる。

それに気づいた理麻は、今時、謡が趣味等と言う古い人がいますなどと当てつけを言いながら、同じようにフレッシュミルクの容器を文二郎に投げ返す。

義理の兄弟ってことになるのかな?と文二郎の事を指摘した理麻は、このスッパッパの風船野郎!などと罵り出す。

そこにやって来たのが雅太郎と理恵夫婦で、理麻と文二郎が言い争いをしているのを観て驚きながらも、雅太郎は関わらないようにしながら、スポンサーに会う。

文二郎がぷんぷんして帰って行ったので、雅太郎と一緒に来ていた妻の理恵は面白がり、後を追いかけて行く。

雅太郎と理麻は、その後、町に出かけ、先日服を作ってもらった礼をしたいと言う雅太郎は、理麻に真珠のネックレスを買ってやると言い、理麻のイニシャル「R」を彫り込んでもらう。

文二郎の方は、オレンジ色の海水パンツ姿になり、プールで泳いでいたが、プールサイドに上がった所で、若いビキニ姿の女に見とれている所を、近づいて来た理恵に押され、プールに落ちてしまう。

理麻は、その後、洋画に誘われ、上映中の館内で先ほど買ってもらったネックレスをつけてもらうが、ずっと浮かない顔をしているので、どうしたんだ、ツンツンしてと雅太郎が聞くと、新しい女性用モードを考えてるんだけど浮かんで来ないの…と打ち明ける。

それを聞いた雅太郎は、君には女性服は無理だろうね。恋愛経験ないので、甘さがないものと指摘する。

映画館帰り道、理麻は、パリの思い出を語り出すが、雅太郎は、僕が恋人役のスタンドインになってやろうか?と声をかけると、お義兄様、どっか踊りに連れて行ってと理麻はねだる。

2人はダンスホールへ行くと、理麻はドレス姿になって雅太郎と踊り出す。

気がつくと、店内に文二郎と理恵も来ていたので、4人は同じテーブルに腰を降ろす。

しかし、文二郎と理麻は、互いにそっぽを向き合っているので、理恵はそんな2人をフロアに押し出し、無理矢理一緒に踊らせる。

今の踊りなんて出来ないとごねる分二郎に、何なら踊れるの?と理麻が聞くと、チャールストンだと言うので、1920年代ねと理麻は呆れる。

(チャールストンを踊る文二郎の映像)

コサック!(コサックダンスを踊る文二郎)

ボロネーズ!と文二郎が言うと、まるで鹿鳴館ねと理麻は言い、メヌエット!と文二郎は続けるので、保守主義もそこまでいけば立派だわ…と褒め、自分はチャチャチャを踊り始める。

理恵が文二郎の腰を押して理麻の側に行かせたので、仕方なく、文二郎も一緒にチャチャチャを踊るはめになる。

ダンスホールからの帰り、今日は楽しかったねと雅太郎が言うので、まるで恋人同士ねと理恵が笑うと、だめね、本物じゃないと…と理麻は不満そう。

実験用恋人って訳ねと理恵が笑うと、文二郎は、それじゃモルモットじゃありませんか!と急に怒り出し、先に帰ってしまう。

バーに来た文二郎は園村亜矢子と飲むが、悪酔いしており、ママ、俺、モルモットに似てませんか?などと店のママに絡むと、断固闘争だ!観賞用断固反対!第二組合作って戦います!などとわめき出したので、亜矢子も、協力するわ!と言い出す。

翌日、第二組合を作り、ハンストを決行すると言う貼紙が掲示板に貼られたので、女房に逃げられてしまった常務などは、成功するように祈ってるよと応援してくれ、社員たち全員も第二組合に入ると賛成する。

こうした動きを知った松子は、創業50年、始まって以来の不祥事ですよ!と自宅で嘆く。

理恵も、身内から出た事は身内で解決したいわと頭を抱える。

そんな中、2階では、アイデアが出ない理麻が、氷嚢を頭に乗せ、食事もとらずに悩んでいた。

部屋に来た理恵に、下で何してるの?と理麻が聞くと、文二郎さんの事よ、仲直りしなさいよ。芦谷家の名誉に関わることだわ…と理恵は勧める。

しかし、ユニフォームに反対するなんて私のプライドが許さない!何としてでも着させてみせるわ!と理麻は言い出す。

ある日、謡曲研究会の一環として、宝生流学生能大会を観ていた文二郎の横の席に、いきなりやって来て、偶然ね等と言いながら座ったのは理麻だった。

その服シックだわと理麻が褒めると、親父がロンドンで作らせたらしいと文二郎もまんざらでもなさそうに答え、理麻さん、能なんて観るの?と驚く。

松風って良いわねと舞台を観ながら理麻が言うと、羽衣です!と慌てて文二郎が訂正する。

松が飾ってあるって言ったのよとごまかした理麻だったが、その時突然、何かインスピレーションを得たような顔になる。

その後、文二郎は、親父の名義で入れたと言う会員制のレストラン「ウィンザー」に理麻を誘い、一緒に食事をすることにする。

文二郎が、あんな思いつきのデザインでは、こんな所に入れませんよと嫌味を言うと、女性は男性に対して劣等感を持っています。だから流行を追うんです。流行と言うユニフォームに頼るんです!と持論を展開し出す。

全くそう!と賛同する理麻だったが、デザインのイメージが湧いた安堵感からか、旺盛な食欲を見せ、文二郎を驚かせる。

その後、2人は、町をデートするが、フランス風コ○キに出会うと、日本人は舶来に弱いんですと、文次郎は又持論を述べ出す。(画面はアニメになる)

パリコンプレックスに犯されている。モードの中にモードしか観ない…、これはバルザックの言葉ですなどと文二郎が意見を述べると、パリモードから抜け出さないと来年の流行も決められない!パリモードに捕われない女性服を考えるわと理麻も同調し、意見合ったわね!と笑顔を見せながら、それで…、あれ着てよと、会社のユニフォームを着るようにねだる。

バーにやって来た理麻は、なおも、あなたが納得する文二郎服作るからさ〜…と甘えてみせ、2人はいつしかキスをしていたが、そんな2人の様子を、見せにいた園村亜矢子はジッと観察していた。

翌日、文二郎は、会社の屋上で、理麻に命じられるまま、色々なポーズを取って写真に撮られていた。

それを観ていた社員たちは、だらしないぞ!ばかやろう!第二組合の闘争はどうなるんだよ!などと罵倒して来る。

それが資本家の策略なんだよ。彼女がお前に近づいた理由は、服しかないだろうが!と文二郎に社員たちは迫る。

一方、現像できた分二郎の写真を何枚も自宅の部屋の壁に貼った理麻は、夜中の3時に描き上げたスケッチを持って、ベッドで熟睡中だった寝入っていた文二郎に見せに行く。

羽衣、八島、鞍馬天狗など、能からインスピレーションを受けた新しいモードのスケッチを見せられた文次郎は明らかにバカにしていた。

文二郎用に描かれた観賞用男性服も、会社で仲間たちから聞かされた忠告を思い出した分二郎は拒否したので、理麻は、石頭!と言うと泣き出したので、騒ぎを聞きつけた雅太郎 、理恵夫婦が覘きに来るが、自分の部屋に帰った理麻は、壁に貼ってあった分二郎の写真を、フェンシングの剣で斬り裂いてしまう。

翌日、文次郎は会社の外で、第二組合の代表として気勢を上げる。

その前には、全学連の鉢巻きを締めた園村亜矢子ら女子大生数名も加わり、応援の踊りを踊っていた。

そこにやって来た理麻は、文二郎さんを取締役に決めたので、すぐに解散を命じます!と告げるが、文二郎は、要求貫徹まで頑張りますよ!と抵抗したので、理麻はその場を立ち去るしかなかった。

それを、社長室から苦々しく見下ろしていた社長の桜子は、ストライキなんて、何て不祥事なんでしょう!と嘆いていた。

身内と言っても、示しがつきませんと松子が言うので、泣いて馬謖を斬りますか?と桜子は言い出し、札幌支店に転勤させますと決断する。

園村亜矢子の自宅マンションにやって来た文二郎は、亜矢子がヨガをしているので驚くが、インド哲学の論文を書かなくてはいけないのと亜矢子は説明する。

文二郎が、北海道に転勤になった事を打ち明けると、しばらく理麻さんに会えなくなっちゃうのね。彼女に惚れてるの知ってるんだからと亜矢子は指摘する。

でも、僕には僕の主義があるから…と文二郎が言うと、それが文ちゃんのミリキなんだな…と褒めた亜矢子は、良し、助けてあげる!理麻さんに、文ちゃんの事話してあげるよと言い出す。

そして、冷蔵庫からリンゴを出して文二郎に渡すと、お別れのキスをして!とねだり、目をつぶるが、文二郎は、亜矢子の額にキスをしただけで帰って行ったので、イヤン!もう…と亜矢子が悔しがる。

理麻の新モード発表会の日、モデルとして参加した亜矢子は、博士号か車の免許、どっちを早く取るか…などと理麻が自分に着せられた衣装のチャックをしているとき話していたが、いきなり、でんでん虫が!と側にあった植木を指差しながら卒倒してしまう。

その頃、理恵は、文二郎が札幌へ向かう旅行の準備をしているのを自宅で手伝っていた。

理恵は文二郎に、理麻ちゃんが好きなんでしょう?と確認する。

一方、理麻の方は、気絶した亜矢子を彼女のマンションまで送って来ていたが、亜矢子は突然、先生、長い間お世話になりました。私は、文ちゃんと一緒に北海道に行きます!と言い出す。

文ちゃん、その事知ってるの?と理麻が聞くと、友達くらいにしか思ってないの…と亜矢子は打ち明ける。

大学もモデルも諦めるの?と理麻は確認し、亜矢ちゃん、あんた、偉い!そうしなさい。ついて行きなさい!と言い出したので、あっけにとられた亜矢子は、でも、文ちゃんが好きなのは先生なんですものと答え、私も考え直さないと…と呟く。

その頃、自宅のベッドに寝転び、ピストル型ライターで煙草に火をつけていた文二郎の方は、分かっちゃいないな〜…と義姉の言葉を否定していたが、誰かいるの?とエミが聞いていると、そこに亜矢子がやって来て、本当に文ちゃんの事が好きなら、どこまでも付いて行きなさいって…と理麻の言葉を伝えたので、昨日の約束どうなるの?と文二郎が聞くと、心境の変化!と亜矢子は答える。

その後、理麻の能をテーマにした新モードの発表会が開かれる。

鞍馬、羽衣、隅田川…、次々にモデルがステージに登場する中、楽屋にいた理麻に文二郎から電話が入ったので、今忙しいのよ!と理麻は苛つきながらも、明日出発するんですって?亜矢さんから聞いたわ。私もアフリカを廻るわ。せいぜい、亜矢子さんと仲良くなさいませ!と嫌味を言うと、文二郎の方も、あんたも人食い人種に食われれば良いよ!と言い返し、電話を切る。

亜矢子の出番が近づいたとき、彼女の側にでんでん虫がいたので、理麻は焦って隠そうとするが、亜矢子は、あれ噓なの。先生と2人きりになりたかったら…。北海道に文ちゃんと行くのも噓なの…と打ち明ける。

そんな亜矢子に、理麻は、ファッションモデルとして最後の出番よと声をかけ、ステージに送り出す。

その場にいた理恵は理麻に、あんた、本当に文ちゃんの事、好きじゃないの?と念を押す。

ステージでは、八島、黒塚…と、次々と能をテーマにしたモードを着たモデルが登場し、亜矢子は紅葉狩りをテーマにしたモードで登場する。

最後に、理麻自身がステージに登場するが、その表情は浮かなかった。

突如、そうだ!と叫んだ理麻は、ステージを飛び降りると、会場を抜け出し、隣のホテルの玄関に止まっていたタクシーに乗り込もうとするが、タクシーが気づかずに走り出したので、ヒールを脱ぎ捨て手で持つと、その後をドレス姿のまま追いかけ始める。

自宅に帰って来た理麻は、文二郎さん、まだ?とお手伝いに聞くが、お帰りになっていませんと聞くと、そうと言ったまま落胆する。

そして、文二郎の部屋に入った理麻は、タンスを開け、中に吊られていた文二郎のスーツの匂いを嗅ぐ。

そして、部屋中に、過敏に飾ってあった花をばらまき出す。

その後、酔って帰宅して来た文二郎は、部屋に入るなり、コレクションして置いていた飛行機の模型全部に、花が飾られている事に気づく。

タンスを開けると、中に理麻がしゃがみ込ん入っていたので、何してるの?と聞くと、手を差し伸べて文二郎に抱きついて来た理麻は、私、うれしい!私、やっと分かったのよ!私、あなたを好き!と叫ぶ。

それを聞いた文二郎は、もう1度と聞き返すと、また、好き!と理麻が答えたので、また、もう1度!と文二郎が聞き返すと、結婚して!と言ったので、文二郎はその場に気絶してしまう。

その文二郎に理麻がキスすると、文二郎はやさしく理麻を抱きしめるのだった。

かくて、目出たく結ばれた2人は、新婚旅行でアジアを廻る事になり、羽田空港に来ていた。

文二郎は、あれほど嫌っていた、観賞用男性服を来て、理麻の横に立っていた。

その心変わりの理由を記者たちから聞かれた文二郎は、芦谷家は名だたる母系家族ですし、惚れてるんだから仕方ないと答える。

横で聞いていた理麻も、君子は豹変するのよと解説する。

芦谷一家や広報堂社員たち一同、さらに桑村麻朱麿も見送る中、2人が乗り込んだスカンジナビア航空機で飛び立って行く。

それを見送った理恵は、理麻さんからもらったのよと言いながら、首にかけた真珠のネックレスを雅太郎に見せびらかす。

理麻さんのRの字が入っているんだねと雅太郎が言うと、そうよ、あなた!と言いながら、雅太郎の尻をつねった理恵はさっさと立ち去って行くのだった。

映画館のイラストの客席の位置に、終の字が並んでいる。