TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

月曜日のユカ

加賀まりこと言えば、この作品の名が挙るほど有名な作品。

60年代、松竹での作品が多かった彼女だが、この作品は日活の中平康監督が、生意気盛りの彼女特有の魔性とも言うべき個性を、乾いた感性で浮かび上がらせた印象的な作品になっている。

母親がオンリーだったせいか、主人公であるユカ自身も幼い頃から性に対する道徳観念がなく、母親と同じような二号生活を、あっけらかんと抵抗なく受け入れている娘と言う設定がまず興味深い。

母親同様、娘であるユカも又、愛情とセックスの区別がついてないのだ。

つまり、男にとっては大変都合の良い女と言うことになる。

彼女にとっての愛情とは、性的に男にサービスする事であり、そこに何の疑いも抱いてない。

ただ、その考え方と同じ事を、後半彼女はパパから言われてショックを受けると言う皮肉が待っている。

彼女は教育はあまり受けていないようだが純である。

無学で純である上に、若くて根っから明るい性格なので、自分の考え方や行動が世間的には異端であると言うことにすら気づいてない。

だから、家族サービスの意味さえも理解できず、はき違えてしまう悲喜劇を生む。

そんな彼女が本当に傷つくのは、自分が精一杯愛情を注いで来たつもりのパパから裏切られる事と、自分を心底愛してくれた恋人の死である。

傷つく事で、彼女は、それまで自分が信じ込んで来た「愛」と言うものが別物だったのではないかと気づく。

ラストの彼女の複雑な表情はその現れだろう。

彼女は、傷つく事で何かを学び、成長するだろうか?

それとも、母親と同じ哀れな人生を繰り返すのか。

彼女が、本当に良い男性と出会える事を祈るのみである。

それにしても、ユカの母親を演じている北林谷栄が見物。

普段、老け役が多い彼女が、この作品では、役柄上、かなり若作りをしているように見える。

おそらく、当時の実年齢に近い設定のようにも思えるが、その回想シーンで、男に抱かれ、あえぐ表情が一瞬出て来るのがショック。

北林谷栄のベッドシーン…、想像するだにおぞましいものがある。

彼女が下品な身なりで、パパの会社にやって来る所も凄い。

北林さんの、老け役だけではない役作りに驚かされるだけである。

映像的には、ストップモーション、スローモーション、長ゼリフ、暗示的イメージ等色々な技法を組み合わせている。

若くて可愛らしい加賀まりこはもちろんの事、若くて初々しい中尾彬や、髪に白髪を混ぜ、老け役を演じている加藤武など、脇役の熱演も光っている。

純文学的な内容なので、分かり易い娯楽と言う感じではないが、終始、加賀まりこの顔が映し出されるので、彼女の可愛らしい顔を眺めているだけでも楽しめる作品である。

余談だが、ユカが男たち5人とオープンカーでやって来る八角形の形をした、中に神像が並んでいるお堂のような建物、「バナナ」でも登場した建物のように思える。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1964年、日活、安川実原作、斎藤耕一+倉本聰脚本、中平康監督作品。

横浜の港を背景に、英語や中国語で…

ヨコハマは日本の表玄関だ。日本の大小的国際都市。貿易の中心だ。中華街もあれば日本庭園もあるし、外人墓地もあれば、寺もある。エキゾチックな東洋の港だ。女も素晴らしい。親切でチャーミングだ。俺たちにとっちゃ天国だ…などと言う言葉と共に、文字を書いたテロップが流れる。

港の赤灯台の所で、到着した外国船を観ながら、カモが来たわ。早くなさいよとボーイフレンドらしき青年をせかしている女の子がいた。

外国船から降り立つ外国人を出迎えるパパ(加藤武)や修(中尾彬)たち。

ヨコハマの町を車で走っていた外国人が、道を歩いていた若い女の子を見つけ指笛を吹く。

その女こそ、ハマで噂の女の子ユカ(加賀まりこ)だった。

ユカの姿が切り抜き写真のように飛び出し、タイトル。

ヘイ!ユカ!と呼ばれたユカは、クラブで踊る仲間たちに合流し踊り始める。

それを観ていた男とホステスらしき女たちが会話を始める。

あの子、良いね。いくつ?

18だったかしら?とっても良い子よ。

パトロンがいるのよ、おじいちゃん。若いのもいるの。

明るくて親切よ。

男を喜ばすのが最大の喜びなんですって。純なのよ。

でもキスはさせないの。

伝説でしょう?

本当なの。あの子清潔よ。

我々の理想的な女らしいな…

パパ…、黒○ぼの肌って、何故黒いの?

知らんね…

ベッドの上で会話するユカとパトロンのパパ。

お前は白いとパパは褒めるが、隣にジャマイカの混血児がいるの、コーヒー色の肌ってセクシー?やりたいと思う?

旅行したいな…、ジャマイカ…。遠過ぎる?…ユカの言葉はとりとめがない。

いいや、行っといでとパパは優しく許す。

肌を焼きに行くの…、パパ、セクシーって言ったじゃない?コーヒー色。

いや…、お前は白で良いと言いながら、パパはあれこれお薬をベッドの上で飲む。

ラジオをかけたユカは、ニュースを聞くと、このアナウンサーはまだ風邪を引いているよ。いつ寝るのかしら?この人。セクシーね…、ちょっと風邪気味の方が…などとまだまだ1人でしゃべり続けるので、パパは電気スタンドを消し、ユカをベッドに抱き寄せる。

ユカの部屋の中にあるマリア像が浮かび上がる。

時間ねとユカは起き出し、パパの身支度を整えてやるが、その時、パパの腕時計がなり出す。

又ちょっと遅れちゃってる。パパ、早く直しなさいよと注意して、部屋から送り出す。

その後、窓を開け放つと、また、ベッドに飛び乗ったユカは、電気スタンドを消し、ゆっくり1人で眠る。

お前、また遅れたな!

牧師さんに叱られる夢を見て飛び起き、肩をすくめたユカは歯を磨き、ちょっと美容体操をした後、朝日新聞をじっくり読む…

実際は、紙面の上を這い回っていた虫目がけ、タバコの火を押し付けようとしていたのだった。

その後、ボーイフレンドの修と元町にデートに出かけたユカだったが、そのユカが急に立ち止まる。

その視線の先を観た修は、パパだな?つけてみるか?おもろいじゃんと誘う。

パパは妻らしき女と娘との3人連れだった。

後をつけてみると、3人は玩具屋に入り、パパは娘にねだられたらしい西洋人形を楽し気に物色していた。

それを外から覗いていたユカは何だかねたましい気持ちになる。

ユカは、その後もパパを尾行し、とうとうパパの自宅近くまでついて行ってしまう。

さすがに修は呆れ、疲れたから休もうよ等と音を挙げていたが、とうとうパパの自宅の中を庭先からのぞく事になる。

ユカ、お前、妬いてるのかよ?あの奥さんに…。みっともないから止めとけよと気づいた修は、帰ろうと誘うが、ユカは突然、ねえ、ここで寝ない?と言い出す。

ホテル代くらい持ってるよと修は嫌そうだったが、強引にユカに引き倒されたので、仕方なく抱いてやる事にする。

しかし、ユカは、噂通り、キスはダメよと拒絶する。

抱かれるユカのストップモーション

ユカは、その後、闇の中で独白していた。

夕べ私はパパの家の前の暗闇で男と寝ました。誘ったのは私の方です。

修は草むらがちくちくして痛いから嫌だと言ったのですが、私はパパに当てつけたいから、どうしてもここでやると言って聞きませんでした。何故当てつけたくなったかとかと言うと、私の人生の目的は男を喜ばせる事にあるので、パパを喜ばせるためにはそれこそ、毎晩汗水垂らして奮闘するのに、パパの喜び方はその割に少なくて、私はまだまだ努力が足りないと、パパに対してすまない気持ちで一杯でしたが、昨日元町で観ていると、娘に人形をねだられたパパは、何ともかんとも嬉しそうな顔で、あんな喜びようは絶対私にはしてくれないので、一体全体、私が必死にやっても出来ない事を、どうして家族というものは、あんなに簡単にできるのかと考えたら、ものすごいショックで悔しくて悔しくて、パパに当てつけるのは筋違いだと思ったけれど、私はどうにも我慢が出来なくて、嫉妬はいけないと牧師さんは言ったのに、私はやってしまったので、やっぱり私は悪い女でしょうか?

そうだ、お前は悪い女だ。公然わいせつ物陳列剤だと老警官が答える。

でも私は懺悔したので罪は消えるのでは?とユカは取り調べ室で警官に訴えるが、警官は、本官を侮辱するな!と怒り出し、部屋から逃げ出そうとしたユカを延々、ぐるぐると追いかけて来る。

ぐるぐるぐるぐる…

ユカと警官以外の人間もその閉じた逃走劇に混じっていた。

ユカは、ベッドで悪夢から目覚める。

パパ?パパは私に満足?本当に満足?とユカが聞くと、パパは、ああ…、何だい?と答える。

私より、いい味の女いる?と聞くので、世の中にはいるだろうな…。だがお前は最高の方だよとパパは言う。

一生懸命やってんだけどな…。パパ、何してあげたら一番喜ぶ?とユカが食い下がるので、今のお前で満足だよ、大満足だと面倒くさそうに答えたパパは、家賃、食費、光熱費などと計算し出す。

何か私に足りないんだよな…。キスの事で不服なの?でも、それは無理だもんね…と、ベッドの横を歩きながらユカの独り言は続く。

ああ〜、パパの財布は空っぽだ!とパパは大げさに嘆いてみせると、私、家計簿つけてるのよ。パパに言われた通りにと言い、ユカは家計簿を見せる。

シップチャンドラーって、船に品物を運ぶ大変な仕事よね?フランクが言ってたわ。一昨日、ギリシャ船が入って来たので、必死に飛び回っているってなどとユカがしゃべっていると、家計簿の書き込みで奇妙な点を見つけたパパが、これは何だい?収入2000円、尾行、出て来たって?と聞く。

すると、ユカは、出て来ちゃったのよ!儲かっちゃった!と喜びながらパパに飛びつく。

家を出たパパは、今晩行くよ、お前の店「サンフランシスコ」、大事な客を連れて行くからとユカに告げ、車で出かけて行く。

それを玄関前で見送ったユカは、隣の家の前にいた混血の少女に向かい、ハイ!と声をかける。

しかし、その少女は全く無表情のままだったので、ユカは何とか反応させてやろうと、あれこれ声をかけてみる。

すると、つまらなそうに家に入りかけた少女は、ようやく明るい笑顔になり、ふざけたような顔をユカに見せて来る。

その夜、クラブ「サンフランシスコ」の化粧室から出て来たユカは、着飾って、パパが連れて来た外人客のテーブルに座る。

やがて、ステージ上では、ターバンを頭に乗せた奇術師(波多野憲)がマジックを始めるが、それを見たユカは驚いたような顔になる。

奇術師は、パパが連れて来た外国人を相手に、様々な手品を披露し喝采を浴びる。

楽屋に戻って来てメイクを落とし始めた奇術師に、そっとユカはビールを注いで渡してやる。

元気そうだな…と奇術師が口を開くと、どうして黙って行っちゃったの?私、さみしくて、泣いちゃった…とユカは言う。

逃げちゃった男はたくさんいるわ。

パパの存在を知って逃げた人、私の身体に飽きた人、喧嘩して、私の事殴ってでて行った男もいたわ。でも、あの頃、私が本気だったの、あなただけよ…とユカは責めるように言う。

僕が悪かった…と奇術師が謝ると、あなた、いつでも自分のせいにしちゃうんだわ。あなたは、いつもそうなの。大人なのね、昔から…とユカは断定する。

あなたが怒ったの観た事なかったわ。あの日、はじめて怒ったでしょう。電話をがちゃんと切って…。

次の日黙っていなくなったのよ…とユカがすねると、悪かったよ、俺が…と、又奇術師は詫びる。

あの晩考えたのよ。電話するまでの間。私、キスさせなかったでしょう?だから…と言いながら、ユカは、奇術師が取り出した煙草に火をつけてやる。

もう止そうや、そんな昔の事…と奇術師は言う。

私たち、愛し合っていたのに一度も寝なかったでしょう?だから巧く行かなかったのねとユカが続けるので、これからあんな事を言うもんじゃないよと奇術師は優しく諭す。

何の事?とユカが聞くと、電話で君が言った事さと奇術師は言う。

一緒に寝てって言っただけよ。どうしていけないの?

好きな相手に相手には言わない方が良いよ。これからはね…と、着替えながら奇術師が言うので、どうして!とユカが聞くと、君と一緒になりたいって人もいるからね…、奇術師はそう答える。

部屋の外から音楽が聞こえて来たので、踊らない?と誘ったユカは、愛しているわ、今でも…と訴えるが、愛なんて言葉、そう簡単に使いなさんなと言い残し、奇術師は出て行く。

そりゃあ、お前が悪いよと、家に帰って来たユカから事情を聞いた母親(北林谷栄)は言う。

男から愛がないって言われるのは、お前のサービスが足りないからよ。愛するってことは尽くすって事だよ。尽くすってことは、男を喜ばす事さ。男を喜ばすのは、女の最大の生きがいなのよと言う母親の言葉を聞いていたユカは、それは何ども聞いたわよ、母ちゃんとふてくされたように答える。

さらに母親は、大体、愛なんて理屈じゃないよ。世界中であれが嫌いなんて男は1人もいやしないんだから…。ただ、男って見栄っ張りだからね。そこを巧く操縦するのが女の腕さ。母ちゃんなんかもね、お前の味が忘れられないって、本牧中を探しまわった客も何人もいるんだよ。それって言うのもだね、どんな一見の客だって、一時愛してやったからだって思うんだ。サービスしたもん…と得意げに昔話を披露する。

火鉢の前で聞いていたユカは、そうね…、それが女の生きがいだもんねと納得したように顔を上げる。

修が働いているトラベルサービスの店にやって来たユカを応対したのは、同じ店にいたフランク(梅野泰靖)で、修はいないぞと言う。

あなたに会いに来たのよと言い出したユカは、今忙しいんだと外国人客相手に会話をしながら言うフランクに、変わったの。私、ちょっと変わったのよ。抱いて欲しいのと切り出す。

今か?と驚いたフランクは、相変わらずだな…と呆れたようにユカを観る。

気持ちの持ち方が変わっているの、私、一生懸命なのとユカが真剣な口調で迫るので、フランクは少しユカを待たせてホテルに行く。

しかし、抱き終わったフランクは、別に変わりはないようだな…、何が変わったんだろう?と呟く。

私、今、心から愛している。あなたのためなら何でも出来るわ。愛してる…と呪文のようにユカは言うので、本当だな?俺の言う事を何でも聞くな?とフランクが念を押すと、聞くわとユカは答える。

フランクはユカをクラブに連れて行くと、奴等と踊りな、良いって言うまでと命じたので、ユカは、その場で踊っていた若者に混じり踊り始める。

その後、ユカは、フランクに言われ、見知らぬ5人の男たちと共にオープンカーに乗り、とある霊廟に向かうと、その中でユカは服を脱ぎながら、大丈夫よ、誰からやるの?私、本気で愛してあげる。神様の前田から嘘はつかない。どうしたの?と黙って観ているだけの男たちに言う。

フランクに全員と寝るよう命じられたからだった。

順番、ジャンケンで決めたら?と言いながら、全裸になったユカだったが、男たち5人は何も言わず、動こうともせず、どうしたのよ?と戸惑うユカをその場に残し帰ってしまう。

ユカは、1人徒歩で帰るしかなかった。

朝になって自宅に帰り着いたユカは、そこでパパが夕べからずっと寝ずに待っていた事に気づく。

どこに行っていたんだ、こんな時間まで?こんなに待たして…とパパは聞いて来るが、何もなかったのよ。踊ってたの。パパが一番素敵よとユカは笑顔で媚を売ったので、パパも悪い娘だと言うしかなかった。

パパ、朝までここで待っていたの?とユカが聞くと、3時まで散々考えたよとパパが言うので、どうして待っていたの?と聞き返すと、心配だったからに決まっているじゃないか!と言いながら、パパはユカのほっぺたを両手で挟んで来る。

パパ、私、世界中で一番パパを愛してる!本当よ、だからパパが喜ぶ事なら何でもするわ、何でも!とユカが言うと、又そんな美味しい事を言ってごまかすとパパは相手にしない。

何が欲しい?と聞くユカに、何にもいらない。ただ、俺を心配させないでくれるなとパパは言い聞かす。

ユカは気分を変えようと、コーヒー煎れましょうか?と聞き、良い事があるの聞いてくれる?と切り出し、お人形さんが欲しいのと言い出す。

いつだって買ってあげるよ。明日にでも買って来てあげるとパパが鷹揚に答えると、ううん、違うの。私が喜ぶんじゃなくて、パパを喜ばせたいの。私も一緒に行くの!とユカが言うので、パパは事情が良く分からないなりに、良いよ、明日行こうと答える。

しかしユカは、明日じゃダメなの。もっと後、準備があるのよと奇妙な事を言うので、戸惑いながらもパパは許してくれる。

するとユカは、わあ、嬉しい!とってもステキだわ!とはしゃぎ出し、今朝がパパとのはじめての朝ね。お湯が沸いたら、美味しいコーヒーを入れるわ。そしたらトースト焼いて…、パパと一緒に朝ご飯食べましょう。ジャムもあるのよ…と楽しそうに続ける。

素晴らしいわ…と言いながらベッドに身を横たえたユカは、いつの間にか眠ってしまう。

それに気づいたパパは、やさしくユカの頭を枕に乗せてやり、上布団をかけて、そっと帰って行くのだった。

ベッドで熟睡していたユカの頭には、窓の外で、水泳大会での日本勢の不振ぶりを話している男女の会話に混じり、人形よ!人形が出ればね。人形があればね。あるわよ!本当?パパ買ってくれるって言ったわ。元町で…。あの時のパパみたいに喜ぶかしら…。大丈夫!絶対よ。修は?修は怒るさ。あの人、カットすると何するか分かんないわと言う別の会話が混在していた。

その時、その修が、窓ガラスから室内を覗き込んで来る。

部屋に入ってきた修は、俺に謝っても無駄さ!もっと自分を大事にしなよ。俺知らないぜ、どうなったって。そりゃ、フランクはお前を俺に紹介してくれたさ。でも今は関係ないはずだろ?ごめんですむ話じゃないよと、起きたユカに対して文句を言って来る。

もうしませんとユカが謝ると、当たり前だよ。不愉快だよ…。大体、俺んときは赤灯台で、フランクのときはホテルじゃないか。話が逆だよと修は受け入れられないと言う風に文句を言う。

あんたとはきれいな関係でいたいのよとユカが答えると、嫌だわ、汚いホテルでお金払って…等とユカが言い出すので、きれいなホテルだってあらあと修が反論すると、ホテルそのものが汚い所なのよとユカは言う。

お前は経験が豊富だなと修が皮肉ると、赤灯台の方がずっと清潔だわとユカは結論づけ、もうそんな話止めましょうと切り上げる。

それより私、パパと約束しちゃった!人形買うのよ。あの時のパパの顔をもう1度させたいのとユカが言うので、それ違うね。お前が人形買ったって、パパ喜ぶもんか。あれは娘だったからさと修は言い返す。

するとユカは、私だって娘みたいなもんよ。パパって呼んでるしと言うので、修は思わずアホ!お前はアホだよと言ってしまう。

それでもユカは気にしないようで、あん時とまるっきり同じにやるつもりよ。全部同じ…、元町を歩いて、あのお店に入って…、パパと私と…、日曜日に…と夢見るように話すので、また、アホ!と言った修は、何?と聞き返したユカに、日曜ってのは家族サービスディなんだ。家族と歩くから日曜は楽しいんだよ。お前と一緒じゃ、日曜はダメさと言い聞かす。

私とじゃダメなの?とユカははじめて知ったように聞くので、日曜は家族と過ごすもんなの!と修が念を押すと、日曜は家族と…、そう…、じゃあ、日曜がダメなら、私は月曜!月曜なら私にくれたって良いでしょう?とユカは新発見でもしたかのように言い出す。

パパと月曜日に元町でお人形を買うのよと、ユカは夢見るように語る。

呆れた様子の修は、帰ろうとし、勝手にジジイ喜ばすの考えてろ!と罵倒する。

せっかく私が嬉しいのに、一緒に喜んでくれないの?とユカが聞くと、アホンタレ!てめえの色方喜ぶのに、一緒なんてないんだよ!と言い残し、修は怒って帰ってしまう。

また、母親の家に戻ったユカは、母ちゃん、男怒らせちゃった時、そうすれば良いの?と聞く。

お前、ジミーって覚えてないかい?覚えてないか…と言い出した母親は、私はジミーのオンリーだったんだよ。

ある日、そのジミーが怒ったらしく出て行った。

母ちゃん、花屋に行って、花びらを両手で持ちきれないくらいの花びらを買ったんだ。

その夜、ジミーのハウスに行って、その花びらをまいたのさ。屋根から窓から玄関から地面まで、ハウスが丸ごと花に包まれた。翌日ジミーは私の所に帰って来たよ。怒った事等けろっと忘れてねと愉快そうに教える。

それを聞いたユカは嬉しそうに笑う。

そして、母親と同じように、たくさんの花を買い込むと、修の家の前に行き、花びらをまく。

(大量の花びらが降り注ぐ中、修が踞っているイメージ)

翌日、教会の前にいたユカは、花びらを数枚手に持った修と再会する。

母親の言った通り、修は昨日怒った事を忘れたかのように明るかった。

元町の人形屋の前に来たユカは、明日買ってもらうのと言うので、一緒に付いて来た修は、俺が買ってやるよと答えるが、私の欲しいのは本当はお人形じゃないのとユカが言い出す。

パパが喜ぶ姿か?と修が聞くと、今は違うわ。今はあなたの喜ぶ顔!とユカは修に向かって言う。

赤灯台の向こうに浮かぶ外国船を背景に、パパと外国船の船長ハリーとの会話が重なる。

頼みます船長!これを機会に、日本で積み込む航海用物資を私の会社に入れさせてください。契約を!どうかうちの会社と!勉強しますから!何なら、食料と燃料に限っても結構です。もちろん、支払いはエージェンシー払いで!とパパが頼むと、船長は、全部だって良いと言ってくれたので、本当ですか?ありがとう!船長!とパパは喜ぶ。

あの女が欲しい。どうだね?パパさん、どうだね?と船長は最後に付け加えて来る。

ユカは修に頼んで、明日27日、一身上の都合により休ませて頂きたく…と休暇届を書いてもらっていた。

そして月曜日…

朝、ユカは鼻歌を歌いながらメイクをしていた。

そして家を出るとタクシーを拾い、長屋住まいの母親を途中で拾って走り出す。

長屋では、タクシーを珍しがった子供たちが廻りに群がって来た。

所が、途中でタクシーがパンクしてしまう。

(無声映画のような画面になり)

タクシーの運転手は車を降りると、後部トランクに入れていた荷物を全部外に放り出すと、自転車の空気入れでタイヤに空気を入れ始める。

たまたまそこに通りかかった相撲取りが、車をジャッキ代わりに持ち上げて手助けしてくれ、さらに、道路に落ちていた荷物も全部とランクに入れてくれた後、自分も助手席にのって出発する。

3時20分

ユカと母親がやって来たのは、パパの会社だった。

しかし今日は月曜日

パパは、外国人客等が数多く座っていたロビーで、船長のハリーと打ち合わせをしている最中だった。

そこにやって来たのが、派手な格好をしたユカと、明らかに場違いな雰囲気を漂わせた娼婦上がりの母親だったので、ロビーにいた客たちは一斉に好奇のまなざしを2人に向けて来る。

パパも、2人を発見すると固まってしまう。

ユカを呼び寄せたパパは、困るよ、あんな…、お前の母ちゃん…と迷惑実に耳打ちして来たので、パパを喜ばせるためにいるの。私とパパとママで、元町の人形買うのよ。今度はパパが喜ぶの…とユカは説得して来るが、とにかく、大事な客があるんだよ、話は後で!と言い聞かし、パパは船長のハリーを連れて外に出ると、追いかけて来たユカを無視して、タクシーでどっかに行ってしまう。

ユカは、サーカスの音楽のようなものを聞いた気がした。

取り残されたユカは、元のロビーに戻って来ると、母ちゃん、ごめんねと詫び、2人とぼとぼと帰路につくのだった。

かくて月曜日は終わった…

夜、ユカは自宅で修と会っていた。

修が胸に下げたペンダントをいじっていたので、きれいねと言いながら手を差し出すユカ。

修は黙って舵輪型のペンダントをユカに渡してやり、パパは止しなよ。良くないよ、ダメだよ。止めた方が良いよと忠告する。

俺考えたんだ。お前この前話したろ?赤灯台とホテルの話。お前、俺以外の男と赤灯台で寝たか?と修が聞くと、ユカは首を振る。

俺だけか?と念を押した修は、俺、お前のおふくろ、大事にできると思うんだ。パパ観てえな奴にそんな事させねえよ。一緒になんねえか?と切り出す。

え?一緒になるの?と椅子の上に足を組んだ姿のユカは聞き返す。

ああ、俺、稼ぐよ。お前、誰とも寝ないだろ?と修が言うので、稼ぐ?何するのとユカは聞く。

地道な事だ。俺やるよ!2人分くらい軽く稼ぐよ。それにお前のおふくろさんの分もな。んで、どっかにちっちゃなアパート借りようよと修は続ける。

アパート借りるの?そしたらお金いるね?とユカが言うと、ちょっとな…と修も答える。

権利金?どのくらいかかるんだろう?とユカが呟くと、良く知らねえけど、10マンもあれば何とかなるだろうと修は言う。

ユカは何事か考えているようだった。

結婚したらどうなるのかな?と修が言うので、何がとユカが聞き返すと、色んな事…、やる事変わるのかな?まるっきり変わんないんじゃねえかな?一緒に稼いで飯食って、寝て…。朝飯、一緒に食う事になるなと修は楽しそうに夢を語るので、ユカも、そうね…と相づちを打つが、キスはさせるか?結婚したら…と聞かれると、分かんない…とユカは呟く、

その時、修はガラス戸から外に逃げ出す。

玄関に、大きな箱を持ったパパが立っているのに気づいたからだった。

パパは、椅子に座っている床が手にしている舵輪のペンダントをじっと見つめていた。

とにかくビックリしたんだよ、あの時…と言いながら上がり込んで来たパパは、いきなりユカのお母さんを紹介されたからね。人形買って来たよ、ほら!お前の欲しがっていた奴だと言いながら、箱から人形を取り出し、椅子の上に腰掛けていたユカの膝の上に置いてやる。

そして、とにかくビックリしたんだよと繰り返しながら、パパは、ユカに落ちていた舵輪型のペンダントを拾い上げると、悪かった!お母さんに謝っといてくれ。お客の事で頭が一杯だったんだとパパは続ける。

以前は、ヨコハマにちいちゃい船が一杯入って来た。商売はたくさんあった。ところが近頃は、船の数が減り、商売のチャンスも減った。煙草だけとか水だけとか、小さな商売を扱っている奴は良い。パパのような会社は焦るんだ。仕事を請け負ったとしても、次の商売に供え、備えをしなければいけない。品物をキャッシュで買って、船に入れて、エージェントが金を払うのは数ヶ月先。その間、金を寝かせとかないといけない。パパは苦しいんだ。パパは今、大事な取引をしている。分かるね?あの船長…と話したパパは、頼みがあるんだ。ユカに頼みがあるんだと言い出す。

あの船の船長と寝てやって欲しいんだ。その代わり、何でもするよ、ユカの言う事なら。何でも言うことを聞いてやる。パパはユカが大好きなんだ!とパパは頼みんで来る。

パパ?私たち別れるの?とユカが口を開くと、嫌になったら別れても良い。でもパパ、ユカがその気なら、ずっとこのままでいたいとパパは言う。

言う事聞いたら、パパ喜ぶ?嬉しい?本当に今までで一番嬉しい?とユカが聞くと、パパは苦しそうに頷く。

オッケーよ。その代わり、10万ちょうだい!とユカは答える。

10万!と一瞬園学に驚いたパパだったが、良いよ、10万と承諾する。

しかし、椅子の上のユカはにこりともせず、そっぽを向いたままだった。

パパは、ペンダントを握りしめたまま帰って行く。

気がつくと、ユカの目の前に修が立っていた。

修はユカを睨みながら、何で聞いた?何で聞いた!と責めて来る。

私にキスをして良いわとユカは答えるが、修はそんなユカの頬を叩いて帰って行く。

(回想)幼かったユカは、窓から家の中を覗いていた。

家の中では、母親が外国人に抱かれていた。

そこにやって来た牧師(ハロルド・コンウェイ)が、ユカに向かい、ユカ、観てはいけない!あれだけはいけない!この世で一番いけない事だ!と言い聞かす。

(回想明け)いつの間にか、舵輪型のペンダントは、マリア像にかけてあった。

人形を箱に収め、部屋のカーテンを閉め、ストーブにやかんを起き、タバコを吸ったユカは、ベッドの支柱に身体を持たせかける。

灯台に船の汽笛が重なる。

突如、ドアが開き、入って来たフランクが、修が死んだぞ!と告げる。

雨の中、フランクが運転する車に乗り、事故現場に向かうユカは、終始無言だった。

その間、フランクが1人でしゃべり続ける。

俺は後悔しているんだ。修って奴は良い奴だったよ。弟分みたいに可愛がってたんだよ。覚えているか?俺がお前をあいつにはじめて紹介した時のこと。俺ははっきり覚えている。あの野郎、1人でお前に惚れやがってな。純な野郎でよ。譲ってくれって泣きそうにして頼むんだよ。

覚えているか?発生店(?)の事。前の晩、俺たちホテルで寝てよ。お前をおっ放り出してよ。若い奴にお前を任せて…。修の事、頭にあったんだよ。だけど、ちょっぴりやっかみもあったな。ざまあみやがれって言う気持ちだったんだよ。

口も聞こうとしなかったんだぜ、あれから…。

後悔した。ああ、後悔したよ…!ユカ!お前も後悔しなきゃいけないんだぞと言いながら、フランクは何も返事をしないユカに煙草を渡す。

とにかくあいつは良い奴だ。あいつをこんなにしたの、俺たちのせいなんだ。俺もお前も責任あるんだぞ。知ってるか?ステイツのカリフォルニアの船長、何故か知らないが、刺すって行って出て行ったんだ、1人でよ…、血相変えてな。勇敢な奴だったぜ。本当によ。ロープがあるだろ?船から張ってある。あいつに絡まって締められたら死んだよ。事故死よと、フランクは自分の首を絞める真似をしながら説明する。

カリフォルニアに着く前にだぜ…、悔しかったろう。気の毒な野郎よ。俺もお前も責任あるんだ…とフランクはしゃべり続け、ようやく事故現場に到着する。

むしろを外すと、埠頭に修の死体が置いてあった。

口の横に傷跡が残っていた。

ユカ、キスしてやんなよ。お前のこと、本気で愛していたんだぜとフランクが言い、ユカは黙って修の唇にキスをすると、尊母まま何も言わずに帰ろうとする。

慌ててそれを追いかけるフランク。

その後、着飾ったユカは、パパに連れられ、カリフォルニア号に乗り込む。

待っていた船長ハリーは、世界地図を前に、船が世界中を旅するとユカに説明する。

ユカは、船長のしゃべる英語が良く分からなかったが、ヨコハマ、ニューヨーク、ロサンゼルス、キューバ、…と土地の名前を言っているのだけは何とか理解でき、最後にジャマイカと聞こえたので、イエス!ジャマイカ!とユカは答える。

その間、パパは、甲板上のデッキチェアの所で1人待っていた。

ハリー船長は、ユカに、妻や家族と写った写真立てを見せる。

そして、その部屋には聖書も置いてあった。

船長はドアを開け、寝室にユカを招き入れる。

ノー!キス、ノー!ボディ、OK!キス、ノー!と、ベッドインしたユカは叫んでいた。

その叫び声は、聖書も聞いていたに違いなかった。

口を拭いながら出て来たユカは、デッキチェアの所にいたパパに会う。

パパは、ユカの肩を抱いて船を降りる事にする。

背後からは、ユカの名を呼ぶ船長の声が聞こえていた。

港に降り立ったユカは、どこからともなく聞こえて来るサーカスの音楽のようなものを聞く。

立ち止まったユカは、パパ、踊らない?と急に言い出し、戸惑うパパの前で勝手に踊り始める。

仕方なく、パパもユカの手を取りダンスを踊り出す。

パパはにこやか、ユカは寂し気な表情だった。

いつまでも踊りは続き、2人の動きはスローモーションになる。

ユカは踊るに連れ笑顔になって来たのに反し、パパの方は疲れて来て不機嫌そうになっていた。

次の瞬間、よろめいたパパはそのまま埠頭から海に落下してしまう。

パパは、水の中からユカ!助けて!と叫ぶが、やがてもがきながら沈んで行く。

それを埠頭にしゃがみ込んだまま、無言で見つめるユカ。

やがて、パパの姿が消えてしまうと、立ち上がり、落ちていたショールを肩にかけると、ハイヒールを履いたユカは町に向かって歩き始める。

その表情は、無表情のようにも見えるし、泣き出しそうにも見えた。

ユカは夕闇迫る町の中に遠ざかって行く。

赤灯台が写る。


加賀まりこ/月曜日のユカ HDリマスター版

加賀まりこ/月曜日のユカ HDリマスター版
価格:1,944円(税込、送料別)