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悪魔と天使の季節

ヒロインの生活調査表に書かれていた彼女の住所が台東区だったことから、その辺りが舞台と思われる青春映画

赴任して来たばかりの熱血型の新任教師に、反抗的な不良グループ、新任の教師に恋する女生徒など、不安定な精神状態の若者たちの生態を描く、割と良くある学園もののように見える。

60年半ば頃、日活の映画化や日テレで放映された学園ドラマの走り「青春とはなんだ」の原型…と言うか、さらにその原型は「青い山脈」(1949)や「山のかなたに」(1950)辺りになるのだろうが、教師がスポーツを通じて、生徒と向き合うと言う要素がまだないだけである。

50年代の作品なので、70年代頃から始まった、劇画人気を背景にしたバイオレンス学園ものなどに比べると、少年たちの非行の描写や暴力描写もまだ大人しい。

何しろ、不良グループのリーダーが小林旭なのだから、徹底した冷血漢になりようもないのだが…

主役のまじめな教師役を演じる葉山良二は典型的な二枚目であり、ヒロイン役の中原早苗は痩せていてコケティッシュな魅力をふりまいている。

生真面目そうに見える葉山良二は、この後、その不良っぽさで人気が出た小林旭や石原裕次郎に、人気を奪われたということなのだろうか。

その後も、二枚目風の役で色々な作品に出て入るが、イマイチ影が薄いような気がする。

この作品で注目したいのは、小太りでおねえ言葉を使っている不良学生瀬木を演じている武藤章生。

後年、石原プロ作品「西部警察」などで鑑識のロクさん役等を演じていた人である。

この当時の日活作品の常連脇役の1人だが、今回のキャラクターはかなり印象的である。

劇中、良く分からないのは、金に困った小林旭たちが、高校の備品である顕微鏡を盗もうと思いつく所。

彼らは、いつどこで、8万円もする顕微鏡が最近学校に寄付されたと言う情報を手に入れたのだろう?

宮原と相田教頭が、井沢校長から寄付のことを聞くシーンがある以外、顕微鏡にまつわる描写はない。

宮原や井沢校長、相田教頭、寄付した父母の子である小島敏子などが他人に顕微鏡のことを話すシーンもないし、そもそも学校の備品の値段など、不良たちが知っているはずがないように思えるのだが…

後、伯父がやっている自動車工場へ黒木がバイクで帰って来た後のシーン、どこかの中古自動車売り場の前で、サングラス姿のチンピラ風の男たちが数人会話をしている場面の意味も良く分からなかった。

ひょっとすると、今回観た作品は、若干カットされていたのかもしれない。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1958年、日活、藤原審爾原作、館岡謙之助+秋元隆太脚色、堀池清監督作品。

都立桜山高校に、1人の青年がやって来る。

校庭ではバスケットのクラス対抗試合が行われており、高沢千恵子(中原早苗)が活躍していた。

試合中、ボールが飛び出し、女子選手2人小島敏子(葵真木子)と花房良子(角田真喜子)がコートの外に取りに行くと、そこに近づいて来た青年が、校長先生にお目にかかりたいんだが…と話しかける。

その女子たちが校長室から出て来た校長を呼んで来ると、玄関口にやって来た伊沢校長(汐見洋)は、待ってたんだよと嬉しそうに、その青年、静岡高校から転任して来た新任教師宮原健太郎(葉山良二)を出迎え、これから試合に顔を出そうと思っているんだと宮原を誘うと、先に校庭でバスケットの試合を観ていた相田教頭(松下達夫)等に宮原を紹介する。

試合のレベルの感想を校長が聞くと、宮原は普通なんでは?と答える。

試合は、チーコこと高沢千恵子の4組が勝ちだった。

そのチー公の周囲に集まって来た敏子と良子は、あの人、今度、私たちの担任になるらしいわよと教える。

想像通り、千恵子たちのクラス担任になった宮沢は、授業で児童福祉法のことに付いて話していた。

それを聞いていた千恵子は、ノートに宮沢の似顔絵を描いていた。

宮原は、男子生徒のたちの態度を観ているうちに、何となく生徒たちが授業に乗ってない気配を感じたので、そう聞いてみると、授業がつまらないとどうどうと言うし、瀬木(武藤章生)などは、俺たち児童なんですかね?と嫌味を言って来たりする。

どうやら、受験に関係がない授業だからと言いたいらしい。

宮原は、君たちは少年と言う児童の内だと思うし、高校は予備校ではないだろうと言い返す。

その時、1人の男子学生が悪びれる風もなく教室に入って来て席に着いたので、名前を聞くと堀田(牧真介)だと言う。

宮原は、堀田の服装が派手な私服であることに気づくと、制服制帽は高校生としての社会的品位の現れだと諭しながら、他の生徒たちの中にも私服が混ざっていることを疑問視する。

宮原から観られた千恵子は、自分は転校して来たばかりなので、制服がないんですと言い訳するが、その直後、瀬木が持ち込んでいたトランジスタラジオで、急に音楽を鳴らし始めたので、立たせようとすると、暴力教師と罵った瀬木は、堀田と三村(杉幸彦)と3人で教室を出て行ってしまう。

職員室に戻って来た宮原は、鬼塚先生(初井言栄)からクラスの印象を聞かれると、問題ありそうですねと答えるが、鬼塚先生は、問題あるどころじゃないですよ。お気の毒でしたねと同情する。

宮原にクラスの生活調査表を渡しながら、相田教頭は、高沢千恵子だけまだ提出されてないと教える。

下校時、校門の所で宮原に会った千恵子は、本当に先生は、制服制帽は高校生としての社会的品位の現れだなんて思ってらっしゃるの?実は私、制服を持ってないなんて噓なんですと言いながら、一緒に歩き出す。

その頃、1人の男子が、堀田等からカツアゲをされていた。

堀田等と一緒にいた黒木宏(小林旭)が、いきなり男子学生の腕時計を奪い取り、これ必要だろ?買えよ!と本人に突き出す。

男子はやむなく財布を取り出そうとしていたが、そこに通りかかったのが宮原で、堀田等はすぐに逃げ出し、宮原が名乗ると、黒木は、良く覚えておくぜと捨て台詞を残し立ち去って行く。

残っていた男子に腕時計を返した宮原が、あの男は誰だ?と聞くと、黒木と言う、去年卒業した先輩だと答える。

宮原は、大学生か…と呟く。

黒木は、その後、スケートリンクで滑っていたが、そこに来ていた千恵子から声をかけられると、側に近づいて来る。

咽が渇いたと言いながら、場内のドリンクコーナーに向かった2人は、バヤリースを注文するが、黒ちゃん、学校辞めたの?と千恵子が聞くと、興味ないんだ。叔父貴の会社で働いている方がでかい顔出来るんでと黒木が答えたので、黒ちゃん、子供ねと千恵子はからかう。

黒木は面白くなさそうな顔つきで、クサクサしているんだと呟いていたが、そこに、ぶっ飛ばしたい!野郎、どこにいる!等と言いながら堀田や瀬木らがやって来たので、あいつのことは俺に任せとけ!きっとカタはつけると息巻くと、何のこと?と聞いて来た千恵子を連れて出て行く。

チーコを後ろに乗せ、黒木はバイクを飛ばす。

郊外にやって来た黒木は、芝生に座り、ハーモニカを吹き始めるが、その横に寝そべっていた千恵子は、何考えてるの?さっきの話何のこと?と食い下がるが、一々人のこと世話役女は大嫌いだよ!と黒木は膨れる。

そんな黒木からハーモニカを受け取った千恵子は、嬉しそうにハーモニカに口を付けながえあ、じゃあ、どんなの好き?と悪戯っぽい目つきで聞く。

そして、新任の先生来たのと打ち明けると、宮原って奴か!と黒木が驚いて聞いて来たので、知ってるの?と聞くと、急に帰ろうと言い出した黒木は、また千恵子を後ろに乗せ、学校に近くまで帰って来る。

そんな2人の姿を町で偶然見かけたのが宮原だった。

千恵子を家の前まで送り、伯父、泰三(殿山泰司)の自動車工場に帰って来た黒木だったが、その顔を観るなり泰三は、そのバイク客からの預かり物じゃないか!死んだお袋が泣くぞなどと小言を言って来る。

翌日、高校で千恵子は、教室に一人残され、宮原に生活調査票を提出していた。

千恵子を外で待っていた瀬木たちは、千恵子が出て来るのが遅いので怪しんでいた。

宮原は千恵子に、君は黒木を知っているんだね。黒木は、堀田たちグループのリーダー格らしいねなどと聞くが、千恵子ははっきり答えなかった。

その後、理科室にいた相田教頭に会い、黒木のことを聞いた宮原は、黒木と言うのは、あれでなかなか侠気がある奴なんだと教えられる。

そこに井沢校長がやって来て、小島敏子の親は東洋精機と言う会社の社長なんだが、今度、8万円もする顕微鏡を寄付してくれたと伝えに来る。

新東京ドライブクラブで、車に乗って待っていた堀田たちの前にやって来た黒木は、今日は行けねえと言い、チーコは?と聞く。

瀬木が、先公に捕まっていると教えると、黒木は小遣いを渡してやる。

工場に戻って来た黒木は、泰三と話している宮原に気づく。

ちょっと話があると言うので、近くの隅田川縁まで出かける。

この前会ったね、学校の側で…と話し始めた宮原は、君が堀田や瀬木と付き合っていることや、在学中の成績を調べさせてもらった。戦前、満州で事業をやっておられたお父さんが、週千の時亡くなり、その後、お母さんが亡くなったことも聞いた。君に協力して欲しいんだ。君にとっても、母校のことだから。堀田たちを止めたいんだ。今のままで退学や停学にさせたくないだろう?と用件を打ち明けるが、あんた、チーコに惚れているだろう?などと黒木がからかって来たので、僕には、教師として責任があるんだと宮原は答える。

しかし、黒木は、この間の礼は必ずするからな。忘れちゃいねえからなと言い残し、家に戻って行く。

工場の二階の自分の部屋に戻って来た黒木は、また、ハーモニカでブルースを吹き始めるが、その時、雷鳴が轟き、夕立が降って来る。

黒木の部屋の畳には、雨漏りの水滴が落ちて来ていた。

次の日曜日、庭の花壇にホースで水を撒いていた千恵子は、母親から電話だと知らされ、受話器を取りに行くと、それは黒木からだった。

今日、俺、しけてるんだと言うので、11時に約束した千恵子は、居間でくつろいでいた父、高沢信夫(坂井幸一郎)に小遣いをねだりに行くが、義母の光子(新井麗子)があっさり、千恵子に言われるまま300円渡してくれる。

その時、玄関のチャイムが聞こえたので、千恵子が出てみると、そこには宮原が立っていたので、長いシャツ姿でスカートもはいてなかった千恵子は慌てて2階の部屋に駆け上がって行く。

スカートに着替え終わった千恵子は、今で両親と話していた宮原に改めて挨拶をし、出かけると言うと、宮原も一緒に帰ると言う。

父親は、今日は出かけずに、ゆっくり先生とお話ししたらと勧めて来るが、レディの部屋のむやみに男の人を入れるものじゃないわと生意気なことを言った千恵子は、宮原と一緒に家を出ることにする。

千恵子は、母親を褒めた宮原に、継母にしては良いでしょうと笑い、今日は日曜日だから何も予定ないんでしょう?ボート乗らない?と誘って来る。

その頃、黒木は、上野シネマの前で千恵子を待っていた。

千恵子は、宮原と上野不忍池でボートに乗っていた。

この間、黒木くんに会ったよ。乱暴だが、良い青年だ。だが、堀田たちがやっている恐喝はいけないと宮原が話すと、私たちのこと、悪く言われるとしゃくなんです!と急にボートを漕いでいた千恵子は興奮し、知らない!と怒ってしまう。

その頃、千恵子を待ちくたびれた黒木に声をかけて来たのは、戸川ミドリ(日輪マコ)だった。

誰を待ってるの?金ならあるわよ。どっか行こうよ。おごらせて!とみどりは黒木に絡んで来る。

黒木はミドリを連れ、馴染みの麻雀屋「天和荘」で堀田たちと麻雀をやり始めるが、負けてしまったので、事務所にいた店の親父に金を借りに行く。

しかし、親父は、ツケを貯めまくっている黒木の相手をせず、スケが出来たってそうじゃねえか?少し頭働かせな。これでも売って来なと言いながら、ダンスパーティ券を出してみせる。

下に降りて来た黒木は、堀田たちに、これを売りに行くぞと声をかけるが、そこに千恵子がやって来たので、ミドリを店に待たせておき、千恵子も連れて外に出かける。

近くの公園のベンチに座っていたアベックを見つけた堀田たちは、隣に座って、パー券買わねえか?と迫り、勢いに飲まれ、1枚買うと言って財布を男の方が出すと、その財布ごと奪い取り、中に入っていた1200円を全部抜き取ると、3枚買いな、まけといてやるからと強引に言い、財布だけ返す。

アベックが逃げ去ると、そこに、高田一家のヤクザたちが近づいて来て、ここを誰の縄張りだと思ってるんだ?と因縁を付けて来たので、堀田たちは喧嘩になる。

黒木も喧嘩に混じるが、そこにパトカーがやって来たので、全員一斉に逃げ出すが、側で観ていた千恵子だけ逃げ遅れ、駆けつけて来た警官に捕まってしまう。

その様子を、近くに隠れていた黒木と堀田が観ており、まずいことになったなと呟く。

上野警察署に千恵子を受け取りに来たのは、彼女が指名した宮原だった。

どうして何も言わないんだい?お父さんを呼ばず、僕を呼んだのは、話し易いと思ったからだろう?と宮内は近くの公園に千恵子を連れて来ると聞くが、千恵子は、困らせてやろうと思っただけよとうそぶく。

黒木と一緒だったんだろう?黒木が好きなのかい?と宮内は尋ね、好きです!と千恵子が答えたので、愛してるのかい?と聞き返すと、違います!先生は私の気持ち分からないんだわ!と急に興奮し出した千恵子は、どうしたんだい?と驚いた宮原に、いや!と言いながらしがみつく。

そんな2人の様子を木の陰からうかがっていたのは黒木だった。

その後、桜山高校で、第10回バスケットボール大会が開かれ、千恵子が中町高校相手の試合に出場していたが、サングラスをかけた黒木も体育館に見に来る。

黒木は、試合を観ていた堀田たちを体育館の踊り場に呼びだす。

瀬木は、俺たちが喧嘩をして、先公を巻き添えにすりゃ良いんだろ?と得意げにしゃべるので、叱りつけた黒木は、試合が終わるのを待つことにする。

試合は39対36で、千恵子たち桜山高校の勝ちになり、千恵子は応援していた宮原に飛びついて喜ぶ。

その後、シャワーを浴びていた千恵子を探しに来たミドリが、何事かを耳打ちして知らせる。

外で待っていた黒木は、やって来た千恵子に、ずいぶん見せつけてくれるじゃねえか?おめえ、宮原のこと、好きなんだろ?とねちねちと聞いて来る。

その頃、堀田たちと一緒に高校を出て帰路についた宮原は、途中、仲町高校の男子連中が、堀田等に今の試合のことで因縁を付けて来たので、止めようとするが、喧嘩を始めた堀田たちも、全員で宮原を取り囲み、袋叩きにし始める。

黒木は、みんなでお前のお祝いをしようと思ってたんだなどと千恵子に馴れ馴れしく迫っていたが、千恵子は、みどりでも連れて行けば良いじゃない!と態度を硬化させる。

すると黒木は、俺たちと切れたくなったのか?だが、ただで切れるって訳にはいかねえな?と絡んで来る。

そこに小島敏子がやって来て、先生が怪我をしたと千恵子に教えたので、千恵子は慌てて先生の下宿に向かう。

そんな千恵子の慌てぶりを見送っていた黒木は苦笑していた。

宮原の下宿に来た千恵子は、下宿の小母さん(田中筆子)と一緒に、ベッドに寝かしつけた宮原の看病をする。

小母さんが部屋を出て行くと、気づいた宮原が、高沢くん、まだいたのかい?と聞いて来たので、ずっと私看病していたのよと千恵子は答える。

バカ!先生のくせに喧嘩をして!と千恵子が叱ると、君の応援に行かなければ良かったななどと宮原は言う。

もし先生を辞めさせられたら、私が働いて、食べさせてあげるわなどと千恵子は言い出す。

日が陰って来た…と窓辺で外を観ながら呟いた千恵子は、先生、私、好き!と告白するが、宮原が、何?君はからかっているのかい?と答えると、先生って、たくましいと思ってたけど見直したわ。とっても臆病なのねと言った千恵子は、寝ている宮原の額にキスをするのだった。

天保荘の二階事務所で、かき氷を食べていた黒木や堀田たちに、店の親父は、他にいくらでも手があるじゃねえかと金を作って来るよう頭を使えと入れ知恵していた。

その夜、自宅にいた千恵子は、外から口笛が聞こえたので窓から覗くと、道で瀬木が手招きしていたので、降りて行く。

兄貴がどうしても会いたいと言っている。来ないと締め上げられるわよ。宮内のことよ。高田一家に宮原をやっつけさせようと息巻いてたわよと、瀬木はいつものおねえ言葉で千恵子に用件を伝える。

天保荘に行ってみると、待ち構えていた黒木が、急ぎの仕事がある。まとまった金がいるので、実験室の顕微鏡を明後日の晩盗み出す。小使いが1人いるんで、ちょっと電話をかけてくれれば良いんだ。それだけで俺たちと切れるんだぜと言って来る。

何か隠してるんじゃない?と千恵子が警戒すると、休む警備員の代わりに、あの宮原が宿直に来るだけだよと、黒木は面白そうに打ち明ける。

盗みなんて嫌だわ!それも学校の備品を盗むなんて!と千恵子は嫌悪感を露にするが、できねえってのかよ!仲間の仕事だぜ!と黒木が気色ばむと、良いわよ…と千恵子は不承不承承知する。

二日後、職員室にいた宮原は、自分宛てに届いた手紙を読んでみると、今晩、あなたの宿直を狙って、窃盗があります。注意してくださいと書かれた手紙が入っていた。

一旦は、その手紙を校長に見せようとした宮原だったが、思い直し、小使いの村田(河上信夫)だけに教えることにする。

その夜の11時、職員室に残って仕事をしていた宮原の元にやって来た村田が、手紙の件、満更噓でもなさそうですと異変を知らせに来る。

二階の窓から裏口を眺めると、確かに男が3人たむろっていた。

その時、予想通り電話がかかって来たので、村田は打ち合わせ通り、何食わぬ顔で電話を取り、急いで宮原に知らせに行くと、自分はおびき出された芝居をして、自転車で裏口から出て行く。

その直後、側で隠れていた堀田、瀬木、黒木、ミドリ等が、裏門の前に集合し、軽トラックも横付けして、4人が閉まった門を乗り越え、校内に侵入する。

その様子を窓から監視していた宮原は、彼らが玄関口に近づいて辺りでサイレンを鳴らす。

驚いた黒木たちは、門の近くで待たせていたミドリを置き去りにし、慌てて逃げ出すが、早々に帰って来ていた村田に、逃げ遅れたミドリが捕まってしまう。

瀬木も慌てて足をくじいてしまい、何とか軽トラの荷台に乗り込み、黒木が運転して逃走を図る。

ミドリが残っている!と堀田は教えるが、パニクっている黒木は、それどころじゃねえ!と言って車を走らせる。

堀田は、誰かがたれ込んだに違いない。みんな筒抜けだよ!と悔しがる。

翌日、宮原は相田教頭に夕べの事件のことを話し、相談していた。

村田の話では、軽トラを運転していたのは、うちの生徒ではなかったそうだし、この事件に関しては、私に任せてもらえませんかと宮原は相田教頭に願い出る。

その日の授業は、堀田、瀬木、三村たちが全員休んでいたので、放課後、堀田の家の酒屋に宮原は行ってみる。

出て来た父親(久松晃)は、デブの千木野見舞いに行った。夕べ怪我したらしいと言うので、今度はその瀬木の家に向かう。

瀬木は宮原が部屋に上がって来ると驚き緊張するが、分かっている。君は何もやってない。夕べのことに関係している訳じゃないと言われると、思わず、先生、すみません!と謝るが、宮原はそんな瀬木に、堀田の居所を知らないかと聞く。

いつもどこに集まるんだ?先生たちの中にも誤解している人がいるんだよと優しく聞くと、天保荘と言う麻雀屋だと思うと瀬木は打ち明ける。

二階の事務所で堀田たちとスイカを食べていた黒木は、どうしてチーコは告げ口したんだろ?と不思議がる仲間に、先生愛してるってことさ…と分かったような口を聞く。

そんな会話を部屋の外で立ち聞きしていた親父は、1階の店にやって来た宮原が人を探しているんですと言うので、誰ですか?と名を聞くが、店内に堀田たちがいないと思った宮原はすぐに帰ってしまう。

下宿に戻った宮原に、小島敏子がやって来て、千恵子が学校を辞めると言っていると告げに来る。

一方、千恵子の家を見張っていた堀田の仲間は、宮原がやって来たのに気づくと物陰に隠れ、先公が来るようじゃ、千恵子はいないと察しをつける。

宮原に応対した母親光子は、小嶋さんの所へ留守番に行ってますがと答えるが、宮原から、小嶋の家には来ていないと聞かされると、こんなによくしているつもりなのに、あの子、ちっとも私の気持ちを分かってくれないのね…と嘆く。

その夜、千恵子は高校のグラウンドのバスケットコートの下にいた。

一方、堀田たちは、黒木のためにネオン街で必至に千恵子を探しまわっていた。

彼らは、黒木が千恵子のことになると、目の色が変わる事を知っていた。

千恵子はその後、宮原の下宿の下までやって来て、2階の窓辺に姿が映った宮原を見上げていたが、アイスキャンデー売りがやって来たので、そっとその場を立ち去る。

そして、踏切の所で貨物列車が通り過ぎるのを待ちながら、千恵子は何かを考え込んでいた。

翌日の放課後、職員室に残っていた宮原は、千恵子からの電話を受ける。

私、先生に会って、どうしても話がしたい。私をお嫁さんにしてくれるかどうか聞かせて!と千恵子は電話口で迫るが、宮内は、会って話をしよう。どこにいる?と千恵子の居場所が渋谷であることを聞き出す。

タバコ屋の電話を切り、近くのバー「ロンタン」に入った千恵子の姿を、探しまわっていた堀田の仲間が見つける。

住み込みでホステスになっていた千恵子が、その夜、客と踊っていると、よお、迎えに来たと言いながら、黒木が突然やって来て、放っといてよ!と抵抗する千恵子を、とにかく表に顔を貸してくれと誘って外に連れ出すと、何事かと観に出て来た店のマダム綾子(原恵子)の目の前で、堀田等から車に乗せられ出発してしまう。

一足違いで、店を探し当ててやって来たのが宮原で、店に入りかけた綾子に声をかけ、千恵子がいないかと聞くと、一足違いで、今、変な友達が来て連れて行かれたと言うではないか。

それを聞いた宮原は、どうかしたんですか、高沢くんが!と驚く。

疾走するオープンカーに乗せられた千恵子は、完全にグループ連中に囲まれる形で、仲間の掟破ったらどうなるかと洋酒を飲みながらの黒木から脅かされる。

天保荘にやって来た宮原は、その場に残っていたミドリを外に呼びだすと、君、知ってるね?黒木くんのいる所、高沢千恵子が連れて行かれたんだと聞く。

私、関係ないわ…、みんなを裏切ったらリンチさせる。黒木さんは先生を恨んでいる。どうなるか分かんないよと渋々答えていたミドリだったが、最後に、茅ヶ崎に行くって言ってたわ…と教える。

オープンカーに乗せられた千恵子は、ウィスキーをラッパ飲みしながら車を走らせる堀田等に恐怖を覚え、停めてよ!怖いわ!とパニックになっていた。

宮原はタクシーで茅ヶ崎に向かう。

千恵子は黒木等に、海岸近くの松林に連れて来られる。

仲間の1人が持って来たトランジスタラジオで音楽を鳴らし、それを木の幹に引っかけ、全員で千恵子に迫って来たので、怯えきった千恵子は泣き出してしゃがみ込んでしまう。

その様子を観ていた黒木は、急に表情を変え、俺はやだよ!どうにも出来ねえよ!と言い出したので、横に立っていた堀田は、驚いたように、俺たちを売りやがったんだぜ?と迫る。

しかし黒木は、こいつには手出しは出来ねえぜ!掟を作ったのは俺だが、この女の裁きは他にあるだろうと反論したので、どうしてこの女だけいけないんだ?と堀田は聞く。

チーコの代わりに俺を殴ってくれと黒木が言い出したので、堀田は少し躊躇した後、いきなり殴りつける。

止めて!と堀田に飛びかかる千恵子。

黒木も堀田に殴り掛かり、壮絶な殴り合いが始まる。

見かねた他の仲間たちが、兄貴、待ってくれよ!俺たちが悪かったよと謝罪するが、その時、現場に駆けつけて来たのが宮原だった。

驚いた堀田たちは、その場を逃げ出そうとする。

待ってくれ!みんな!と呼びかけた宮原は、その場に残っていた黒木に、黒木くん!僕はいつか君に頼んだじゃないか。母校のために協力してくれって…。こんなことをして、君自身は恥ずかしいと思わないのか?こんなことをする君を殴ってやろうと思ったが、君の顔を見たらバカバカしくて止めたよ…と宮原は言う。

すると、違うんです!黒ちゃん、私を助けてくれたんです!と千恵子は宮原に訴える。

あんたたちに分かってたまるか!と言い捨てた黒木は海の方に走って行く。

待って!黒ちゃん!と叫び黒木の後を追って行く千恵子。

波打ち際に来た黒木は、服薮本を脱ぎ捨て、パンツ姿になったので、追いかけて来た千恵子も下着姿になる。

2人はそのまま海に入ると泳ぎ出す。

それを海岸から見守る宮原。

堀田たちも、その宮内の横顔をうかがうように海岸を眺める。

数日後の桜山高校

グラウンドでは、堀田がピッチャー、瀬木がキャッチャーをやり、千恵子がバッタボックスに立って、男女混合の野球を楽しそうにやっていた。

校長室では、退職願いに来た宮原に、井沢校長が慰留している所だった。

君のように、自ら生徒たちの中に飛び込んで行くような人が欲しかったんだと校長が言うと、私は出しゃばったことをした自分を憎んでいるのですと答える宮原。

こういう言い方をしたらどうだろう?若い彼らの身体には悪魔と天使が住んでいるんだよ。その季節を過ぎれば、彼らも立派な大人になるんだよと校長が諭すと、宮原も何となく納得したような表情になり、窓からグラウンドで野球をしている生徒たちの様子を、まぶしそうに見つめるのだった。

校舎の時計が写る。