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赤い陣羽織

十七代目中村勘三郎(先頃他界された十八代目中村勘三郎のお父上)主演で、艶笑譚風の時代劇。

木下順二による原作自体がの民話劇らしいので、リアルな内容と言うより、楽しい昔話でも聞いているような寓話風世界になっている。

主人公の代官役を演じている十七代目中村勘三郎は、勇気や力はからっきしないが、女だけは好きと言うダメ男を、全編ユーモラスに演じている。

ただ、当時、勘三郎さんが49歳くらいだったのに対し、奥方役の香川さんの方は27歳くらいだったはずで、夫婦役として観ると、勘三郎さんはかなり老けて見える。

時代背景を考えると、49歳と言えば、もう晩年と思われていた時代だったのではないだろうか?

体型的にも少し肥えられていたので、余計に若々しさがないように見えるのかもしれない。

表情等も、かなり演劇風と言うか、大げさに演じられているように見える。

他の役者たちも、かなりオーバーめな芝居をしていながらも、普通の映画演技の枠内に収まっているのに対し、勘三郎さんの芝居はちょっと違って見える。

あくまでも勘三郎さんの演技を楽しむための、今で言う「シネマ歌舞伎」の感覚に近い映画と解釈すべきなのかもしれない。

太鼓の音がなっている間は夜ばいが許され、音が止むと、人間の動きも止まらなければ行けないと言う奇妙な「暗闇祭り」の趣向も楽しい。

この趣向が、後半の艶笑劇に絶妙に絡んで来る。

細かいことを言うようだが、今観ると、この時代のメイクはさすがにバレが目立ち、有馬さんの髪型の生え際の不自然さとかが気になってしまうし、庄屋宇右衛門を演じている三島雅夫さんが頭を下げるシーンでは、ヅラ全体が浮き上がっていたのか、頭頂部の羽二重がへこんで見えていたりする。

俳優座の若手が何人か参加しており、有馬さんの茶屋を手伝う若いおふみと言う娘を演じているのは、声から判断して、市原悦子さんだろう。

今観て、ものすごく面白い!と言うほどでもないが、歌舞伎役者主演作としては、気軽に楽しめる娯楽映画になっていると思う。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1958年、松竹、木下順二原作、高岩肇脚本、山本薩夫監督作品。

5人の家来を連れ、長い橋を走る馬に乗った赤い陣羽織姿の代官荒木源太左衛門(十七代目中村勘三郎)

その姿を観た農民たちは、代官が行き過ぎると、一斉に最近立てられた高札を覗き込む。

敵の残党が当地に潜入したので、見つけたものには褒賞を取らすと言う代官のお触れであった。

つまり、今馬を急がせていたと言うことは、その残党が見つかったのだろうと農民は推理する。

水車小屋に集まった農民たちは、あのお代官が着ている赤い陣羽織は、戦の時、敵の流した血で染めたもので、あれを着ると人を殺したくなるそうだなどと仕事をさぼって噂し合うので、女房たちは呆れてしまう。

お代官様は戦好きだし、女子も好きだと噂する農民たちは、村一番の別嬪せん(有馬稲子)を嫁に持つ水車小屋の番人甚兵衛(伊藤雄之助)を案ずる。

しかし、気の良い甚兵衛は、呵々の事はオラが一番知っとると自慢し、まごたろうもそうだと言っとると馬の名を挙げる。

その頃、藩境に近づいていた代官は、馬を下りると、草鞋の紐を直す振りをしながら、皆の者、先へ廻れと命じる。

後から駈けて付いてきた家来たちは固まるが、再度代官が怒鳴ると、仕方なく、先頭に出る。

その後から、代官はついて行く形になるが、その時、道の横っ面から怪し気な人影が飛び降りて来たので、家来たちは驚くが、それは代官の用人藤太()であった。

火急のお知らせ!と代官に報告しようとした藤太であったが、観ると、肝心の代官は走って逃げていた。

何とか、代官に落ち合った藤太が、落ち武者は鬼のような奴が5人いると報告すると、峠の向うは別の藩だと言うのに、気の効かん奴等だとぼやく。

しばらく山の中を進んでいると、その落ち武者等が暴れ回っている所に遭遇する。

草むらに一斉に身を伏せてその様子を観ていた家来たちは、また、やられた!まただ!と味方の兵士が告ぐ次ぐに殺されて行く様を実況し始める。

そのまま怯えている代官の耳元に、ここは隣国ですと付き添って来た藤太が耳打ちしたので、巧い事言うなと感心した代官は、者ども戻れ!と号令をかける。

その頃、水車小屋にやって来たのは庄屋宇右衛門(三島雅夫)と下男勘六(花澤徳衛)だった。

宇右衛門の目的も女房のせんだったので、勘六は主人のために、そこで油を売っていた農民たちを叱りつけ追い出すと、甚兵衛も小屋の外に呼び出し、小屋の中で宇右衛門とせんを2人きりにしてやる。

おせんは、宇右衛門のために茶を入れてやる。

外では、おめえとオラとは、昔一緒に鉄砲かついであっちこっち言った仲じゃねえかと勘六が甚兵衛に話しかけていた。

この水車小屋を紹介してくれたのも勘六だったのだ。

そんな勘六、庄屋が毎日ここに来るのは何のためか知っとるか?と聞くと、オラのかか観に来るだろう?と言い当てたので、知っとったか!と勘六は驚くが、村中の評判じゃがと甚兵衛は笑う。

宇右衛門がおせんの前でデレデレしていると、代官様がござっしゃる!と伝令が来たので、慌てて宇右衛門は勘六共々帰って行く。

交代で来やがると甚兵衛が呆れると、お前さん、妬いているんだろう?もし、オラが他の男になびいたらどうする?とおせんは笑う。

どうする?そんなこと、あってたまるか!と呟いた甚兵衛は、小屋の二階の奥に隠れる。

そこに、代官の荒木源太左衛門がやって来て、おかか、茶を一杯もらおうかと言う。

甚兵衛はどうした?と聞いていると、二階から下の代官の様子を覗こうとしていた甚兵衛が、物音を立ててしまったんもで、孫太郎、うるさいよ!とおせんは機転を利かして、馬を叱る振りをする。

立派な陣羽織ですねとおせんが褒めると、代官は、触ってみろ。そこらにあるものと違うぞと言いながら、もったいない!と遠慮する丘かの手を無理矢理取り、羽織だけではなく、自分の身体まで触らせようとし、ほんに、お前の手は餅のようじゃと褒める。

それを見て焦った甚兵衛は、又音を立ててしまうが、おせんはその度に、孫太郎を叱ってごまかす。

おかかはどういう男が好きなのじゃ?と代官が聞いて来たので、強くてやさしくて、まっすぐな方で、気前が良く働き者…とおせんが適当に並べると、大体わしに合っとるの…と勝手な事を言い出す。

そんなバカさ加減に乗じて、おせんは一つお願いがございます、鎮守様の祭りの時、茶店を出す事をお許し下さいと願い出てみる。

すると、代官は、わしはおかかの事が大好きだなどとぬけぬけと言い出したので、奥方様に怒られますよとおせんが言うと、奥の事等考えるものかなどと代官は強気発言をし、小屋中逃げ回るおかかを追い回し始める。

その時、二階の床に腹這って覗いている甚兵衛の顔を見つけた代官は、おっ!長い顔だな〜と驚く。

そこに神官の胤臣(多々良純)がやって来たので、小屋の隙間から中を覗いていた宇右衛門は転げ落ち、這々の体で逃げ帰る。

神官も又、小屋の中に入ると、おせんに茶を所望する。

代官屋敷に戻った代官は、奥方の信乃(香川京子)の前に来ると、たった今まで、冠山で、わし1人で9人の残党を相手に戦って来たが、いつしか国境を越えておったと、身振り手振り混じりで大噓を並べる。

信乃は、その話を真に受けたような顔をして、あなた様も荒木家の養子として、その赤い陣羽織にふさわしいお働きをなさったようなので、お城の父に今日の喜び書き記しましょうと言うので、代官は、強きものが好きか…と嬉しそうに呟き、赤い陣羽織を脱いで衣紋掛けにかけ、恭しく手を合わせる。

その頃、水車小屋では、あの赤い陣羽織はいつ観ても立派だな〜と甚兵衛が、おせんの膝枕で耳あかを取ってもらいながら感心していた。

どんな男が好きかと言うから、全部あんたの事を言ってやったとおせんが言うと、お代官が言うておったように、お前の手は混じりけのない餅米じゃと言いながら手を触る。

おせんは、早く田圃欲しいねと言い出したので、お前、大丈夫か?と甚兵衛は案ずる。

代官屋敷では、信乃が代官に、腰元の雪路と下男の作造に暇をやりますから、あなたの口から言ってください。不義は決して許しません。これは一家の主と家例外は認めませんときつい口調で言うので、許せよ、つい水車小屋で…と代官は口走りかけるが、水車小屋がどうしたのです?と信乃から問いつめられると、くりくり…廻っておった…と、何とかごまかす。

明日はどこにも行かぬぞと代官が約束すると、最近ご無沙汰の寝室へ信乃が誘って来たので、働きものが好きか…と、又代官は、おせんが言った言葉をにやにやしながら思い出していた。

翌日、信乃見学のもと、矢の稽古をしていた代官だったが、一向に矢は的に当たらぬ。

矢は下手でも、太刀では引けを取らぬと代官は言い訳するが、信乃は、いいえ、あの赤い陣羽織を着るものは、武芸全般に通じていなければなりませんと言い、その後も矢が当たらぬのを観ると、ええ、何とふがいない!と立ち上がり、自ら矢を放ち、見事、的のど真ん中を射止めてみせ、あなたの腕では、赤い陣羽織は着せられませぬ。父に申し上げて取り上げます等と言い出す。

その時、藤太が代官の側にやって来るが、代官は切羽詰まり、南無八幡!と神仏に祈り、矢を放つと、何とか、的の真ん中に当てる事が出来た。

その呼吸をお忘れなく!と言い残し、信乃は下がって行き、藤太が代官に耳打ちをする。

庄屋が?と驚いた代官は、金でもやってみたらどうでしょう?と藤太から勧められるが、わしには一文も金は自由にならんと代官は無念がる。

すると、また藤太が耳打ちすると、それは良い思いつきじゃと感心する。

その後、琴を弾いていた信乃の元にやって来た代官は、次は槍と小柄の練習をと勧める信乃に、この間手伝ってくれた足軽たちに褒美をやろうと思うので、3両ほど…と切り出す。

すると、信乃は、それは良い事を思いつかれました。家来を思うのは主として大切な勤めですと褒め、3両を渡してやる。

神社の鳥居の側には、おせんが甚兵衛と共に、茶店の準備を始めていた。

そこに勘六がやって来て、お前等は良く働くから、庄屋様が褒美としてこれを下さるそうだ。くれぐれも旦那様のご恩を忘れるでないぞと言い残して帰って行く。

そこに藤太も近づいていたが、途中、3両の仲から2両を自分の懐にくすねてしまう。

おせんは、庄屋からもらった反物を喜ぶが、甚兵衛は複雑な顔をしていた。

そこに藤太が来て、お前たちはよく働くので、村の手本として、お代官様からご褒美が出た。ありがたく思えよと言い、1両を手渡して帰る。

水車小屋に戻って来た甚兵衛は、やっぱりそれはもらえねえよ!と言い出すが、返すと後の祟りが怖いもん…、田圃を買う時に使えば良いよとおせんはしっかり者らしい知恵を出す。

しかし、今朝の手紙で、弟の益助が侍になりたいと言って来たので困ったもんだ。お代官様に頼もうか?とおせんが言うと、鉄砲の手入れをしていた甚兵衛は、いけねえ!と即答するのだった。

それでも、私、お代官様の所へ行って来るとおせんが立ち上がろうとすると、必死に甚兵衛が止めるので、この焼き餅焼き!と笑ったおせんは、そんなもの見つかったら大変だから、隠した方が…と鉄砲のことを言う。

これで、お前を手込めにしようとしていた若侍をぶっ殺したからな…、言わばオラとお前の縁結びの鉄砲だと甚兵衛は感慨深気に言い、おせんといちゃつき出す。

その頃、信乃は、城の家老である父親に会いに行こうとしていた。

何の用事だ?と聞いた代官だったが、後で…と、信乃が答えを先送りにすると、お発ち〜!と、代官は、奥方が留守になるのが嬉しいらしく、笑顔で大声を上げるのだった。

出立前に、神社に参りに来た信乃に、せっかく祭りがあるのですから、出立はその後になさったら?と勧める神官に、祭りの日にまでは帰ってきますと答え、あの鳥居の側の仮小屋か?と聞く。

茶店です。村でも評判の美人がおりますと神官は教え、信乃を茶店に案内して来る。

おせんを観た信乃は、なるほど、きれいな女子じゃなと感心するので、亭主想いで、なかなか落ちませぬ…と身持ちが堅い事も神官は教える。

そちは町方の生まれじゃなと信乃が聞くと、恐縮したおせんは、河内に弟がいるだけで、後は死に絶えました。亭主といるここが故郷ですと答える。

それを聞いた信乃は、立派な女子じゃ、私より立派じゃと感心するので、神官は、お二人ともなかなかご立派ですわいと笑う。

その頃屋敷では、藤太が聞き込んで来たおせんの望みを何とか叶えられないかと代官が思案していた。

弟とやらの奉公口は叶えられそうだが…と代官が悩んでいるので、田畑を何とかできれば…と考えていた藤太は、又何かを思いついたように代官に耳打ちし、その知恵を褒められると、すかさず、お手当をと言いながら手を差し出す。

やがて、近々検地を行うと言うお触れが出たので、農民たちは去年やったばかりでねえか?と首を傾げる。

噂好きの黒助は、また、お年貢があるぞと推理をみんなに聞かせる。

庄屋の田圃の検地が始まるが、家来が計って23間(けん)!と言うと、その側にやって来た藤太は、30間!と叫ぶ。

代官の背後でそれを聞いていた宇右衛門と勘六は、去年と違うと首を傾げる。

自分も観て来ると言い、計測場所に近づいた代官は、測量係の家来が32間!と読むと、40間だ!と言い直す。

こりゃどうも、おかしいなぁ〜…と宇右衛門はうなる。

代官に近づいた藤太は、これで、おせんめは、ころりと…と笑いかける。

屋敷に戻った代官は、「畑一町一畝を与える」と言う証文を書き記すと、藤太に、馬を引け〜!と呼ぶ。

やって来た藤太が、おせんは今、1人でいると教えると、喜んだ代官は、又手当の金を渡してやる。

神社に馬でやって来た代官は、馬を店の脇に繋ぐと、店の中に入り込む。

近くで見張り番をしていた藤太は、何と、奥方信乃の駕篭が帰って来た事に気づき、慌てて、代官に知らせに走る。

これを観たら、わしを神仏の再来と思うぞ等と言いながら、証文をおせんに渡そうとしていた代官は、奥方様が今ここに!と言う藤太の知らせを聞くと慌て出し、おせんが開けてやった裏側から小屋の陰に隠れる。

茶店の横を通って行く駕篭の中から、信乃は小屋の横につながれている見覚えのある馬の姿を目撃する。

その直後、馬を走らす赤い陣羽織姿の代官の姿を目撃した農民たちは、えれえことだ!こりゃ、年貢どころの話でねえ!戦でもおっ始まるぞ!と狼狽する。

奥方の駕篭より先に屋敷に舞い戻った代官は、急いで着替えると、何食わぬ顔で読書をしていたように装う。

そこに、お殿様と呼びに来たので腰元は、代官が身体に触ろうとするので、お戯れを…と軽くいなし、奥方様がお呼びでございますと伝える。

信乃の部屋に代官が来ると、お話があります。あなたをお城詰めにしてもらいました。あたら、あなたのような方を田舎侍で終わらせるのは惜しいと思いましたので。明日の祭りの後、城に入ったら、その赤い陣羽織にふさわしいお働きを…と告げる。

急な話に驚いた代官だったが、父の命令では仕方ないと受け入れる事にする。

その頃茶小屋では、お前等夫婦には、ややがおらんのがいかんのだと、甚兵衛とおせんを前に神官が話していた。

山向うの湯に入ったか?実に霊験あらたかな効能があるそうじゃと神官は2人に勧める。

いよいよ、祭りの日がやって来る。

お屋敷では、天下晴れて夜ばいが許される祭りですから、今夜はどうぞたっぷりと…と代官にけしかけていた。

その後、藤太は庄屋の屋敷に向かい、代官は、茶を進めて来た奥方に、これから巡視に出る。ひょっとすると今夜は帰らぬかもしれんと、饅頭を食いながら言っていた。

農民たちは、太鼓が鳴っている間は動けるが、音が止まると、動きも止めなければならないと言うこの村特有の風習を嬉しそうに話していた。

神社では、お囃子が始まったので、茶店を手伝ってくれていたおふみ(市原悦子)に、あんたも観に行って良いよとおせんは勧める。

お囃子は、ひょっとこの面をかぶった踊り手と、おかめの面をかぶった踊り手が抱き合うきわどい内容のものだった。

そのお囃子を観ながら、男女の村人たちは、暗闇祭りの相手を物色するのだった。

かか、お前も囃子、観て来いと甚兵衛は言うが、おせんは、その後は暗闇祭りだよと教えると、だったら、行っちゃいけねえと慌てて甚兵衛は止めるので、ほらごらんとおせんは笑う。

やがて、神社内を照らしていた松明に水がかけられ、辺りは真っ暗闇になる。

それを合図に、集まっていた男女の村人たちは、一斉に森の中に入り込む。

ある男が若い娘に抱きつくと、それは自分の実の娘だったり、あちこちで混乱が起きる。

神官が叩く大太鼓の音が止まると、全員の動きも止まらなければ行けなかった。

じれた男が、太鼓だ〜!太鼓、鳴らせ〜!と叫ぶと、また、大太鼓が鳴り始め、人々は一斉に相手探しを始める。

積極的な女に抱きついた男は、その口が不自由だと知ると、慌てて逃げ出す。

その中に混じって楽しんでいた勘六は、庄屋が呼んでいると聞かされると、畜生と言いながら森を出て行く。

その頃、水車小屋に戻っていた甚兵衛は、おせんと水入らずで酒を飲みながら、オラ、天下一の幸せ者だ…と脂下がっていた。

歌っておくれよと言うおせんの頼みに応じ、甚兵衛は歌い出し、それにおせんも唱和する。

その時、戸を叩く音が聞こえたので、出てみると、そこにいたのは勘六で、旦那様がお調べがあると伝える。

一方、代官屋敷に戻って来た藤太に、庄屋は言うことを聞いたか?と確認した代官は、また、藤太にお手当を求められる。

庄屋に呼びつけられたと知ったおせんは、これはひょっとすると、代官の悪だくみかも…と気づき、おかかを信じているからなと言い残し、甚兵衛が勘六と共に庄屋の家に向かうと、急いで戸を閉め、心張り棒を差し込む。

しかし、もう水車小屋の側に藤太と代官が身を潜めていた。

出かけました。中にはおかか1人です。朝までごゆっくり!と藤太は代官に微笑みかけ、代官は藤太に見張っていろと命じて水車小屋に近づく。

小屋の中では、身の危険を感じたおせんが、孫太郎、もしもの時には加勢してくらないと困るよと、馬に言い聞かせていた。

水車の側にやって来て、にやけながら髪や眉毛を手入れしていた代官だったが、夜と言うこともあり、突然足を滑らせて川の中に落ちてしまう。

やがて代官は、水車に巻き込まれ、身体が持ち上げられる。

その結果、窓が開いていた二階から中に無事入り込む事が出来る。

あら、お代官様!おせんは、全身ずぶぬれの代官を観て驚く。

一方、庄屋の家に連れて来られた甚兵衛は、取り調べは明日だと言われ、その晩は小屋の中に監禁される事になる。

外から鍵をかける勘六は、別嬪のかか持つと大変だな…と同情する。

小屋の中に入れられた甚兵衛は、おかか、オラ、悪かった!と1人おせんを水車小屋に置いて来た事を後悔する。

代官は、田圃一町歩を与えると書かれた濡れた証文を見せ、益助は足柄に取り上げてやるとおせんに約束していた。

そんなものいらねえ!とおせんは断るが、急に刀を抜いた代官は、こっちかこっちか、どちらを選ぶかはおかかの気持ち一つ…と脅し始める。

すると、おせんは、火をおこしてきますと言いながら、奥へと下がったので、では、頂くかなと代官が気を許した時、おせんは甚兵衛の鉄砲を持って代官に迫って来ると、これを撃つか、お帰りになるか、どちらを選ばれるかは、お心のままでございますと言い放つ。

その直後、銃声がこだまする。

甚兵衛は小屋の中で、開けろ〜!と叫んでいた。

その時、外にいた庄屋の宇右衛門は、そうそう代官の思い通りにさせてたまるか!とぼやきながら、こっそり戸の鍵を壊してやっていた。

戸が開いたので、闇の中、外に走り出た甚兵衛は、一路水車小屋に帰ろうとするが、分かれ道の所で、馬が走って来ていなないたので、慌てて道の脇に身を隠してやり過ごす。

水車小屋に帰り着いた甚兵衛は中に飛び込むが、家の中にはおせんも、馬の孫太郎もいなかった。

観ると、火が起こしてあり、その周囲に、あの赤い陣羽織等が立てかけて干してあるではないか。

外からは、まだ、祭りの大太鼓の音が聞こえていた。

おかか、裏切るなや…と念じながら、家の中を探しまわっていた甚兵衛は、二階に布団が敷いてあり、その中に誰かが寝ているらしく蠢いているのに気づく。

やがて、その布団から汚い男の足の裏が伸びて出て来たので、何つうこった!おかかのバカやろう!と甚兵衛は絶望する。

下に降りて、そこにあった白い布で汗を拭った甚兵衛だったが、良く観ると、その布には紐がついており、代官のふんどしだと言うことが分かる。

田圃を与えると書かれた証文も見つけた甚兵衛は、こんなものに騙されて…と悔しがり、その場に破り捨てると、同じく下に置いてあった代官の刀を取り上げ、いや、そんな事したら、オラ、縛り首だ…と怯えながらも、やったる!おかかも一緒に…、待ってろ!と呟くと刀を抜き、二階へ上がりかける。

しかし、どうしても代官を殺す勇気が出ず、殺すより、仕返しだ!奥方を寝取ってやる!と呟く。

その頃、庄屋の屋敷の前に来ていたおせんは、門を叩いていた。

小屋の前では、宇右衛門が、鍵を壊して逃げたんや!と勘六に説明し、馬で後を追わせていた。

門を開けると、そこにおせんがいて、うちの人は?と聞くので、甚兵衛はもう、お前のうちに帰っておるよと宇右衛門は教えてやる。

その水車小屋から、代官の赤い陣羽織を着た甚兵衛が、頬被りをして外に出て来ていた。

その直後、水車小屋の中に入り込んだ藤太は、二階の布団で一人寝ていた代官を発見し、確かに今ここから出て行ったはずだが?と首を傾げる。

目覚めた代官からおせんの行方を聞かれた藤太が、鉄砲が鳴ると、お代官様が死なっしゃった!とわめきながら、確かにここから飛び出して行ったと教えると、大変だ!今頃村中に言いふらして廻っているに違いないと代官は慌てる。

おせんの着物を羽織っていただけの代官が、着物は?と探すと、そこには、甚兵衛の野良着しか残ってない事に気づく。

そんなものが着られるか!貴様は縛り首だ〜!と藤太に激怒した代官だったが、他に着るものもない事を悟ると、明日、盗人は捕まえますからと詫びる藤太に、貴様の話に乗ったばかりに…等とぶつぶつ言いながらも、野良着を着込む。

これで頬かぶりを…と藤太から渡された白い布を顔にかぶった代官だったが、その布には紐がついており、自分のふんどしと分かると、無礼者め!と怒って捨てようとするが、誰かが来た気配がしたので、慌ててふんどしをかぶり直して隠れる。

そこにやって来たのは、宇右衛門、勘六、おせんの3人だった。

部屋の隅に隠れていた代官に気づいた宇右衛門は仰天し、お前さんと抱きつこうとしたおせんも、人違いだと気づくと、何だ…と呆れる。

そんな扱いに耐えかねた代官は、どいつもこいつも縛り首だ〜!と、野良着姿のままわめく。

取り乱した代官に、しっかりなさいませ!となだめる藤太。

おせんは、お前さん!と叫びながら家中を探しまわるが、宇右衛門と勘六は、甚兵衛の考えに気づき、巧い事考えたな…、奥方様もなかなかの美人だから…と囁き合い、それを聞いていたのか、代官は、大変だ!みんな、続け〜!と命令する。

宇右衛門は、つまらない事をしゃべったばかりに…、今度は正真正銘の縛り首だ…とがっかりする。

その頃、代官屋敷に来た甚兵衛は、あっさり屋敷の中の、信乃のいる部屋まで通される。

誰も、赤い陣羽織を着た甚兵衛を偽物と見破るものはなかったのだ。

外からは、まだ、無礼講を知らせる大太鼓の音が響いて聞こえていた。

あなたですか?まあ頬かぶり等して…と、寝所から出て来た信乃は戸惑うが、背中向けに座った甚兵衛は、頬かぶりを取ると、来なくても良いと返事をする。

すると、信乃は、そうですか…と言うだけで怪しまず、では、こちらでお待ちしています…と言いながら、寝所に入って行く。

あの太鼓が鳴っている間は、下々は無礼講だとか…などと、意味ありげに信乃は誘って来るが、座って動けない甚兵衛は、やっぱりオラには出来ねえ。おかか、許して〜!と言いながら、寝所に入って行くと、つい立てに赤い陣羽織をかける。

山川代官所に戻って来た藤太が、戸を叩いて、お代官様のお帰りだ!と声をかけるが、顔をのぞかせた門番は、もうとっくにお代官様は帰っておられると言うではないか。

何?帰ったと?と言いながらやって来たのは、野良着姿の代官だったが、その顔を観ても、門番は代官と気づかない様子。

人の気持ちも知らないで!とおせんも怒りながら門前にやって来る。

代官は癇癪を起こし、門を叩くが、すると、門が開き、中から武装した家来や腰元たちが出て来て、大将の名を騙る不届きものめ!と言い、貴様たち、縛り首だ〜!とわめく代官を、黙れクソ親爺!といなしながら屋敷の中に引き立てて行く。

庭先に引き立てられたおせんは、お前さん!と言いながら泣くし、大太鼓の音色に気づいた代官は、太鼓やめろ〜!と叫ぶが、もう手遅れか…と肩を落とす。

そこに、ふすまが開いて、奥方の信乃が姿を現す。

奥!これはどうした事だ!戯れにしても酷過ぎるぞ!と代官は庭から上がろうとするが、甚兵衛とやら、私の夫は、今頃まで夜遊び等しません!お代官様は、今起きて来て、取り調べをしますと信乃は叱りつける。

その時、おなり〜と声が響き、奥から出て来たのは、赤い陣羽織を着た甚兵衛だった。

それを観た代官は、おのれ〜!甚兵衛!と気色ばむし、おせんは、お前さん!とわめきながら泣く。

もうこの上は!と言いながら、腰の刀を抜こうとした代官だったが、野良着の腰には刀等さしていなかった事に気づく。

お代官様直々のお調べに神妙に答えるのですと信乃が言葉をかけるが、泥で汚れ切った馬面の甚兵衛が、みなのもの…と、おかしな口調で言い出すと、庭の背後で聞いていた勘六たちは噴き出してしまう。

甚兵衛とやら…、その方、不届きによって、謹慎を言いつけると、甚兵衛本人が代官に向かって言い渡すと、おせんは、お前さんったら!と苛立たしそうに呼びかける。

松助は足軽にする、田圃も持たせてやると言うのを聞いたおせんは、ああ、とうとう気が触れちまった!と嘆く。

庄屋も生け贄で百叩きじゃと甚兵衛は言いだしたので、横で聞いていた勘六は、昔助けてやったでねえか!と訴える。

それを聞き届けたのか、藤太も生け贄として百叩きと命じた甚兵衛だったが、勘六は勘弁してやると言うと、人のかかには手を出すなよと念を押す。

それまで庭先で聞いていたおせんだったが、お前さんこそ、何やったんだよ!と言いながら、屋敷に上がり込むと、人が命を賭けて身を守り、孫太郎に乗って分かれ道に来た時、まごたろうが鳴いたろう?と言いながら、甚兵衛に詰め寄る。

それを聞いた甚兵衛は、そうか、あの時…、馬はオラを分かったのに、人間の方が気がつかないとは…と、分かれ道ですれ違った馬に乗っていたのが、逃げ出して来たおせんだった事に気づく。

それを、奥方様なんかと!と嘆き悲しむおせんに、信乃は、代官荒木源太左衛門、自分の夫を寝間に通して何が悪い?そなたは私を罰する事が出来ますか?もう泣かずとも良い。これには訳があると言い聞かし、甚兵衛とおせんを奥へと通す。

庭に取り残された代官は、分からん!お前等どう思う?と背後に控えていた庄屋等に聞く。

すると、宇右衛門が、お代官様がおかかに降られた事は分かるが…とだけ答える。

悔しい!そんな気を起こして!とおせんは、奥方を襲おうとした甚兵衛の事を聞くと、嫉妬に狂う。

私は声を聞いたときからおかしいと気づき、寝間のつい立ての後ろ手懐剣を抜いておりました…と信乃が説明する。

その時、ふとこうした裁きを思いついたのです。例え、偽代官であろうとも、先ほどの裁きは噓ではありませんからねと信乃は優しくおせんに言い聞かす。

こうして、甚兵衛とおせんは仲良く屋敷を出ると、水車小屋に帰って行く。

後に残った代官に向かい、赤い陣羽織は、あなたがもっと修行を積むまで私が預かりますと信乃は言い渡していた。

さすがに代官は反省し、わしが悪かったと頭を下げ、一緒に寝間に入ろうとするが、先に入った信乃はさっさとふすまを閉めてしまう。

両方とも預けられては、立つ瀬ないわ…とぼやいた代官は、その夜、隣の部屋で、脇息を枕に1人寝をするしかなかった。

翌朝、信乃は、代官を起こすと、さ、お召しなさいませと赤い陣羽織を差し出すと、領民の手前、示しがつきますまい。今日1日、国境までですよと釘を刺す。

その頃、甚兵衛とおせんは神社に参って手を合わせていた。

こんなに朝早くからどこへ行く?と言いながら近づいて来た神官は、分かった!子宝の湯じゃな!と破顔する。

庄屋の宇右衛門らが見送る中、赤い陣羽織を着た代官は馬に乗り、信乃は駕篭に乗り、城へと出立する。

代官の行列が近づいて来たので、旅を始めていた甚兵衛とおせんは土下座をして迎える。

その横を通り過ぎる時、馬上の代官は、気まずそうに咳払いをし、その後に続いた駕篭の中からは、信乃が顔を見せていた。

行列を見送って立ち上がった甚兵衛は、良い奥方様だと感心する。

遠ざかって行く赤い陣羽織を観ながら、まるで燃えてるみたいだ。お前さんも立派に見えたよと、夕べの甚兵衛の事を思い出す。

つまり、中味じゃなく、みんな赤い陣羽織にお辞儀をしているって訳だねと甚兵衛が気づくと、じゃあ、私たちもとおせんが言い、2人とも、遠ざかって行く赤い陣羽織に向かってもう1度頭を下げるのだった。