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網走番外地('59)

刑務所に入れられた受刑者と、彼と愛し合うようになった看護婦との純愛を描いたラブロマンス

「網走番外地」がラブロマンス?と意外に思われた方もいるだろう。

そう、これはまさしく、伊藤一原作の映画化作品なのだが、高倉健主演で有名な「網走番外地」(1965)より早い時期に既に映画化されていた日活版であり、こちらの方が原作に近い内容らしく、健さんの「網走番外地」は、原作とはかけ離れた内容だったと言うことを今回知り、驚かされた。

アクションものだった健さん版を知っているので、恋愛ものらしき「網走番外地」と知り、観る前は嫌な予感がしていたのだが、実際に観てみると、これはこれで成立しており、それなりに面白いと感じた。

何より、雪の情景、刑務所の外観、雪山での作業等は、ちゃんとロケでリアルに撮られており、刑務所内の様子等も丁寧に描かれており、健さん版と遜色はない。

それと交差する形で、主人公とヒロインが出会ったいきさつが回想の形で出て来るのだが、その部分は、白黒風景写真の一部に合成で人物がはめ込まれると言う不思議な様式で作られている。

タイトル部分に日活特殊技術課の文字も入っており、一種の特撮シーンとして挿入されているのだ。(ただし、合成と言っても、単純なマスク合成であり、トラベリングマットのような複雑なものではない)

ヒロインの浅丘ルリ子は、この前年、小林旭とのコンビ作「絶唱」(1958)で小雪を演じているが、この作品のみち子もまた、ずっと恋人を待ち続ける小雪に似たタイプの女性であるため、また途中で病気に倒れる「難病もの」なのか?と、思わず想像してしまったくらい似た要素がある。

つまり、この日活版「網走番外地」は、「絶唱」等の流れを継ぐ、不遇な若者同士の純愛路線として企画されたのだろう。

しかし、この作品を、高倉健さんが忠実に演じていたらどうなっていただろうか?と思わずにはいられない。

恋人を想い、一人涙ぐむ健さん…

やはり「泣く健さん」と言う部分がピンと来ないような気がする。

東映、高倉健版の「網走番外地」は、原作とは全く別物だったからヒットしたのだろうし、シリーズ化するほどの人気も得たのだろう。

恋愛ものとしての「網走番外地」は、これで話が完結してしまっているし、もっと観たい!と後を引くような強烈な要素もないように思える。

とは言え、東映を離れフリーになった健さんが、その後、「幸福の黄色いハンカチ」とか、近作「あなたへ」で、妻への一途な気持ちを持ち続けている不器用な男を演じているのは興味深い。

それは、この最初の日活版「網走番外地」の主人公に、どこか重なる部分があるからである。

小高雄二は、ヤクザっぽさこそ希薄だが、甘い二枚目だし、看護婦姿の浅丘ルリ子も若々しく魅力的である。

血も涙もない鬼のように見えながら、実は、受刑者たちの事を想っている温情派の担当を演じている芦田伸介も、なかなかはまり役のように見える。

当時の芦田さん、顔が何だか妙に荒れていて、不気味な風貌だからだ。

三代目おいちゃんこと下條正巳、リリーこと浅丘ルリ子、ひろしの兄役梅野泰靖など、後の松竹の「男はつらいよ」シリーズで、レギュラーになる3人が揃って出ている事にも注目したい。

一見、男女共に見所があるドラマのようにも見えるが、見方を変えると、ヤクザ同士の男臭い対立ドラマと甘い恋愛劇と言う相反する要素が、男女双方に、何となく受け入れ難い中途半端な印象を与えているのではないかとも思う。

劇中に登場する老懲役が、健さん版における「鬼寅」役に当たるのだろうか?とか、小沢昭一が演じている田口が、健さん版における由利徹役なのだろうか?とか、色々、2つの作品を対比させて、キャラクターの類似点などを、あれこれ想像する楽しさはある。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1959年、日活、伊藤一原作、柏木和彦脚本、松尾昭典脚本+監督作品。

機関車が吐き出す煙

雪の中を走る機関車

その1車両の中には、互いに手錠で繋がれた受刑者たちが何人も座っていた。

みち子…、とうとう来るべき所に来てしまった…、最果ての地だ…、これからは寒さと、お前のいない寂しさに打ち勝たなければならない…

手錠に繋がれ車窓をぼんやり眺めていた受刑者の1人石塚肇(小高雄二)は、前の席に座っていた同じ受刑者の田口(小沢昭一)から、リンゴを食わんかと差し出され、今食うとかんと、もうじき網走やで…と言われる。

網走駅に到着した彼らは、駅前で待ち構えていたトラックの荷台に並んで乗り込む。

(網走刑務所前にトラックが到着し、門が開くと中に入って行くまでの様子を背景に)タイトル

看守が房の中を見て回る。

その一室に石塚の寝ていたが、自分がここに来るきっかけとなった喧嘩沙汰を思い出していた。

(回想)ヤクザならヤクザらしく名乗ったらどうだ!どうせアプレのチンピラだろうが!石塚は、チンピラ3人(榎木兵衛ら)に囲まれ、啖呵を切っていた。

殴り合いをはじめるが、相手から左太ももを刺されてしまう。

気がついた石塚は、手術台の上に寝かせられていた。

手術をしていた医者藤山修造(大坂志郎)が、往診の帰りに偶然発見してくれたらしく、今、その医者の娘みち子(浅丘ルリ子)の血液が、石塚と同じ0型だたので輸血してもらっていた所らしい。

その手術の様子を観ていた看護婦役で、藤山の妻杉江(新井麗子)は、人騒がせにもほどがあります!と不機嫌そうだった。

輸血を終えて立ち上がったみち子は、もう大丈夫よ。ゆっくりお休みなさいと、まだ意識がもうろうとしていた石塚に語りかけてくれる。

翌朝、夕べは痛かったでしょう?傷口…と、目覚めた石塚に話しかけて来たのは、看護婦の格好になったみち子だったので、君は看護婦だったのか?と石塚が驚くと、今は見習い方々親孝行しているのみち子はは笑う。

そして、どうしてそんなに危ない事するんですか?人間同士で傷つけ合うようなバカな事をしないでとみち子が言うので、ヤバい事は俺たち同士でカタを付けているんだ。俺も戦災孤児さ…と石塚が答えると、みち子はさみしくない?と聞いて来る。

酒もあるし、女もいるから…と石塚が苦笑すると、不潔な生き方ね。私も孤児だけど、弱虫じゃないわ!とみち子は叱って来る。

(回想明け)サイレンの音と共に、房内に、起床!の号令がかかる。

全員、房内で起きた受刑者たちは、急いで外に出ると、一人スプーン一杯の歯磨き粉を手のひらに受け、歯磨きをすますと、全員で朝食が始まる。

石塚と同じ房の飯田(梅野泰靖)は、飯くらいゆっくり食わせろやとぼやくが、それを石塚の隣で聞いていた田口は笑う。

その後、彼らは作業場で草鞋作りをやらされる。

(回想)退院後の夜中、ふらりと藤山医院の玄関前にやって来た石塚だったが、出て来たみち子に、この前の勘定払おうと思って来たんだが、入り難くて…、つい駅前で一杯引っ掛けて来たんだ…と言いながら、よろよろと看板の下に踞ってしまう。

みち子が父親に手伝いを頼み、一緒に表に出て来た時には、もう石塚の姿はいなかった。

しかし、看板の下にお守り袋が落ちている事にみち子は気づく。

長男の を連れて出て来た杉江は、又しても迷惑顔だった。

父親と二手に分かれ、近所に探しに出たみち子は、公園にいた石塚を見つけ、どうして逃げたりするの?と聞きながら近づく。

お守りが落ちていたと返してもらった石塚は、何とかかき集めて来たと言いながら治療費をみち子に手渡すと、あんたからもらった血液大はもうちょっと待ってくれと頼む。

そんな事良いのに…とみち子は断るが、俺に気がすまないんだと言いながら、実はこれ、お袋の形見なんだけど、預けとくよ。担保みたいなものだよ…と照れくさそうに、今受け取ったお守りを又渡そうとするので、みち子は笑って受け取り、今度来る時はお酒何て飲まないでね。私、弱虫、嫌い!げんまんと言いながら小指を差し出す。

俺…、あんたが…と言いかけた石塚だったが、そんな自分自身に、バカ!何言ってるんだ!と突っ込みを入れてごまかす。

(回想明け)こら!と草鞋作りの間、ぼーっとしていた石塚は、看守に怒鳴られて我に帰る。

隣で作業していた田口が、女房の事思い出してたんか?と聞いて来る。

あれから俺は、本当にお前に会える人間かどうかよく考えた…、また、石塚は、みち子との思い出に浸り始める。

(回想)喫茶「RAN」で、みち子と出会っていた石塚の元に、サングラスをかけた男が、後で事務所に来いと声をかけ立ち去って行く。

誰なの?とみち子から聞かれた石塚は、兄貴だ。そろそろ来るだろうと思った。今の仕事嫌になった。事務所なんか行かないよと石塚は笑って答える。

後日、病院のみち子に石塚から電話がかかって来て、公園に来てくれよなと言うので、承知して電話を切ると、側で聞いていた母親が近づいて来て、あなた、まだ、あんな人と付き合ってってたの?と叱るような口調でみち子に聞いて来る。

それから2人は、人目を忍んで会うようになった。

それでも当時の俺には、まだ色々厄介なものがつきまとっていた。優子と言う女との関係、仲間との関わりを切る事等…

ある日、石塚のアパートに1人やって来たみち子は、家を出て来たと言うので、どうしてそんな事をしたんだ?と石塚が驚くと、やっぱり私、あの家では余計者だったの。あなたとの事、お父様は分かってくれたんだけど…と母親との折り合いが巧く行ってない事をみち子は訴える。

そこに突然やって来た優子(楠侑子)は、みち子の顔を観ると、蟲も殺さないような顔をして…、男の部屋に1人で来るからには覚悟して来たんだろうね…などと、とねちねち嫌味を言って来たので、耐えきれなくなったみち子は部屋を飛び出して行き、石塚は優子を殴って、お前、俺のことが信用できないのか?と叱りつける。

優子はその場に泣き崩れる。

病院では、杉江が夫の修造に、家でをする何てバカバカしい。やっぱり血筋が違うんですねなどとみち子の事を悪く行っていたが、修造は、お前、修一が出来てからみち子への態度が変わったなと指摘する。

ぎくりとした杉江だったが、院長先生の私生児をもらったんじゃないの…とみち子の出生の事を持ち出すと、その代わり、開業できたし、養育費の事もみち子は知っているよと教える。

その頃、みち子は、公園で家にも帰れず時間を潰していた。

一方、石塚は、東京中をみち子を探し求めて歩いていた。

その内、俺の暮らしも次第bに苦しくなって来た。

そんなある日、石塚のアパートにやって来た兄貴は、仕事やってもらいてえと言い出し、返事をためらっている石塚に、おめえ、まさか、小便臭え小娘に何か言われたって言うのか?と言い残し、帰ろうとしたので、やりゃ良いんだろと石塚は答える。

丸三商事と言う会社の宮越専務(雪丘恵介)に、債券の取り立てで出向いた石塚は、用心棒役として雇われているらしいヤクザの川瀬(近藤宏)が出て来て、ここは俺の顔を立てて…などと仲裁に入って来たので、殴り合いの喧嘩になる。

事件は新聞に載り、石塚が逃亡したと言う記事をみち子は読んでいた。

その後、優子が寝ていたアパートにやって来た石塚は、金を貸してくれとナイフを取り出して頼むが、ないわよ、そんなもの!と断られたので、ベッドの布地をナイフで斬り裂き、その中に隠してあった札束を奪って逃げる。

そして、いつかの公園にたどり着いた石塚は、そこにみち子がいるので、今までどこにいたんだ?と話しかける。

今日の夕刊観ました。私にとってあなたの会うのが一番だと思ったんです。2人ではじめからやり直しましょう。お願い!自首してちょうだい!これからはみち子を信じて!とみち子は頼むが、自首はごめんだ!あなたには俺に気持ちが分かってない!さっさと家に帰るんだな!と冷たく石塚が言い返すと、みち子は哀しそうに泣き出すのだった。

(回想明け)作業終了の鐘が鳴り響き、看守が吹くホイッスルの音に合わせ、受刑者たちは全員行進しながら、自分の房の前までやって来る。

房の中に入ると、飯田が良いニュースがあると言い出す。

この中から成績が良いものが、泊まり込みの作業に出されるらしい。

住吉か二見か…、泊まり込みに出れれば、仮釈放が近いってことだと言う。

それを聞いた石塚は、隣にいた先輩格の受刑者に、親父さん、何年入っているんだと聞くと、昭和19年の情婦殺しの事件だから、刑では無期だったが、色々その後温情もらって、14年3ヶ月勤めたよと言う。

61番と呼ばれているその老人は、シャバに出たら何がしたい?と石塚に聞かれると、とにかく自由なシャバに出られるだけで十分だと答える。

(回想)俺は、自首する途中で逮捕された。

みち子は風の日も雨の日も面会に来てくれた…

2人を分つ金網を握りしめたみち子の手に石塚は口づけっし、みち子は涙する。

俺なんか忘れてくれてんと石塚は虚勢を張るが、お守り袋を新しくして、裏に私の名前を入れておいたものを看守さんに渡しておいたから、これからは、お母さんと私の事を思い出してね。これから辛い事が合っても我慢してね…とみち子が訴えると、もう兄貴とは縁を切るよ。約束するよと石塚は答える。

裁判が始まり、弁護士(下條正巳)は、証人台に石塚の妻みち子を…と言い出したので、石塚は仰天する。

裁判長(清水将夫)が、職業を聞くと、みち子は看護婦と答え、いつから勤めました?と聞かれると1年ほど前と言う。

結婚をしているのですね?いつ結婚しました?と裁判長が聞くと、弁護士が立ち上がり、みち子さんは石塚が逮捕されてから入籍したのですと訴える。

裁判長はみち子に、懲役に行くと苦労があるが耐えて待ってますか?と聞き、はいとみち子が答えると、今の気持ちをしっかり持っておやりなさいと諭す。

それを聞いたみち子は泣き出し、聞いていた石塚も又泣き出していた。

数日後、石塚の房にやって来た看守が、番号を呼ばれたものは、私物をまとめて出ろ!と言い、238、316、408、409、228、185…と番号を呼ぶ。

石塚も中に入っていたので、喜んで雪の中、トラックの荷台に乗り込み、泊まり込みの場所に移動する事になる。

荷台に乗り込んだメンバーの中には、丸三商事で殴り合った川瀬もいたが、石塚も川瀬も、昔の事を笑い合う仲になっていた。

やがて彼らが到着したのは、飯場みたいな場所だった。

布団を背負い、トラックを降りた彼らの前に現れた岩井担当(芦田伸介)は、木崎!牧田!田口!石塚!飯田!川瀬!と点呼を取ると、ここは仮釈放になる事を前提に働く所で、ここを無事勤めあげて本所に帰ると、その後家に帰れる可能性が高い。住吉作業場は試練の場所だ。つまらない懲罰食らって本所に帰されないように頑張れ!と挨拶をすると、腹が減っているだろうが、今すぐ、このやぐらを運んでくれと命じる。

それは巨大なやぐらで、6人の男が少し動かすだけで顎を出してしまいそうなきつい仕事だった。

住まいに案内された彼らに、岩井は、ここには懲役が60人住んでおり、看守は6人、それと、お前たちの中から選んだものを1人班長にさせると教える。

岩井が部屋を出て行くと、情報屋の飯田が、ここでは手紙は制限ないそうだと聞き込んで来たばかりの情報をみんなに教える。

そこに、作業を終えた先輩懲役たちが帰って来たので、新入りたちは挨拶し、要領の良い飯田は、機械番(?)と呼ばれる班長の黒岩(深江章喜)の靴を脱がしてやろうと近づくが、すでにその役はいたので、突き飛ばされてしまう。

新入りが銘々自己紹介し、川瀬が気安気に名乗ると、黒岩は、ヤクザか?ヤクザはすぐ顎を出すので、大きな口を叩くんじゃねえ!とバカにしたので、川瀬はかっとなる。

その夜、石塚はみち子に手紙をしたためていた。

みち子はその手紙を働いていた病院の屋上で読んでいたが、そこに他の看護婦が来客を知らせに来る。

応接室に行ってみると、そこにいたのは、父藤山修造だった。

どうしてここが?とみち子が驚くと、ここに私の友人がいて、昨日学会で会ったのだと言う。

父はお前の気持ちは分かっているが、石塚が帰って来るまで家にいてくれないか。無理にとは言わんが、私を助けると思って…と頼むが、みち子は、自分の好きにさせてくれと断ったので、困ったことがあったら、いつでも家においで…と優しく言い残し、父は寂し気に帰って行く。

肇さん…、あなたは又遠い所へ行ってしまったんですね…。みち子は、あなたのために生きて行きます。良い成績をもらって帰ってください。あなたが帰って来る事だけが生きがいなのです…、夜中、みち子は、看護婦宿舎の机に向かって手紙を書いていた。

だんだん、鍛えられて行くような気がする。これからますます辛くなるんだとうが、頑張るよ…、雪山の中の木の伐採作業をしながら、石塚はみち子への想いを募らせていた。

休憩時間、石塚は雑談をしている仲間たちから離れ、人気のない場所に来ると、その木の幹に、鉈で「ミチコ」と刻み付けるが、それに気づいた岩井が、それはお前の女房か?と声をかけて来て、別行動は行かんぞ!と叱りつけて来る。

夜、宿舎で、飯田たちは将棋をし、田口たちは花札に興じていたが、突然窓が開いて、外から顔をのぞかせた岩井が、そのまま動くな!と命じ、同僚の笹川担当(河上信夫)を呼ぶ。

禁止されている賭け事をやっていた田口たちは、見張り所に呼びだされる。

笹川の後に付いて宿舎に向かう田口たちを、宿舎に戻って来た班長の黒岩がいきなり殴りつけ始めたので、見かねた石塚は、懲役同士なのに殴るなんて酷えじゃねえかと注意する。

その時、地獄に蠢く青鬼たち…と、いきなり1人の懲役皆川(浜村純)が自作の詩を読み始めたので、黒岩は、やめろ!と怒鳴りつける。

翌日は、2人で石を運ぶ作業だったが、その作業回数をチェックしていた黒岩は、田口と組んでいた川瀬たちの組の仕事数を8回!と数えたので、もう10回以上運んでるやろ!と田口は呆れるし、川瀬も切れて文句を言い出し、黒岩と一発触発の状況になる。

それを崖の上から見守っていた岩井は、作業を止めさせ、飯にする。

石塚が飯を食っていると、田口が近づいて来て、川瀬が話があると言っていると言う。

川瀬に近づく石塚の姿を飯田が目で追っていた。

川瀬が言うのは、黒岩を懲らしめたいので手を貸して欲しいと言うものだった。

石塚は、右手首につけていたみち子のお守りを観て、騒動なんてごめんだよと断る。

川瀬は、かかあがそんなに大事なのか!と息巻く。

後日、見張り台に呼びだされた石塚と飯田は、2級に進級させると看守部長(久松晃)から言われる。

さらに、石塚にはまだ良い事があると言い出した岩井が、大量の手紙を抱えて来て、全部奥さんだ、このには週に一度しか郵便が来んからなと言いながら渡してくれる。

喜んだ石塚が、手紙を持って部屋を出ようとした時、話があると言って部屋に残っていた飯田が、不穏な動きがありますと密告する声を聞いてしまう。

宿舎に戻った石塚は、川瀬にこっそり、チンコロされたらしいと伝える。

誰だ?と川瀬は気色ばむが、そこに何食わぬ顔をした飯田が帰って来たので、すぐに密告者が誰なのか気づく。

その夜、蒲団に入り、寝た振りをしていた田口は、布団の中に隠し持っていた棒で隣に寝ていた川瀬の枕を揺すり、起こすが、そこに見張り番の担当が来たので、慌てて鼾をかく真似をしてやり過ごす。

見張り番が通り過ぎて行った後、川瀬は隣で寝ていた飯田の腹を蹴飛ばす。

飯田は痛さで飛び起き、担当を呼び寄せると、蹴られたと申告する。

すぐに、全員叩き起こされ、川瀬と田口が隠し持っていた木の棒も発見され、川瀬と田口だけではなく、石塚まで見張り所に呼びだされ、岩井から、首謀者は誰だ?この棒は何だ!と詰問される。

誰も口を割らなかったので、全員、隔離房に入れられる事になるが、1人その場に残された石塚に岩井は、お前、さっき進級したばかりじゃないか?火のない所に煙は立たない。誰が首謀者だ?と聞かれる。

石塚はやむなく、誘われた事は事実ですとだけ答えるが、誰に誘われた?と聞かれても、それ以上は口を開こうとはしなかったので、岩井は、同僚を売るのがいやなのか?お前はつまらんヒロイズムに酔う癖がある。それを捨てんと一生救われんぞと言い、誘導尋問のような事をした事を詫びると、今夜は隔離房でゆっくり女房の事を考えろと言い聞かす。

川瀬等と共に隔離房に入れられ、一晩中正座させられる事になった石塚は、みち子、これもじっと我慢しなければいけないと言うのか!と理不尽な仕打ちを心の中で呪っていた。

夜勤をしていたみち子が、看護婦部屋に戻って来ると、先に仕事を終えていた看護婦たちが何か愉快そうに笑っている。

何かあったの?と聞くと、新聞にみち子の事が載っているのだと言う。

そこには、刑務所の中で過ごす夫と、それを待つ妻みち子の事が「師走の明暗」と言うタイトルで書かれていた。

内海と言う看護婦が、あなた逮捕後結婚したそうだけど、あの方はどうなの?などと下品な事を聞いて来たので、他の看護婦が注意するが、みち子はいたたまれなくなって屋上へ逃げ出し、2人が会いすることが、世間ではそんなに面白いんでしょうか?みち子は今、素直な気持ちで、お休みなさいって言えるのですと心の中で呼びかける。

ある日、雪が積もった山の斜面で、切った丸太をバケツリレーの要領で、上の方から次々に下へ渡して行く仕事が命じられていた。

途中、様子がおかしくなった皆川が、列を離れ、馬か人か?人か馬か?おいら懲役、雪の中…とまた自作の詩を大声で詠み出したので、近づいて来た黒岩が皆川を殴り始める。

みんな仕事の手を休め、その仕打ちを観ていたが、岩井が、何を観ている?仕事だ〜!と命令する。

その直後、足を滑らせた石塚の所に、上から丸太が滑り落ちて来てぶつかる。

石塚が立てないので、近づいて来た黒岩が立てと命じるが、腰が痛いんですと石塚が訴えても、これしきの事で!とバカにする。

さすがに堪忍袋の緒が切れた石塚は、血も涙もないのか!と叫び、黒岩を突き飛ばすが、駆けつけて来た岩井が、石塚よ、興奮するな。しっかりせい!可愛い女房の事を忘れたのか?と声をかけ、黒岩には、しばらく休ませといてやれと石塚の事を頼む。

今日はもう少しでお守りの約束を破る所だった…、でも時々、言いたい事は言わないと、俺の精神は膿だらけになってしまいそうだ…と、その夜、石塚は寝ながら考えていた。

みち子の方も、美しい山の中で石塚とじゃれ合う夢を観ていたみち子だったが、夜中急に目覚めると、机に向かって、少し咳き込みながら、又手紙を書き始めたので、先日、みち子をかばってやった看護婦が、早く寝ないと身体が持たないわよと布団の中から声をかけてくれる。

もうすぐ正月ですね。でもあなたがいないとつまらない。再来年のお正月は2人で迎えましょうね…とみち子は手紙に書いていた。

石塚たちがいる住吉作業場でも、正月は特別な料理が振る舞われていた。

そんな中、1人の懲役が川瀬に何事かを耳打ちし、その直後、黒岩が宿舎に便所から戻って来る。

そんな黒岩に近づいた川瀬は、もっこ(煙草)持っているそうじゃないか?今、便所の裏で吸ってたのは何だ?!と詰め寄る。

黒岩は、証拠があるのか?と息巻き、2人は殴り合いを始めたので、石塚が正月早々喧嘩はないだろう!と注意すると、黒岩から殴られる。

そこに郵便物を持った岩井担当がやって来て、黒岩を見張り台へ呼びだす。

そして、他のみんなには、不平不満を言う前に、そんな境遇になった自分を恥じたらどうだ。まず規則を守る事だ。悔しかったら、二度とこんな所に来るな!と言い渡し、持って来た手紙を受取人たちに配るが、石塚には何もなかったので、担当さん、私には?と聞くと、お前の所には来てないなと岩井は答える。

石塚は、それ以来、手紙を寄越さなくなったみち子の事を考え続ける。

次の日曜日も、宿舎で考え込んでいるので、田口がまだ考え込んでいるのか?と聞いて来るが、今日でもう2週間みち子からの連絡が途絶えていた。

そこに、笹川担当が郵便物を持って来るが、今度もやはり、石塚宛ての手紙は来てないと言う。

一方、普段手紙等来たことがない田口に珍しく女房から手紙が届いたと言うので、田口は喜んで読み始めるが、その表情が途中で曇り出す。

女房が離婚して子供を連れ、家を出て行くと言う絶縁状だったからだ。

その話を横で聞いていた石塚の表情も曇る。

その時、宿舎内の懲役たちが一斉に窓を開け、外を観て騒ぎ出す。

宿舎の近くを、近くの女衆が、薪を背負って歩いていただけだった。

大半がおばさんたちだったが、それでも、女っけのない懲役たちには珍しかったのだ。

みち子…、たまらなく会いたい!本当にどうしたのだ?前科者の俺が嫌になったのなら、嫌と言ってくれ!石塚は心の中でみち子に問いかけていた。

ある日、作業が終わって宿舎に帰って来ると、あの老いた懲役が倒れたので、みんなで奥に抱えて行く。

その時、岩井がやって来て石塚を別室に呼ぶと、どうやらお前に、来るべき時が来たようだ。本署で面接だ。面接がすめば釈放だと教えてくれるが、今の石塚は素直に喜べなかった。

その後、本署で面接官(高野由美)から、ここを出たら何をやるつもりですか?と聞かれた石塚は、まだ何も考えていませんが、保護司と相談して決めたいと思いますと答える。

奥さんは何をしているのですか?と聞かれたので看護婦をしていますと答えると、奥さんを幸せにしてやる自信はありますか?と質問されたので、待っているかどうか分かりませんと石塚は答えてしまう。

奥さんは、あなたが逮捕後に入籍されたそうじゃないですか。他の人には真似の出来ない事です。奥さんを信じてあげるのが一番大切な事と思いますよと面接官は諭す。

住吉作業場に帰るバスの中、みち子…、人はお前を信じろと言う。だが、お前のいないシャバなんか何の意味もないじゃないか!と石塚は心の中で叫んでいた。

その後、飯田が新しい機械番に選ばれ、飯田と、飯田が選んだ3名で物置の修理を命じられる。

飯田は、牧田と高橋、そして石塚を指名してその場に残り、他の懲役たちは通常の作業に出かけて行く。

飯田は、3人を物置小屋の中に招き入れると、石塚に向かって、お前に聞きたい事がある。お前を指名したのもそのためだと言い出す。

石塚は、俺がちんころでもしたって言うのか?と聞くと、前前から怪しいと思っていたんだと言うので、俺も隔離房に入れられたのを忘れちゃいないだろうな?お前のためにどれだけの仲間が泣かされて来た事か!本署にいる時からお前はそうだった!と石塚は日頃貯めていた鬱憤を吐き出す。

しかし飯田は、機械番を殴るのは担当殴るのと同じ事だぞと脅して来て、前科者なんか待ってる奴はいやしねえよ!今頃誰かとやってるよ!などとみち子の事をバカにして来たので、石塚は、右手首につけていたお守り袋を引きちぎり、その場に投げ捨てる。

石塚の殺気を感じた飯田は、落ちていた鉈を拾い上げる。

石塚も側にあった棒っ切れを拾い上げ飯田に迫る。

他の2人はとっくに小屋から逃げ出していた。

両者は喧嘩を始め、小屋の外に出ても組み合っていたので、駆けつけて来た岩井が石塚に手錠をかけ、隔離房に1人入れる。

石塚が正座していると、岩井が入って来たので、やけになった石塚は、私を本署に帰してください!と訴えるが、これでもお前はそう言い張るのか?と言いながら、手紙を渡してくれる。

それは待ちこがれていたみち子からの手紙だった。

手錠を外され、中を確認すると、みち子の写真が床に落ちる。

手紙には、40度近い熱が幾日も続き、死ぬかと思いました。夢の中で何度もあなたの名を呼んで、お父様に笑われました。肇さん、待った灯がとうとう来たんですね。衣類を送りますから、一日も早くみち子の所へ帰って来てください…と書かれていた。

石塚、そんな良い女房を泣かしちゃいかんぞ…と声をかけて来た岩井は、出所して何か困ったことがあったら俺に言ってくれ。お前は俺のことを鬼のように思っていただろうが、こんな所に来る奴を鍛えるには、俺も鬼になるしかないんだ。分かってくれるな?と優しく諭す。

それを聞いていた石塚は泣いていた。

いよいよ出所の日、石塚はみち子から送れていたコートを着込む。

そこに面接官がやって来て、おめでとう!あなたの夢を見失わないようにしてくださいねと声をかけると、待合室の入口のドアを大きく開いてやる。

その向こうには、みち子が立っていた。

みち子!と呼び掛け、駆け寄って手を握る石塚。

会いたかった!と言うみち子の目から溢れた涙が、その握り合った手の甲に落ちる。

網走刑務所の門が開き、雪が積もる道路に出て来た2人は、寄り添うように帰って行くのだった。