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上を向いて歩こう

あまりにも有名な坂本九のヒット曲「上を向いて歩こう」をタイトルに頂き、一見、爽やかで軽いアイドル音楽映画か?…と思わせるが、実は、不遇な環境にありながらも懸命に生きていこうと苦悩する若者たちの様子を描いた、なかなか真面目な青春映画になっている。

タイトルからすると、坂本九ちゃん主演映画に思えるし、実際、九ちゃんは、冒頭からラストシーンまで出ているのだが、意外と印象は薄く、かえって、浜田光夫や高橋英樹のドラマの方が目立つようになっている。

これはおそらく、当時の九ちゃんはあまりにも売れっ子で、映画に裂く時間が限られていたため、手間がかかりそうな部分は日活の若手俳優で固め、残りの部分だけを九ちゃんに出てもらったためではないかと想像する。

明るい九ちゃんの出番が少ない分、重いドラマの方が目立つ結果になったのかもしれない。

「嵐を呼ぶ男」同様、ここでもドラマーに憧れる若者が登場するし、血が汚れているとして、家族から疎まれている青年も登場する。

当時は、血が汚れている等と言う表現を、日常でも良く使っていたのかもしれない。

クライマックスで不良同士が対決するシーンなどは、「ウエスト・サイド物語」(1961)の影響もあるのではないだろうか。

ただラストは、吉永小百合さんが涙ながらに訴えると、男たちは(遠方にいるはずの男たちも含め)一斉に悔い改めると言う急転直下のご都合主義で解決してしまっており、ちょっとあっけないが、問題の根深さを映画的に収めるにはこうした方法しかなかったと言うことだろう。

この当時の日活作品にはありがちなことだが、相変わらず登場している愚連隊や若者たちの年齢が良く分からない。

健の下で働いている五郎らは、未成年等と言っているが、どう観てもおじさんだし、永井運送店に勤めている元不良たちも、全員おじさんである。

何だか、伊藤英明に似ているような気もしないではない当時の高橋英樹さんが、当時18歳くらいと、劇中の設定に近く、吉永小百合さんや浜田光夫、坂本九、渡辺トモコさん辺りが、ほぼ実年齢と役柄が近い人たちなのだろう。

劇中、愚連隊たちのやっているテレビ賭博が興味深い。

要するに、テレビで実況しているスポーツを賭の対象としているのだが、ボクシングや相撲の柏鵬戦(大鵬、柏戸)が登場する所に時代を感じさせる。

キユーピーこと石川進やパラダイスキングの面々も当然ながら出演している。

ちょっと意外な所では、ポン中になったドラマーの牧の愛人役として、テレビのお母さん役などで昔良く見かけていた高田敏江が出ていたりする。

最後に登場するロケ地は、東京オリンピックのため建設された代々木競技場か?

日本中がはつらつとしていた時代の、勢いを感じる作品である。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1962年、日活、山田信夫脚本、舛田利雄監督作品。

レンガ塀にチョークで書いたようなタイトル

そのレンガ塀の上に立っていた男が、金網越しに、中のグラウンドでラグビーをやっていた少年たちにボールが投げ入れられる。

それを持って走るのは、河西九(坂本九)ら、「関東少年鑑別所」に入れられた不良少年たちだった。

ボールの中に入っていたらしき泥の玉の中からヤスリを取り出すと、食事や便所で、そのヤスリをこっそり少年たちは手渡しして行き、とある窓に付いた鉄格子を切断する。

夜中、その窓から抜け出した少年たちは、金網、レンガ塀を乗り越えようと走り出す。

九は、走りながら、背中がかゆい等と言って、隣を走っていた仲間に背中をかかせたりする。

一方、塀をよじ上る仲間を助けるため、下で肩車の役目をしていた畠山良二(浜田光夫)は、何かを拾おうとしゃがんだので、塀をよじ上りかけていた仲間が転んでしまう。

良二が拾い上げたのは、ドラムのスティックだった。

全員塀を乗り越え一斉に逃げ出す中、中良二と九は2人きりになっていた。

追手が迫って来たので、たまたま通りかかった車を停めることにした良二は、道に落ちていた瓶を割り、それを持って九と一緒に、車の前に飛び出すと、急停車した軽トラックにぶつかるように倒れ込む。

その際、良二は、瓶の破片で、自分の左腕を傷つけ、さも今車に轢かれた風を装うが、隣に転がった九の方はと観ると、本当に車に当たってしまったらしく苦し気だった。

車から降りて来たのは、永井徳三(芦田伸介)と言う中年男だったが、倒れている少年2人を観る目は警戒していた。

そこに、鑑別所から追って来た係官が近づいたので、良二と九は、軽トラの荷台に乗り込み、ビニールシートをかぶって隠れる。

又脱走ですか?と永井は駆けつけて来た係官に聞き、係官たちが立ち去ると、さ、飛ばすぞ。良く捕まってるんだ!と荷台のシートをはいで、良二と九に伝え、車を走らせる。

翌日、永井の娘、紀子(吉永小百合)が花を持って、2人が入院している病室にやって来ると、まだ動けない九を無理矢理抱えた良二が、病室を脱走しようとしている所だった。

しかし、それをごまかした良二は、紀子が本等持ち歩いていたので、反発したような口を聞く。

花を飾り、窓を開けて下を観た紀子は、父親の永井がやって来るのに気づく。

一緒に下を観た良二は、永井が刑事らしき男を連れて来ることに気づき、九と共に窓から逃げ出そうとする。

しかし、まだ九は身体が直っておらず、ダメだ!お前1人で逃げろと言う。

良二は諦め、自分だけ雨樋を伝って下に降りる。

一方、紀子は階段を降り、登って来かかっていた父と久米刑事(嵯峨善平)に、良二君、逃げたわ!と叫ぶ。

九は病室の窓から、良二が忘れて行ったスティックを投げてやると、頑張れよ!と声をかける。

そこに、やって来た久米刑事が、人の行為を無にしやがって!と言いながら、九をベッドに押し倒す。

良二は、洗濯物が干している場所に来ると、そこに吊るしてあったスーツを盗もうとするが、気がつくと、近所の子供たちがじっと見つめている。

おじちゃん、泥棒?と聞くので、落ちてたから、この通り…と言いながら、元に戻す振りをすると、子供たちは簡単に納得してしまう。

しかし、その後、そのスーツを着込んだ良二は意気揚々と町を歩いていた。

そんな良二は、工事現場で地面を固めているランマーのリズムに思わず足を止める。

町のあちこちから聞こえて来る音が、彼の耳には音楽のリズムのように聞こえているのだった。

楽器屋の前に来た良二は、ショーウィンドーに飾ってあるドラムセットを観ると、思わず店の中に入り、勝手にドラムを叩き始めたので、店長が慌てて止めに来るが、置いてあった楽譜を盗んで外に飛び出した良二は、良い天気だぜ!とご機嫌だった。

ジャズ喫茶の前に来た良二は、顔パスで中に入って行ったので、受付の女性とその前に立ってだべっていた五郎(市村博)は首を傾げる。

店内の客席に座り、演奏を聴き始めた良二だったが、すぐに、松本健(高橋英樹)ら店にたむろしているチンピラたちに裏に引きづり込まれ、どこのチンピラだよ!と言われ殴りつけられる。

そこへ、何をやっているんだ?と言いながらやって来たのが久米刑事で、健たちは素早く良二を隠す。

健が持っていたスティックを取り上げた久米は、カーテンを開いて、奥の楽屋口から出て来たバンドに、ドラマーの牧さん、いませんか?と声をかける。

牧(梅野泰靖)が返事をすると、畠山良二をご存知ですか?と久米は聞く。

ドラムを教えてやってたんですが、脱走したんですか?と牧は聞いて来る。

一方、楽屋に潜り込んでいた良二は、牧さんは?とバンドメンバーに聞くが、えらく声がかかるね、今日は…、そりゃ、あれでも昔は一流ドラマーだったんだからなど、メンバーたちは嘲るように話し合う。

そこに牧が現れたので、良二は再会を喜ぶが、何故かメンバーたちは、最近の牧の演奏がなっていないと難癖をつけ始める。

それを聞いていた良二は、かちんと来て、メンバーたちに詰め寄ろうとするが、それを止めた牧が、飯でも食いに行こうか?と誘う。

良二は、俺、ドラムが叩きたくて逃げ出して来たんだよ。何でもやるから教えてくれよ。バンドボーイでも何でもするからと牧に頼むが、横で聞いていた健の仲間たちは、バンドボーイなら俺たちでもなれるとからかう。

いくら払えば良いんだよ?と良二は聞き、入場料も払えなかったくせにと言われると、頭を使うんだよと包帯を巻いた左手を見せ、軽トラの運転手を脅すのさと言いながら、永井からもらった名刺を得意そうに見せびらかす。

すると、その名を観た連中は、少年保護官をカツアゲするなんて…と呆れるが、ただ1人、健だけは真顔のままだった。

健は、誰か服を貸してやんなと命じると、良二を連れ、タクシーで永井運送店に向かう。

運送店の食堂では、永井に保護された大勢の元不良たちが夕食を食べていた。

一番隅っこに座っていたのは、無事退院した九だったが、おかずが盛られた皿が彼の元に届く時にはどれも空になっていた。

それでも、そんな九に優しく芋を取ってくれたのは紀子だった。

そこへ、健が来ましたぜ!と知らせが来たので、一同の間に緊張感が走る。

永井は、昔の仲間が来ただけじゃないかと一同を落ち着かせる。

健と共に中に入ってきた良二は、そこに九がいることに気づき驚く。

九は、引き取ってもらったんだよ。ここにいるのは俺たちと同じ連中なんだと事情を打ち明ける。

健は、その良二の腕の傷を見せながら、この傷に見覚えがあるでしょう。治療代をもらいに来たんだと言い出したので、若林(平田大三郎)が立ち上がり、健!貴様、親父さんを強請に来たのか!と気色ばむ。

永井は、そんな健と良二を、食堂の横にあるボクシング練習場に連れて行くと、逆上した関口(滝恵一)らも付いて行こうとしたので、紀子が止める。

お前がここを出て行くと言った時、俺は何を言わずに許してやった。何をさせてもずば抜けていたお前を信じたんだ。

ボクシングを教えたのも、愚連隊になってもらうためじゃなかった。

今からでも遅くない、戻って来ないか?チビ、お前もそうなのか?と永井が良二に聞くと、俺はドラムが叩きたいのさと答える。

クスリやってるのか?傷だけは直せと言い、永井は金を出してやると、早く帰れ!何をされるか分からんぞと言い聞かす。

さっきに溢れた青年たちの間を潜り、店に戻って来た健は、昼間の経理を受け取ると、自分の部屋に入る。

一方、良二は、テレビのボクシング中継を観ていた牧に、明日からバンドボーイになれたと嬉しそうに報告するが、マキハ、良かったじゃないかと言うだけで、テレビの勝負にのめり込んでいた。

その表情におかしなものを感じた良二は、牧さん、いつからなんだよ?と近くにいた五郎に聞く。

すると、ヒロポンよ。ドラマーにとっては命取りだって言うのに…と五郎に教えられる。

そんな牧に、帰りましょうと誘いに来たのは、愛人でもあるのか、黒木恵子(高田敏江)と言う女性だった。

しかし、当の牧は、テレビで試合が決まると、やった〜!と躍り上がって喜ぶだけだった。

どうやら、賭けに勝ったらしく、金を受け取ると、嬉しそうに恵子と共に帰って行く。

参考書が並ぶ部屋にこもっていた健は、写真立ての写真を観ると、出かけることにする。

その頃、永井運送店の共同寝室にいた九は、他の仲間たちから女の話をしろとせがまれていた。

今まで何人の女の子知ってるんだ?と聞かれた九は、6人ですと答え、おばあちゃん、乾物屋のおばちゃんなどと、単なる知り合いの名を挙げ始めたので、みんなは呆れてしまう。

浪花節をやれ!と命じられると、すぐに歌い始めるが、そんなんじゃない!これの名前だよ!と小指を立ててみせられても、意味が分からないようだった。

九は立ち上がり、ハナコさん、ミドリちゃん、あの子の名前はなんてかな〜♪とウクレレを弾きながら歌い始める。

その歌に乗り始めた仲間たちだったが、最後に九が女の子を名前を呼ぶと、つい石本(石川進)が返事をしてしまい、妙な雰囲気になってしまう。

健は、とある屋敷の庭に忍び込み、家族で楽器を演奏している3人家族の様子を覗いていた。

ピアノを引いているのは母のふさ子(原恵子)、バイオリンを弾いているのは兄の正行(長谷川哲夫)、そして、コントラバスを弾いているのは父親の正一郎(清水将夫)だった。

しかし、つい物音を立ててしまったので、それに気づいた正一郎は、正行にカーテンを閉めさせてしまう。

そんな仕打ちに怒った健は、石灯籠を蹴って壊すが、犬小屋にいた犬だけは自分を覚えてくれていたようだったので、嬉しくなって、お前だけは…と言いながら抱きしめてやる。

翌朝目覚めた九は、自分が一番寝坊してしまったことに気づき、慌てて服を着て外に飛び出すが、他の仲間たちは全員、軽トラックに乗って出発する所だった。

みんな出かけてしまい、取り残された九に気づいた紀子は、あなたも良くなったら、行けるわと慰め、朝食を食べようと部屋に案内する。

そこには、紀子の妹の光子(渡辺トモコ)がいたので紹介される。

九は、自分は男ばかり9人兄弟の末っ子で、名前も面倒くさいので九とつけられたんだけど、今まで女の人と差し向かいで食事するの初めてなんですと恥ずかしそうに告白する。

その時、電話が鳴り、紀子が部屋を出たので、九は、光子の椅子を変わってるね?車が4つも付いてると笑顔で聞くが、からかわれたと感じた光子は、小児マヒがそんなにおかしいの!と怒り出すと、食事も止めて出て行ってしまう。

九は、知らなかったとは言え、彼女を傷つけてしまったことに気づき、しょげながら洗車をする。

良二は、念願のジルジャンのシンバルを叩いて嬉しそうだった。

健は、賭けで儲けた金を勘定していた。

九は、光子相手に手品等やってみたりして、徐々に打ち解けて来ていた。

その後も、健は、個人部屋で勉強に励み、良二はバンドボーイの仕事をし、九は初めて、魚河岸に連れて行かれ、魚を運んでいたが、途中でぶつかり魚を地面に落としてしまう。

九は、何やってるんだ!と先輩たちから叱られ、弁償しますと言うが、一体いくらだと思ってるんだ!と怒鳴られ、すっかり落ち込んでしまう。

すっかりバンドボーイの仕事に慣れて来た良二は、歌手のファンの女の子から、会わせてくれと頼まれ、最初は断っていたが、小銭を渡されると、さっきうどん食ってたぜと教えてしまう。

その直後、隣の部屋で、歌手(上野山功一)から襲われそうになっていたセーラー服の女の子に気づくと、さりげなくカーテンを開け、女の子を逃がしてやる。

歌手が凄んで来ると、側にあった包丁を砥石で研ぎながら、もういっぺん、鑑別所に戻るつもりになれば何でも出来るんだと良二がうそぶくと、急に歌手の態度が卑屈に豹変する。

そんな良二に、バンドメンバーが牧を探して来いと命じる。

店の外に出た良二だったが、側に久米刑事が張っていることに気づくと、慌てて反対方向に走る。

牧は又しても、賭けをしていた。

その店には、九も来ていたが、そこに紀子がやって来て、探したわよと急に声をかけて来る。

お金払わなくちゃ…と9、九が魚河岸での失敗の弁償のためにやっていることを打ち明けると、あんなこと最初は誰でもやるのよと言い聞かし、紀子は九を連れて帰ろうとする。

しかし、部屋にいた愚連隊たちは、そんな紀子をからかい始める。

怒った九は、持っていた河岸で使う手かぎを取り出すと、それで愚連隊と戦おうとする。

九ちゃん、止めて!と紀子は制止し、騒ぎに気づいて乗り込んで来た健が止めろと一喝する。

そこに、牧を探しに来た良二もやって来て、九に気づくと、どうしたんだよ?まじめにやってるんじゃなかったのかよ?と聞く。

九は、そんな良二に、お前はドラマーになりたいと言う夢があるけど、俺は何をしたいか分からない。だから、今出来ることを一生懸命やっているんだと答え、良二は、それで良いんだよ。九!しっかりやれよ!と、紀子と一緒に店を出て行く九に声をかける。

軽トラの荷台に乗り、九と一緒に帰る紀子は、もう魚のことなんて忘れるのよと慰めるが、その時、車がゆれ、バランスを崩した紀子は、九の胸に飛び込む形になる。

紀子は、光子もこの頃笑うようになったわ。これからも面倒見てやってねと急に頼む。

一方、賭け屋の店を出て、牧と一緒にバンドのいる店に向かっていた良二は、今、金貯めているんだ。牧さん使っても良いぜ。だから、ヤク止めて、昔の牧さんに…と頼むが、俺の腕が落ちたと言うのか?お前、堅気になんな。俺なんかにくっついててもしようがねえぞと言い残し、さっさと1人で行ってしまう。

永井の家では、光子の往診に来た医者(木島一郎)が、君はもう歩けるんだと立って歩くことを勧めていた。

しかし、光子は、立ち上がりながらも歩けないわと言い、前に倒れ込む。

それを支えたのは、ちょうど部屋に入ってきた九だった。

帰る医者を追って来た九が、みっちゃん、どうなんでしょう?と聞くと、身体的にはもう歩けるはずなんだ。後は精神力さえ戻れば…と言う。

それを聞いた九は、世の中には身体が悪くても偉い人はたくさんいると、ヘレン・ケラーの名前等を思い出し、ありがとうございました!と言って医者を見送る。

数日後、もう、九も軽トラに乗って、魚河岸に出かけるようになっていた。

一方、バンドと練習をしていた牧は、途中で、すまん、ちょっと待ってくれと言って演奏を止めると、部屋から出て行く。

ポンが切れたんだな…とメンバーたちはがっくりする。

その時、バンド・マスター(杉江弘)は、近くにいた良二に、お前、交代しろと命じる。

一瞬、呆然とした良二だったが、ドラムが叩けると分かってからは、嬉しそうに叩き始める。

その時、戻って来た牧は、良二を突き飛ばすと、貴様に俺の代わりが勤まるか!少年院上がりのチンピラが!出て行け!と怒鳴りつける。

床に倒れた良二は、牧さん…、あんたまで…と絶望をしたように牧を見つめ返すのだった。

ある日、健は、大学の入学願書を申し込んでいた。

その帰り、構内にいた兄の正行の姿を観かける。

その正行に駆け寄って来たのは紀子だった。

紀子も健に気づくが、正行と一緒に車に乗り込んで行ってしまったので、健は、ちくしょー!と呟く。

車に乗った紀子は、健のことを知っているのかと正行に聞く。

あいつは親父が、他の女にうまれた子なんだ。あいつは俺や親父を見返したいんだ。だけど、あいつの血は汚れているんだ。あいつの母親は、男を作って、奴を捨てて逃げたんだよと正行は答える。

その正行の左目の下には傷があり、君はこの傷のことを知りたがっていたんだろうけど、奴がやったんだ。僕を妬んで、鉛筆削りで斬りつけ、家を飛び出して行ったんだよと正行は告白する。

その頃、永井は、車椅子だけが置いてあり、光子の姿が観えないのに気づき、店の者たちに知らないか?と聞くと、九の奴が軽トラに乗せて出て行ったと言うではないか。

永井は、バカが!と吐き捨てる。

九は、軽トラで海辺の埋め立て地に来ており、光子に歩くように励ましていた。

光子は、トラックの荷台に捕まりながら、歩けないと抵抗していたが、九が手招きしながら後ろに下がるのを観て、その背後が坂になっていることに気づくと、危ない!と言いながら、数歩前に出る。

OK!手を離すんだと命じる九。

そんな2人の様子を、軽トラに乗って探しに来た永井は、遠くから見かけて微笑んでいた。

6歩歩けたわ!と喜ぶ光子に、明日は10歩歩くんだ。そうすれば、何を使わずに歩けるんだと九は励ます。

一方、永井運送店のボクシング練習場にいた関口たちは、若林に例の話いつやるんです?と、健をやっつける計画を話し合っていた。

そこに良二が、九いるか?と訪ねて来るが、関口たちは、そんな良二をリングの中に引き込むと、バッグの中に入れていたドラムセット形貯金箱等も勝手に取り出して。こいつ追い出されて来たのかとバカにされたので、関口の顔につばを吐きかけた良二だったが、怒った関口から殴られ、さらに、みんなから持ち上げていきなりリングに落としたりする。

そこに九が戻って来て、どうしたんだ?と良二に聞くが、こんな所で誰が働いてやるものか!と捨て台詞を残し、良二は帰って行く。

さすがに九も怒り、君たちが悪いんだよ!と言うと、良二を追って行こうとする。

ある日、図書館にやって来た紀子は、そこで勉強していた健を見つけ近づく。

それに気づいた健は驚いて立ち上がるが、私の父の所で働いていた頃のあなた、お店であんなことしてるあなた、今日、お兄さんに会ったあなた、今日、こんな所で勉強しているあなた、あなた、いつも私を驚かすわと声をかけ、私、15の時、お父さんを憎んだわ。誰も私を愛してくれないと思ったの…と紀子は一方的に話して来る。

貰い子だなんて夢にも思わなかったわ。良心には長い間子供が出来なくて、それで私をもらったの。その後、光子がうまれたのよ。世間では良くある話で、お父さんは同じように可愛がってくれたわ。

でも、光子が小児まひと分かると、良心はそちらにばかりかかり切りになり、近くの八百屋のおばさんが教えてくれたわ。

私、光子が大切にしていたフランス人形を盗み出し、泣きながら、その金髪の髪の毛を全部抜いたの。

光子は泣き、お父さんはぶったわ。そして、お父さん、泣いたわ。お父さんが悪かったって…と話し終えた紀子は、みんながお腹空かせて待っているわと言いながら帰って行く。

良二は、町中を肩で風を切るように粋がって歩いていた。

途中で、コーヒーを運んでいたウエィトレスにぶつかり、コーヒーをひっくり返させても、知らん顔して歩き続ける。

途中、楽器屋でドラムセットを眺めた後、賭け屋に来ると、その日は、相撲で賭けをやっていた。

賭けに負けた良二は、ドラムセット形貯金箱から最後の小銭を取り出して、貯金箱を潰してしまう。

賭け金がなくなったことを知った五郎らが、貸そうか?牧さんのジルジャン賭けるなんてオツなもんだぜと誘って来る。

最初は断っていた良二だったが、突然、良し、やろう!と言い出す。

牧が、いら立った様子で、早く持って来いって言うんだよ!と電話をしている間、店の管理人(河上信夫)に楽器を運んでくれとバンドメンバーは頼んでいた。

良二君、どうしたんです?俺に役目じゃないだろ…などと管理人がぶつぶつ言いながら楽器の方へ近づくと、そこにやって来た愚連隊が、そいつは俺たちがもらって行くと言って、証文を牧に見せると、ドラムセットを運び出して行く。

それを知ったバンマスは、今日から新田(武藤章生)に代わってもらうから。楽器と身体は元手だからなと唖然としている牧に言い渡す。

リヤカーに積んで賭け屋に持って行く愚連隊とすれ違う形で賭け屋に来る恵子。

ちょうど、賭け屋に向かう途中で、そのリヤカーに気づいた良二は、頼むよ、五郎ちゃん、ジルジャンだけは返してくれよと頼むが、手前がやったことじゃねえかと押し倒されてしまう。

畜生!と悔しがる良二に、大丈夫?と近づいて来たのは恵子だった。

俺が悪かったんですと謝る良二だったが、良いのよ、この方が、あの人の決心がつくと恵子は答える。

そして、牧に会った恵子は、彼の目の前で、持って来たヒロポンを、瓶からこぼして捨ててしまう。

大学の合格発表の日、観に来ていた健は、自分の名前を見つけ喜ぶが、そこに紀子がやって来て、健さん、おめでとうと言って来たので驚く。

さらに紀子は、明日は兄さんのお誕生日よ。私、呼ばれているの。あなたも来ない?今、何をプレゼントに持って行こうか考えてるのよ。あの人は、ペリカンの万年筆を欲しいと言ってたわと教える。

俺は、ナイフで傷付けた…と健は呟く。

仲直りしようと思って小遣い貯めて、ナイフを買って、それを脅かしてやろうと目の前に出してみせたら、兄さん、怖がって…

面白くなって追いかけたら、急に兄さん、飛びかかって来て…と健は告白する。

それを聞いた紀子は、誰も悪い人なんていないわ。仲直りできるわよと紀子は笑顔で諭す。

今日、ここへは何しに?と健が聞くと、おめでとうを言いに来たのよ。明日来るのよ、きっとと言い、紀子は帰って行く。

良二は、恵子の田舎に引っ越すことになった牧を駅に見送りに来ていた。

身体直したら、又すぐ帰って来るよと微笑んだ牧に、ジルジャン取り返すよと約束した良二だったが、良い音を出すのはドラムじゃないんだ、腕だ。ジルジャンにこだわるんじゃないぞと牧は言い聞かし、列車は出発する。

ある日、魚河岸に新しい軽トラがやって来たので、仲間たちは一斉に自分にくれと永井に頼むが、永井がキーを差し出したのは九だった。

九は大喜びで、自分のものになった軽トラを乗り回し、みんなはそれを羨ましがる。

家の中では紀子が光子に、みっちゃんでしょう?九ちゃんに新車をやってくれって頼んだのと言い当てていたが、光子は恥ずかしがって、九ちゃんには言わないでねと頼む。

そこに、九が帰って来て、光子の所に来ると、今日はすごいぞ!当ててみなと嬉しそうに語りかける。

そして、おいで、立つんだ!と誘ったので、側にいた紀子は驚いて、九ちゃん!と声をかけるが、光子は歩けるわと言って、少しずつ歩いてみる。

その時、急に電話が入ったと事務所から連絡がある。

九は、電話で呼びだされた良二とビルの屋上で再会する。

俺の頼みを聞いてくれるかといきなり良二が切り出して来たので、金だろう、ありったけかき集めて来たよと九が察して差し出すが、それっぽちじゃダメだ、10万いるんだ。ジルジャンを買い戻すんだと良二は言うので、いくら何でもそんな金は無理だよと九は困惑する。

すると良二は、おめえが手伝ってくれれば出来るさと言いながら、屋上駐車場に並んでいた高級車を見つめる。

パクられたら、俺1人で背負うからと良二は頼むが、俺が分からない時、しっかりやれって言ったの、お前じゃないかと九は言い聞かそうとする。

しかし良二は、屋上から見下ろした町中を観ながら、観てみろ!金持った奴は楽しく遊んでやがる。俺たち掃き溜めに暮らして来た奴は一生這い上がれない。おめえ、あのスケに、たらし込まれやがったな!と紀子のことを当てこするが、級は、できねえよ、俺…と言って立ち去って行く。

その時、良二は、九が落として行った軽トラのキーに気づき、返そうと後を追いかける。

地上に降りた九は、ちょうどやって来た久米刑事と出会ったので、後を追って来た良二は慌てて後ろを向き、気づかれないようにする。

久米刑事は、良二を知らないか?あいつ、俺の顔を観ると逃げやがって…と聞くが、悩んでいた九は、良二を捕まえてやってください。このままじゃいけないんですと言いながら、今会ったビルの屋上を指差して教える。

それを目撃した良二は、畜生!裏切りやがって…とキーを見ながら悔しがる。

その頃、健は突然、賭け屋を閉めると言い出し、仲間たちを狼狽させていた。

そのために、利益はこれまでみんなで分配していたんだと言い、自分の個室に入ってしまう。

残された五郎たちは、あいつは大学出るために金をためていたんだと噂しあう。

部屋の中では、学生服を着た健が、プレゼントの箱を持ち、嬉しそうにしていた。

健の実家では、その日、兄の正行の誕生会が行われていた。

正行は紀子と踊りを踊っていた。

そこにお手伝いが、父親の正一郎に何事かを告げに来る。

正一郎は、まずいな、今日は、帰ってもらいなさいと言いつけようとするが、すでに健が部屋に入ってきていた。

健は正一郎の前に来ると、本日はおめでとうございます。今日はお詫びに参りましたと礼儀正しく挨拶をし、自分は、兄さんと同じ学校に入学しましたと入学証書を見せながら報告する。

何のためにそんなことを?と正一郎が戸惑うと、ただ、喜んで頂こうと…、後は自分の力でやりますからと健は伝えるが、自分の力で?お前、今まで何をやって来たんだ?と問いつめる。

健は、1人で生きて行くためには仕方なく…と言い訳するが、わしはお前が、道路工夫でも清掃夫でもも良いから、まともな人間になって帰って来て欲しかった。それまでは会いたくないと正一郎は答える。

呆然と立ちすくむ健に気づいた紀子は、それ贈り物?と言いながら、正行の手を引いて健の側にやって来る。

健は気を取り直し、兄さん、ペリカンの万年筆だよ、受け取ってくれよと差し出すが、正行が無反応なので、紀子は無理に笑顔を作って、御自分で兄さんの胸に刺してあげたら?と勧める。

健は言う通りに、箱を開け、万年筆を正行の上着のポケットに刺してやろうとするが、その手を正行は払いのけてしまう。

床に落ちた万年筆を拾い上げた健は、悔し気にまっ二つにへし折って出て行ってしまう。

慌てて後を追って来た紀子だったが、健は、くそ!俺には悪い血が流れているんだ!と吐き捨てて立ち去ってしまう。

部屋の中にいた客たちは、何事かと唖然としていたが、正行が失礼を詫び、音楽を流して、また踊るように促す。

その直後、レコードの針を外したのは戻って来た紀子だった。

驚いて振り向いた正行に、誰にも愛されないってことがどんなにさみしいか…。1人ぽっちでいることが、どんなに哀しいことか…。あなたには分からないのよ!

同じ人間なのに、どうして血が汚れているのよ!どうして許してあげないのよ!と紀子は泣きながら訴える。

バイクレースの会場にいた永井運送店員の1人は、レース結果を知ると、急いで赤電話から、賭け屋の近くの電話で待ち受けていた仲間に「2-4」と言う結果を知らせる。

それを聞いた仲間は、賭け屋のビルの下まで走ると、白と赤の手旗信号で、賭け屋にいた若林たちに知らせる。

それを観た若林は、もう締切ったと言う五郎たちに、まだ電話が来てないんだから良いじゃないかよと金をちらつかせて「2-4」と言う。

五郎たちは、最初は断っていたが、確かにまだ結果が届いてなかったので、若林から金を受け取ってしまう。

その直後、電話を受けた愚連隊はレース結果を聞き絶句する。

若林たちは、その辺にある金目のもん、全部持っていっちまえ!と仲間に命じ、ドラムセットも全部運び出してしまう。

その後、店に戻って来た健は、事情を聞くと、これは俺の城だ!他に帰る場所はねえ!ここで生きて行くしかないんだ!と叫ぶと、ドスを持って出かけて行く。

若林たちは、永井運送店にドラムセットを運んで来ていた。

その頃、とある故買屋(衣笠力矢)は、良二から電話を受け、4輪の軽トラの新車と聞くと、10万円で引き取ってやると返事をしていた。

ドラムセットをボクシング練習場で見つけた九は、それが良二が欲しがっていたジルジャンだと知ると、返してやってくれ、何でもするからと頼み込む。

すると、それを聞いた関口が、いきなり九にグローブをはめさせると、前から一度、お前を叩き直したいと思っていたんだとボクシングの勝負を挑んで来る。

九は、僕はボクシングだけは…と尻込みするが、若林から、じゃあ、友達を見捨てるんだな?と言われると承知するしかなかった。

そんなことが行われているとも知らず、外に止めてあった軽トラの列に紛れ込んで来たのは良二だった。

僕がノックアウトされなかったら、返してくれますね?と頼んだ九は、へっぴり腰で試合に臨む。

何度かダウンを奪われながらも、九は必死に起き上がろうとする。

その外では、良二が九の軽トラを探して、キーを何台も挿してみていた。

九が何度も立ち上がろうとするファイトを見込んだ仲間たちは、良し分かった!ジルジャンはお前のもんだ!と言いながら、倒れた九を助け起こしてやる。

その時、無意識に振り回した九のパンチが関口の顔面に命中し、関口は倒れてしまう。

金やドラムが欲しくてやったんじゃねえ。健の鼻を明かしてやれば良かったんだと仲間たちは九に説明する。

すぐ車で持って行ってやれと言われた九は、自分の軽トラに向かうが、そこには良二が車の下に隠れていた。

運転台に乗り込んだ九だったが、鍵がないことに気づいてまごついていたので、仲間たちが別の車で持って行けと勧めてくれる。

すると、光子も一緒に乗せてくれと歩いて来る。

光子を助手席に乗せ、ジルジャンを荷台に積んだ軽トラが出発した直後、良二は九の車に乗り込み発進する。

車が盗まれたことに気づいた仲間たちが一斉に外に走り出すと、そこに健が立ちはだかっているのに気づく。

素敵ね!今まで人をまっすぐ観ることが出来なかった。でももう出来る!と光子は嬉しそうに助手席で言う。

健は、親父を出せ!手をついて謝らせろ!と、ドスを持って、運送店員たちに要求する。

ジャズ喫茶にやって来た九は、そこにいた管理人に、良二に渡してくれと言い、ジルジャンを運び込む。

その頃、車の中から、軽トラを走らせていた良二に気づいた久米刑事は後を追跡し始める。

ケンの背後には、五郎ら愚連隊連中が駆けつけて来ていた。

良二はハンドルを切り損ね、軽トラを横転させてしまったので、傷だらけになりながら運転席から這い出ると、逃げ出す。

そこに到着した久米刑事が、外に降りて良二の逃げた方向を観ていると、九の軽トラが近づいて来て、どうしたんです?と久米刑事に聞く。

久米刑事が目で横転している軽トラを指すと、俺の車だ!誰がやったんです?と軽トラにしがみつきながら九は聞く。

良二だよ…と久米は教える。

九ちゃん!と光子が呼びかけるが、九は顔色を変えて走り出していた。

永井運送の外では、運送店員たちのグループと健のグループがにらみ合っていた。

やがて、一歩前に出た若林が、俺が相手になってやると言うと、健も持っていたドスを仲間に渡して、素手での対決に挑む。

ジャズ喫茶にやって来た良二は、そこにジルジャンが置いてあるので驚くと、管理人が、ついさっき、友達が持って来たよ。九ちゃんとか言ってたかなと言うではないか。

信じられないと言う風にドラムに座り、嬉しそうにドラムを叩く良二。

しかし、そこに戻って来た九の表情はただ事ではなかった。

落ちていたコーラの瓶を拾った九は、その場で割って、ドラムに近づいて来ると、ジルジャンのシンバルを叩き付け、足で踏みつぶすと、コーラ瓶の破片でバスドラムを突き刺して破ってしまう。

驚いた良二が飛びかかり、2人は取っ組み合いの喧嘩を始める。

永井運送の外でも、健と若林が同じように喧嘩をしていた。

九と良二は、店の中に置いてあったペンキを掛け合い、ペンキまみれになる。

健と若林も、ドラム缶の側の油に転がり、全身油まみれになっていた。

床に転がっていたコーラ瓶の破片を取ろうと手を伸ばす九。

健と若林の戦いに、レンガやドスを使って加勢しようとするものもいたが、すぐにはねのけられる。

その時、喧嘩に気づいて飛び出して来た紀子が叫ぶ。

止めて!どうして憎みあい、傷つけあうのよ?どうしてなのよ!

1人ぽっちだから手を繋ぐんじゃない!胸張って歩くんじゃない!寂しかったら笑うのよ!哀しかったら頑張るのよ!弱い人間だから助け合うんじゃない!1人ぽっちだから愛し合うのよ!と…

その声がジャズ喫茶の店にも聞こえたのか、いつしか九と良二は互いに見つめあい、九!良二!と呼び合うと、泣いて抱きしめあっていた。

健も手にしたドスを捨てていた。

その手を握りしめる若林。

久米刑事と光子がジャズ喫茶に駆けつけてみると、もう九と良二は仲直りしていた。

数日後、「上を向〜いて歩〜こう♪」と歌を歌いながら軽トラを運転してかしに向かう九の姿があった。

健も河岸で働いていた。

彼は、大学の夜間部に転入していた。

良二は新品のドラムを観ていた。

河岸の軽トラの荷台の上で、健と紀子も歌っていた。

良二も歌っていた。

代々木競技場で肩を組んで歩きながら、九、良二、紀子、光子、健、そして彼らの仲間たちが、全員で「上を向いて歩こう」を歌う。

幼稚園、小学校、農家や漁師の人たちの姿

駅のラッシュ

働く人々

野球をする高校生

田舎の牧場で、牛の乳搾りをしている牧に、恵子が嬉しそうに近づいて来る。

ラグビーをする青年たち

甲子園の戦い

九ちゃんたちは、一斉に空に向け手を掲げるのだった。