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太陽の季節

石原慎太郎の芥川受賞作の映画化で、主役は長門裕之と南田洋子だが、石原裕次郎も慎太郎もちょい役で出ている作品。

この映画をきっかけに、太陽族と言う言葉が生まれたとも言う、当時の一部裕福な高校生(石原裕次郎がモデル?)の生態を描いた内容であり、毎日、キャバレーに出かけて遊んだりする余裕は一般家庭にはなかったはずで、一般庶民には縁遠い世界を描いている。

未成年なのに、酒、女、煙草に明け暮れている毎日。

恋人と2人だけで料亭でビールを飲む高校生。

勉強しているシーン等微塵もない。

しかし、その享楽的な若者の姿は、当時の同世代の若者たちには夢のような生活に写ったかもしれない。

大人を無視した子供だけの自由な世界。

背伸びした子供の大人ごっこ。

その証拠に、大人たちの描写はほとんどないし、最後の津川の大人たちへの捨て台詞は、大人と自分たちを明確に区分けしていることの象徴だろう。

しかし何不自由ないように見える坊ちゃん、お嬢ちゃんたちでも、自分に自信が持てず、心の奥底で悩みを抱えている。

彼らが言っていること、やっていることは子供のままである。

やっていることと頭の中のバランスが取れていない年代と言うか…、そうした不安を自分でも感じているので、彼らはそれを忘れるために時折無茶をする。

その無軌道さと無神経さで、互いに傷つけあう。

若い頃は、人を傷つけるのは平気なくせに自分が傷つけられると激怒する。

互いに、大人ぶって恋愛ゲームを続けるうちに、ゲームではすまない現実が待っていた…

当初、同じように、恋愛を冷めた観念論だけで語っていた男女だったが、現実を突きつけられると、やはり女性の方が現実派になり、男の方は最後まで子供のままでいようとする。

両者の溝は埋まらず、子供にしがみつこうとした男の方は、さらに厳しい現実と対決せざるを得なくなる。

今思うと、割とありがちな青春の蹉跌物語のように感じるが、太陽族の無軌道振りや奔放な生活振りの新奇さもあり、発表当時はセンセーショナルを巻き起こしたことは容易に想像できる。

保守的な大人たちにとっては、正に「アンファン・テリブル(恐るべき子供たち)」そのものに映ったに違いない。

物語自体は、今観てもそれなりに興味深い内容なのだが、如何せん、映像化に当たって、当時は高校生を演じる役者がいなかったのか、かなり不自然さが目立つキャスティングになっているように思う。

ただでさえ、老け顔の連中を集めているのに加え、スーツ等着ているものだから、とても高校生には見えない困った状況になっている。

特に、佐野浅夫など、調べてみたら、この当時、すでに30過ぎだったようで、額にはくっきりしわが目立っており、高校生なのか先生なのか区別がつかないほど。

今なら、ジャニーズ系の10代の可愛い男の子を集めるのも容易だろうが、当時の撮影所には、そんなに若い子はいなかったに違いない。

その辺に無理があるので、今観ると、一体これはどういう世界なんだ?と言う違和感を抱く人も多いのではないかと思う。

この作品での石原裕次郎は、はっきりした役名もない拳闘部仲間の1人ではあるが、明らかに他の部員たちより目立つように撮られており、明らかに売り出そうとする狙いが見える。

確かに、この当時の裕次郎はキラキラ輝くような魅力を持っている。

主役の長門裕之がイケメンタイプではない分、一緒に写っているシーンでの裕次郎は、身長も高いし、笑顔は甘く愛らしく、かっこ良く見える。

後に続く小林旭、渡哲也らも、デビュー当時はみな可愛らしいが、裕次郎の可愛らしさは、何か独特のオーラも併せ持ち、ちょっと違っている感じすらする。

主役になると、その辺はあまり目立たなくなってしまったような印象もあるが、この作品での裕次郎は確かに光っている。

南田洋子のクールビューティ振りも魅力的だし、長門裕之の庶民風と言うか、その独特の風貌から感じる人なつっこさと凶暴さを併せ持ったような一種独特の個性も捨てがたい。

さすがに、原作で有名になった「障子破り」の再現こそないが、一種独特の青春映画として、今でも十分に鑑賞に堪える作品になっていると思う。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1956年、日活、石原慎太郎原作、古川卓巳脚色+監督作品。

泥からガスが噴き出しているのか、あぶくのようなものが染みだしている背景にスタッフ、キャストロール

ひり休みのサイレンが鳴る中、東邦高校の拳闘部にやって来たのは、バスケット部の津川竜哉(長門裕之)だった。

リングの奥で仲間たちと賭けトランプをしていたトレーナーの江田(佐野浅夫)に賭け金の取り立てに来たのだった。

江田は、そんな津川にトランプやらないかと誘うが、それに乗りかけた津川は、俺も拳闘やってみようかなと言い出す。

仲間たちは、お前はバスケット部じゃないかと呆れた様子だったが、佐野が席を外したのに気づいた津川は後を追いかける。

カラッケツで昼も抜きなんだと江田が愚痴ると、仕合をやらせてくれたら、ご破算にしてやると津川は言い出す。

練習していた部員(石原裕次郎)は、自分は良いよと了承する。

はじめてリングの上に上がってみた津川だったが、さすがに部員との力の差は歴然で、相手は津川のパンチを受けることなく、難なく勝ってしまう。

すっかりばててしまった津川の顔を冷やしてやりながらも、江田は津川に、今なら、全国高校トーナメントに間に合うかもしれないなどとおだてる。

急にやる気になったらしい津川は、リングを降りると、サンドバッグにパンチを打込んでみせる。

それから二ヶ月後、自宅で津川は、兄の道久(三島耕)から借金を取り立てると、出かけようと庭に出るが、そこで父親の洋一(清水将夫)が、木製のトレーニングマシンを使い、身体を鍛えているのを、横で母親の稲代(坪内美詠子)が観ているのに出会う。

洋一は、見ろこの筋肉を!まだまだお前たちには負けんぞ。何なら叩いてみろと言って来たので、仕方なく津川が腹を殴ると、本気で殴る奴があるか!と言いながら苦しみだす。

稲代も注意するが、叩けって言ったじゃないかとふてくされて津川は出かけて行く。

そこに、道久がやって来ておべんちゃらを言うので、兄貴の方が要領が良い。1日の長だと洋一は稲代と話し合う。

鎌倉に集まった拳闘部だったが、みんなが家から持ち寄った金を出してみた江田は、今夜は金額が足りないので、素人のお嬢さんと洒落込むかと結論づける。

その後、拳闘部の面々は、通りで女の子たちを物色し始めるが、やがて、可愛い3人組の娘を見つけたので、津川と西村(野口一雄)が思い切って声をかけてみることにする。

ことろが、近づく途中で、西村がビビリ、仲間たちの元へ逃げ帰ってしまったので、津川が1人で声をかけることになる。

お暇でしたら、お付き合い願えませんか?と頼むと、真ん中の娘が、この先の理容室に母が来ており、荷物を届ける所だったので、その後で良ければ…と答える。

名前を聞くと、真ん中の娘が英子(南田洋子)と答え、残りの2人は、幸子(東谷暎子)由紀(小野三津枝)と教える。

津川は、後ろの方で待機していた仲間たちに、手で丸を作って見せるが、3人娘は立ち去ったかに見えたので、全員、疑心暗鬼で待っていた。

英子って子は、もっぱら俺が引き受けると津川は役得を要求する。

やがて、又すぐに3人娘が戻って来たので、メンバーたちは安堵する。

その後、全員でダンスホールに出かけ、津川は英子と踊るが、男の方は5人いたため、西村ともう1人があぶれてしまい、クラブへでも行かないかなどとぼやいていた。

英子が、女友達いなかったの?と聞くと、とびきりの相手はいないからな…と津川は答える。

津川は、下手に恋人がいると面倒くさいなどと生意気な口を聞くが、英子の方も恋愛なんて考えられないと言うので意気投合する。

あぶれた西村たちは、金が足りないと心配していたが、帰るの嫌になっちゃったと言い出した英子は、ラストダンスの曲が始まると、そっと津川をテーブルの方に誘い、車代を渡そうとする。

しかし、津川は、迷惑はかけないと断る。

結局、ラストダンスまで持てなかった西村たちは、男同士でチークダンスを踊るしかなかった。

車で家まで送ってもらった洋子は、母親(紅沢葉子)から遅かったわね。遊びが過ぎるんじゃない?と叱られるが、相手にせず二階の自室に入ると、下着に姿になってベッドに寝転ぶと、分かんない、付き合ってみなくちゃ…と独り言を言う。

やがて、拳闘の全国高校トーナメント試合が始まる。

先に出場した、いつか津川の相手をした選手は、判定勝ちだったと余裕の表情で控え室に戻って来る。

江田に身体をマッサージしてもらっていた津川の元に誰かが花束を寄越したと言うので、仲間たちは津川をからかうが、津川自身にも送り主の見当がつかず、照れ隠しのつもりで、花束にパンチを見舞ってリングへと向かう。

案の定、試合会場には、あの3人娘が来ていた。

津川さん、津川さん!と黄色い声援を挙げるので、対戦相手の政経高校の選手は、リングの上から睨みつけて来たので、娘たちも舌を出してみせる。

試合開始後は、津川に不利で、再三ダウンを取られていたが、ラウンドが進むにつれ、津川の調子が戻って来て、ロープ際に追い込まれた相手に連打を浴びせる。

すると、相手チームがタオルを投げ込んで来たので、津川のTKO勝ちになる。

顔の怪我を治療しに行った病院の入口を出て来た津川に、サッカー部の男(石原慎太郎)が近づいて来て、勝ったか?と聞いて来たので、TKO勝ちだと教えると、中にハクイのいるか?と言うので、いるよと教えてやる。

そこに、英子が車でやって来て、遅かったじゃないと声をかけて来る。

女医が2時間も安静にしろって言うんだよ、惚れてんのかな?などと津川が言うと、英子は言うわねと笑う。

クラブ「ブルースカイ」にやって来た英子は、今日のマッチ観てて分かった。試合に情は禁物ってこと。試合相手の男、コーナーでずっと私たちのこと睨んでたのよと教える。

俺は誰が死んでも泣きそうにもないと津川が悪ぶって言うと、私もそう…と英子も同意する。

その時、ステージでは女の踊りが始まっていた。

バンド・マスター(岡田眞澄)が、英子の方に会釈して来たのに気づいた津川は、ちょっと気にするが、英子が、昔付き合っていた恋人が、ある日待ち合わせ時間になっても来ないので不思議に思っていたら、自動車事故で死んでたの。でも泣けなかったわ。後で泣いたけど、もらい泣きなどと話すのを黙って聞いていた。

今その人、どう思ってる?と聞くと、何ともと答えた英子は、人を愛せないようなのと言うので、君も愛せないの…と津川は納得する。

今度の日曜日、葉山に行くんだけどどう?と英子は誘って来るが、その日になんないと分かんないやと津川はつれない返事をする。

日曜日、葉山の港で、兄の道久と共にヨットの名前を塗り替えていた津川の元に、西村が車でやって来る。

何と、英子を乗せているではないか。

英子さんを見かけたから、送って来ただけと言う西村に、車が焦げ付く前に帰りなと道久が言うと、煙を上げていた車に気づいた西村はすたこら帰って行く。

道久が英子に、今ヨットの名前を「ベラミ」に換えている所です。去年が「モテル」、音と志賀「ダンディ」などと話しかけるが、英子は津川とさっさとモーターボートの方へ向かい、2人は海に出て行く。

その後、津川の家に遊びに来た英子は、下げてあったサンドバッドにパンチを入れる。

シャワーを浴びた後、バスタオルを腰に巻いただけの津川が、離れの自分の部屋に戻ろうとすると、母の稲代が、何です?裸でと眉をしかめ、女の子は帰るんでしょう?と聞くので、葉山の別荘に泊まるんだって…と津川は答えるが、パパが何かとうるさく言うから早く返しなさいよと稲代は注意する。

勝手に言わせとけば良いよと相手にせず、部屋に戻った津川は、ベッドに寝ていた英子を観ながら、障子の手前で名前を呼んでみる。

しかし、英子は何も返事をせず、津川を睨むだけで、呼んでいた雑誌を障子に投げつけ破ると、ねえ、あのサンドバッグを叩いてみてよと命じる。

津川は言う通り叩き始めると、その背後から英子が抱きついて来る。

2人はそのまま、津川の部屋でベッドインする。

やがて、稲代のご飯ですよ!と母屋の方から呼ぶ声が聞こえて来るが、私、ご飯いらないわ…と英子が言うと、じゃあ俺も…と津川は答える。

ねえ、私ってダメね…と呟く英子を津川は抱きしめる。

英子は泣いていた。

その後、英子は、高校の拳闘部に津川を堂々と迎えに来るようになる。

西村はシャワー室で、早々に練習を引き上げようとする津川をからかうが、津川は相手にせず、英子と共に出かけて行く。

その後、英子と津川は、場末のバーで2人きりでへべれけになるまで飲んでいた。

私ってさ、男と気安過ぎるのよ。だから自分から愛せなくなっちゃったなどと英子が愚痴るので、考えるようになったらお終いだと津川の方も酔って答える。

ねえ、竜っちゃん、私たちも別れようよと言い出した英子は、本当に愛情のある女にならないのかな?分かんないわ…等と管を巻く。

後日、津川たちは、トーナメントに勝った祝勝気分で路上で酔って踊っていた。

津川は、持っていたビール瓶を壁に叩き付けて割る始末。

そのまま、クラブ「ブルースカイ」になだれ込むが、テーブルに座った津川たちは、マスターと踊っている英子の姿を観かける。

今日は和服を着ており、大人っぽい雰囲気だった。

江田も英子に気づいたようで、津川をからかう。

津川は、ホステス相手に踊りながら、英子が座ったテーブルの方へ近づこうとするが、別の女と踊り始めたマスターが、津川を邪魔するように接近して来る。

その後、仲間にマスターを呼びださせた津川は、階段口でいきなり殴りつける。

何でおれが叩いたか分かるか?と津川が聞くと、靴を踏みつけたからでしょうと言いながらマスターは立ち上がる。

当分、トランペットは吹けまいと津川が得意げに言った時、待って、津川さん!と言いながら、英子がやって来る。

カンター席に着いた2人は酒を注文し、津川は殴りたかったから殴ったんだと言うので、私も好きなようにするわと英子も答える。

そこに、先ほど津川が踊ったホステスが間に割って座るが、マスターも仲間を引き連れて津川の背後にやって来る。

津川は相手をし始めるが、園券かに気づいた拳闘部の連中も仲間に加わり、乱闘が始まる。

そんな中、英子は、倒れていた津川を引きずり出し、2人で床に座ると、どちらからともなく笑い出すのだった。

その後、英子は、「Bel Ami(ベラミ)」号と名前を塗り替えた津川のヨットに同乗して海で遊ぶ。

沖合で船を停めた津川はトランジスタラジオで音楽をかけてみるが、踊れそうな曲をやっていない。

ここじゃ踊れないわと英子も言うので、せめてクルーザーの甲板ならな…と同意した津川は、海に飛び込み泳ぎだすと、英子も誘う。

英子も飛び込み、津川に近づこうと泳いで来るが、気がつくと、津川の姿が見えない。

ヨットにも戻ってない。

不安になった英子の前に、潜って隠れていた津川が顔を出し笑う。

何あれ?…と英子が海の中のものを指すので、クラゲだろ?と津川が答えると、戻りましょう、怖いわ…と英子は言い出す。

その時、津川は英子を抱き、一緒に水中に潜ると、海の中でキスをする。

水面に上がると、やっと会えたわと英子が言い出し泣いているので、津川が訳を聞くと、うれし涙よ。私、もう1じゃなかったわ。もう1人じゃない!と喜ぶ。

その日、自宅に戻ってベッドでタバコを吸っていた津川の元にやって来た晴久は、ホテルでパーティがあるんだ。行かないか?と誘って来るが、今日は疲れているのでと津川は断る。

後で後悔しても知らねえぞ…と言い捨てて、晴久は1人で出かけて行く。

翌朝、庭先で津川がトレーニングしていると、電話がかかって来たと稲代が知らせに来る。

電話は英子からで、津川家の受話器置きのオルゴール音が気に入ったようだった。

しばし、オルゴール音を聴かせてとねだった後、私、夕べから変わったわ。私の別荘に今すぐ来てくださらない?と言う。

津川は承知する。

後日、拳闘部の仲間とヨット遊びをすることにした津川だったが、そこに乗せて!と言いながら、女子大の英文科と名乗る女5人組が近づいて来る。

拳闘部はもちろん歓迎する。

津川はその日、英子とヨットに乗ろうと誘っていたにも拘らず、他の女とヨットに乗って出ようとしていたので、それに気づいた枝たちは、英ぴん来るぞとからかうように言う。

案の定英子がやって来て、今日会う約束なのに、ヨットハーバーの方に来ないのよと江田たちに聞きに来る。

さすがに、江田たちの口からは本当のことは言えず、所在な気に砂浜に腰を降ろした英子は、見知らぬ女と一緒にヨットに乗っている津川を発見する。

夜、バンドを招いて、その生演奏でダンスパーティを開いた拳闘部だったが、英子もテーブルに座っていたので、他の女と踊ろうとか以上に入りかけた津川は、英子の目を気にして止めることにする。

そんな会場内に、地元のチンピラ(花村信輝、八代康二)が2人入り込んで来て、英子が踊っていた道久を会場から連れ出すと、えらくにぎやかにやっているじゃねえか、分かってるんだろうな?などと因縁を付け、殴りつけて来る。

そこに、拳闘部の2人がやって来て、2人に金を渡そうとしたので、チンピラは受け取って帰りかけるが、次の瞬間、拳闘部の2人から殴られてしまう。

そんな騒ぎの中、会場では、英子が津川に、竜っちゃん、私、嫌いになったの?と聞くが、津川は答えない。

英子が帰ろうとすると、殴られて頬に青あざを作って戻って来た道久が後を追って来る。

2人は、夜の砂浜を一緒に歩く。

翌朝、津川たち拳闘部と、昨日の英文科の女の子たち、そして英子も交え、2艘のヨットで海に出るが、何故か、英子と津川は別々のヨットに乗り込む。

やがて、ヨットは、ロッジ風のホテルに到着する。

女子大生たちは、みんなホテルに泊まるつもりだったが、中に1人だけ、さっき貫太郎と言う人が抱きついて来たわ。私怖いわと怯えていた。

夕べ、英子を射止めたつもりの道久は、津川に近づき、英子は俺が預かるぜ。今夜、お前が誘ってみろ、巧くいったら、5000円出すと賭けを挑んで来る。

夕食後、拳闘部仲間と女子大生たちは、めいめいカップルを作って散って行く中、津川は、兄と同じテーブルに座ったままの英子に近づくが、英子は動こうとしない。

道久はしてやったりとにやりと笑うが、津川は英子の腕を取って、無理矢理立たせ、食堂の外へ連れて行く。

あっけにとられた道久は、1人食堂に残っていた女の子に近づき、弟と同じように腕を取って立たせようとするが、ビンタされてしまう。

堤防の所で座り込んだ英子は、お食事の時、あなたが誘いに来そうな気がしたのと言い、津川も分かっているよと答える。

もう離さないわと英子は津川に抱きついて来て、2人は濃厚なキスをする。

朝食時、みんな食堂で食事をしていた時、何故か、英子だけが口元を押さえて退席する。

その後、外に出た津川に近づいて来た道久は、夕べは負けたよと言い、金を出すから、今日はここにいないでくれ。お前がいるとやりにくくて仕方がない。山へ行けよ。どうせ新潟の合宿があるんだろう?と頼んで来る。

津川が黙って、幼児用のブランコに乗っていると、英子が近づいて来たので、道久は、こいつは子供の頃から何でも壊す奴なので、あまり近づかない方が良いですよと忠告する。

道久は、付き合ってくれよ。どうせ明後日は葉山に帰るんだからさと英子に迫るが、英子は、嫌!と言って拒否する。

津川立ち上がり、黙ってその場から立ち去る。

道久は、あいつとは約束したので、戻って来ないよと言うと、約束って何?と英子は迫る。

拳闘部の新潟での合宿が終わり、夜汽車で上野駅に到着した一行は、みんな彼女が出迎えに来ているのを見つけ喜ぶ。

しかし、津川と西村だけは誰も迎えが来ていないようだった。

黙って帰りかけた2人だったが、津川は英子が迎えに来ていることに気づき、西村の方もエルザー(関弘子)が着ていることに気づき喜ぶ。

取りあえず、料亭に部屋を取り、そこに落ち着いた津川は、何か、変わったことあった?と聞くが、約束って何?といきなり英子は聞いて来る。

兄との取り決めのことを打ち明けると、それじゃあ、私を裏切ったの?と英子は睨んで来たので、そこまで考えなくても…、ただ…と言いかけるが、ちょうど仲居がビールを運んで来たので、取りあえず、コップに注ぐ。

5000円のために、兄貴のために、君には指一本触れないと津川が決意を語ると、じゃあ、私がお兄さんに払い戻すわ。2人が諦めるまで、払い続けるわと英子は言い出す。

どうして私を虐めるの?抱いてもらえるまでお金を出すわ。あなたは私を金で売っているつもりでも、結局私に飼われているのよ。どうして素直に愛することが出来ないの?2人ともカ○ワなのよ。それはきっと直せるのよと英子は言い聞かす。

英子は言葉通り、兄の道久宛てに5000円を郵送で送って来る。

兄は、その5000円を再び津川に渡す。

しかし、後日、英子は又5000円送って寄越して来る。

さすがに道久は、英子の本気度を知り、もう止めようよと言い出すが、じゃあ、俺が兄貴に3000円返し、2000円だけ受け取ることにするなどと津川は言う。

それでも英子の送金はその後も続き、道久の方は、もう嫌だよと音を上げる。

津川は、2万円も溜まったので、しぶといと言うので、見かねた道久は、人の心を金で計るもんじゃないよ。元々お前は、あの女にまんざらじゃないはずだと津川に言い聞かす。

夏も終わり、雨の中、拳闘部仲間たちと「ベラミ号」を仕舞う準備をしていた津川の元に、英子が久々にやって来る。

部員の1人が気を利かせ、仲間たちを誘って先に帰って行く。

英子は、あんな所に子供の像があるわと言う。

それは、置き忘れられていた子供の石膏像だった。

思い出のヨット、もう仕舞うのね…。ちょうどあの頃かしら?赤ちゃんが出来たのよと、突然英子は言い出す。

誰の?津川が聞くと、あなたの子供よと英子はじれったそうに答える。

俺んじゃないんじゃないかな?あのバンマスもいるじゃないかと津川がとぼけると、バカね、何もしなかったわよと英子は怒る。

生んで良い?私、生んでみたいのと聞かれた津川は、じゃあ産むさ。子供をダシに使うなんて…とぶっきらぼうに答える。

日頃新しいことを言ってるくせに、古いぜ。赤ん坊いたって悪くないさと津川が投げやりに言うと、本気でそう言ってるの?と英子は怪しむが、寒くねえか?と言いながら、津川は火をおこしてやる。

その夜、自室のベッドに横になった津川は、先に寝ていた晴久に声をかけ、英子に俺の子が出来たよと告げる。

本当か!知らなけりゃ、とんだタマを掴まされる所だったぜなどと憎まれ口を聞いて来た道久は、あれすましたか?あんなに虐めて来たから、どんな子が産まれて来るか?などと嫌味を言う。

その後、拳闘部で、仲間にテーピングを手伝ってもらっていた津川は、その仲間から、東京駅でお前の兄貴と会ったよ。お前、結婚するんだって?相手は誰だよ?と聞かれる。

兄貴の奴余計なことを言いやがって…とふてくされた津川は、結婚するとは決まってないよと答える。

すると、仲間は、赤ん坊を抱いたチャンピオンの写真を見たけど、間抜けだったよとからかう。

その時、西村が、お客さんだよと津川に教える。

東京駅の八重洲口で津川を待っていたのは、英子の友人の幸子だった。

そのさち子に教えられ、近くの喫茶店に入ると、英子は1人で待っていた。

練習中呼びだしたりしてなんだよ?と津川が聞くと、ごめんなさい。もう4ヶ月でしょう?はっきり聞きたいの。最初、ヨットハーバーでお聞きしたわと英子は言う。

あなたにも責任はあるわ。でもそんなことはもうどうでも良いの。私困ったわ…と英子が悩んでいる様子だったので、好きなようにしろよ。子供出来ても悪くないって言っただけだと津川が泣け槍に答えると、あなた、そうなの?ホ¥ん唐なの?それなら産めないわと英子はきっぱり言う。

しょうがないじゃないか。産むために付き合って来たんじゃあるめえと津川が冷たく言い放つと、英子は泣き出し、そのまま喫茶店の入口で待っていた幸子に、お願い、すぐ病院に連れて行ってと頼む。

次の夜、自宅にいた津川に、電話だと稲代が呼ぶ。

いつものように、受話器がオルゴールの上に置かれ、津川が出ると、相手は、公衆電話からかけて来た幸子だった。

英子さん、夕べ亡くなりました。病院で急に亡くなったんです。本当ですと言う。

唖然とした津川は、チェッ、ドジしやがってと言うなり、一方的に受話器を置く。

その後、部屋に戻って来た津川は、拳闘部仲間と麻雀をやっている途中だったが、負けたのを機に、ウィスキーとコップを持って来て、酒を一口飲むと、英子、死んだよ。英子、死にやがった…と真顔で言い出したので、聞いた江田らは目を見開いて驚く。

竹だけ葬儀場に学生服姿で1人やって来た津川は、寺の正面に置かれた英子の遺影を見る。

そして、その横に居並んだ遺族を見ると、開いても何ものかと言うように目線を合わせて来る。

その時、急に鈴を握りしめた津川は、バカヤロー!と叫びながら、英子の遺影に投げつけたので、写真立てのガラスが割れる。

そして、遺族の方を観た津川は、あんたたちには、何も分かりゃしねえんだ!とどなりつける。

寒くねえか?火を焚いて、妊娠を告げた英子を招き寄せたヨットハーバーのことが、津川の脳裏をよぎる。

バカヤロー!死にやがって!英子のバカヤロー!

津川はそう叫びながら、寺を出ると、坂道を下って行くのだった。