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孫悟空

山本嘉次郎監督、特撮、円谷英二コンビで「孫悟空」といえば、戦前の1940年にエノケンを主役に起用した同名映画があるが、これは、戦後の1959年度作品。

主役の孫悟空には、三木のり平が扮している。

徳川夢声演ずる紙芝居屋が、村の子供たちに紙芝居「孫悟空」を話して聞かせているシーンから始まり、その紙芝居が人間の芝居に徐々に移り変わるような演出になっており、その後も、紙芝居風の「書き割り」の絵とセットを組み合わせた独特の絵作りが面白い。

悟空の周囲に渦を巻くように動き回る觔斗雲の描写等、アニメ技法を駆使したテクニックは、後のキングギドラ誕生シーンにも通じるものを感じる。

全体的にセット芝居が多用され、時折、御殿場当たりと思われる外ロケシーンが混じっていると言った感じで、大作感はあまりない。

一番の見所は、悟空が化けたと言う設定を演じている八千草薫さんのドタバタ演技。

最後は、猪八戒に扮した千葉信男と、麻婆豆腐のようなものを頭から浴びせあっているのがすごい。

あんかけまみれの八千草さんの顔とか、椅子で頭を殴られる八千草さんと言うのも滅多に見られるものではない。

話自体は、子供向けの説教めいたメッセージ性が全面に出ているため、娯楽性はやや弱くなっている。

一番物足りないのは、せっかく三木のり平が主役を演じているのに、おふざけシーンがほとんどないことだろう。

逆に言うと、こんなに全編を通してまじめな演技をやっているのり平さんを観たことがないほどだ。

悟空が自分の身体の毛を抜いて、術に使う設定はお馴染みだが、毛を抜く行為は酷い苦痛を伴うと言う新たな解釈が加えられているため、のり平さんは、絶えず、苦しむ演技が目立つようになっている。

これが、最後のおちに繋がる伏線になっているのは理解できるが、のり平さんのシリアスな演技ばかり見ているのも辛いものがある。

もっと、ご陽気な悟空の描写もあって良かったのではないかとも思う。

中村是好が演じている沙悟浄も妙にシニカルなキャラクターで、千葉信男演じる猪八戒も、後半はまじめなだけのキャラクターになっており、全体的に堅苦しい感じがある。

三蔵が、絶えず、殺すな暴れるなと説教しているのも、物語を萎縮させている要因のように感じる。

子供に対する大人のメッセージなのは分かるが、冒険物語で暴れるなと言ってしまっては、悟空たちの大活躍を見たい観客側としては、絶えず自己矛盾に悩まされることになり、心底楽しめなくなる。

前半の馬賊との戦いのシーン等、殺さないでくれ!と三蔵が頼んだ警備隊も馬賊側も、結果的に全滅してしまっており、その後も、悟空たちが三蔵を守って戦おうとしても、暴れるなと注意し、結果的に、三蔵は、きれいごとだけを言って自分の警護の連中の足を引っ張り続けているだけの嫌な子供のように見えてしまう部分がある。

アクションの物足りなさを補うためか、女性の群舞のようなシーンを挿入してあるが、それこそ大人の娯楽要素であって、子供にはピンと来ないのではないだろうか。

以前観た時には、それなりに楽しめたが、今回、改めて見直してみると、子供には結構退屈な作品だったのではないかと言う気がした。

大人としても、もっとドタバタか、アクションシーンに工夫が欲しかったような気がする。

八千草さんの母親役なのに一言もしゃべらない一の宮あつ子とか、せっかくブラック将軍のようなコスチュームを着ていながら、何の活躍もしない天本英世など、役者の使い方ももったいない気がする。

余談だが、金閣、銅閣を演じているのが、由利徹と南利明なのは、見ているとすぐに分かるのだが、銀閣を演じているのが誰なのか見当がつかない。

キネ旬データベースでは中田康子などと書いてあるが、三蔵に化けた男の銀閣とアラクネ役の中田康子が一緒に並んで出ているシーンがあるので論外だし、脱線トリオの八波むと志か?とも思うが、どうも別人のように見える。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1959年、東宝、村田武雄脚本、 山本嘉次郎脚本+監督作品。

日本のどこかの田舎

紙芝居のおじいさん(徳川夢声)が、子供たちを集めて紙芝居を披露していた。

紙芝居は、一枚絵ではなく、棒に付いた紙人形を背景の上に動かすやり方。

今から2千年前の話だよ。(…と紙芝居の爺さんが語る)

唐の時代、都は、暴風や飢饉、流行病等で国が滅びかけていました。

時の王様は、聞けば、インドに三蔵経と言うありがたいお経があると言う。

この巻物を手に入れることが出来れば、国を救うことが出来るのではないかと考えた。

では、誰に取りに行かせれば良いのか?

その都に、玄奘と言う子供がいた。

その子の母親が病気なので、玄奘は薬草を取りに、山のずっとずっと奥まで出かけて行った。

誰も知らなかったが、その山には人食い虎が住んでいた。

玄奘が薬草の匂いを嗅ぎ、谷底に降りてみると、そこにその人食い虎が待ち構えていた。

観ると、虎の足下には薬草が生い茂っている。

取れるものなら取ってみろ!と人食い虎が脅して来るが、玄奘はその場を立ち去らない。

すると虎の姿は消え、1人の仙人が出現し、お前は虎が恐くないのか?と聞くが、玄奘は怖くてございますと答えたので、なぜ逃げぬ?と聞くと、母さんの病気を直したいのでございますと玄奘は答える。

その玄奘の言葉を聞いた仙人は、王様の夢枕に立つと、インドに行くのは玄奘の他にないと告げ、目覚めた王様は、玄奘をインドへつかわすことにする。(…ここまで、紙人形劇)

書き割りの馬車に乗った王様の侍従(土屋詩朗)が玄奘の家の前に降り立つ。

書き割りの家の中では、ベッドに寝込んでいた母親(三田照子)が、旅立つ玄奘(市川福太郎)に、歌を歌って別れを惜しんでいた。

玄奘は、三蔵経にちなんで三蔵法師と新しく名乗り、大勢のお供を引き連れ、白馬に乗って都を出発する。

都を出て3日、一行は唐の国境にやって来る。

そこには、動物の骨等が散らばっていた。

そんな一行に、待て待てい!と馬で追って来たのは、国境警備隊の隊長王祥(藤田進)だった。

これから先は、金を奪う土人どもがいますから引き返してくださいと言うので、三蔵は、自分は帰るわけにはいかない、使いがあるのでと断るが、命を失ってお使いは出来ません。むざむざ命を失うような方を通せません!と王祥は説得しようとする。

そんな王祥の話を聞いていたお供のものたちは、全員怖じ気付き、一斉に荷物を捨て逃げ出してしまう。

王祥は、どうしても行かれるのなら、自分をお供にしてくれと頼む。

その時、奇妙な音がして、枯れ木に何ものかが投げつけられる。

王祥は角笛を吹き鳴らし、警備隊に呼びかける。

丘の向こうに、馬に乗った大勢の馬賊が出現したので、警備隊は、荷物を土嚢代わりに丸く積み重ねて臨時の砦とし、その中に入る。

三蔵は王祥に、お願い!殺さないで!と頼むが、敵は家に毒を塗っています。当たれば死ぬばかりだと言いながら、迫り来た馬賊の剣士チクジン(藤木悠)と剣で戦い始める。

敵を追いつめ、刀を振りかざした王祥だったが、馬に乗った賊から屋を背中に射たれ倒れながらも、押し倒したチクジンを刺し殺す。

三蔵様!さらば!と言って王祥は息絶える。

馬賊も警備隊員も全滅した中、1人ぽっちになった三蔵は、自分をどこからか呼ぶ声に気づく。

きょろきょろしていると、ほら、観音様が呼んでいるよと声をかけて来たのは、どこから現れたのか、若い娘だった。

その娘が空を指差すので見上げると、そこには雲が1つ浮かんでおり、それが光っている。

あなたはどなた?と三蔵が聞くと、私は観音様のお使いでポン(団令子)と言うのと娘は答える。

高い山が見えるでしょう?あの山をどんどん登って行くと、待っている人…と言うのかしら、待っているものがいるので会いなさいと観音様はおっしゃっています。そのものがいないとインドまで行けませんのですぐに行きましょうと言うと、ポンは、ほら、坊や頑張って!と三蔵を励ましながら、歌を歌いながら、一緒に険しい山を登り始める。

ポン、ポン、ポン♪ポンがいる〜♪

いつも元気なポンがいる〜♪

三蔵が頑張って登っているのを確認したポンは、途中で姿を消してしまう。

洞窟のような所に到着した三蔵は、ポンがいなくなったことに気づかず、この洞窟ですか?と背後に呼びかけるが、そこには誰もいない。

仕方ないので、洞窟の中に入ると、助けて!三蔵さん!と呼び掛け、毛むくじゃらの手が、岩の中から突き出しているではないか。

このお札を剥がすんだ!と岩の上に貼っているお札を指差すので、それを取ってやると、急に岩が崩れ、1匹の猿が飛び出して来る。

出た!出た!と喜んだ猿は、雲よ、来い!と叫ぶと、遠くの空から光る雲が飛んで来て、猿の周囲に回転するように黄金色の雲を形成する。

猿はそれに乗って、空へと飛び立って行くが、途中で、あんまり嬉しいんでお礼を言うのを忘れちまった!と気づくと、猿は元の山に取って返し、三蔵の前に降り立つと、良し帰れ!と雲に去るように命じる。

自分はいたずらが過ぎて、観音様に岩に閉じ込められた悟空(三木のり平)と言うもので、500年間とにかく苦しかった。観音様があなたと旅をすれば、罪を消しても良いと言うので、お供させてくださいと三蔵に挨拶する。

自分も観音様のお導きでここへ来たのだが、これからインドへ向かうのですと三蔵が言うと、あの雲は、10万キロをすっ飛んで行きますから、インドなんてあっという間に飛んで行きますと言い、もう1度雲を呼び寄せると、坊ちゃん、しっかり捕まっているんですよと、背中に三蔵を捕まらせ、飛び立とうとするが、三蔵は転んで置いてきぼりにされてしまう。

今度は、三蔵の腰紐を自分の腰にしっかり結わえて、もう1度飛び立とうとするが、やっぱり三蔵だけが取り残されてしまう。

どうやら、紐が自然とほどけてしまうようだった。

その時、笑い声が聞こえて来て、またポンが姿を現す。

何がおかしいんだ!と悟空が怒ると、だって、あんまり間抜けなんですものとポンが嘲るので、俺は猿の大王様だぞ!と悟空は見栄を張るが、人間は安和雲に乗れないのよ。らくちんにインドへ行って、ありがたいお経をもらいないよとポンは言う。

三蔵も、考え違いをしていました。苦しめば苦しむほど、お経のありがたさが分かると言うことをと言う。

ポンは、毛むくじゃらの悟空に着物を差し出し、瞬時にその場で着せると、人間みたいになった悟空は大喜び。

三蔵坊ちゃま、参りましょうと悟空は誘うが、お師匠様と言いなさいとポンが命じると、素直にこれに従い、ポンの歌が聞こえて来る中、悟空は三蔵の乗る白馬の手綱を引いて旅に出発する。

胸にも身体にも、森にも谷にも、ポンがいる〜♪

日本のどこかの村の紙芝居風景

紙芝居屋のおじいさんが、とある村へさしかかると…と、子供たちに話している。

書き割りの風景を歩く三蔵と悟空は、どこからともなく聞こえて来る哀し気な女の歌声を耳にする。

やがて、その歌を歌っている娘を発見したので、訳を聞くと、子供に話してもしようがないわと言うので、悟空がどうしました?と聞くと、あなたのような荒くれ者に話しても…と言うので、この方は三蔵法師様ですぞと教えると、急にその娘は態度を変え、三蔵様!と驚く。

両親(大川平八郎、一の宮あつ子)のいる自宅に招かれた三蔵と悟空が聞かされた所によると、娘は翠蘭(八千草薫)と言い、毎日、彼女を嫁に欲しいと言う、大食いの豚の化物が屋敷にやって来るのだと言う。

もし、あいつが今夜、婿入りに来たら、私死んでしまいます!と翠蘭が嘆き悲しむので、そんな豚、殺してしまいますよと悟空があざ笑うと、向うが悪くても、殺すのはもっと悪い、お前は仏様の弟子になったことを忘れたのですか!と三蔵が縛める。

じゃあ、こうしましょうと言って席を立った悟空は、自分の胸の毛を痛そうに引き抜くと、それを吹く。

すると、そこに翠蘭そっくりの娘が出来上がる。

その翠蘭が悟空を吹くと、悟空の姿が消えてしまう。

それを観た本物の翠蘭は、嫌な感じ!と顔をしかめるが、あんたの身替わりになって、化物退治をするのよ。部屋に案内しなさいと偽翠蘭が命令する。

翠蘭の部屋にやって来ると、そこには化物用の食べ物がテーブル一杯に用意されていた。

翠蘭は、これを何度もおかわりするのよと忌々しそうに、偽翠蘭に説明する。

偽翠蘭は、あなたは姿を隠してなさいと命じ、部屋に1人残ると、ごちそうの一部をつまみ食いし、置いてあった酒を一瓶全部飲んでしまう。

酔って眠くなった偽翠蘭は、椅子に寄っかかり居眠りを始めるが、その時、窓から部屋の中に風が吹き込んで来る。

窓の外には、豚の化物が巨大化し、部屋の中を覗き込んでいる。

やがて、その豚は、人間に近い形になると、部屋の入口から入って来て、翠蘭ちゃん!スイちゃんなどと気安気に呼びかけて来る。

豚の化物は、猪八戒(千葉信男)と言い、椅子で寝ていた偽翠蘭の唇に、自分の唇をつけた手のひらを、くっつけて来るが、それで目覚めた偽翠蘭は、何をしやがるんだ!気持ち悪い!と飛び起きる。

声が違うわねと八戒はいぶかしがると、慌てて、偽翠蘭は悟空から翠蘭の声に変え、風邪を引いたのよとごまかす。

八戒は、椅子なんかで眠るからよと言うと、平然と机の前に座り、並べられた料理を片端から平らげ始める。

やがて、満腹になった八戒は、スイちゃん、眠くなって来たから、何か歌ってよと言うので、偽翠蘭は、私16、中国娘〜♪とか、春が来た〜、春が来た〜♪と悟空の声で歌い始めたので、八戒は、止めて!頭に来ちゃった!と怒りだす。

それでも、偽翠蘭は、お猿の駕篭やだ、ほいさっさ♪などと止めず、麻婆豆腐の皿の中味を八戒の頭から浴びせかける。

怒った八戒も、同じように、麻婆豆腐の皿の中味を、偽翠蘭の頭からかけ、さらには、椅子で、偽翠蘭の頭を殴りつけるが、平気な様子で笑い出した偽翠蘭は、悟空に変身する。

トンカツにしてやるから、おとなしくしてろと言うと、悟空は左耳の中から如意棒を取り出す。

しかし、気がつくと、猪八戒の姿は消えており、地面に土の盛り上がりが、門の外の方へ向かって出来ていたので、さすが豚だけあって、掘るのが巧いやと感心した悟空は、如意棒をさらに伸ばし、それを使って、棒高跳びの要領で門を飛び越えると、外に出て来た猪八戒の頭を殴りつける。

すると、それを観ていた三蔵が、乱暴なことをするな!と叱りつけたので、悟空は、これはこんなことも出来るんですと言って、如意棒を手品のように花束に変えたりして見せるが、それを見た三蔵はまずまず呆れ、乱暴者のお前が、そんな術を知っているとは恐ろしい。今日から止めなさい!と言いつける。

悟空は、俺を認めてくれないなら、お供はお断りしますと言い、姿を消す。

そこに近づいて来た八戒は、何ものかに頭を殴られていたがるが、愉快そうな悟空の声だけが聞こえるだけだった。

三蔵は心を入れ替えた八戒と2人で旅を続けることにするが、八戒はすぐに空腹を訴え始め、山道の途中で動けなくなってしまう。

一方、猿たちが住む自分の洞窟に戻り、大王様として、椅子にふんぞり返って威張っていた悟空は、泣きながら出現したポンに気づく。

坊やが虐められているのよ。八戒の奴が虐めてるのよと言いながら、望遠鏡を悟空に渡すポン。

それを覗くと、動けなくなった八戒を、三蔵がおぶってやろうとしているではないか!

八戒が三蔵の新たな弟子になった事を知った悟空に、インドへお供して、罪滅ぼしがしたいって言うのよと言うポンの説明を聞くと、無礼な奴だと憤る。

そんな悟空の性格を見抜いているポンは、三蔵さんにはあなたが必要なのよと後押しすると、悟空はすっかり乗せられて出かけて行く。

後に残ったポンは、気短で怒りん坊だけど、良いとこあるなぁと笑顔で感心する。

三蔵と八戒の元に戻って来た悟空は、又弟子にしてくださいと頭を下げたので、仲良くすれば許してやると三蔵は寛容な所を見せる。

流沙河に着いた3人。

船頭や〜い!と悟空が渡し船を探していると、緑色の河童のような奇妙な人物が近くの穴から出て来たので、船を出してくれよと悟空が頼むと、この河は俺の河だ。渡そうが渡すまいが俺の勝手だとふてぶてし気に言う。

三蔵が丁寧に頼むと、こっちの方が人間が出来てると言うその沙悟浄(中村是好)と言う河童は、河を見ながら、乗れよと3人に促す。

3人がきょとんとして、何もない河を眺めていると、水面下から急に船が浮かび上がって来る。

それに乗った3人に、櫂を漕ぐ沙悟浄は、この船に乗せたものは、みんな沈めて、腸を抜いて食うことにしているが、俺もインドにお供して、人間の姿にして欲しいと言い出す。

頭を下げてお願いしろよと悟空が不遜な態度の沙悟浄に文句を言うと、俺は頭を下げない。頭を下げると、頭の皿の水がこぼれ、命がなくなるからだと説明する。

4人は、崑崙山と言う山に登り、雪が降りしきる氷の峠にさしかかる。

全員、旅の疲労と寒さで、岩の割れ目の中で眠りかけるが、悟空は、眠っちゃいけませんと、他の3人に注意しながらも、自分も睡魔と戦っていた。

そんな悟空の身体に何かが当たり目が覚めたので、見て観ると、それは手紙だったので、ポンの通信かな?と呟きながら中を拡げて読んでみる。

その内容は、三蔵の母親が病死したと言う哀しい知らせだった。

それを、眠っている三蔵に知らせることは誰も出来なかった。

でも、起こさないと、三蔵は凍え死んでしまう。

生きているものはいつかは死ぬんだ。何、和尚様は覚悟しているよなどと沙悟浄が言うので、悟空は、じゃあ、お前がこの手紙をお師匠様に見せろと頼む。

俺も案外こういうのは弱いんだ等と言いながら、沙悟浄は三蔵を揺り起こすと、その手紙を手渡す。

それを読んだ三蔵は、声を挙げずに泣き崩れる。

お供の3人も泣いていた。

そこに、寂し気な様子のポンが現れ、観音様がね、これを食べて元気をお出しなさいって…と言いながら、かご一杯の饅頭を三蔵に差し出す。

みんな饅頭に手を伸ばすが、1人八戒だけは、饅頭を駕篭に戻しながら、私、我慢します。私が食いしん坊なばかりにみんなに迷惑をかけたので…と言う。

三蔵が、遠慮なくお食べと勧めると、それじゃあ、と言って、八戒も饅頭を食べ始める。

ポンは三蔵に、すぐにお帰りなさい。みんなお葬式の準備をして待っているわと伝えるが、三蔵は、僕はお使いをしないで戻れませんと答えたので、お釈迦様のお膝元でお母様が待っているわと勇気づける。

それを聞いた三蔵は元気を取り戻し、すぐに出発しようと言いだす。

崖の上に立った一行は、眼前に広がる大海原を目にするが、やがてそれが、火を吹く3つの山の姿にかわったことに気づく。

見た通り、これからは悪魔の支配する国です。観音様のお使いは出来ません。しばらくお別れよ、後は悟空さんに任せたわよとポンが教えると、悟空はよしきた!と張り切る。

悪魔の国の住処にやって来たのは、全身赤い姿の伝令スットンベエ(横山道代)だった。

彼女は伝令1号!と称し、金閣大臣(由利徹)、銀閣大臣(?)、銅閣大臣(南利明)、書記官長(天本英世)を従えた悪魔大王(小杉義男)の前に進み出ると、三蔵一行が領土内に入りましたと報告する。

それを聞いた大王は、せっかく、暴風や洪水、流行病等で唐を痛めつけているのに、三蔵を通せば、悪魔は滅びてしまう。ものども抜かるな!と檄を飛ばすと、まずは金閣大臣に指令を出す。

金閣は、がっちり化けちゃうから…と言うと、悪魔の巣窟を立派な寺の用に魔力で改装し、自らもえらい僧の姿に変身し、やって来た三蔵一行を、ご本山から連絡があって、存分にもてなせとのこと等と騙しながら、中へと招き入れる。

寺院の中には食事が用意されていたので、全員ごちそうになるが、その内みんな眠くなってしまう。

金閣が化けた僧は、三蔵をベッドへと誘う。

悟空は、眠気と戦いながらも、何か怪しい寺だと感じ、3人で交代で見張りをしようと言い出す。

しかし、猪八戒も沙悟浄ももううつらうつらとしている。

今からは八戒で、真夜中は沙悟浄、朝方は俺が見張ると役割分担を決めた悟空だったが、八戒が椅子に座って寝入っているのに気づくと、如意棒を耳から出し、それを透明化させると、八戒の目の前につっかい棒のように立てかけておく。

八戒が寝入って前に倒れそうになると、その透明な如意棒に頭をぶつけ目が覚めてしまう仕掛けだった。

金閣は、眠り草のおひたしを食べさせたので、みんながっちり寝ております。洒落た手を使ってますから…と大王に報告し、次なる作戦を実行する。

寺院の中に、三蔵を呼びかける母親の声が響いて来たので、目覚めた三蔵はその声に導かれるように部屋を出て行く。

紫色や赤い部屋を通り過ぎた三蔵は、深い落とし穴に落ちて行く。

その後、目覚めた悟空は、三蔵が消えた事を知り、他の2人を起こすと、部屋に出入口がなくなっており、自分たちが閉じ込められたことに気づく。

正面にあった大きな仏像の目が怪しく光ったのに気づいた悟空は、如意棒をぶつけて破壊する。

すると、寺院の姿は消え、不気味な悪魔の洞窟の中だったことが分かる。

油断するな!悟空は他の2人に注意する。

悟空は、又しても自分の胸の毛を苦し気に抜き始める。

痛そうだね?と沙悟浄が聞くと、そりゃあ痛い。むしってむしってむしり尽くせば死んでしまうんだと説明した悟空は、むしった毛を吹いて小さな虫に変身させる。

その頃、三蔵は悪魔大王らに捕まり、目隠しされ、釜ゆでさせようとしていた。

そんな三蔵の側に飛んで来た虫は、耳元で、お師匠様動かないで!すぐ助けに行きますと囁きかける。

その時、書記官長が、御料理の先生をお連れしましたと言い、江上トミ風の料理の先生(藤村有弘)を紹介する。

先生は、おいしいスープの材料を紹介すると、では、ズドンチョとどうぞ!と三蔵を釜に落とすように頼む。

三蔵の身体が、湯が煮えたぎった釜の中に落とされると、湯が噴水のように溢れ出し、側で観ていた悪魔たちに降り注ぐ。

気がつくと、三蔵の姿が消えているではないか!

その時、悪魔たちの前に姿を現した悟空が、我こそは孫悟空なるぞ!と名乗りを上げると、金閣は、かっくんとやってやるからな!と言い、京劇風の出で立ちに変身する。

それを観た悟空も、同じように京劇風の出で立ちと化粧に変身し、金閣と京劇風に絡み合う。

悪魔たちは、牛の角をつけた全身タイツのショッカースタイルで攻めて来るが、猪八戒と沙悟浄も参戦する。

その後、悟空は、元の姿に戻り、1人祈っていた三蔵を連れ出そうとするが、三蔵は、止めなさい!猪八戒と沙悟浄も止めなさい!と殺生を禁じる。

その時、天井の岩が崩落して生き埋めになるが、猪八戒が得意の土掘りで外への抜け道を造り、仲間たちを助ける。

しかし、完全に負けてしまった悪魔大王の気持ちは収まらず、次は銀閣大臣をさし向けるのだった。

また、旅を続けていた三蔵一行だったが、沙悟浄が、遠い所が騒がしいと耳をそばだて、振り返って観ると、巨大な竜巻が接近して来るではないか。

あっという間に彼らは竜巻に巻き込まれるが、特に沙悟浄がぐったりしていることに悟空が気づく。

竜巻に、頭の皿の水を吸い取られてしまったのだ。

水筒はないか?と悟空は聞くが、八戒は、俺がみんな飲んでしまったと泣き出す。

八戒は、その自分の涙を、沙悟浄のさらに塗ってやるのが精一杯だった。

仕方が無いので、悟空は、又苦しみながら自分の胸の毛を抜いて、それを吹き付けると、毛は水流に変化し、沙悟浄の皿を濡らしてやることが出来た。

沙悟浄は、痛かったろう?と、悟空の献身振りに感謝する。

その時になって、3人は三蔵と馬がいなくなっていることに気づき慌てだす。

悟空が雲を呼び寄せようとすると、ポンが出現、あんまり皆さんが苦労しているから、今の竜巻は観音様のお招きだったのよなどと説明する。

観ると、眼前に巨大な宮殿が出現しており、大勢のホステス風娘が、悟空らに笑顔で迫って来るではないか。

すっかり、鼻の下を伸ばした3人がその宮殿の中に入って行くのを観ていたポンは、三蔵の姿から銀閣大臣の姿へと変身する。

宮殿内では、大勢の女性が踊っていた。

悟空、沙悟浄、猪八戒は、ホステス嬢たちの歓待にすっかり酔いしれていた。

悟浄は、ホステスから頭の皿に酒を注いでもらってご機嫌。

一方、三蔵に化けた銀閣の横に座っていた美女鬼蜘蛛アラクネ(中田康子)は、大丈夫?と、自分も調子に乗って酒を飲み、酔い始めていた銀閣を注意するが、銀閣は全く平気な様子で、テーブルの前に出ると、あらえっさっさ!などと踊り始める。

それを見て不審に感じた悟空は、三蔵に近づくと、お酌をする振りをして、大きな盃に写った三蔵の顔が別人であることを見抜く。

すると、アラクネが、あの庫蔵さんは蜘蛛になって、どこかの深い穴で糸を紡いでいるよと言いながら、蜘蛛の糸を、悟空たちに浴びせかけて来る。

そして、アラクネの一族の蜘蛛女たちが、糸に絡められて動けなくなった悟空たちの廻りで愉快そうに踊り始める。

悟空は、何とか自分の胸の毛をむしり取ると、アラクネの胸に攻撃を加える。

アラクネが倒れると、他の蜘蛛女たちも全員倒れてしまう。

糸を切った悟空たちは、悪魔の洞窟の中を探しまわっているうち、白く長い糸が地底の方から続いていることに気づく。

その糸に耳を当てると、三蔵が歌っている声が伝わって来るではないか!

一行はそれを伝って糸の出所へ向かうと、三蔵が糸車を回している部屋にたどり着く。

お師匠様!と悟空が喜んで呼びかけるが、三蔵は反応しない。

三蔵は目も耳も使えなくなっていることに気づく。

悟空は、観音様〜!と呼びかけてみるが、地底深いこの穴の中からは声が届かないようだった。

それではと、雲を呼んでみるが、やはり来ない。

可哀想なお師匠様…と同情した沙悟浄は、お前の毛を抜いて、お師匠様をこすってみたらどうか?と提案する。

それを聞いた悟空は、痛い胸毛を何度も引き抜き、その毛で三蔵の目や耳をこすってみる。

見かねた八戒も、もっとどっさりお抜きよ、ケチンボ!と罵るので、悟空は胸毛を抜き続けながらも、この苦しみを知らないで…とぼやくが、例え、お師匠様が見えるようになるなら、この毛がなくなるまで!と我慢して抜き続ける。

やがて、その甲斐あってか、三蔵は、悟空たちに気づく。

喜んだ一行だったが、おめでとうございますと思わず頭を下げてしまった沙悟浄は、様子がおかしくなる。

悟空は慌てて、八戒に側の岩場に流れていた湧き水を汲んで来させる。

こうして三蔵は悪魔の国を突破して、国境の町へと到達した。(…と紙芝居屋のおじいさんの声)

執念深い悪魔大王は、今度は銅閣大臣をさし向ける。

銅閣は、少女(若林一美)に変身すると、国境の街に来た三蔵一向に近づく。

そして、三蔵に、おめでとうございます!これからインドまではすぐ。もう何の心配もいりませんなどと話しかけ、持っていた花飾りを三蔵の首に賭けようとするが、抜いた毛をすかして少女を観ていた悟空は、それが銅閣の化身と見抜き、少女を如意棒で打ち据える。

少女が落とした花飾りは、実は内側にとげの付いた首輪だったが、地面に落ちたとたん消え去る。

しかし、馬上の三蔵は、いきなり悟空が無垢な少女を打ち据えたとしか見えず、何をする!と驚く。

すすると、その少女の姉らしき女(野口ふみえ)が、少女の亡骸に駆け寄り嘆きだすが、それも銅閣の化身と見抜いた悟空は打ち据える。

さらに、その姉妹の母と思しき老婆も、駆け寄って来るが、やっぱりそれも銅閣の化身だったので、悟空はその場で打ち据えてしまう。

しかし、3人の死体が町の人たちによって運ばれて行くのを観ていた三蔵は、悟空が無実の女たちを3人も打ち殺したと信じ込み、いくら悟空が、こいつらは化物ですと言い訳しても、元の山へお帰り!例え相手が何ものでも、許しませぬ!ときつく叱りつける。

結局、悟空はの猿山の洞窟に戻るしかなく、三蔵は猪八戒と沙悟浄をお供に旅を続ける。

三蔵の処分に納得がいかない悟空は、酒だ!酒だ!と荒れる。

その頃、銅閣は、とうとう悟空めを追い払いましたと悪魔大王に報告していた。

それを聞いた大王は、後は私に任せなさいと笑いながら答える。

三蔵一行の前に現れたのは、この町の市長と名乗る男で、私の屋敷にお泊まりください。明日は、ラクダ10頭、馬10頭、人夫100人を付けて、インドへ連れて行きましょうと約束する。

猿山の洞窟の中でふてくされていた悟空の前に出現したポンは、私も人間なんて大嫌い!と悟空に同情していた。

すると、悟空が、人間になってならなくて良かったよと負け惜しみを言うので、一時はあんなに人間になりたがっていたのに…とポンは笑う。

ポンは、望遠鏡を取り出してそれを覗きながら、食われちゃうのも知らないでニコニコしてる…と三蔵一行をあざ笑う。

すると、悟空も、市長は確かに悪魔大王だ。勝手にしやがれ!とふてくされるが、毛を抜いた痕がいやにうずきやがる…と呟く。

一方、市長の屋敷に招かれた三蔵たちが用意されていた椅子に腰掛けると、急に椅子から手が出て来て、3人を羽交い締めにしてしまう。

その様子を望遠鏡で観ていたポンは、もう食べられるばかりだわ…と悟空に教える。

すると、悟空は椅子から立ち上がり、だめだ!どうして俺はこう人が良いのかな?と自分自身に嫌気がさしたように言う。

何もあなたが行かなくても良いのよ。悪魔たちは虫の化物だから、太陽の光に当てたらそれまでなのよと教え、自ら雲を呼ぶと、まだ行きかねている悟空に、男はそんなことにこだわらない。行け!悟空!と命じる。

その言葉に後押しされたように、悟空は雲に乗り、一路、三蔵たちの元へ急ぐ。

それを見送ったポンは、ああ、良かったと胸を撫で下ろすのだった。

三蔵は、又しても、煮えたぎる釜に渡された板の上を歩かされていた。

そこに駆けつけた悟空は、蔦を掴んでターザンのように三蔵の前に飛んで来ると三蔵を助ける。

それでも三蔵は、頼むから乱暴はしないでくれと悟空に言いつける。

悟空は、金閣に化けると、悪魔たちの中に紛れ込み、悟空たちはあっちだ!と見当違いな方向を教える。

そして、縛られていた猪八戒と沙悟浄の綱を解いてやる。

金閣、銀閣、銅閣は、途中で、さっき、金閣が2人いたんではないかと気づき、元の場所へ戻るが、本物の金閣を偽者と混同し、3人は内輪もめを始める。

その中に加わった悟空は、金閣たちが殴り掛かると岩に変身してからかう。

その後、三蔵を連れ、洞窟の中から脱出しようとするが、その前に悪魔大王が出現し、口から炎を吐いて行方を阻んで来る。

悟空は、その攻撃に何とか絶えるが、人間の三蔵は気絶してしまったので、悟空は三蔵の身体を抱えて逃げようとする。

しかし、敵と戦いつかれた沙悟浄が、もう俺はダメだと言いながら近づいて来て倒れる。

お師匠様を連れて先へ行ってくれと頼む悟空も沙悟浄も、もう体力の限界に来ていた。

その隙を狙い、悪魔大王が三蔵をさらい、岩場の上に運び込む。

もう力尽きかけていた悟空は、折り重なって倒れていた沙悟浄に、俺の毛を抜いてくれと頼み、沙悟浄が悟空の胸毛を抜くと、それを吹いて、自分の化身を作り出すが、悪魔大王の炎攻撃の前にはひとたまりもなく消え去る。

それでも悟空は、もっと抜いてくれと沙悟浄に命じ、毛を抜かれる痛みに耐えながらも、何度も自分の化身を作り続ける。

しかし、出る化身たちは、全員、悪魔大王の炎攻撃で消え去って行く。

もっと抜け!死んでも構わないから、最後の1本まで抜いてくれ!と沙悟浄に頼む悟空。

それでも、全部の化身がやられると、お、お師匠様〜!と叫んで悟空は息絶えてしまう。

その頃、必死に地上へ向けて穴を掘っていた猪八戒は、最後の岩を突き崩し、表に出ることに成功する。

空を見上げると、雲が浮かんでいたが、やがて、その雲の背後から太陽が姿を現す。

その太陽光が、地底の悪魔たちに降り注ぐと、全員、その場で溶けて行ってしまう。

三蔵が気づくと、息絶えた悟空の姿を発見し、悟空!と駆け寄る。

その横では、沙悟浄が、お師匠様…と泣いており、三蔵も悟空の身体にしがみついて泣き崩れるのだった。

地上に出た沙悟浄と八戒は、悟空の墓穴を掘ってやっていたが、側に横たえていた悟空の様子を見た沙悟浄は、ありゃ、死んでねえぜと言い出す。

死んだのなら、元の猿に戻っているはずだと言うのだった。

そうよ、気を失っているだけよと言いながら出現したポンは、観音様から頂いて来たと言う気付け薬を、悟空の身体にかけてやる。

すると、悟空ははちまきを頭に巻いた人間の姿になって蘇る。

悟空様、あなたは、苦しみながらも毛を抜いたので、今から人間になったのよ。分かる?人の役に立つのが、人に産まれる資格なのよ。悟空様、おめでとう!とポンが教えると、立ち上がって自分の身体を見た悟空は跳ね上がって喜び、人間になった!お師匠様のお陰です!と感激する。

一行は、崖の上からインドの方を眺める。

あの山を越えればインドだ、みんなありがとうよと三蔵も感謝し、全員、ヤッホー!と声をかけてみる。

すると、ヤッホー!とポンの声が聞こえて来る。

それを聞いた三蔵は、あなたは観音様ではなかったのですか?それとも天に昇ったお母さんですか?と問いかけながら、返事を待つように耳に手を当てるのだった。