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新座頭市・破れ!唐人剣

香港のカンフースター、片腕ドラゴンことジミー・ウォング(王羽)と座頭市が戦うと言う夢の二大(ハンデキャップ)ヒーロー共演映画なのだが、ブルース・リーで香港カンフー映画ブームが日本で起きる直前の作品なので、公開当時としてはジミー・ウォングの日本での知名度が低かった部分もあり、何となく「きわもの」風なイメージがあり、インパクト的には今ひとつだったような記憶がある。

二大ヒーロー対決もの「座頭市と用心棒」同様に、最初から設定的にかなり無理な部分がある。

どうやら、唐で、剣を使う争いごとに巻き込まれたらしき王が、争いを嫌い、日本で少林寺を伝えているらしき福竜寺にいる友を訪ねて、日本に1人でやって来たと言う出だしらしいのだが、日本語も全く分からない彼が、港町とも思えない山間にある寺の近くまでどうやってたどり着けたのかがまず分からない。

何か、日本語で書かれた書状のようなものを持って、それを手掛かりに人に聞きながら…と言うならともかく、そう言うものを一切持たないで、右も左も分からず、言葉が全く通じない国に1人やって来ると言う話も無茶なのだが、本作では、同じ唐の仲間の家族と出会って…と言う、いかにもご都合主義の展開になっている。

その辺は、まぁファンタジー的なご愛嬌と目をつぶったとしても、後半、その王が頼って来た友の僧侶が…と言う展開も、唐突過ぎてピンと来なかったりする。

考えるに、市とゲストのジミー・ウォングの対決は最後の最後まで引っ張って、出来るだけ相打ちになるような結果に持ち込みたいし、互いの見せ場も作りたいし、途中で2人の心が触れ合う場面を作りたい。

それで、市には、冒頭から付けねらっている杉戸の連中と藤兵衛一家、王の方には南部藩の侍と覚全と言う、2人とは別に戦いがいのある敵を複数用意した…と言うことなのだろう。

その辺を全部クリアしながらまとめた脚本家の苦労が忍ばれるような展開になっている。

王と知り合った市が、農家の納屋に一夜を泊めてもらい、翌朝、酒を買いに宿場町に出かけ、ついでに飲み屋で酒を飲むと言うのも、ちょっと分かりにくい展開である。

王はともかく、子供まで待たせ、買い物に来たはずの市が、朝っぱらから酒を飲むか?と言う素朴な疑問を抱いてしまうのだが、ここは要するに、王たちの居所が暴かれ、その疑いが市にかかると言う展開にするための時間稼ぎなのだ。

市がなかなか戻って来ないと言うのが疑われるきっかけになるポイントなので、市は、酒だけではなく、賭け好きの3人組とばったり出くわし…と言うもう1つの足止め要素を用意している。

この3人組が、当時の人気者だった「てんぷくトリオ」なのだが、リーダーの三波伸介が、市と同じ按摩役で登場しているのがまず面白い。

さらに注目すべきは、セリフの量が、リーダー三波に次いで、一番年下だった伊東四朗が多いこと。

「てんぷくトリオ」の映画出演は何本かあるが、それまでは三波伸介だけが目立ち、伊東四朗と戸塚睦夫は目立たないような役割だったように思えるが、この作品では、はっきり伊東四朗が目立つようになっている。

確かコントでも、伊東さんの方が戸塚さんよりもしゃべっていた記憶があるが、伊東さんがそう言うキャラになったのは、戸塚さんがあまりにもしゃべらない、いかにも不器用そうなキャラクターだったせいもあるのかもしれない、

その後、戸塚さんと三波さんが早く亡くなった後の伊東四朗さんの活躍を知るだけに、この時点での扱いは何とも興味がある。

片腕ドラゴンの方のアクションシーンは、マンガチックなジャンプ等、香港カンフー映画独特の忍者映画のようなノリなので、ラストの戦いも含め、正直な所、全体的に大味な印象なのだが、市の殺陣の方は、冒頭からアイデアに富み、非常に面白いものになっている。

市が斬った瞬間、相手の返り血を避けるため、何かで身体を覆うとか、大きな樽を使ったユーモラスなアクション等は、後の「座頭市」(1989)にも使用されている。

特に、敵役からからかわれた按摩笛を使ったとどめのシーンは、なかなか怖い演出である。

安部徹演じる悪役の憎々しさも絶品。

お仙を演じている浜木綿子さんは、もちろん、香川照之さんのお母様である。

作品としては、無理な部分は感じるものの、まずまず良くまとめあげてあると思う。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1971年、勝プロダクション、子母沢寛原作、山田隆之脚本、安田公義脚本+監督作品。

草っ原の中、1人周囲を警戒していたのは座頭市(勝新太郎)だった。

その廻りには数名のヤクザが迫っていた。

もう1人いたのか…市は、見逃してしまった相手が仲間を連れて来たことに気づく。

春日部から来た連中に違いなかった。

お前たちは杉戸の身内だろ?と声をかけても、相手は返事をしない。

オ○とメ○ラじゃ話にならねえ…と呟いた市は、ちょっと身動きした相手目がけて石を投げつける。

手応えを感じた市はそちらに進むが、足を草に取られて躓いた時、相手が斬り込んで来る。

市は、かがんだ状態からそいつらを叩き斬ると、相手の合羽を奪い取って頭からかぶり、返り血を防ぐ。

しかし、今度は、動かないで黙って様子を観ていた2人を見逃してしまったことに気づかなかった。

血で汚れた合羽を捨て、立ち上がった市は、ドブネズミめ…と吐き捨てる。

タイトル

とある村で、的の中央に立つ妻の身体に向け、槍を投げる大道芸を披露していた唐人。

芸が終わった後、見物人から銭を集めていた子供が、その銭の中に、中国の貨幣が混じっていることに気づき、父親の芸人と母親に教える。

それを投げ入れたのは、側にいた同じ唐人の武芸者らしかったので、父親が、自分は李白(ナン・イ)、妻は玉梅(汪玲)、息子は小栄(香川雅人)と言うと自己紹介し話しかけてみると、やはり同国人の武芸者だそうで、王剛(王羽)と名乗ると、これから間々田にある福竜寺と言う所に行く途中だと言う。

日本人はとても親切ですよと、今晩はここに泊まり、明日御一緒に行きましょうと勧める。

そんな会話の途中、小栄は、王剛の右手の袖の中を不思議そうに覗き込んでいた。

王剛は、そんな小栄に何も告げず、右手がない袖口を隠す。

王剛は片腕だったのだ。

翌朝、李一家と王剛は共に、間々田の福竜寺に向かっていたが、反対側から、将軍に献上する「アワビ」を掲げた南部藩の一団が近づいて来る。

道を歩いていた農民や通行人たちは、一斉に道を開け土下座をしだしたので、李白も王剛に、偉い人が通った時、道を避けるのが日本の掟だと説明し、道の脇に寄る。

ところが、列が間近に近づいた時、小栄の持っていた凧が風に飛ばされ、供先の足下に引っかかってしまったので、慌てて小栄がそれを取ろうと、道の真ん中に走り出てしまう。

供先の侍が刀を抜いて小栄を斬ろうとしたので、母親の玉梅は驚き、自分も飛び出して、小栄をかばおうと抱きしめた所で背中を斬られてしまう。

夫の李白も妻を助けようと飛び出したので、一緒に斬られてしまう。

これを観ていた王剛は怒りに駆られ、侍の前に出ると、自らの剣で応戦しながら、その場を逃げ出す。

供先の侍は、取り逃がすな!と、供をしていた侍に、王剛の追跡を命じると、黒木!と仲間の侍を呼び、何事かを耳打ちする。

次の瞬間、黒木と供先の侍は、その場に居合わせた農民や通行人を男女の区別なく斬り殺して行く。

その様子を、草陰から震えながら観ていたのは、いち早く隠れていた与作(花澤徳衛)と、その娘お米(寺田路恵)だった。

市は、どこからか聞こえて来る子供の泣き声に気づき、近づくと、斬られて倒れていた父親の李白に気づき、どうなさいました?と聞くと、私、子供…、頼む…と、たどたどしい日本語で言い残し、息絶える。

仕方なく、子供に布を着せ、次の宿場町までやって来た市は、野次馬が集まっているので、訳を聞くと、死骸だよと町民が教えてくれる。

先ほど、南部藩の侍たちから口封じをされた被害者たちが、大八車に乗せられ、次々と運ばれて来たのだった。

近くの飯屋に入り、2人前注文した市だったが、そこに唐人狩りだ。親方が呼んでいると言って、人足頭のような男が入って来て、飯を食っていた男たちに声をかける。

今、飯を食っている所だとみんな席を立とうとしなかったが、捕らえた奴には5両出るそうだと聞くと、口に入れていた飯を噴き出し、飯何か食ってるときじゃねえやとみんな出て行ってしまう。

後に残った夜鷹のお仙(浜木綿子)は、小栄と飯を食い始めた市に気づくと、あんた目が観えないのかい?と話しかけて来る。

市が騒ぎの事情を聞くと、南部様の供先を汚し、侍を斬った唐人が逃げているのだと言う。

その内、小栄の身なりに興味を持ったお仙が、何を着てるんだい?などと小栄に手を伸ばして来たので、その手を払った市は、川に落ちたんで…と噓を言う。

お前さんの子かい?似てないね〜。種違いじゃないのかい?などと、お仙は下品なことを言ってからかってくる。

その頃、石切り場の小屋に、南部藩の侍と王剛を追いつめていた、地元のヤクザ、古川藤兵衛(安部徹)は、子分3人を小屋に向かわせていた。

しかし、中に入った3人はあっさり王剛に斬られてしまったので、怒った藤兵衛は、小屋に火をかけて、いぶりだすことにする。

小屋の中に潜んでいた小栄は、松明を窓から投げ込まれたことに気づくと、着物に火が付いたまま、大きくジャンプして外に飛び出すと、外に集まっていた侍や藤兵衛一味たちの肩を八双飛びのように飛び越えて行き、最後は、谷を飛び越えて向こう側に逃げてしまう。

市の方は、宿場町を出て歩きながら、小栄に、坊や、行く所あるのかい?おじさんの行ってること分かるかい?と話しかけていた。

すると、小栄は、分かった!と日本語で返事をしたので、少し言葉が通じるらしいとわかった市は安心する。

行列の時、人を斬った唐人さんと言うのは誰なんだい?と聞いてみるが、小栄は、分かんないと言うだけだった。

その時、通りに登って来たのが王剛で、小栄を見つけると、この子をどこに連れて行く?と問いかけて来るが、言葉が通じない。

市の方は、相手の言葉の様子から、お前さんだな?供先を斬った唐人と言うのは…と聞き返すが、これも王剛には通じず、付いて来るな!と市に言葉をかけると、小栄を連れて立ち去ろうとする。

しかし、市は、待ってくれ!と言いながら後を付いて林の中に入り込んで来たので、王剛は、木を斬って倒し、市の進路を塞ごうとする。

それに気づいた市は、すげえ男だ…と感心する。

市の背後には、藤兵衛が集めた追手たちが迫っていた。

その逃げる市を見つけたのは、仲間を斬られた後も執拗に市を付けて来ていた杉戸の手下2人だった。

市は取りあえず、同じ唐人である男に小栄が付いて行ったことに一安心しており、心配しても始まらねえ…と呟いていた。

その後、とある無人の小屋にたどり着いた市は、中に入ると腰を降ろし、懐に入れていた包みをほどいて握り飯を出すと、嬉しそうに差し出しながら、坊や、いるかい?と声をかけると、おじちゃん!と声が聞こえたので、やっぱりいたな。食いなと言って、声のする方に放ってみせるが、それを瞬時にまっ二つに切断したのは王剛の剣だった。

市も仕込みを抜いており、両方の刃に、半分に切れた握り飯が乗っていた。

仲良く半分こして食べようって言うのかい?疑り深いな…と言いながら、自分の仕込みに乗った握り飯を食ってみせ、毒なんか入っちゃいねえと言い、もう1個を小栄に投げ渡す。

小栄が、その握り飯を食べ始めたので、王剛も、自分の剣に乗っていた半分の握り飯を頬張るが、急いで口に入れたので咽につかえてしまう。

それに気づいた市は、自分の竹筒に入った水を渡してやる。

シェイシェイと王剛は礼を言うが、シェイシェイ?シャーシャー?…、水だからな…などと市は意味が分からないまま。

あんた、罪もない人、巻き添えにしたって本当かい?と市は聞いてみるが、もちろん通じないので、坊や、この人、どこに行くか知ってるかい?と聞くと、小栄は、福竜寺と答える。

福竜寺?間々田の近くにあったな…と分かった市の様子に、王剛の方も気づいたらしく、福竜寺を知っているのか?案内してもらおうと小栄に言われる。

連れてけと小栄が言うと、市が承知したので、王は又、シェイシェイと礼を言う。

すると、また水かい?と言って、市は、王に竹筒を渡すので、王は妙な顔をする。

その直後、外の気配を感じた市は、戸を開けて、居合いを抜く。

斬れたのは落ち葉だったが、どうせ行くんなら…と市は出かけようとし、連れてくって…と、小栄は王剛に通訳する。

夜中、戸を叩く音に気づいたのは、家に戻っていた与作だった。

何だね?と聞くと、お湯を一杯恵んじゃくれませんでしょうか?子供が寒がっておりますんで…と外から市が答える。

そっと、女房のおしげがそっと戸を開けて外を観ると、市と小栄が立っていたので、亭主の与作の方を振り返ってどうするか顔で聞くが、お米に湯を沸かさせると、これからどこまで行きなさるかね?と聞く。

間々田の福竜寺までと市が答えたので、今から行ってたら、夜が明けちまうよと案じてくれる。

その時、市の背後に王剛が姿を見つけた与作は、あんたは、今朝のあの唐人だね?と驚く。

知ってなさるんですかい?と市が驚くと、道で会っただけだけど…と答えた与作は、3人を中に入れさせ、おしげに心張り棒を戸にかけさせると、良く途中で会わなかったな点、

さっき古川藤兵衛親分が来た所だ。この人には重量の賞金がかかっているんだと与作は教える。

この子は斬られた唐人さんの子だね?と聞いた与作は、市からその時の様子を聞かれると、南部藩の供先に斬られ、その後、南部藩の侍たちに、辺りにいた連中が斬られたのだと観たままを教える。

噂じゃ、その唐人さんのせいになっている…と気の毒がった与作は、南部藩が運んでいたのは将軍家に献上されるアワビだと言うが…と教えたので、アワビのために…と市も呆れるが、お前さん、どうするな?芋納屋のむしろにでも泊めてやんなきゃ…と与作が申し出ると、こちらさんのご迷惑になるようなじゃ…と遠慮する。

それでも与作は、あそこなら誰にも分かりっこないよと言い、芋納屋に案内してやる。

そんな中、お米だけは、市たちの様子をじっと黙って見つめていた。

翌朝、藤兵衛は王の行方が分からずいら立っていたが、そこに杉戸の身内の者が来ておりやす、何でも、座頭市と唐人が一緒の所を観たとか…と子分が知らせに来たので驚く。

その頃、芋納屋で目覚めた市は、出かける準備をしていたので、王剛は、お前、どこに行く?と聞く。

何となく、意味を悟った市は、酒を買って来ると、ジェスチャーまじりで答えると、王も理解したようだった。

小栄も、どこ行く?と聞いたので、お前さんには饅頭買って来てやると教えると、分かったと答えたので、都合の良いときだけ分かるんだと笑いながら市は出て行く。

町に向かう市の姿を見かけたお米は、どこに行くのだろう?と首を傾げていた。

町の酒場に来た市は、自分用の酒を頼み、竹筒にも酒を入れてくれと頼む。

そんな中、銭の裏表を当てる賭けことをやっている3人組に気づいた市は、側に寄って行く。

座を仕切っているのは市と同じ按摩、への市(三波伸介)で、賭けで負けているらしき新七(伊東四朗)と亀(戸塚睦夫)がぶつぶつ言うと、按摩がやることに噓はない!などと啖呵を切っている。

あたしもやらせてもらえませんかと市が話しかけると、メ○ラだ、按摩さんだよと新七がへの市に教え、やい、按摩!古川の町はへの市のシマなんだ!あっしをへの市と知って勝負する気か!とへの市は急に威張りだす。

市は、居着くようなら挨拶いたしますと下手に出る。

元では持っているのかい?と聞かれた市が、懐から重そうな巾着袋を取り出すと、カモだと感じたのか、ちょっと揉んでやろうとへの市は勝負を承知する。

市が、10文ばかり賭けると言いだすと、への市は10文!と額の多さに驚きながらも、

穴空き銭を飯台の上に置き、それが裏か表かを当てると言うシンプルな賭けだったが、への市が机の上に銭を置いて手を置くと、市は、表かな…、裏かな…などとどっち付かずの返事をする。

いら立ったへの市が、いってえ、どっちなんだ!はっきりしろい!と切れると、じゃあ、表で…と市は答える。

への市が開けた手の下にあったのは裏だった。

市は、なるほどね…と何か合点をしたようで、こそこそとへの市に耳打ちする。

すると、への市も市に耳打ちし、2人は笑いあうので、側で観ていた新七と亀はきょとんとしている。

市はそんな3人組に、唐人さんの居場所が分かりましたか?と探りを入れてみると、俺がやっつけたんだが…などと噓丸出しの自慢話をし始めた新七が、ありゃ、天狗みてえな奴だった。藤兵衛親分があちこちに回状を回しているらしいからすぐに捕まるだろう等と言う。

その藤兵衛親と言うのは?と聞くと、南部藩とつながりがあり、この辺の土中人足を一手に引き受けている人だと言うので、そんな方なら、一度お目にかかりたいですねと市が言うと、あっしが通っているんだ!と、ちょっとむっとなったへの市が、あたしが連れてってやっても良いなどと鷹揚に答える。

市は喜び、への市の盃に酒を注いでやるが、その盃の上に自分の盃を重ねていた新七がこっそり奪い取って飲んだので、への市が盃を口に持って行くと空だった。

そんな所に、唐人の隠れ家が分かったんだ!と知らせが来る。

店にいた客たちは一斉に飛び出したので、お前さんも行くかい?とお仙はからかうが、竹筒の酒を受け取って勘定を払っていた市は、私はメ○ラ、そんな危ない所なんて…と笑いならがも、店を出た後は、王剛と小栄のいる芋納屋へと急ぐ。

その頃、与作とおしげは、やって来た藤兵衛に斬殺されていた。

そして、お米をしょっぴいて、少し叩いてみますと南部藩の侍に話していた。

王剛と小栄は、いち早く納屋を逃げ出していたが、追手に見つかると、木の上にジャンプして何とか逃げ仰せた。

与作の家にやって来た市は、そこに倒れている夫婦の死体に気づくと、誰がこんなことを!と悔しがる。

お嬢さん!坊主!とお米と小栄の名を呼ぶが答えはない。

とんでもねえことになった!と市は焦るのだった。

一方、藤兵衛の家に連れて来られたお米は、何度も叩かれ、拷問を受けていたが、頑として口を割ろうとはしなかった。

あそこに子供がいたって、ちゃんと訴人した奴いたんだぜ。一緒に按摩がいただろう?あいつは座頭市と言ってな、俺たちと同業のヤクザなんだぜと藤兵衛はお米に教える。

銭のためなら何でもやる男だぜと藤兵衛が続けると、あの按摩さんがしゃべったんですか!とお米が聞き返したので、やっぱり唐人、いたのか!と怒った藤兵衛は、その場で、お米を斬ろうとする。

その時、市の野郎が!と座頭市がやって来たことを子分が知らせに来たので、玄関口に出てみると、市が座っていた。

市は、藤兵衛、与作さんの所のお嬢さんを渡しておくんなさい。ここに連れ込んだってネタは上がってるんだと頼むが、藤兵衛は聞こうとしなかったので、正月も近えのに、命を粗末にするんじゃねえ!と言うと、いきなり居合いで鉄瓶をまっ二つに斬り裂いた市は、勝手に上がり込むと、藤兵衛は階段を登って二階へ逃げようとする。

しかし、市はその階段を切断し、藤兵衛は宙ぶらりんになって下に落ちる。

その転んだ藤兵衛の頭の横に仕込みをあてがった市は、娘さん、返してくださいと頼むが、藤兵衛は分からんと突っぱねる。

すると市は、ツ○ボらしいですね?どうせ、聞こえねえ耳ならと言うと、藤兵衛の右耳を切断してしまう。

次は目玉か?と市が脅すと、さすがに耐えきれなくなった藤兵衛は、お米を連れて来させる。

親分さん、表まで案内しておくんなさいと言いながら、藤兵衛に刀を突きつけ、盾代わりに前に立たせた市は、先にお米を外に出し、自分もその後に続くが、戸を閉めた瞬間、中から子分が刀を突き出して来たので、一瞬早く突き返した市は、血しぶきで赤く染まった障子戸に向かい、機嫌良く返してくれれば良いものを…とぼやいて帰る。

途中、お米さん、とんでもねえことになっちまって…、あんな、仏様みてえな人がこんな目に遭うなんて…、これは少ないですが、線香代にでも…と言いながら、市は金を差し出そうとするが、それを振り払ったお米は、あなたはお金のためなら、どんなことでもするんですか!私、この恨みは、一生かかっても晴らしたい…、おとっつあん、おっかさんが何をしたって言うの!お茶を出しただけじゃない!十両の賞金が欲しかったんでしょう?それで、唐人さんのことしゃべったんでしょう?ヤクザ!藤兵衛たちと同じヤクザ!と言い残して先に帰ってしまう。

雪が降り始めた中、市は寂しそうに、道に落ちた小銭を拾い上げる。

家にたどり着いたお米は、良心の死体がないことに気づき外に出ると、そこには、王剛と小栄が、二つの墓を作っていた。

お米が墓の前に来て立ち尽くすと、小栄がそっとお米の手を触って来る。

お米は泣き出す。

すまない…、私のせいだ。きっとこの仇は討つ…と王剛は話しかけるが、もちろん言葉は通じない。

誰が知らせたのか…?あの按摩、何故戻って来ない?何しに行ったんだろう?と疑いだした王剛の頭には、市の笑い声が聞こえていた。

俺は殺してやる!王剛は、市の仕業に違いないと思い込んでいた。

お米は小栄に、行きましょうね、福竜寺…と話しかけていた。

その頃市は、例の飲み屋で落ち込んでいた。

そんな市に、いやにしけこんでいるじゃないかと話しかけて来たのは、いつものお仙だった。

姐さん、何している人ですか?と市が聞くと、見りゃ分かるだろ?唐人騒ぎで、夜歩きする奴がいないんで時化続きさ…とお仙は愚痴る。

今晩良い所へ行かないかい?と誘って来るが、その気になれませんと市はきっぱり拒否する。

飲み屋の隅では、新七と亀がいつものように賭けをしていたが、そこに藤兵衛の子分たちと杉戸の身内2人が、用心棒らしき浪人者を2人引き連れやって来る。

そして、子分の1人は、そこに立っていたお仙の胸元に小判を滑り込ませると、黙って、市の方に行けと眼で合図をする。

お仙が、熱いの持って来たよと言いながら、新しいお銚子を持って市の前に座ると、浪人2人は、市の背後にぴたりと立つ。

次の瞬間、1人の浪人の目に市が吹き付けた爪楊枝が刺さり、ひるんだ隙に、斬り込んで来たもう1人は、分厚い飯台と共に、自分の刀を持った右手が根本から切断されたことに気づく。

杉戸の連中だな!と店の隅で様子を観ていた2人に気づくと、てめえたちだろ、唐人の居場所教えたの!と聞きながら、もう1人の浪人の腹を横一文字に斬って倒す。

藤兵衛の子分たちと杉戸の身内は、あまりの市の強さに固まってしまうが、店の外に出た市は、ほっとため息をついたそいつらの元にもう1度顔を出して脅かすと、命、粗末にするんじゃねえぞと言い残して帰る。

その後、福竜寺の山門にやって来た市は、ちょうど横を通りかかった僧に、こちらに、子供連れの唐人さんが来ていませんか?と尋ねると、その僧覚全(南原宏治)は、王剛のことか?いるが…?と教える。

それと聞いて安心しましたと言う市に、案内して来たお米と言う娘も来たがと覚全が教えると、市は黙って帰って行く。

寺の境内に入り、そこにいた王剛に、今、お前を訪ねて来たものがいるが、お前は寺の外には出てはならんと和尚に言われていると覚全が伝えると、仇が討てないことに癇癪を起こした王剛は、その場にあった石の机を、拳法で叩き割ってしまう。

寺の中に保護されていたお米に、何者なのか、あの者…と覚全が事情を聞くと、ヤクザなんです、座頭市と言う…とお米は答える。

和尚には口止めされているのだろうが、自分と王剛とは、唐に修行に行った時、同じ釜の飯を食ったのだと説明し、覚全は詳しい事情を聞こうとする。

お米は、小栄たちが南部藩の献上品の列を邪魔したため斬られ、あの唐人が南部藩の人を斬り逃走、そして、あの男が知らせたために、私のおとっつぁんとおっかさんが…とお米が言いよどんだので、殺されたのか!と覚全は補足する。

そこに、王剛がやって来たので、覚全は中国語で、お米さんはお前のことを好きらしいと伝え、お米にもそれを教える。

王剛とお米は、互いに意識しあい、恥ずかしがる。

町の屋台で無駄話に興じていたのは、例のへの市、新七、亀の3人組。

市さんどこにいるのかな?もう旅立ったかな?などと新七が話しかけていると、亀が、その新七の横に座っている市を発見。

まだ、この宿場にいると思うぜと答えたへの市の方に乗ると亀は言う。

どこにいるんだよと新七が亀に聞くと、おめえの後ろにいるよと言われ、振り向くと、市が笑顔で挨拶をする。

市がいることを知ったへの市は、市さんを見つけたら連れて来てくれって言われているんだと言いながら、市を引っ張って行ったのは、お仙の家だった。

誰のうちか分かるかい?とお仙が、嬉しそうに話しかけると、あの連中にいくらやった?と市も笑って問いかける。

お仙はすまして、一両と答える。

水の音がするね…、裏が川だもの…、気持ちが洗われるようだね…などと話しながら、市は上がり込む。

そんな2人の様子を覗こうと、外にいた新七と亀が、窓の障子に指で穴を開け中を覗き込むと、への市も、同じように障子に指で穴を開け、目ではなく、耳を傾ける。

陰膳で待ってたんだよ。私はお前さんの役に立ちたいのさ…。信じられなきゃ、私を御抱きよ等と市に迫ろうとしたお仙だったが、ふいと立ち上がった市は、窓の障子の横に立つと、いきなり穴の空いた障子に尻を突き出し放屁する。

これをもろに食らってしまったへの市は、同じように、顔をしかめながら近づいて来た新七に、あまりの臭さに目が開きそうだよと呟き、新七も、こりゃ、ひでえ!と同意する。

その頃、覚全は、藤兵衛と共に、上州屋に泊まっていた南部藩の侍たちと話し合っていた。

覚全は、お米から聞いた、罪もない農民や通行人を斬り殺したのは、実は南部藩の侍だったと言う話をネタに、強請りに来ていたのだった。

侍は、藩に迷惑がかかるので、お申し出は断ると返事をしていた。

そんな相手に対し、面目料が千両なら安いもんです。話によっては、わしが別の所に話を持って行っても良いが…と覚全が話を進めようとしていた時、江戸から藩の仲間が応援に駆けつけたと言う知らせが届く。

南部藩の侍は、到着した応援を取りあえず宿に上げる。

その夜、寺に戻った覚全は、王剛に酒を無理強いしていた。

この日本では、刀を使わずにすむと思っていたが…と、故国で、剣を使わざるを得ない事情だったことを匂わせた王は、酔ったのかそのまま床に横になる。

覚全は、お、風邪を引くぞ…等と話しかけ、返事がないことを確認すると、ろうそくを消し、自分は部屋を出て行く。

部屋を出た覚全を待っていたごとく、いきなり、王の部屋になだれ込んで来た賊たちは、槍で寝ていた王に襲いかかる。

しかし、一瞬早く、敵の攻撃に気づいていた王は、素早く起き上がると戦い始める。

賊を追い払った王だったが、覚全と共にお米が駆け込んで来て、小栄がさらわれたと言う。

王剛、覚全から事情を聞いた和尚(佐々木孝丸)は、どうしてここにいることが知れたか?と不思議がる。

覚全は、あの按摩ではないか?ただ寺を訪ねて来たと思って、うっかり教えてしまいましたから…と言う。

一方、押川の宿では、藤兵衛一家が、寺から逃げ出したお米の行方を探していた。

外で客待ちをしていたお仙は、藤兵衛の子分たちから女を見なかったか?と聞かれ、知らないねと答えるが、子分たちの姿が見えなくなると、側に匿っていたお米に、行っちまったよ。まだでない方が良いよと伝え、どうした、あんな奴らに追われているんだい?と尋ねるが、お米が答えようとしないので、無理に言わなくて言いよと応ずる。

すると、南部様の御家中が泊まっている所をご存じないですか?とお米から聞かれたので、何かに気づいたらしきお仙は、お前さん、お米さんと言うのじゃないだろうね?お前さんに会わせたい人がいるんだよと言い出す。

そして、お米を自分の家に匿っていた市の所へ連れて来る。

何故寺を降りて来て、南部藩の侍に会いに行くのです?何かあったんですか?と市は聞くが、お米は警戒しながら、あなたの方が知っているはずです。あなた、何しに福竜寺へ来たのです?などと、逆にお米の方が市に問いただす。

できたら、私が身替わりになってやりたい…と言うお米に、南部藩は何と言って来た?と市が聞くと、あの人が来たら、あの子の罪は許すって…と、答えたお米は、一体いくらもらったの?と市を責める。

市は、受け渡しは、いつどこで?と尋ねるが、お米は知らない様子。

市は、その場で一緒に話を聞いていたお仙に、頼みたいことがあると伝えると、勘の良いお仙は、探ってくれって言うんだろう?と答える。

その足で飲み屋に向かったお仙は、市の居場所を探していた藤兵衛の子分、政(深江章喜)に色目を使い始める。

俺は売り物には手を付けねえんだと政は相手にしようとしなかったが、私のうちよ…と、お仙が知らせると、すぐにその意味を察し、2人の仲間と共に、お仙のうちに出向いて行く。

しかし、家に入り込むと、あっさり子分2人は斬られ、政は、市の刀を鼻先に突きつけられながら家の外に出て来る。

聞いてえことがある。子供はどこにいる?汚えことしやがって…、2人ともばらすつもりだろう?菩提寺裏、明け六つと政は答え、知らせたのは誰だ?と聞くと、覚全と言う坊主が来たと言う。

家の奥でその話を聞いていたお米は、市が知らせたのではない事を知り、自分の今までの勘違いに気づく。

逃げようとした政を叩き斬った所に、への市、新七、亀の3人がやって来て、市さん!子供が連れて行かれるって、こいつらが聞き込んで来た!と知らせる。

水戸街道へはどう行くんです?と市が聞くと、案内するよとお仙が答える。

その後、子供連れで林の側を通りかかった南部藩の一群は、その子を置いて行きな…と言う声がしたので、どこだ!と警戒する。

押川の宿場では、右耳を失った藤兵衛が、子分たちに万全の準備をさせ、座頭市を待ち構えていた。

藤兵衛は、まだ市はこの宿から出ていないと踏んでいたのだった。

その頃、小栄を連れて、お仙の家に戻って来ていた市は、朝飯をかき込んでいた。

お米さん、何も心配することはねえと市が慰めると、お米は、すみません!みんな市さんがやったものとばかり…と謝る。

それにしても、あのクソ坊主、友達を裏切るとはな…。お米さん、あんたも、こんな嫌な土地は離れた方が良いと、市は諭すのだった。

そこに、宿場の様子を探って来たお仙が戻って来て、宿場じゃ、藤兵衛一家がうろついているよと知らせる。

一方、小栄を助けに行くため、王剛も福竜寺を1人出立していた。

藤兵衛一家が待ち受ける宿場に、市が現れたので、子分たちは一斉に、何台もの荷車を市の周囲から押しつけ、その下に市を封じ込めてしまう。

ざまあみろ、ドメ○ラめ!引きずり出して斬ってやれ!と藤兵衛が命じると、子分たちが荷車を引っ張って、市の様子を探ろうと近づく。

その時、地面に伏せて美を隠していた市が突如飛び出して来て、子分たちを斬って行く。

市!てめえ、行きてこの宿場から出られると思っているのか?てめえなんか、笛でも吹いてるのが分相応だ!叩っ斬れ!と藤兵衛がわめく。

市は、周囲からヒモを投げられ、それが首に絡まって苦しみだす。

小さな屋根付きの場所に来た市は、身体を一回転させ、首に絡まっていたヒモと、屋根を支えていた四方の柱を瞬時に切断し、屋根が崩れ落ちる。

一方、菩提寺裏の崖にやって来た王剛は、待ち受けていた南部藩の一団と対峙する。

その南部藩の中に、なぜか覚全の姿もあった。

武器を捨てろ!と南部藩の侍が叫ぶと、王の方も、子供、どこにいる?俺はこうして約束通り来たではないか!と叫ぶ。

すると、小栄はここにはおらん!共先を切ったものは、例え誰であろうと斬られるのが日本のしきたり!大名は権威を守らねばならない。お前との約束等守れるか!と覚全が中国語で言う。

お前、なぜ小栄がいないことを知っている?王剛は、その時はじめて、友である覚全に裏切られたことを悟る。

宿場の方では、市の姿を見失った子分たちが必死に、周囲に積まれていた酒樽を転がして探していたが、その内に、1つの大きな酒樽が、道の真ん中を転がっているのに気づく。

中に入っていた市が、コマネズミのように、四つん這いになって回しながら動かしていたのだった。

やがて、石に躓き、樽の動きが止まったので、用心しながら子分たちは、樽の上からコンコンと叩いてみる。

すると、中の市も、コンコント叩いて返事をし、次の瞬間、樽の一部を、外にいた子分もろとも菱形に斬り裂いて、そこから外に出て来る。

そして、藤兵衛!と呼んだ市は、先ほど言われた通りに、按摩笛を口にくわえ、それを吹きながら、藤兵衛ににじり寄る。

市の気迫に押され、命乞いをし始めた藤兵衛だったが、次の瞬間、市に斬り殺される。

菩提寺裏では、王剛が、南部藩の侍相手に果敢に戦っていた。

その時、俺が相手になってやる!と名乗り出た覚全が、少林寺拳法の型を見せる。

それまで剣で戦っていた王の方も、刀を収め、拳法の型を取る。

互いに詰め寄り、拳法で戦うが、王は覚全の胸を掴み、覚全は血反吐を吐いて息絶える。

そんな王目がけ、崖の上から岩が落とされる。

王は、崖に身体を密着させ、岩の落下から身を防ぐと、大きくジャンプして、岩を落とした侍たちを倒す。

そこにやって来たのが座頭市で、崖下に転がっていた大勢の南部藩の侍の死体に気づく。

その時、「座頭市!」と日本語で呼びかけて来たのが王剛だった。

無事だったのか!と市は喜ぶが、王の方は、お前は酷い奴だ!許しておけん!と叫ぶ。

もちろん、双方とも相手の言葉は理解できないまま。

刀を抜け!と王は呼びかけるが、意味が分からない市は、弱っちまったな…。言葉がわからねえ…。お前さんとやる気はない!と戸惑うばかり。

その時、王が大きくジャンプして斬り込んで来たので、やむなく市も居合いで返す。

着地した王は、メ○ラ、やるな!と呟く。

そこに、待って!止めて!と叫びながら駆けつけて来たのは、お仙とお米だった。

市の仕込みに太陽が反射し、王は目を細める。

お仙も戦いを止めようとするが、2人は又斬りあい、市の帯が斬られ、前がはだける。

一方、王の方も、腕がない右側の袖を斬られていた。

市はがっくり跪く。

惜しい…と呟いた王は、ばったり倒れていた。

市の方は右手を斬られて、出血していた。

惜しい男を斬った…。悪い奴ではなかった。もし言葉が通じていたら…、倒れていた王はそう呟いて息絶える。

お仙に促され、お米が王の元へ駆け寄る。

お仙の方は、市の身体を支える。

言葉さえ通じていれば、斬りあわずに良かったものを…と市は悔し気に呟くのだった。