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新兵隊やくざ 火線

「兵隊やくざ」シリーズ第九弾で最終作、シリーズ初のカラー作品でもある。

8作目で終戦を迎えたはずなのに、本作では、また時代を1年ばかり遡り、戦争末期の状況にしているが、さすがにシリーズもここまで来ると面白さが減少している。

過去にやったことの繰り返しになっているからだ。

部分部分に面白い所もないではないのだが、全体を見渡すと、さほど印象に残るものがない感じがする。

憎々しい敵役として、宍戸錠が参加しているが、今ひとつ極悪人に見えないのがまず弱い。

かつての日活でのエースのジョーも、戦争ものとなると迫力不足なのだ。

一応、悪役として、これでもかと言うくらいあくどいことを重ねてはいるのだが、型通りの悪人以上のキャラクターに見えない。

大映版も、そんなに予算をかけた大作と言う感じではなかったが、この作品もそれに準じたくらいの規模で、特にちゃちでも大作でもない。

それでも、何となく物足りなさを感じるのは何故なのだろう?

話が今ひとつ面白みに欠けるためかもしれない。

階級制度に毒された軍隊の中で、1人の頑丈なだけのバカが、インテリの上等兵と共に暴れまくると言う初期設定の爽快感が既に希薄になっていることもあるだろう。

その辺の強烈さが薄れているため、戦争なんて嫌いだ!等と言うセリフで戦争の空しさを説明するしかなくなっているように見える。

劇中、有田と大宮の関係をオカマじゃないかと嘲笑するシーンが出て来るが、これは、シリーズを観ていると誰しもが感じていることを表現したのだろう。

シリーズ当初は、そんなイメージは全くなかったのだが、シリーズが長く続いたため、ずっと観ている観客の中には、2人の関係に同性愛的な意味合いを感じ始めた部分はあるような気がする。

人の良い北井小隊長を演じている大瀬康一は、「月光仮面」や「隠密剣士」と言ったテレビ創成期の人気ヒーロードラマで人気を博した後、大映に移った人だが、大映が倒産後に、こんな作品にも出ていたとははじめて知った。

この人も、映画になると印象が弱い。

村長役の大滝秀治は、宍戸錠同様、日活作品が多かった人だが、映画斜陽化まっただ中の映画を象徴するような各社混合キャスティングになっている。

下士官役で、お馴染みの目力のある長身の兵隊は大映の橋本力で、この時期は確か勝プロ所属で、その関係で「ドラゴン 怒りの鉄拳」で、ブルース・リーの対戦相手役等を演じたはず。

ヒロイン役の大楠道代は、シリーズ5作目「兵隊やくざ大脱走」以来の出演だと思うが、今回は終始無表情なクールビューティを演じている。

そんな中国人ヒロイン相手に、粗暴な大宮が純愛振りを見せるパターンや、憧れの女の下の毛をお守り代わりにもらう等と言うアイデアは、既に過去のシリーズでもやっていることなので、今ひとつ新鮮味に欠ける。

この作品単発で観れば、それなりに楽しめる水準作にはなっているとは思うが、シリーズをずっと観てきた流れからすると、さすがにもう初期の痛快さはないと思う。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1972年、勝プロダクション、有馬頼義脚本、東条正年脚本、増村保造脚本+監督作品。

中国と日本近辺の地図

昭和19年3月、太平洋戦争は最後の段階に迫っており、私と大宮は戦場を、ただ西へ西へと逃走していた。

日本兵を荷台に乗せた軍用トラックが大陸を走っていると、突然、八路軍の攻撃を受け、トラックは停止する。

荷台に据え付けられていた機銃で応戦しようとした日本兵達は、次々に倒れて行く。

そうした中、荷台に乗っていた大宮貴三郎(勝新太郎)は、有田上等兵(田村高廣)に弾を頼むと言うと、自分は機銃を持って荷台から飛び降りる。

有田も、荷台に残されていた銃弾を持てるだけかき集め荷台から降りる。

大宮が、トラックの影できょろきょろしているので、何を探しておる?と有田が聞くと、喧嘩の足場!と答えた大宮は、小さな廃墟を一軒見つけ、銃撃を受けながらも、そこに向かって走りだす。

有田も必死にその後に付いて行く。

廃墟に着いた大宮は、そこなら壁が厚く、見晴らしが良いことに気づき、有田には、適当に撃ってください。こっちが撃っているうちは攻めて来ないはずですからと言う。

大宮、弾がなくなったらどうする?と有田が聞くと、どうにもならねえ…と大宮は吐き捨てる。

タイトル

窓から銃撃を始めたものの、次々と手持ちの弾はなくなって行く様子を背景にキャストロール

八路軍は、周囲から徐々に廃墟に近づいて来る。

有田の方の弾が先に切れる。

俺たちもいよいよ名誉の戦死か?と有田が諦めたように呟くと、死んだらどうしようもありませんよ。粘るんですよ!と答えた大宮の機銃の方も、やがて撃ち終える。

敵の奴近いぞと有田が教えると、手榴弾でも打込みますか?と大宮が提案する。

いよいよ年貢の収め時が来たか。この手榴弾はピンを抜き叩くと7秒で爆発する。大宮、突っ込むぞ!と有田が手榴弾を取り出すが、大宮は、まだまだ…と、敵をもっと引きつけようと粘る。

もう我慢できん!と言い出した有田は、とうとう手榴弾を叩いてしまったので、慌てた大宮は有田の身体を廃墟の窓から引っ張りだし、外へ逃げる。

次の瞬間、廃墟は大爆発で崩れ去る。

その後、銃声が止んだ所を観ると、接近していた八路軍は爆発で全滅したようだった。

その時、一台のトラックが接近して来る。

トラックは、道を塞ぐように停まっていた先行のトラックの背後に停まると、降りて来た神永軍曹(宍戸錠)が戦死している兵隊たちを見て、八路軍に襲撃され全滅したのか?と周囲を見渡し、誰かおらんか~!と叫ぶ。

その時、分隊長殿、2人いますと言いながら近づいてきたのは、有田と大宮だった。

氏名を名乗り、北野小隊へ移動中、襲撃を受けたと有田から聞いた神永軍曹は、自分と北井小隊長(大瀬康一)を紹介する。

その時、近くに、こいつが八路軍の手榴弾を持っていたと、1人の中国人少年が連れて来られる。

北井部隊が留まっている村の村長の倅、黄(坂本香)だった。

スパイに違いないと神永軍曹は睨みつけるが、村長の倅がスパイとは考えにくい。勝手に決めるなと北井小隊長が諌める。

村に戻って来た北井部隊だったが、神永軍曹は、連れて来た黄を杭に縛り付け、付いてきた有田と大宮に、地面に盛られた土饅頭は何が埋めてあるかわかるか?と聞く。

八路軍のスパイだ。俺が全部捕まえて殺したと神永軍曹は自慢する。

土饅頭は16もあった。

この辺の中国人はみなスパイだ。このガキもそうだと決めつけた神永軍曹は、縛られた黄の頬を殴りつけると、白状させようとする。

神永軍曹の腰巾着らしき河村兵長(松山照夫)も、死にたいか?生きていたいか?と黄を恫喝し、神永軍曹は大宮に一歩前に出ろと命じる。

そこにやって来た村長王(大滝秀治)は、神永さん、息子はスパイなじゃい。この子と八路軍とは何の関係もない。私は村長として日本に協力している助けてくださいとすがりつくが、それとこれとは話が別だと神永は無視し、部下の河村と近藤に村長をその場から遠ざけさせる。

そんな黄を心配げに見つめていた中国人娘があった。

黄の姉の芳蘭(大楠道代)だった。

有田は大宮に目で合図し、有田はそっとその場を離れる。

神永軍曹は大宮に、貴様はシャバではヤクザだったそうだな?中退本部から連絡が廻っているぞと侮蔑の表情で聞くので、浪花節語りだと大宮は反論し、俺は子供はやらないぜと抵抗するが、命令だ!と神永軍曹から言われてしまう。

仕方がないので、銃剣を付けた銃を持った大宮は、全然見当違いの方向を突いたりしてごまかそうとするが、すぐに、的はガキの胸だ!と軌道修正される。

それでも大宮は、歩くようなスピードで突く真似をするだけだったので、堪忍袋の緒が切れた神永軍曹は、大宮を殴りつけ、自分が手本を見せてやる!と言い出す。

大宮は、軍曹の腕をしようと思って…などと言い出したので、貴様!敵前で上官に逆らうと死刑だ!と銃剣を突いて来るが、その銃剣を握った大宮は、大した腕でもないな…などと挑発する。

ヤクザめ!と神永軍曹がいきり立った時、何をする?と声をかけ近づいてきたのは、有田上等兵が密かに呼びに行った北井小隊長だった。

その姿を見た大宮は、急に直立不動の姿勢になり、敬礼!と、その場にいた兵隊たちに言い渡す。

神永軍曹は、規則を無視し、上官を侮辱して許さん!と息巻くが、規律が大事なら、敬礼しろ!と大宮もやり返す。

北井小隊長は、大宮が悪いのであれば憲兵隊に引き渡す。今この村は敵に囲まれている、村を守れ!と部下たちに命じ解散させると、大宮には黄の縄を解かせる。

隊長室に有田と大宮を連れて来た北井小隊長は、自分は中学校しか出ていない幹部候補生で、俺の力だけでは部隊の統率が取れない。神永軍曹は戦争が好きだが、俺は大嫌いだ。有田、お前は巧く折り合いを付けてくれ。大宮は、これまでの部隊で、喧嘩ばかりしてきたそうだな?神永は俺が押さえると約束してくれる。

そこに、村長の王がやって来て、息子を助けてくれてありがとうと北井小隊長に礼を言ってきたので、助けたのはこの2人だと北井は教える。

王は、有田と大宮に握手を求め、感謝する。

日本語が上手ですね?と有田が聞くと、若い時、東京の大学に行っていたのだと北井は言う。

珍しい人だな。我々を憎くはないのかな?と有田が聞くと、留学中、教授や友人、下宿のおばさんら、みんなとても優しくしてくれた。この恩は一生忘れません!と頭を深々と下げ、王は帰って行く。

翌日、大宮が薪割りをしていると、昨日はありがとう、弟を助けてくれてと言いながら、黄を連れた芳蘭が近づいて来て、持ってきた鶏を大宮に手渡す。

日本語が巧いなと大宮が感心すると、芳蘭は父から習ったと言う。

その後、黄と芳蘭が立ち去りかけると、その目の前に神永軍曹が立ちはだかる。

すぐに、黄が大宮の所へ戻って来て、姉さんが大変!と知らせる。

神永軍曹は小屋の中に芳蘭を閉じ込めると、前からお前を狙っていたんだ。俺は欲しいものは何でも手に入れてみせると言うと、殴りつけて芳蘭を気絶させ、衣服を脱がせ、自分もズボンを脱ぎ始める。

入口にやって来た大宮は、出ろ!と大声を上げ、かんぬきがかかった扉に体当たりして、扉をこじ開けると、芳蘭に服を着せてやる。

てめえと大宮が怒ると、それが上官に対する言葉か!と神永軍曹は切れるが、ふんどし一丁で、何が上官だ。上官なら上官らしくしろ!と大宮も怒る。

騒ぎを聞きつけ、小屋の前に集まってきた兵隊たちに、神永軍曹は、やれ!このヤクザを!と命じる。

兵隊たちはよってたかって大宮を嬲り始めるが、棒を拾った大宮は、それで兵隊たちを片っ端から殴りつけて行く。

その時、気がついた芳蘭は、神永軍曹が斧を振りかざして、大宮の背後から斬りつけようとしたので、危ない!と声をかける。

間一髪、大宮は身を交わすと、神永軍曹の振り回した斧は木に突き刺さり取れなくなってしまう。

野郎!汚ねえ野郎だ。素手で来い!と大宮が挑発すると、神永軍曹は、俺は見当には自信があるんだと言い、ボクシングポーズでかかって来る。

大宮は、得意の頭突きで対抗するが、そこに駆けつけて来た有田が止める。

小隊長のためだ、頼む!と有田が説得するので、手前はどうだ?と大宮が聞くと、良し!今日の所は見逃してやろうなどと神永軍曹が言うので、大宮はかちんと来るが、ぐっと押さえ、周囲の兵隊たちに、この女に手を出したら叩き殺すぞ!と脅し付ける。

北井小隊長は、有田、大宮、神永を部屋に厚め、村長は大事な仲間だ。どしてその娘を襲ったと神永に詰問する。

すると神永は、いつもこの村に来る時襲撃される。村の中にスパイがいます。一番怪しいのは村長一家ですと言うので、あの一家は俺の友達だ。芳蘭もスパイだと言うのかと北井は聞き返す。

自分の女にして小隊を突き止めるためでした。女は身体を許すと言うことを聞くと言いますから。自分も帝国陸軍軍人ですから、女欲しさも娘を犯しません!などと神永はうそぶく。

それを聞いた北井は、分かった。芳蘭の調査は他の人間にやらそう。有田、お前はインテリで口が巧い。芳蘭を口説いてくれと命じる。

有田は、関係を持って、スパイかどうか試すのですか?要するに、騙すんですね。自分は嫌です。他の兵隊を探してみますと返事する。

その夜、大宮を有田が探していると、小屋の中から呼ぶ声が聞こえる。

入ってみると、大宮が、焼き鳥と酒を用意して待っているではないか?

これは一体どこで手に入れたんだ?と有田が驚くと、酒は炊事場からかっぱらって来たと言い、鳥は、良い人からの差し入れですなどと大宮はにやけて答える。

大宮、お前、あの娘に惚れとるだろう?と有田が聞くと、一番大事なのは上等兵殿、二番目があの子ですなどと大宮が言うので、女はどうやって口説く?と尋ねると、上に乗っかっちゃえばこっちのものなどと言う。

自信あるか?と念を押すと、百発百中等と言うので、芳蘭をお前の女にしろ。あの娘がスパイかどうか調べるんだ。嫌なら仕方ない。他の兵隊にやらせよう。命令だ!と有田が言うと、ただし、ただじゃ嫌だ。毎日酒一升などと条件付きで大宮は承知する。

有田は、明日から3日間、5時から7時まで、中国語を習うんだ。芳蘭がスパイかどうか三日間で調べだせと有田は命じる。

翌日から、大宮は、芳蘭と2人きりで中国語を習い始める。

大宮は、お前が好きだは何と言うなどと、わざとらしい質問をしながら、恥ずかし気に教える芳蘭の顔に自分の顔を近づけたりする。

そして、咽が渇いたと言い出した大宮は、持ち込んだ酒を飲み、芳蘭にも勧めると、あっさり下さいと言う。

場がくだけたので、大宮が、年はいくつかと聞くと、19と芳蘭は答える。

好きなのはいるのか?と聞くと、昔いたが死んだと言うので、戦争でか?日本軍にやられたのか?と大宮は問いかけるが、芳蘭は答えようとしない。

ここでは息苦しいので外でやらないか?と言い出した大宮は、一升瓶も持って行き、外に座って、芳蘭から話を聞くことにする。

この辺は昔は花が一杯咲いていた。今は何もない。戦争だから…と芳蘭は哀し気に言う。

すると、大宮は突然、遊女は客に惚れたと言い~♬等といきなり浪花節をうなり始める。

そんな2人の様子を観ていた見張りの近藤一等兵 (滝川潤)が、昼間っから酒と女か?などと不平そうに呟くのを背後で聞いていた神永軍曹は、撃ち殺せと命じる。

バレやしませんか?と案ずる近藤に、八路軍のゲリラに撃たれたと言えば良いんだ。やり損なうなと神永軍曹は入れ知恵をする。

ガキの頃、遠足に来たことを思い出すな~などと大宮は浮かれていたが、その大宮を近藤の銃口が狙っていた。

次の瞬間、近くに潜んでいた八路軍のゲリラが、近藤が引き金を引く寸前に射殺してしまう。

神永軍曹はすぐに、北井小隊長に、近藤が撃たれた。攻めて来るでしょうと報告に行く。

北井は、有田、大宮、神永、河村らを部屋に呼び、大宮に見通しを聞き、後2日だと念を押す。

すると、河村が、有田と大宮はいつもつるんどるそうだが、オカマじゃねえのか?どんな気分だ?などと挑発して来る。

大宮は、そんな河村に、お前もオカマの味を教えてやろうか?と言うと、その場で後ろ向きにしてズボンを脱がせると、その背後から身体をぶつけ始める。

有田が制止し、北井小隊長は、明日中に女を口説けと命じる。

自信あるか?と有田が確認すると、やりましょう!と大宮も答えるしかなかった。

翌日、芳蘭と2人きりになった大宮は、強引に、俺はお前が好きだと迫る。

怒ったか?と大宮が顔色をうかがうと、芳蘭は大丈夫、平気と言い、あなたが好きだからと答える。

単刀直入に、お前スパイか?それがわからないと困るんだと大宮が迫ると、それがあなたの仕事?好きと言ったのも噓?と芳蘭は無表情に聞く。

好きだよ、それとこれとは別なんだ。俺は身体を張ってお前を守ると大宮が言うと、八路軍は今夜この村を襲う。きっかり夜12時、南から攻めて来ると芳蘭は教える。

そんなこと、しゃべって良いのか?と大宮が心配すると、芳蘭は私の独り言…とすまして言う。

偉えことになってきたな。放っとけば、日本軍は全滅するし、小隊長に話せばお前は殺される。俺はどうしたら良いんだ!と大宮は悩む。

俺は日本軍を助けたい。お前は父と弟を連れて逃げろと芳蘭に頼む。

父は日本軍の味方です。あなたがスパイを助けたら死刑でしょう?と芳蘭は言うので、俺のことは手前で始末する!と大宮は答える。

そして、形見にもらいたいものがあると言い出した大宮は、紙に「毛」と書いてみせる。

芳蘭はすぐに承知し、髪の毛を解くと、切ってくださいと言うが、その毛じゃないんだよ!と苛ついた大宮は、紙に「下ノ毛」と書き添える。

その意味を悟った芳蘭は変な人…と戸惑うが、1本だけで良いんだ。芳蘭だと思って大事にすると大宮が頼むと承知してくれる。

芳蘭が小屋を出て行った後、芳蘭からもらった毛を紙に包んだ大宮は、それを帽子の折り込みの額の位置に入れ、頭にかぶると、北井小隊長に報告に向かう。

一緒に話を聞いた神永軍曹は、やっぱりスパイだったか。あの女を捕まえて締め上げましょうと言いだすが、大宮は正直に逃がしました。あんな良い女死なせるもんですかと報告する。

驚いた神永軍曹は、大宮を営巣に入れようとするが、北井小隊長は、そんなことより、今は、今夜をどう逃げ切るかだと戒め、大宮は、俺が上等兵殿を守ると言い、戦争が済んだら、営巣行きだと北井は大宮に告げる。

北井部隊はその夜、南に向かって臨戦態勢を整えて12時を待っていた。

12時きっかり、照明弾が打ち上がり、それまで正確な情報なのかどうか疑っていた連中も納得する。

しかし、有田だけは、何か裏があると睨んでいた。

撃て!と命じた北井に、まだ敵は遠過ぎて当たらないと神永が反対すると、脅かして追い払うんだと北井は命じる。

戦闘時間は約2時間だった。

味方の負傷者は6名だけですみ、当分、この村は安全だと感じた北井小隊長は解散を命じるが、神永軍曹は整列した兵隊の中から大宮を前に出すと、こいつはスパイを逃がした。ただ営巣に入れるだけでは他の兵隊への示しがつかんと言いだす。

殴るのか?と北井が案じると、大宮自ら、近くに落ちていた太い棒を拾い上げ、これでやってくださいと自ら志願する。

兵隊たちに命じ、大宮の身体を柵に縛り付けさせた神永軍曹は、有田上等兵に、お前に殴らせるのは俺の情だ。気絶するまで殴れ。手加減するな!と命じる。

みんなが観ている中、断ることも出来ず、棒を渡された有田は、心の中で、大宮我慢しろ!早くくたばれ!と祈りながら殴り始めるが、大宮はそんな有田の気持ちとは裏腹に、とことん耐え続け、まだまだ…などと言う始末。

やがて、河村兵長を始め、他の兵隊も有田に代わり、交代で、大宮を棒で殴り始める。

有田は、ぐったりした大宮を見かね、気絶した。もう良いだろうとなだめようとするが、大宮自ら目を開け、まだまだ続けてくださいと申し出る。

ついに、神永軍曹自信がやると言い出すが、北井小隊長がもう止せととどめ、紐を解かれて倒れた大宮は、無意識に脱げた帽子をかぶり直す。

営巣の中の布団に寝かされていた大宮だったが、深夜、帽子の中に隠していた芳蘭の毛を取り出し、それを眺めようとしていたが、くしゃみをしてしまったため、毛が飛んで見失ってしまう。

ない!どこだ!慌てて探している時、営巣の鍵を銃で撃って壊して入ってきたのは、黄だった。

帽子で銃を隠し、消音したつもりだったが、寝ていた神永軍曹は目ざとく気づく。

早く!姉さんが待ってると言うので、死ぬ前にもういっぺん会えるのかと大宮は呟きながら逃走する。

ふらふらになりながら、黄の後について行った大宮は、とあるテント前で、いきなり八路軍に囲まれてしまう。

殺すのか?と大宮が緊張すると、テントから出てきたのは、武装して兵士の格好になっていた芳蘭だった。

芳蘭は大宮に、八路軍に入らない?と勧めるが、俺は日本の兵隊だと大宮は拒否する。

八路軍は人民を愛し、捕虜は殺さないなどと、簡単な八路軍の条件を並べたので、大宮はちょっと迷う。

その頃、大宮と芳蘭、黄が逃げ出した村では、神永軍曹が、村長の王を捕まえ、兵隊たちに拷問させていた。

お前の娘も息子もスパイだと言え!と神永軍曹は責めるが、私は日本人の味方だ。あなたは、私が知っている良い日本人じゃない。別の日本人だ!と絶叫する王を、神永軍曹は椅子で背中を殴打し続ける。

そこに飛び込んできた有田が、娘に逃げられて、父親に当たるのか!と止めに来る。

しかし、興奮した神永軍曹は、この八路軍にヤキを入れてやると言い、大宮がいないと、お前もただのかかしだろう?と河村兵長も有田を嘲る。

床に倒れていた王を様子を見た有田は、すでに王が絶命していることに気づく。

神永!貴様は鬼だ!中国軍全てを敵に回すことになるぞ!と警告する。

さらに、駆けつけてきた北井小隊長も、王が殺された事を知ると、憲兵隊に報告するぞ!と神永を諌める。

その夜、キャンプ地にいた大宮に、芳蘭は、干し柿とクリを夕食として差し出す。

八路軍、中国人民のために戦っている…、食べたら、この河で身体を洗って。八路軍は清潔第一と芳蘭が言い出したので、この寒いのに水風呂なんか入れるか!と大宮は拒否するが、芳蘭自らその場で全裸になり、河に入ったので、大宮も嬉しくなり、素っ裸になると、いそいそと河の中の芳蘭の側に近づく。

そして、何やら水の中で手を動かしながら、清潔第一、縮んじまってるなどと大宮が呟くので、背中を向けていた芳蘭は、不思議そうな顔になる。

背中を流してやろうか?何もしやしねえよ、大事な宝だから磨くんだと大宮は頼み、芳蘭も応じる。

その後2人は、地面に並んで寝ることにする。

芳蘭は、寝付かれないの…と言い、八路軍、今夜もあの村を攻める。夕べは見せかけ。今夜が頓棟。上等兵さん、死んでるわと続けたので、驚いた大宮は起き上がると、村に連れてってくれ!と頼む。

その頃、北井の部隊は、突然の急襲に必死に抵抗していたが、次々と敵の銃弾に倒れていた。

北井小隊長自ら機銃を、その隣では有田が銃を撃っていたが、そんな中、神永軍曹は河村兵長に、これはダメだ。敵は迫撃砲を持っている。この村から逃げようと耳打ちしていた。

小隊長はどうします?と河村が聞くと、俺が殺す。このままでは憲兵隊を呼ばれる。流れ弾に当たったのさ。有田は餌にすると言い出した神永軍曹は、必死に機銃を撃っている北井小隊長の背中に銃を打込み射殺する。

背後から撃たれたとは気づかない有田が、北井を助け起こそうとするが、後頭部を銃の握りで殴られて気絶する。

縛って連れて行くんだと神永は河村兵長に命じる。

その直後、芳蘭が乗った馬の後ろに乗せて村までやって来た大宮は、必死に有田の行方を探すが、そこに並べられた日本兵の中には、有田の姿はなかった。

そんな中、北井小隊長の死体を発見した大宮は、自分の帽子を北井の胸に置いてやる。

有田さん、いなかったようね。嬉しい?と芳蘭が話しかけて来ると、小隊長殿…、こんな良い人が死ぬとは…と大宮は無念そうに呟く。

良い人は死ぬ。悪い人は生きる。神永の影も形もない…と芳蘭は言う。

その時、銃声が聞こえて来て、芳蘭は、日本軍が村を取り戻しにきたと言い出す。

大宮は、八路軍と日本軍が撃ち始めた銃火をかいくぐり、中国人の姿のまま、日本軍の方へ近づくと、有田上等兵殿〜!と叫ぶ。

誰だ?と日本軍がいぶかしそうに誰何してきたので、有田上等兵殿はおられますか?と大宮は再度聞くが、知らん、そんなのはと言われ、さらに、貴様、八路軍の捕虜になったな?死ね!と叫ぶと、味方にも関わらず銃撃してきたので、また、銃火の中を、村まで戻って来る。

何しに行ったの?と芳蘭が聞くと、有田上等兵がいないのなら用はないと大宮は答える。

芳蘭は、逃げましょう。八路軍は無理しないと大宮を誘う。

村から逃亡後、すっかり疲れきり、地面に寝ていた大宮を起こした芳蘭は、上等兵の居所が分かった。景徳鎮と言う所と教える。

芳蘭と共に、中国人農夫に化けた大宮は、偽造の領民表を日本軍の見張り兵に見せ、景徳鎮の門の中に荷車を押して入る。

巡察隊が通る中、大宮は芳蘭に帰るよう勧めるが、芳蘭は自分も行くと言って聞かなかった。

ふんどしを洗濯していた有田を見つけた大宮は、喜んで近づいて呼びかけるが、何故か、有田は、バカ!出て行け!と大宮を置い返そうとする。

村から逃げたことを怒られているのかと思って詫びる大宮だったが、その時、神永軍曹が部下を従え、銃を向け姿を現す。

有田を餌に、待ち伏せされていたのだった。

側に芳蘭もいることに気づいた神永軍曹は、こいつは面白いやと薄笑いを浮かべ、大宮と共に捕まえると、小屋の中で、有田と共に縛られてしまう。

大宮の顔に煙草の煙を吹きかけながら、有田のか拝みたかったんだろう?たっぷり観ろ!と言いながら、大宮の頭を、横で縛られている有田の方に無理矢理ねじる。

ここの中隊長は物わかりが良くてな。俺はここの分隊長になった。お前ら2人の命を預かっている。貴様らは明日死刑だ。今日はゆっくり別れを惜しめ。俺の情だと言い残して、神永軍曹と部下たちは部屋を出て行く。

有田は、大宮、お前もバカだ。何故来た?と聞くので、大宮は、分かっているくせに…。上等兵殿が死んだら、俺も生きちゃ行けないと呟く。

何故、芳蘭を巻き込んだ?と有田が聞くと、私が勝手に来たのよと芳蘭が答える。

その時、大宮は、上等兵殿、メガネをちょっと外してくださいと言い出す。

自分と芳蘭は、まだきれいな関係です。3分で良いからちょっと目をつぶってくださいと言うので、事情を察した有田は、分かったと言って目を閉じる。

杭に後ろ手を縛られていた大宮は、同じく縛られてていた芳蘭に、こっちへ来いと誘う。

芳蘭は、無理に身体を伸ばし、顔を大宮の方に近づける。

大宮の方も、満身の力を込め、身体を伸ばせるだけ伸ばすと、何とか、芳蘭にキスをしようと接近するが、後わずかな距離で届かない。

それでも諦めずに、2人は顔を接近させあっていたが、その時、いきなり芳蘭は何者かに髪の毛を掴まれる。

密かに戻って来ていた神永軍曹だった。

大宮、女を抱きたいか?と神永軍曹は嘲り、芳蘭に対しては、こんなヤクザと付き合いやがって!と罵る。

すると芳蘭は、私がバカだった。あんたの女になる。ここは戦場、女は強い男にすがりつくと言い出す。

俺が好きか?気に入った。俺の女にしてやると神永は愉快がるが、その代わり、この2人を助けて。中国人、恩を忘れない。この男、私と弟を助けたと芳蘭は付け加える。

神永は、そんな芳蘭の服をその場ではぎ取ると、自分もズボンを脱ぎ、大宮の目の前で覆いかぶさると、大宮!良く観ろ!貴様の好きな女が、どうわめくかを!と言いながら犯し始める。

大宮は、芳蘭!畜生!と叫び続けるが、どうすることも出来なかった。

翌朝、小屋の中で縛られたまま目覚めた大宮と有田は、やって来た神永から、貴様たちは釈放してやる。小隊長と相談の上、前線では役に立たんので、後方の部隊に送ることにすると言い出す。

そして、無表情な芳蘭が見守る中、有田と大宮は、トラックの荷台に乗せられ、景徳鎮を出発する。

大宮は、じっと芳蘭の顔を見ていた。

トラックは、人気のない場所で急に止まると、大宮と有田は降ろされ、文隊長の命令で、貴様らを銃殺すると、運転台から降りて来た河村兵長が言う。

神永みてえな奴の犬になりやがって、それでも日本兵か?と大宮は嘲るが、兵隊たちが、2人に銃を向けて引き金に手をかけた時、近くに潜んでいた八路軍が突如攻撃して来る。

大宮と有田の側にやって来たのは黄で、姉さんから聞いた。助けに行けってと言うではないか。

芳蘭か…と呟いた大宮は、傷ついていた河村兵長を無理矢理立たせ、運転台に押し込むと、自分は助手席に乗り込み、上等兵殿、ちょっと行ってきますと有田に言い残し、再び、景徳鎮へ戻ることにする。

門の前の見張りは、戻って来たトラックを運転していた河村の顔が血で汚れていたので、どうした?と詰問して来るが、大宮が、八路軍にやられた。分隊長に報告する!と答え、中に入る。

トラックを降りた大宮は、便所はどこだ?と河村兵長に聞き、その場所に案内させると、てめえがその中に入れ!と銃を突きつけながら命じる。

河村は、顔をしかめながらも、むき出しの便槽の中に身を沈める。

その顔を、汚物の中に踏みつけた大宮は、神永の部屋に案内しろとさらに命じる。

汚物まみれのまま、便槽から出てきた河村は、神永の部屋の前に来ると、銃を持った大宮がとの横に隠れている前で、分隊長殿!河村であります!開けてください!と声をかける。

その声に応じ、出てきた神永は、汚物まみれの河村を観ると、顔をしかめる。

横から出てきた大宮は、河村を下がらせると、自分は銃を突きつけたまま、神永と共に部屋の中に入る。

そこには芳蘭もいた。

大宮は、神永、お前だけは許せねえ!と大宮が迫ると、俺も帝国軍人だ。命は惜しくない。貴様も男なら素手で来い!どっちが生き残るか、今日こそカタをつけてやると神永は挑発して来る。

大宮と神永は、部屋の中で殴り合いを始める。

2人は、壁を崩して隣の部屋になだれ込む。

その時、神永は、床に落ちていた銃に気づく。

やがて、神永は力尽き床に倒れ、大宮は、部屋の中にあった酒を飲み始める。

その隙を観た神永は、倒れたまま手を伸ばし銃を撮ろうとする。

その時、機銃を手にした芳蘭が入ってきたので、酒を手にしていた大宮はぎょっとするが、芳蘭が撃ったのは、銃を撃とうと構えていた神永の方だった。

神永は連射を受け、血まみれのまま、目を見開き床に倒れて息絶える。

芳蘭と共に、トラックで景徳鎮を抜け出した大宮は、有田の待っていた場所に戻って来ると、八路軍に銃を向けられ、その場にいた他の日本兵に、このトラックに乗って帰れ!と命じる。

そして、持っていた機銃を黄に渡す。

草むらの中、久々に2人きりになった大宮は、ずっと芳蘭に背を向けていたので、怒ってるの?と芳蘭が聞くと、下らねえ!全く下らねえよ!と後ろを向いたまま大宮は叫ぶ。

私が嫌いなの?抱きたくないの?と芳蘭が再び声をかけると、戦争なんて嫌いだ!神永のお古なんか相手に出来ねえ!バカヤロー!と大宮は叫ぶ。

そんな大宮を前に、芳蘭は静かに立ち去って行く。

振り向いて、芳蘭の姿が消えたことを知った大宮は、急に慌てたように芳蘭の名を呼んで、近くを探し始める。

やがて、芳蘭の後ろ姿らしきものを見かけたので、俺が悪かった。勘弁してくれ。神永観てえな奴に抱かれたのも…、分かってる、俺を助けるため…。八路軍でもどこでも入るよ…と話しかけながら近づくが、俺だよと言って振り向いたのは有田上等兵だった。

芳蘭は二度と戻らない。これは八路軍がくれたんだと言って、中国服を見せると、俺たちは大陸で生き残るんだ!お国のためなんかじゃないと言い聞かす。

戦争なんてくそくらえ!と大宮は叫び、中国人に化けた2人は、宛てのない旅を始めるのだった。

(勝新が歌う河内音頭にも似た「兵隊やくざ」の歌が重なる中)大宮が、止める有田を振り払い、先に行こうとすると、有田は諦めたように立ち上がって1人立ち去ろうとする。

すると、すぐに大宮が近づいてきて、有田の汚れたメガネを吹いてやり、愛想笑いを浮かべる。

2人は肩を取り合って、何処へともなく歩き続けるのだった。

中国と日本近辺の地図