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青春を賭けろ

上映時間62分の中編音楽映画。

当時のロカビリーブームと若者たちの大人への抵抗を重ねて描いてあるが、内容はやや単調で、時間の短さもあり、大した盛り上がりもないまま、あっけなく終わる印象である。

ロカビリー映画なのに、歌手の出身が貧しい下町で…と言う組み合わせが、東宝と言うよりも松竹風で、やや泥臭いのが気になる。

主人公たちが反抗する大人と言うのが、何か抵抗しがたい権力や地位を持っていると言うのならともかく、単に貧しく保守的な人たちでは、抵抗している若者側もみじめに見えるだけである。

今の親衛隊事情も全く知らないが、当時の人気歌手の親衛隊と言うのが、どう観てもズベ公風等が興味深い。

それでも、好きな歌手に対しては、きちんと仁義を通し、個人的に接触等しないと取り決めている所などは、案外、最近でも共通する部分なのかもしれない。

主役を演じている夏木陽介が歌うシーンが何度も登場するが、もちろん、夏木さん本人が歌っているのではない。

吹き替えているのは、劇中、天本英世の子分役で出ている水原弘である。

ヒット曲の「黒い花びら」なども、劇中では、夏木陽介演じるハリー・健の歌としてレコードジャケット等も出て来る。

クライマックスにかかるのも「黒い花びら」であり、何やら「黒い花びら」の宣伝映画風にも見える。

しかし、この劇中で、ハリー・健が歌っている歌の歌詞も、今聞くとすごい。

キ○ガイと言われても、アイ、アイ、アイ〜♪

この時代、このような言葉は普通に使われていたと言うことだ。

天本英世の悪徳芸能ブローカー役は相変わらず決まっているが、水原弘の悪振りも板についており、この人、歌手以外では、本当にこういう役が多かったんだなと、改めて感じさせる。

ジェリー藤尾は、顔こそ割とはっきり写るシーンはあるものの、セリフはないに等しい。

天本英世の事務所の子分役で、釜范ひろし(ムッシュ・カマヤツ)が出ているようなのだが、残念ながら確認できなかった。

おそらく、最後の夏木洋介との乱闘シーンに登場していたのだろうが、ほとんど顔は映っていなかったのではないかと思う。

夏木陽介の親友隆吉役で出ている清野太郎と言う人も、当時の東宝作品で全く見かけた記憶がない人である。

冒頭に出て来るジミー・山本役の山下敬二郎と、最後に登場する坂本九は、もちろん当時の人気歌手。

司会者役でちらり登場するミッキー・カーチスも、当時は、山下敬二郎、平尾昌章と並び、人気ロカビリー歌手だった人である。

この作品の併映作は、三橋達也主演の「女子大学生 私は勝負する」らしいが、こちらもタイトルからすれば若者映画のようで、夏休みの7月28日公開、はたしてこの2本立て、興行的には当たったのだろうか?

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1959年、東宝、関沢新一脚本、日高繁明監督作品。

夜の道路をひた走る1台のスポーツカー。

運転しているのは、人気絶頂のロカビリー歌手ハリー・健(夏木陽介)だった。

タイトル

フロントガラスには、ギターを持ったマスコット人形がぶら下がっていたが、何を思ったか、それをいきなり引きちぎった健は、それを外に投げ捨てる。

その直後、トラックと正面衝突しそうになったので、慌ててハンドルを切った健だったが、壁に激突してしまう。

道路には先ほど捨てた人形が横たわっており、そこにパトカーのサイレンが近づいて来る。

手術室

外科医が、運び込まれた健の身体を執刀する中、手術室の外で待ち受けていた記者たちは、とうとうやりやがったな。ロカビリー歌手と言えば現代の英雄。

その英雄が、自分に人気に挑戦したんだ。英雄の悲劇って訳か!などと無責任な話を交わしていた。

時間は遡り、ステージで、人気ロカビリー歌手ジミー・山本(山下敬二郎)が「ゴールデン・ダイス」メンバーを前に、女性ファンたちが熱狂する中歌っている。

演奏が終わった山本は、舞台袖で待っていたバンドボーイの健にギターを投げて渡すと、楽器運んでおけよと命じて、ファンにもみくちゃにされながら車に乗り込んで帰って行く。

トサ坊!と女性マネージャー田代富佐(白川由美)に声をかけて来たのは、子分の戸田 (水原弘)と三崎(ジェリー藤尾)を引き連れた芸能ブローカーの仙坂(天本英世)だった。

田代は、もうそんな呼び方しないでよ。出演料もちゃんと払ってちょうだい。でないと店との再契約しないわよと言い返したので、ちょっと前まで、あんなに使ってくれと泣きついて来たくせに…と戸田が嫌味を言う。

人気がなくなったステージで、健は、バンドの楽器を運んでいた。

貧しい下町にある健の実家に、リヤカーに荷物を積んでやって来たのは、健の昔なじみ、隆吉(清野太郎)だった。

健ちゃん、バンドボーイになったんだって?と隆吉から声をかけられた健の母親タネ(千石規子)は、健の奴がヤクザな道に入ったので、その分私が頑張らないと行けないよ。楽隊なんてチンドン屋くらいしか通用しないだろ?等と愚痴る。

隆吉は、おばさん古いな。バンドボーイも立派な仕事だよと笑う。

そこに、仕事におくれそうだと言いながら健が起きて来たので、タネは、工場まで、隆吉さん、手伝っておあげよと頼む。

健は、言われた通り、家を出ると、隆吉のリヤカーを押してやる。

隆吉が勤めているのは「青木玩具製作所」と言う小さな町工場だった。

問屋から電話がかかって来て、納期に間に合わせてくれと文句を言って来たので、工場主の娘のマリ(北あけみ)が、臨時の女の子も雇ってやっています!噓だと思うなら観に来てください!と気丈に言い返していた。

隆吉が戻って来て、健が出かけると、工場を出て来たマリが、今の、杉町さんの所の子ね?ちょっとイカすじゃないと言うので、「ゴールデン・ダイス」のバンドボーイをやっているんだと隆吉が教えると、それなら今「CRAZYDOLL」でやっているから、行かない?とマリは誘う。

連合テレビのスタジオにドラムセットを組み立てている健。

田代は、ジミーがアパートに帰ってないとの電話を受け焦っていた。

収録時間間近になっても本人が来ていないからだった。

局の担当プロデューサー牧(中丸忠雄)は、諦め顔で、中止だな…と田代に文句を言いに来る。

その時、スタジオから元気のいいドラムの音と若い男の歌声が聞こえて来る。

スタジオを覗きに行った田代と牧が観たのは、健が歌っている姿だった。

2人とも彼の歌に何かを感じていた。

その時、ようやく健がスタジオ入りして来て、飲んじゃったからな…と田代に言い訳しながらも、健からギターを受け取る。

夜、「CRAZYDOLL」に出かけようとしていたマリは、隆吉が、バイクのブレーキの調子がおかしいので、修理するのを工場の前で待っていた。

隆吉は、オヤジさんに断って行った方が…と言うが、マリは、お父さんが帰って来ないうちに出かけましょうよ焦っていた。

ようやく修理が終わり、2人がバイクに乗って工場を出ようとした時、外出先から戻って来た父親源太郎(笈川武夫)と出会う。

どこに行くんだ?と源太郎が聞くと、マリは音楽を聞きに行くのと答える。

すると、源太郎は、ゆっくりして来て良いんだぞと隆吉に優しく言ってやる。

源太郎は、真面目に働く隆吉を気に入っている様子だった。

途中、ロカビリーのレコード大分溜まったね。そんなにロカビリーって良いの?と隆吉が聞くと、ハイティーンは今混乱しているの。だから男の子は酒を飲み、女の子はロカビリーが好きになるのよとマリは答える。

やがて、「CRAZYDOLL」の店先に到着した隆吉だったが、ブレーキの調子が悪く、店の前でたむろしていた娘たちの集団の中に入り込んでしまう。

その娘たちは、あたいたちにアヤでもつけようってのかい?ズベ公のように隆吉に因縁を付けて来る。

しかし、おどおどしている隆吉とは対称的に、マリは同じように言い返していた。

その騒ぎに気づいて、隆吉じゃないか!と呼びかけながらやって来たのが健で、それを聞いた娘たちは、何だ、健坊の友達かい。ヤキ入れてやろうと思ったんだけど…などと言い、騒ぎを止めて、そのまま店の中に入って行く。

何だ、あの子たち?と隆吉が不思議がると、親衛隊と言って、言わばジミー・山本のファンたちさと健は教え、さっきの子は?と聞くと、工場の親父さんの娘さんさと答えた隆吉だったが、肝心のマリの姿が見えないことに気づく。

親衛隊と一緒に入っちまったんじゃないのか?と健は教える。

マリは、勝手に楽屋口に入り込み、山本から、自分の服の裏側にサインをもらっていた。

それに気づいた親衛隊の連中は、何を勝手なことをしているんだよ!と因縁を付けて来て、負けん気の強いマリとつかみ合いになる。

その騒ぎに気づいた戸田が、うるせえぞ!と注意しに来る。

隆吉は帰ろうと言い、マリの腕を取ると店を出る。

そんな中、健は、事務所内でジミー・山本が、何かの契約書にサインをして、札束を受け取っている所を目撃する。

「田代音楽事務所」にいた田代は、大阪の上京して来た有馬(田武謙三)から、ジミー・山本を浪速劇場に是非出して欲しいと頼まれていたが、とてもスケジュールが取れそうもないと断っていた。

そこに牧プロデューサーがやって来て、これはどういうことなんだ!とチラシを田代に突きつける。

そこには、ロカビリーのエースジミー・山本が北海道に演奏旅行すると書いてあるではないか。

それを観た田代は唖然とするが、悔しいけど、抜かれたのよ…とドライに答える。

こちらの公開放送はどうなるんだ?局の方でもう宣伝もしているんだ!仙坂に頭を下げて頼んでもらうんだなと牧が詰め寄ると、嫌よ!と拒否した田代は、そうだ!新人にしよう!と言い出し、新人はあなたよと、側にいた健を指差す。

いきなり指名された健は面食らい、自身ありませんと躊躇するが、一生バンドボーイやってるつもり?と田代は問いかける。

俺、20までやって、勤めるつもりなんだと健が答えると、ステージの英雄になりたくない?と田代は粘る。

すると、金は欲しい。スポーツカーが欲しいんだと健が言うので、簡単よ。20まで勝負しなさいと田代は勧め、一つやってみるか!と健もようやく乗り気になる。

田代は事務員に、すぐに山本の親衛隊を呼び集めてもらい、お膳立ては私がやる。歌手は実力だけじゃダメよ。大衆を乗せなきゃ!あなたは今から、ハリー・健よと言うと、集まって来た親衛隊の娘たちに小銭を大量に渡し、じゃんじゃんハリー・健の名前をあちこちに売り込むのよと命じる。

すぐに理解した親衛隊の娘たちは、それぞれ小銭を掴むと、公衆電話に駆けつけ、あちこちのマスコミに電話を入れ、ハリー・健の名を売り込み始める。

馴染みの新聞社に来た田代は、その芸能デスクにも、親衛隊がハリー・健の名前を電話して来て、そんな奴知らないよ!と怒っている所を目撃し、にんまりする。

ジミー・山本抜かれたね?と記者からからかわれると、ジミーのこと?と空っとぼけ、とっときがあるのよ。10代の英雄を出してみせるわと意味ありげに笑う。

いよいよ連合テレビの中継カメラが入ったロカビリーカーニバルが開催される。

記者席には、田代から呼びだされた各社の記者たちが居並んでいたが、最近、電話作戦で名前を売り込んでいるのもあんただろ?と記者の1人(山本簾)が指摘し、売れるかどうか1杯賭けるかとからかって来る。

ステージでは、寺本圭一や井上ひろしと言った人気歌手が次々に登場し、会場は熱気に包まれていた。

舞台裏で仙坂に会った田代は、新人をあざ笑う仙坂に、売れるかどうか賭けない?と言い出す。

何を賭ける?と乗って来た仙坂に、キス!と言った田代だったが、俺が負けたらどうなると仙坂が聞くと、往復ビンタよと平然と言い切る。

仙坂の方も無表情に、良かろう。後でもらいに行くよと言い、戸田と共に、観客席に向かう。

田代は呼んでおいた親衛隊のメンバーたちに、紙テープを渡し、ステージでは盛大に応援するように頼む。

敢闘賞出ないの?と1人の娘が聞くと、相撲みたいね?敢闘賞でも殊勲賞でも出してあげるわと田代は太鼓判を押したので、親衛隊は大いに盛り上がる。

そこに、花束を持ったマリが、健ちゃんいる?と言いながらやって来たので、分かる?私と健ちゃんはこのステージに命を賭けてるのと田代は言い聞かす。

意味が分からないマリに、親衛隊の娘が、今行ったら、健ちゃん乱れちゃうよ。歌手の邪魔をしない。それが私たちの仁義よと説明したので、すぐに意味を理解したマリは、分かったわ。私も入れて!と親衛隊に合流する。

牧プロデューサーも田代に、これで売れないと、僕は局に対して責任取らないといけないよと話しかけて来る。

すると田代は、賭けない?あなただったら、私を賭けても良いわと答える。

司会者(ミッキー・カーチス)がステージ中央に登場し、次に登場する…、その名は…と紹介しかけると、客席にいたマリが「ハリー・健!」と呼びかける。

遂にギターを抱えた健がステージに登場し、歌い始めると、親衛隊たちも作戦通り、テープを投げつけ応戦しだす。

すると、会場中がその熱気に伝染し、興奮のるつぼと化す。

それを観た牧プロデューサーは、カメラマンにスタートと声をかける。

客席の娘たちは興奮状態になり、椅子を振り上げたり、男の子と踊り始めたりする。

トサ坊、成功だな、おめでとうと、戸田と並んでステージを観ていた仙坂が田代に声をかけると、約束は約束だからと言うなり、田代は仙坂の頬を往復ビンタして立ち去って行く。

さすがの仙坂もむっとして立ち上がろうとするが、横にいた戸田がなだめる。

(熱狂するステージの様子を、映画カメラが回転するように写す)

ロバビリーの新星 爆弾デビュー!と新聞が書き立てる。

次々とヒット作を出す健は、バラードも歌うようになって来た。

テレビ塔のイメージカット

ハリー・健にハイティーン熱狂!マスコミの記事も増えて行く。

念願のスポーツカーを買った健は、マリを乗せドライブをしていた。

マリが、マスコット人形をフロントガラスにつけたので、それは何だい?と健が聞くと、良いことあるようにねとマリは微笑みかける。

ハリーの時間だ!とマリがラジオのスイッチを入れると、健の歌う歌が聞こえて来る。

青木玩具製作所では、ラジオのロカビリーアワーの放送を聞いていた隆吉が、健もすっかり有名になったねと母親のタネに言っていた。

するとタネは、有名になっても長続きしないからねなどと謙遜し、それより、おめでとう!工場の娘さんのお婿さんになるんだって?親父さんが言うんだから間違いないよと隆吉に言う。

その頃、スポーツカーに乗っていたマリは、このままどっかに行きましょうよと誘って来るが、ダメだ、今日は会う人がいるんだと健が言うので、分かった、女でしょう?誰?とマリは食い下がる。

おふくろさと健が答えたので、マリは承知抜けする。

家の近くまで来たとき、リヤカーを引いていた隆吉を見かけたので、健は、隆ちゃん!と声をかけるが、隆吉は無視して歩き続ける。

マリを家の前で降ろした健は、走って隆吉を追って行く。

幼い頃から良く遊んだ水門の所で隆吉と2人きりになった健は、隆ちゃん、どうしたんだよ?何だか、怒ってるみたいだ…と問いかける。

母さん可哀想だよ、何故一緒に暮らさないんだと隆吉が聞いて来たので、そんなことか、アパート借りて一緒に住もうと誘ったんだけど来てくれないんだ。隆ちゃんだって来てくれないじゃないかと健は言う。

身分が違うよ…と隆吉すねたように答えたので、何だか父ちゃん坊やみたいだなと健はからかう。

さっき、車にマリも乗っていたよなどと疑うように言う隆吉に、途中で見かけたんで送って来ただけだよ。友達甲斐がないな。学生時代から僕たちタイアップして来たじゃないか。喧嘩は俺、試験は隆ちゃんってと健はなだめようとする。

昔は楽しかったな〜などと隆吉が言うので、今だって楽しいさ!やるか!と誘った健は、隆吉と相撲ごっこをし、草原に転がると、互いに笑いあうのだった。

「田代音楽事務所」に、また、大阪から有馬がやって来ていた。

今回は、ハリー・健を出演させてくれと言う依頼だった。

すると、Q坊と田代から呼ばれている見かけない坊やが歌を歌いながら事務所内をうろついていたので、誰ですねん?と有馬は聞く。

新しく来たバンドボーイよと田代は教える。

結構いけそうですなと目を付けたような有馬だったが、あの子を使います?と田代がからかうと、ハリー・健やないと商売になりまへんと頭を下げて来る。

マリは自宅で、ロカビリーのレコードを聴いていたが、何でこんなものを聴いている!キ○ガイ沙汰だ!などと父親の源太郎が叱りつけて来たので、お父さんなんかにロカビリーなんか分かりゃしないわよ!とマリは膨れる。

ハリー・健はステージで、新しいヒット曲「黒い花びら」を歌っていた。

舞台袖では、バンドボーイのQ坊(坂本九)が嬉しそうにその歌を聴いていた。

アパートの自室に戻ってソファに小塩降ろした健は、背後から飛び出して来たマリに気づき驚く。

どうやって入ったんだ?と聞くと、管理人に入れてもらったと言う。

早く帰らないと!と健は追い出そうとするが、マリは、嫌!踊ってくれないと帰らないとわがままを言い出す。

帰りなよ!と健は追い出そうとするが、マリはますます意地になり、嫌、帰らない!帰りたくないの!と抵抗し、ソファの上でもみ合う形になる。

抱きついて来ようとするマリを押し返していた健だったが、いつしか抵抗するのをやめ、互いにじっと見つめあうと、自然に唇を重ねあう。

その時、お邪魔だったようですなと言いながら入って来たのは戸田だった。

仙坂の事務所に連れて行かれた健は、自分の所へ来ないかと言う誘いを受けるが、あっさり断る。

すると、仙坂は、駆け引きが巧くなったな。ドライなら、もっと割り切れよ。俺に任せりゃ、もっと売れるようにさせてやると言う。

ドライだとか、勝手に決めつけないでくれ!と言いながら、立ち上がり、迫って来た戸田の腕をひねった健は、その場から立ち去る。

翌日、健とマリに熱愛発覚という記事が新聞に載る。

「田代音楽事務所」には取材申し込みの電話がひっきりなしにかかって来るようになり、呆れた田代は健を呼んで事実確認をする。

すると、健は、でたらめだと否定した後、それを書いたの知ってます。仙坂ですよ。俺を山本のように引き抜こうとして来たので断った腹いせですよと言う。

そんな事務所内で、のんきに歌っているQ坊を、田代はうるさいよ!と叱る。

その頃、工場を出ようとしたマリを、隆吉が止めていた。

お父さんに頼まれて見張っているの?とマリは不機嫌になるが、隆吉は違うよと否定する。

一方、アパートへ戻って来た健を待ち受けていたのは、マリの父親源太郎だった。

あの記事が載った新聞を突きつけてきながら、娘をたぶらかすのは止めてくれ!と怒気も露に迫って来る。

でたらめですよと、記事を否定しようとした健だったが、愚連隊め!害虫と同じだなどと源太郎は罵倒して来る。l

さすがに切れた健が、俺たちの生き方、大人に分かってたまるか!と怒鳴り返すと、どうしても手を引かんのか?と源太郎の方も興奮する。

その後、バーでやけ酒を飲んでいる健は、どこから探し当てたのか、やって来た記者からしつこく新聞記事のことを聞かれたので、怒って帰ってしまう。

それを見送った記者は、奴さん、随分荒れてるぜとからかう。

アパートに戻ってみると、母親のタネが来ており、この親不孝もの!と怒鳴りつけて来る。

あれはでたらめだよと健が否定すると、新聞が噓を書くか!今まで母さん、人から後ろ指を指されれたことはなかったんだとトキは怒る。

記事は噓だけど、マリを好きになったのは本当だと健が打ち明けると、良くもそんなことが言えるな!とますます逆上したトキは、工場の親父さんは、隆吉さんを養子に迎えることに決まっているんだぞ!と教える。

それを聞いた健は愕然としながらも、そうか…、そうだったのか…と納得する。

その時、仙崎から電話がかかって来て、今ここに、マリが来ている。新聞記事の謝罪記事を載せろと言って来たんだが、条件次第では飲まないこともないと意味ありげに言って来る。

急いで駐車場のスポツカーの元に向かった健だったが、そこにスパナを手にした隆吉が待ち構えていたので驚く。

俺はどうせ日給200円の職工さ。友達の押売は止めてくれ!俺は諦めているんだなどとひがみっぽく隆吉が言うので、今マリが芸能ブローカーの所に軟禁されているんだと知らせた健は、驚いた隆吉を一緒に乗せ、車を走らせる。

隆ちゃん、お前はバカだぜ。俺に向かって来たみたいに、何でマリちゃんに向かわないんだ。マリちゃん、何も知らないんだぜと健は隆吉は諭す。

やがて、仙崎の店の前に来た健は、先に入ろうとした隆吉を止め、奴は俺が目的なんだ。昔から、喧嘩は俺の受け持ちだったぜ。良いな!来るんじゃないぞと言い聞かし、1人で入って行く。

待ってたぜ、この前の話どうした?と、事務所内の椅子に座った戸田が、薄笑いを浮かべて聞いて来る。

牛蒡や大根じゃあるまいし、そんなに簡単に引き抜かれてたまるか!と答えた健は、向かって来た戸田や三崎やその他の子分(釜范ひろし)たちと殴り合いを始める。

最初は優勢だった状況も多勢に無勢、徐々にやられ始めた健だったが、気がつくと、あれほど来るなと念を押していた隆吉が喧嘩に加わっているではないか。

マリちゃんは、君に渡したぜ!と隆吉に託した健は、仙崎も殴り倒す。

その後、隆吉とマリを乗せ、スポーツカーで逃げ出した健は、工場の近くに来ると、降りろよと2人に命じ、新聞記事はでたらめだ。君とマリちゃんの為に言ってるんだ。こいつは、君のために俺をぶん殴ろうとしたんだ。マリちゃん、これから先、間違っても、俺のようなマスコミの人間を相手にするんじゃないぞと言い残し、車を走らせる。

夜の道路をひた走っていた健には、自分のヒット曲「黒い花びら」が流れていた。

途中で、フロントガラスのマリがつけてくれた人形を取ると、別れを告げるように外に放り投げる。

その直後、前方から来たトラックと正面衝突しそうになったのに気づき、ハンドルを切るが、壁にぶつかってしまう。

マリが、良いことがあるようにとの願いを込めていた人形がなくなかったからかもしれなかった。

手術が続いている病室の前で案じていた田代は、思い切って記者たちの前に出て来ると、命は助かるそうです。でもステージには立てないかもしれませんと伝える。

事務所に戻って来た田代は、エースを交代して、藤本九!とQ坊に命じる。

又前のように親衛隊を呼ぶと、じゃんじゃん売り込むのよと宣伝を頼む。

彼女たちは、又しても外へと飛び出して行くが、その時、彼女たちは無意識に、ハリー・健のポスターを踏みつけていく。

ステージでは、新しい英雄、藤本九が歌っていた。

事務所では、1人の娘が、床に落ちていたハリー・健のポスターをそっと拾い上げ、大切そうに抱えて外へ出て行く。

そして、ポスターの健の唇にそっと自分の唇を重ねると、風が吹く無人の通りをどこまでも歩いて行くのだった。