アチャコ、清川虹子主演の人情もので、上映時間61分と言う中編作品。
松竹新喜劇の映画化らしく、泣き笑いと言うより、泣きの要素の方が勝っているような内容になっている。
東宝系の宝塚映画が松竹新喜劇を映画化すると言うのもちょっと奇妙な気がしないでもないが、宝塚映画と言うのは、あくまでも、東宝と配給契約を結んでいた独立プロのようなものだったらしいので、別に松竹とはライバル同士と言う事もなかったのかもしれない。
清川虹子の方はシリアスな演技も良く知られている人だが、アチャコのシリアス演技はちょっと珍しい。
特に、後半は完全な二枚目演技と言って良い。
話のポイントは、アチャコ夫婦の隣に住む新婚夫婦の嫁民子の存在だろう。
クライマックスの見所は、一見、静江と言う他人の娘が、自分たちの実子ではないかと悩む所だが、同時に、その前から何事かを打ち明けたがっていた民子が打ち明ける話の内容が本当かどうかと言う事だろう。
つまり、民子の方こそ、アチャコ夫婦の実子ではないのかと観客に期待させる演出になっているのだ。
静江の方は、あっさり人違いと知り落胆する夫婦だが、民子の方は、結局分からずじまいと言う演出が巧い。
民子が打ち明けた話は、はたして噓か本当か?
リドルストーリーのような洒落たエンディングなのだ。
この曖昧さを生み出すため、冒頭での須藤との夫婦喧嘩で、民子は良く嘘をつく癖があると言う事が明かされている。
この伏線があるために、民子はいつものように、アチャコ夫婦を喜ばせるために噓を思いついたとも考えられるし、一方で、実は本当の事を打ち明けてみたと解釈する事も出来る。
夢は夢のままの方が良いと言うこの物語のテーマが、観客の想像力を刺激するようになっている。
その民子を演じている藤間紫の愛らしさ。
別に見た目が愛らしいと言うより、無邪気なキャラクターそのものが愛らしいのだ。
後に、東映作品で良く観かけるようになる沢村宗之助が出ていたり、出番は少なめながら、とぼけたおかしさを出している益田喜頓の魅力も楽しめる作品になっている。
ちなみに、劇中で出て来る「ますらを派出夫」と言うのは、当時人気だった秋好馨原作の新聞マンガ「ますらを派出夫会」に登場する男の派遣お手伝いさんみたいなもので、宝塚映画同様、東宝系だった東京映画で、同年実写化されている。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼ |
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1956年、宝塚映画、館直志「たそがれの虹」原作、若尾徳平脚色、青柳信雄監督作品。 沿線を走る電車が到着したのは、鶴ヶ池駅 改札の側で降りて来る客を待っていたのは、新婚の民子(藤間紫) その民子が待ち受けていた夫の須藤(本郷秀雄)が改札を抜け、新妻を見つけると何しに来たんやなどと呆れる。 民子はちょっと近くまで来ただけ等とごまかすが、そんな2人が駅前に出ると、交番に人だかりがしているので、何事かと野次馬に聞くと、山田さんちの子供がさらわれたらしいと言う。 それを聞いた民子は、変やな?あの家に子供いないはずなのに?と首を傾げながらも覗き込む。 巡査(立原博)に事情を説明していたのは、須藤と民子が住む家の隣に住む関東炊き屋の主人山田市太郎(花菱アチャコ)だった。 生まれたばかりでまだ3月しか経ってないのに、今朝いなくなったのに気づいた。女房がえらく泣いているなどと言うので、人間1人いなくなった言うたら偉い事やでと言いながら、巡査が本署へ電話をしようとすると、人間やあらへん。犬の子と市太郎。人間の子やと思うたんわ、あんたの邪推やなどと言い出す。 犬の子がいなくなったのを一々警察に言いに来られたら、警官何人おってもたりまへんわ!と巡査が叱ると、民主主義の時代になったんで、警察で何とかなるんやないかと思って…と市太郎は言い訳する。 犬やったら、鎖で繋ぐとかしとけば良いじゃないかと巡査が指摘すると、我が子同様の犬の子を鎖なんかに繋げますかいな等と言いながら、交番を出た市太郎だったが、野次馬の中に若い娘を見つけると、あんた、おいくつですか?と聞き、20歳と聞くと、おへその横にほくろありませんか?等と聞くので、さすがに見かねた須藤が声をかけ、一緒に家に帰ることにする。 それを見送った野次馬たちは、陽気のせいでおかしいのと違うか?などと呆れて帰る。 家の前に来ると、子供たちが、おへそのおっさんや!とはやし立てる。 見つけたら褒美やるでと市太郎が言うと、子供たちは皆我勝ちに走り去って行く。 関東焚き、市ちゃんと染め抜かれたのれんが掛かった自宅の中に帰って来た市太郎は、関東炊きの準備をしていた女房のおちか(清川虹子)から、どないやった?と聞かれるが、あかんかったと答える。 おまわりさんも、今は公僕言う時代やとおちかはムキになるが、犬の子やったら、丸山の所でもらえるやないかと市太郎は慰める。 その時、庭先に、おへその近くにほくろのある子見つけた!と言いながら子供たちが集まって来る。 どこにいるんや?と市太郎が聞くと、この子や?、見せてやりと言うと、1人の女の子がスカートをまくって、おへその横にあるほくろを見せる。 探している20歳の子ではないと知った市太郎だったが、相手が子供だけに怒るに怒れず、おちかに言って、串に刺したおでんネタを子供らに1本ずつ渡させる。 子供たちが去った後、今度は、隣の家から騒がしい声が聞こえて来たので、何事かと飛び出てみると、須藤と民子が喧嘩をしていた。 どうしたんや?太陽族みたいな喧嘩して?と訳を聞くと、子供ないのは私のせいや、この人言うんですと民子が言うと、須藤は、これと付き合うてる時、腹がふくれて来た言うんで結婚したんですが、ちっともお腹大きくならん。それ噓やったんですと呆れたように説明する。 そう言わないと、結婚してくれないと思うたんやと民子が弁解する。 この間から、また出来たらしい言うので、これのすること全部わてがやってやるようになったんです。まるで「ますらを派出夫」やねんと須藤が怒ると、民子は急にしおらしくなって、ごめんなさいと言いながら須藤に抱きつく。 それを観ていた市太郎は、あほらしゅうて観てられんわ!喧嘩する暇あったら、早う子供作りなはれ。子供出来たら喧嘩所やないようになるでとおちかも助言する。 その夜、鶴ヶ池駅前には、関東炊き屋が屋台を出していた。 市太郎は、丸山の家に犬の子をもらいに行っていたが、その間、へその横にほくろのある今年20の娘を探していると言う話を聞いた客が、当てにならんなと同情していると、モク拾いの子供がバケツに水を汲んで来る。 こんな子供に水汲まして来たら汚いなと言う客に。これは洗い水で、食べる方には使うていまへんと断ったおちかが、その子へのお礼に、客の吸い殻取っておいたでと言いながら渡してやると、ひかりやピースないな…と子供(野路井大)はがっかりした様子。 家の客なんて、この不景気で吸うてる煙草、「いこい」か「しんせい」やとおちかは笑い、客は悔しそうに煙草をくわえる。 そこに駅員がやって来て、待合室うろついたらあかんと子供に注意し、売店でもちょこちょこ取られてるんやとおちかに教え、ついでに弁当箱におでん詰めてくれと差し出す。 子供が去り、駅員は75円の料金を、明日まで借りとくわと言い残して駅へと戻る。 そこに市太郎が戻って来て、犬よりも人間の子を生んだらどうや。トンカツの佐吉の子を1人もらわへんか言われた。明日の朝連れて来るそうやと報告する。 その会話を聞いていた客は、子供なら食べるがなと言い出したので、あんた人の子食べますか?と市太郎が驚くと、魚の子やと言い、料金200円置いて帰って行く。 帰宅した市太郎は、今、こんなに子供欲しいんやったら、20年前惜しい事したな…と昔を回想しだす。 (回想)とあるベンチに並んで腰掛けていたおちかは、赤ん坊に乳をふくませながら、これが見納めやからな…と若き日の市太郎に語りかけていた。 この子がいると、住み込みで働く事できん。あんたの養生代も掛かるし…とおちかが言うと、コホコホ咳をしながら、何でこない病気になったんやろ?死んだ方がましやと市太郎は呟く。 当時、市太郎は胸を病んでいたらしい。 そのために、子供が育てられない2人は、産婆に頼んで、子供を人に渡す事にしたのだった。 産婆さんは、こっちゃの名前も、先方さんの名も教えんそうや。先方は良いうちらしいよとおちかが教えると、こんな甲斐性のないお父ちゃんを堪忍やで…と赤ん坊に言いながら、その子が寝たので、2人はそっとベンチを立ち上がり、産婆の所へ向かう。 (回想明け)すぐ後に出来る思うたけど、出来へんのは天罰やで…。そやけど、近いうちに会えるような気がするわ。でも、おへその横にほくろがあると言うだけではな…とおちかは寂し気に言う。 そんなおちかに、夢でもええやないか。20歳になっているさかい、良い娘になっているはずやと市太郎は慰める。 その夜、客が屋台に連れて来た若い女は、うち、関東炊き嫌いやと言いだす。 仕方なく、店を出ようとした客は、この子、へその横にほくろあるんやで…と言い残して行くが、それを聞いたおちかが追いかけようとするのを止めた市太郎が、いくらほくろがあったって、あんな娘と違う!ときっぱり言う。 翌日、庭先に来た民子が、市太郎に何か話そうとモジモジしているので、須藤はんと喧嘩でもしたんか?と聞くと、そこに、佐吉(益田喜頓)を連れた丸山(寺島雄作)がやって来たので、又いつか話すわと言って、民子は立ち去る。 うちの子をもらってくれるそうだなと佐吉が嬉しそうにおちかに話しかけると、うちの人が50で、わてが47、子供大きうなったら、2人とも70近くになってるがな…とおちかが乗り気ではない風に答えると、犬は育てても人間にはなりまへんでと丸山が口を出し、そらそうや、犬は肩揉んだりしてくれんと市太郎も同意する。 佐吉はんの子やったら、佐吉はんに似ているやろなと意味ありげにおちかが言うと、愛嬌あるがな。まあでも、確かに出来のええ顔やないななどと丸山も同意する。 しかし、市太郎は、せこい親より、少し抜けてる親の方がましやと口を添えて来たので、佐吉は笑いかけて悩む。 奥さんと、これはと言う子供決めたら良いと丸山が佐吉に言うと、おちかは明日の話にしましょうかと話を延ばして来たので、良いの、よってきますわと言い残して佐吉は丸山と一緒に帰って行く。 後に残った市太郎は、もらう腹決めよか?とおちかに話しかけ、2人は笑いあうのだった。 その夜、駅前の屋台を覗きに来たのは民子だったので、さっきの話は?と市太郎が話を振るが、民子は客がいるのに気づくと、後でと言って、駅に向かう。 そこには、赤ん坊を抱いた若い娘(環三千世)がおり、ちょっと電話かけてきますから、それまでこの子預かっといてくれませんかと民子に頼む。 民子は、断る訳にも行かず、その赤ん坊を抱いてやる。 すると、預けた娘は、売店のおばさんにも、同じように電話をかけるので預かって下さいと言い残し、バッグを店の横に置かせてもらうと、近くの公衆電話に入るが、民子が抱いている赤ん坊の方を気にしながら涙ぐむと、そのまま電話もかけずに公衆電話を後にしてどこかへ姿を消す。 やがて、須藤が改札口を出て来て赤ん坊を抱いた民子を見つけ、どこの子や?と聞く。 私の子や、もらい子したのよ。可愛いでしょうと民子は冗談を言って、須藤を脅かすが、冗談と明かす。 しかし、預かったお母さんが戻って来ないので、遅いな…と不安になって来る。 売店のおばさんに聞いても知らないと言うので、公衆電話を覗きに行くと誰もいない事が分かる。 困っちゃったな…、民子は赤ん坊を抱いて途方に暮れる。 市太郎たちの屋台に駅員が女が逃げて来なかったか?と聞いて来たので、何事ですか?とおちかが聞くと、捨て子やと駅員は言う。 駅では、ミルクの哺乳瓶が入ったバッグを手にした売店のおばさんと民子と須藤が、互いに言い合いをしており、市太郎とおちかが近づいて来ると、捨て子ですがな…と、一緒にその場に残っていた須藤が教える。 赤ん坊を預けた娘は売店のおばさんの知っている女と思い込んでいた民子は、良いわよ、良いわよと須藤に対してすね、その場を駅員の馬場(石田茂樹)らと共に囲んでいた駅長(沢村宗之助)に、お渡ししますよってと言いながら赤ん坊を渡す。 しかし、受け取った駅長も困惑していたので、偉い災難やな…と同情した市太郎は、うちで預かってやったらどうや?とおちかに話しかける。 すると、おちかも、民子はん、気の毒やと言い、赤ん坊を抱いてやる。 駅長はほっとして、明日警察に届けますよって、何ぶん宜しゅうお願いしますと市太郎夫婦に頭を下げる。 家に帰って、売店のおばさんから預かったバッグの中味を調べていた市太郎は、書き置きを見つけたので読んでみる。 そこには、ある男と恋仲になったが、その人は九州へ行くと行った切り行方不明になった。 やがて、身体の変調に気づき、子供が出来た事を知ったが、今さら親に知らせる訳にも行かず、黙ってこの子を生んだ。私は全て覚悟して、この子を渡します…と書かれてあった。 それを読んだ市太郎は、死ぬ気らしかったな…と嘆息する。 翌朝、赤ん坊伊ウを抱いた女房のおすぎ(汐風享子)を連れ、市太郎の住まいにやって来た佐吉は、ここの夫婦、小銭持ってる言うさかいななどと小声で教えていたが、表度が閉まったまま開かないので不思議がる。 裏へ廻ってみると、市太郎が1人でおしめを干しているではないか。 気が早いな。赤ん坊の前におしめかと佐吉が驚くと、市太郎は晴れ晴れとした顔つきで、もう子供いらんのや。子供出来たんやと言い出す。 それを聞いたおすぎは、人を嬲らはったらいかんよと怒りだし、佐吉も、市はん、どないしてくれるんやと、女房の手前強気に出る。 関東炊きの残ったんあるんで持って行ってくれと市太郎が言うと、佐吉は喜び、子供の押売はできへんでなどとおすぎに言うが、赤ん坊を抱えて来たおすぎは不機嫌なまま。 そこに、赤ん坊を抱いたおちかが戻って来たので、その赤ん坊の顔を見た佐吉は、なるほど、こっちの方がよっぽどええわと、本音を言ってしまう。 おすぎは、そんなふがいない佐吉を連れぷりぷりしながら帰って行く。 問題が片付いた市太郎は、今日は天気もええし、この子連れて動物園でも行こか?と言い出す。 おちかも嬉しくなり、2人して赤ん坊を連れ、駅に向かうと、改札係に、駅長はんに言うてくれ。この子はうちの子になったとと言い残す。 動物園では、シロクマ、ゾウ、猿、シマウマ、ペンギン等を見回った後、食堂で赤ん坊をあやす市太郎とおちかの笑顔は絶えなかった。 動物園を出た2人は、かつて自分たちの赤ん坊と分かれた思い出のベンチの所に来るが、もう哀しくならなかった。 鶴ヶ池駅に戻って来た2人に、改札係が駅長が話があると言っていると伝える。 駅長室に行くと、そこには駅長と須藤夫妻がおり、駅長がすまなそうに言うには、警察に行ったら、この子をあんたの所にやるわけにはいかないそうや。捨て子は一旦、府の保護所に預け、籍を入れて、親になる者の身元調べを調べてからでないと行けないらしい。 子供を食いもんにする親がいるのであかんと言う事や。落とし物を勝手に取ったら、拾得物隠匿罪と言う罪になるんやと須藤も説明するが、それを聞いたおちかは、だったら、煙草の吸い殻を拾ったら罪になるのか?と屁理屈を言いだしたので、生き物を拾ったら届けなあかんのやと辛抱強く言い聞かそうとする。 しかし市太郎の方も、この子の母親の置き手紙には、この赤ん坊は人の情にすがりますと言うてたさかい、わしらが育てるんやと息巻いて、おちか共々、赤ん坊を抱いたまま帰ってしまう。 その様子を観ていた駅長は、こりゃ、一筋縄ではいかんねとため息をつく。 それまで黙ってその場で聞いていた民子も、私らには、おじさんから赤ん坊を取り上げる権利はないはずよと市太郎夫婦に同情する。 駅では強気だったおちかだったが、家に戻って来ると、警察が来て、規則や言われたらどないしょう…と弱音を吐く。 そこにやって来た民子が、夕べ子供を捨てた母親とその両親が来たのよと知らせる。 それを聞いた市太郎は、とんだぬか喜びやったな…とため息をつき、お母ちゃんのお乳にしがみついて、うんと文句を言うんやでと赤ん坊に話しかける。 そこへ、須藤が、赤ん坊の母親静江と、その父親佐々木(丘寵児)、母親やえ(吉川雅恵)を案内して市太郎の家にやって来る。 3人を家にあげた市太郎とおちかは、赤ん坊に坊や!と呼びかけた静江に、構いまへん。抱いておやりなはれと言いながら素直に渡す。 佐々木は、赤ん坊を抱きしめる娘静江を前に、このたびはお詫びともお礼とも付かない事で…と恐縮して、書き置き読んだら、早まった事でもするんやないかと心配しとりましたと言う市太郎に、私どもの親戚が見つけなかったら、取り返しのつかない事になっていたかもしれませんと言う。 親戚が問いつめました所、事の次第を知り、駆けつけた次第でして…。島と言う青年は、この子が妊った事を知らなかったようで、妊娠を知ったとたん、帰って来て是非妻に欲しいと言うので、縁談あり、すぐ帰れと知らせて呼び戻しましたと言う。 ここ子や孫に万一の事があったら、私ら死んだ方がましですとやえも頭を下げる。 話を聞き終えた市太郎は、その子を育て損のうて、空気が抜けたようですと苦笑して見せる。 しまと言う青年を駅に待たせてあるのでと言い、やえと静江と赤ん坊は先に席を立つ。 その場に残って話を聞いていた民子は、おちかはんも、拍子抜けしたでしょう?と案ずる。 後に残った佐々木が、謝礼金を取り出して市太郎に差し出そうとすると、止めて下さい。金のためにやったんじゃない!と市太郎は怒りだしたので、それでは…と金を渡すのを諦めた佐々木だったが、愛情は血よりも濃いと申しますが、血を分けてない子への愛情は薄かったのではないかと今回しみじみ悟りましたと言い出したbので、それを聞いた市太郎の顔色が変わる。 実のお子さんではないのですか?と聞くと、もらった子ですと言うではないか。 これまで、あの子のやりたいことは何でもやらしてやったつもりでしたが…と言う佐々木に、つかぬ事をお聞きしますが、娘さんのおへその炭にはオh黒がおまへんか?と市太郎は聞いてみる。 すると、佐々木は不思議そうに、ありますが…?と答えるではないか。 お嬢はん、おいくつですと聞くと、20ですと言う。 赤ん坊を世話した相手と言うのは?と聞くと、大島と言う産婆ですと言うので、今度はおちかが目の色を変える。 しかし、身を乗り出そうとしたおちかを、しっ!何をごちゃごちゃ言うてんのや!と市太郎は制する。 佐々木が家を出て行くと、雷鳴が聞こえて来る。 傘を持って家を出ようとするおちかに、おちか!どこ行くねん?聞いてどないするねん?と問いただす市太郎。 親と名乗ります!と言うおちかに、軽はずみなことを言うな!と市太郎は叱りつける。 民子が不思議そうに事情を聞くので、わてらが赤ん坊を渡したのは、大島と言う産婆はんですとおちかは打ち明ける。 これ以上、育ての親心配させてどないするねん!と説得する市太郎。 話を聞いた民子も、こんな話、母ものの映画の主人公やないの!と同情する。 私も心の中では泣いていますのやと打ち明ける市太郎は、聞き正して、違うと言われたらどないするんや?聞かずに置いたら、あの静江はんと言う娘が、わてらの娘かもしれんと思い、心の中に夢があるやないか。 その時、外から、雨が降りだした音が響いて来る。 女親の気持ち、分かるものか!と言い残したおちかが、傘を持って外に飛び出して行く。 おばさん、駈けて行ったわね〜…と、まだ市太郎の家の中にいた民子は言い、おじさん、私ね、おへその横にほくろがあるの…と打ち明ける。 いつからや?と市太郎が聞くと、生まれたときから…と言いかけ、去年からと言い直す民子。 それを聞いた市太郎は、なんじゃい!と呆れる。 雨に降られ、先を急いでいた佐々木に、傘を持ったやえが戻って来る。 そこに追いついたおちかは、何か?と怪訝そうに振り向いた夫婦に、お聞きしたい事があったさかい…と言い訳し、大島と言う人は、40くらいの細面の人でしたか?赤ん坊を渡した日、桜の鳥模様の着物を着ていまへんでしたかと聞いてみる。 しかし、やえは、雲に千羽鶴でしたと答えるが、その子の両親、わてらです!と思い切っておちかは打ち明ける。 食べるに困って、大島はんに話したら…、その人、大阪瓦町に住んでましたやろ?とおちかが重ねて聞くと、佐々木は、良く似たような話があるもんだが、残念ながら私たちは大阪に住んだ事はない。石油の仕事をしていた時住んでいた、新潟の大町通りの産婆でした。他人のそら似で、全然人が違うと断定する。 それを聞いたおちかは、悄然とし、失礼しましたと言うしかなかった。 夕立もやみ、佐々木夫妻が立ち去った後も、一人呆然と立ち尽くしていたおちかの元にやって来た市太郎がどうやったと聞くと、大島言うても、新潟の大島や…と答える。 世の中には、おへその横にほくろある女多いな…と市太郎は呟く。 聞かなんだら良かった…、何やら、美しい夢を失うたような気がする…とおちかがしょげているので、きれいな空や!と言って市太郎は上を見上げる。 うちがアホやった…、あんなきれいな空のような夢を…と言っておちかは泣き始める。 そこに、おばさん!と呼びかけながら、民子が近づいて来る。 今度こそ本当に…と、民子は妊娠した事を2人に打ち明ける。 わての孫みたいなもんや!と喜んだ市太郎とおちかは、民子と手を取り合って帰ることにする。 そんな3人の横を元気な子供たちがすれ違って行く。 達者な子、生むんやで…、市太郎は優しく民子に語りかけていた。 |
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