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新座頭市物語 折れた杖

シリーズ24作目

大映から勝プロダクションに製作が代わっており、監督も勝新太郎が努めている。

随所に勝新監督らしいこだわりやアイデアは感じ、まあ、何となくまとまってはいるものの、大映版を見慣れているものからすると、かなり物足りなさを感じないではない作品になっている。

海辺の町が舞台と言うことからして想像できるが、全体的に低予算で、セット等の小規模さなどもあり、こじんまりとした印象が強い。

幼い弟と幸薄い姉との悲劇や知的ハンデがある男の登場等は、ややあざとさを感じないでもないし、悪役も、何人も登場している割にやや迫力不足。

大滝秀治扮する飯岡助五郎など、セリフすら一言もないまま姿を消している。

太地喜和子が、従来のヒロイン役のイメージとかなり違い、欲望むき出しの下衆っぽい女を演じているが、珍しいと言えば珍しいかもしれない。

市の人助けが、実は自分の過失を慰める自己満足にしか過ぎないと錦木が指摘する所等は面白い。

中村嘉葎雄演じる丑松も、小ずるい若者と言う印象が強く、あまり魅力的なキャラクターになっていないようにも思える。

ひょっとすると、人間、きれいなのは、正吉や楓等子供のうちだけで、大人になるに吊れ、俗っぽくなって薄汚れて行くものなのだと言うことかもしれない。

正直、この作品ではまだ、勝新監督のセンスが十二分には開花していないように感じられる。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1972年、勝プロ、子母沢寛原作、犬塚稔脚本、勝新太郎監督作品。

無音の黒字に白文字でスタッフ、キャストロール

三味線の音が重なる中、隙間だらけの吊り橋を危なっかしく渡る市の姿を真下から撮っている。

市とは反対側から三味線を弾きながら渡って来たのは、1人の老婆(伏見直江)だった。

すれ違い様、その老婆は市に、おメ○ラさん、色んな穴が開いてますから気をつけて行くのよと声をかけて来る。

どこまで行きなさるの?と聞いて来たので、どこまで行くようになりますか、気ままな旅なもので…と市が答えると、私は娘に会いに、調子の観音浦まで行く所なんだが、観音裏って所はお女郎屋が何軒もあるんだってね?扇谷さんと言うのをご存知ですか?と老婆は聞いて来る。

メ○ラには縁のない所ですから…と市が苦笑すると、老婆は、そのまま分かれて歩き始めるが、その時、市が巾着袋から小銭を出し、老婆を呼び止める。

恵んでくださるんで?ありがたくおもらいしますよ…と老婆は、市の手のひらに手を伸ばそうとするが、次の瞬間、老婆は足を滑らせ、橋にしがみついていたが、すぐに力尽き、落下して行く。

橋には三味線だけが残っていた。

市は、橋が途中で崩れた場所に突き当たると、そこで立ち小便したりしながら、やがて、漁師の網が干してある銚子の海辺にやって来る。

漁師たちが首を吊った漁師の死体を発見したらしく、集まって凝視していた。

その中に1人、知的ハンデがある小男がへらへら笑うながら死体を観ている。

漁師たちが死体を降ろしてやると、今まで黙って死体を観ていた女が、お前さん!死んじゃった!とわめいて降ろされた死体にしがみつく。

タイトル

観音浦の色町にやって来た市は、通りかかりの酔客たちに、扇屋が近くにありませんか?と聞くが、笑っているだけで教えてくれない。

その時、小さな男の子が、一緒に行ってあげるよと市に声をかけて来たので、その子に手を引いてもらい扇屋の前まで連れて来てもらう。

店の中では、女将お浜(春川ますみ)が、何かにいら立ったように、店の者たちを叱り飛ばしていた。

市は、店の男に、ここで奉公している娘の中に、母親が三味線弾きの人を探しているんですが…と声をかけるが、その娘の名前も年も分からないと知ると、男は、からかうのか!と市を店の外に押し出そうとするが、小銭を掴ませると、急に態度を変え、客として丁寧に扱いだす。

市は、三味線を見せると、男は、皮が張ってある胴の部分の裏側に「のぶ」と書いてあるのに気づき教えると、それがどうやらおふくろさんの名前らしいことが分かる。

しかし、扇屋には女郎だけでも17人、女と名のつく者は全部で30人もいるんだと男は、その1人1人に確認する面倒臭さを強調するが、金を受け取った手前、渋々承知し、その間、市を布団部屋で待っていてくれと案内する。

ここは、どこ言っても、同じような匂いだなどとぼやきながら市は待っていたが、その時、人の気配がしたので、布団の奥に身を隠すと、中に市がいるとは知らない様子の若い男女が入って来る。

どうやら丑松(中村嘉葎雄)と言う男の方は正規の客ではなく、綿木(太地喜和子)と言う女郎との隠れた逢い引きのようで、その場でいちゃつき始めたので、市は出るに出られず、思わず耳を塞いでしまう。

ことが終わった後、丑松は、ここん所、お前はついてるのよと言いながら驚く錦木に金を渡すと、裏口から帰って行き、錦木の方も、何事もなかったかのように、一足遅れて布団部屋を後にする。

奥から這い出て来た市は、ひでえもの、聞いちまった…とぼやきながらも、こっちも一度死ぬような身になってみてえと呟くと、錦木って言ったな…と、今出て行った女郎の名を思い出す。

扇屋の前で1人ぽつんとしゃがんでいたのは、先ほど市を案内して来た子供だった。

そんな扇屋の店先に、1人の女が連れて来られる。

どうやら足抜けをした女が、捕まって戻って来たらしく、女将のお浜は、年期はもうとうに開けているはずと主張するその女に、お前の身体には借金が残っているんだ!私が嘘をついているとでもお言いかい?と叱りつけると、店の者に、鍵部屋に連れて行くよう命じる。

扇屋の台所で1人洗い物をしていた楓(吉沢京子)は、窓の外から、姉ちゃんと呼ぶ声に気づくと、弟の新吉(小海秦寛)がいることを知り、こんな所へ来ちゃダメよと小声で注意すると、何か小さなものを与えて帰るよう諭す。

新吉は、1人寂し気に帰って行く。

足抜け女を連れ帰って来たヤクザ5人は、お浜から遊んで行ってくれと言われ、便所で小便をしていたが、その背後の廊下を、錦木の部屋に向かう市が通ったことに気づく。

市の首を飯岡に持って行けば、百両になると言う話を聞いていた彼らは緊張する。

部屋に通された市に茶を運んで来たのは楓だった。

年を聞くと、14と言い、身内は弟が1人だと答え下がると、指名した錦木がやって来て、市の姿を観ると、私を見初めてくれたそうだね?と怪訝そうに聞いて来る。

市は、姉さんのおふくろさんは三味線を弾いてなかった回?と聞き、そうだと聞くと、持って来た三味線を観てくれと差し出す。

「のぶ」の字に気づいた錦木が、おっかさんものぶって言うんだけど、知っているの?と聞くと、市は、佐倉の手前で皮に落ちちまって…と申し訳なさそうに事情を話す。

すると錦木は、じゃあ、お前さんが殺したようなもんじゃないか!と市に詰め寄る。

市は、そんな錦木に、お前さんを身請けするにはどのくらいいるんです?と聞く。

ヤクザ5人組は、化粧した不気味な年寄りが挨拶に来たので、このままじゃあ、まともな女にありつけそうにないとぼやきながら、どうする?と市暗殺のことを相談しあう。

頭割りで20両、座頭市たって、ドメ○ラなんだ。何たって百両だからな。滅多にない仕事だと話がまとまる。

市が扇屋を出ると、5人のヤクザたちも密かに後をつけるが、すぐに気づかれ、座頭市と知って、付けて来たさるんで?と市は立ち止まる。

しかし、5人が一言も言い返さないので、オシとメクラじゃ、話にならねえと市は呟き、最初に斬り掛かった亀吉をあっさり斬り殺してしまう。

倒れた亀吉を唖然と観る他の4人。

「賽銭奉納所」と書かれた提灯が立っている海辺の建物。

ふんどし一つになった男が、ヤクザたちにいたぶられながら、中に連れ込まれて行く。

そこは、地元の漁師たちから金を巻き上げる鍵屋万五郎がやっている賭場だった。

そこに1人やって来た市だったが、客の中には、あの丑松も混じっていた。

賭場を仕切っていた猪之吉(藤岡重慶)は、額に蛇の刺青を入れた男だったが、今捕まえて来た男に、かかあはいくつだ?と聞き、40過ぎだと聞くと、金さえ持ってくりゃ証文はいつだって返してやると言い聞かす。

その時、その壺、あっしに降らせて頂きやせんか?と中盆に声をかけたのは市だった。

おめえ、メクラじゃないか?と呆れる中盆に、金は持っておりやすんで…と言いながら3両市が出してみせたので、猪之吉はやらせてやれと言う風に首を振る。

壺を受け取った市が自分の持って来たサイコロを出そうとすると、サイコロの持ち込みはいけねえよと言った中盆は、「1」の目が「万」の字になっているサイコロを2つ手渡す。

市が壺を振って置くと、4の目が出たサイコロが壺の外に飛び出している。

その場にいたみんなはそれに気づくが、笑いを堪えて誰も何も言わない。

背後で観ていた丑松が見かねて何か市に教えようとするが、市はそれを制するように押さえて、急いで壺を開く。

市は負けて1両を差し出すと、今度は5両出して、同じように壺を振って置くが、今度は5の目のサイコロが壺の外に飛び出している。

丑松は、そっと壺を開いて中をのぞき、1だと廻りの皆に教える。

すると、その場にいた全員が丁に賭ける。

猪之吉までもが、丁に3両出すと言い出す。

市が壺を開くと、やっぱり「万」の字の1の目のサイコロが出て来て、「1」「5」で丁の勝ちとなる。

みんなは喜んで金を取ろうと押し寄せるが、市は、博打は有り金全部賭けないと面白くありませんやと言いながら、さらに持っていた小判を全部差し出して、壺を振ると、今度は5と6の目のサイコロが2つとも外に出ている。

それを見た全員は半に賭けると言い出す。

壺を開きかけた市は、その横に落ちていた2個のサイコロを、また、そそっかしい野郎が飛び出しちまって…等と言いながら、外の2つのサイコロを自分の袂にしまい込むと、壺を開ける。

壺の中のサイコロは、「万」の字が入ったサイコロが2つ並んでいた。

1と1の丁である。

市は、賭けられていた大量の金を全部かき集めだす。

猪之吉が、ちょっと待て!今袂に入れたサイコロは何だ?イカサマじゃねえのか?ここをどこだと思ってるんだ!と因縁をつけると、どうせ、小汚ね賭場だと思ってますよと言い返した市は、お客さんたちは、壺の外のサイコロに張ってらしたんですか?そんな博打は聞いたことがないと嘲る。

それを聞いた猪之吉は逆上し、手前の目玉から火を出してもらう!と言い、子分たちをけしかけるが、市が相手をし始めた時、急に、猪之吉の様子が変わり静かにせい!と子分たちを制する。

座頭市!…さんですね?と言いながら入って来たのは、鍵屋万五郎(小池朝雄)だった。

俺が鍵屋万五郎よ。挨拶くらいしていったらどうだい?と市に迫ったので、市は、小判を1枚差し出すと、本の手みやげ代わり。酒でも飲んでおくんなさいと言いながら投げ出す。

子分はあっという間に2つに切り分けられ、半分は柱に刺さり、もう半分は、一緒に付いて来た鍵屋の用心棒らしき男の抜きかけていた刀に突き刺さる。

場が凍り付き、市が黙って賭場から出て行くと、飯岡から回状が廻って来ている。俺に任せておけと鍵屋は、後を追いかけようとした猪之吉を制する。

あれが百両首か…、外に出て座頭市の方を観ながら、用心棒神条常盤(高城丈二)は笑みを浮かべる。

扇屋の部屋に残っていた錦木に、どうだった?メクラは情が濃いらしいからね…と嫌らしそうな顔で聞いたのはお浜。

濃いも何も、まだ何にもしちゃいないのさと錦木は答える。

その後、扇屋に戻って来た市は、女将の部屋に錦木を呼ぶと、お浜に、身請け料はいくらかと聞く。

50両!とお浜が吹っかけると、市は、又の間に挟んでいたずっしり膨らんだ巾着袋を取り出す。

それを観たお浜は急に態度が変わり、証文をと市に言われると、すぐに出して来て渡す。

その年期証文を錦木に見せて確認させた市は、その場で破り捨てる。

浜辺で、楓と久しぶりに一緒にいた新吉は、姉ちゃん、どっか遠い所に行こうよと言うが、楓は、ダメよ、そんなことしたら捕まってひどい目に遭うわ。私だけじゃなく、新ちゃんもよとなだめる。

すると新吉は、大丈夫だよ、海の中に行くんだものと言うので、死んじゃうわよと楓が答えると、死んだら一緒にいられるんだろう?と言うではないか。

楓は、年期が開けたら、又こうして姉ちゃんと毎日会える。後3年の辛抱よ、その時には、おっかさんとおとっつぁんのお墓を建ててあげようねと優しく語りかけるのだった。

一方、浜辺には、あの知的ハンデのある男が女の人形を手にやらへらしながらやって来る。

その姿を見かけたのが、猪之吉と子分たちで、このバカ、色気づきやがって…と言い出すと、子分たちが、良いことしてやるぞと笑いながら一斉にその男を砂浜に押し倒し、ふんどしの中のものをしごきだす。

やがて、男は小便をして子分の顔に掛けてしまったので、逆上した子分たちから袋だたきに遭う。

その浜では、漁師たちの大半が、万五郎一家に巧妙に賭場に誘われ、金を巻き上げられていたため、カタとして船を押さえられていた。

それでは生きて行けないので、時折、こっそり船を出して魚を捕っていたが、そこにやって来た猪之吉たちは、獲ったばかりの魚を踏みつけながら漁師を叱りつける。

その様子を近くからじっと観ている新吉。

扇屋では、お浜にお愛想を言われながら安房屋徳治郎(青山良彦)が、浜が見える部屋に案内されていた。

茶を運んで来た楓は、お浜に命じられて挨拶をする。

猪之吉たちは、勝手に船を出して猟をしていた漁師の船を燃やしていた。

それを扇屋の窓から、火事を観てると生き返るんだ等と言いながら見つめる安房屋。

その部屋に、良い所に帰って来たすったと世辞を言いながらやって来たのが、鍵屋万五郎。

浜では、船を焼かれた漁師が、いくら自分の思いが通らないからって…、船がなくて、おらたちは明日からどうやって暮らして行けば良いんだ!と泣きわめいていた。

蔵の中で屁をこいたようなこと言ってねえで、ドスを抜いたらどうだ!と猪之吉が嘲ると、子分たちが刀を漁師たちの前に数本放り投げる。

その時、猪之吉の額に小石を投げたものがおり、猪之吉がその方に目をやると、近くで観ていた漁師たちの中に混じっていた、正吉が、小石を投げようとして、見つかったので、慌てて小石を口の中に入れて隠した所だった。

正吉に近寄った猪之吉は、頬を押さえて小石を吐き出させると、砂浜に引っ張りだし、刀の鞘で頭を小突き回す。

頭から血を出して倒れている正吉を見かねた漁師たちが、落ちていた刀を拾い振りかざして来るが、待ち構えていた神条常盤が全員その場で斬り捨ててしまう。

それを、倒れたまま見つめる正吉は、お姉ちゃん…と呟く。

そんな凄惨な浜辺を、身請けされた錦木が、市の杖を引っ張って通り過ぎて行く。

扇屋では、万五郎が安房屋から5百両を受け取っていた。

マグロから鯨…、これからは鍵屋の思うがまま。漁師たちもこれまでのボロ舟で捕れる訳がなく、こっちの船で働くしかないと万五郎はうそぶく。

座敷の奥に控えていた楓に目をつけた安房屋は、側に呼び寄せると酌をさせながら、5百両、何に使う?と聞く。

万五郎は、関八州の宗田様に鼻薬を嗅がそうと…と万五郎は笑って答える。

安房屋は、飲み干した盃を楓に渡し、酒を注ぎ始める。

無理に楓に飲まそうとしているのだと気づいた年上の女が、その盃を横から奪って、楓ちゃんはまだ無理なので私が…と飲もうとするが、お浜が突き飛ばして叱りつける。

楓を観た万五郎は、滅多にお目にかからねえシジミだなどと嫌らしい顔になって見つめる。

あばら屋に落ち着いた錦木は、室内で蛍が飛んでいるのを発見する。

市が両手でその蛍を掴んでやり、良い匂いだね…と、私は見えなくても、あんたが良い女だってことは分かるんだと、側にいる錦木のことを褒める。

お前さん、おかみさん、持ったことあるの?と錦木が聞き、市が答えないと、逃げられたの?しつこくしたんだろ?とからかいながら市に抱きついて来る。

しかし、市は、慌てたように、寝なくちゃ、寝なくちゃと呟くと、勝手に布団に横になり、から鼾をかき始める。

その市の顔を間近に凝視ていた錦木だったが、ねえ、寝たの?もう、寝てるか起きてるのか分からないじゃない!と文句を言う。

翌朝、あの知的ハンデの男が自分の股間を触りながら浜にやって来るが、無言で立っていた市の姿を観ると、慌てて逃げて行く。

小屋に残っていた錦木の元へ、どこで聞きつけてみたのか、丑松がやって来て、俺に断りもなしに、身請けされるなんて…と文句を言って来る。

あの銭の中には俺のも入っており、あいつは座頭市って言う、百両もの賞金がかかっているお尋ね者なんだと教える。

お前があいつに取られたと思うと…と丑松が悔しがると、何とも出来てないんだよ。噓だと思うなら試してごらんと錦木は挑発し、自ら丑松に抱かれる。

蝉の鳴き声がうるさい中で抱き合っていると、そこに魚を買ってきた市が戻って来る。

誰かいるのかい?と市が言うと、錦木は慌てて受け取った魚を落としてごまかし、丑松は黙って逃げ去って行く。

賭場にやって来た4人のヤクザから、市暗殺の話を聞いた万五郎は、このまま帰したんじゃ、俺の顔が立たないと言い、ヤクザたちも、黙って帰ったんじゃ、死んだ亀吉の仇打てねえんじゃないかと…、4人で掛かれば、いかな座頭市と言えど、討ち漏らす訳がありませんと強気を装い、4人で出かけようとするが、話を聞いていた神条常盤が、俺もついて行ってやろうと言い出す。

てっきり応援してくれると思い、礼を言ったヤクザたちだったが、お前たちがどうやってやられるか観てやろうと言われると黙り込んでしまう。

万五郎は、あいつらが市を倒せばそれで良し、失敗しても、どうせ市の首は俺が頂戴する…とうそぶいていた。

錦木は、市の自分に対する扱いに不満を感じており、どう言うつもりなんだい?と責めていた。

おふくろさんの分も、人並みに生きてもらおうと…と市が言うと、男も抱いちゃいけないってのかい?と錦木が癇癪を起こしたので、男ぐれえ抱いたって…と市が答えると、目あきの方かい?おメ○ラさんの方かい?と錦木はからかう。

堅気さんと一緒になって…赤ん坊を生んで…と市が言うと、それから?と錦木はつっかかる。

その子が又赤ん坊を生んで…、その子を育てて…と市が続けると、冗談じゃないよ!と錦木は切れる。

おっかさんを殺した罪滅ぼしのためじゃないかい?だったら、私のためじゃなくて、自分自身の気休めのためじゃないか。こっちが迷惑だよ!と錦木は言い返し、店に戻るから…と言い出す。

身請けの金だって、博打で儲けた金だって言うじゃないかと錦木が憎まれ口を叩くと、さすがに市も何も言えなくなってしまう。

市が浜に出かけると、神条常盤と出会う。

市は、その神条が、刀と鞘を両方抜いて斬り掛かって来る幻影を観る。

メクラ、お前の血の色が観たいか?と神条が声をかけると、冗談じゃありません。自分の血が赤いのか黒いのか、観たくても見えませんと答えながら、その神条の横を黙って通り過ぎた市の前に立ちふさがったのが、4人組のヤクザだった。

あっしの方は、お前さんが谷なんの恨みもありませんが…と市が言うと、亀が浮かばれねえや。お前が生きていたんじゃ、俺たちの男が立たないって言うんだ!とヤクザは刀を抜こうとする。

死んでしまうと、何もかも立たねえぞ!と言いながら、一瞬のうちに市は4人を斬り殺す。

次の瞬間、市の額に小束が突き刺さった!…かに見えたが、市が顔の横に構えていた仕込み杖に刺さっていた。

市は無表情に、神条は投げた小束を抜いてその場に棄てると立ち去って行く。

その頃、扇屋では、楓が化粧をされており、横で観ていたお浜が、良いじゃないか、似合ってるよ。錦木の部屋ももらって…とおだてていた。

そして、旦那が犬になれって言ったら、犬になるんだよなどと教える。

その時、楓をお常さんが呼んでいると女が呼びに来たので、下に降りてみると、おつねが新ちゃんがね、死んだんだって、今、知らせがあったんだよと伝える。

それを聞いた楓は、柱に顔を埋め悲観するが、その足で浜に向かい、他の漁師たちの棺桶が運ばれて行く中、1つだけ取り残されていた小さな棺の側に寄る。

蓋を開けて観ると、確かに中に横たわっていたのは新吉で、その手をとって握りしめた楓は、その遺体を抱き上げると、そのまま海の中に進んで行く。

新ちゃん、一緒よ…、そう呟きながら、楓の身体は海の中に沈んで見えなくなった。

その頃、万五郎は丑松から錦木のことを聞き、俺が夫婦にしてやろうじゃないかと切り出していた。

女は五体満足の男が良いだろう。

奴らがたっぷり濡れている所をやるんだ。成功したら50両やろう。女にはお前から話しとけと万五郎は丑松に話す。

その時、飯岡の親分から書状が届いたと知った万五郎が中を読むと、市の首を明日の朝、貸元直々取りに来るそうだぞ!と猪之吉たちに教える。

その後、丑松から、市を誘って1度だけ抱いてくれと頼まれた錦木は、何でお前さんが観ている前で!と困惑するが、それで自由になれると万五郎親分が言ってると言われると断れなかった。

夜、錦木は無理に市に酒の勧め、強引に抱きついていた。

外は雷が鳴り、雨が降って来るが、錦木が覆いかぶさっている市の様子を、近くの物陰から丑松がじっと見つめていた。

そのあばら屋に、刀を抜いた猪之吉ら、万五郎の子分たちが近づいて来る。

雨の音で足音を消しながら、座敷の中に上がり込んだ子分らだったが、市は錦木を押し倒すと、子分たちを斬って行く。

そんな中、錦木は猪之吉たちに連れ去られてしまったので、後を追って外に飛び出した市だったが、そこに待っていたのは神条常盤だった。

市は、刀と鞘を一緒に抜いて来た神条と戦い始めるが、裏の網置き場の中で相手を突き刺す。

網置き場は崩れ、神条も倒れる。

市は、その網置き場の隅に潜んでいた丑松の顔すれすれに、背後の板に仕込み杖を突き刺すと、案内しろ!錦木の所へ…と命じる。

錦木は、万五郎の賭場の中の柱に縛り付けられていた。

そこに、丑松が戻って来たので、猪之吉は良くやったなと褒めるが、その背後から座頭市がやって来たことに気づくと真顔になる。

丑松は、錦木が縛られているのを観ると驚く。

賭場の中で待っていた子分たちは、漁師の銛を持ち出していた。

良く来たな、市…と声をかける万五郎。

ヤクザってのは、堅気衆のおこぼれをもらって生きているんだ。お天道様の下を歩ける身分でもねえ。それをお前さんは、堅気衆を泣かせているだけでなく、お天道様の下を歩いてやがる…と市が迫ると、万五郎は一杯やるか?と茶碗を市に持たせ、とっくりの酒を注いでやろうとする。

次の瞬間、市を突いて来た銛の切っ先が切断され、万五郎が持っていたお銚子も、縦にまっ二つに切れていた。

錦木をこっちにと市は命じるが、ドメクラが!おめえは見えねえだろうが、錦木は動けねえ寸法になっているんだ!連れて来て欲しけりゃ、その杖棄てろ!と言いながら、万五郎は銛で、錦木の横の板壁に突き刺す。

助けて!と言う錦木の悲鳴が聞こえた市には、橋から川に落下した老婆の声が重なる。

どうするんだよ?次は土手っ腹に刺さるぜ!と銛を持った万五郎が脅すと、市はおとなしく仕込み杖を差し出す。

その仕込み杖を奪い取った万五郎は、市!お前の両手を出せ。二度と挟持出来ねえようにしてやると言い、丑松に銛を渡して、お前にやらせてやると言い出す。

あの手で錦木を大胆だぜとけしかけられると、丑松は引き下がれず、銛で市が床に差し出した左手の甲、次いで、右手の甲に突き刺して行く。

その手で、杖がなくちゃ、三途の川も渡れめえ、杖だけは返してやるぜと言い、万五郎は、仕込み杖を市の目の前に置いてやる。

明け方になったら、錦木連れて迎えに行ってやるぜと市に伝える万五郎。

両手を血まみれにした市は、その仕込み杖を抱きかかえるようにして賭場から出て行く。

子分たちに笑われながら黙って去って行く市の姿を、縛られたままじっと見送る錦木。

丑!良いよ、良く市をここまで連れて来たなと丑松に笑顔を見せた万五郎だったが、次の瞬間、刀を抜くと、丑松を斬り捨てる。

それを見て驚いた錦木に、おめえも行くか?一緒に…と万五郎が刀を突き出して聞くと、私は…、まだ、働いて…と錦木は怯える。

それが利口だな。なんてったって、この世は銭だからな…と万五郎は笑う。

岩場に来た市は、血まみれの両手に歯で布を巻き付け、止血をしていた。

翌朝、万五郎は、20人近い子分と市の住む小屋に近づくと、市がどんな死に様をするか、観ていておくんなさいと、案内して来た飯岡助五郎(大滝秀治)に話しかける。

助五郎はただ黙って手を差し出したので、万五郎は感激してその手を握りしめる。

そして、小屋の近くに立ちはだかると、やい!座頭市!手の調子はどうだ?万五郎が見舞いに来てやったぜ!と声をかける。

やがて、数人の子分が小屋の中になだれ込むが、その子分たちを倒しながら外に出て来た市は、右手に居合いの刀をしっかり布で縛り付けており、それを左手で支えるようにして斬っていた。

子分たちをけしかけた万五郎だったが、気がつくと、猪之吉も自分と一緒に岩陰に身を隠していたので、ばかやろう!いつまでくっついてるんだ!と叱りつけて追い出す。

市は、苫屋の中で、次々に斬り掛かって来る子分を倒して行く。

猪之吉が市に倒され、万五郎は近くの漁師の家に入れろ!と怒鳴りつけるが、誰も言うことを聞かない。

やがて、先回りしていた市が万五郎の目の前に立ちふさがる。

ここにいるのは鍵屋万五郎だぞ!と大声を出すが、周囲の漁師たちは、黙って観ているだけで誰も近づこうともしない。

勘弁しろ!勘弁しろって言ってるだろう!このドメ○ラ!そう叫びながら万五郎は斬り掛かって来るが、斬られて泥の中に倒れ込む。

顔も身体も泥まみれになった万五郎は、勘弁しろって言っているのに…と言いながら何とか逃げようとするが、市は黙って仕込み杖を倒れた万五郎に突き刺す。

その死体の側に近づいて来る漁師たち。

飯岡助五郎は、諦めたように黙って去って行く。

浜辺にやって来た錦木は、点々と血の痕と一緒についている市の足跡を観ていた。

市は、波打ちキワを黙々と立ち去っていた。

途中、がくりと膝をつきかけるが、又立ち上がって歩き始める。

画面一杯の「完」の字