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千万長者の恋人より 踊る摩天楼

たあいのないラブコメ音楽映画だが、この時代の野村芳太郎監督は、こんな小洒落た映画も作れたんだと言うことを認識させ、歌って踊る越路吹雪が堪能できる映画でもある。

ヨーロッパ風の歌と踊り、南方風の激しい踊り、九州の田舎では、民謡風の歌と踊りと言う風に、コーちゃんの魅力全開と言った感じで、中でも、大木実を柔道で投げ飛ばす辺りのコメディエンヌ振りは絶品である。

逆に意外だったのが、浅茅しのぶさんで、1951年の「海賊船」の頃は、もっと清楚な少女のイメージだったと思うのだが、この作品では、イケイケのお嬢さんと言うか、結構大人の女性に変貌している。

「海賊船」の頃が26歳、しかも古い白黒作品だったこともあり、顔等の印象も薄かったのだが、この作品当時は31歳くらい。顔立ちがはっきりしているので印象も違って見えるのだろう。

劇中で歌うシーンもあるのだが、役柄上、わざと外しているのかな?と思うくらい音程も怪しく、正直歌が巧いとは思えない。

浅茅さんも宝塚出身の方なのに、芝居のシーンの方が多く、歌や踊りのシーンが少ないのがちょっと残念。

顔立ちがものすごい美貌とか、ものすごい個性派と言う感じではないので、越路さん等に比べ、意外と記憶に残りにくいタイプの方のような気もする。

同じようなタイプなのか、かなり注意して観ないと分からないのが、ルリ子役の朝丘雪路さん。

「スリーガールス」の中心的存在であるみどり役やヤス子役の女優さんも全く見覚えないので、ルリ子役も、最初は無名の女優さんだろうくらいに思っていたのだが、良く観ていると、どことなく朝丘雪路の面影がある。

ひょっとして…と、観賞後調べてみたら、やっぱり朝丘雪路さんだった。

大木実が歌っているのも珍しい。

何せ古い作品なので、見覚えのある俳優が半分くらいしかいないのが辛いが、主役の気の弱い若様を演じている川喜多雄二と、その友人を演じている高橋貞二の両名に馴染みが無いのが意外でもある。

本当の主役は、越路吹雪さんか?とも想像するが、役柄から考えてゲスト扱いだろう。

半太夫役の日守新一などの方が、かえって顔に見覚えがある脇役だけに、主役、ヒロインともに馴染みがない作品を観るのも貴重かもしれない。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1956年、松竹、光畑碩郎脚本、野村芳太郎脚本+監督作品。

やあ皆さん、僕はプロデューサーの高倉昭平(高橋貞二)と言いますが、今日は僕の友人で気の弱い奴の話をします。(書き割りセットの前で、スクリーンの方に振り向いて挨拶する)

九州の千万長者のお殿様の息子で、家老の娘みどりが好きなんですけど、言い出せないんです。

赤いドレスの中田ルリ子(朝丘雪路)、黄色いドレスの及川ヤス子(中川弘子)、緑のドレスの五十嵐みどり(藤乃高子)、通称「スリーガールス」がセット内で踊っている。

僕が松平雄太(川喜多雄二)なんですが、3人娘の1人が好きなんです…と雄太が、画面に向かって挨拶する。

タイトル

ドライ!アインス、ツヴァイ、ドライ!♪と、テレビのスタジオで歌を収録している「スリーガールス」を調整室からにこやかに観ている美術監督の雄太に、やって来た昭平が、部長が呼んでいるぞと伝える。

部長に会いに行った雄太は、スリーガールスはもっと大きなステージの方が栄えるので、作らせてくださいと頼むが、部長(末永功)はそんな話には興味がないようで、姉さんとは連絡取れたかい?と雄太の姉で、パリに公演中の歌手かほるの事を聞いて来る。

今シンガポールらしいですから、月末頃には帰国するようですと雄太が答えると、帰朝すぐにうちに出てもらうんだ!と部長は命じる。

しょんぼりして部長室を出た雄太に昭平は、「スリーガールス」の大ホール進出なんて無理だよ。彼女たちはまだ駆け出しなんだから…、ひょっとして、あの中の誰かが好きなのか?と聞くが、ソファに座った雄太が、困った時に必ず出てしまう「貧乏揺すり」を始めたので、想像が当たっていたことに気づく。

その後、同居しているマンションに帰って来た「スリーガールス」たちは、3人揃って足を上げ、サイクリングのように動かして美容体操をしていた。

体操が終わると、雄太に頼んでおいた大ステージへの夢が潰えたことを語り合う。

あの人じゃ無理よ、気が弱いから。山と先祖伝来の鎧兜くらいしかなく、現金ないんだもの。今度は、もっとお金を持った人を探さなくっちゃ…、おじいちゃんでも良いのよ。マリリン・モンローでも良いわと言い出し、3人揃って、モンローウォークの真似をし始める。

そこへ入って来たのは、みどりの父で、九州の雄太の家で家老をやっている五十嵐半太夫(日守新一)だった。

みどりは、急に父親が九州から上京して来たことに驚きながらも、ルームメイトのルリ子とヤス子を紹介する。

半太夫は、若と直々に話があるのだと言い、同じマンション内に住む雄太の部屋を訪れる。

部屋の壁一面に貼られた、大きな裸婦の写真を観た半太夫は仰天し、若様とあろうお方が…と嘆くが、僕は美術監督をしているんだよと諭す雄太。

みどりの方は、お父様ってすごい旧式ねとルリ子とヤス子に言われ、だから5年も田舎に帰ってないのよと打ち明ける。

半太夫は、上京して来た訳を雄太に打ち明けていた。

松平家は今非常時であり、大殿様から折り入って頼み事を言いつかって来たと言う。

(回想)雄太の父親、松平凡斎(古川縁波)は、家老の半太夫に、1枚の見合い写真を見せていた。

それを見せられた半太夫は、もうすぐかほる姫もフランスからお帰りですし、もう1度お考え直し遊ばしたらいかがでしょうとやんわり諭すが、その見合いの相手は雄太にだと聞くと、自分が、大殿様自身が再婚するのと勘違いしていたことに気づく。

(回想明け)それを聞いた雄太は、それは困るよと困惑するが、今ひとつ重要な問題があるのだと半太夫は言う。

(回想)凡斎が、見合いの相手は大阪エビス証券の秋池様のお嬢さんで、向うもこちら同様、山を持っており、しかもこちらの家柄にも興味を持っている様子と言うので、それは良縁!と半大夫も喜ぶと、我家も年々の事業不振で、今や、山か家宝を売り飛ばすしかない状況になっておる。雄太の縁談さえまとまれば…と期待しているらしいと言う。

(回想明け)松平家復興の時ですぞ!大阪によって話をしてきました。後はお見合いの日取りを決めるだけ。まさか、この爺を見殺しにはしないでしょう。奥方様が早く亡くなられ、若様はお小さい頃からいつも私が背負ってお守りをしたものですと半太夫は、五木の子守唄の流れる中、田舎の道を幼い雄太をおんぶしていた時の事を思い出すのだった。

翌日、テレビ局のスタジオで、見合いの話を承知するしかなかったと雄太から聞いた昭平は、見合いなんかやったらお終いだぞ。誰か好きな人でもいるんじゃないのか?と案じる。

そこにやって来たのはみどりだったので、君が彼の恋人で、他の人と見合いされたらどうする?と昭平が聞くと、見合いはしても良いけど、その恋人とはそれで終わりねとみどりは答える。

そこに、ラーメンを食べて来たと言うルリ子とヤス子がやって来る。

雄太と共にスタジオの外に出た昭平は、お前が好きなの、みどりだろ?水臭いな…と言い当てるが、もうダメだよ。運命のイタズラさ…と雄太はしょげる。

一方、スタジオの3人娘たちも、雄太の恋人って、案外、私たちの中にいるんじゃない?いつも笑っているような裁判官がいたでしょう?松川事件?などと噂しあっていた。

みどりの方では気づいてないんだよな…と昭平は、人ごとながら、雄太の煮え切らない態度に呆れていたが、雄太の方は、とにかく黙っていてくれよなと頼むだけだった。

そこに通りかかったスタッフが、部長が呼んでいると教えてくれる。

部長室へ行くと、新聞社から連絡が来て、姉さんが帰って来たんだ。高倉君、君も担当だ。準備したまえと、部長から命じられる。

かくして、第一回目のショーが…(と、スリーガールスのナレーション)

雄太の姉、かほる(越路吹雪)は歌と踊りが出来る人気スターだった。

その日も、男性ダンサー相手に、裏町風のセットで踊って歌った後、今度は黒塗りにズボン姿と言う南洋の現地人を演じ、踊っていた。

雄太さんはすっかりノイローゼ(と、スリーガールスのナレーション)

マンションの自室で椅子に座った雄太は、貧乏揺すりを始めていた。

そこに、昭平と姉のかほるが帰って来る。

かほるは、昭平から話を聞いたらしく、イーゼルの上に立てた紙に、♡マークを描いて、雄太、これでしょう?とからかうように聞いて来る。

そして、恋とは何でしょうか?♪と歌いながら、弟を諭そうとする。

やがて、昭平とかほるは一緒に踊りだし、かほるはなおも歌い続ける。

分かったよ、姉さん。でも相手は何とも思ってないんだよと雄太が答えると、何だ、片想いか…とかほるは拍子抜けした模様。

爺が帰って来たら、見合いさせられる…と雄太は嘆くが、その時、昭平が、イーゼル上の紙の先ほどかほるが描いたピンクの♡マークの横に、緑色でもう一つの♡マークを描き添え、両者を矢で射抜いたように描いたので、あっ、みどり!と気づいたかほるは、みどりなら良いじゃない。マーガレット姫じゃあるまいし…、私が国に帰って、見合いを断って来てやるわ。いざとなったら駆け落ちしちゃいなさいよ。うちのお父様だって…と言い出す。

(イメージ)道行き姿の松平凡斎とかほるが、清水崑描く、メス河童がたくさん川から覗いている絵の書いた書き割りの前で、恋って、楽しい門だね~♪と歌って踊ってみせる。

翌日、テレビ局に行った昭平は、ウエスタンバンドの歌手(小坂一也)に、僕の友人の気弱なんだ。彼のために歌を吹き込んでくれと頼んでいた。

その時、妙な音が聞こえて来たので、何だ?と振り向いた昭平だったが、それは、調整室に座り、マイクを胸に抱きしめていた雄太の心臓の音だと分かる。

雄太が、だから僕の♡をとマイクにしゃべると、同じセリフを歌手がバンドと共にメロディーに乗せて歌い始める。

その日、マンションにスリーガールスが帰って来ると、ロビーの椅子に、半太夫が眠りこけていた。

起こして訳を聞くと、どうやら見合いの日取りを先方と決めて来たらしく、明日が見合いと言うのに若はどこにいるんだ?相手の娘は宿に泊めてあるんだと半太夫は困惑する。

ルリ子とヤス子に、ちゃんと伝言をしてくれるだろうねと頼むと、見合いの場は踊りの会だと教え、自分は帰ろうとするので、みどりが一緒に付いて行くことにする。

2人を見送ったルリ子は、みどり、センチになっていたわねと言うヤス子に、私もセンチだわと言い、ヤス子の方も、全然同意!と返すのだった。

みどりと半太夫は、蕎麦屋で鍋焼きを食べることにし、久々にみどりが父親に、晩酌のお酌をしてやる。

秋池さんのお嬢さんは明るい良い娘さんだ。これで、松平の家は万々歳じゃ。次はお前だ。若様の話がまとまったら、大殿さまのお暇をもらい、九州の田畑を売って、お前の所に出て来るよ。そして、こんな蕎麦屋でもやろうかな…などと半太夫が将来の夢を語ると、ちょうど、主人が鍋焼き蕎麦を運んで来たので、その時は、鍋焼きの作り方でもご伝授くださらんかと主人に話しかける。

その頃、マンションでは、テレビ局で吹き込んだテープとテープレコーダーを持って、みどりの部屋に雄太が1人でやって来ていた。

部屋の中には誰もおらず、シャワーを浴びる音が聞こえて来たので、みどりかい?と呼びかけると、雄太だよ。僕は君を愛しているんだ。僕の愛の告白をテープレコーダーで聞いてくれと声をかけ、シャワールームの前にレコーダーをおいて帰って行く。

しかし、その時、シャワーを浴びていたのはルリ子だった。

その後、ちゃんと、雄太の言葉を聞いてなかったルリ子は、自分へのプロポーズを勘違いし、二段ベッドの上で、テープの歌をうっとり聴いていた。

そこにヤス子が戻って来たので、ルリ子は自分の太ももをパジャマの上からつねってもらい、こりゃ、本物だ!と気づくと、そのまま雄太の部屋にパジャマ姿のままでかけ、中に入って歌い始める。

その後、自分の部屋に戻って来たみどりは、雄太の恋人がルリ子だったとヤス子から聞き、ふ~んと最初は聞いていたが、やがて、それ本当なの?!と疑いだす。

お父さん、あんなに喜んでいたのに…、困るわ…とみどりが心底ルリ子のことを喜んでいないようなので、ヤス子は、友人の恋を邪魔するの?と言い返す。

そこにルリ子が帰って来て、あ~ん…、死にたいよ~とわめきだす。

訳を聞くと、ルリ子が雄太の部屋に行き、テープレコーダーを聞いたことを打ち明けると、急に雄太は熱を出してしまい、がっくりしたので介抱しようとすると、ルリちゃん、ご免よ。あのテープはミドリちゃんに渡すつもりだったんだと雄太は謝って来たと言うのだ。

ま!とみどりは呆れ、恋とはこういうものか…と呟いたヤス子はみどりに、嬉しくないの?と聞く。

ベッドに寝転んだルリ子は、世の中、くるくるパーよ!とすねる。

翌日、ヤス子とルリ子は、見合いの場である踊りの会へこっそり出向いてみることにする。

半太夫の隣に座っているのが、見合い相手の秋池洋子(浅茅しのぶ)だったが、それを観たヤス子が、シャンねと感心すると、ルリ子派シャンでも何でも、この見合いぶち壊してやるのよ、ヤケだものとルリ子は言う。

ヤス子も、肝心のみどりがはっきりしないんだもの…とじれる。

しかし、洋子の隣、つまり雄太が座るべき席にはまだ誰も座っていなかった。

舞台では、芸者の幾千代(有馬稲子)が踊っている。

その時、突然、ロビーに呼び出された半太夫は、見覚えのない芸者トンボ(関千恵子)に親し気に話しかけられ、困惑していた。

その間、洋子のとなりに来たのは、何とプロデューサーの高倉昭平だった。

それに気づいたルリ子は、何だ、昭平さんじゃないの…と驚き、分かった!見合いぶっ壊すつもりよとヤス子は勘づく。

洋子の隣に座って、踊りを観始めた昭平は、踊っている幾千代に気安気に手を振り、僕の馴染みなんですと洋子に説明する。

幾千代の方も、昭平の方を観て微笑んで来たので、それに気づいた洋子はビックリする。

これから、キャバレーどうです?と昭平が誘うと、洋子も気後れせず、付いて行くと言い出す。

ロビーでは、まだ、トンボが、私のこと忘れたんですか?と哀しそうに半太夫に迫っていたので、その隙に、昭平と洋子はこっそり劇場を出て行く。

半太夫は、大殿様と大阪に行った時!と何か思い出したようで、トンボも、そうそう、その時!と調子を合わせ、私のこと好きだなんておっしゃって…などと言うので、半太夫は再び、こりゃ、おかしいぞ?と首を傾げる。

マンションで待っていた雄太は、みどりの部屋に来ると、どうだった?相手のお嬢さんなどと人ごとのように聞かれたので、君はそんな人と僕が見合いした方が良いのかい?見合いなんか行かなかったよと憤慨し、自分の部屋に戻ると、後を追って来たみどりが中に入れないように鍵をかけて、平気な顔をしているの、君だけだよと責める。

ドアの前に立ったみどりは、冷たい態度を取ってしまった自分に反省し、私、雄太さん、好きだもの…と言い残し、自分の部屋に戻ってしまう。

その言葉を聞いた雄太は、みどり!とドアを開けて後と追おうとするが、自分が今かけた鍵のことを忘れており、ドアが開かないので、焦りながら、明けてくれよ!みどり〜!と叫んでいた。

ロビーに降りて来たみどりは、帰って来たルリ子が気づき、どうしたの?と尋ねるが、見合いの延長戦で、見合いの2人はキャバレーに行ったみたい。今、ヤス子が偵察に行っているわとルリ子は教える。

昭平が洋子を連れてきたきゃバレーでは、女の子がドラムを叩き、兄姉たちがギターやピアノを演奏する家族バンドの演奏をやっていた。

テープル席に着いた洋子は、驚いたわ…、あなたがこんな所に来る人だとは…、お酒もお飲みにならないと聞いていたのに…と不思議そうな顔をするが、昭平は、わざと豪快に酒を飲んで見せ、洋子にも勧める。

すると、洋子も断るどころか堂々と受けて立つ。

煙草もお吸いにならないと聞いたんですが?と戸惑う洋子の前で、昭平はわざと2本同時に火をつけて吸い始める。

すると、洋子も負けじと、自分もタバコを吸い始めるのだった。

そこに、先ほど踊っていた芸者の幾千代が洋服に着替えてやって来る。

昭平と親し気に会話した後、急用が出来たと言いって帰って行く。

その間、カウンター席で酒を注文していた洋子は、戻って来た昭平に踊りません?と誘う。

しかし、昭平が乗って来ないので、しぶちん!分かってしもうたんや。見合い結婚は愚劣や!それをしようと大阪から出て来たんや。ところがニセもんなんやな。宣伝文句は噓でした。ドンファンなんやな…などと、昭平を見つめながら言う。

見合いを断るための方便でしょう?だって嬉しいんやもん。お互い、見合いを否定する近代的人間同士なんやから…と洋子は、昭平の落胆を見抜いた上で、それを喜んでいるようだった。

その頃、九州では…

地元の駅に降り立ったかほるは、地元が生んだスターとして、紋付袴に着飾った地元の偉いさんたちや子供たちの大歓迎を受け、そのあまりのオールドスタイル振りに戸惑っていた。

そんな中、顔中髭だらけの見知らぬ男が、西郷平八郎(大木実)と名乗り、かほる姫!久しぶりだななどと親し気に呼びかけて来るが、かほるは全く見覚えがなかったのでまごつく。

久しぶりに対面した父親の凡斎に、かほるは、今時政略結婚をさせるなんて…と雄太のことを抗議する。

ところが、凡斎は、お前の相手もそうじゃと言うではないか。

あのヒゲ!とピンと来たかほるだったが、西郷隆盛の遠縁に辺り、山持ちなんだと父が言うので、政略結婚じゃない!と憮然とする。

その時、廊下に、あのひげ面の西郷がやって来て、昔、小学校の柔道で、かほる姫から投げられたことがあるが、もう姫には投げられませんと言うではないか。

それでも、全く思い出せなかったかほるは、私が勝ったら、そのヒゲ切ってもらうわと挑戦する。

それを聞いていた凡斎は、負けたら結婚だと言い出す。

今、何段?とかほる姫が尋ねると、西郷は柔道4段と答えたので、かほる姫はちょっと後悔し始めるが、これでもパリでは相当だったのよ等と言い、早速柔道着に着替えると、父親が審判する中、西郷と試合を始めることにする。

かほる姫は明らかにへっぴり腰だったが、凡斎が、遠慮するなよ!と西郷に話しかけ、はい!と西郷が答えた瞬間、かほる姫が西郷を投げ飛ばしてしまう。

一方、すっかり昭平と意気投合した洋子は、連日のようにキャバレーに通い、ステージに上がっては、歌手のようにバンド演奏をバックに歌っていた。

その後、昭平とダンスを踊り始めた洋子だったが、そこに、決闘を申し付けなさいと雄太!に言いながらやって来たのが半太夫だった。

雄太は、そんな半太夫に、何とか事情を説明しようとするが、気が弱いのではっきり言いだせない。

あいや、しばらく!と昭平に声をかけた半太夫は、君は何なんだ?若の婚約者を毎日毎日誘いおって…と文句を言うが、洋子は、そんな半太夫が連れて来た雄太に、そう言うあなたは誰?と聞いて来たんもで、半太夫が、こちらの方こそ、見合い相手の松平雄太様ですと紹介すると、バカにされたと感じた洋子は、私、帰ります!と怒ってしまう。

雄太と半太夫が、憔悴し切ったような様子でマンションのみどりの部屋に帰って来たので、みどりはどうしたのか?と聞くが、松平の浮沈に関わることですぞ…。千歩位のお嬢様から返事を頂いた時には、これ幸いと思っていたのに…。見合いの席に同席しなかったのが一生の不覚。大殿には切腹してお詫びをしなければいけません…と半太夫は雄太に語りかける。

実は、僕には想っている恋人がいるんだ。それは…と雄太が告白しようとすると、雄太さん!とみどりが止める。

みどり…と、その様子を見た半太夫は、薄々事情を察し、若様、人間、一生の間には辛いこと哀しいこと、たくさんございます。爺にも若い頃は、好きな娘もおりましたが、今では、楽しい思い出になっております。相手の娘も、定めし辛かったろうと思います。人生、長い目で観ると、何が幸せで何が不幸か分かりません。今度のことは、松平家にとって大事なことですぞ。この爺のためにも、もう1度お考え直しください。爺はこれから、秋池様の所へお詫びに参上し、見合いの日取り等決めてまいりましょう…と雄太に言い残し、1人寂し気に部屋を出て行く。

九州の方では、村祭りをやっており、村の衆が踊っているステージの上では、ひげを剃った西郷が歌を歌っていた。

やがて、舞台袖からかほるが登場し、民謡風の歌を歌い始める。

若者たちがアクロバチックな踊りを披露しだすと、舞台の下で西郷と一緒に座り、見物し始めたかほるだったが、ちらちら西郷の顔を見ているうちに、あんた平ちゃんだ!どうりでどっかで観た顔だと思ったと思い出す。

酷いな…、小学生の頃はあんなに仲良しだったのに。小学校に行く前、かほる姫の方から結婚を申し込まれたこともあったんだよなどと西郷が打ち明けたので、かほるは、そんな昔のこと、すっかり忘れていたことを打ち明けながらも、西郷のことを好ましく思うようになっていた。

雄太のマンションの部屋には昭平が来ていたが、そこに半太夫が洋子を連れて来る。

洋子は昭平に、何で替え玉が来たのか教えてと話しかける。

その時、ヤス子がやって来て、おじ様、みどりに会ってあげてと頼むが、今それどころではないと半太夫が無視すると、父親のくせに、娘の気持ちを考えないとはどういうこと?とヤス子は詰問する。

おじさん、みどりは雄太さんのことが好きなのよとヤス子が説得すると、わしもみどりの気持ちはよ〜く分かっとると半太夫も答え、みどりの部屋に向かう。

さっき、雄太さんが来た時、可哀想だったわとルリ子が言うので、何を話してたんだと半太夫が聞くと、駆け落ちよとルリ子があっけらかんと答えるが、みどりは、私、国に帰ることにしたのと打ち明ける。

そこに、みどり、お嬢さんが呼んでるよと、雄太が呼びに来る。

雄太の部屋にいた洋子は、みどりがやって来ると、あんたのために、うち、えらい目に遭うたわ…とぼやき、雄太は半太夫に、爺、もう全部話してしまったんだよ…と、身替わり見合いのことを打ち明けるが、半太夫は、もう1度、ご再考を!と頭を下げる。

そして洋子を観た半太夫は、お嬢様も、この前、結婚しても良いと…と口約束があったことを匂わすが、それを聞いていた昭平は、人物よりも家柄かい?と洋子に聞いて来る。

そんな昭平に、とにかく握手しましょうと手を差し出した洋子は、私、帰って、両親に話してくるわと約束する。

洋子が結婚を決意したのは、昭平の方だったことが分かる。

すると、昭平の方も、うちは両親がいないので問題ない。誰かさんと違って封建的じゃないものと、その場にいた半太夫のことを皮肉り、雄太とみどりに、俺たちと一緒に結婚しないか?と勧める。

しかし、半太夫は、みどり、私の一緒に田舎に帰って行こうなと言い聞かすので、一緒に聞いていたルリ子とヤス子は、結婚すれば良いのよと言い出し、ウエディングマーチ等を歌いだす。

すると、半太夫は、やかましい!と一喝する。

この上は、せめて、みどりと若様を一緒にさせたい。半太夫には半太夫の教えられた道があります。みどり、旅の仕度をなさい。父さんは切符を買うてきますと言い残し部屋を出て行く。

後に残った雄太とみどりに、姉さんの言う通り、駆け落ちしろよと勧める昭平。

しかし、みどりは、出来ないわ、父さんに黙ってそんなこと…と言い、僕だって嫌だよと雄太も気乗りしない様子。

旅行代理店にやって来た半太夫は、恋人らしき男女が熱海旅行の予約をしているのを背後に聞きながら、パンフレット等を観始める。

マンションに半太夫が帰って来ると、みんなはラーメンをすすっている所で、爺、話が変わったんだよ。洋子さんが見合いをやり直すってことを認めてくれたんだと雄太は言い、みどりも、良かったわね、父さんと話しかけると、半太夫は、ばかもん!と一喝する。

洋子は、切符!と言って、半太夫から受け取ろうとするが、雄太とみどりを部屋の外に連れ出した半太夫は、2人をロビーの椅子に座らせ、一体若は、今頃見合いしようなどと…、例え芝居とは言え、前後んを翻す等男として恥ずべきこと。みどり、見合いがダメなら、国に帰るだろ?切符買ってきましたよ。この爺が許す訳にはいきません。大殿様からお叱りを受ける覚悟は出来ています。これは、駆け落ちの切符ではございませんよと念を押しながら、差し出した2枚の切符は「熱海行き」だった。

旅支度を始めた雄太は、半太夫からもらった箱の中に、「御祝い金 家老」と書かれた紙の下に札束が入っているのを見つけ思わず顔がほころぶ。

半太夫は、2人が出て行ったみどりの部屋で、1人座り込み落ち込んでいた。

その時、雄太の部屋にやって来たのは、かほると西郷だった。

ベランダで、ヤス子とルリ子、昭平と洋子が暗い外を観ているので、どうしたのかとかほるは聞く。

すると、雄太とみどりが駆け落ちをしたのだと言うので、もう、私たちが、父親を説得して来たから大丈夫よとかほるは慌てるが、あかん、あかん、今夜だけでも駆け落ちさせんとあかんと洋子が言う。

かほると西郷も、裏庭の方に目をやると、塀の前に椅子を置き、それを足場にして、雄太とみどりが塀を乗り越えて行く所だった。

半太夫は、みどりの部屋で哀し気に座っていた。

皆さん、いかがです?

半太夫の部屋の照明が落ち、画面は真っ暗になる。