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眠狂四郎無頼控

鶴田浩二主演の東宝版で、プロデューサーは「ゴジラ」でお馴染みの田中友幸氏である。

市川雷蔵主演の大映版の方では、金八は最初から狂四郎の仲間として、何の説明もなしに登場しているのだが、本作では、その金八と狂四郎の出会いから描かれている。

金八を演じているのは、「男はつらいよ」の初代おいちゃんこと森川信。

徳大寺伸が演じているむささびの喜平太と言うキャラクターも、特殊メイクで「ノートルダムのカジモド」のような特異な風貌をしている。

狂四郎に関しては、出生の秘密が語られているが、大映版とはちょっと違っているのが興味深い。

ここでは、黒魔術だの、狂四郎が日本人の母と異人との子である等と言うことは一言も言っていない。

名も分からん男に犯され、その後家を追われ、餓死した…とだけ説明されている。

つまり、この映画での狂四郎は、異国人との子と言う設定は明言していないことになる。

着物等も、大映版のように黒の着流しに定まっている訳ではなく、白っぽい着物姿のシーンもある。

髪型などは大映版と同じく「ムシリ」であるが、円月殺法は、大映版は、剣をまずは地面に近づけ、大きく円を描いて行くのに対し、鶴田浩二が見せる円月殺法は、やや剣を前に出し、極端に言えば、トンボの目を指を回してまわすように、円弧の描き方が小さい。

女を抱くシーンも、公開された時代が古いこともあり、大映版よりさらに描写が遠回しになっており、狂四郎が美保代に薬を口移しで飲ませるシーン等、狂四郎が美保代の顔に自らの顔を近づけるだけで、カメラはパンして、横にいた金八の方に外れてしまうくらいである。

何せ、相手役が、当時の清純派、津島恵子さんと青山京子さんでは、直接的な表現など出来ようもなかったのだろう。

かろうじて、顔を近づけたり、着物から素足を出したりする表現止まりなのだが、正直、コロコロして健康的な印象だった当時の青山京子さんの方は、この手の時代劇に向いていたのかどうかすら疑問がある。

話自体は、いくつかのエピソードが描かれており、どれも通俗味溢れるもので、なかなか興味深い。

大奥の中で、化物と対峙する狂四郎等と言うのも、なかなか子供向け風で楽しい。

後で作られた市川雷蔵版の方が有名なので、何だか鶴田版の方は分が悪いが、こちらはこちらで決して出来が悪いと言うことはなく、娯楽時代劇としては十分に堪能することが出来る作品になっている。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1956年、東宝、柴田錬三郎原作、小国英雄脚本、日高繁明監督作品。

蝋燭のアップ

賭場で、壺を振っていた中盆は、36の半!と言って、次の賭けを促すが、その様子を側で観ていた眠狂四郎(鶴田浩二)は、金を波浪としていた客たちに、止せ止せ、その壺振りはいかさま師だ。ケンの腕で言えば師範以上の腕前…と教えたので、客たちは中盆を観て殺気立つ。

狂四郎は、胴元に金をみんなに返してやれ、この場は拙者が預かると提案するが、興奮した中間らしき男が、腕をへし折ってやると息巻いて中盆に飛びかかろうとしたので、刀を抜いて、相手を突き飛ばす。

転がった中間は、何が何だか分からないようだったが、気がつくと、自分の自慢のヒゲを半分剃られていることに気づき肝をつぶす。

狂四郎は、中盆に着物を着て付いてまいれと命じる。

すっかり、度肝を抜かれた様子の中盆は文句も言わずに、狂四郎と共に暗くなった外へと出る。

お前、本職はスリだな?と狂四郎が言い当てると、燕の金八と申しますと殊勝にも名乗り、狂四郎の名前を聞く。

名乗った狂四郎は、どこまで行くので?と不審がる金八に、お前の腕を見込んで、これから押し込み強盗に入ろうと言うのだ。それも、大名屋敷…と言い出す。

賭けもしないのに賭場に行ったのも、お前のような男を捜しに行ったんだと言う。

余りに突拍子もない話に、冗談と思った金八だったが、やがて2人が到着したのは、水野越前守忠邦の上屋敷だったので、もっと驚く。

狂四郎は横門を叩き、金八もろとも、門を開けた牢番に中に入れてもらう。

屋敷の中で狂四郎が金八に紹介したのは、お側頭武部仙十郎(藤原釜足)であった。

武部が金八に見せたのは、屋敷の見取り図で、忍び込む部屋は2カ所と言う。

奪って来るのは首二つで、庭には菊畑があり、芥子の花が咲いていると謎めいたことを言う。

午前の殿さまの家に入るんで?と金八が戸惑うと、その通りだと言う。

狂四郎は武部に、万が一にも筋書きを変えるようなことはありますまいな?と念を押し、盗んだ品物は?と隠し場所を聞く。

首のすっ飛ぶ庭の辺りに…と武部は言う。

その後、水野の屋敷に忍び込んだ狂四郎は金八に、奥書院に続く廊下を教え、足音、物音、咳払いに注意するようにと言い聞かせると、奥書院にはひな壇が出来ており、上段にお小直衣雛が鏡布団に乗っている。

忍び込んで半時もすれば騒ぎが起こるので、その時、お小直衣雛を…と狂四郎は指示を出す。

狂四郎は灯の消えたある部屋に入ると、米のようなものを畳に巻き、誰かいないかを調べる。

すると、屏風の背後に隠れていた腰元がいきなり懐剣を振りかざして突いて来たので、それを交わして畳に押し倒すと、示現流!かなり使うな!と言いながらも、林肥後守が差し向けた隠密だろうが、抜け荷の罪をとがめられ、つぶされた回船問屋伊代伝の娘美保代(津島恵子)であろう?見せつぶされた腹いせに、水野をたらしこもうと、ここに忍び込んでいるのだろうと言い当て、無言の相手をそのまま抱く。

その間も、屋敷内の見張りたちは1つの部屋に集まっていたが、誰も侵入者に気づかない。

金八は、奥書院の部屋を覗くと、中には侍女たちが数人控えている。

ことがすんだ狂四郎は、そなた、まだ越前殿のご寵愛を受けておらなんだか…と驚きながらも、行灯を灯そうとする。

美保代は恥ずかしがり、灯だけはお許しを…と乞い願うが、無頼の狂四郎は隠密なら覚悟は出来ておろうと言い、行灯を灯すと、廊下に出て、水野の屋敷は空き家か!賊が侍女を襲ったのだぞ!と大声を出す。

すると、見張りの侍たちや侍女たちが一斉に狂四郎の方へ向かって来る。

奥書院の中も無人になったので、金八は中に入り、お小直衣雛を盗み出すことに成功する。

予定通り捕まった狂四郎と美保代は、翌日、水野越前守(伊豆肇)が吟味するため庭先に引き出される。

名を名乗った狂四郎だったが、偽名だな?と指摘した水野に、この女と夕べ懸想いたしました、2つの首を撥ねて頂く所存ですと殊勝に答える。

その時、水野の傍らにやって来た武部仙十郎が、この者たちには詮議の筋が…、夕べ、将軍家より拝領のお小直衣雛を盗まれましたと水野に報告する。

水野が確認すると、御老中に撥ねて頂きたい首と言うのは、その内裏びなで…と狂四郎が答える。

将軍家より拝領のお小直衣雛の首を撥ねるくらいの勇気がなくては、とてもご政道の建て直しは出来ますまいと狂四郎が嘲るように挑発すると、その雛はどこにあると言うので、あれなる草の中に…と狂四郎が教え、家臣の者が2体の内裏びなを水野の前に持って来る。

水野はその場で刀を抜くと、あっさり二体の人形の首を撥ねてしまう。

そして、その首、その方どもにくれてやると水野が言った時、どこからともなく矢が飛んで来て、水野が立っていた縁側に突き立つ。

武部が、行け!狂四郎!と声をかけると、狂四郎は、弓を持った中間風の男茅場修理之介(藤木悠)を見つけ、水野の家来たちと共に追いかける。

林肥後守の放った隠密だな?あの女が捕われたのを観て、口封じのため襲ったのであろう。円月殺法、この世の見納めに、得と観ておけと言うと、狂四郎は剣を抜き、身体の全面でゆっくり円を描き、その直後、茅場を斬り捨てる。

倒れた茅場は、駆けつけた美保代に目を向けると、隠密としての覚悟、お忘れではありますまいな?とつぶやき、息絶える。

水野邸に忍び込ませていた隠密2人の正体がバレたことを、部下の安藤多門(芝田新)から聞いた林肥後守(沢村宗之助)は、脇坂帯刀と鳥部甚兵衛を呼ぶように多門に命じる。

その頃、美保代を前にした武部は、美濃屋と手をきり、女らしく生きろ。今、ご聖堂を建て直されるのは水野様しかいなく、それを邪魔しているのが林肥後守なのだ。そのくらいの分別がつかぬ訳でもあるまいと言い聞かせていた。

美保代はそんな武部に、狂四郎に会わせてくれと頼んでいた。

獣のように犯したと申されたことが、本当かどうか確かめたいからだと言う。

その頃、狂四郎は、静香(青山京子)と言う娘の屋敷に赴き、会っていた。

上屋敷に隠密として忍び込んでいた彼女の兄、茅場修理之介を斬ったことを報告に来たのであった。

そう打ち明けた狂四郎は、ご免と言うなり、静香の肩を抱き寄せ、唇に顔を近づける。

すぐに顔を離した狂四郎は、口の匂いを嗅いだのです。兄の口元には麻薬の匂いがしたので…。そこもとが使っておらぬのは今分かったと詫びる。

屋敷を去ろうとした狂四郎の前に、突如立ちふさがったのは、特殊な槍を持ったむささびの喜平太(徳大寺伸)と言う醜い男であった。

喜平太は、ひらりと塀に飛び移る等、ムササビのように身軽だった。

それに気づいた静香が制止し、お許しくださいませ。故あって、私の周囲を警護する者ですと弁解する。

屋敷の外で待っていたのは金八だった。

この後どうするんで?と聞く金八に、筋書き通りだと、お前が俺を裏切ることになると言い、間もなくこの屋敷から若い娘が出て来て美濃屋嘉兵衛の家まで行くはずなので、後を付け、家に入ろうとする前、お前が飛び出して止めるんだ。

海老のお前で鯛を釣る。一つ間違えると首に関わる仕事だ、お前の首が飛ぶぞと狂四郎は脅かす。

その後、美保代と会った狂四郎は、水野からもらった内裏びなの2体の首を前に、そなたは翁を取るが良い。この首は、そなたの操を奪った男かもしれんと言い、女びなは俺が取ろう。狙う敵が、我々を襲うと言い、1体の首を懐に入れると出かけようとするので、美保代がどちらへ?と聞くと、斬られに行く。あるいは斬ることになるかもしれぬ…と答える。

その頃、屋敷を出て美濃屋嘉兵衛の家に入りかけていた静香を呼び止めた金八は、兄上の仇を討ちたければ、9つ時、寛永寺に、必ず…と告げる。

静香はその後、何事もなかったかのように、美濃屋嘉兵衛の屋敷内で行われていた秘密会議に同席する。

安藤多門は、雛の首が手に入れば、水野は失脚間違いないと話していた。

小野田玄蕃(小杉義男)は、9つ、寛永寺に間違いないな?と静香に確認する。

五重塔がそびえる寛永寺に小唄を歌いながらやって来たのは、黒頭巾姿の狂四郎であった。

月が出るやら、出ないやら~♪と歌い終わった狂四郎は、どうやら出るらしい…と呟く。

案の定、静香が密告した情報を知った美濃屋配下の者たちが待ち伏せしていた。

その頃、金八は、男びなを持った美保代を連れ出かけていた。

狂四郎が斬り合いを始めたのを、頭巾をかぶった静香がうかがっていた。

しかし、難なく、狂四郎は待ち伏せしていた連中を倒し、最後の1人も逃げ去ったので、また、小唄を歌いながら立ち去って行く。

その後ろ姿を、無念そうに見送る静香。

一方、夜道を、美保代を連れ歩いていた金八は、こうして見ると、大店のお嬢さんのようだと褒める。

その時、物陰から、浪人たちが現れたので、金八は逃げ腰になるが、気丈にも美保代が、私がお相手いたしますと言いながら、懐剣を手に抵抗し始める。

その後、踊りの師匠寿女若(北川町子)の家にやって来た金八は、あたかも自分が暴漢を相手に戦ったかのような自慢話をしていたが、その美保代さんは?と寿女若が聞くと、今外で待っていると金八が言うので、呆れて、外に出てみると、美保代が倒れていたので驚く。

急いで、家の中に寝かせて看病していると、狂四郎がやって来て、美保代の口の辺りに顔を近づけると、薬を嗅がされていると指摘し、自分が持っていた解毒剤を飲まそうとするが、美保代は気絶しているので口を開かない。

狂四郎は湯飲みの水と一緒に薬を自分の口に含むと、口移しで美保代に飲ませてやる。

それを横で観ていた金八は、良い役だぜ。俺もやりてえや…とうらやましがる。

薬が効いたのか、気がついた美保代は、雛の首がないと言いだしたので、狂四郎は、片方盗んでも仕方あるまいと慰める。

狂四郎は、帰るので駕篭を呼んでくれと金八に頼む。

本所の龍勝寺でしたねと合点して金八が出て行く。

その後、龍勝寺付近にやって来た駕篭は、待ち伏せしていた狼藉たちに襲撃される。

しかし、駕篭に突き刺された剣を交し、駕篭から降りたのは狂四郎ではなかった。

人違いするな、拙者は平山子竜(河津清三郎)だと名乗ったその侍は、引かぬ相手を告ぐ次に切り倒して行く。

その直後、同じ場所に駕篭で到着した狂四郎は、駕篭を降りると、平山の戦い振りを観て、強い!神道無念流か…と感心する。

その頃、水野越前守は武部仙十郎に、そちが目をかけておるあの男、眠狂四郎と言ったか?と聞きていた。

武部はとぼけるが、この前の出来事は、そちが書いた筋書きであろうが…と水野は言い当てる。

近頃、江戸城西の丸に、夜な夜な化物が出ての、御世継ぎの竹千代君が酷く怯えさせ、御心痛のためすっかり最近では身体も衰弱なされていると聞く。このままでは林一派の仕業と思う壺になるのは必定…と水野が言うので、

狂四郎を大奥に忍び込ませると言うことで?と武部は驚く。

その頃、美濃屋嘉兵衛は、屋敷内で、ある毒花のめしべから取った毒を塗った槍を、貝塚と言う家来に渡し、これはかすっただけで百獣の王も倒す猛毒じゃ、この毒を必ず狂四郎の体内に…と命じていた。

龍勝寺にいた狂四郎の部屋に住職の空然(左卜全)が近づいて来て、来客を告げる。

その時、空然は、庭の草陰に見知らぬ女の姿を観かけ、あの方の身の回りは女だらけだな…呆れていた。

それは、狂四郎を見張っていた美保代だった。

来客は静香で、この場所は美濃屋が探し当て、内裏雛の首を盗めと言われて来たのですが、私はしとうございませんと狂四郎に伝えると、しばらくここに置いて下さい。身の回りの世話でもさせてくださいと頼むが、狂四郎は無用のことだと断る。

それでも静香は、兄は、あなたと同じように人の真心を信じることが出来ない冷たい人でした。あなた様のことが気がかりで…、私は帰りませんと言うと、兄は隠密になる時、自分が死んでも、殺した人を恨むでないともうしました…と続ける。

その時、庭先に人の気配を感じた狂四郎は、ふすまを閉め、静香を奥の部屋に隠すと、動くなよ…と言い聞かせ、障子を開ける。

庭先にやって来たのは、あの毒槍を持った貝塚だった。

その貝塚が狂四郎に迫ろうとした時、ばったりと倒れ、その背中には、見覚えのある槍が突き刺さっていた。

静香の護衛役、むささびの喜平太が投げたのであった。

実は、木の陰に身を隠していた美保代も、短剣を投げようと構えていた所であった。

姿を現した喜平太は、拙者に遺恨か?と尋ねた狂四郎に、その娘様は生きた観音様だ。こやつを殺しても良いと、御寮人様の許しを受けて来たと言うので、良かろう。互いに、生きていても毒にしかならぬ身だと答えた狂四郎は、喜平太との勝負を受けることにする。

それに気づいて奥から出て来た静香は、この喜平太はむささびの異名を取った男、あなた様にもしものことがあったら…と狂四郎を制止しようとするが、もう狂四郎は剣を抜いて庭先に降りていた。

木の陰から美保代も見守る中、槍を持った喜平太と狂四郎の戦いが始まる。

身軽な喜平太は、狂四郎に自らの槍を斬られると、塀にひらりと跳び上がるが、切断された槍の先は、縁側に座って見守っていた静香の右足を擦って刺さる。

この穂先には毒が塗ってあるのだ。立ち去れ!と喜平太に叫ぶと、静香を座敷の中に誘うと、傷ついた足に口をつけ、血を吸ってやる。

その様子を庭から覗き込んだ美保代は悔しがる。

狂四郎は、住職に、傷の手当ようの焼酎を!と大声で頼む。

空然が焼酎を持って狂四郎の部屋に向かっていた時、武部仙十郎が訪ねて来たので、空然は焦ってしまう。

武部から、大奥に出ると言う化物を調べてくれと頼まれた狂四郎は断るが、水野様を助け、天下万民を助けるのが嫌なのか?と武部から責められる。

しかし狂四郎は、拙者は天下万民等には興味なく、興味がないものに走りが上がらんのだと頑に拒否する。

それでも、武部が、何としてでも林の陰謀を暴いて欲しい。ご世継ぎの竹千代様の命を狙っているのだ!と必死に頼むと、気持ちを動かした狂四郎は、江戸城に参るのは、21万8千坪の中にどんな獲物が現れるか?1人の狩人として入りたい。化物に出会ってみたい…と自らに言い聞かせるように呟く。

その後、江戸城の門に運び込まれる貢ぎ物に付き添う金八の姿があった。

一旦、蔵に置かれた長持の中から出た狂四郎は、刀の鍔を二度討ち鳴らすと、天井隅の板が開き、天井裏に上がっていた金八が縄梯子を降ろしたので、それを伝って天井裏に身を潜める。

その直後、貢ぎ物の改め係がやって来るが、天井裏に登った狂四郎には気づかなかった。

狂四郎は、音を立てないように縁を伝って歩くんだと金八に命じるが、金八は途中で、下の部屋を覗き、上半身をはだけて化粧中の女を見つけると喜ぶ。

そんな金髪の耳をつまんで引っ張って行く狂四郎は、お前は見るなと注意したので、そんなのねえよ、先生…と金八は情けなさそうな顔になるが、また、女同士でいちゃついている大奥の生々しい生態を観て興奮するのだった。

先を急いでいた狂四郎は、時千代の寝所に行き当たる。

既に蒲団に入っていた時千代は、侍女の志摩(塩沢とき)を呼ぶと、今宵も又、あの怖いものが来るだろうか?と問いかけていた。

志摩は、この志摩がおりますれば、ご心配いりませんと慰めていたが、そこに、御典医の室矢淳堂(瀬良明)がやって来て、時千代の脈を取ると、いつもの薬を志摩に手渡す。

夜中、大奥の廊下には、侍女たちが寝ずの番をしていたが、時千代がふと目を覚ますと、目の前に般若のような面をかぶった化物が立って、じっと睨んでいた。

その時、幽霊の正体観たり、枯れ尾花…と言う声が聞こえて来たので、化物が驚いて振り向くと、天井の隅に捕まっていた狂四郎が下に飛び降りて来る。

化物が人間を観て驚いたなど、聞いたことがないなと狂四郎がからかいながら化物に近づくと、化物は廊下に逃げ出す。

騒ぎに気づいた見張り女たちが、長刀を持って駆けつけるが、いきなり化物と遭遇した女たちは悲鳴を上げて逃げ出す。

やがて、勇気のある見張り女が長刀を突き出して、化物を包囲しようとするが、逆に化物に長刀を奪われてしまう。

そこに、引け!引け!と声をかけ、狂四郎が駆けつけて来る。

長刀を持った化物と狂四郎は庭先に降り立ち、その周囲を、提灯の灯を持った女たちがずらりと廊下に立ち、庭先を照らす。

そこに、水野越前守と武部仙十郎も駆けつけて来たので、狂四郎は、ご老体、抜刀をお許し下さるか?と問いかけ、武部が水野の顔色をうかがって許可を出す。

狂四郎は刀を抜き、化物の面と着物を斬ったので、上半身がはだけた化物の正体が明らかになる。

庭先に踞って泣いているのは、御中臈の志摩だったので、周囲を固めていた侍女たちは驚きの声を挙げる。

狂四郎は、これが欲しいから斬ったのだと言いながら、志摩の袂から奪い取った薬を差し出して見せると、武部に薬の吟味を頼む。

一部始終を見届けた水野は、狂四郎、大義じゃと声をかけ、狂四郎は一言、ご免!と言い残して立ち去って行く。

ある日、狂四郎は、「かごめ かごめ」を歌って遊んでいる子供たちを観かけ、近づいて微笑みかけるが、輪を作っていた子供たちはみんなどこかへ逃げてしまい、真ん中で目をつぶっていた女の子は、みんなあっちに行ったよと狂四郎が優しく教えても、急に泣き出して逃げてしまう。

そこに、子供に逃げられてしまいましたねと言いながら、美保代が近づいて来る。

俺の顔つきはよほど異常に見えるらしい…と狂四郎が自嘲すると、あなたの身体から漂っている血の匂い、その殺気が子供を怯えさせるのですと美保代は指摘する。

室矢淳堂の家をご存知か?南蛮渡来の阿片…、その背後に美濃屋があり、その陰に林がいる…。絵図面を描いてくださらんか?奴らの関係を一気に断ち切りたいと狂四郎が申し出ると、美保代はそれには答えず、狂四郎様、あの時私めを獣のように抱いたと言われましたが、あの解きのお気持ちをまだうかがっておりませんと言い出す。

狂四郎はそんな美保代に、あなたは伊予人の一人娘のはず…と狂四郎は怪訝そうに聞くが、私は捨て子でございますと美保代は打ち明ける。

母はしがない河原もの。父は、名もない旅芸人と…と自嘲する美保代に、狂四郎は、言うな!と制止する。

私とて、惨い母親のことがある。疎まれものに育ったは母の秘密故点、秘密はそっとしてやるのが、母への供養と思うと狂四郎は言い聞かす。

美保代は、女として、洩らせぬことを申しました。今でもあの時の事…、あなたのお返事次第では、敵にもなれば、味方にも…と意味深なことを言う。

その時、先生!と叫びながら駆けつけて来た金八が、淳堂を美濃屋が匿いました!と報告する。

そん様子を物陰でうかがっていた小野田玄蕃は、美濃屋と安藤多門らに報告に戻って来る。

美濃屋は、室矢淳堂殺しを狂四郎にかぶせるのだと計画を打ち明ける。

その後、玄蕃は、武器を改めていた仲間らの部屋にやって来て、狂四郎が間もなくここへ来ることを教える。

坊主頭の男は、円月殺法がどんな技であれ、長宗我部の鎖がまの餌食にしてやると薄笑いを浮かべていた。

そんな美濃屋の屋敷に、待ち伏せされているとも知らず、金八と狂四郎が忍び込んで来る。

金八は、すっかり押し込みの技を身につけたようで、淳堂が潜んでいる離れの雨戸の下に水を巻いて、開く際、音を立てないようにする。

狂四郎がそれを褒めると、照れくさそうに金八は、天下のためにと思ってやっているんですから…と照れる。

中に入ってみた狂四郎は、室矢淳堂が倒れていることに気づき慌てて抱き起こすと、下手人は?と問いかける。

すでに虫の息だった淳堂は、「み…、み…」と言いかけて息絶えてしまう。

狂四郎は、部屋の中野机の引き出しの中から薬を見つけると庭先に出るが、そこにはあの坊主頭の男たちが待ち受けていた。

総州秘伝長宗我部の鎖鎌受けてみるか!と坊主頭は挑発し、その背後から、眠様、いつかお会いしようと思っておりましたと愛想笑いを浮かべながら、玄蕃と多門を引き連れて現れたのは美濃屋嘉兵衛だった。

しかし、まずいよ、淳堂をお殺しになるとは…と美濃屋が言うので、拙者ではないと狂四郎は否定するが、この期に及んで白々しい。申し開きはお白州でなさいますか?それとも、地獄の閻魔様の前で?と言いながら、美濃屋は、短筒を向けて来る。

その時、銃声が響き、銃を落としたのは美濃屋の方だった。

同じく単筒を持ち、姿を現したのは美保代だった。

眠様、金八が裏に船をつけていますと美保代は教え、一緒に裏口から逃げ出す。

その場に残った美濃屋は、後を追おうとはせず、この雛の首は狂四郎が所持していたもの。これを淳堂の側に落としておけば…と不気味に笑う。

その後、狂四郎先生は大嫌いなんだよ!と、踊りの稽古をつけながら文句を言っていたのは寿女若だった。

女の気持ちが分からない奴なんて…とぼやいているのは、放っておかれている美保代の事を言っているらしい。

その美保代が出かけようとしているのに気づいた寿女若は、狂四郎様からの大切なお預かりものだよと言い、金八にお供を言いつける。

しかし、表に出た美保代と金八は、外で待ち受けていたと思しき浪人たちの姿を発見する。

一方、龍勝寺の中にある母親の墓参りに来た狂四郎は、そこに既に花が供えられていることに気づく。

そこにやって来た空然が、ご来客だ。静香殿の御縁辺とか…と告げ、狂四郎の表情に気がつくと、寺男が観ていたのだが、その花を手向けたのは、今来ているお客人らしいと教える。

寺に来ていたのは、以前観かけたことがある平山子竜であった。

平山は、訳あって、静香殿の後見を仰せつかっていると切り出す。

貴殿は円月殺法とか言う技をお持ちだそうだが、殺気がなみなみならない。一面識もないそなたに恨みを受けることもないが…と平山は、対峙した狂四郎の自分に対するむき出しの敵意に戸惑いながらも、あの者は、門下の逸材であったが、破門した者…と平山が示したのは、庭先で控えていたむささびの喜平太で、きちんと試合をしてくれぬかと頼む。

それを承知して立ち上がった狂四郎に、お手合わせの前に…と茶を持って来たのは静香だった。

その茶を飲み干した狂四郎に静香は、この試合はなりますまい。今の茶にしびれ薬を混ぜました。美濃屋がくれた薬です。この試合を辞めて頂きたかったからです。この喜平太は、2千人の師範ともなる剛の者と告げるが、狂四郎は、否、止めん。拙者の前に勝敗はない。円月殺法は、はじめにおのれを捨てる剣。留め立ては無用だと言い残し、庭に降りると、槍を持って待っていた喜平太と対峙する。

戦い始めた狂四郎の身体に徐々にしびれ薬が効いて来る。

それでも必死に喜平太の槍を交わす狂四郎は、見事相手を倒す。

見事!円月殺法!と褒め讃えた平山子竜に、平山幸三、みゆきの名に覚えがあろう?と狂四郎は声をかける。

私の母は、あなたの手向けの花等受けません。

名も知れん男に犯され、子を産んだ。そんな母を、兄のあなたは義絶した。

母はその後飢え死にした。非情なあなたを憎みながら…

拙者が今、女を犯し、無頼になったのはそのためだ。静香は拙者が犯す!と言い放った狂四郎の頬を叩いたのは、いつの間にかやって来ていた美保代であった。

薬が廻った狂四郎は座敷で気絶寸前であった。

お女中、いかがなされた?と平山が聞くと、美濃屋と役人たちが、狂四郎様を召し捕りに来ます。室矢淳堂殺害の下手人として…と美保代が言うと、違う!と叫んで起き上がった狂四郎は、下手人は美濃屋でしょう?と聞く美保代に、そなたじゃと突きつける。

そなたは、美濃屋を寝返ったと見せかけ、林と通じていたのだ。

襲われたと思われたときも、自分で薬を嗅いだ芝居だった。駕篭でも待ち受けられたのは、そなたが拙者の帰る場所を敵に教えたからだ。

淳堂死ぬ間際「み」とだけ答えたので、最初は美濃屋かと思ったが、美保代の事だったのだ。

今、雛の首も阿片の薬も、その帯の中にあるはずだ!と狂四郎が責めると、美保代が逃げ出そうとしたので、逃げるな!聞きたいことがある!と狂四郎は止める。

おっしゃる通りです…、養父の仇、水野を果たすことを忘れられませんでした。その一方、女心と申すのでしょうか、あなた様を慕う心が生まれ、そのためにどれだけ苦しんだことか…。夜叉の心で復讐を企み、片方で恋で悩む…と美保代が打ち明けると、いつか、母親が河原ものと言ったな?芝居は母譲りか?と狂四郎は手厳しい言葉を浴びせる。

殺したのは私ではありません!美濃屋です!とそれでも美保代は反論しながらも、淳堂の部屋に行ったのは確かですと言う。

何故に?と狂四郎が問うと、実は、室矢淳堂は両親の仇でございましたと美保代は言い出す。

父の抜け荷の恩恵を受けていたのは淳堂だったのですと美保代は説明し、麻薬を使って時千代様の命を狙っていると知り、夜、離れに行きました。

追求すると、室矢は一切白状しましたが、急に私を殺そうと刃物で襲って来たので、もみ合っているうちに、自分で自分を刺されたのでございますと美保代は話し、これだけ打ち明ければ、後はいかようにも…と、覚悟を決めたようだった。
そこに、美濃屋が役人を連れやって来ると、お小直衣雛の首と命をもらいに来たと笑う。

狂四郎が戦い始めると、平山子竜も御助勢をと申し出、斬り合いに参加するが、温情の押売、お断り申す!と狂四郎は叫ぶ。

しかし、多勢に無勢、平山はそのまま戦い続ける。

美保代も又、簪片手に、美濃屋一味と戦う。

狂四郎は、坊主頭の鎖鎌を断ち切る。

健気にも狂四郎を助けに来た金八が敵に責められ斬られかかるが、美保代と平山が守る。

南町奉行佐藤新十郎が、戦い終わった狂四郎にどうこうを求めるが、その時、待たれい!と声が聞こえて来る。

駈け参じたのは武部仙十郎であった。

たった今、この眠狂四郎は、水野様の家臣、馬廻り役を仰せつかった。水野様ご自身も、本丸御老中を申し上げられた!と役人に告げる。

しかし、それを聞いた狂四郎は、人の得を食む等性に合わん。拙者は1人で生きることが好きなのだ。このお小直衣雛の首、改めて参上つかまつると言い、平山には、母の無念、いつしか知ることもあろう。ご免!と言い残して立ち去って行く。

その後を、先生!と呼びかけながら追って行く金八だった。