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恐妻党総裁に栄光あれ

女房族が亭主をすっかり下僕扱いするデストピアを描いた風刺コメディなのだが、映画としてはきわめて特殊な描き方をしている。

「孫悟空」(1959)などでも使われた、全編ほぼ書き割りセットで、舞台劇のような作りなのだ。

その「孫悟空」の監督だった山本嘉次郎さんが、本作ではメイン役者として登場していると言うのも興味深い。

単なるゲスト扱いではなく、主役に近い重要な役所なのだ。

鈴木清順氏や大林宣彦氏、藤田敏八氏、山本晋也氏など、役者もやる監督自体は決して珍しくはないが、そうした傾向が始まったのは、撮影所システムが崩壊した70年以降のことかと思っていただけに、こんな大御所までもが、60年代当時から本格的な役者を演じておられた事を知り正直驚いた。

映画の方は、書き割りだけと言う訳ではなく、国会の投票をする衆議院のセット等は、それなりにきちんと実寸で作られているし、車移動のシーン等は、いちばん手前が役者が乗り込んだ実物大のセット車、その背後に、別の人間が乗った書き割り風の自動車セットと、その背後には完全な書き割りの自動車…と三層構造で表現しており、なかなか面白い。

東宝技術部によるミニチュア特撮もちょっぴり登場し、ヘリコプターが空に飛来するシーンは、ヘリを逆さまに吊り下げて撮影していたらしく、機体の下の部分にピノ線らしきものが見える。

劇中で、女性たちが「セックスを拒否することで男たちを苦しめる作戦」と言うアイデアは、豊田四郎監督「男性飼育法」(1959)にも登場する、もともとはギリシャの古典劇「女の平和」辺りがネタ元だろう。

名脇役男優たちのへたれ芝居、名脇役女優たちの高慢芝居、どちらも見物である。

特に、久慈あさみさんの威圧感はなかなか。

最近、ほとんど消え去ったジャンルの一つである「風刺映画」と言うものが、当時は結構流行っていたことが良く分かる。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1960年、東宝、川内康範原作+脚色、青柳信雄監督作品。

皆様ようこそ、有島一郎です。(と、スーツ姿の有島一郎がスクリーンに向かって挨拶する)

皆様は日本国憲法をご存知でしょうか?

何?バカにするな?知ってる訳ないじゃないかって?

でも、第24条…、これは婚姻に関する条文なのですが、これだけは覚えておいて頂きたい。

両性…、中性はありませんから、つまり、男女夫婦の平等の権利を保障したものです。

しかし今や、権利を持っているのは世の奥様方の方で、男性は虐げられております。

私は男性を代表として、憲法を無視するな!と訴えるものです。

(有島に向かって、スクリーン側から、袋入りのアンパン等色んなものが飛んで来る)

お止め下さい!私はセリフ通り言っているんですから。

このままだと、世の女房たちはますます恐ろしい存在になり、男は下僕となるでしょう。

後世の学者たちは、これを恐妻期時代と呼ぶでしょう。

19XX年 国会議事堂の書き割り

その中の部屋に集まっていたのは、岩田総理(菅原通済)、谷村外交大臣(渡辺篤)、竹内文教大臣(十朱久雄)ら、そこに、革新党の荒川委員長(千葉信男)がやって来て合流する。

部屋の外では、各新聞記者たちが、与野党のリーダーが同席するとはどういうことなのかと色めき立っていた。

廊下にいた首相秘書官(平凡太郎)は、今日は、ゴルフトーナメントの話ですなどと答えるが、東都タイムスの記者若山春彦(高島忠夫)は納得しなかった。

そこに、歴史学者の藤原弘次郎博士(山本嘉次郎)がやって来て、何故か閣僚たちが集まる部屋に入って行く。

藤原博士は岩田総理に、どうやら記者たちに嗅ぎ付けられそうです。ことは急がねばなりません。我々は新党の声明と、本法案の通過に関しては、与野党一致して臨まなければなりませんと意見を述べる。

すると、革新党も協力しますと荒川委員長が発言し、隣に座っていた竹内文教大臣と固い握手を交わす。

この法案が世間に漏れたら。戦慄すべき大惨事になりますと藤原博士は呟く。

東都タイムスの書き割り

八坂デスク(丘寵児)は、与野党の党首が一堂に会する等、文化が変わっても変化しない何かが話し合われているに違いない。徹底的に取材をするんだと記者たちに檄を飛ばし、若山には、文教大臣を追いかけるよう指示を出す。

竹内文教大臣は、執務室で、誰かと電話中だったが、英語まじりの奇妙な会話で、今日は早く帰るよと伝えて電話を切った後、畜生!今に観てろ!と悔しそうに呟く。

そこに秘書の早川鮎子(白川由美)が入って来て、東都タイムスの方がお会いしたいと来られていますが?と教えたので、わしはもういないと言ってくれと答える。

鮎子が、英語に御堪能な奥様がおられてお羨ましいですわと、竹内に嫌味ったらしく世辞を言った後、外で待っていた若山に、大臣はもうおられませんと伝えると、さっきはいると言ったじゃないか!と若山は抗議する。

それでも、鮎子が冷たい態度で返事をするので、頭に来た若山は、勝手に大臣室に入ろうとするが、他人お部屋に許可なく入るの?と鮎子に制止されたので、君はヒステリーじゃないのか?とつい口を滑らせてしまう。

それを聞いた鮎子は、あなたは女性を一段下等な人間として考えているのですか!それは女性の敵!偏見の固まりよ!と猛烈に抗議するので、勢いに飲まれた若山は失礼を詫びる。

そんなに疑うんなら、自分の目で確かめれば良いでしょうと鮎子が言うので、大臣室のドアを開けてみた若山だったが、中には確かに竹内大臣はいなかった。

竹内は、運転手土屋(由利徹)の運転する車で帰宅していた。

後部座席から竹内は、まだ1人もので、結婚しようと今貯金している所だと言う土屋に、早まっちゃいかんぞ。谷村外交大臣等…と、結婚生活の大変さを教え始める。

(想像)自宅での竹村外交大臣は、あさ子夫人(一の宮あつ子)から厳しい文句を言われながらも、従順な召使いのように、掃除、洗濯、料理等に励んでいた。

その竹村が出かけようとすると、どこに行くの?外出するときは事前協議してくださらないと困りますと、外交史を例に挙げ厳しく詮議させていた。

追いつめられた竹村は、暖炉の火で、尻にやけどをしてしまうほどだった。

(想像明け)その頃、竹内大臣の部屋の前にいた若山は鮎子に、女性の涙をあなたは持っているでしょう?美しいでしょうね〜…とお世辞を言い、何とか、大臣の行方を聞き出そうとしていた。

自分は新聞記者として、何かネタを仕入れないと帰れないんですと泣きつきながら、帰ろうとする鮎子に上着を着せてやる。

その時、上着の襟元に、しゃもじ形のバッジを見つけたのでその意味を尋ねると、全女性連盟のバッジで、会長は藤原先生の奥様ですと鮎子は教える。

その藤原博士は、家では、妻の鳥子夫人(沢村貞子)にお茶を入れて来ていた。

実は、藤原博士の原稿は鳥子夫人が書いているのであり、藤原博士は単にその原稿に署名をしているだけに過ぎなかったのだ。

非常に鋭い目を持つ鳥子夫人は、あなた最近良からぬことを考えていませんか?21年前のロンドンで浮気がバレたときと同じような顔をしています!まさか、女性が子供を産まなくなったので、女性の自由を束縛するようにる秘密法案を準備しているんじゃないでしょうね?とズバリ指摘する。

しかし、藤原博士は、奥でピアノを弾いてきます…と言って座を外すのが精一杯の抵抗だった。

その頃、鮎子は若山と、今日の秘密会議のことを思い出していた。

首相、荒川委員長、藤原博士たちが何故集まったのか?これらの人物はみんな、揃いも揃って恐妻家と言うことです!と鮎子が指摘すると、早川さん!憲法が改正されるかもしれない!再軍備のために!と若山も、ことの重要性に気づく。

大臣が私に絶対見せない書類があるんです。でもその鍵を持っているんです!と言った鮎子は、若山と一緒に竹内大臣の執務室に入ると、戸棚の鍵を開け、その中に隠してあった秘密の書類を発見する。

その頃、帰宅した竹内文教大臣は、妻のよし子夫人(久慈あさみ)に、女性秘書を男性秘書に換えたいと申し出ていたが、男同士が組むとろくなことはありません!とぴしりと言いくるめられ、いつものように英語のレッスンを始める。

所が、竹内の読む声が小さいと叱ったよし子夫人は、あなた!嫌なの?一体誰のお陰で大臣になれたと持っているの!と怒鳴りつけられ、何故、我々女性が政治をを止めたのか分かってる?と問いつめる。

竹内は、陰で操るためですねと答えると、そう、男は勲章を欲しがるが、女性は本当に勝ちのあるダイヤが好きなのとよし子夫人は言い聞かす。

すると、竹内が泣いているのに気づき、男性はすぐ涙でごまかす!いや、いや!と嫌悪感も露な表情になる。

その頃、帰宅した荒川委員長も、女房の増子夫人(清川虹子)から、徹底的に虐め抜かれていた。

荒川は、男も自衛のために、夫婦平等を再認識し、夫は妻を慕いつつ〜♪と歌ってみせるが、浪花節は嫌いよ!と増子夫人から一喝されてしまう。

東都タイムスの八坂デスクは、若山が発見した「亭主安全保障議案」の書類を観て、良くやった!これは憲法改正じゃないか!と褒め、若山も、我が社始まって以来の大スクープです!と興奮していた。

これを知った、100万の女性たちが国会前でデモを繰り広げ、全女性連盟もしゃもじを持ってデモを行う。

いよいよ決戦ですね!と、家で朝食を食べていた鳥子夫人が睨みつけると、今日限り、こんなごちそうは作りませんよと、エプロン姿で給仕していた藤原博士も宣言する。

私も、女性防衛会会長として戦います!と鳥子夫人は宣戦布告をする。

三原国防大臣(田武謙三)は、国会内から外のデモの様子を見ながら、どうも自体は逼迫して来たようだと緊張していた。

そして、岩田総理に、裏口から逃げるように進言するが、総理は逃げるのを潔しとしなかった。

そこに、びりびりに服を裂かれた首相秘書官が入って来て、陳情団が来ます!と伝えたので、三原国防大臣は、新党が結成されても、あなたが総裁にもなれそうにもありませんし、政治家に良心はいちばん邪魔だ。今日はおとなしくお家に帰りなさいと岩田総理に言い聞かす。

その頃、料亭に集結していた新党のメンバーたちに、女性デモ隊に巻き込まれ、ぼろぼろにされた荒川委員長が合流する。

大野木代議士(森川信)は、なかなかやって来ない岩田総理を案じ、ためらっているのかな?と呟く。

大川幹事長(沢村いき雄)は、今や、国民の7割が敵ですと報告すると、それを聞いた藤原博士は、革命は常に世の反撃を受けますと冷静に答え、優しき女性は再び我々の胸に飛び込んで来ます。戦いあるのみ!と宣言する。

その頃、全女性連盟、通称全女連の集会では、皆様に今回の英雄をご紹介しましょう!と、会長の鳥子夫人が、書類を発見した早川鮎子を女性たちに紹介していた。

こうなったら、神々が我らに与えられた武器を使うしかありません。断固として、男性を許さないのです!これは、女性としても苦しいことでしょう。しかし、謝った男性を目覚めさせるには、この道しか残されていないのです!と鳥子夫人は演説する。

かくして、男女は、高天原以来、分裂しました。(と、又有島一郎が登場し解説する)

そして、19秒ごとに生まれていた赤ん坊も生まれなくなりました。

6年目には、有り余った小学校をどう再利用するかが問題になりました。

自宅寝室で寝ようとしていた大野木代議士は、妻の花代夫人(北川町子)に、何とか前のように一緒にベッドインし、黄色いバラをパッと咲せないか?と願い出ていたが、花代夫人は、良いわよ。あなたのお考え次第で…。謝りなさい!反対投票して、あなたが恐妻党に入らなければ、毎晩、花束が作れるくらい、黄色いバラを咲かせてあげるわと誘うような眼差しで答える。

しかし、大野木は、政治的声明なんだから…と申し出を拒否すると、花代の方も、嫌ですよ!と言って、さっさと自分だけベッドに入ってしまう。

かくて其の日… 国会議事堂の書き割り

夜のよし子と、昼のよし子はどうしてああ違うんだろう?と竹内文教大臣はぼやいていた。

今日は、提案上程の日だった。

分かってるでしょうね?私の実力を…と、よし子は竹内を威嚇していた。

オフコース…と言いながら、竹内はさめざめと泣いていた。

岩田総理も妻から、あなた!お分かりでしょうね?手柄になるのは藤原さんじゃないですか。あんな法案で、私をどうこうできるとお思いじゃないでしょうね?あなたにはあんなにお金を使ったんです!と脅されていた。

荒川委員長は、出かける時、増子夫人に小遣いをちょうだいとお願いしていたが、その時、出した財布から100円玉が転がり落ちる。

それを足で踏みつけた増子夫人は、100円あるじゃない。拾わせてやるからと言い、その足を浮かせて、荒川に拾わせると、1円だって出しゃあしませんよ。宣戦布告中じゃないかとぴしりと言う。

とぼとぼと国会に出かける荒川の前に現れた息子治(伊東隆)は、1000円貸すから今の100円をくれ。その代わり利子は1割だなどと言って1000円札を父親に渡して去って行く。

それを観ていた増子夫人は、そのお金が余ったら、下駄か、ハンドバッグか、帯を買って来ておくれよと図々しくも言いつける。

あさ子夫人も谷村外交大臣を家から送り出しながら、あんな法案に賛成なすったら、今度こそダメよ!と一喝していた。

世論をどうぞ!(と、有島一郎が口を挟む)

妻が買ったと思しき買い物の箱をたくさん持たされた通行人(谷村昌彦)は、アナウンサーからマイクを向けられ、職業を聞かれると、職業は亭主です。亭主と言うだけで一生食って行けるんですから、現状に満足していますと答え、妻らしき女性の後を付いて行く。

あれじゃ、まるで狆じゃないですか。すっかり愛玩動物に成り下がっています。(と、有島一郎が嘆かわしそうに言う)

次にマイクを向けられた板前は、威勢の良い、男性優位論を述べていた。

これは負けたと避けんのようですね。口先ばかりうるさくて…(と、有島一郎が嘆かわしそうに言う)

次に、マイクを向けられたのは、貧しい肉体労働者の夫婦のようで、並んで腰掛けて、一つのおかずを訳あって、弁当を食べており、意見を聞かれても、そんなことは金持ちの人たちのことで、私たちには関係ありませんからと言うだけで、仲睦まじそうであった。

これは珍しい!雑種の生き残りか、天然記念物か国宝級ですね。(と、有島一郎が感心したように言う)

1人でわびしい茶漬を食べていた早川鮎子のアパートに、勝手に入って来た若山は、男手がないと言うのは何かとご不便でしょう?等と言いながら、勝手に部屋に置いてあったエプロンを腰に付けると、文教大臣はあなたを首にしたそうですね。でも僕は、新聞記者として面目を保てました。今日はそのお礼を言いたくて…。いよいよ決戦の日ですね。でも女性は卑怯だ。よるの愛情を武器にしたそうですね?と迫ったので、まあと言って、鮎子は盛っていた茶碗を落としてしまう。

夜の愛情は神聖なものです。あなたは女性としてそうした本能は恥ずかしいと思っているに違いない。若くて美しい鮎子さんだから…等と言い、若山は鮎子に手を差し伸べると、ハート形のスポットライトが当たる中、キスをして、色々ありがとうございましたと言い残し、帰ろうとする。

街頭テレビ観に行きませんか?今国会中継やってますよ。僕はあなたを愛します!と入口の所で若山は声をかけるが、鮎子は動こうとはしなかった。

外に出た若山は、街頭テレビに映し出された恐妻党の面々を見る。

藤原弘次郎と大野木謙の脳裏には、妻から言われた言葉が蘇っていた。

三原国防大臣だけは独身だったので、実力があるのは俺だけだと、内心うぬぼれていた。

いよいよ投票結果が発表される時が来た。

投票総数378、可とするもの182票、否とするもの196票、よって、この法案は否決されましたと議長が発表する。

あろう事か、岩田総理は反対票を投じていた。

その直後、臨時ニュースが流れ、恐妻党の面々は大レジスタンスを起こし、全員姿を消してしまったと言う。

新聞マンガでは、四つん這いになった首相が、女に腰掛けられていると言う風刺マンガが載る。

岩田総理は、姿をくらませた恐妻党には、現官僚が8人も参加していたので、会議も開けず困惑していた。

そんな岩田総理を訪ねたのは、あの風刺マンガを描いた横山隆一さんであった。

あんたはろくなものを描かない。あんなものだったら誰でも描けると岩田首相が言ったので、ではどうぞと横山隆一さんがスケッチブックを手渡すと、岩田首相はその場で、横山隆一さんの似顔絵を器用に描いてみせる。

それを見て感心した横山さんは、原稿料を払いましょうと言って、札束を置いて帰ると、岩田首相は当然のようにその札束を自分の財布にしまってしまう。

女性会館に集まっていた全女連だったが、投票の日からずっと、彼女たちは憂鬱な毎日が続いていた。

これまで、便利屋代わりに使っていた亭主たちがいなくなったので、食べ物一つ作れない彼女らは店屋物でごまかしたり、洗濯物が溜まる一方で、困りきっていたのだった。

増子夫人などは、隠れると言っても、金も持ってないのに…と、帰って来ない荒川のことを不思議がっていた。

そんな意気消沈ムードに喝を入れるように、これはまさしく敵の陰謀です!我々のデリケートな所を突いて来ているんです!優しい女心に訴えようとしているんです!と鳥子夫人が断言し、断固、戦おうではありませんか!と全員を鼓舞する。

しかし、その意見に拍手をしたのは、早川鮎子ただ1人だけだった。

一時の同情心で負けてはいけません。亭主の1人や2人、死んでも良いじゃないですか!と言った鮎子は、つい興奮して失言してしまったことを詫びる。

そもそもこんなことになったのも、あなたがあんなものを新聞記者に見せたせいよと花代夫人が鮎子に言う。

少し前まで女性の英雄扱いだった鮎子の立場が、がらりと変わっていた。

どんなことだって、私たちはあやつっていたんです。やはりお1人だとお分かりにならないですね〜…と、鮎子が独身でいることをからかうような発言があったので、かちんと来た鮎子は、会場を後にする。

その頃、東都タイムスの八坂デスクは、あちこちに電話をして、失踪した恐妻党の綿々の行方を探していた。

警察への自殺の届けも出てないようだった。

そんな中、鮎子から若山はいないかと言う電話が入り、その直後、若山からも電話が入ったのを知って一計を案じた八坂デスクは、鮎子には若山が喜んで会うそうですと伝え、若山には、芝公園で彼女に会うんだ!すぐ行くんだ!と命じる。

芝公園のベンチで再会した鮎子は、若山さん、私、奥さんたちに虐められたんですと弱音を吐く。

それで僕に会いたくなったんですね?と若山が目を輝かす。

自制が寂しいとはどういうことです?男は仕事を守り、女は家庭を守る。古いと言うかもしれないけれど…と話していた若山は、持参していたトランジスタラジオをで音楽を鳴らし、僕は新聞記者だもの〜♪仕方がないのさ〜♪と歌い始める。

鮎子は、つまりあなたは男なのね。分かりました。チャオ、チャオ!ただ…と一旦去りかけた鮎子は戻って来ると、この間のキスのお礼を挙げたかったのと言うので、喜んだ若山が目をつぶって唇を差し出すと、いきなりその頬を叩いて帰って行く。

その頃、岩田総理は、三原国防大臣他数名の大臣と共に料亭で悩んでいた。

このままでは閣議が出来ない。主流としては、もはや内閣改造しかないと三原国防大臣は提案する。

そんな中、トランジスタラジオで競馬かなにか聞いていた大臣が、臨時ニュースが入ったと言い、イヤホンを外し、ボリュームを上げて全員に聞かせる。

当局の探知した所によると、脱走議員たちの居所が判明したと言う。

それは、上州赤城山の山中であった。

「恐妻之碑」を作った藤原博士以下、脱走していた議員たちが全員集合していた。

上州と言えば「嬶(かかあ)天下」で有名な、言わば敵の本拠地。ここを独立確保したのであります!と藤原博士は演説を始める。

建国以来、おしとやかで賢かった日本女性は、民主主義の名の元、女性は凶暴になり、男たちは、あるものは発狂し、自決したのであります。

今日ここに、独立宣言をするものであります!と藤原博士が述べると、全員がバンザイをする。

その頃、麓からの道の中間点にある監視所では、大川幹事長ら数名が、ニュースで知り、下から登って来た新聞記者たちを阻止していた。

血判署に署名したものでさえ裏切ったのだから、記者も通す訳にはいかんと大川幹事長は言う。

そんな中、若山はスクープを狙い、匍匐前進で道なき道を1人で登っていたが、気がつくと側に鮎子もいるではないか!

鮎子は、あなた見直しました。あの晩のあなたはとってもステキでした等と言う。

監視所では、麓から4人の女性陣が登って来たのを望遠鏡で確認していた。

藤原博士たちがいる「恐妻之碑」の場所まで登って来た4人の女性は、全日本女性を代表し、勧告します。即刻解散して下山、家庭に復帰しなさい。忠実なる亭主として、妻に仕えること。返事はイエスか、ノーか!と勧告分を突きつける。

それを受け取った藤原博士は、今は北条 時宗の心境だ、答えはこれだ!と言って、手紙を投げ捨てる。

麓の旅館「ふもと」には「全女性連盟捜査班御宿」の立て看板が出ていた。

駆けつけて来た脱走議員の妻たちが、ここに集結していたのだった。

彼女らは、成果なく戻って来た4人の女性たちを叱りつけていた。

鳥子夫人は、裏を見るのです。女なしで暮らせるものですかとたかをくくっていた。

しかし、恐妻党の脱走議員たちは、山の中で、学生時代のキャンプのような生活を楽しんでいた。

彼らはみんな、料理、洗濯など、家で鍛えた生きるすべを身につけていたので、何不自由はなかった。

竹内文教大臣などは、女のいない生活がこんなに楽しいとは思いませんでしたと嬉々として語っていた。

荒川委員長が薪割りをしていると、割れた木材が跳ねて、ちょうど山に登って来た運転手の土屋のおでこにぶつかる。

竹内が何故山に?と聞くと、先生の教え通り結婚不履行したら訴えられたのだと言う。

それを聞いた竹内は、結婚するより、刑務所にいた方がどんなに楽か…と慰める。

その頃、麓の旅館「ふもと」では、結婚するって言って、私の貞操を…と、土屋と結婚予定だった女が駆け込んで来て、全女連幹部を前に、さめざめと泣いていた。

山から引きずり降ろしましょう!と、事情を知った女性たちはいきり立つが、それが不思議、女なしでは一日もいられないと思ったのに…と、意外としぶとく抵抗を続けている亭主たちをよし子夫人は首を傾げていた。

彼女たちは、巫女(若水ヤエ子)を呼び、亭主たちの声を聞かせてもらうことにする。

ところが、各妻たちに聞こえて来た亭主の声は、みな楽しそうなものばかりで、女性がいなくても一向に平気のようだった。

こうなった以上、男のセックスに訴えるしかありません!と鳥子夫人は言い、花代夫人は準備OKですと答える。

その夜、藤原博士、谷村外交大臣、竹内文教大臣らと共に、同じ山小屋で寝ていた大野木代議士は悶々としてなかなか寝付けなかった。

家を出てから半月、彼らの禁欲生活も限界に近づいていた。

身体の内側から湧き出てて来る性欲で、3大臣は一斉に身震いする。

その時、どこからともなくベッドの横に水差しご用意できてる?などと言う艶かしい花代夫人の声が聞こえて来る。

それは、山を登って来た花代夫人が、スピーカーを通じて話している声だった。

それを聞いた大野木は動揺するが、藤原博士は、敵の煽動工作に乗るんじゃない!と叱りつける。

今夜は何本、黄色いバラを咲かせましょう?などと甘えていた花代夫人は、自分の腕を吸って、偽キスの音をスピーカーから流したりする。

やがて、藤原博士は、幹部が一カ所に集まっていてはまずい。各小屋に散って、部下たちを激励鼓舞してくださいと言い出す。

すると、喜んで山小屋を出た大野木は、花代夫人の声のする方向へ降り始める。

その時、カンテラを持って上がって来た荒川委員長と出会ったので、見逃してください、武士の情です!と、泣きながら大野木が頼むと、荒川は黙って頷き、大野木を行かせてやる。

翌朝、恐妻党の男たちは、上空に飛来したヘリコプターが、パラシュートで、女性用の下着を大量投下して来たので浮き足立っていた。

みんな女性の下着のを抱きしめたりして見苦しいので、藤原博士は、お帰りなさい!と党員たちに声をかける。

残ったのは幹部だけだった。

去る者は去れ!藤原博士は諦めたように呟く。

旅館「ふもと」では、男性軍の完敗だな…と若山が鮎子に話していた。

今こそ絶好のチャンスです!残党を取り残したら、私たちの真の目的は達成できません。今夜6人に切込みをかけます!と鳥子夫人は述べる。

山にこもっていた藤原博士の元に、アメリカ恐妻同盟他から、諸君らの英雄的行動を支持すると言う励ましの電報が届く。

こうした世界からの反応を知ると、むざむざと降参するわけにはいかなくなる。

皆さん、世界は観ています。最後まで戦いましょう!藤原博士は、残った6人の幹部たちに訴える。

運転手の土屋だけがバンザイをするが、他のメンバーたちはもうすっかり意気消沈の状態だった。

縁が落とした女性用の下着を焼き捨てていた藤原博士に、土屋が、来ましたよ!と叫ぶ。

麓から、全女連の幹部たち、つまり彼らの女房本人が乗り込んで来たのだ。

共済連の残党たちは、一斉に別々の山小屋に逃げ込み、中から鍵をかける。

しかし、自分の女房がドアの向こうに立ち、開けなさい!と言葉をかけて来ると、すっかり飼いならされていた亭主たちに抵抗するすべはなく、条件反射のように開けるしかなかった。

増子夫人と共に、山小屋を抜け出し、「恐妻之碑」の所までこっそりやって来た荒川委員長は、既にその周囲で、他の幹部とその妻たちが抱擁しあっている様を目撃する。

土屋も、最後まで恐妻党バンザイと唱えていたが、やって来た結婚不履行相手に籠絡されてしまう。

最後まで、山小屋から出て来なかったのは、藤原博士ただ1人だけだった。

それ以外の夫婦たちは、全員、旅館「ふもと」に降りて来ていたが、すっかり亭主たちは妻への下僕に戻っており、妻たちの食の給仕係に成り下がっていた。

大野木等は、朝っぱらから、生卵を何個も花代夫人から飲まされていた。

その様子を部屋の隅で観ていた若山は、あんな平等なんてあるものか!男の寛大さに女性が甘えているんだ!と憤慨していた。

しかし、側にいた鮎子は、私は男性を信用しません!あなたみたいな思い上がった人は特に!と反発していた。

そんな2人だったが、いよいよ全女連会長鳥子夫人自らが山に登ると知ると、最後の1人の運命が知りたくて、一緒に山に登ってみる。

藤原博士は。「恐妻之碑」の下で1人力なくしゃがみ込んでいた。

そこに近づいて来た鳥子夫人は、あんたも強情な方ですね。あなたのことですから、信念にかけても山を降りないでしょう。ではお元気で…と帰りかけ、せめて、お風邪を召さないように…、ご健闘をお祈りしますと言いながら、しゃがみ込んだ藤原博士の方に自分がかけてきたショールを優しくかけてやる。

それを、近くから覗き観ていた若山は、分かった?やっぱり折れるのは女房の方だよと、横にいた鮎子に囁きかける。

ところが、藤原博士は立ち上がると、俺が悪かった。もう山を降りるよ。もう意地も心もなくなってしまった。憲法学者なんてくそくらえ!政治とも縁を切る!お前の愛情を知った…と言い出したので、鳥子夫人も、私も悪かったのよと謝る。

こんなにおひげが伸びて…と夫をいたわる鳥子夫人。

それを観ていた鮎子は、私、決心した!結婚するわ!と言い出したので、あの2人を観て考え直したの?と若山が聞くと、結婚するんです!と鮎子は積極的に迫って来たので、怖じ気づいた若山は逃げ出す。

それを追いかける鮎子。

若山は必死に逃げながら、冷静に!落ち着いて!と、追いかけて来る鮎子に声をかけていた。

おやおや…、あれで又、洗濯や料理がうまい亭主が1人生まれるだけじゃないですか…(と、また、有島一郎が登場する)

やがて、それが幸せだと思うようになるでしょう。

キスする若山と鮎子の姿

皆さん、こんな時代じゃなくて良かったですね。ご主人も奥様方も、くれぐれもおいたわり下さいますように…(と、有島一郎がスクリーンに向かって挨拶する)