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帰って来た若旦那

ライバル関係にある菓子店の主人柳家金語楼と清川虹子の息子と娘が恋仲で…と言う、現代版「ロミオとジュリエット」のようなラブコメ映画。

二軒の菓子店中心に話が展開する所から、舞台劇や後のテレビのホームドラマの雰囲気に近いような所もある。

清川虹子は、こうした男と対立する女社長とか女親分のような役柄が多い。

主演の鶴田浩二は、当初松竹作品中心に出ていた人だが、1954年頃から新東宝や大映等他社作品にも出るようになり、1955年当時は、東宝や東京映画、宝塚映画と、東宝系映画と大映への出演が多くなる。

60年以降、東映に主軸を移すまでの間、東宝系作品が多いのだが、この時期の鶴田浩二は、それなりに優遇されている印象はあるものの、あまり役に恵まれていると言う感じがしない。

女にモテる優男と言うステレオタイプな役柄が多かったからかもしれない。

この映画でも主人公ながら途中まで出番がなく、登場してからも、二階の部屋に居座っているだけでほとんど動きがなく、最後にちょっとアクションを披露している程度と言った印象。

主役は、前半が柳家金語楼で、鶴田浩二は、後半の主役のようにも見えるからかもしれない。

むしろ、この映画では、恋人役の司葉子、許嫁役の北川町子等、女優陣の方の印象の方が強く、中でも、新橋芸者夢千代を演じている藤間紫の明るいキャラクターが一番魅力的なような気がする。

二番目に明るく魅力的なのは妹役の宮桂子ではないか?

この宮桂子と言う女優さん、谷口千吉監督版「潮騒」(1954)や「乱菊物語」(1956)などに数本出ているだけで、その後の活躍が分からない方だが、早い時期に芸能界を引退でもされたのだろうか?

なかなか愛らしい女優さんだけに、もっと活躍して欲しかったような気がする。

この時期の平田昭彦は悪役も良く演じているが、この作品でも、口が巧く嫌な感じの悪役を良く演じている。

話自体はたあい無いと言ってしまえばそれまでだが、要は、二つの家の間のいざこざ劇と言うことなので、映画としてはいかにも地味。

コメディと言っても、今の感覚で大爆笑と言ったものでもないし、この当時の、こうしたホームドラマに慣れていないと、ちょっと退屈に感じるかもしれない。

個人的には、こうしたさりげない明朗ホームドラマのようなタイプも嫌いではないので、そこそこ楽しめた。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1955年、東宝、楓誠二原案、若尾徳平脚本、青柳信雄監督作品。

路面電車が走る銀座の風景をバックにタイトル

カステラが自慢の菓子屋「南蛮堂」の店先に帰って来た娘の岸本不二子(宮桂子)は、店に顔を出した父親の平太郎(柳家金語楼)から、表から入って来る奴があるか。商売人ならそのくらい気をつけなさい!と叱られ、店の横から廻った裏の入口から入り直す。

それを出迎えた姉の春江(北川町子)は、悪い時に帰って来たわね。山崎さんがお給料を上げろと言いだしたので、お父さんの機嫌が悪いのよと不二子に笑いかける。

職人の山崎(渋谷英男)を前に、平太郎は、何も不平を言わない五十嵐を見習えと言い聞かしていたが、五十嵐さんは親の代からの使用人だから自分とは違いますよ。給料を上げてもらえないのなら辞めますよと山崎は言う。

では今すぐ辞めてもらおうと平太郎は怒りだし、ここを出てどうする気だと聞くと、もうすでに櫻ベーカリーから来てくれと声がかかっているのだと山崎は得意そうに言い返し、そのまま山崎は店を出ることになる。

横で一緒に話を聞いていた番頭の堀部(森川信)は、まさか櫻ベーカリーとはと驚くが、平太郎は、この前、この店を買収に来て断られたもんだから…と、今回の件は、近所に出来た新興の洋菓子屋櫻ベーカリーの嫌がらせだと気づく。

相手には資本がありますから…と堀部が心配すると、資本ならうちにもあります!と言って平太郎が見上げたのは、壁にかかった、今はアメリカに留学中の息子修一(鶴田浩二)の写真だった。

修一さえ帰ってくれば…と、平太郎は頼りにしていたが、実は、その修一の留学費を捻出するために、店を抵当に入れていたのだった。

店を出ようとしていた山崎は、同じ職人仲間の五十嵐(千秋実)にも、一緒に店を出ようと誘っていたが、五十嵐は動こうとしなかった。

お前、春江さんに気があるんだろうが、あの人は修一さんが戻ってくれば結婚の約束があり、そのために養女になっているんだと山崎は説得するが、結局、五十嵐は動きそうにもないと分かり、1人で店を後にする。

その時近くにいた平太郎は、春江に塩を持って来させ、今山崎が出て行った勝手口に塩をまくが、ちょうど向かいから出て来た新橋芸者の夢千代(藤間紫)にかかってしまう。

怒った夢千代だったが、気を取り直して、若旦那どうしています?と聞く。

何しろ、修一と夢千代とは小学校時代の同級生だったからだが、平太郎は芸者をバカにしているようで、店の中に戻ってしまったので、憮然とした時、春江が謝りに出て来る。

一方、南蛮堂のライバルになった櫻ベーカリーの店では、さっそく店を移って来た山崎を出迎えた店主の菊池桜子(清川虹子)の元に、金融ブローカーの望月(平田昭彦)がやって来る。

望月の真の目的が、娘の杏子であることを知っている桜子だったが、口がうまく、今後何かと役に立ちそうなので愛想良く迎える。

その望月、今日は、南蛮堂の証文が手に入ったと言って見せる。

桜子はその証文、譲って頂けないかと頼むが、杏子さんと結婚する時にお渡ししましょうなどと望月は言い、南蛮堂も買われるのですか?と聞いて来る。

すると、桜子は、あっちにこの店を移し、ここは喫茶店にしたいのだと言う。

それを聞いた望月は、だったら、アメリカ式のサーラファウンテンにしては?半年もすれば元が取れますと教え、今夜、食事でも?と誘う。

桜子は、望月が京子に会いたがっていることを承知で快諾すると、その場から自宅に電話を入れると、杏子を呼び出す。

しかし、電話口に出た娘の杏子(司葉子)は、望月さんと一緒なら嫌だと拒否する。

電話を切った杏子の元に、お手伝いが手紙が届いたと持って来る。

それを読んだ杏子の表情が明るくなる。

南蛮堂の息子で、杏子の恋人である修一からの手紙だったからだ。

その頃、南蛮堂にも修一からの手紙が届いており、無理して勉強したせいで、風邪を引いて寝込んでいた。この頃は時々お父さんのことを夢に観ますと書かれた内容を不二子が平太郎や春江に読んで聞かせていた。

平太郎は、わしの方は毎日修一のことを夢を見ているよなどと懐かしがるが、一緒に聞いていた堀部は、修一さんはあちらでもさぞおモテになっていることでしょうね等と口走ってしまい、許嫁である春江が目の前にいることに気づくと、失言を取り繕おうと焦る。

しかし、当の春江は、仕事中の五十嵐に、兄さんから手紙が来たの…と報告しながらも、何か話をしたそうだったが、すぐに平太郎から呼ばれたので奥に戻るしかなかった。

櫻ベーカリーでは、一向に杏子がやって来ないので、望月は諦めて帰っていた。

その日の夜、春江と五十嵐は、町を歩きながら、私たち、一体どうなるんでしょうねと相談しあっていた。

実は、2人は恋仲だったのだ。

いっそのこと、お父さんに言ってしまおうかしらと春江が言うと、五十嵐は大旦那さんを立腹させるだけですと困惑する。

人目をはばかり喫茶店に入っても、家の中でもゆっくり話せないし、外でもびくびくして会わなければならない自分たちの関係に春江は落胆していた。

春江は、亡くなった実父を恨むと言い出す。勝手に修一との許嫁関係を平太郎と約束してしまったからだ。

私は修一さんが好きだけど、それは兄さんとしてよ。修一さんは杏子さんが好きなのよと春江は五十嵐に説明する。

それを聞いた五十嵐は、でも櫻ベーカリーのお嬢さんでは、大旦那さんが許すはずがありませんと困惑する。

その頃、自宅に帰って来た桜子は、手紙を書いていた娘の杏子の部屋に来るなり、望月に会いに来なかった今日のことを叱りつける。

そして、机に置いてあった修一の写真と手紙を発見すると、こんな不良なことを考えていたのね!絶対にあきまへん!と言い聞かそうとするが、杏子は、望月さんと言う人、にやけていて嫌い!母さんが未亡人ながら大阪から出て来て苦労して来たのは知っているけれど、まさか、封建的な政略結婚考えてるんじゃないでしょう?と尋ねるが、お母さんは絶対に、その息子だけは許しまへん!と桜子は譲らなかった。

翌日、春江は平太郎に、何とか五十嵐とのことを打ち明けようと話のきっかけを探っていたが、その時、堀部が、来ました!と平太郎に言いに来る。

平太郎は税務署かと怯えるが、来たのが、櫻ベーカリーの桜子と知ると気を取り直し、又、買収の話に来たのかと鷹揚に相手をしにいく。

しかし桜子は、修一から杏子へ来た手紙を差し出し、うちの京子にラブレターなんか出させないでくれとバカにしたように告げ、偉そうな顔が出来るのももう少し、この店も近いうちにうちのものになるなどとうそぶく。

平太郎はそんな話を信用しなかったが、細見は私のものになるんもで、この店、明け渡してもらいます。今月中に借金が払えなければ店をもらいますと言う桜子に対し、平太郎は、私も男だ!返します!と見栄を張るが、桜子が帰ると、もはや、修一を呼び戻すしかないと、声をかけに来た堀部に弱音を吐くのだった。

堀部は、月末までまだ半月もあるので、すぐに電報を打ちましょうと答える。

その頃、櫻ベーカリーに来ていた杏子は、母親の横暴に抵抗していた。

その時、山崎が焼き上がったばかりのカステラを店に来て、大量生産すれば、安く売れると、マネージャーと共に太鼓判を押す。

南蛮堂では、不二子が春江に、五十嵐さんのことをお父さんに話したの?と聞いていたが、今はお店が潰れる間際なので話す機会がないし、不二ちゃんは実の娘だから自由にお父さんに言えるんでしょうけど、私は色々世話になっているので言いにくいのだと春江は説明していた。

その後、櫻ベーカリーでは、カステラの一割引セールを始める。

客を奪われたと知った平太郎は、南蛮堂でも一割引セールを始める。

それを知った桜子は、カステラで儲けが出なくても、他で儲ければ良いんだからと言って、二割引を敢行する。

平太郎も、もはや意地となり、二割引にしようと言い出すが、うちは炭で焼いているので、1時間に2つしか焼けず、とても商品が間に合わないと堀部から聞くとがっかりする。

修一からの返事も届かないし、もはや打つ手はないと諦めかけていた平太郎に、堀部は、最後のご決断をご決心なさって下さいと言い出す。

何事かと言えば、桜子を色仕掛けで口説き落とすのだと言う。

それを知った平太郎は、よりによって、あんなオムライスみたいな女、中トロならともかく、大トロ!とバカにする。

しかし、番頭の堀部は、やってもらわないと、一家心中も免れません!と真剣に頼み込む。

一方、櫻ベーカリーでは、望月が桜子に、新しい喫茶店の設計図を披露しながら、アメリカから技師が来ますと説明し、英語だらけの書類にハンコを押させようとする。

桜子は、全く読めない英語の書類に戸惑いながらも、ハンコを取り出すと、望月がそれを受け取ろうとしてわざと床に落とすと、テーブルの下で拾う振りをしながら、用意していた別の書類に勝手に押印してしまう。

望月が引き上げた後、南蛮堂から手紙が届き、今夜会いたいと書いてあったので、借金の支払を延ばして欲しいと頼んで来るつもりに違いないと察する。

その夜、堀部と共に料亭にやって来ていた平太郎は、「女の口説き方」なる本を熱心に読んでいた。

平太郎は、女をくどくなんて経験がないので、お前が代わりにやってくれないかと頼むが、堀部も経験がないので…と尻込みし、女に酒を飲ますと、気が大きくなりますし、貞操観念も緩みますなどとアドバイスし、自分は姿を隠す。

そこへ桜子がやって来たので、平太郎は作戦通り酒を勧めるが、酒に強い桜子は、小さなお猪口を断り、丼を差し出して酒を飲み始めながらも、借金の締め切りの譲歩はしまへんでと先手を打つ。

平太郎は、少し酔って来た桜子に抱きつこうと身を寄せるが、あっさり交わされ、畳に手を付いてしまったので、ごまかすためにノミがいたので…などと言い訳する。

すると桜子は、ノミがいるような所に長居は出来ないと言い出し、帰りかけたので、慌てた平太郎は、肝心のお話が…と押しとどめ、仲人を立ててお話すべきなのですが…、あなたさえ宜しければ…と恥ずかしそうに打ち明けるが、それを聞いた桜子の方も急に態度を変え、しおらしくなる。

私をおちょくってんのやありまへんで!と牽制しながらも、この年であんな若い良い男はんと結婚するなんて…、息子はん、おいくつと聞く。

平太郎は戸惑いながらも、26ですが…と答えると、わてと17違いやな…などと、うっとりしながら桜子が言うので、相手が違います!私!と平太郎が相手の誤解を訂正すると、あほ!鏡観なはれ!と激怒した桜子はさっさと帰ってしまう。

そんな料亭に来ていた望月は、廊下で芸者の夢千代と一緒にいたが、桜子の姿を観かけると慌てて身を隠す。

番頭の堀部が心配して部屋に戻って来ると、こうなったら自殺するしかないと、平太郎は意気消沈していた。

それを聞いた堀部も、責任の一部は私にもあるので、自分も御供しましょうと言い出し、2人は手を取り合って泣き始める。

その時、床の間の電話が鳴りだしたので堀部が出ると、不二子からだったので平太郎に渡す。

何と、修一が帰って来ると言う知らせだったので、喜んだ平太郎と堀部は、又、手を取り合って泣いて喜ぶのだった。

一方、別の座敷に来ていた望月は、今度、喫茶店が俺のものになるので、君その店をやってみない?などと夢千代に勧めていた。

夢千代は、考えといてみるわと答える。

翌日、運勢の本を読みながら、修一の結婚式の日取りを考えていた平太郎の側にやって来た不二子は、姉さんには他に好きな人がいるのよ。五十嵐さんよ。噓だと思うんなら姉さんに聞いてみたらと話しかけたので、驚いた平太郎は春江を呼び寄せる。

そして、自分は、お前の死んだ父さんと誓ったんだから、それを破ったらあの世のお父さんに顔向けできん!と叱りつける。

それを聞いた不二子は、お父さんは横暴よ!修一兄さんだって杏子さんが好きなのよと文句を言うが、頑固な平太郎は、何と言っても春江は修一と結婚するんだ!と言うだけなので、不二子はサイテーねと呆れる。

24日、芸者の夢千代が南蛮堂の店先にやって来て、店番をしていた不二子に、修一さんが帰って来るって本当?と聞く。

不二子は、今、姉さんと父さんが空港に迎えに行っている所よと教える。

羽田空港に来ていた春江、平太郎、堀部たちだったが、乗っているはずの飛行機が到着しても、修一が降りて来ないので不思議がっていた。

堀部が確認してみた所、一便前の飛行機で既に着いていると言うことだったので、じゃあもう店に帰っているわと春江は慌て、3人は急いで店に帰ることにする。

店で別の客の対応をしていた不二子は、店先にやって来た男性を兄だと最初は気づかなかった。

久々の再会を喜んだ不二子だったが、兄さん、明日結婚するのよ、春江姉さんとよ。父さん、勝手に決めて、みんなに通知しているのよと教える。

それを聞いた修一は驚き、嫌だよ、断るよ…。談判して辞めさせるよと言うが、不二子は、父さんたちが帰って来るから、兄さん隠れて!と言い出す。

隠れるったって、どこへだよ?と修一が戸惑うと、裏の夢千代さんの所に行っててと不二子は勧める。

そこに、平太郎たちが帰って来る。

置屋にやって来た修一は、夢ちゃんはいますか?と言って、夢千代を呼ぶと、今、家に帰れないんだ。しばらくここへ置いてくれないかと頼む。

一方、店にも修一がまだ帰ってない事を知った平太郎は、羽田に確認電話しようと言い出し、自ら電話を取る。

番頭の堀部は、確か電話番号は、羽田の…と言ったので、平太郎は「はげた?」と聞き間違えて怒る。

その後も、電話相手に、乗って来た飛行機会社名をノースイースト菌と言ったり、アメリカパン等と言い間違え、しどろもどろの説明で、一向にらちがあかない。

その頃、修一は、夢千代の母親が相手をしていたが、夢千代が二階に誘ったので上がって行く。

その修一の姿を見かけた他の芸者たちは、若旦那って良い男とは聞いていたけど、想像以上だわ〜…とうっとりしていた。

夢千代は、見番に電話して、今日の仕事は断ってよと母親に頼んでいた。

二階に上がった修一に、世話女房気分で浮き浮きしながら着物を着せてやった夢千代は、あんたんとこのお父さんがやかましいのよと嫌味を言い、二階の窓から見える南蛮堂の奥の間の様子を2人で覗く。

そこでは、いら立った平太郎が番頭の堀部相手にあれこれ叱りつけていた。

その時、南蛮堂に電話がかかって来たので、修一からかと喜んで出た平太郎だったが、相手は杏子で、修一さんはもう帰られましたか?と聞くので、まだですが、あなたは?と聞く。

しかし、杏子は乗らず電話を切ってしまったので、平太郎は、謎の女からの電話だと言って怪しむ。

とにかく、肝心の修一の行方が分からないので、まさか、誘拐されたんじゃないだろうなとまで平太郎は心配し始める。

一方、自宅にいた杏子の家へいきなりやって来て、留守だって言ってとお手伝いに断らせようとしていた杏子の部屋にずけずけと入ってきたのは望月だった。

勧められもしないのに、勝手に椅子に腰を降ろした望月は、大したものじゃなく、100万程度のものなのですが…などと嫌味っぽく説明しながら、持って来た指輪を差し出す。

しかし、そんなものは受け取れないと杏子が断ると、お母さんは私とあなたのことは飲み込んでいますと望月は言う。

望月からはなれたい杏子が、これから銀座に出かける所ですと言って出かけようとすると、望月も立ち上がり、自分も銀座へ出るので車でお送りしましょうと無理矢理誘う。

夢千代の家の二階から、隣の自宅の様子を眺めていた修一は、オヤジの奴落ち着かないんだよと呆れるが、夢千代の方は、いつまでもここにいてよ。私、帰したくないのよと甘え、このお菓子だって、あんたんとこの世と言いながら、茶菓子を勧めるが、修一は、僕は甘いものは苦手なんだと断る。

すると、夢千代は洋酒を持って来て、私と差しで一杯やってよと言い出す。

それでも修一は、これから大仕事があるんだ。春江との結婚式を辞めさせないとと言うので、ここにだって候補者がいるのにさ…。親友だけじゃつまらないわ。あっちで、青い目のこれでも出来たんじゃないの?と言いながら小指を立ててみせた夢千代は、大和撫子って世界一って言うでしょう?修ちゃんだって、小学校の頃はわんぱくだったじゃない?などと自己宣伝をする。

小学校時代のことを言われた修一が、僕は、女の子を虐めたりしなかったぜと言うと、あの頃、予約しとけば良かったわなどと夢千代は諦めきれない様子。

そこに、下から芸者が寿司を持ってやって来て、かいがいしく修一の世話を焼こうとし始めるし、もう1人の芸者もおしぼりを持って来て、お体をお拭きしましょうか?等と言いだしたので、あんたたち、いい加減にしなさいよ!ここは私がやるから、早く降りてよ!と怒鳴りつける。

本当にこの頃の若い子って!と夢千代が呆れていると、又誰かが登って来たので叱りつけようとするが、それは不二子だった。

さっき電話があったの、杏子さんかも…、今日帰ること知らせてたの?と、不二子は兄に知らせに来たのだった。

知らせたけど、迎えに来るなって言っといたんだが…と修一が言うので、杏子さんって誰?と夢千代が聞くと、櫻ベーカリーの娘さんと言うので、あの店なら、近いうち、望月さんって人のものになるらしいのと夢千代は、料亭で聞いた話を教える。

望月って誰だ?と修一が聞くと、金融ブローカーのような人で、櫻ベーカリーの経営者にならないかって口説かれたのと夢千代は打ち明ける。

そして、杏子さんってどんな人?何か約束でもしてるの?隠さないでよ!モヤモヤするのよと夢千代が気になるように聞くと、杏子さんは僕の恋人!とズバリ修一が答えたので、又随分はっきりと言ったわね。我が夢去りぬか…。でも親友として手伝うわと言ってくれたので、さすが新橋芸者の夢ちゃんだ!と修一は褒める。

修一が電話をかけてみると言い出したので、夢千代は電話を二階に切り替えさせる。

その頃、杏子は望月に送られて、櫻ベーカリーの店にやって来ていた。

望月は指輪を母親の桜子に見せ、桜子ももらっときなさいと勧めるが、そんなものもらうつもりはありません!どんな意味のない贈り物も望月さんからはもらえません!全部気に入らないのよ。お母さん、少しは察してよ!と杏子はきっぱり拒否し、店を出て行く。

その後、南蛮堂にやって来た杏子は、修一さん、まだお帰りになりませんか?と聞くと、奥から出て来た平太郎が、用がなかったらこないで下さい。修一は明日結婚式ですから、変な噂を立てられたら困ると言い放つ。

それを聞いた杏子は驚き、店を出るが、その直後、南蛮堂に電話がかかって来る。

平太郎が出てみると、それは修一からで、今は都内某所にいると言い、明日の結婚式は止めて下さい。春江は五十嵐と結婚させて下さい。自分は大分遠方にいるのですぐには帰れませんと言って電話は切れる。

その電話は、夢千代の家の二階からかけていたのもだが、修一は、ダメじゃあの調子じゃ…とがっかりし、こうなりゃ持久戦だ!と言い出す。

一方、自宅に帰って来た桜子も、お母さんは諦めへんで。持久戦やと京子に言い聞かせていた。

あんな良い人なかなかいないと望月のことを褒めた桜子は、私行くわ。修さん、明日結婚するんですって、私だって、結婚する相手くらいあるわよ!と急に態度を変えた京子に驚くが、娘が泣いているのに気づくと、桜子の方もついもらい泣きしてしまうのだった。

翌朝も、平太郎は苛ついていた。

春江がとうとう家出し、書き置きを残していたからだ。

少し困らせてやった方が良いんだ…、春江が来ていた隣の二階から平太郎の様子を覗いていた修一はそうつぶやき、五十嵐も呼ぶか?と春江に問いかける。

しかし、春江は、そんなことをしたらカステラが焼けないわ。五十嵐さんが後で怒られたら可愛そう…と心配する。

それを聞いた修一は、春江、なかなか良いぞ!と褒める。

その後、櫻ベーカリーに出向いた修一が、ご主人はおられますか?とマネージャーに聞くと、主人は出かけていますが、お嬢さんなら奥におられますと言うので、奥に入っていく。

少し太ったんじゃない?昨日電話くれたんだって?と修一が笑いかけると、何故か杏子は硬い表情でいいえと答える。

今日、結婚式なんですってね?と杏子が言い出したので、からかわないでくれよ。じゃあ、君は僕が本当に結婚すると思ってるの?オヤジが勝手に決めてるだけなんだと修一は笑うが、杏子の表情は変わらず、私も今夜、婚約するのよと言うので、修一は困惑し、本当に結婚する気ないんだ。だから、まだ家にも帰ってないんだと説明する。

まさか、結婚するなんて本当じゃないんだろうな?と修一が唖然として聞くと。あなたが結婚するって言うものだから、悔しくって…、やけになって…、ごめんなさい!と杏子は事情を打ち明ける。

僕は今家出してるんだよと修一の方も説明しながら、お土産と言ってネックレスを杏子に渡す。

杏子は喜ぶが、その時店に戻って来た桜子は、修一の姿を観ると、あんた、何しに来たんや?と睨みつける。

しかし修一は、こちらに呼ばれたものですから。改築を承りましたので、私が専任技師として…と答えると、色々オヤジといざこざがあったそうですが、お詫びしますと頭を下げる。

それを聞いた桜子は、唖然としながらも、仕事にかこつけて杏子を口説かんといてくれ。望月さんと杏子は結婚しますと言い渡す。

望月さんはこの店の持ち主になると話を聞きましたが?と言いながら、修一は店を出る。

「望月商事」の事務所では、社員と言うよりも子分と言った方が似合いそうな連中が麻雀をしながら、社長が南蛮堂を手に入れられるとは思いませんでしたぜなどと愉快そうに話していた。

社長の机に座っていた望月は、どうせ南蛮堂は借金を払えやしねよと笑う。

その時、事務所にやって来た修一は、ドアの前で、そんな望月たちの会話を聞いてしまう。

人から一時的に借りただけの南蛮堂の証文をみんな俺のものだと思い込んでいると嘲る望月の言葉を聞いた修一は、何食わぬ顔でドアを開けると中に入る。

自分はアメリカから呼ばれた専任技師で、今、櫻ベーカリーの方に行って来たと修一が自己紹介をすると、あの店は俺のもので、女のデブ婆さんは召使いに過ぎんなどと望月は説明する。

さらに望月は、もう一軒やってもらいたい所があるんだ。南蛮堂と言う店なんだがねと言い出し、君、宿はどこに取ったの?と聞くので、修一は、南蛮堂です。僕、南蛮堂の倅ですと会釈して事務所を出る。

意外な事実を知らされた望月は考え込んでしまう。

五十嵐、春江、不二子らが揃っていた夢千代の家の二階へ帰って来た修一は、望月は大した悪党だね。南蛮堂の改築も頼むって言われたよ。これはぐずぐずしていられない。何とかオヤジを陥落しないと…、急ピッチの攻撃開始だ!と報告する。

まずは、その場から、隣にいる平太郎へ春江が電話を入れる。

まさか、隣の二階からかけて来たとは思わない平太郎は、突然家出した春江からの電話に対し、ダメダメ!お前は修一と結婚するんだの一点張り。

春江が電話を切ると、今度は修一が平太郎に電話をかけ、春江の家では僕のせいじゃありませんよ。五十嵐と結婚させないからです。春江が自殺でもしたらどうするんですと脅すと、又春江が電話をかけ、私、決心しました。その前にお父さんの声を聞きたくて…などと、自殺をほのめかすようなことを言う。

さすがに、それを聞いた平太郎は狼狽し、五十嵐との結婚を許すと約束する。

その返事を聞いた平太郎や春江、五十嵐、不二子、夢千代は、まだ電話の受話器に向かって一方的に話しかけていた平太郎の部屋にやって来る。

平太郎は、突然背後に立っていた修一を見ると、損も足を触り、生きているんだな!などと感激するが、修一の方は、相変わらず頑固ですねと呆れたように父親の顔を見る。

その頃、櫻ベーカリーの方では、桜子が、望月さんから指輪をもらいなさいと京子に勧めていたが、杏子は、私のこと、諦めて下さいと言い残し、店を飛び出してしまう。

その場にいた望月はしらけたような顔になり、手ひどく振られたようですな…、奥さん、今後お宅との付き合いは一切断ります。改築費は、僕が使った雑費と言うことで頂きますなどと勝手なことを言い出したので、さすがに桜子は慌てる。

あなたにはここを立ち退いてもらいたい。あなたからここを譲り受けたと言う証文もありますと言いながら、望月は、先日、こっそりテーブルの下でハンコを押した偽造の証文を取り出して見せる。

その後、南蛮堂に電話した杏子は、母親が自殺計ったと修一に知らせる。

驚いた修一が、櫻ベーカリーに駆けつけると、ソファに寝ていた桜子を看病していた杏子が、飲んだ薬の量が少なかったので助かったの、望月に騙されたのよと説明する。

桜子も、私がバカでした。あいつのために何もかも取られましたと反省する。

知らないうちに証文を作られていたと聞いた修一は、偽造文書で訴えたら良いと助言すると、桜子は素直になり、あんただけが頼りです。修一さん、今までのこと堪忍して下さい。この杏子のこともよろしく頼みますよって…と頭を下げる。

そこに話を聞いた平太郎もやって来て、桜子の顔を見るなり、あんた、まだ生きていたの?等と憎まれ口を叩くが、喧嘩なんかしちゃダメよ、病気なんだからと杏子が母親をなだめる。

修一が望月の事務所に向かった後も、残っていた平太郎は、あんただろう、修一隠したのは?等と言いがかりをつけて来たので、何のことです?修一さんは、あなたと違って良い息子ですと桜子は言い返す。

そこに、子分を連れた望月がずかずかとは行って来て、平太郎を店の外につまみ出してしまう。

平太郎は驚き、南蛮堂に戻って来ると、大変だ!修一はいないか?櫻ベーカリーに悪党たちが乗り込んで来たんだと怒鳴るが、修一はおらず、代わって、番頭の堀部が付いていくことになる。

望月は、前の証文だけでは有効でないと知ってか、別の証文にハンコを押させようと、子分たちが腕を掴んでいた桜子と杏子を脅していた。

いい加減にしないと痛い目に合いますよなどと望月が脅していた時、修一が戻って来る。

お訪ねしたら、お留守だったものですから…と丁寧に望月に説明した修一は、今やっておられるのは暴行傷害ですね?と、望月をやんわり責める。

仲間は店の前で眠っているよ。オヤジの借用書は、人から借りて来たんだろう?うかつなことに、あんた、事務所で大声でしゃべっていたじゃないかと修一は突きつける。

怒った子分たちが修一に飛びかかるが、修一はあっさり反撃し、望月に対しては、あんたも男なら、女相手にあくどいことはしないでくれと頼む。

すると、桜子が近づいて来て、修一が手を掴んでいた望月の身体にパンチを食らわせる。

望月が逃げ去ると、あ〜す〜っとしたと喜んだ桜子は、修一に改めて礼を言う。

修一は、杏子の腕をいたくなかった等と言いながら、優しくなでてやるのだった。

後日、南蛮堂の作業場では、春江が五十嵐の仕事を手伝っていた。

それを嬉しそうに眺めていた堀部は、電気のスイッチの所を触っているうちに感電してしまうほど当てつけられていた。

桜子と杏子は、店の奥にやって来ており、杏子は着物姿の修一に、かいがいしく前掛けを付けてやっていた。

それを見た桜子は、ちょっとあんた、あの2人、ようにあっているやおまへんか?と平太郎に話しかける。

そして、あんた、わてのこと、オムライス言うたそうやな?と嫌味を言うが、すっかり素直になった平太郎は、オムライス大好きなんです!と答える。

オムライス、好きやったんか?と桜子も笑顔になり、わてもゆで卵好きやし…等と言って、禿げた平太郎のことを好ましそうに見返す。

店先に出た杏子は、修一からもらったネックレスを胸に付けていた。

そんな修一と杏子の前にやって来たのは夢千代で、客として来たんだから、あんまり見せ付けないでよと睨みつけてくる。

そんな夢千代に、今度ともお手柔らかにと商人らしく頭を下げる。

店の前では、不二子は近所の子供たちに宣伝用の風船を配っていた。

その手を離れた風船が、森永の広告塔が見える銀座風景の中、ふわり、ふわりと青空に向かって浮かび上がるのだった。