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人斬り

司馬遼太郎 「人斬り以蔵」を参考にしたオリジナル作品らしいが、これもフジテレビ作品である。

同じ年、はじめてフジテレビが映画製作に乗り出した「御用金」同様、五社英雄監督作品で、仲代達矢も両作品に出演している。

この当時のフジテレビ作品は、テレビ局のカラーをあまり表に出さず、従来の映画を踏襲するような雰囲気で作られている。

そのため、会社クレジットに気づかなければ、映画会社製作映画と区別はつかないはずである。

勝新太郎、石原裕次郎と、出演陣も豪華で、当時、マスコミの寵児で、映画にも数本出演している作家三島由紀夫も、この作品ではなかなかの存在感を見せており、「御用金」同様、それなりに見応えのある時代劇になっている。

土佐藩の武市半平太に拾われ、その命じるがまま、京で人殺しを繰り返していた岡田以蔵が、盟友竜馬の助言から、徐々に、自分自身を取り戻して行く過程を描いている。

血なまぐさい暗殺劇をメインに描いているため、女優の出演シーンは多くないが、以蔵が惚れる女郎役で、倍賞美津子が肌も露に野性的な演技を見せている。

後、女優と言えば、飲み屋の女将役の賀原夏子に、以蔵が憧れる公家の娘役の新人新条多久美が出ているくらい。

後はほとんど全て男性陣である。

裕次郎の坂本竜馬は、いかにも大柄なお坊ちゃん風の出で立ちで、正直、「幕末太陽傳」の高杉晋作役とだぶっているような印象もあり、あまりインパクトはない。

勝新の以蔵も、何だか、無理矢理若作りをしているような感じや、かなりオーバーな演技をしているように見えなくもないが、そのわざとらしさも含め、熱演していると言うべきだろう。

この時期の、五社監督の殺陣、もう「三匹の侍」の頃のような効果音を目立たせてはいない。

無音ではないが、大げさな刀を振る音や、肉を斬る音等は押さえられている。

さすがに、この時期になりと、黒澤流の効果音も飽きられていたと言うことかもしれない。

とは言え、画面構成等もなかなか見事で、力の入った男性映画になっている。

公開当時の興行成績も良かったようである。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1969年、フジテレビ+勝プロダクション、橋本忍脚本、五社英雄監督作品。

老いた巡礼が歩く四国

1862年 文久2年 土佐国谷里郷

ボロ家の中で1人、暇を持て余していた岡田以蔵(勝新太郎)は、窓際に干してあった乾燥したトウモロコシ等口に入れ、まずいので吐き出した後、外に出て、刀を振り回し始める。

無茶苦茶剣を振り回し、柵等を切倒して、ひとしきり暴れ回っていた以蔵だったが、隣の部屋に置いてあった古びた甲冑を見つけると、それを持って骨董屋に出かけるが、全く相手にされないので、威嚇する。

以蔵は、その後、土佐勤王党の武市半平太(仲代達矢)と松田治之助(下元勉)に呼ばれ、村を出られたことを感謝しながらも、何とかしてください!借金で首が回らん!大きな椀が覆いかぶさっているようだと、現状の不満をぶちまける。

今夜、吉田東洋を斬ると、武市は、追手の3人の名をあげ切りだす。

追手の中に何故俺が?と以蔵が不満を漏らすと、お前の剣は邪険だ。まだ本当に人を斬ったことがない。今夜は観るだけにしろ。そして心行くまで飲み込め、人を斬るのを…と告げる。

その夜、土砂降りの中、吉田東洋(辰巳柳太郎)は、那須信吾、大石団蔵、安岡嘉助の3人の刺客に襲撃される。

「天誅!」と叫びながら、東洋に向かう3人の様子を、近くに隠れて観ていた以蔵は、斬る前には「天誅!」って言うんだなと合点する。

東洋は、果敢に刺客たちに立ち向かうが、肩口で受けた相手の剣の力に押され、首筋から流血する。

血みどろになって戦う東洋の姿を、以蔵は目を見開いて見つめていたが、徐々に興奮してきたのか、俺にやらせろ!もっと、ブスって…。俺が斬ってやるよ…、斬ってやる…とうわごとのように呟いていた。

赤い花をバックにタイトル

花、いりまへんか~?

赤い花を頭に乗せた京の白川女が遠ざかって行く。

その年の夏 京

武市半平太ら土佐勤王党の一団が、町を練り歩く。

武市の背後で、嬉しそうな顔をして歩いているのは岡田以蔵だった。

来た来た!土佐の連中が…(と、野次馬たちの声が重なる)

先頭を歩いているのが武市半平太か。

京へ来て2月そこそこ…

あれが岡田以蔵か?鹿児島の田中新兵衛と並び称される人斬りじゃそうな…

武市半平太らは、近々決行予定の大天誅について相談していた。

相手方が、どの宿に宿泊するか、まだ分からない部分があった。

越後浪人村上の処遇をどうするかが問題だった。

元々は勤王党の一員だったが、最近は高額な金銭を要求し、巧言令色を貪る、武市らにとっては、好ましからざる人物になっていると言う判断だった。

勤王党馴染みの飲み屋で仲間と共に飲んでいた以蔵に、女将のおたき(賀原夏子)が、田中新兵衛さんと仲良しなんでしょう?あんたらが来てくれると、客がどんどん増えるんですよと世辞を言って来る。

そこに、仲間の皆川一郎(山本圭)がやって来て、狙っている相手方が宿に泊まる時刻と宿名を以蔵らに伝える。

それを聞いた以蔵は、嬉しそうに店を出て行く。

その夜、勤王党が襲撃した浪人の顔を間近で観た以蔵は、坂本!と驚く。

そこに、手違いです!と知らせが届く。

間違えて襲われていたのは、以蔵の旧友でもある坂本竜馬(石原裕次郎)だった。

以蔵はその後、仲間数名と共に本間精一郎(伊吹総太朗)を路地に追いつめると、刀を抜け!そのままでは斬れん!と迫る。

本間が、武市の命令か?と聞くと、天誅だ!と叫んで斬り掛かり、側の家の軒下に下がっていた提灯を弱った相手の心臓の上に置き、その上からとどめを刺し、返り血を防ぐ。

翌日、本間の死体が役人らによって運び出されて行く。

刀を磨いていた以蔵に、仲間の1人が、どうしたら、あのように巧く斬れるのですか?と教えを乞うと、天誅って言うのさ。それ以外のことはない…と以蔵は愉快そうに答える。

武市に金をもらいに行った以蔵は、自分の刀が刃こぼれしたので、研屋に出す間、別の刀を貸して欲しいと頼む。

その刀を持って、武市の住まいを帰りかけた以蔵に、やって来た松田治之助が、国元から。横目付けが2人来るらしい。どうやら、吉田東洋殺しのことを調べているらしい。それなのに、御主の人斬り包丁は研屋行きか?と皮肉を言って来る。

それを聞いた以蔵は、土佐勤王党は俺で持っているんだ!と胸を張る。

ある日、武市を訪ねて来た龍馬は、何故、ああ次々と以蔵に人殺しをさせるんだ?と武市や松田に尋ねる。

土佐は、京都に入るのが、鹿児島や長州に比べ遅かった。だから、より過激な道を突っ走るのは分かると龍馬が言うと、御主は、今や、幕閣勝海舟の護衛で来ている…と、松田が指摘してきたので、武市は、俺を以蔵に斬らせようとしているのか?と龍馬は驚く。

一日も早く京を立ち去れ。俺たちからすれば裏切り者だろうと武市は言う。

暑いね。こう暑くちゃ、腐りが流行るだろうね。三条河原にさらされた遺体は、本間精一郎って書いてある。斬ったのは、田中新兵衛か岡田以蔵だろうって噂されてるけど、あたいには分かってるわ。あんただってことは…と、遊郭の二階の部屋で寝ている以蔵を観たのは、女郎のおみの(倍賞美津子)だった。

あんたが、昼間っからここにいるのがその証拠。前の晩から居続けになったり…と、おみのは鋭いことを指摘して来る。

これからちょっと遠出するんだ。伏見から河を下って大阪まで…と以蔵が言うので、大阪まで何しに行くのよ?とおみのは聞く。

夢だよな…。今に世の中でんぐり返る。そうなりゃ、武市先生は何十万、何百万石もの大大名になる。そうなると、一番働いた俺は、お前を一生安楽にしてやると以蔵は語る。

女房にしてくれるのかい?とおみのが喜ぶと、そうじゃないが…と以蔵が言うので、他に奥さんになる人がいるのかい?とおみのは面白くなさそうに聞く。

別にそう決まった訳でも…と口では言いながらも、以蔵の頭の中では、武市について出向いた姉小路公知(仲谷昇)邸で出会った綾姫(新条多久美)の事を思い浮かべていた。

これが岡田以蔵なのね?と蔑むように睨んできた綾姫の気性の強さと美貌に一目惚れしてしまっていたのだった。

そんな以蔵の片想いに気づいているおみのは、よだれが出てるわよなどとからかう。

高嶺の花か…と以蔵も呟く。

俺の腕で、100人でも200人でも斬れば、世の中、でんぐり返りの一番のお手柄はこの俺だと以蔵は夢を語りながら、また、おみのの身体に抱きついてきたので、あんたって人は、人を斬った後はしつこいんだからと嫌そうに言う。

ある日、以蔵がいつもの飲み屋行くと、女将のおたきが気まずそうにしている。

店内を観ると、勤王党の席とは別に、坂本竜馬が1人で飲んでいるではないか。

待っていたぞ、以蔵、ちょっと来いと呼んだ竜馬は、女将から座敷を借りて上がり込む。

以蔵は仕方なく、龍馬と同じ座敷に上がり込み、龍馬は、仲間たちのめを意識してか、障子を閉めてしまう。

以蔵、お前、何故次々と人を斬る?と竜馬から聞かれた以蔵は、坂本、そんなことも分からんのか?天下国家のためだと答えるが、竜馬は、人を殺すのが天下国家のためになるのか?武市が言うことは何でも信じるのか?と問いかける。

例え、火の中、水の中だろうが、武市先生と一緒ならとまで以蔵が言うので、御主、漁師と犬の話を知っているか?と竜馬は言い出す。

知ってると以蔵は答えるが、犬を連れた漁師は、ある日全く獲物が捕れないのを犬のせいにした。

夕方、1匹のウサギを見つけた犬は、このままでは主人の機嫌を損じると感じていたため、死にものぐるいになってそのウサギを捕らえたが、肝臓を噛んでしまったため、毒が全身に回って、そのウサギは食えなくなった…と竜馬が語り聞かせると、急がば回れと言うことだと以蔵はしたり顔で答える。

しかし竜馬は、この話にはまだ続きがあるんだ。漁師は犬を殺し、鍋でグツグツ煮て食べたんだと教えると、武市先生が漁師で、俺が犬だと言うのか!と以蔵は気色ばむ。

坂本、お前はまだ京に来て間がないので分からんだろうが、武市先生と俺がいるからこそ土佐勤王党は成り立っているのだ。自分の方こそ、気をつけるんだなと以蔵は警告する。

それを聞いた竜馬は、良い奴だな。バカに付ける薬はないか…と呟く。

以蔵はむっとするが、その時、一人の侍が店に入って来る。

鹿児島の田中新兵衛(三島由紀夫)だった。

近いうちに拙者、1人やることになった。構えて手出しするなと座敷から出てきていた以蔵に言う。

それは誰だ?と以蔵が聞くと、坂本竜馬と言う変節者がいるそうだ。そいつは拙者が!と新兵衛が言い出したので、店の中に緊張が走る。

そこにやって来て、女将に勘定を聞いた竜馬を目にした新兵衛は、いずれの藩か?御姓名を…と聞いて来る。

竜馬は、土佐藩の坂本竜馬とはっきり答える。

新兵衛も名乗り、口の割るか者は、人斬り新兵衛とか抜かしていると自己紹介すると、覚えておこうと言い残して竜馬は店を出て行く。

残った以蔵は、坂本は変節漢ではないと弁護するが、主ほどのもんでも、同じ藩となると人情が絡むと見える…と新兵衛は答える。

しかし以蔵は、坂本は裏切り者じゃない。ガキの頃から知っている。大体、あいつが裏切るなんてことは…、新兵衛、頼むよと声をかけるが、さあて、そいつはどうかな?と新兵衛は答えるのみだった。

その後、武市の住まいでは、松田が、風が吹いてきたので、伏見から船で大阪へ向かっている連中も、ほっと一息ついとるだろうなどと呟いていたが、武市は、今度の石部宿のことから、以蔵を除くと言い出す。

武市は、天誅の名の下に人を斬り過ぎるので、山内容堂公は大変な怒りようだ。かねてから腹にすえかねているようなので、ことによったら、俺たちを国に追い返すかもしれんと言うので、少し自粛すると言うことかと松田が聞くと、しばらく骨休めすると言うことだと武市は答える。

その頃、以蔵は、吉田東洋殺しの調査のため、土佐から京へやって来ていた横目付け井上佐一郎(清水彰)を襲撃し、首を絞めて、仲間らと共に、水桶の中に死体を沈めていた。

報奨金を受け取りにきた以蔵に、松田は、以蔵、おんしは、まっこと人斬りの天才だ!と褒めちぎる。

嬉しくなった以蔵は、石部宿の大天誅について聞こうとするが、武市は絵を描きながら、あれはしばらく様子を観ると答え、松田も、当分骨休めをせいと言う。

遊郭のおみのに会いに行った以蔵は、大鉢に盛られたタコを2人で旨そうに食い始める。

その時、女中が竜馬から預かった手紙を届け、用がすんだら降りてきて欲しいってと伝えに来る。

その手紙を読んだ以蔵は、急に布団を敷きだす。

おみのは、止した方が良いんじゃない?仕事の前は…となだめようとするが、以蔵は、何~!と言いながら、おみのの身体にむしゃぶりついて行く。

その後、竜馬と以蔵は一緒に歩いていた。

竜馬の目的は、姉小路公知に会うことだった。

以蔵を連れて行くのは、武市の命令で竜馬を連れて来たと噓を言わせることだった。

姉小路の屋敷に来た以蔵は、出て来い、出て来い、お姫様…と呟いていた。

憧れの綾姫に会えないかと期待していたのだった。

姉小路公知に対面した竜馬は、世界の情勢を観て頂きたいと説得する。

そんな中、扇遊びをしていた綾姫が投じた扇が廊下に飛んできたので、それを拾って恭しく差し出した以蔵だったが、綾姫は、獣め!と軽蔑した目つきで以蔵を睨む。

しかし、以蔵は、そんな言葉でもかけてもらったことが嬉しかった。

その夜、また、おみのの部屋に上がった以蔵は、寝ていたおみのに又抱きつこうとして、止してよ!と拒否されたので怒ってしまう。

仕方なさそうに起き上がったおみのは、あんたは大きな口を叩いても、端の私の所に来るくらいでしかないのよとバカにすると、おめえの身体は俺が金で自由にできるんだ!と以蔵が言うので、へぇ~…金でね…。じゃあ、どうなと好きなようにするが良いさと開き直ったので、以蔵はおみのに抱きついて来る。

そんな遊郭に以蔵を訪ねてやって来たのは、皆川一郎だった。

仲間たちが、夕べのうちに、近江の石部宿に出かけたことを以蔵にだけ秘密にしておくのに耐えられず、知らせにきたのだった。

それを聞いた以蔵は飛び起き、ばかやろう!俺をのけ者にしやがって!と言いながら、ふんどしを巻き始める。

石部宿までは11里8町もある、これからじゃとても…と皆川は制止しようとするが、着物と刀を小脇に抱えた以蔵は、遊郭を飛び出して行く。

外でかがんで遊んでいた子供たちの上を飛び越え、走りながら着物を着た以蔵は、どけ、どけ!斬るぞ!と通行人を避けさせながら、1日中走り続ける。

暗くなってようやく「石部宿」の道しるべの所にたどり着いた以蔵は、すでに襲撃が始まっていた宿の外に到達すると、水桶の水を頭からかぶり、土佐の岡田以蔵だ!と怒鳴りながら、宿の中に乱入して行く。

そこでは、田中新兵衛がすでに戦っていた。

以蔵も戦いに加わり、渡辺金三郎(宮本曠二朗)を斬ると、討ったのは岡田以蔵だぞ!と雄叫びをあげる。

その場にいた松田治之助は、以蔵がいることに驚愕する。

京に戻って来て、武市の屋敷を訪れた以蔵は、天誅の時、藩の名前や自分の姓名を名乗る等言語道断!と武市から厳しく叱責されてしまう。

刺殺隊から俺が…と、外された理由を聞こうとした以蔵だったが、武市半平太の命令だ!今度こんなことがあったら容赦なく国に帰す!と武市は答え、お手付金は?と聞いた以蔵に、バカたれが!と松田が吐き捨てる。

面白くない以蔵は、飲み屋に出向くが、そこに竜馬がおり、どうした?と聞いて来る。

京は頼みがあって来たと言う竜馬は、姉小路の件は、お前のお陰で自由に話せるようになったと礼を言い、殺してはならぬ人物がいて、自分はその人を京に残して兵庫へ行かねばならぬ。園人物の護衛をしてもらいたい。勝海舟だと言うので、以蔵は幕臣の勝海舟の護衛なんか出来るか!と拒否する。

どうしてそう武市の顔色ばかりうかがう?と竜馬は聞いて来て、俺のために働けば、武市を助けることになるのだぞと言うので、その言葉を鵜呑みにした以蔵は引き受けることにする。

とある夜、外出していた勝海舟の護衛をしていた以蔵は、3人の刺客が出現したので、対抗するが、それを伝え聞いた松田は、翌日、以蔵を呼び出すと、勝海舟の護衛をしていたのはお前そっくりだったと言うぞ!と詰問する。

以蔵は渋々、坂本に頼まれたと打ち明けるが、それを聞いた松田は激怒し、武市も、一体、坂本は何を言ったのだ?と不快そうに聞く。

(回想)竜馬は、武市は50万石くらいの大名になりたいのだ。だが、やがて世の中が変わると、殿さまも町民もみんな同じ身分になる。武市がやっているのは、天皇と幕府の首のすげ替えに過ぎん…と以蔵に話していた。

お前が良く言っている世の中になれば、公家の娘も俺たちと一緒になると言うことだろう。天下国家のために、人を斬らないと言うのも面白い!と以蔵は愉快そうに笑う。

(回想明け)以蔵よ、お前に鼻にも分かっておらんのだ…と武市は呆れたように言い、屋敷の外には雨が降り始める。

分からんものは仕方ない。拙者の命じるままに動け。命じないことをやってはいかん!と言い渡した武市は、以蔵の顔を見て、気に入らんのか?気に入らなければ国へ帰れ!と怒鳴りつける。

以蔵は、俺は飼われた犬じゃない!と言い返したので、大きなことを言うな!国に帰れ!と武市は激怒する。

俺の腕ならどこでも買うと言い残し、以蔵は雨の中帰って行く。

その足で、長州藩や熊本藩などに売り込みに出向いた以蔵だったが、先方は、以蔵の腕を欲しがりながらも、武市ときっぱり手が切れているかどうかの確信がないので、土佐とのもめ事を嫌い、雇おうとはしなかった。

とうとう、姉小路の所に雇ってくれと頼みに行った以蔵だったが、人を1人や2人雇うのは雑作ないことだが、人斬り包丁は腰から外してもらわねばならん。国に帰って、百姓でもやることだ。お前は武市からは離れられないよと言われてしまう。

以蔵はむっとして、離れてみせる!と言うと、土砂降りの雨の中帰って行く。

その後、飲み屋で以蔵は泥酔していた。

同じ店内で飲んでいた田中新兵衛は、酷く荒れてるな…と呟く。

そこに、勤王党の仲間がやって来るが、以蔵の姿を観ると黙って帰ってしまう。

皆川一郎も、何か言葉をかけたそうであったが、結局、何も言わず店を去る。

おたきは以蔵に、2、3日前、柴田はんが、土佐藩は払わん。今後、勘定はあんたから直接もらえって…と告げる。

それを聞いた以蔵は、お銚子を握りつぶし、手が血まみれになる。

そんな以蔵を自分の席に呼んだ新兵衛は、俺はな…と泣き出した以蔵に、よかよか、何も言わんで。おはんの勘定まで絶つとは…、御主の飲み代くらいいつでも俺が出してやると語りかけたので、良い奴だな…と感激した以蔵は、新兵衛に抱きつく。

分かっちょる、分かっちょる、何も言うなと新兵衛は慰めるが、悔し泣きをしていた以蔵は、言わしてくれ!俺はなるほどバカだよ。そのバカをあいつは天下国家のためになるからと言うから…とわめく。

この世の中には逆らえんもんがあると新兵衛は言う。

その後、おみのに会いに行った以蔵だったが、おみのも、めそめそしている以蔵に対し、自分の年期が7年で30両、あくせく働いても、この借金は1両も減らないと訴えたので、そんなことあるもんか!と以蔵は泣いてすがりつく。

あんたもあたいと同じなんだよ。私はお金、あんたは土佐藩とかに縛られて、身動きができないからね…。明日は、武市って人に謝るのね。あんたが謝れば、丸く収まるわと、おみのは優しく言い聞か。

翌日、ところてんをすすっていた武市は、謝罪に来た以蔵を鷹揚に許してやる。

二度と先生にたてつくようなことはしませんと、以蔵は平伏して誓う。

そんな以蔵に対し、殺して欲しい人物がいるのだが…、お前1人でやるんだぞと武市は言い出す。

嫌な予感を感じた以蔵は、それはもしかして坂本では?と聞くが、さすが以蔵、察しが良いな…と笑った武市だったが、心配するな、坂本ではない。断じて坂本ではない。姉小路公知だと言う。

それを聞いた以蔵は、あの人は勤王党が斬ってはならぬ…と驚くが、お前は何でもやると今言ったばかりではないか!と諭した武市は、仕事が終わった後、その側にこれを置いて来いと言って、刀を取り出す。

それを観た以蔵は、新兵衛のものだ!と驚くが、新兵衛の刀がどうしてここにあるか?百年経っても、みんなが不思議がる大きな謎だ。理由は明かさん。とにかくやるのだ!お前は半平太の言うことを聞くと、天地神明に誓ったではないか!と武市は命じる。

夜、以蔵は、御所の付近を連れと2人で外出していた姉小路綾姫を襲撃する。

滅多斬りにした以蔵は、その場に新兵衛の刀を置いて逃げる。

この事件は、勤王党を震撼させ、翌朝、以蔵の元にも知らせが届くが、以蔵は布団をかぶったまま返事もしなかった。

その後、飲み屋に行くと、おたきが、この前はご免なさいねと、急に以蔵への態度を変えて来る。

田中新兵衛は、すぐさま所司代に捉えられ、自分がやるはずがないじゃないかと抗弁していたが、差料を見せられる。

自分のものだが?と新兵衛が言うと、それが落ちてたんだ!姉小路の側に!と役人は責める。

その刀を手に取った新兵衛は、やにわに刃を抜くと、自分の腹に突き刺し、その場で割腹自決する。

松田は武市に、大当りだ!と囁きかけていた。

武市も満足そうで、あいつも悩んだであろう。このたびの手当金、倍にしてやろうと以蔵への配慮を見せる。

その以蔵は、おみのの所で落ち込んでいた。

そこに、突如、京都奉行所の見回り(伊達三郎)がやって来て、客は武士か町人か?武士ならいずれの藩中か?と詰問して来る。

おみのは無言だったが、以蔵は、犬なんかに用はない!と罵倒し、立ち上がって、蚊帳を頭からかぶったまま暴れ始める。

結局、以蔵は捕まり、牢に入れられてしまう。

そんな以蔵に、シャバで何をやって来たんだ?先に入っていた熊髭(坂上二郎)だった。

二本指しのようだが、浪人だろうなと聞いたのは、牢名主(萩本欽一)だったが、以蔵は、拙者は浪人じゃない!と否定する。

侍を虐めるのがここの掟だと牢名主は威張って言うが、土佐の岡田以蔵が相手になってやる!と名乗ると、牢名主は、高く積んだ畳の上から転げ落ちる。

以蔵は、奉行か与力の部屋で待たせろ!粗末に扱うと、土佐藩の連中が来て斬られるぞと、楼の外に呼びかけるが返事はない。

以蔵が捉えられたと知らせを受けた武市は、自ら出向いて行くと言い出す。

牢の中では、熊髭が以蔵の肩を揉み、牢名主は、どこから手に入れたのか、酒を振る舞っていた。

そこにやって来た牢役人(田中邦衛)は、確かに岡田以蔵に間違いないのだな?と確認すると、その後ろから、武市がやって来る。

以蔵は喜んで、武市先生!と呼びかけるが、武市は、ほお…、拙者の顔を知っていると見える。違う!岡田以蔵ではない。名前を騙る偽者だ。このような者は土佐藩にはおらん。天下に名の通った剣客が、司直にやすやすと捉えられるとは。以蔵はそのような不心得者ではない!偽者だ!と断じて帰る。

先生!武市先生!と以蔵は空しく呼びかけるが、武市は戻って来なかった。

牢から出された以蔵は、お前は、岡田以蔵ではない。無宿者、これからは無宿者の寅造だと告げ、以蔵の二の腕には、犯罪者であることを示す焼印が押される。

以蔵は8ヶ月入牢し、ようやく放免になる。

自由に身にはなれたが、京都お構い。京都にいることは相成らんと言い渡されてしまう。

(回想)草原に寝転んでいた以蔵の元にやって来たのは竜馬だった。

もっと早く動いてみたが、あれやこれやで面倒で…と詫びた竜馬は、世の中の風向きはすっかり変わったぞ。土佐勤王党はみんな国に帰った。

武市や松田は、東洋殺しの下手人として、牢に入れられ吟味を受けていると教える。

俺は、長州と薩摩に行くので三条小橋の花木屋へ来いと言い残して帰る。

その後、以蔵は、遊郭の前で客引きをしているおみのの姿を、密かに見守っていた。

(回想明け)以蔵は、草の上に寝転び、涙を流していた。

そんな以蔵に、決心ついたかや?3夜目じゃと声をかけて近づいて来たのは、かつての勤王党の仲間の1人だった。

はっきりした返事を聞きたい。おんしが捕まったら、先生の調べは続く。すると、わしらの計画に支障を来す。半年、否、3月でも土佐から離れて欲しいと言うのだった。

しかし以蔵は、俺は岡田以蔵じゃない!無宿人の寅造だ!と答えるだけだった。

入牢していた松田は、まだ、以蔵は京のことを根に持っているのか…と噂を聞いて嘆く。

以蔵は拙者が育てた犬だ。買い主が始末する…と、隣の牢に入れられていた武市が呟く。

これからはもっと大きな人殺し…、戦争だ。小さな破壊から大きな破壊…、それをやり遂げてはじめて、この国にも大きな夜明けがやって来る…と武市は独り言を言う。

ある日、以蔵の住まいに、皆川一郎が訪ねて来る。

外には笛や太鼓の音が聞こえていたので、皆川一郎も、明日は貼る祭りだな…と思い出す。

生家は造り酒屋なので…と言いながら、皆川は持って来た酒瓶から湯のみに酒を注ぐと、さあ、岡田さん、飲んでくださいと勧める。

しかし以蔵は、お前飲め!と言い出す。

武市は信用できんと言うので、むっとした皆川は、湯のみの酒を自ら飲んでみる。

もう詰まらん疑いは良いでしょうと皆川が言うと、もう一杯だと以蔵は言う。

皆川は、又黙って、湯のみに酒を注ぐと、自分で飲んでみせる。

大丈夫のようだなと、ようやく納得したらしき以蔵は、自分も酒を飲み始める。

岡田さんは本当に疑い深い…と、皆川が呆れたように言うと、俺のようにされたら、誰でもそうなると以蔵は答える。

で、これから岡田さんはどうするんですか?と皆川が聞くと、武市との縁は切れた。お前には関係ないと言いながら、酒を又口にした以蔵は、祭りがすんだら国を出るよ。坂本がやって来るんだ。一緒に九州に行く。これからはあいつの護衛をする。断っとくが、あいつの犬になるのではない。俺は無宿人の寅造。人間は1人1人…、俺はこれからは自分の思い通りに…と言いかけ、どうした?と皆川に聞く。

岡田さん、本当に土佐を…?もしそれが本当なら、この酒には岡田さん、毒が入っているのだ。しかし、おかしいな?天正丸が…、否、そうだ。そうじゃない!元々天正丸など初めから入っていなかったんだ!俺にあなたに決心させようとわざと毒が入っている等と…、先生こそ、みんなを…と言いかけていた皆川は急に苦しみだす。

水!と言いながら、台所の方の水瓶に手を伸ばした皆川は、瓶をひっくり返し倒れ込む。

驚いた以蔵は、庭先の井戸に必死に向かうと、水を汲み上げ、何杯も飲んでは吐き続ける。

その後、倒れ込んだ以蔵だったが、突如、大量の赤い血しぶきが襲いかかって来たように見えた。

今まで、以蔵が殺めて来た人の姿が次々に浮かんで来る。

やがて、視界が真っ白になるが、以蔵は何とか息を吹き返す。

そして、台所で倒れていた皆川の方へよろけながらも近づくと、死体を畳の上に身体を引き上げる。

泣きながら、皆川の両手を胸の上で組ませる以蔵。

その後、波打ち際で顔を洗った以蔵は、城に出かける。

吉田東洋殺しを訴えると言うのか!と役人が驚くと、ただでは胃炎、褒美が欲しいと以蔵は言う。

金30両と言うので、役人はやると答え、やったのは誰だと聞くが、以蔵は、口が裂けても言えん。金をもらうまではな…と油断がない。

結局、受け取った30両を、山城屋のおみのに急いで届けさせるよう手配すると、以蔵は一緒に持って行ってくれと言って手紙を依頼する。

お前はこの金で自由になれ。俺も今こそは、縛り付け、離さなかった奴ときっぱり縁を切ると以蔵は、手紙の文を口伝えで言う。

そして、城に戻った以蔵は、東洋殺しの実行犯は、那須信吾、大石団、安岡嘉助…と3人の名を証し、横目付け井上佐一郎を絞め殺したのも俺だ。これも武市の命令だと告白する。

まだまだある…と続けた以蔵は、天皇側近、姉小路公知を初め、これまで自分が斬って来た人名をことごとく挙げて行く。

武市の命で、この俺が殺したのだ!と言いながら、刀を放り投げる。

平松外記(滝田祐介)は以蔵に磔獄門を命じる。

以蔵は、今日は春祭りだ。人と会う約束があると猶予を訴えるが、外記はならんと言い渡す。

その頃、坂本竜馬は、以蔵の家を訪ねていた。

以蔵!と呼びかけながら、家に近づく竜馬だったが、答えるものは誰もいなかった。

磔台に縛られた以蔵は、何か言い残すことはないか?と外記に聞かれると、聞きたいことがある。俺と武市は同じ罪で殺されるのか?と聞く。

違う。武市は政治犯、お前はならず者の所行だ、その結果、武市は切腹、お前はこのように磔獄門だと外記は教える。

それを聞いた以蔵は、晴れ晴れとした表情になり、これでやっと、俺も自由になれる。この世だけでなく、あの世に行っても…、あいつとは、何に関係もない!突け!と叫ぶ。

その直後、槍で胸を突かれた以蔵は、ああ〜!と叫ぶと絶命する。