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花と娘と白い道

当時16歳くらいの吉永小百合さん主演映画で、上映時間62分の中編作品。

劇中歌も、可愛らしい声の小百合さんが歌っており、正に「小百合ちゃん映画」と言っても良いだろう。

石坂洋次郎原作なので、地方の牧歌的風景を背景にした、嫌味のない、ちょっと古風な青春物になっている。

明るくておしゃべりで可愛くて、村中のみんなから愛されている天使のような少女が、揺れ動く恋心に悩む…と言う、たあい無いと言えばたあい無い話だが、キラキラ輝く当時の小百合さんの笑顔を観ているだけで心癒されるような作品になっている。

世代的に、特にサユリストと言う訳ではないが、この時代の小百合さんには文句なく魅入られてしまう。

おそらく、小百合さんが特別と言うことではなく、無邪気な子供から少し大人になりかけた15、6歳の少女と言うものが持つ魔力のような物ではないかと思う。

いくら何でも、こんなアニメのヒロインみたいな屈託のない少女はなかなかいないとは思うが、当時は、実写映画で、この手の「朴訥で理想の少女像」のようなものを造形していたのだろう。

劇中、おそらく原作者自身の投影ではないかと思われる木村先生とみや子の会話等は、微笑ましいと言うか何と言うか、恋に恋する乙女心が現れており、心がほっこりする。

小百合さんの母親役が、「男はつらいよ」のおばちゃんこと三崎千恵子さんと言うのも意外だが、この方はいつ観てもイメージが変わらない。

3代目おいちゃん役の下條正巳さんも住職役で、ちゃんと出ているのも興味深い。

この三崎さん演じる母親や下條さん演じる住職だけでなく、この話に登場する人物たちはみな善人ばかり。

その善人たちでも、ちょっとした気持ちのすれ違いで、思わぬトラブルが起きてしまうと言う顛末が、何ともやりきれないが、最後は、ヒロインの若さがそれを乗り越えると言う希望に満ちた締め方になっている。

今観て、若干気になる所は、みや子に言い寄る寺の法海の年齢が不詳なこと。

父親から叱られて泣いたりしている所から観ても、おそらく、みや子と同年輩くらいか、やや上くらい、つまり設定的には10代後半くらいではないかと思うのだが、演じている役者がもっと老けて見える点である。

演じている役者さんの実年齢が高かったのか、見た目的に大人びて見えるのか分からないが、今の感覚からすると、小百合さんの恋人役にしてはバランスが取れていないように思える。

小百合さんと言えば浜田光夫さんとのコンビが多かったのも、当時、見た目的に小百合さんとバランスが取れている男優さんが、浜田さん以外に日活内にはいなかったのかもしれない。

もう1人の男友達役の青山恭二さんにしても、当時24歳くらいだったようで、やっぱり見た目的に16歳当時の小百合さんとはバランスが取れない。

いくら地方の話と言っても、8歳も年上の人との結婚って、当時は不自然ではなかったのだろうか?

青山さんも、設定上は18〜20くらいを演じていたのかもしれないが、当時の青年は、今の同年代の若者に比べると大人びていると言うか、今よりも老けて見えるような気がする。

余談だが、昨今流行の電動自転車は、この時代からあったと言うことが分かる。

今のようにかっこいいデザインではなく、単に、普通の自転車にモーターが付いただけだったような記憶があるが、昔も一部で使われていた記憶がある。

劇中でやたらと商品名を言っているヤクルトとか、富士電機の洗濯機んはどは、当時の日活らしくタイアップだったのだろう。

当時の日活は、この手のタイアップで、かなり製作費を浮かせていたらしい。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1961年、日活、石坂洋次郎「リヤカーを曳いて」原作、川崎俊祐脚色、森永健次郎監督作品。

とある地方

小さな橋の脇から川の近くに駆け下りて来た少女みや子(吉永小百合)は、川の水で顔を洗うと、花畑で早くから働いている義姉の咲枝(高田敏江)の所に近づくと、姉ちゃんお早う!早いんだね!と声をかける。

咲枝は、もうこんなに虫が付いてると言いながら、花についている虫の駆除を続けていたが、姉ちゃんに、どうして付かないんだろ?虫…とみや子はからかう。

姉ちゃんは、楚々たる美しさよね。そんな姉ちゃんが好きなの。いつまでも花畑の手伝いしてね。兄ちゃん、どうして死んだのかしら?とみや子が言うと、みやちゃんがいるんだもの、平気よと咲枝は笑って答える。

矢車草の薄紫、姉ちゃんみたいとみや子が言うと、このピンクの花はみやちゃんみたいと咲枝も言い返す。

じゃあ、水仙は誰かしら?と聞いたみや子は、薄紫のお姉さん〜♪と歌を歌いながら、姉の切った花をたくさん摘んだリヤカーを引いて、町に売りに出かける。

みやちゃんと声をかけながら、追い抜いて行ったバイクのヤクルト売りの青年(亀山靖博)が、勝手に花を1本抜いて行く。

ケンちゃん!22円貸しよ!ヤクルト2本よ!とみや子は文句を言う。

そんなみや子の方を愉快そうに振り向いていたヤクルト配達のケンちゃんは、前から来たトラックとぶつかりそうになり、相手から怒鳴り付けられたので、少しよろける。

それを後ろから観ていたみや子は笑う。

その後、みや子は、葬儀の列とすれ違ったので、リヤカーを停めて合掌し、南無阿弥陀仏と呟く。

そんなみや子は、葬列の後ろの方で、下駄を脱ぎ何事かしていた、寺の住職の息子法海(高山秀雄)に気づいて声をかける。

縁起が悪いことに、鼻緒が切れたんだよと言う。

鼻緒をすげてやることにしたみや子が、今日は代役なの?と聞くと、俺にも引導くらい出来るんだとむっとした法海だったが、トランジスタラジオを持っているので、買ったの?と聞くと、半月月賦の奴を1年分割にしてもらったと嬉しそうに法海は教えるが、父親の方丈さんに怒られるんじゃない?とみや子は心配する。

今日はどこのお葬式なの?と聞くと、羽黒町の靴屋の女将さんの葬儀で、肺病で6年も寝込んでいたので、死んだ方が良かったんだなどと坊主らしからぬことを言う。

さらに、法海が、みやちゃん!と言いながら、手を握りしめて来たので、怒ったみや子は、もうすげてやらない!と手を振り払って逃げる。

そんなみや子に法海は、いつかの晩、会ってもらいたい…と頼むので、法海さんが一人前になったらとみや子は答えるが、それには、あの業突く張りが死なないと…。若い後家をもらってからは、捨て子の俺より、若い女房の方が可愛いんだ!と、父親で寺の住職の方丈の悪口を法海は言い出す。

みや子は、手の握り賃20円だ!などと要求すると、手が20円なら、おっぱいなら100円か?とセクハラ発言をしながら50円渡すと、いつかきっと!な!と法海は頼む。

50円を受け取ったみや子は、お釣りの代わりよと言いながら、リンゴを放って寄越す。

それをかじった法海が、すっぺえ!と顔をしかめると、法海さんの今の心境よ!とみや子は愉快そうに告げる。

物売りのおばさん(福田トヨ)が慈光院に物を売りに来ると、窓から、若い女房芳江(南風洋子)の襟足を剃ってやっている方丈の姿を観かける。

方丈は、おばさんから声をかけられたも、何もいらんな?と自分で女房に話しかけ、今日は何にもいらんと言うと、がっかりして帰りかけたおばさんに、そこに落ちている洗濯物を拾ってくれと厚かましいことを頼んだので、おばさんは、地面に落ちていた洗濯物を拾い上げると、忌々しそうに物干し台の横木に叩き付けて去って行く。

ちょうどみや子が休息していた、寺の近くの雑貨屋にやって来た物売りのおばさんは、全く生臭坊主だよ!若い女房とデレデレして!と愚痴を言う。

それを聞いた雑貨屋の女将(田中筆子)は、うちは慈光院の檀家だから、悪口言ってはいけないけれど、あの寺は朝から親子喧嘩ばかり。息子の法海は、殺してやる!なんて怒鳴っているし、北条さんの方も、背て子の時と同じように、ミカン箱とおしめを持って出て行け!なんて言い合っていると明かすと、みや子にも、あそこの家とは関わり合いにならん方が良いよ。あの息子があんたにぞっこん惚れてるっての、もっぱらの噂だからと忠告する。

その頃、法海は、トランジスタラジオを隠していた例の場所でラジオをかけながら、1人、その日もらったお布施の中味を勘定をしていた。

みや子は、花〜、いかがですか〜とリヤカーを曳いて売り歩いていた。

BAR「コハル」の前で、花を買ってくれた女将は、あんた良い目をしているね。私も、あんたみたいなきれいな肌に戻りたいわなどとぼやいてみせる。

いつものように花を持ち、「日東信用金庫」の勝手口から中に入ったみや子は、宮沢(佐野浅夫)の幼い娘のよし子が来ていることを知る。

小鳥が欲しいって言う物だから、カナリヤをもらってやったんだよと言いながら、店先から応接室にやって来た宮沢に、みや子は、壁に貼ってあったポスターを家に貼りたいのでちょうだいとねだる。

宮沢はプレゼントするか。あんたの花が、人の心を温めてくれるからと言って譲ってくれる。

今日の分は?と宮沢が花代を聞くと、350円とみや子は答える。

貯金はどうした?と宮沢が聞くと、少しなんだもの…、きまり悪いわ…とみや子は恥ずかしがる。

少なくなって良いんだよ。みんなの信用金庫なんだからねと宮沢が諭すと、みや子は持って来た通帳を渡す。

その金額を確認した宮沢は、2週間で350円は少ないね。無駄使いが多くなったんじゃないのかななどと聞くと、何でも高いんだもの…とみや子は言う。

娘が言い訳しだすと、六なことはないと言うからな…と宮沢は苦笑しながらも、その日までの合計金額を通帳に記入してやる。

15085円か…、半分だな、目標の…と宮沢は呟く。

お嫁に行くまで溜めたいの…と答えたみや子は、よし子の髪を編んでやる。

その時、宮沢は、冗談じゃなく、わしの所に嫁に来んか?と突然言い出す。

約束だけは今のうちに決めておきたいんだと真顔で言う。

親の口から言うのもなんだが、清吉は鉄道でも評判の働き者だと言うが、それを聞いたみや子は狼狽し、3万円貯まらんうちはダメなのよ。清吉さんなら、私じゃなくても、お嫁さんたくさんいるわ…と言いながら勝手口からでて行ってしまう。

よし子の髪は、半分だけ編んだ状態だったので、お姉ちゃん、こっちは?と聞くが、ごめんね、今度ね!と謝りながら、みや子は逃げ帰るように去って行く。

駅の側を通る時、その清吉(青山恭二)から呼び掛けられたみや子だったが、知らん、知らん!と言いながらも、嬉しそうな顔でリヤカーを曳いて行ったので、清吉は首を傾げる。

途中、またみや子は、自転車に乗った法海に出会う。

ラジオやに行く途中らしいが、また自転車を降りて来て、みや子に話しかけようとするので、困るのよ、あんたと一緒の所観られたら!これから木村先生の所に行かなければいけないし、商売の邪魔しないでよ!どんどん焼き屋の喬ちゃんにも頼まれてるんだからと言って、先を急ぐ。

そんなみや子の後ろ姿に、みや子のバカ!と法海は悪態をつきながら自転車に戻ろうとして転んだので、それを見たみや子は、そーら、罰が当たった!とはやし立てる。

東京から地元に居着き、小説を書いている、作家の木村先生(下元勉)は、花を持って来たみや子に頼まれたので、「乾坤一人薫る水仙の花」と色紙に書いてやる。

実は、その色紙は、どんど焼き屋の娘で級友の喬子(中川姿子)から頼まれていた物だったので、その後、喬子に渡しに行く。

喬子はその礼に、どんど焼きをいくらでも食べていいと言ってごちそうする。

そんなみや子に、帰ったら、お父っつあんに、わしが話があると伝えておいてくれと話して来た喬子の父親の松五郎(日野道夫)は、ちょうど、店を出て帰りかけていた若者のバイクの後ろに勝手に乗り込んで、農業会まで乗せて行ってくれと図々しく頼む。

その話を聞いていた喬子は、宮沢さんがうちの父ちゃんにあることを頼みに来たのよとニコニコしながらみや子に教える。

みや子は、薄々その話の内容に気づくと、知らない!いじわる!と喬子を睨むと、恥ずかしそうに、どんど焼き屋を出て行く。

家に帰って来たみや子に、父親の源三(大町文夫)は、みや子、お前、花ばかり売っとらんで、田んぼ手伝ってやれよと叱る。

花を売るのだって大変なのよとみや子が反論すると、確かにお前は、百姓より商売の方が向いているのかもしれんが、咲枝姉ちゃんに、いつまでも手伝ってもらう訳にはいかんと言う。

すると、みや子は咲枝に、良い虫付いてよ。そしたら兄貴も草葉の陰から喜ぶだろな、その時は素晴らしい物あげる!姉ちゃん、私の代わりに、畑の手伝いしてくれているんだものと言う。

そこへ、源三がやって来たので、慌てたみや子は、まだ台所仕事をしていた咲枝に、一緒に友ちゃんの所へお風呂借りに行かない?と無理矢理誘って外に出る。

母親のます(三崎千恵子)も、どうせ、父ちゃんたちは一杯やるんだから、行ってきなと勧める。

ちょうど、家の風呂が壊れていたのだ。

咲枝は、あんまりみや子がせかすので、一旦は外に出るが、石鹸を忘れたことに気づき、又家の中に戻る。

竃の中の枝等をいじっていた咲枝は、源三が松五郎に、突然の話なんだが、宮沢さんから是非にと言われたんだ。みやちゃんの嫁の相手としては申し分ないと思うと話しているのを聞いてしまう。

咲枝の表情は豹変する。

翌朝、みや子はいつものように花を売りに行く。

しかし、花畑でそれを見送る咲枝の顔は暗かった。

途中、小川の所に佇んでいたよし子に出会ったので、来てたの?とみや子が声をかけると、お父ちゃんと来たの。カナリアのお葬式をするの、今朝、死んじゃったのと言う。

それを知ったみや子は、リヤカーに積んでいた花の中から、1本取ると、よし子の持っていたカナリアを入れた箱の中に一緒に入れ、川に流してやる。

ありがとう、お姉ちゃんとよし子は礼を言う。

その後、小学校の横を通りかかったみや子に、また、法海が近づいて来る。

付けて来たと言うので、不良坊主だとみや子は呆れる。

そんなみや子を、路地に連れ込んだ法海は、使ってくれと言いながら、何か包みを手渡す。

開けてみると、真珠のネックレスだった。

呆れた!坊さんがこんなもの…、また、お布施ごまかしたんでしょうとみや子が言うと、みやちゃんを喜ぶ所観たくて、前からちょっとずつ貯めていたんだと法海は答える。

結婚のお祝いね、その内、お嫁さんに行っても良いって思ってるのとみや子が言うので、やっぱり俺、やって来て良かったと思うと感激する。

その後、木村先生の所に花を届けたみや子は、先生の奥さん、おしゃべり?と無邪気に聞く。

年を取ってから、しゃべるようになったな…と答える木村先生。

どうして一緒に暮らさないの?と聞くと、奥さん、東京で忙しいんだよ、色々とねと木村先生は苦笑する。

こちらにいらしたときは、いつもぴったりくっついて歩くって聞くわ。夫婦って楽しい?とみや子が聞くと、楽しいよ。時々苦労することもあるけどねと木村先生は言う。

お寺の和尚さんと鉄道員、どっちがえらいと思う?と聞くと、あ、そうか!年頃だものね、みやちゃんもと木村先生は笑う。

先生の小説、派手な話ないもの…とみや子が不満そうに言うと、僕は、リヤカーを曳いて歩く娘の話なんかが書きたいんだよと木村先生は答え、さっきの話だけど、みやちゃんが好きな人の方が偉いんだよと付け加える。

どっちも同じくらいだったら?とみや子が迷いながら聞くと、それは、まだそれほど、好きじゃないってことかな?と木村先生が教えたので、みや子は、分かんない!と言い残して帰って行く。

外に出ると、また法海が待っており、みや子に近づいて来たので、その様子を見た物売りのおばさんは咳払いをして通り過ぎて行く。

岬の下で偉いもん観たよ。ぐっと来る濡れ場だと法海が話しかけて来たので、濡れ場?と意味が分からないみや子は聞き返す。

言ってみればラブシーンだよと法海が教えると、バカ!嫌!とみや子は逃げようとする。

誰だか分かるか?と言うので、知らん!そんなの…とみや子が不潔な物を見るような顔で答えると、咲枝姉ちゃんと清吉さんなんだと言うではないか。

俺、興奮しちゃって…などと法海が思い出ながら言うので、本当なの?と確認したみや子は、荷台から花がこぼれ落ちるのも気づかずにリヤカーを曳きながら走って帰る。

その頃、家では、すっかり元気がなくなった咲枝を気遣ったますが、どうかしたんか?身体でも悪いのか?と優しく聞いて来て、今父ちゃんが、あんたの精分付けようと、鶏をつぶそうとしているんだと教える。

それを聞いた咲枝は驚いて、鶏を掴んでいた源三に、そんな!と言いながら止める。

遠慮することないよとますは言うが、私、もったいなくて…と言いながら、咲枝は泣き出してしまう。

みや子は、海辺に1人座り込み、こちらも悩んでいた。

一方、寺に戻った法海は、外から持ち込んで来たラジオをそっと本堂の隅に隠していた。

そして、お経の練習を始めるが、掃除にやって来た芳江が、隠してあったラジオを見つけてしまう。

音楽を鳴らし始めたので、法海は見つかってしまったことに気づき、外にいた父親の方丈も、いつになったら、お前の性根は直るんだ!お前のような奴はどっかに行ってしまえ!と寺の外に追い出してしまう。

裏山に逃げ込んだ法海は、1人悔し涙を流していた。

家に帰って来たみや子は、信金のおじさんの話って、姉ちゃんのお嫁の話だったの?清吉さんとの縁談?と聞くと、源三は、そんなバカな!と驚く。

源三もますも、咲枝と新吉の仲のことを全く知らなかったようだった。

その後、呼びだした松五郎に、源三は、みや子の話はなかったことにしてくれと頭を下げていた。

事情を知った松五郎も、こりゃ、妙なことになってしまったが、わしの軽卒を許してもらいたいと詫びる。

源三は、ええって、ええってと慰める。

それを心苦しそうに聞いていた咲枝は、奥の部屋にいたみや子が、聞いちゃった!おめでとう!これで花嫁貯金役に立った!花を飾ってやるね!と嬉しそうに言いながら外へ飛び出して行くのを見送る。

ところが、竃の前にこぼれた灰を掃除しようと観た咲枝は、そこに「清吉」と書いているのに気づく。

すぐに、みや子も清吉のことが好きだったのだと気づいた咲枝は、外に飛び出し、花畑にいるはずのみや子を呼びかけるが、みや子は返事をせず、しゃがんで水仙の花を摘んでいた。

咲枝は、急に立ち上がって逃げ出したみや子に気づく。

みやちゃん!と叫ぶが、みや子は振り返らなかった。

川の所へやった来たみや子は、取って来た水仙を、1本だけ残し、後は川に流してしまう。

清吉さん…、咲枝姉ちゃん…、そう呟いて歩き始めたみや子に、たまたま通りかかった喬子が呼び止める。

お父さんから話を聞いたわ。御愁傷様などと嫌なことを言って来るが、みや子は、平気よ、まだまだお嫁に行くの早いもの!と答える。

喬子は、連れ添っていたボーイフレンドを小説を書いているのと紹介すると、この間の色紙、実は彼に頼まれてたんだけど、渡したら、映画おごってくれるんだってと嬉しそうに言って、ボーイフレンドと一緒に去って行く。

1本だけ、水仙を手にしていたみや子は、そうだ!木村先生の所へ行こう!と言い、先生の家の中を覗き込むが、そこには、東京からやって来た奥さんと木村先生が、仲睦まじそうにしていたので、寂し気に帰ることにする。

途中、公園のブランコに乗ってみたりするが、寂しさは消えない。

途中、咲枝が置いていたふろしき包みを見つけたみや子は、そこに水仙を刺して、姉ちゃん、幸せになってねと呟く。

家に戻って来たみや子が姉ちゃんは?と聞くと、ますは、納戸の方だろうと言うので、行ってみると、咲枝はいなくて、代わりに、「皆様へ」と書かれた置き手紙が残っていた。

これまで皆様の愛情に甘え、長くい過ぎました。

このままではみや子ちゃんにも申し訳なくて…と言うようなことが書いてあるではないか!

みや子は、母屋に走って戻ると、大変!姉ちゃん、家出しちゃった!と両親に告げ、私、清吉さんの所へ行って来ると言うと、電動自転車に乗って、宮沢の家に向かう。

宮沢のおじさんと清吉は在宅していたが、姉ちゃんが家出したの!とみや子が告げ、他所で働くと書かれていた置き手紙を見せると、すぐに新吉は探しに出ようとする。

すると宮沢は、お前が行くことはない。きちんとした話もしてないのに、こんなことで噂でも立ったら、源三さんに会わす顔がないと言う。

しかし、そんな父親の制止を振り払い、みや子と共に外へ探しに出た清吉は、みや子の電動自転車を借りると言いだし、先に帰ってなと言う。

みや子が立ちすくんでいると、1人じゃ怖いのかい?と清吉は聞く。

姉ちゃん、幸せだね。絶対結婚するんでしょう?とみや子が聞くと、するさ、絶対と清吉は答える。

良かった。町の噂を気にして結婚しないんじゃないかと思って…とみや子が言うので、そんな男に見えるかい?と清吉は笑う。

安心、安心!姉ちゃんのこと、頼みますと清吉に言葉をかけ、みや子は1人で家に帰ることにする。

そんなみや子が、慈光院の前を通りかかった時、血相を変え、寺から飛び出して来た法海が、桶に組んであった水をがぶ飲みしているとことに行き会わせる。

どうしたのよ、法海さんと話しかけると、みやちゃん!会いたかったんだと近づいて来た法海は、とうとうやっちまったんだ。2人を突き飛ばしたんだ。そしたら本堂の床にぶつかり…、もう、死んでるだろう。寺じゃ今、大騒ぎだろうな。捨て子だったときのように、ミカン箱とおしめを持って出て行けって言うものだから…、ラジオをも、石にぶつけて壊しちゃったんだと言うではないか。

驚いたみや子だったが、法海さんの思い過ごしかもしれないじゃない。観てくるわ私、ここにいるのよと言うと、慈光院の本堂に向かう。

障子戸のガラス部分から中を透かしてみると、芳江が方丈の頭に包帯を巻いてやっているのが見えた。

ほんと、ろくでなしですよ!と芳江が法海のことを悔し気に言うと、あいつも可哀想な子だよ。お前が寺に来る前の法海は、あんなじゃなかった。別にお前が悪いって言うんじゃないよ。わしも少し、考え直さんといかんと思う。他の人と違うんだ。仏に仕える身だ。法海…と後悔している様子。

戻ってきたみや子が、死んでなかったし大丈夫なので帰ったらと勧めるが、嫌だ!もうあんな寺に行かない!と法海は我を張る。

みや子は、私を信じて一番始めに打ち明けてくれたんだから、あんたの友情に免じて、私が人肌脱いであげる!私だって、泣きたいことあるのよ。でも、泣いても良いことないもんと法海をなだめると、一緒に寺へ連れて帰る。

一方、方丈の方も、ちょっと探しに行こう。何か暖かい物でも作っておきなさいと芳江に頼むと、寺を出ようとする。

すると、そこに、みや子と一緒にいた法海を発見する。

みや子は、和尚さん、法海さんを許してあげて。私、そこで会ったの。お願いだから、許してあげてと頼む。

方丈は笑顔になり、良いとも良いともと答える。

法海も、みや子に、ありがとうと感謝するのだった。

自宅に帰り、蒲団に入ったみや子は、今さらながらに、自分の不運を泣いていた。

翌朝、ますから、いつまで寝ているんだい!と叩き起こされたみや子は、夕べどこ行ってた?と聞かれたので、姉ちゃ探してたと答えると、噓つけ。咲枝は夕べ、清吉さんがちゃんと送って来てくれたよと言うではないか。

嬉しくなったみや子は、いつものように花畑に駈けて行く。

姉ちゃん!良かったわ。心配してたのよとみや子が話しかけると、ご免なさいねと咲枝は詫びる。

みや子は、平気、平気、私、坊主と鉄道員、一番嫌いだもん!と答える。

半年で未亡人になって、あれから2年、私には帰るうちもないんだもの…と咲枝は打ち明ける。

これからは、うんと幸せになってね!花切っといてね。仕度して来る!と行ったみや子は、いつものように、リヤカーに花を積んで出かけて行く。

すると、又いつものように、ヤクルト配達のケンちゃんが、後ろから追い抜き様、花を盗んで行ったので、ヤクルト3本よ!と文句を言う。

3本も飲んだら、美人になり過ぎちゃうよと言いながら、ケンちゃんは、瓶入りのヤクルトを飲ませてくれるが、飲み終えたみや子が、後2本!と言うと、本当に3本も飲んじゃうのかい?俺、給料から差し引かれちゃうんだよな…とケンちゃんはぼやく。

その後、法海と出会ったので、どうだった?とその後のことを聞くと、ラジオ直せと、金くれたよと嬉しそうに法海は言う。

短気は損気よ。これから法海さんがまじめになったら、そしたら私考えても良いかな。私の試験、難しいんだから。落第したらダメよとお茶目っぽく言う。

その後、出会った清吉は、夕べはありがとう。ようやく親父も許してくれた。式、早く挙げようと思うと伝える。

その後、信用金庫にやって来たみや子は、宮沢に、私、貯金降ろしたいのと頼む。

いくらだい?と宮沢が聞くと、全部!とみや子は言う。

その後、リヤカーを曳いていたみや子は、赤ん坊連れの母親と出会ったので、その赤ん坊を荷台に乗せてやる。

後日、いよいよ、咲枝の嫁入りの日がやって来る。

文金高島田の衣装を着た咲枝を観た源三は、出来た、出来た、立派な花嫁だと喜んでいた。

その頃、みや子は、町の電器屋で、最新式の2層噴流式と言う富士電機製の洗濯機の説明を店主から聞いていた。

ワイシャツなら、8枚を5分で洗えると言う。

気に入ったようなみや子だったが、ちょっと足りないのよと言い出す。

明日まで待ちますよと店主が言うと、明日でも足りないのよとみや子は訴えるような目で言う。

自宅にいた咲枝は、お父さん、お母さん、ありがとうございましたと挨拶をしていた。

ここがあんたのうちなんだから、いつでも帰って来たよとますも答える。

みやちゃんにも一言お礼を言って行きたかったんだけど…と、不在のみや子に聞を使いながら、咲枝は出発することにする。

外に出ると、そこに繋がれていた格子を観た源三は、明日から、この子牛の世話をするのもみや子の仕事だと笑う。

両親、近所の者たちを引き連れて、花嫁姿の咲枝が歩いていると、道の脇の崖から飛び降りて来たのはみや子だった。

姉ちゃん!と駆け寄るみや子に、みやちゃん、お世話になりましたと感謝する咲枝。

姉ちゃん、幸せになってね!幸せになる責任があるのよ、先輩としてと言ったみや子は、ちょっと…と咲枝を崖の向こうに連れて行く。

そこには、リヤカーに積んだあの洗濯機が乗っていた。

これ、私の贈り物よ。これ、私、一緒に持って行くとみや子は宣言する。

ありがとう、みやちゃん。大事に使わせてもらうわと咲枝は礼を言う。

そこに通りかかったのは、法海だった。

本日は誠におめでとうございますと、自転車を降りた法海は咲枝に挨拶するが、嫌な時に来て…、演技でもない!とみや子は怒ってみせ、法海さん、又明日ね!と一方的に挨拶する。

さすがに法海も気を利かせ、自転車で帰って行くと、みやちゃん、法海さん、好きなの?と咲枝は何かを察して聞く。

みや子は、嫌い!あんな慌て者!と答える。

後ろを気にしながら自転車を走らせていた法海は、目の前に、紐でつながれた羊がいることに気づき、慌てて急ブレーキをかけるが、こけてしまう。

みや子は花嫁姿の咲枝の横に並んで、洗濯機を乗せたリヤカーを曳いて、一緒に歩いて行くのだった。