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金語楼純情日記 珍遊侠伝

柳家金語楼主演の人情劇だが、今回は、ムショを出たばかりの金語楼演じるヤクザが、仲間の裏切りを知り、復讐をしようとして家族をハラハラさせると言うサスペンス仕立てになっている。

娘役を演じているのは、若き時代の扇千景で、弟分の浅を演じているのは藤田まことである。

藤田まことは、ちょい役と言った感じで同年1月29日公開の「金語楼純情日記 初恋社長」にも登場しているが、2月12日公開のこの作品では、重要な役柄で出演シーンも格段に多くなっている。

テレビの方は1957年頃から既に出演していたようだが、映画の方としては、公開時期が近接している事もあり、2本の作品はほとんど同時期に撮影していた可能性もあり、この辺がデビューなのではないだろうか。

テレビで一躍有名になる「てなもんや三度笠」より数年前であり、この当時の藤田まことはなかなか細面ですっきりした顔立ちのイケメンである。

「てなもんや〜」などでは、しきりに「顔が長い」と自虐ネタで笑いを取っていたが、喜劇役者としては、そう言う自虐ネタを作らないとイケメン過ぎたと言う事かもしれない。

さて、今回も、中編と言う半端な内容のため、キネ旬データの配役と実際に観た映画では違う部分があるのだが、気になるのは、大海兵六(パチンコ屋)(中田ラケット)と言う役柄が見当たらなかった事。

確か、ムショから自宅に戻って来た三吉は、4人に裏切られたと言って、名前を挙げて行っていたような気がする。

しかし、今回観た映画に登場する復讐の相手は3人で、中田ダイマルが出ているのに、相方の中田ラケットが出ていないのは不自然な気もしないではない。

ひょっとすると、今回観たのはカットバージョンだったのだろうか?

時が経て、昔なじみを1人1人訪ねてみると、みんな亡くなっていたり、零落していた…と言うのは、「舞踏会の手帖」(1937)辺りのアイデアを頂いているような気がしないでもない。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1957年、宝塚映画、淀橋太郎+中田竜雄原作、民門敏雄脚本、田尻繁監督作品。

大阪、阪急百貨店前辺りからカメラが横にパンする。

橋の上で会っていたのは、恵子(扇千景)とその恋人小川正彦(小原新二)

互いに何か話がある様子だったが、恵子がまず、うちのお父さんが帰って来るのよと言い出すと、両親に君の事話たねんと小川も打ち明ける。

うち、それが一番心配やわ、正彦さん。お父さん、帰って来たらいっぺん会ってねと恵子は頼む。

大阪刑務所

長い間良く勤めたな。元気でやれよと看守から見送られて出て来たのは、恵子の父親でヤクザの山上三吉(柳家金語楼)だった。

そんな三吉を、お帰りやすと出迎えたのは、弟分の浅(藤田まこと)だった。

他の連中はどうしたんだ?と不審そうに聞く三吉に対し、浅は煮え切らないように言葉を濁し、恵子はんな、ええ娘はんにならはりましたと話をそらす。

瓜の蔓になすびはならねえからな…などと相好を崩した三吉だったが、また、他の仲間の事を思い出したのか、奴らの罪をかぶって、3年8ヶ月も入っていたのに…、ヤクザのエチケットに反してないか?と、迎えにも来ない事を怪しみだす。

その頃、三吉の女房おせき(清川虹子)は、尾頭付きの鯛を出前から受け取ると、夫の帰りを待ち受けていた。

そこに、姉さん!お帰りでっせ!と浅の声が聞こえて来たので、表に出て夫三吉を出迎える。

お迎えにも行かんと…堪忍やで、わては泣きやさかい…と言いながらも涙するおせき。

親分の遺影(沢村宗之助)を横目に、仏壇に手を合わせた三吉は、酒を勧めようとしたおせきに、念願あって禁酒する事にしたと言い出す。

怪訝そうな顔になったおせきは、聞いたぜ、吉良留と繁田のこと…と三吉が言うので、黙っておくように言いつけていた浅がしゃべってしまった事に気づく。

その場に座っていた浅は、おせきの視線に気づくと、気まずそうに、すみません!とうなだれる。

つまらん了見起こさないでおくれとおせきは止めるが、山上三吉の男が廃る。死んだ親分に代わって一言挨拶せんと腹の内が収まらんなどと三吉は息巻くので、皆どこに行ったかも分からないのにとおせきがなだめる、

ところが三吉が、忠太郎は船場で小料理屋をやっていると言うじゃねえかと言うので、それも浅がしゃべってしまった事に気づき、おせきは浅を睨みつける。

出て来たばかりの所やのに、また、入らないけまへんで。もう頭もそんなになった年なのに…とおせきは三吉をなだめようとするが、それも男の修行だ!腕や度胸は禿げてない!と三吉は聞く耳を持たない。

大前田組は正業に戻してくれと言うのが亡くなった父の言葉でした。この浅かて、今では牛乳配達やってますのや。人の事を考えるより、生きているわてや恵子の事を可哀想に思ってくれないか?今までじっと我慢して待ってたんだよ

お礼参りや仕返し等止めておくれ。恵子の婿でも探してくれ!と頼むが、三吉が聞こうとしないので、とうとう頭に来たおせきは、このおっちょこちょいのオタンコナス!と罵倒し出す。

すると三吉は、この家は親分がお前に遺してくれたものだから、俺が出て行ってやる!浅、後の事は頼むぞ!と言い出すと、あっけにとられるおせきと浅を尻目に、家を出て行ってしまう。

それを見送ったおせきは、あの人、生まれて来るのが遅過ぎた。清水の次郎長が生きていた時代に生まれていたら良かったのに…と、浅にぼやいてみせる。

そこに恵子が帰って来て、お父さんまだ?と聞いたので、おせきは気まずそうに、ああ…と返事をするしかなかった。

しかし、三吉はさすがに出て行きかねていて、家の横の勝手口からそっと中の様子を覗き込んでいたので、それに気づいた浅は、お帰りだっせ!と言いながら、三吉の背中を押して、家の中に押し込む。

押し込まれて入って来た父三吉に気づいた恵子は、嬉しそうに三吉の手を取ると、お父はん、帰ってきはったで!と母親に呼びかけたので、おせきはきまずそうに目をそらしながら、お帰りやす…と呟くのだった。

おせきは、久しぶりに、2人で映画でも観て、ご飯でも食べてきなはれと勧め、三吉の財布に金を入れて渡してやる。

父と外出した恵子は、あらかじめ呼んでおいた小川正彦を三吉に紹介する。

三吉は、ソ連に抑留されていたので…とごまかし、小川もご帰還おめでとうございますと挨拶するが、三吉がムショに入っていた事は恵子の口から聞いて知っていた。

三吉は、「梅田コマスタジアム」の前に来ると、映画は2人で観て来なさいと勧め、自分はサングラスをかけると、大阪の町を歩き始める。

船場にやって来た三吉は、電柱の影から覘いた拳銃で狙われるが、それは子供のいたずらだった。

「日の出屋」と言う小料理屋に入った三吉を迎えたのは、その店の女将らしき女だった。

忠太郎の妻と言うお雪(万代峯子)に、忠太郎さんがいるかい?と聞くと、あの人いません年…、死にましたんや、2月ほど前…と言うではないか。

何でも、熊野に鮎釣りに行って、川にハマったと言う。

それは噓じゃないだろうね?と半信半疑で三吉が聞き返すと、死亡野津うちや香典もありますなどとお雪が言うので、やっぱり死んだか…と三吉が呟くと、何せ急な事で…、私も夢見たいで…とお雪もうなだれる。

せっかく人が勢い込んでやって来たのに…と三吉も納得するしかなかった。

取りあえず、カウンターに座った三吉だったが、そこに飛び込んで来てお雪に小遣いをせびったのは、さっき、電柱の影から玩具の拳銃を突きつけた子供だった。

金を受け取り店と飛び出して行った子供は、忠太郎の子供でまだ8つだと言う。

そこに、1人の老人が買い物かごを下げて帰って来て、三吉の隣に座る。

忠太郎も、ヤクザから足を洗うたら、すぐに死んだ…とぼやいたその老人は、お雪の父親良作(寺島雄作)らしく、この人は?と三吉の事を聞くので、忠太郎の釣り友達の人とお雪がごまかすと、堅気だと思いこんで安心したのか、良作は、ヤクザは人間のクズだなどと言い出す。

三吉は思わず、ヤクザにも立派な男の道があるはずだと反論するが、あいつが足を洗ったのは、わてが泣いて頼んだんや。今、ムショに入っている奴がいて、何でも親分の娘婿で…、何と言ったか…、そうそう山上三吉と言う奴やと言うので、あの時儲けた金でこの店を作ったんでしょう?と三吉が聞くと、とんでもない、この店はわしと娘が貯めた金で作ったもので、ヤクザの行きがかかった金なんか使っておりまへんと言う。

山上とか言う男がその内ここへやって来たら、足洗わそう思うているのやけど、なかなか来まへんと良作が言うので、三吉は、ちょっと拝ませてもらいましょうと願い出て、仏壇の前に札を1枚置いて帰ろうとすると、お名前は?と良作からしつこく聞かれたので、山…、山下啓太郎と申します。本名でして…と名乗って店を後にする。

外に出ると、電柱の影に立って様子をうかがっていたらしき浅が、けったいなお礼参りやなと三吉に笑いかける。

その頃、小川とデートを楽しんでいた恵子は、友人の市川みち子(環三千世)にばったり出会う。

みち子は、日曜やと言うのに、うちには相手もおらんし…等とうらやむように言って別れる。

小川が、やっぱり心配やな、お父さんがあの世界から足を洗うてくれるかどうかや…と言うので、お父さんも私の為なら止めてくれはると思うの、任しといてと恵子は返事する。

有吉吉良留の家を訪ね当てた三吉だったが、中に呼びかけても誰もいない。

家の中の様子はかなり貧しそうだった。

やがて、奥の方から赤ん坊の泣き声が聞こえて来たので、勝手に座敷に上がり込むと、2人寝かされていた赤ん坊の片方が泣いている。

仕方ないので、抱き上げてあやしていると、そこに吉良留の女房のお勝(木村栄子)が帰って来て、三やんやないか?と懐かしがる。

吉良留は?と聞くと、7時頃帰って来る。今、紙芝居やってるんやと言うではないか。

そこに、その吉良留(中田ダイマル)が帰って来る。

三吉の顔を観た吉良留は、嬉しそうに、三やんやないか?あん時、俺たちの罪をかぶってくれて…と感謝しながら近づくが、三吉がナイフを取り出し襲いかかろうとするともみ合いになる。

それに気づいたお勝も、三やん、あんた勘違いしてる!と慌てて止めようとする。

取りあえず、落ち着いた三吉に、茂田と組んで大前田を売ったんだろう!と責めると、わいは茂田に騙されたんや。金なんて1銭ももらってない。この家観てみ。赤貧洗うや。金貰うとったら、今頃家建てて、スクーター乗り回しとるわいと吉良留は言う。

それに、去年、これが双子を生んだ。そして又これやねんと、女房が腹がふくれたジェスチャーをして見せる。

それを聞いていたお勝は、これは2人の共同責任なんやと正論を言って来て、何で今日は早う帰って来たんや?と聞く。

すると、吉良留は、情けなさそうに、小便している間に自転車を盗まれたと言う。

肝心の商売道具を取られて、これからどうやって暮らすねん!とお勝は怒りだす。

最初は黙って耐えていた吉良留だったが、あまりのお勝の攻撃に怒りだし、赤ん坊の1人を抱いていた三吉の目の前で取っ組み合いの喧嘩を始める。

その声を聞きつけたのか、近所のおばさんつね(汐風享子)が家に上がり込んで来て2人を止めようとする。

その内、お勝が突然倒れ込んで苦しみだしたので、驚いたつねが様子を見ると、産気づいたと言いだす。

つねが隣の部屋にお勝を運び込みながら、亭主の吉良留には、産婆を呼んで来させ、三吉にはすぐお湯を沸かせと命じる。

もう1人の赤ん坊も抱かされた三吉は、台所に来てもまごつくばかり。

そこに、又もや近くで様子を観ていたらしき浅が入って来て、何や兄貴、その格好と呆れるので、三吉は浅にバケツで水を汲んで来させると、双子の赤ん坊を浅に渡し、釜に水を入れ、竃に火をつけてお湯を作り出す。

一方、自転車に産婆を乗せ、帰って来ていた吉良留は、途中で、クリーニング配達の自転車とすれ違い様よろめき、産婆を落としてしまう。

慌てた吉良留は、近くを通りかかった同じような割烹着姿の主婦を後部に乗せ、出発しようとするが、起き上がった産婆が、違う!と叫んで人違いを指摘する。

ようやく産婆を連れ戻って来た吉良留は、三吉と共に赤ん坊が生まれるのを待ち受けるが、やがて、赤ん坊の泣き声が聞こえ、つねが男の子や!と言いながら吉良留に手渡す。

喜んだ吉良留だったが、その直後、また赤ん坊の泣き声が響き、双子が生まれた事を知ると顔が青ざめる。

その2番目を受け取った直後、又もや、赤ん坊の泣き声が聞こえて来たので、吉良留は気を失ってしまう。

三つ子が生まれるとは目出てえことだと言いながら、三吉はそっと札を1枚気がついた吉良留に渡してやる。

吉良留は、三やん、すまねえ!助かるわと言って泣き出すのだった。

帰宅した三吉を前に、女房のおせきは、1人娘の縁談も知らずにあんな分からず屋をもらったうちがアホやった!恵子、堪忍なと謝っている所だった。

恵子は意を決し、神棚の下の火鉢の前に座っていた三吉の前に座り込むと、お父さん!うち、今日から、太陽族か愚連隊になるわ。おとうさんの血を引いてるさかい、親分くらいにはなれるやろうと言い出し、三吉が止めると、お父さん、今自分がやっている事がくだらない事だって事が分からないの!母さんや私の事、ちっとも分かってくれないくせに、自分だけ、やれ男の道だとか侠客道だのって勝手過ぎるわ!人の親としてはゼロだわ。もし新聞沙汰にでもなったらお終いよ。そんな分からず屋のお父さんなら帰って来ん方が良かったわ!私、出て行きます!と言い残し、家を飛び出して行く。

しかし、三吉は後を追おうとせず、ここが我慢のしどころだ!肉親の情に負けてたまるか!などと言っていたので、たまりかねた浅は、この辺で諦めてもらえまへんか?と頭を下げるが、夫婦親子の縁を切ってもやり遂げるんやと三吉は聞く耳を持たない。

おせきは、家の前の電話から、市川みち子の家に電話し、恵子がそっちに行くかもしれないので、もし来たら電話で知らせてくれと頼んでいた。

その会話を、家の中に座って黙って聞いている三吉。

家の中に戻って来たおせきは、浅に、おばさんにもしそっちに恵子が来たら知らせてくれるよう電報を打って来るように頼む。

その夜、おせきと三吉は、火鉢を挟んで一晩中にらみ合っていた。

気がつくと、2人ともその場でうたた寝をしたまま夜が明けていた。

目が覚めた三吉は、俺は出かけなくちゃ行けねえから、飯の仕度をしろと命じるが、あんたかて、恵子の事が心配やから一晩中起きてたんだろ?とおせきはからかうが、お前が睨んでいたから、付き合っていただけの事と三吉は負け惜しみを言う。

今日と言う今日ははっきり決着をつけてくる。お前も恵子も仲良く暮らせよと言って三吉が家を出た直後、みち子がやって来て、約束破ったさかい謝りに来たんやわと言う。

恵子が夕べ来ていたが、電話できなかったらしい。

恵子の言うのも無理はない。浅、おばさんの所に電報打ってくれたか?と聞くと、浅は打ちましたと言った後、この際、吉良留に、繁田逃がすよう言っときましたと言うので、それが良いとおせきは安心する。

しかし、恵子はん、お父さんがお礼参りして新聞沙汰にでもなったら、もう結婚できんようになるんで死ぬ言うてましたとみち子が言うので、おせきや浅は慌てだす。

その頃、三吉は、家の建築現場にいる大工らから繁田の情報を仕入れていた。

その繁田の家に紙芝居を付けた乳母車を押してやって来たのは吉良留だった。

門の所に来て中を覗き込んでいると、中から出て来た繁田の女房のおしま()と出会う。

その繁田家の塀の影で、胸に手を入れたまま様子をうかがっていたのは三吉だった。

おしまの背後から姿を現したのは繁田源兵衛(左卜全)だったが、どうやら中気で半身不随の状態の様子。

それを観た吉良留は、年がら年中震災に遭うてるようなもんやな…と同情する。

繁田は不自由になった口で、三吉がやるつもりなら、いつでもやってもらいたい。これ以上長生きしても何の楽しみもない。源兵衛はいつでもやって貰っても良いと三吉に言ってくれ。金もいらん。家もいらん。女も欲しくない。ちっとも未練ないわ。これからやいと行くねんと言いながら、おしまを連れ、家の前を塀伝いに通り過ぎて行くが、その背後に出て来た三吉は、ナイフを取り出して襲おうと構える。

それに気づいた吉良留が三吉に飛びかかり止めようとする。

吉良留が思わず、抵抗する三吉の頬を叩くと、この通り許してくれ!わいには5人もいるんやと謝る。

すると、三吉は急に何か取り憑いていたものが落ちたように素直になり、俺を殴ったのはおめえじゃねえよ。恵子がおまえの手を借りてぶったんだ…と呟く。

ちょうどそこに警官(石田茂樹)が通りかかったので、わざと持っていたナイフを道に落とした三吉は、これが落ちてましたよと言いながら、拾ったナイフと鞘を警官に手渡す。

警官は、どこぞの愚連隊のもんやろと言ってそれを受け取る。

ちょうどそこに自転車で駆けつけたのが浅で、三吉と警官が会話していたのを見ると、お礼参りして捕まったものと勘違いし、2人の間に割って入ると、恵子はんが自殺する言うてますで!と三吉に知らせる。

お礼参りは止めたんやと知らせた三吉だったが、恵子の事が心配でならず、浅の自転車を借り、その場から走り去る。

浅はその後を駈けて追いかけるが、三吉の方は、途中でウナギの行商人とぶつかり、駕篭の泥鰌が道路に散乱して大騒動。

何とか自宅に戻って来た三吉は、恵子、いるか?と中に呼びかける。

中から出て来たおせきが、お礼参りは?と聞くので、済んだよ!と三吉が答えると、済んだんか?なら、恵子あかんわ…とおせきは絶望する。

そこに遅れて戻って来た浅が、姉さん、おめでとう!兄貴はお礼参りを止めてくれました!きっぱり、堅気になってくれはりました!と教えたので、済んだと言うのはお礼参りを止めた言う事やったんやねと、おせきははじめて勘違いに気づき安心する。

一緒にその場に残っていたみち子が自宅に電話をかけてみるが、恵子はいないと聞き慌てる。

その直後、今度は電話がかかって来て、それは恵子からのものだった。

どうやら小川と一緒にいるらしい。

その受話器を受け取った三吉は、何をしてるんだ?うちのものが心配しとるじゃないか!と優しく叱りつけ、さらに受話器を代わって受け取ったおせきが、ほんま、お父さん、すっかり改心しはったわと知らせる。

もうお礼参りも終わりですな…と、浅が、火鉢の前に座った三吉に確認すると、もう1人、とっくりお礼参りする相手がいるんだと言うではないか。

ぎょっとしたおせきだったが、三吉が、かかあ大明神さ…と横目でおせきを観たので、まあ!と驚いたおせきは、嬉しそうに泣き笑いの表情になるのだった。