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チンドンやの娘

横山エンタツと清川虹子主演の人情もので、上映時間48分の中編映画。

松竹新喜劇の出し物「ちんどんや物語」の映画化らしく、喜劇と言うより、お涙頂戴物に近い内容になっている。

「新喜劇」がベースと言っても、当時人気者だった漫才コンビ、エンタツ、アチャコのエンタツと渡辺篤がとぼけたキャラクターで出ていると言うだけで、特に脚本的に笑わせるような工夫はしていないように見える。

チンドン屋の仕草を笑うのだとすれば、それはチンドン屋さんに対する侮辱のような気がしないではないし、他に笑うようなシーンと言えば、千丸とお圭が、芦屋で架空の御前様を探す件くらいだろうか?

松竹伝統の「泣き笑い」と言うものをある程度理解していないと、これが喜劇?と首を傾げる人もいるかもしれない。

親の職業を理由に、縁談を断られた娘の本当の父親探しが話の基本なのだが、父親の正体には薄々気づくような伏線はちゃんと用意されている。

お圭から、千鶴子の縁談がチンドン屋の娘と言う理由で断られたと聞いた千丸が大泣きする所等は、後から思い返すと伏線だったと気づくはずだ。

だから、御前様等実は存在しないのではないかと気づいたお圭も、すぐに真相にたどり着いたのだ。

ただ、そもそも、赤ん坊の千鶴子を貰い受ける時、千丸がなぜ高貴な身分の方と知り合いになったのかとか、色々不自然な所はあったはずで、お圭は最初から、千丸の話を鵜呑みにしていた訳ではなかったのかもしれない。

決して笑えるような展開ではないが、やはりコミカルなキャラクターが出ていると、深刻な話も観易いのは確かで、エンタツや渡辺篤のとぼけた雰囲気はやはり貴重だと感じる。

本作には、他ではあまり見慣れないような役者さんも出ており、清川虹子の亭主役を演じている山田周平とか、千鶴子の妹役を演じている和歌鈴子などは、あまり見かけた記憶がない。

千鶴子を演じている環三千世は、この時代の宝塚映画等に良く出ている、ちょっと可愛らしい感じの女優さんだが、この作品でも、なかなか良い役をもらっている気がする。

しかし、この当時の清川虹子は、誰の相手をしてもそつなくこなせるし、主役的な役もできる貴重な女優さんだった事が良く分かる。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1957年、宝塚映画、館直志「ちんどんや物語」原作、松浦健郎脚色、内村禄哉監督作品。

息子一郎(早川恭二)に何枚も見合い写真を見せている母調子(初音礼子)だったが、どれを観ても一郎は首を振る。

同じ頃、長女の千鶴子(環三千世)に何枚も見合い写真を見せていた母、関の家お圭(清川虹子)の方も、千鶴子が首を横に振るばかりなので困りきっていた。

そんな中、一郎の部屋で一緒に見合い写真を観ていた父、山田五郎(渡辺篤)は、これはすごい!俺が見合いするのだったら、絶対これだな!と太鼓判を押した写真を観た一郎は、ようやく、母さん、僕、こういう人と結婚したかったんだと言い出す。

その写真には千鶴子が写っていた。

一方、千鶴子の方も、一枚の見合い写真を観るなり気に入ったと言う。

その写真は山田一郎の写真だった。

実は一郎と千鶴子は、1年も前から付き合っている恋人同士だったのだが、互いの両親が結婚は見合いに限ると言う古い考えにとらわれていたため、わざと自分たちの見合い写真を撮って、相手先に送りつけていたのだった。

その作戦の甲斐あって、何とか2人は結婚できそうな雰囲気だったので、久々の秘密裏のデートもうきうき気分だったのだが…

屋敷の庭先でパンツ一丁の裸になり、鉄アレイを持って体操をしていたのは、山田五郎だった。

そんな山田家に近くから、チンドン屋の演奏する「野崎小唄」の曲が聞こえて来る。

すると、何故か、五郎の身体はおかしな踊り風になってしまったので、後ろで待機していた執事とメイドは思わず笑ってしまう。

そんな五郎をベランダから観ていた調子は、あなた!と怒鳴りつけ、急に怒りだした五郎は、わしはちんどん屋が嫌いだと言っとるだろう。早く行って止めさせんか!血圧が上がって来る!と執事に命じる。

表の通りに走り出た執事は、「通行止め」と日本語と英語で書かれた自家製の立て札を道の真ん中に設置する。

そこにやって来たのが、緑家千丸(横山エンタツ)らチンドン屋で、立て札を発見すると、驚いて相談しあう。

どこぞで、道路工事でもやってるんやろか?英語で何か書いてるさかい、進駐軍の命令ではないか?等と口々に言いあうが、千丸は、アホ!日本は独立したんやぞ!国連に入ったんやと言う。

ほな国連の命令かいな?そやったらあっち廻ろうと言い、結局、別の道の方へ向きを変える。

その後、五郎の元へ、社長、おはようございます!と言いながらやって来た秘書小村(川上健太郎)は、見合い相手の娘はチンドン屋の娘ですと報告する。

そらおもろいな!と一瞬喜んだ五郎だったが、又急に態度を変えると、家でチンドン屋と言う言葉を使っては行けないと言う事を秘書のお前が忘れてどうする!と叱りつけ、すぐ縁談を断って来なさいと命じると同時に、その場に倒れ込む。

仕事を終え、関の家に戻って来た千丸は、もう結婚相手が決まったはずの千鶴子のためか、お圭がまだ見合い写真を選んでいるのに気づき、訳を尋ねる。

すると、先方から縁談を断ってきよった。えらいちんどん屋が嫌いな人らしく、チンドン屋の娘なんかもらえんそうやと言うではないか。

さらにお圭は、千丸さん、話があると言うので、他の仲間が、お圭の亭主伊佐吉(山田周平)が湯加減を観てくれた風呂に入りに行く中、顔だけ洗って来る事にする。

2階では、次女の京子(和歌鈴子)が、同情するわ…、うちも何とか考えたるわなどと、見合いを断られた姉千鶴子を慰めていたが、考えてもろうても、チンドン屋はチンドン屋やと千鶴子が哀し気に言うので、京子は、私も人ごとではないわよと憤慨する。

お圭の前に正座した千丸は、一緒に見合い写真を選んでくれと頼んで来たお圭に、私は見合いは反対ですと言いだしたので、あんた、恋愛至上主義なの?と意外そうにお圭は聞く。

すると千丸は、女房が死んで20年、わては独身やと言うので、さすが千さんとお圭は感心して見せる。

そんな2人の所に近寄って来た京子は、山田一郎さんは、1年も前から姉さんと好きおうていた恋人よと告げ口する。

それを聞いた伊佐吉は、1年も前からの恋人やったらあかんで…とため息をつく。

あの子が私の気持ちを汲んで、見合い写真の中に恋人のを混ぜたとすると嬉しいよとほろりとしたお圭だったが、目の前の千丸も泣いている事に気づく。

こないな時に笑えますかいな…と千丸は言う。

それを見たお圭は、そうだ!千ちゃん、良い事があるよ!私もそんな2人なら一緒にさせてやりたいわと言い出す。

それを聞いた千丸は、さすが関の家の親方!と褒める。

その後、公園のブランコに寂しそうに座っていた千鶴子の所にやって来た千丸は、一郎はんて言う人がそんなに好きなんか?わてが良いようにしたる。千鶴ちゃんとわてとは20年来の親友やからな。思い出すなあ…、知恵ちゃんを懐に入れて守りしていた時の事。目覚ましたとたん、おしっこしよった等と言って、千鶴子を恥ずかしがらせる。

千鶴ちゃんが不幸になるの、黙ってみとられるかいなと言いながら、自分もブランコに乗って漕ぎだす。

その頃、一郎の方も、千鶴子との縁談を断った両親に文句を言っていた。

お圭は千鶴子を呼ぶと、こうなったら、意地でも山田はんの嫁にさす。覚悟を決めてはっきり言うけど、あんたは私の子じゃないんや。さる高貴な方の御落胤で、千丸の仲立ちで貰い受けたもの。

先方は、宮様のご親戚に当たる方だそうやけど、今は芦屋に住んではるそうで、詳しい事は、皆、千丸しか知らん。あんたはチンドン屋の娘やないのんやとお圭は伝えるが、それを聞いた千鶴子は、何も言わずに二階に上がって行ってしまったので、横で話を聞いていた伊佐吉は、言わん方が良かったな…とお圭に告げる。

二階では、京子が、チンドン屋の娘が御落胤なんて、まるでレビューの舞台やわ!と千鶴子をうらやましがっていた。

しかし、千鶴子は浮かない顔つきだったので、案外姉さんウェットね。新しい人生が開けたんよ!もっとドライにならんと…と励ましていた。

その後、千丸の家を訪ねたお圭だったが、もう寝ていると言う声が中から聞こえて来るが、親方、鍵は掛かっていまへんでと言う。

しかし、戸が開かないと言うと、それは開けるんやない。外すんやと千丸が言うので、扉ごと外して中に入ると、千丸は焼酎を飲んで蒲団に入っていた。

やけくそや。一丁、喧嘩したろ。チンドン屋の娘やさかい、結婚できへんやなんて…と千丸は荒れている。

お圭は、そんな千丸に、さっき、先方に、千鶴子が私の子じゃないと教えて来た。先方も御落胤ならもらうと言うてはると言うと、20年も経って無茶苦茶や!先は立派なお方ですんで近づけまへんがな。御前様の名誉に傷がつくやないか!あの子は親方の子や!と千丸は狼狽したように言う。

それでも、お圭の方も引き下がらず、会わしておくれよ、この通りだからと本当の親に会わせてくれと頭を下げるが、千丸は、焼酎飲んで酔うとりますねんと言いながら布団の中に潜り込み答えようとしないので、名前も言えないと言うのかい?わても関の家のお圭だよ!金輪際仕事はやらないから!と見栄を張ったので、布団の中から、首だっか?と千丸が聞くと、そうだよ!と言い残して帰って行く。

ムクリと起き上がった千丸は、又焼酎の瓶をくわえて飲むと、何事か悩むような表情になる。

翌日、大きなビルの9階にある「関西人造宝石株式会社」の受付にスーツ姿でやって来たのは千丸だった。

山田一郎さんにお会いしたいと申し込むと、今、社長が出かける所なので…と受付は言い、ちょうど秘書を連れ、入口から出て行く社長の山田五郎を見送る。

下の車の所まで降りて来た五郎は、今会った千丸の事をどこかで見かけた事があるのか、首を傾げる。

千丸の方も、今出て行った社長の顔に見覚えがあるような気がしていた。

その後、対面した一郎に、千鶴子さんがチンドン屋の娘やったらあきまへんか?と聞く千丸だったが、一郎はきっぱり、職業に貴賤はありません。いっその事、おじさんがお父さんになってくれませんか?化けようによっては高貴な方に見えますよと言い出したので、千丸は複雑な表情になる。

ビルから出た千丸は、横断歩道で、ばったり千鶴子と出会う。

これから一郎に、自分が御落胤やと言う事を知らせに行くところだと言う千鶴子に、あかんと言った千丸は、近くの音楽喫茶店「リスボン」に連れて行く。

私の本当のお父さんって誰なの?と聞く千鶴子に、あの一郎と言う青年は立派や。チンドン屋の娘でも構わへん言うてた。それでええのや…と千丸は答えるが、教えて!なぜ教えてくれないの?と千鶴子は父親の名前を知りたがり、ひょっとしたら、チンドン屋の娘どころか、バタ屋か、浮浪者の子やないの?と疑心暗鬼になっている事を知らせる。

生みの親に会いたいか?育ての親があないに大切に育ててくれてもか?薄情な親であってもか?と千丸が確認すると、会いたいわ!と千鶴子は言う。

帰宅した千丸は、土地と家屋の証書を取り出して、呼び寄せた大助(芦乃家雁玉)、楽助(林田十郎)と言う2人の斡旋屋に買わせようとする。

斡旋屋は、家を売ったら、すぐにここを出てもらわなあかんでと確認するが、千丸は、明日の朝、きれいさっぱり出て行ったると言うので、ここを出てどこに行くんやと聞くと、遠い所や、ずっと西の方や。来年の盆になったら戻ってくるで…等と意味ありげなことを言うので、明日来たら、この部屋の隅辺りでブラ下がってんのと違うやろな?と嫌そうに聞くと、アホ!わいやったらもっとスマートに行くわ!と千丸は否定する。

斡旋屋2人は早速、家の状態を検査し始めるが、屋根は穴が開いて星が見えるし、状態も相当悪いと判断、お前の鼻の下で行こか?いつも2本鼻たらしとるからなどいと漫才のような会話の末、結局20万で買い取ると言う事になる。

それを知った千丸は、ちぇっ!たった20万か…と不服そうな顔をする。

翌朝、家を出て、表札を外していた千丸の所に着飾ってやって来たのはお圭だった。

表札なんか外してどうするの?と聞くと、ちょっと削り直してもらうだけやと千丸は答え、そんなに着飾ってどないしたんです?と逆に聞き返す。

昨日の事を謝りに来たんや。一緒に芦屋に連れて行ってもらおうと思って…とお圭が謝罪すると、ちょうどわても御前様に会いに行く所やと千丸は言う。

2人連れ立って芦屋の高級住宅街に来ると、千丸がとある表札がない屋敷に入ろうとしたので、表札ないやないか?とお圭が聞くと、高貴な方が表札なんか付けているか?皇居行ったことないんか?と言いながら、千丸は木戸を開けようとするが、通りかかったクリーニング屋が、そこはあんまり多きゅう過ぎて誰も借り手がおらんのやと教えて去って行く。

空き家だと知ったお圭は呆れ、あれじゃないのかい?立派な家やと指差す屋敷に向かうが、入ろうとすると番犬に吼えられたので、こりゃ違う!御前様は犬は嫌いやった等と言いながら千丸は逃げ出す。

その千丸が、次の屋敷の木戸から中に入って行ったので、お圭は外でしばらく待っていたが、戻って来た千丸が言うには、さすが御前様や。会うてくれた。若気の至りをお認めになってくれたが、世間の手前、会いに行く訳にも行かず、代わりにこれをくれたと言いながら20万の札束を取り出して見せる。

しかし、お圭が不審そうな顔をしたので、足らなんだったら、100万でも200万でも出す言うとられた。御前様は偉いお方で、アイゼンハワー大統領に会うと言うとるのやなどと千丸が言うと、見損なっちゃ行けないよ。私は金が欲しくて来たんじゃないよ。一言、良く育ててくれたと言ってもらいたいんだ。文句があるから一言言ってやる!と言ったお圭は、千丸が止める暇もなく、屋敷の中に入ってしまう。

恐る恐る屋敷の玄関に近づいたお圭だったが、出て来たのは外国人で、おばさん、押売はダメよ!等と言って来たので、慌てて頭を下げて逃げ帰る。

門の外に出てみると、千丸の姿はなく、周囲を見渡すと、近くの鵺塚橋(ぬえづかばし)の所に佇んでいたので、近づこうとすると、何故か、千丸は逃げ出す。

お圭もその後を追いかけ、千丸は松林を通り過ぎ、浜辺まで逃げて来る。

砂浜に立ち止まった千丸に追いついたお圭は、千ちゃん、本当の親ってのはあんたやったのねと言い放つ。

すると、千丸は、すんまへん!堪忍しとくんなはれ!女房に死なれ、乳飲み子を抱え、どうにもこうにもなりませへんやったんや!それから20年、噓を突き通してきたけど、もうあきまへん!と海を見たまま答える。

あのお金もあんたが作ったんだね?表札を外したのも家を出るつもりだったんだね?とお圭が問いかけると、わて、もう死ぬつもりや!今さら、千鶴子がチンドン屋の娘で、御落胤ではなかった何て言えますかいな!と言いながら海に入ろうとする。

それを必死で止めるお圭。

もみ合いの末、何とか千丸を浜辺に連れ戻したお圭は、あんたは生んだ親、私は育ての親やないか!千鶴子を幸せにするために知恵を絞らなきゃダメじゃないか!と叱りつける。

後日、高貴な人物に化けた千丸と、その御付きの者と言う形でお圭が。山田五郎の家に挨拶に行く。

侍女に扮したお圭は、こちらは神武天皇以来続く、袋小路公望様と千丸を紹介すると、正装して出迎えた調子が、主人がお目通りしますと頭を下げ、酒を差し出す。

それを知った一郎は、電話で千鶴子に、おじさんなかなか芝居が巧いと連絡する。

事情を全く知らなかった千鶴子は、え?おじさん?と戸惑う。

湯のみにつがれた酒を飲んだ千丸は、根っからの酒好きだけに、これは良い酒やと相好を崩し、もう一杯と調子にねだるが、お圭の方を見ると、止めなさい!と言うように睨みつけている。

ご主人は遅いですなと千丸が聞くと、主人はただいま、斎戒沐浴をしておりますと調子は答え、酒を注ぐ。

かけつけ2、3杯飲んでちょっと落ち着きを取り戻した千丸は、聞けば、チンドン屋の娘ではあかんとな?マロの若気の過ちを許してたもと言うと、調子はははあと平伏する。

ではOKね?ではこれで帰りますと千丸が言い出したので、慌てた調子は、ただ今主人が参ります!と言って止めようとするが、余り長居すると肩が凝るのでねと言い残し、千丸は立ち上がると廊下に出る。

その時、ちょうどやって来た五郎と鉢合わせになる。

その顔を観た千丸は、五郎やないか!と驚き、五郎の方も、千丸か?と唖然とし、今日は偉い人と会うのやと言う。

その宮様の親戚言うのはわいやと千丸が明かす。

その会話を座敷で聞いていた調子とお圭は唖然とするが、久々に再会したかつてのちんどん屋仲間の2人は、チキチキドンドン!と嬉しそうに、かつての一緒にやっていたチンドン屋の真似をし始める。

調子は、あなたは、関西人造宝石株式会社の社長ですよ!金輪際、チンドン屋と言わない約束でしょう?この侮辱には耐えられません!きっぱりと別れます!と五郎を叱りつける。

しかし、五郎は今日ばかりはしょげるどころか、今まで、チンドン屋の音を聞くと血圧が上がる等と言って来たが、本当は心浮き浮きしとるんや。きれいさっぱり別れたるわい!と調子に言い放つと、わいは養子やがな。でもわしは胸がすーっとしたぜと五郎は千丸に本音を漏らす。

千丸は、久々に飲みに行こか?金はたんまりあるぜ。大阪で一番高い所で、一杯キューっと行くか!と言い、一緒に家を出て行く。

お圭も呆れて辞去しようと立ち上がるが、その足に調子がしがみつき、待って下さい!とすがりつく。

20何年一緒に暮らして来て、今日ほど男らしく怒鳴りつけられた事はなかった。でもそれで何だか、胸がすーっとしました。これが夫婦と言うものなのでございましょう。一郎を千鶴子さんと一緒にしてやって下さい!と謝罪する。

出て行った五郎を連れ戻そうと、一郎と共にお圭と調子が表に出てみると、千鶴子が伊佐吉を連れてやって来る所だった。

伊佐吉が転んだので、駆け寄ったお圭は、わてが出る幕やないと思うけどな…と言う弱気な亭主を、優しくいたわりながら立ち上がらせる。

千鶴子は、私の本当のお父さんは?と言うので、皆で高級店を探しに出かけるが、どこにも千丸と五郎の姿はなかった。

暗くなっても2人が見つからないので、調子は、どこに行ったんでしょうね?と途方にくれる。

大阪で一番高い所言うたら…とお圭が考えると、もうあらへんがな…と伊佐吉が答える。

その頃、通天閣の展望台のベンチに並んで腰掛けていた千丸と五郎は、安酒で酔っぱらっており、周囲に人影もなくなったので、だんだん寂しゅうなって来たなと言うと、2人で立ち上がり、チンチンドンドンと口まねでチンドン屋の真似をし始める。

そこに、お圭たちが駆けつけて来る。

すっかり上機嫌になった五郎を、調子と一郎が両脇から抱えて帰って行く。

五郎が、わしがチンドン屋だぞ!と愉快そうに言うと、分かってますと調子は従順に答える。

千丸の方は、そんな事には気づいてないのか、大阪の夜景を前に1人踊り続けている。

お圭が千鶴子の背中をそっと押してやる。

お父さん!千鶴子が呼びかけるが、千丸は聞こえないのか、チンチンドンドン!と言いながら、夜景の方に向かって踊り続けているだけ。

お父さん!ともう1度呼びかけ、千鶴子は千丸の肩にすがりつくと泣き出す。

千丸は振り向こうともせず、チンチンドンドンと口走っていたが、その目は涙に濡れていた。

2人の眼下には、大阪の夜景が静かに広がっていた。