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嵐を呼ぶ男('57)

石原裕次郎主演のヒット作。

タイトルや、時折「懐かし番組」などでも流れる、裕次郎が「おいらはドラマ~♪」と明るく歌うシーンなどだけで想像すると、痛快アクションか、青春サクセスストーリーか?と思いたくなる映画だが、実際は、かなり暗い「芸能界転落もの」あるいは「母子の愛憎もの」に近い。

恋愛要素も単純ではなく、三角関係、四角関係のような展開になっており、最終的に恋愛的なハッピーエンドで終わる話でもない。

ジェームス・ディーン主演の「エデンの東」(1955)に似ていると言う声をネットで見つけたが、意外と元ネタはその辺にあるのかもしれない。

「エデンの東」を観たのはもうずいぶんと昔なので、内容比較は出来ないが、この当時の日活映画には、海外作品の翻案めいたものもあるからだ。

当時の流行歌等も、今で言うカバーと言うか、外国のヒット曲に、奇妙な日本語の詩を加えただけのようなものが少なくない。

権利的にきちんとやっていたのかどうかは知らないが、当時はそう言うことに、世間全体が寛容だったのかもしれない。

この作品、過去にも観た気がするのだが、あまり印象に残っていないし、又観たい!と言う気持ちも残っていなかったのだが、改めて観てみると、やはり自分好みの内容ではなかったからだと分かった。

しかし、それでもどちらかと言うとこの作品、かなり「文芸調」と言うか、「女性好み」の内容ではないかと思う。

裕次郎が最後、特定の女性と結ばれるような形になっていない所が、若い女性ファンに嫉妬心を植え付けさせないための配慮のようにも感じる。

裕次郎目当てに劇場に来た女性ファンは、この戦略に見事にハマってしまったのだろう。

もちろん、男性が観ても、それなりに楽しめる内容であり、両方の客層にバランス良く受け入れられたはずで、デートムービーとしても最適だったのではないだろうか。

ヒロインのうちが裕福なのも、当時の若者に取っては羨望の的だったのかもしれない。

この作品での裕次郎は確かにかっこいいし、女性にとっては、長身でかつ、可愛らしい顔つきに夢中になるのも分かる。

敵役は、安倍徹に金子信雄、高品格…と、お馴染みの役者が揃っている。とにかく、みんな若い!

冒頭でロカビリーを歌っているのは、後に作曲家になる平尾昌晃だし、留置場で、ドラマーのことをバカにしているのは、もともとドラマー出身のフランキー堺である。

つまり、フランキー特別出演のシーン等は、楽屋落ちと言うか、当時の観客にとっては爆笑シーンだったはずだが、今では、そのシーンの意味すら分からなくなっているのではないだろうか。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1957年、日活、 西島大脚色、井上梅次原作+脚色+監督作品。

日劇など、昼の銀座

タイトル

銀座の夜景

クラブ「ブルースカイ」

店内でロカビリーを歌う青年(平尾昌晃)

店の経営者福島愛子(高野由美)は、娘であり、ジャズ・バンド「福島慎介とシックスジョーカーズ」の女マネージャーでもある美弥子(北原三枝)に、土曜と月曜日のスケジュールを依頼していた。

そのバンドのドラマーチャーリー・桜田(笈田敏夫)がソロを始めると、店に来ていた女性ファンが熱い声援を送り出す。

愛子は、チャーリー、巧くなったわねと褒める。

美弥子は、ゲーマンもらわないとと、ビジネスライクで答える。

そんな「ブルースカイ」に1人の青年が、福島さんにお会いしたいとやって来る。

美弥子の前に挨拶に来たのは、国分英次(青山恭二)と言う青年で、自分の兄貴はドラムを叩けるので、雇って頂けないでしょうかと売り込む。

国分正一って言うんですが、巧いんです、ちょっと荒いけど…と言うので、美弥子が知ってる?と母親に聞くが、愛子も知らないと首を振るが、今その正一と言うのは流しをやっていると聞くと、ああ、あの…と思い出したようで、暴れん坊よと美弥子に教える。

それでも英次は、僕が音楽学校に行けるのも、兄貴のお陰なんです。兄貴は歌も歌えるんですと売り込み、アパートの電話番号を描いた名刺を美弥子に手渡し帰って行く。

演奏が終わり楽屋に戻って来たバンドのメンバーたちを迎えた美弥子は、12時から「キャサリン」だけど、衣装合わせの打ち合わせをするので、11時半に集合してと指示を出す。

ところが、1人、チャーリーだけは、ナイトクラブのアベック相手なんて…、そろそろ僕のバンドを作る頃…などとぼやき始める。

そこに、チャーリーと打ち合わせしていたらしき、踊子のメリー・丘(白木マリ)がやって来て、チャーリーと一緒に出かけて行く。

メンバーたちが楽屋を出た後、最後に残っていたベース担当で「シックスジョーカーズ」のバンマス、美弥子の兄でもある福島慎介(岡田眞澄)が、スカッシュでもおごろうと言って、美弥子を誘う。

そんな美弥子と慎介は、街角でギターを振り回して喧嘩をしている青年を目撃する。

警官がやって来たので逃げ出した青年に、ホステスが「正ちゃん、早く!」と声をかけていることに気づいた美弥子は、そのホステスに。今のが国分正一?と尋ねる。

随分、興味をお持ちのようだけど?と慎介がからかうと、聞きしに勝る嵐だわ…と、美弥子は、正一が逃げ去った方向を観ながら感心する。

11時25分「キャサリン」に再集合した「シックスジョーカーズ」だったが、美弥子は、チャーリーの姿がないことに気づく。

持永さんと「ムーラン」で飲んでいたよとメンバーの1人が教えるが、そこに店の支配人滝(三島謙)がやって来て、今日は、チャーリーのドラムソロを入れてみようかな?などと美弥子に相談する。

美弥子は焦りながらも、今日はチャーリーが来られない、明日はきっと連れて来るからと詫び、でも、チャーリーの代わりはいないだろと心配する滝に、いるわよ、国分正一。一度聞いてみようと思ってたのよと返事をした美弥子は、さっき英次からもらっていたアパート「あけぼの荘」に電話を入れてみる。

しかし、電話に出たのは若い娘で、正一は今、警察にいると言うではないか?

横で一緒に電話を聞いていた慎介は、後25分ある。行こう!と美弥子を誘う。

警察署で美弥子と慎介を出迎えたのは英次だった。

正一が留置されたので保証人になってくれと言う。

すぐさま手続きを済まし、正一は即刻釈放されることになるが、当の正一は牢の中で眠っていたので、看守や同じ牢に入れられていた男に揺り起こされる。

牢を出た正一は、英次の姿を観て、ここの法外心地良いから、もっとここにいたいよなどとぼやくが、その英次から福島美弥子を紹介され、ドラムを叩けることになったのだと聞くと、急に喜んだ正一は、スティック持ってると、喧嘩するときのように浮き浮きするんだ!と言いながら、その場にあった2本の棒を手にすると、牢の鉄格子を愉快そうに叩き始める。

それを聞いた美弥子は、確かに荒いけど、何かあるわ!と直感する。

留置されていた連中や看守は、一斉にうるさいから止めろと文句を言い、牢の中にいた男(フランキー堺)が、うるせえぞ!下手な太鼓叩きやがって…、太鼓なんてバカしか叩かないんだからと怒鳴る。

「キャサリン」で「シックスジョーカーズ」が紹介されると、いきなりドラムの正一は派手なドラムソロを披露する。

しかし、そんな正一の張り切りぶりを、美弥子と英次は頼もしそうに見守っていた。

そんな店内に、チャーリーがメリーと持永(安倍徹)、種田(冬木京三)と共にやって来てテーブルに座ったので、支配人の滝は、来てるじゃないかとチャーリーのことを美弥子に告げる。

持永はステージを観て、おい、お前のトラ(エキストラ)がいるじゃないかとチャーリーに笑いかける。

メリーが出番だと言い、席を立って楽屋に向かう途中、美弥子は、メリー、チャーリーの仕事の邪魔はしないでと言葉をかける。

私何も知らないわ、チャーリーが勝手に送ってくれただけなんだからとメリーはとぼけて去って行く。

その後、美弥子は、持永のテーブルに来て持永に挨拶すると、持永は、この人は大学出の才媛で、お父さんは一流のマネージャーだったんだよと、その娘さんと又張り合うとはね…と、愉快そうに同席していた種田に教える。

美弥子はチャーリーに、遊んでるんならどうして来ないのよと問いつめるが、さっきも言ったけど、こんなアベック相手に叩けるかとバカにするように答えたので、あんた、一年前はアルバイト学生だったのよ。明日から時間厳守してちょうだいと美弥子は叱って席を離れる。

そこにやって来たのが、音楽評論家の左京徹(金子信雄)で、例の件、巧く行きましたと持永から言われると、察する所、チャーリーのことかな?と言い、ステージに目をやって、妙なの入っているねと正一のことを言う。

ショータイムが始まり、メリーがステージ中央に出て踊り始めたので、あれが、この頃のギャーリーのお相手かな?と左京は苦笑する。

メリーは、ドラムを叩いている正一を気に入ったのか、踊りながら顔を見つめて来る。

正一も熱い視線をメリーに送って来る。

正一が突然リズムを早くすると、一瞬驚きながらも、メリーも嬉しそうにそのリズムに合わせて即興の踊りを披露する。

楽屋に戻って来て、衣装を着替えていたメリーは、正一が入口のとこに来て見つめていることに鏡で気づく。

良い身体してるじゃないかと正一が笑いかけると、身体には自信あるわとメリーも笑い返す。

そこにチャーリーがやって来て、ステージさぼって何やってるんだ?と正一を睨みつけるが、さぼってるのはてめえじゃないかと正一も平然と言い返す。

あの女には指一本触れさせねえぜとチャーリーが釘を刺すと、向うから来たらどうする?と正一も負けずに言い返す。

そこに美弥子と英次がやって来て、正一をステージに戻らせると、正一は、どうせ俺は今日1日でお払い箱なんだろう?とふてくされて、英次と共に戻って行く。

美弥子はチャーリーに、はっきり話をつけようじゃないと対峙する。

個人的感情ですか?それともビジネスですか?とチャーリーは苦笑し、もう判子押しちゃったんですよ。前金ある上に、ギャラがすごく良いのでね…と持永と契約をしてしまったことを打ち明ける。

それを聞いた美弥子が、これで、私たちの個人的感情もお終いねと言うと、せいぜい後ろ指指されようにやりますよとチャーリーは答え、メリーを連れて一緒に帰って行く。

チャーリーは去り際に、あのドラマー、鍛えりゃものになるぜと上から目線で言って来たので、余計なお世話よ!と美弥子は言い返す。

そこにやって来た左京は、さっきから物陰で聞いていたらしく、良いじゃないかあんなの、新陳代謝の激しい世界だ。すぐに代わりは出て来るよ。あんたの恋人には不足な男だ…と、チャーリーの後ろ姿を観ながら美弥子に語りかけて来る。

そこに、演奏を終えたメンバーが帰って来たので、美弥子は慎介に、チャーリーが持永の所へ行ったことを打ち明け、正一には、明日から「シックスジョーカー」の正ドラマーよ。契約するわとメンバーたちに紹介する。

そして正一には、左京を「ジャズ・ニューズ」を出しておられる左京先生と紹介し、この世界ではちょっと顔が利いて怖いのよと教える。

そんな左京は、僕もこうなったら、美弥さんに味方するよと約束し帰って行く。

それを見送った美弥子の方は、何さ、あんなは虫類!口車に乗っちゃダメよ。評論家なんて言ってるけど、半分は宣伝屋、半分は情報屋よと言って左京を毛嫌いする。

明日から私の家に通うのよ。兄さん鍛えてねと美弥子は慎介に頼む。

念願の正ドラマーになった正一は、よし、やるぜ!と張り切るのだった。

正一は、英次と一緒に歩いて帰ることにするが、英次は、自分が作るつもりの曲のイメージを熱く語ってみせる。

正一は、お前に負けず頑張るぜ!と嬉しそうに答える。

2人が「あけぼの荘」に帰って来ると、管理人の娘、みどり(芦川いづみ)が出て来て、お母さんが警察行ったら、いなかったって帰って来られたわよと報告すると、兄貴「シックス・ジョーカーズ」の正ドラマーになったんだと英次が教える。

本当?と喜んだみどりの声を聞いたのか、彼女の父親で管理人の島善三(山田禅二)も出て来て、早くお母さんに言って安心させてやるんだと言う。

ところが、2人が部屋の前に来ると、母親の貞代(小夜福子)は立っており、酷く不機嫌そうだった。

警察行ったら、お前が国分の母かって言われたよ。あいつは札付きの暴れん坊だって、母親のしつけが悪いんだろうと散々叱られましたよ。太鼓たたきなんてご飯が食べられますか!お前のことはとうの昔に諦めているよ。小さい頃から父さんそっくりでさ。父さんは乱暴で女好きで…、その血がそっくり受け継いで…、英次だけはまともな道に行かせたかったと貞代は言う。

まともな道って、どうして音楽が行けないんだ?と正一が聞くと、いけませんよあんなもの!母さんは、あんたらが会社か銀行に勤めてさ。課長と部長にでもなってくれれば満足なんだよ、それをお前はあんなヤクザな道に引っ張り込んでさ…と、こんこんと正一を悪く言う。

どうして俺ばっかり悪者にするんだい?親父のことなんか知らないよ!と、さすがに切れた正一は部屋を飛び出して行き、英次は、母さん、あんまりだよ、あれじゃ兄さん可哀想だと言い残しその後を追う。

みどりも心配し、英次と共に裏の空地にやって来た正一の元に近づくが、母さんは自分を捨てた親父が憎いんだ。それで俺に当たるんだ。俺はまるで憎まれるために生まれて来たようなもんじゃないか。今に日本一のドラマーになって、お袋の鼻を明かしてやるんだ!と言った正一は、近くにあった棒をへし折り、二本にすると、それで置いてあったドラム缶をめちゃめちゃに叩き出す。

すぐに近所中から、うるさい!と怒鳴られてしまうが、正一は止めようとしなかった。

福島家の豪邸では、その日、朝から、正一が叩くドラムの音が聞こえていた。

母親の愛子と共に、リビングにいた美弥子は、壁にかけてあったチャーリーの写真を全部取り外し、その場で破り捨てていた。

あんた、チャーリーとは進んでいたの?と愛子は聞くが、ううん、石鹸の泡みたいなものね。ふわふわっとしてすぐ消えちゃうのと美弥子は答える。

そこに、慎介がフィアンセの有馬時子(天路圭子)を連れてやって来る。

美弥子はそんな2人に、朝っぱらから当てられるじゃ敵わないわ。早く結婚しちゃいなさいよと冷やかす。

すごいのいるわね?と時子が、聞こえて来るドラマーのことを聞くと、嵐の固まりと美弥子は答える。

どう?ものになるの?と愛子が聞くと、なると思うわ。もっとやっと方が良いと思うと美弥子は言い、バンドを編成して出直すんだね。

どれどれ、その嵐のようなタフネスと言うのを拝見しようかねと愛子が立ち上がり、時子も慎介と共に付いて来る。

休憩よと言いながら、美弥子がコーヒーを正一に持って行ってやり、母親の愛子と慎介と時子を紹介する。

愛子は正一を観て、確かに台風の固まりって感じねと納得する。

そこに「シックスジョーカーズ」の面々がやって来る。

メンバーたちが、持永の所のバンドでギター引いている下村の話じゃ、チャーリーは持永の橋渡しをしたのは左京なんだってさ。つまり、チャーリーと美弥さんの仲を裂こうって言うのが奴の魂胆さと教えると、驚いた美弥子だったが、とにかく、正ちゃん、あんたが一流になってくれなくちゃと励ます。

それを聞いた正一は、恋の鞘当てかい?俺はお袋の鼻を明かしてやるんだ。練習、練習!と答えるだけだった。

その日から、美弥子と慎介は、徹底的に正一を鍛え始める。

やがて、「福島慎介とリズム・クラウンズ」と名を変えた新バンドが「ブルースカイ」で演奏を始める。

店にいた美弥子に側にやって来た左京は、なかなか良いじゃない、国分…と話しかけて来るが、美弥子は、陰で画策する人も酷いわねなどと人ごとのようにとぼける。

飯をごちそうしよう。うんと宣伝するよと左京が誘って来るが、正一を呼び寄せた美弥子は、左京さんがおごってくださるんですってと伝え、自分はさっさと帰ってしまう。

左京はしらけるが、薄々事情を知って面白がっている正一を無視する訳にも行かず、飯より酒の方が良いと言う正一を「バー アスファルト」に連れて行く。

女がいないバーも良いだろう?と笑った左京は、バーテンにラジオを付けさせる。

ドラムの音が聞こえて来たので、誰だか分かるか?と左京が聞くと、チャーリーでしょう?と正一は憮然として答える。

君が美弥子女史の期待に敵うようになるにはまだ時間がかかると言う左京に、美弥さん、惚れたんですか?それで僕を後援してくれるんですね?僕を売り出してくれませんか?そうしてくれれば、美弥さんとの間を取り持ちましょうと正一は提案する。

ギブアンドテイクか…と満更でもなさそうな顔になった左京は、承知の印にグラスを掲げてみせる。

日曜日の午前中。「あけぼの荘」でピアノを弾きながら作曲をしていた英次の部屋に、みどりがお菓子を作って持って来て、何の作曲?と聞く。

廻りはみんなビルなんだ…。誰1人いない…。ルンペンがよるの王様になったつもりで踊っているんだ…と曲のイメージを語って聞かせた英次は、昼から兄さんの所へ行ってやろうか?喜ぶよと誘う。

一方、福島邸では、昼近くまで寝ていた正一を、美弥子が起こしに来る。

布団を無理矢理剥いだ美弥子は、正一がパンツ一丁の寝姿であることに気づき、失礼ね!と怒る。

正一は、失礼なのはそっちじゃないか…とぶつぶつ言いながら起きる。

リビングにいた慎介は、ジューサーのジュースを飲んでいたが、美弥子の姿を観ると、チャーリーの二代目にならないようにね。女って、身近にいる男にすぐ惚れるものなんだぜと警告する。

そこへ、時子が映画に行くのと慎介を迎えに来る。

美弥子は起きて来た正一に、食事前に一叩きするのよと命じるが、その直後、やって来た英次とみどりを練習室に案内して来る。

正一は、まだ朝飯も食わせてもらえないんだよと2人に言うので、まるで虐待しているみたいじゃないと美弥子は膨れる。

リビングにいた慎介は、練習室から聞こえて来るピアノを聞き、いいセンス持ってるな~、誰と美弥子に聞く。

ピアノを弾いていたのは英次で、作曲中の新曲を正一に披露していたのだった。

正一は、みどりちゃん、太ったなと言い、英次は痩せたよと言い合う。

そこにやって来た美弥子は正一に、今日は私と映画を観に行く約束だったじゃない?英次さん、あまり邪魔しないで…と噓を言って、みどりたちを帰させる

誰あの子?可愛いじゃない、恋人?と美弥子は帰ったみどりのことを聞くと、そんなんじゃないよ、管理人の娘さと正一が教えたので、ああ、電話に出たの、あの子ねと美弥子は思い出し、でも向うじゃあなたのこと好きかも知れないじゃない。女って、身近にいる人が好きになるんだって…と今しがた兄から聞いた受け売りをする。

一方、福島邸を出たみどりは、何か不機嫌そうに急いでおり、追いかけて来た英次に、きっとあの人、正一さんのことを好きなのよ。女って、身近な男を好きになるものよ…と、こちらも同じことを言っていた。

左京が出している雑誌「ジャズ・ニューズ」に、タフガイドラマー国分正一の記事が載る。

NTVテレビに出演した左京は、数ヶ月で、No.1チャーリーの牙城を崩すと思います等と、国分正一のことを持ち上げ、大劇場で2人のドラム合戦等やってみたら面白いんじゃないですかねと提案する。

左京の奴、やけに国分の肩を持つじゃないか…と、TVを観ていたチャーリーが言うと、チャーリー、一つやってみないか?丸の内劇の春の踊りにぶち込もうじゃないか…と種田に話しかける。

国分を蹴散らす良いチャンスだし…と種田も賛成し、チャーリーも、足下からすくってやりますよと言い、承知したので、持永は、その場で美弥子に電話をし、ドラム合戦を申し込む。

「ブルースカイ」でこの話を美弥子から聞いた正一は、やりますよ!と即答する。

美弥子の側にやって来た左京は、どうしたんだい?深刻な顔をして、持永の方から、ドラム合戦を野郎と言って来たんでしょう?僕がそう言う風にし向けて来たんだ。

ドラム合戦か…、矢野チン、どっちが勝つと思う?と「バー アスファルト」でバーテン矢野(木戸新太郎)に聞いていたのはメリーだった。

矢野は、どっちもうちの客ですからね…と返事をぼかしたので、そう、あの人この店に来るの?とメリーが目を輝かせると、そこに当の正一がやって来る。

メリーに気づいた正一は、行くか?踊りにでもと誘うと、メリーの方も嬉しそうに、行かないって顔している?と言いながら店を出ようとする。

そこにやって来たのが、種田とチャーリーで、小一時間も待たされたんですもの。すっぽかされたと思ったわ。今は正ちゃんの方が先約ってことねとメリーは言い返し、この子はあんたより俺の方が気に入ったようだぜ。明日は負けるなよと正一がチャーリーに言うと、チャーリーが連れていたボクサー崩れの健(高品格)が、ちょっと顔を貸せと正一を、人気のない工事現場に連れて行く。

そして、でっけえ面するな!と言いながら、殴りかかって来る。

応戦した正一は、左手の親指の付け根を肉離れさせてしまう。

自宅で治療をする美弥子は、何故逃げなかったの?と呆れ、慎介は、明日は無理だからと、ドラム合戦の中止を連絡しようとするが、俺は敵に後ろを見せたことがない。俺はやるぞと承知はそれを制止する。

翌日、丸の内劇場の「春の踊り」が始まり、その中でチャーリーと正一のドラム合戦が行われる。

観客たちは、左手に包帯を巻いている正一に気づき、どうしたのかしらと囁きあう。

しかし、最初のうちこそ、正一は我慢して、ソロドラムを叩いていたものの、徐々に左手が痛みで動かなくなり、それに気づいたチャーリーはほくそ笑む。

左京や美弥子も客席で2人の勝負を見守っていた。

その時、正一は、突然マイクを握ると、「おいらはドラマ〜♪」と歌い始める。

観客はこれに熱狂し出す。

歌の途中で、チャーリーに交代すると、それを観ていた左京は、何のことはない。チャーリーは伴奏だねと苦笑する。

また、正一の番になる歌の続きを歌うので、チャーリーのドラムに注目するものはいなくなってしまう。

彼には人に受ける要素があるんだ。僕が手を打てばもっと売れると左京は美弥子に話しかける。

ドラム合戦で、歌うドラマー誕生のニュースが飛び交う。

左京はテレビで、国分の不調は、その前夜、チャーリーの友人のボクサー崩れに喧嘩を吹っかけられ傷つけられたと伝え聞いています。この友人とチャーリーがどんな関係なのか?芸能界に取っては大変不明朗な事件で、チャーリーに対しまして、囂々たる非難が巻き起こっておりますと発言する。

持永の事務所にいたチャーリーは、俺は一体どうしたら良いんだろうと酒を飲み、荒れ始めたので、持永らは座を外してしまう。

その後、持永は、健や種田を引き連れ、「バー アスファルト」にいた左京に会いに来ると、俺に楯突く気かい?と睨みつける。

しかし左京は動じず、その男は何です?まさか、まさか国分を傷つけた男ではないでしょうねと健のことを聞き、あいにくと僕は無抵抗主義者でね、ただ批評家として、真実を伝える権利と義務がありますからねととぼける。

左京君、君は俺たちの敵なのか味方なのか?と持永が聞くと、僕にも良く分かりませんがね、今のところ国分にめっぽう惚れたるだけですよ。観ててご覧なさい。その内、チャーリーの人気は落ち、国分は人気No.1になりますよと左京が答えると、てことは、敵ってことだ。その内、足下掬われないようになと脅して来る。

スポーツ、芸能の人気投票が雑誌で始まる。

チャーリーの人気は明らかで、ジャズ部門では、圧倒的に国分正一が有利に進行し、1957年度人気投票の結果は、相撲:若の花、流行歌:三池浩、野球:稲川哲二、ジャズ:国分正一と決定する。

そのニュースが載った新聞を持って、正一は意気揚々と「あけぼの荘」に帰って来る。

みどりが出て来て、おめでとう!と言葉をかけてくれるが、自分の部屋に入って、母さん、俺やったぜ!人気No.1になったんだ!と報告するが、部屋の中には、同じ新聞が置かれており、すでに貞代は結果を知っているらしかったが、不機嫌さは変わらなかった。

これを観て、英次は躍り上がって喜んでいたよ。正一、私はお前を恨むよ。これでもう望みはなくなったよ。僕もやるんだって英次ははしゃいでいた。もうオタマジャクシから離れないよと貞代は愚痴る。

まだそんなこと言ってるのかい?俺はNo.1になったんだ。この世界で日本一なんだ。どうして素直に喜んでくれないんだ?と正一が説明しても、母さんは英次が怖いんだよ。ヤクザの世界に入って行くあの子が…と貞代が言うので、英次だけが母さんの子なのかい?俺は誰の子なんだい?と言い捨てて、部屋を飛び出して行く。

みどりは、どうしたの?と声をかけるが、正一が表に飛び出した時、帰って来た英次が正一に気づき、兄さんおめでとうと話しかける。

母さんはお前だけが息子なんだってさ…と正一が愚痴ると、母さんは酷いよ。朝から泣き言ばかりなんだと英次も同情する。

そして英次は、みどりさんも喜んでたよ。みどりさん、兄さんのこと好きなんだよ。約束したら?あんまり放っちゃ可哀想だよと、「あけぼの荘」から遠ざかっていた正一に付いて来て勧める。

しかし正一は、俺は女にだらしないんだってよ。親父の血を引いてるんだとよとすねてみせる。

そんなことないって!兄さんとみどりさん、似合いだよと英次は慰めるが、惚れた女がいるんだよと言い出す。

すると、英次も分かっていたらしく、美弥さんだろ?好きなら仕方ないけど…、みどりさん、可哀想だよ…と言うので、お前が慰めてやれよ。No.1になったのに面白くないよと言い、そのまま正一は、「あけぼの荘」の前で見守っていたみどりを振り返ることもなく帰って行ってしまう。

その夜、福島邸に帰って来た正一は泥酔していた。

二階から降りて来た美弥子は、どこに行ってたの?一緒に乾杯しようと思って…と正一に近づくと、チャーリーは落ち目よ。今、どさ回りしているわと愉快そうに教える。

そして、男ってみんな同じね。ちょっと偉くなると、陰で苦労した人のことなんて忘れてしまう…と言うので、忘れちゃいいませんよ。全部、美弥子さんのお陰だし、左京さんも正一は答える。

そう言えばあの人、あなたのことを随分探していたわと美弥子が教えると、あの人、あんたのことが好きだってさ。結婚したら?と正一は言い出す。

嫌よ、あんな人…と答えた美弥子は、立ち上がろうとして腰を抜かしてしまった正一に肩を貸して、二階の寝室に連れて行ってやる。

ベッドの上で何となく向きあった時、好き…、いつの間にか好きになったの…と美弥子が告白し、俺だって…でも…と正一は躊躇するが、そのまま自然に抱き合ったままベッドに倒れ込む。

美弥、美弥…、正一はそう言いながらキスをするのだった。

中央音楽大学

学長室に呼ばれた英次は、スナイダー財閥の御曹司ハロルド・スナイダーを紹介され、スナイダー氏個人が日本の音楽家を支援したいと申し出られ、新人作曲家のリサイタルを開いたらどうかと言われ、そのトップバッターに君を推薦したんだと学長から伝えられる。

英次は、この僕が…と感激する。

正一たちはテレビ出演していた。

収録語、正一は美弥子とドライブすることにし、先に駐車場に向かうが、そこで待っていたのは左京だった。

車に乗せられた正一は、何故そんな顔をする?何かやましいことでもあるのかね?何だか僕を避けているみたいだね?大分この頃、美弥と仲が良いと言う噂だからねと左京から嫌味を言われたので、「バー アスファルト」に向かう。

好きになったことは確かだ。でも、出来てしまったことは仕方ないじゃないか。金ならいくらでも出すよと正一は頼むが、見損なうなと左京は不快感を示す。

そして、君の弟、国分英次と言ったね?今度、新人リサイタルに出るんだ。スナイダー財団で毎年やるんだ。俺も応援するよ…と意味ありげな笑顔で話して来る。

嫌な予感に気づいた正一は、弟に出を出してみろ。ただじゃ置かないからなと警告するが、ギブアンドテイク、君の出方次第さ…と左京は笑いかけて来る。

その頃、「あけぼの荘」では、管理人の島善三、みどり親子が、ビールを持って、英次の初リサイタルのお祝いをしていた。

善三もみどりも、まだ音楽を全く理解できない様子の貞代に、英次が何十人もの演奏者を、棒を振って演奏させる。これはすごいことなんだよと教え込んでいた。

英次は、みんな兄貴のお陰だ。兄貴もきっと喜んでくれるよと笑顔で答える。

みんなで乾杯した後、善三が貞代に、英坊とみどりのことで話があるんだと打ち明ける。

その夜も、正一は泥酔して福島邸に深夜帰って来る。

すると、また、二階から降りて来た美弥子が、どこ行ってたのよ。急にいなくなってしまって。何かあったの?と聞き、思い出すわ…、あの晩も酷く酔ってた…と、2人が結ばれた日の事を思い出すが、正一はそんな美弥子に、この家出たいんだ。この際再独立したいんだ。国際にマネージメントしてもらうと告げる。

何かあったんでしょう?と美弥子が問いつめると、美弥さん1人の鳥子になるの嫌なんだと正一が答えたので、正ちゃん、本当に良いの。チャーリーと同じことねと美弥子は問いかける。

結果的にはそう言うことだと正一が答えると、ただ1つ念を押しておくわ。私たちの仲はこれでお終いよと行った美弥子は、メリーの所に行くんでしょう?彼女、もう持永のものよと忠告する。

昔から恋人がいたんだよと正一が言うと、いつか来た人ねと美弥子は納得する。

深夜3時、「あけぼの荘」に戻って来た正一は、母親の部屋に入れてもらう。

英次は?と聞くと、学校の先生の所に泊まり込んで作曲しているんだよと貞代は迷惑そうに言う。

母さん、俺、女房をもらおうと思って…、母さんも気に入ってる子なんだと正一が打ち明けると、驚いたような顔になった貞代は、みどりちゃんなら、英次に決まっているんだよ。みんなが喜んでいることを壊しに来るなんて!出て行っておくれ!と貞代は正一を追い出してしまう。

正一はそれでも、母さん、英次はきっと成功するよと言い残して行く。

美弥子は翌日、喫茶店に左京を呼びだしていた。

国分の奴、国際に行ったんだって?酷い奴だね。あんなに世話になっておいて…と同情するように左京が話しかけると、今後一切、私と縁を切って欲しいんです。チャーリーを持永にくっつけたの、あなたでしょう?あんたって人はどうしても好きになれないのと言い残し、さっさと美弥子は帰ってしまう。

その会話を近くの席で聞いていたチャーリーは、1人取り残された形の左京に近づく。

その後、チャーリーと左京は一緒に、持永の事務所にやって来る。

御役に立つこともあるって言ったでしょうと笑いかけた左京は、チャーリーをカンバックさせようと思いましてね。共同戦線組みませんか?と持永に持ちかけ、チャーリーも、国分の奴、メリーのアパートに入り浸りなんですよと告げ口する。

正一は、メリーのアパート「みどり荘」のベッドで目覚めると、自分が何故ここにいるのかとメリーに聞いていた。

一昨日の晩、グデングデンになっていたのを拾って来たのよとメリーは笑う。

やっぱり美弥ちゃん好きなのね?美弥、美弥!って寝言で何度も言ってたわ。泣きながら、全部しゃべったわよとメリーは教える。

その時、ドアをノックする音がして、驚いたメリーは、正一を隠そうとするが、ドアの向うの陰は、正一がここにいることを知っているようだった。

正一は、覚悟を決め、開けてやれよと言う。

入って来た健は、親分の女を取られて黙っていられるかと言い、正一を殴りつけると、外に連れて行く。

外の廃墟で待ち受けていたのは、持永、左京、チャーリーらだった。

正一は左京に、俺も男だ。弟には一切手を出すなと頼む。

すると、また約束かね?僕の方から破った覚えはないよと左京は答える。

正一は、健らに徹底的に痛めつけられる。

階段から突き落とされて、持永に蹴られて地面に落ちた正一は気絶してしまう。

これで、国分正一もお終いだね…と言いながら、その正一の右手を石で叩き潰す持永の子分。

一番損をしたの左京さんでしたねとチャーリーが言うと、国分だろ?俺は清々したよと左京は負け惜しみを言う。

「ブルームーン」に駈け込んで来た英次は、そこにいた美弥子に、美弥さん、大変です!兄貴が大けがしたんですと知らせに来る。

慌てて病院に駆けつけた美弥子だったが、病室に貞代と共にいたみどりが、いなくなったのと言うではないか。

ベッドに、正一の姿はなかった。

本当に困った子だよ…と又貞代は泣き言を言っている。

置き手紙が残っており、そこには「婚約おめでとう」と書かれてあった。

右手がすっかりダメなんです。二度とドラム叩けないんですってとみどりが美弥子に教える。

本当にどこまで迷惑をかければ良いんだろうねと貞代は嘆くだけ。

英次は、リサイタル当日、ダメだ、こんな気持ちで出来やしないよ!と控え室で動揺していた。

そんな英次に付き添っていた慎介は、この会はテレビで流れるんだ。兄貴もきっと聞いてくれてるよと説得し、自分は連絡をここで松からと、観に来ていた時子、善三、みどり、貞代、美弥子たちは会場に行くように促す。

美弥子が廊下に立っていると、近づいて来たメリーが、私、正ちゃんに申し訳ないことした。酔っぱらっている所を私のアパートに連れ込んだの。正ちゃん、やっぱり美弥ちゃんのことが好きなのよ。ごめんなさい。左京が、弟さんのことをダメにするって脅かしたんで、正ちゃん、弟さんは可愛いんですってと告白する。

その時、廊下の陰からすすり泣きながら、正一ご免よ…と言う声が聞こえて来たのに気づいた美弥子が近づいてみると、今の話を聞いていたらしい母親の貞代が泣いていた。

私が悪かった…、正一!と泣く貞代をなだめながら、美弥子は会場に向かう。

リサイタル会場のステージには、ハロルド・スナイダーが登場し、ヤングコンポーザー、エイジ・コクブ!と紹介する。

客席で拍手する、善三とみどり。

ステージ中央に登場した英次は、この曲を、私を励ましてくれた兄、国分正一に捧げますと言うと、オーケストラを指揮し始める。

そのラジオから流れて来る曲を、正一は「バー アスファルト」のカウンターの片隅で聞いていた。

バーテンの矢野が外に出ようとしたので、どこへ行くんだい?と正一は聞いて警戒するが、矢野は、正ちゃんのための客止めさと言いながら、「本日休日」と書かれた看板を持って出て行く。

しかし、店の外に出た矢野は、通りかかった女性に何事かを耳打ちする。

美弥子に連れられ、満員のリサイタル会場に入った貞代は、大勢のオーケストラ演奏者たちを1人で指揮している英次の後ろ姿を観て、感激のあまり滂沱と涙する。

そして、すぐにドアの外に出たので、美弥子が、お母さん、どうしたの?と聞くと、正一に申し訳なくて…、正一、許しておくれ!と貞代は泣く。

お母さん、正ちゃんは、きっとどこかで聞いてますわと慰める。

控え室で待機していた慎介は、かかって来た電話を取り、何?いた?!と喜ぶ。

そして、美弥子と貞代がいた二階の廊下に上がって来ると、いた、いた!と教える。

貞代は、私は正一に謝らなきゃ…と言い、美弥子と共に会場を後にする。

車で移動中も、美弥子はカーラジオを付けて、英次の演奏の続きを貞代に聞かせていた。

怪我した正一は、太鼓叩けないんでしょうか?と聞く貞代に、美弥子は、歌えるって強みがありますからと慰める。

「バー アスファルト」では、正一が泣きながら、英次の曲を聴いていた。

そこに駆けつけて来た美弥子と慎介は、正ちゃん!と呼びかけると、ドアから貞代を招き入れる。

正一、ありがとうよ…、はじめて感謝の言葉をかけた貞代は、母さんを許しておくれと頼む。

席から立ち上がった正一は、母さん!と言いながら貞代に近づく。

正一!と貞代が呼びかけると、母さん!と正一も答える。

英次の演奏は、まだまだ続いていた。