TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

愛の嵐の中で

山口百恵、森昌子と共に、花の中3トリオの1人だった桜田淳子主演のサスペンスミステリであり、彼女の歌等は一切登場しないシリアスな展開になっている。

ただ、ミステリとしては、テレビの2時間サスペンスを観ているような感じであり、殺人事件を20そこそこの小娘が1人で追求して行く…と言う発想そのものが通俗ミステリの典型のようなもので、次々と危険な目に遭うのは当然のこと。

犯人の見当も途中で薄々気づく程度の物だが、「ミスコロンボ」などと言う言葉が劇中で登場することからも分かる通り、当時は、TVの「刑事コロンボ」とか文庫の金田一ブームなど、ちょっとしたミステリブームだったと言うことが思い出される。

今なら案外、女性層にも好まれる作品なのではないだろうか?

ただ、通俗ものとは言え、気になる点もないではなく、一番気になるのは、ヒロインが何人かの容疑者に会ううちに、特定の男性に好意を寄せるようになる経緯が不鮮明なこと。

両親を早くに亡くしたような設定になっているので、そう言うことも関係しているのかな?と言うような推測は出来るのだが、ほんの短時間に会っただけなのに、急に心惹かれるようになるヒロインの心理が今ひとつ説明不足のような気がする。

そこが不自然なので、逆に観客は、早くからその人物を怪しんでしまうような気がする。

ただし、当時としては若者向けくらいの層を狙った企画に見えるので、意図的に、あまり複雑な展開にはしないようにしたとも考えられる。

今となっては、次々に登場する俳優の顔ぶれに驚かされる。

夏純子、篠田三郎、中村敦夫、 田中邦衛、岸部四郎、植草甚一、岸田森、地井武男、泉ピン子、稲葉義男、大林宣彦、中山麻理…、既に鬼籍に入られた方も含め、その若々しい姿に再会できるだけでも貴重な作品のように思える。

サブカルの教祖的存在だった植草甚一さんの姿など、特に珍しい。

オカマ風のキャラを演じている岸田森の演技も愉快で、ヒロインの首筋に唇を寄せるシーン等は、明らかに「血を吸う」シリーズのドラキュラを意識したものだろう。

田中邦衛の狂った演技も楽しいが、精神病ネタなので、今では、テレビ放映等はおそらく出来ないに違いない。

若々しいチイチイ(地井武男)の姿等を観ると、既に亡くなっていることが信じられないほど。

当時、20そこそこくらいだったはずの桜田淳子は、まだ瑞々しく愛らしい。

シャワーシーンで裸の背中が写る所などは、くるりと手前を向いた所で顔のアップになるが、一応本人が演じているようにように見える。

劇中、中村敦夫がニュースキャスターを演じ、視聴率に追いまくられているタレントの悲哀に付いて述べているシーンがあるが、実際に中村敦夫氏がキャスターを勤めた「中村敦夫の地球発22時」を連想させずにはいられない。

かなり知的な番組だったが、放送時間の変更等に反発した中村氏が、「いくら時間で切り売りしている電波芸者の身とは言え、子供向けの時間帯に移されて…」とか何とか、そう言った趣旨の不満を述べ、番組を降板したのは覚えていたので、この映画はそれをヒントにしているのか?とも想像したが、どうやら、その情報番組が始まったのはこの映画の後のことらしい。

それまで俳優のイメージが強かった中村氏が、キャスターから、さらに後には政治家にまで転身した経緯を考えると、この映画での氏が演じた役柄は意味深く、偶然にしては出来過ぎているようにも感じる。

それにしても、ラスト、犯人の身体を右腕一本で支えるヒロインと言うのも、ある意味すごい。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1978年、サンミュージック+東京映画、白坂依志夫+安本莞二脚本、小谷承靖監督。

夕暮れの海辺の崖の上に佇む黛雪子(夏純子)は、次の瞬間、気絶するように崖から海に落下する。

パリでモダンバレエのレッスン中だった雪子の妹夏子(桜田淳子)は、胸に付けていたネックレスが突然切れて落ちたので拾い上げる。

その直後、東京からの電話だと知らせが来たので、姉からだと思い、喜んで電話口に出るが、急に表情が変わる。

タイトル

パリ、エッフェル塔周辺の風景から、日本に到着する旅客機の映像

その飛行機の到着を待っていたように、空港近くの川沿いに停まっていた黄色いポルシェが走り出す。

羽田空港に到着した夏子は、タクシーで出発するが、その後を黄色いポルシェが尾行する。

死体安置所で夏子を待ち受けていたのは、刑事(稲葉義男)だった。

冷凍室から出された姉の遺体を確認させると、雪子の遺品を渡しながら、状況説明を始める。

検死の結果、妊娠3ヶ月だったが、相手は分からない。

靴もきれいに脱ぎ捨てられていたので自殺と断定。

日記を渡した後、夏子が受取人の生命保険も入っていたが、契約後、2年以内に自殺したのでは成立しないと刑事は言う。

バッグの中には遺書が入っており、日記の筆跡と同じだったので、本人が書いたものに違いない。

夏子は姉に、2年も会ってなかった。

受取証に夏子が拇印を押すと、刑事は部屋から出て行く。

これで終わり?夏子は呆然として、姉の遺品であるスカーフを手に取る。

「私が死んでも泣かないで。お通夜や葬儀は止めてちょうだい。私の肉と皮は火に入れて焼いて欲しいの。骨は海に撒いて流して欲しい…」そんなことが遺書には書かれてあった。

夏子は、スタイリストをやっていた姉が働いていた写真スタジオにやって来る。

カメラマンが水着モデルを撮っている最中だったが、後任のスタイリスト圭子(泉ピン子)は、姉のことを、仕事は一流だったけど、ちょっと怖い所があった…などと説明しながらも、夏子本人に妙に関心を持ったようで、身体をにじり寄せて来ると、住むとこないんでしょう?あたしで良かったら力になるわ。私のアパートに来ない?と妙な目つきで迫って来る。

カメラマンの佐伯次郎(篠田三郎)が、圭子にモデルのメイク直しを依頼し、女を口説くのもいい加減にしろよと注意すると、悲しんでいる人をくどくなんて、私、そんな浅ましい女じゃないわよ!と怒りながら、モデルに近づこうとした圭子は、段差を滑り落ちて腰を打ってしまう。

佐伯はその時はじめて、今来ていた夏子が雪子の妹だと聞いて驚くが、夏子は既に帰った後だった。

夏子は、姉が住んでいたアパートにやって来る。

何があったの?夏子は心の中で姉に問いかけながら、冷蔵庫の中の牛乳等を始末し始める。

(回想)中学時代、夏子は、姉雪子の踊りを褒めてある雑誌を買って来て、嬉しそうに2人暮らしだった姉の前で読み始める。

雪子は恥ずかしがって、その本を取り上げようとするが、夏子もはしゃぎながらもみ合ううちに、雪子は階段から滑り落ち、右足を骨折してしまう。

入院した雪子を見舞った夏子は、私のせいなの?…ともう踊れなくなった姉に泣きながらすがりつくが、私の代わりに踊ってちょうだい。私の夢を実現してちょうだいと雪子は頼む。

どこからか、三波春夫の万博ソング「世界の国からこんにちわ」が流れていた…

(回想明け)夜、姉のベッドで寝ていた夏子は、室内に誰かが侵入し、懐中電灯で部屋の中を物色している気配に気づく。

誰?と声をあげると、その侵入者は、慌てたようにストッキングを頭からかぶり、ベッドの方に迫って来る。

その男は、妙なぜいぜい言う呼吸音をしていた。

その時、電話が鳴りだしたので、夏子は思い切って受話器を取って話しかけようとするが、そこに侵入者が襲いかかって来る。

夏子は、首を絞められていた相手の左手を思い切り噛み付く。

相手がひるんだ好きに立ち上がった夏子は、物を投げつけ、相手は立ち去って行く。

窓から下を見下ろした夏子は、走り去って行く黄色いポルシェを目撃する。

その時、ドア付近で物音がして、人影が見えたので夏子は怯えるが、電気のスイッチを入れたその人物は、昼間スタジオにいたカメラマンの佐伯だった。

これ、お姉さんから借りた物ですと言いながら、本を机に置いた佐伯は、近くから電話したら様子がおかしかったんで飛んで来たんだと説明するが、その左手から血が出ているのを観た夏子は身体を強張らせる。

佐伯は、今階段を登って来る時、手すりで擦りむいたんだと説明し、マンション荒らしかな?等と言いながら、部屋の中の様子を熟知した様子で、勝手に自分でコーヒーを入れ始める。

夏子は、あんな良い車に乗った泥棒なんていないわよと、単なる物取りではないことを指摘し、あなたは随分姉と親しかったみたいね?と聞く。

僕は雪べえの子供の父親じゃない。正直言って信じられない。死ぬ数時間前まで一緒に仕事していたんだと佐伯は説明する。

(回想)あの崖の近くの海岸で、佐伯と雪子らスタッフが、銃を撃つ真似をするモデルの撮影をしている様子。

雪子は妙に明るく振る舞っていた。

(回想明け)でも、どこか変だったな、あの日の雪べえ…、自殺する人って、妙に陽気になるって言うし…と佐伯が言うと、姉は誰とでも付き合うような人じゃないわと夏子は否定する。

どうしてその恋人は出て来ないんだ?と佐伯が聞くと、出て来るはずないでしょう?きっとその人が犯人なんだもの…。じゃないって言い切れる?と夏子は決めつける。

しかし、佐伯は、お姉さんのこと、そっとしといたらどうなの?と諌めるので、どうしてそんな事言うの?と夏子が熱くなると、気味がお姉さんの恋人が犯人だなんて言い出すからさ…と佐伯は困惑顔になる。

私、探し出すわ!きっと!夏子はそう誓う。

翌日から、夏子は、夕べ目撃した黄色い車を見つけるため、ミニチュアの黄色い車を手に、ガソリンスタンドや中古自動車や等、あちこちを探しまわる。

やがて、とあるカーディーラーで、その車はポルシェ924と言う車種で、東京だけでも80台くらいあるだろうと教えてもらう。

そのカーディーラーで、一緒に話を来ていた主任が、お姉さんの名は?と聞いて来たので、雪子と教えると、急用を思い出したと言って逃げ出そうとしたので、夏子は何か知っていると感じ後をつける。

その戸川(岸部四郎)と言う主任は、女子社員から、若い女から逃げているのをからかわれたので、逃げるのを諦める。

お姉さんと恋人?と単刀直入に夏子が聞くと、そうではなくえらくお世話になった人で、8台もポルシェを売ってもらったので、謝礼はしてあると言う。

僕なんかより、よっぽど金儲けが上手な人やった…と言う戸川の言葉を聞いた夏子は、姉の意外な面を知り驚く。

夏子は、戸川から聞いた、姉がポルシェを売った客を探り始める。

最初の男は、神津神之助(植草甚一)と言う、雑学やモダンジャズの研究者で、神保町の古書店で1920年代ファッションの本を買っている所で話を聞く。

僕なんかおじいさんが恋人のはずないよ。彼女にはカプチーノをごちそうしたと言うと、神津は黄色いポルシェに乗って去って行く。

手帳に記した名前の中から、神津の名を消す夏子。

次に会うのは、ニュースキャスターの風間修(中村敦夫)だった。

「風間修ワイドショー」では、今世間を騒がせている「ショートカットの女性ばかりを狙う連続絞殺魔」の荒い呼吸と言う目撃談から、喘息持ちではないかと言う点をゲストの高柴に聞き、自分のコンプレックスを埋める心理から生まれた一種のフェティシズムではないかと言う結論を出していた。

その収録を終えた風間が駐車場の黄色いポルシェに乗り込んだ時、窓ガラスを叩いたのは、トンボメガネをかけた夏子だった。

風間のファンだと言い、助手席に入れてもらった夏子は、大学の心理学で、視察する人の心理を研究している所ですと前置きし、半月ほど前、伊豆半島の崖から飛び降りた人、興味ありません?と聞く。

あるよ。これから行く水族館をキャンセルして良いくらい。でも何故芝居をするの?もっと素直に聞いて欲しかった、お姉さんのこと…と風間は、夏子の正体に気づいていることを証す。

(回想)ある雨の日、風間は、衣装を持って建物から出て来た雪子を危うく轢きかける。

急いで、地面に落ちた衣装を拾う手伝いをした風間だったが、それが雪子との出会いだった。

(回想明け)水族館に夏子を連れて来た風間は、もっと深く付き合っていたら、好きになっていたでしょうね、魅力ある人だったから…と雪子のことを思い出す。

姉が車のセールスをやっていたなんて知らなかったんです、私への仕送りのためだったんでしょうね。私にモダンバレエのダンサーになって欲しかったんですと夏子は説明する。

君は、その恋人が殺したと思っている。君は危なくて大変なことをしている。君には無理だと思うんだけどねと風間は言いながらも、雪子さんの力になってあげられるかもしれない。何でも相談してくれと夏子に名刺を渡し、次の取材に行かなければいけない。視聴率と言う化物に追われているんだ。もし事件が解決したら、ミスコロンボとして出てもらおうかと言い残して帰って行く。

そこに、幼稚園の一団がやって来て、風間を観ると、テレビに出ている人だと騒ぎだす。

夏子は、手帳の風間の名前を消す。

次に会う相手は、深水(田中邦衛)と言う風変わりな前衛役者だった。

天使の人形が下がった舞台に見立てた工場内で、女性が演じる天使を前に、黄色いポルシェの屋根の上に乗った深水は、鞭を振るいながら、訳の分からないセリフをまくしたてていた。

天使役の女性は、途中で、もう嫌!とヒステリーを起こすと、逃げ去ってしまう。

新しい天使はそこにいるじゃないか!と深水は、二階から覗き込んでいた夏子の方を指差すと、ロープをたぐり始める。

そのロープにすがっていた夏子は、手すりから引っ張られ、そのままロープにしがみついた状態で舞台代わりの床面まで降りて来る。

嫌がる夏子を、派手な衣装を着た深水は、僕の宇宙船へと言いながら、黄色いポルシェの上の椅子に無理矢理座らせると、メシアの星が待っている!M51星団からお迎えが来た!と言い出す。

そこに入って来たのは救急車だった。

お迎えに来ました。グーチョキパー!と、救急車から降りて来た白衣の医者も深水のセリフに合わせて挨拶する。

車の屋根から降りた深水は、そんな嫌に誘われ、救急車に乗り込む。

黛雪子知ってますね?と勇気を振り絞って夏子が問いかけると、彼女は僕を待っているんだ、M51星団でなどと深水は答える。

3月23日の夜、何をしていましたか?と夏子が聞くと、その日なら、深水さん、うちの病院にいましたよ。脱走したのは三日前だもの…と答えた白衣の医者は、救急車に乗り込んで去って行く。

救急車の後ろには「佐藤精神病院」の文字が入っており、その上の窓ガラスには、明らかに狂った深水が顔を押し付けていた。

がっかりして夜道を帰る途中、夏子は若い女性の悲鳴を聞く。

近くにいた工事人たちが。絞殺魔の被害者が倒れている!警察や!と騒いで走って行く。

まさしく、首を絞められ、口から泡を吹いて絶命した若い女性の死体が近くにあった。

夏子は怯えて逃げ出すが、その直後、死体の側の草むらから、何者かが飛び出して来る。

荒い呼吸音のその人影は、逃げる夏子を追いかけて来る。

夏子は逃げる途中、停まっていた黄色いポルシェを発見、運転席の中のダッシュボードに入れられた書類等を確認しようと手にするが、その時、背後に現れたのは、不気味なオカマ風の男岡野(岸田森)だった。

岡野は、どうしたの?震えちゃって…と声をかけて来たので、夏子は勇気を奮い、あなたの?と車の所有者なのかを確認する。

良かったら、乗らない?こんな時間に女性の一人歩きは危険だよと言って来たので、夏子は思い切って、その言葉に乗ってみることにする。

たまたま近くのガソリンスタンドで給油中だったカメラマンの佐伯は、通り過ぎる黄色いポルシェに乗った夏子の姿を目撃し、後を付けてみることにする。

岡野が連れて来たのは、自分が経営しているらしき閉店後の美容院だった。

夏子を椅子に座らせると、店内の照明を落とし、ちょっとカットして良い?と聞くので、了承すると、素晴らしい髪…、柔らかくてしなやかで…、とっても素敵よなどと、夏子の髪をなでて来る。

あのポルシェ、いつ買ったの?と聞くと、半年ほど前、お客様の紹介で…。あなたのように美しい髪をした人と言い、任せてくださいなと言いながら岡野はカミソリを出して来る。

そのカミソリを首筋に当てられた夏子は、止めて!と叫ぶと立ち上がり、店内を逃げ回るが、岡野は、何故逃げるの?何故私を嫌うの?と言いながら後を追って来る。

雪子さんも同じだったわ。何故なのよ!とヒステリックになった岡野は、あなたは私の物よ!誰にも渡さない!と言いながら、捕まえた夏子の首筋に噛み付くように唇を密着させて来る。

その時、入口から入って来たのは佐伯で、岡野を殴りとばすと、この人が姉さんを殺したのよ!と夏子は叫ぶ。

絞殺魔はさっき捕まったよ。カーラジオで言ってたと佐伯は教える。

それを聞いた夏子は混乱し、分からないわ、あんまり怖かったから…と弁解する。

殺したかった…、殴られて床に倒れていた岡野が呟く。

殺したいほど、私、雪子さんを愛してたのよ。

殺せば自分だけの物になる…。

この店に最初に来たときから…、でも雪子さんは、私のことなんか気にもとめなかった。

(回想)冬子のアパートに花束を持って行った岡野だったが、入口で追い出されてしまう。

岡野は花束の花を、アパートの廊下に置いてあった白い鳥籠に挿して行くしかなかった。

自殺したと聞いて、あそこに行ったの…。雪子さんの物が何か欲しかった…。

(回想明け)あの晩、アパートに忍び込んで来たのは岡野だったのだと夏子は気づく。

ポルシェ買えば、雪子さんに会えると思ったけど、その後、一度しか会えなかった。後は、大阪弁のディーラーばかり来て…と岡野は悔しがる。

アパートへ佐伯と共に戻って来た夏子は、不潔よ!と吐き出す。

だから言ったろ?突っ張るの止めろ!強情だな…と佐伯が注意すると、どうせ私は世間知らずの小娘よ!と意地を張る夏子は、もうどうなっても知らないからなと言い聞かそうとする佐伯に、帰って!1人にして!と追い返してしまう。

さようなら、でも、忘れずに鍵をかけろよな。本当にもう助けに来ないからなと言い残して、佐伯は部屋の外に出る。

すぐに鍵をかけた夏子は、他にもいるんです!と外に向かって叫ぶが、佐伯がいなくなってしまうと、急に部屋の中で落ち込んでしまう。

以前もらった名刺の電話番号にかけてみた夏子だったが、風間は留守のようだった。

手帳の名前から岡野の名を消す夏子。

最後の相手三村一郎は、タレントコンテストのオーディション会場にいた。

水着審査の会場前で中を覗き込んでいた夏子を、参加者と勘違いしたスタッフが、水着を貸してくれたので、夏子はそれに着替え、自分もオーディションを受けてみることにする。

山田ふじ子19歳と偽名を名乗った夏子は、審査委員のCFディレクター(大林宣彦)から、兄弟は?と聞かれたので、いません。私1人ですと又噓を言う。

笑ってくれないか?怒ってくれないか?甘えてみようか?などと色々な注文をするCFディレクターに素直に従う夏子。

良いねと気にいった様子のCFディレクターは、モダンバレエみたいなのやってごらんと指示して来たので、4ビートのなら何でも構いませんとリズム指定した夏子は、その場で得意のダンスを披露する。

そんな夏子の様子を、審査委員席の隅に座っていた三村(地井武男)はじっと見つめていた。

オーディションが終わった後、着替えた夏子は急いで屋上駐車場へ行き、三村の姿を探すが、三村は扉の影に立っていた。

あなたを捜していたんですと夏子が言うと、僕も君を待っていたんだと言うので、落ちたのはどこか悪かったのか聞こうと思って…と夏子は用意していた嘘をつく。

最後まで残っていたんだ。僕は押したんだけど、うちの重役1人が強引に反対してね…と教えた三村は、スポーツ好きかい?スカッシュに行かない?と誘って来る。

夏子は、承知しながらも、チャンスをつかむために何でもする女の子と思わないでねと弁解する。

分かっているよと笑った三村は、目元がそっくりだ。僕が前に付き合っていた人と…と言う。

思わず、「18」と書かれたオーディションのナンバープレートを手すりから下に落とした夏子だったが、三村から呼ばれた車は黄色いポルシェではなかった。

新車ね、これ?前は何に乗ってらしたの?と夏子が聞くと、三村はアルファロメロと答える。

(回想)雪子と三村がスカッシュをする粗い粒子のモノクロ映像

(回想明け)夏子は高級クラブで、三村とチークダンスを踊っていた。

奥さんに叱られないかしら?と夏子が言うと、どうして僕が結婚していると分かったの?と言うので、ワイシャツの襟と袖口がきれいな人の90%は奥さんがいるって、母が言ってましたと答える。

三村は、昔付き合っていた女も同じ事を言っていたと教えながらも、昔のことを聞かれるのは嫌がる。

私とこうしていると、その人のこと思い出すんでしょう?浮気だったの?と夏子が聞くと、独身だったら結婚していたかも…と三村は呟く。

好意を持った人の全てを知りたくなるんですなどと、ボックス席で三村に迫った夏子は弁解し、名前は何て言うの?と聞く。

黛雪子とはっきり三村が答えたので、ステキな名前、どうして別れちゃったの?と食い下がるが、どこで習ってたんだモダンバレエ?パリ?ニューヨーク?ロンドン?と三村は逆に来て来る。

夏子は、私、外国なんて行ったことないわと嘘をつく。

三村の車で送ってもらった夏子は、明日、海が観たいの、海が好きなのよと甘えかける。

アパート近くのマンションの前で停めさせた夏子に、明日の昼に迎えに来るよと約束し、三村はキスして来ようとするが、ダメよ、今日は…、会ったばかりでしょう?と夏子は拒否する。

三村は、楽しみは後に取っておくか…等と言って諦める。

車を降り、おやすみなさいと挨拶してマンションの方に向かった夏子だったが、その後急いで、自分の安アパートに帰る。

そのアパートの前に停まっていた車の中で、先回りしていた三村が煙草の火をつけ、車を走らせる。

風間修は、事務所で、次の番組で視聴率が取れなかったら、僕は養老院行きだ!とスタッフたちに檄を飛ばしていた。

そこに電話をかけて来たのは夏子だった。

夏子は、容疑者の中にワールド食品の宣伝課長がいて、妻も子供もいる人なので、姉に子供が出来たら、エリートサラリーマンならどうするかしら?と自分の推理を聞かせる。

風間は、今打ち合わせ中で忙しいので、明日会おうと答えるが、夏子は、もう良いんです!お忙しい中ごめんなさい!と謝り、いきなり電話を切ってしまう。

翌日、夏子は、三村の車で伊豆半島に向かっていた。

この道で間違いないだろう?どうせ俺をあそこに連れて行くつもりだったんだろう?三村は言い出す。

雪子が落下した崖にやって来た三村は、君の姉さんはここで落ちた…と言う。

夏子はそんな三村に、どうやって姉に遺書を書かせたの?と聞き、違うんだ!と言いながら迫って来た三村から逃げ始める。

公衆電話を見つけた夏子は、風間を呼び出すが、すぐ外に三村が迫って来て、ドアを開けると夏子につかみ掛かって来る。

夏子は電話に出た風間に、小金崎にいるんです!と叫ぶが、三村に殴られてしまう。

崖の草むらに身体を押さえつけられた夏子は必死に抵抗しようとするが、これ以上逃げはしない。信じられなかったら、警察へでも調べてもらえば良い。今の会社にいられなくなるだけだから…と三村は訴える。

2年前のことだ…、CMの仕事で知り合って僕らは愛し合った…、と三村は雪子と出会った時の事を語りだす。

(回想)車の中でキスする三村と雪子

(回想明け)始めは、僕に妻子がいることを知って付き合っていたはずなのに、僕が課長になると、雪子は、別れるんだったら500万の慰謝料とポルシェを買えと言い出すようになった。

まとまった金が必要だったんだ。僕はポルシェを買ってやるのが精一杯だった。

いつ別れたの?と夏子が聞くと、去年の8月だと言うので、姉は妊娠3ヶ月だったのよ!と教えると、愕然とした表情になった三村は、知らなかった…、雪子が妊娠していたなんて…、じゃあ、彼女には別の男がいたんだ。僕は苦しむことはなかったんだ。俺のために自殺したと思ってた。俺はお人好しのバカだよ…と言いながら、笑い転げる。

どうやら、三村も犯人ではなかったと知った夏子は、1人歩いて帰ることにするが、もう誰が犯人なのか、夏子には分からなくなっていた。

そんな夏子は、トンネルの中に入った所で、バイクに乗った5人組の不良グループに囲まれてしまう。

外に連れて行かれ、乱暴されかけていた時、やって来たのが風間だった。

風間は、トンネルの前に停められていたバイクを観ると、車を降りて周囲を見渡すが、悲鳴を聞き、夏子に襲いかかっていたグループに出会う。

風間は、不良たちを浜辺で叩きのめし、彼らは逃げ去って行く。

風間さん!左袖が破れた服の夏子が駆け寄り、抱きついて来る。

怪我はなかったかい?風間はそんな夏子を優しく抱擁してやる。

風間のマンションに連れて来られたナチう子は、シャワーを使わせてもらう。

そして、風間の大きなパジャマを着た夏子の元に、新しい服を買って来た風間が戻って来る。

良く似合うよ、その格好…と風間が褒めると、夏子は、ごめんなさい、ご心配ばかりかけてと謝る。

困ったお嬢さんだね…と苦笑する風間に、私が邪魔?と問いかけながら夏子は抱きつく。

だったら、家になんか連れて来ないよと答える風間。

私、好きなの!あなたのことが好きなの!と訴える夏子。

寂びしいんだよと大人の対応をする風間。

違うのよ!私って勝手ね…。心配や迷惑かけた上に…、厚かましいわよねと夏子が反省すると、僕だって好きだよ。まるで妹のような気がすると風間は答える。

やさしいのね…、絶対、人を傷つけない人ね…と感激した夏子は、観て!だぶだぶ…と、大きなマパじゃ姿を見せつけると、その場で踊ってみせ、転んでしまうお茶目振りを見せる。

目が離せないな、この子は…と苦笑しながらも、風間は手を引いて夏子を立たせてやる。

又抱きつき、目をつぶった夏子だったが、何故か風間は顔をそらす。

服を買って来たよ。あれじゃあ、外出られないだろうから…と破れた服のことを風間は指摘する。

素敵!着ちゃおうかな?とはしゃぐ夏子だったが、明日にしたらと諭される。

お休みのキスして!と夏子が甘えると、風間は頬にキスをしてやる。

翌朝、ベッドで目覚めた夏子は、「時間がないので仕事に行きます。きれいな服を着た君を観られないのが残念だけど」と書かれたメモをべッド脇で発見する。

それでも、恋に浮かれた夏子は、洗面所の鏡に、シェービングクリームをヒゲの形に吹き付けると、それをカミソリで剃る真似をしてみる。

その時、電話が鳴りだしたので、風間ですが…と出てみた夏子だったが、相手は無言で切ってしまう。

夏子は、テーブルの上に置いてあったヘアメイクの雑誌をぱらぱらと読み出す。

その中に、「スタイリスト 黛雪子」と書かれたモデルの写真が載っているのを発見する。

どうやらそれが、雪子が最後に参加していたと言う伊豆ロケの仕事のようだった。

お姉さんのこと、そっとしといたらどうかな?と言っていた佐伯のことを思い出した夏子は、スタジオに出かけてみることにする。

中は電気が消え、誰もいなさそうだったので、黙って上がり込んだ夏子は、戸棚のスクラップブック等を漁りだす。

すると、いきなり扉が開き、探し物かい?と言いながら佐伯が出て来る。

雪子と最後に会った僕を怪しいと思ったのかい?確かに僕にはアリバイがない。車で帰ったからね。雪べえを崖から突き落としたのは僕かもしれないぞ…と言いながら夏子に近寄って来る。

身を強張らせた夏子だったが、急に笑顔になった佐伯は、ごめん、ごめん、僕が人を殺しているように見えるかい?と目を見つめ、夏子が疑いを晴らしたらしいと気づくと、やっと無罪放免か…と安堵する。

たった2年で姉さんは変わってしまったのね…と漏らす夏子に、仕方ないよ、東京で若い女が1人で生きて行くんだから。ひたむきに生きていたんだと佐伯は弁護する。

そしてお酒に溺れていたの?お金に困ってたの?と夏子が聞くと、君のためだよ…と呟いた佐伯は、3ヶ月ほど前だったかな?…とクリスマスの頃の出来事を話しだす。

(回想)泥酔し、ふらつきながら、佐伯と一緒に雪が降った酒場街を歩く雪子は、こんな私を観たら、何と思うかしら?妹だけが生きがいなのよ…と言いながら、道ばたに倒れ込む。

一流のダンサーになって欲しいの…、酔いつぶれた雪子は助け起こそうとする佐伯にそう告げる。

(回想明け)良い写真だろ?これ…、雪ベエの最後の仕事のときの写真だ。記念に持って行けよと言いながら、佐伯が渡してくれた写真を観ると、伊豆の現場で笑っている雪子の姿が写っていた。

複雑な気持ちでその写真を観ていた夏子だったが、ふと気づくと、写真の背景の片隅に黄色い車のような物が写っていることに気づく。

これ何かしら?車みたい…、黄色ねと夏子が指摘すると、佐伯は問題の箇所を大きく引き延ばして現像してくれた。

そこには、車のナンバープレートがはっきり写っていた。

「97-19」その数字を目にした夏子は愕然とし、そんなことないわ!と拒絶する。

その後、神津に雪子の遺書を見せた夏子は、それは有名な小説の一節であると教えられる。

図書館で神津から、その本を教えてもらった夏子は、礼を言うのもそこそこに、急いで地下鉄で風間のマンションに向かう。

本棚を探した夏子は、さっき図書館に会ったのと同じ本を発見する。

その1ページを開くと、そこには、姉の遺書と全く同じ文章が書いてあり、その行の上には、赤い印まで付けてあった。

呆然とした夏子は、洗面所に自分が残して行ったままの、シェービングクリームが付いたカミソリを発見する。

その頃、風間は、「風間修ワイドショー」の最終回を収録中で、次回作の「ニュー風間アワー」の告知をしていた。

そのスタジオにやって来た夏子は、通りかかった女性(野村昭子)に、番組が終了した後、風間に寄り添っているきれいな女性は誰なのか聞く。

すると、このテレビ局社長の娘(中山麻理)だと言うではないか。

スタッフたちが打ち上げ準備中のスタジオにやって来た夏子に気づいた風間は、一緒にやらないかい?と打ち上げへの参加を勧めて来るが、私、冷たい風に当たりたいんですと夏子が言うと、素直に、テレビ局の屋上まで付いて来る。

変だね、どうしたの?と聞いて来た風間に、車のバックナンバーの写った写真と、遺書と同じ文章が載っていた本を差し出した夏子は、説明して!どう言うことなの?と詰め寄る。

姉さんが死んだ日、あそこへ行ったわね?今でも信じたくないわ。あなただけは信じていたのに…、ひどい!どうして私を騙したの?どうして、お姉さんを殺したの?お姉さんがやっと掴んだ幸せがあなただったのよ!惨い人ねと訴える夏子。

好きだった…、結婚しても良いと思ってた…と風間が告白すると、まだ私を騙そうとして!と夏子は怒る。

信じてくれ!3ヶ月前から視聴率が落ちて、番組を外される可能性があったんだ。その時、貝島律子と会った。父親の力で、新しい番組のキャスターに使ってくれた。それに乗るしかなかったんだ!と訴える風間。

それで、お姉さんが邪魔になったのね!と責める夏子。

お姉さんはアル中だった。板挟みになった僕は、遺書をコピーさせ、3月23日の夜、顔が知られている僕が人に会わないようにするため、あの崖の近くで落ち合った…と風間は続ける。

雪子は何の疑いも持たず付いて来た…

(回想)崖の上に来て抱き合う風間と夏子。

次の瞬間、驚いた表情になった雪子を突き落とす風間…

(回想明け)その時のことを思い出したのか、急に胃の辺りを押さえ嘔吐する風間。

騙してすまなかった…。君と会ったときから、こうなるのを恐れていた…、君が好意を持ってくれたので、どうしても言い出せなかった…。パジャマ姿の君の可愛い姿をもう1度観たかったけれど…と言った風間は、手すりを超え身を投げる。

止めて!と言いながら駈けよった夏子は、片手でビルの外に身を投げ出した風間の左手を握りしめていた。

離せ!ミスコロンボ!

風間さん!そう叫んだ夏子だったが、やがて力尽き、手を滑り落ちた風間の身体は、地上の時計がある池に落下してしまう。

夏子は伸ばしたままの右手も人差し指には、掴んだ時引っ掻いて出来た風間の傷の血が付いていたが、その人差し指の血を口に入れて嘗める。

そして、側に落ちていた花束の赤いバラを1本抜き取ると、そっと地上に横たわっている風間の死体の上に落とす。

池の中の風間の死体から流れ出た血が、池を赤く染めていた。

テレビ局の下では、大勢の野次馬が集まって来ていた。

そんな中、無関係な一般人を装い、夏子はテレビ局を去って行く。

お姉さん…、これで良かったの?私のことは心配しないで。私にはこれからやることが一杯あるの。バレエして、恋をして…

姉さんの分まで精一杯生きるつもり…

そう夏子は心の中で誓っていた。