シリーズ6作目
健さんと言えば「北国」「雪」のイメージが強い人だが、この作品はそんな健さんには珍しく、南の沖縄が舞台となっている。
照りつける日差しと原色の町並みの中、汗ばんで日焼けした健さんが新鮮に映る。
この作品でも、子供と橘の出会いと別れが描かれている。
健さんは、切れ易いチンピラ気質を持ちながらも、実態は心底まじめで面倒見の良い好青年として描かれている。
いわゆるあくどいヤクザは、典型的な悪役として描かれており、基本的には勧善懲悪の娯楽であり、ヤクザ礼賛映画ではない。
最後、日本刀で敵を殺す描写があるので、又刑務所行き、もしくは死刑の可能性すらありそうなのだが、毎回あっさりムショから出て来ている所を観ると、情状酌量されているか、あくまでも娯楽映画なので…と言うことなのだろう。
その辺の処理だけ、基本的に喧嘩で収め、人殺しはしないようにしている大映の「悪名」シリーズ等とは違っている気がする。
時代劇感覚と割り切って考えれば、斬ったはったがある方が、すっきりすることは確かだろう。
劇中、かつての網走仲間たちがさりげなく登場して来るが、シリーズを観ていない観客にとっては、戸惑うのではないだろうか。
田中邦衛、由利徹などはレギュラー的に出ていた記憶があるが、谷隼人や千葉真一は、前に出てたっけ?とちょっと記憶を辿りたくなる。
相変わらず、神出鬼没に登場するアラカン演じる鬼寅は、あまりの唐突さ故、すでにギャグに近いような扱いになっているようにも感じる。
自分の小舟に乗るように命じた、佐竹と夏子が、何故か、敵方のクルーザーに乗り込んでしまったり、それを見てなかったはずの鬼寅までもがクルーザーに乗り込み、満足に操縦方法すら知らないのに走らせるなどと言った辺りは、ナンセンス風でおかしい。
鬼熊=鞍馬天狗のおじちゃんは、ヒーローなので何でも出来ると言う暗黙の了解なのだろう。
毎回、橘のライバルとして登場しながらも、その人柄に惚れ、最終的には仲間になる吉田輝雄の存在等も、小林旭に対する宍戸錠的な扱いのように見える。
全編、そうしたお約束だらけで成り立っているこのシリーズ、何本か観て行くうちに、そうした楽屋落ち的な面白さが発見できるはずである。
健さんはこの当時、30半ばくらいだったはずで、正に脂が乗り切った時期なのだが、シーンによって、実年齢より若々しく見えたり、老けて見えたりする。
一郎少年は、橘のことを、兄貴、お兄ちゃんと呼んでいるが、実際は、おじさんと呼んだ方がしっくりする年代ではないだろうか。
ちゃらちゃらした小娘時代の大原麗子とか、沖縄の観光的な様子も交え、色々観どころがある作品になっていると思う。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼ |
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1966年、東映、伊藤一原案、石井輝男脚本+監督作品。 雨の中、龍神一家の為、ムショに入って、晴れて出所して来た橘真一(高倉健)は、傘をさしかけ出迎えた大槻(田中邦衛)から、龍神一家の親分が沖縄で事故で亡くなり、関森が勝手に二代目を名乗ると、兄貴を一歩も寄せ付けまいと橘に破門状を送ったと言う事を知らされる。 関森の奴は今どこにいる?と橘が聞くと、沖縄の飛行場工事現場にいるが、飛行場には見張りを張り込ませているらしいのでうかつに近づけないと大槻は言う。 タイトル 確かに飛行場に殺し屋が待っていたのに気づいた橘は、北陸廻りで神戸に着くと、そこから沖縄に船で向かうルートを取る。 橘は、何か罠の匂いを感じていた。 船上、関森の背後には、豪田一家がいるらしいと大槻は教える。 沖縄まで向かう途中、甲板で昼寝をしていた橘は、側に置いてあったコカコーラの缶に手を伸ばして来た子供に気づき、その手を押さえる。 坊主、はじめてじゃねえらしいな?と橘は睨みつけ、何とか言えと迫るが、男の子は腹が減って口聞けねえよと言うではないか。 仕方ないので、持っていた握り飯を食って良いと言うと、男の子はかぶりつき、お兄さん、世話になりやすなどと生意気な口を聞いて来る。 これから人様のものに手を出すんじゃねえぞ!親は何も言わねえのか?と橘が言い聞かすと、親父、貧乏しているもんで…とその子は言う。 同情した橘は、小遣いまで渡してやりながら、今度から、こんな真似したら承知しねえぞ!と諭すと、男の子は一郎と名乗り、橘の名前も聞いて来る。 名乗るほどのもんじゃねえよと言っていた橘だったが、粋がらねえで教えてくれよ。その内、恩返しすることがあるかもしれねえし…と一郎が言うので、橘って言うんだよと教えてやる。 一郎が立ち去ると、近くから笑い声が聞こえて来て、長身でサングラスの男が現れ、良い見せ物見せてもらった。人情ものって言うのかと話しかけて来たので、筋ものらしいけど何やらかしたんだ?と橘は身構える。 するとその男は、鹿児島に引き返した方が良いなどと忠告して来たので、ガキくせえのに爺むさいこと言いやがって…と橘は睨みつけるが、そう粋がるなよと笑いながら男は去って行く。 やがて、船は沖縄に到着する。 大槻と共に上陸した橘だったが、そんな2人に追いつくように倒れ込んで来たのは、さっきの一郎だった。 どうした?と聞くと、変な奴らに追われていると言う。 俺たちに任せておけと振り返ると、追って来たのは、入国管理事務所の人間たちのようだった。 あの子はあなたたちの連れですか?と聞かれた橘だったが、気がつくと、もう一郎の姿は消えていた。 事務所に来てもらおうと言われた橘は抵抗するが、パスポートを見せてくれと言われたので、上着から出そうとするが見つからない。 大槻の方は、パスポートはあったが、銭入れがないことに気づく。 そこに又やって来た例の男が、お兄さん、楽しませてもらったぜ、第二幕を。茶番劇と言う形でな…と橘に皮肉くる。 パスポートがないと言うことは密入国の疑いがあると言い出した事務員たちは、橘を入国管理事務所に連れて行く。 守礼門の前で、さっきの男に会った一郎は、お兄さんの言われた通りにやった。本島に、橘の兄さんのためになるんだろうね?と確認して来る。 心配するなと言いながら、男は立ち去って行き、一郎は、側の売店でジュースを買うが、子供が大きな札を出したので、店員は驚いてしまう。 そんな一郎を捕まえ、見かけない顔ね?と話しかけて来たのは、港の夏子(大原麗子)と言う地元のズベ公だった。 ちょっと気に入ったね。面倒見てやろうか?などと馴れ馴れしく話しかけて来るので、最初はうるさがっていた一郎だったが、坊や、よそ者だろう?パクられてからじゃ遅いよ等と言うので、ついお世話になりますと頭を下げるが、子供が持ってちゃまずいもの預かっとくわなどと言い出したので、畜生!しっかりしてやがらあと一郎は舌を巻く。 その頃、大槻は、地元で顔が利きそうな人物を探り当て、沖縄着のパスポートが手に入らないかと申し込んでいた。 写真があれば、今夜すぐに使えるようにしてやると言うので出直して来ることにした大槻だったが、そんな大槻に近づき、あんたにドンピシャな所があるよと言いながら腕を引いて来たのは夏子だった。 パスポート欲しいんでしょう?ちょっとした出物があるのよ。さっきの奴、取引先だけどがめついのよ、あの爺いと言うので、いくらだと聞き、ブツを見せろと迫ると、夏子が取り出したのは、橘のパスポートだったので、これは俺のダチがすられたパスポートだぞと言い、夏子の腕をひねり上げる。 しかし、気の強い夏子は手を振りほどくと、返しな!いくらでも買い手はあるんだからと言って逃げ出す。 大槻も後を追うが、夏子が駆け込んだのは、橘が取り調べを受けていた入国管理事務所で、おじさん、これを拾ったの等と言いながら差し出したパスポートを観た橘は、それが自分のものだと気づくと、夏子に礼を言う。 その後、追って来た大槻から事情を聞いた橘は、可愛いとか天使のようだ等とお世辞を言いながら外に出ると、どこで手に入れたか話してくれたら金を払ってやると話しかける。 夏子は、金をもらうまで絶対離れないから!と言うと、橘と大槻に、自分の方からついて来る。 大槻たちはやがて、沖縄伝統の踊りがにぎやかに行われている所に到達し、見物を始める。 大槻はすっかり陽気になり、自分も踊りに加わるが、その時、人相の悪い一団が、踊りを止めさせにくる。 その連中は、踊っていた大槻を殴りつけて来たので、頭に来た橘も、その連中を殴りつける。 それを観た夏子は、かっこいい!と喜ぶのだった。 大槻は、そんな橘のことを自分の弟分だと夏子に教えるが、パトカーの音が近づいて来たので、ヤバいと感じ、橘と共にその場を逃げ出す。 夏子も、そんな2人を追いかけて行く。 人気のない所に来た3人だったが、夏子は橘のことを、見直しちゃった。とっぽいだけの男かと思ったから…などと褒めて来る。 さっきの奴らは何だ?と聞くと、本土から来たヤー公だと言う。 もっと詳しい話を聞こうとすると、60ドル寄越せと夏子が要求して来たので、この野郎、銭すられたんだ。約2000ドルと橘は大槻の頭を抑えて教える。 豪田組とか言うヤー公で、本土といったり来たり、騒ぎが終わった頃、やって来るの。奴らの目的は、宜保建設主催の祭りを邪魔することだと夏子は言う。 自分らが騒ぎに関係ないことを偽装するためと知れたが、その豪田は、今沖縄にはいなくて、明日あたり船で来るかも…、こんなことが始まったのも、宜保建設が地元の空港の仕事を受けてからだと言う夏子。 その話を聞いていた橘は、関森の奴も一緒かな?と呟く。 その予想通り、その頃、沖縄に近づいていた連絡船上で話し合っていたのは豪田(河津清三郎)と関森(沢彰謙)だった。 宜保の奴、今頃、儲けをあげている頃だな…と豪田が言い、例の奴はどうした?と聞く。 関森は、すごく腕の立つのを網走に送ってありますと答える。 5年振りに別荘から出て来たばかりと言うのに、今度は天国行きかと豪田は笑う。 滅多なことは言わないでくださいと気色ばんだ関森に、これでお前も組長か…と言って豪田はなだめる。 そのすごく腕が立つと関森が言っていたのが、橘に色々ちょっかいを出して来ていたあの男で、南(吉田輝雄)と言その男は、今は、豪田組の客人として、事務所に居座っていた。 酒ばかり飲んで遊んでいる南を見かねた組員の梶野(潮健児)が、少しは、祭りの邪魔をするのを手伝ってくれと文句を言って来るが、俺はあんたに雇われたんじゃなく、関森さんに頼まれているだけだ。第一、これは俺のする仕事じゃないなどと南は答える。 その返事にかちんと来た梶野は殴り掛かって来るが、あっさり南に殴りとばされてしまう。 一方、橘と大槻は、宜保建設にやって来て、社長の宜保(二本柳寛)から、竜神組の親分の事故死のことを聞いていた。 柳島の工事現場に行って死んだのだが、ある日突然、豪田が島に乗り込んで来て…、関森と豪田が関係あるとは知らなかったと言う。 話を聞いた橘は、私も出来るだけのことはやらせてもらいますと、仕事への協力を申し出る。 その夜、祭りを邪魔しに向かっていた梶野ら豪田組のメンバーたちの前に姿を見せた橘は、京は家に帰って、おとなしく飴でもしゃぶってたらどうだ?と挑発する。 すると梶野が、返事はこれだ!と言って、短刀を抜いて来たので、あんた、観た所、まだ人を斬ったことないな?人を指すってのはこうやるんだよ!と言って、短刀を奪い取ると躊躇なく、梶野の左腕を突き刺す。 一緒に付いて来ていた大槻が、刺されたんだから早く病院へ連れて行かなきゃ…と教えると、子分たちは、覚えてやがれ!と捨て台詞を残し、梶野を連れ、逃げて行ってしまう。 橘は、あんなのが、いっぱしの渡世人面してるの観ると、かーっとなるんだよ大槻に言いながら、手にしていた短刀を投げ捨てる。 沖縄に向かっていた連絡船の船上では、豪田が、若い男に呼び出されていた。 何の用だ?と豪田が聞くと、小遣い不足しちまったんでねと、呼び出した佐竹(谷隼人)は言う。 飛行機を止め、船にしろって言われりゃ、すぐに来なきゃいけないってことでしょう?などと意味ありげに佐竹が言うので、これが最後だぞと言いながら、金を渡した豪田は去って行く。 その金を受け取った佐竹は、晴海出てからすぐにくれりゃ良いんだけど…とぼやく。 その後、関森に会った豪田は、口止め料代わりに金を渡したんだが…と佐竹のことを打ち明けると、眠らせた方が無難ですなと関森は言う。 さすがに、事故死が続いたんじゃおかしいだろうと豪田は反対したので、もう少し泳がせておきますか?と関森も答える。 やがて連絡船は、沖縄港に入港し、出迎えた子分らから、梶野が刺されたと聞いた関森は、刺したのは誰だ?あの野郎…、まさかと呟く。 事務所で、南に会った関森は、何故、橘をばらさなかったか問いただすが、管理事務所に抑留じゃ手が出せないと南はとぼける。 もっと調べろと関森が言うと、俺はポリ公じゃねえ。何なら、あんたが行ってくれば?等と言いだす始末。 仕方がないので、橘が本土送還になってりゃ良いがな…と関森は期待するしかなかった。 豪田も、誰だろう?宜保に肩入れしているのは?と不思議がっていた。 宜保は八重垣島に資材を運んでいると豪田が言うので、問屋に圧力かければ良いのでは?と関森は妨害方法を指摘するが、豪田は、むしろたっぷり積ませといて…と何やら策があるらしき様子を見せる。 浜辺にやって来た豪田は、宜保建設の資材を運ぶ船を見ながら、ついてるぜ、他の船が一隻も見えねえと、海を見渡して指摘する。 資材を運ぶ船には、橘と大槻が乗り込んでいた。 橘は、親分、この海のどっかにいるのでは?と亡くなった竜神親分のことを偲んでいた。 大槻は、関森たち、こっちに来てねえかな…、もう出て来る頃やと橘に話していた。 空港が完成の暁までには出て来るよと橘も警戒していた。 すると、船の周囲に、航路を邪魔するように数隻の小舟が集まって来る。 橘は、その小舟の一隻に、見覚えのある2人組が乗っていることに気づく。 それは、網走で仲間だった樫山(由利徹)と葉山(千葉真一)だった。 樫山たちの方も橘に気づいたようで、どうする?と互いに相談しあう。 関森は、同じ船に乗せて連れて来た南に、約束通りやってもらおうじゃないかと命じる。 やがて、橘たちが乗っていた資材運搬船に、小舟に乗って接近した連中が、スカーフで顔を隠し、銃を持って海賊のように乗りこんでくる。 そして、積んでいた工事用の資材を次々に小舟に移し替えて行く。 銃を突きつけられ、甲板に降りろと言われた橘は、素直に降りると見せかけて、いきなり甲板上の海賊たちと戦い始める。 樫山と葉山も、顔を隠していたが、兄貴と小声で話しかけながら、橘に飛びかかるような真似をする。 橘の方も、分かっていると小声で答えて、わざと他の海賊の身体に葉山の身体をぶつけたりする。 葉山は、起き上がれない振りをして、仲間の海賊を押さえつけたりする。 暴れ回っていた立場なの背後から、動くんじゃねえ!拳銃を捨てるんだと南が銃を向け警告して来る。 橘は海賊から奪った銃を捨てると、南は仲間の海賊たちに、仕事を続けるんだ。こっちは任せとけと言い、橘のそばに人を近づけないようにする。 ろくな奴じゃねえと思っていたが、まさか強盗の片割れだったとはな…と対面した橘がバカにすると、そこまで落ちぶれちゃいねえ。お前さんを眠らせるため、網走まで追って来たんだぞと南は言う。 やるんなら、とっととやれ!と橘が言うと、又粋がると嘲った南だったが、その隙を見て、橘は、相手が持っていた拳銃を蹴り、弾き飛ばすと、隠し持っていた短刀を取り出して見せる。 俺の命から2番目に大事な拳銃を足蹴にしやがって!と銃を広あげた南は怒るが、例えその銃の1発目が俺に当たっても、2発目の前に、このドスがてめえの土手っ腹にめり込むぜと橘は挑発する。 すると、本当にお前の言う通りになりそうなので、俺なんかつぶし効かねえから、どうだい?話し合おうじゃないかと南は言い出し、物陰に橘を誘おうとする。 そんな中、船で待っていた関森は、外国船が近づいて来たことに気づくと、積みかけた荷物は海に捨てろ!逃げろ!と海賊たちに声をかける。 そして、いら立ったように、何をやってるんだ?と南が橘の始末に手間取っていることに苛つく。 運搬船の上では、いきなり南が橘を殴りつけ、芝居だ!と橘に耳打ちして来たので、訳が分からない橘は、適当に南と殴り合う真似をしながら、2人一緒に海に落ちてしまう。 それに気づいた梶野は、親分、殺し屋拾ってやらなくちゃと南の救出に行こうとするが、関森は、放っとくんだと言う。 海賊仲間たちが小舟に戻り、みな帰ったのを見届けた橘は、本船に戻ると言い、運搬船に向かって泳ぎ始める。 南も、水臭えと言いながら泳いで、後からついて行くのだった。 宜保社長に会いに行った橘は、ここまま手を引いたんじゃ、豪田の思うつぼですと忠告するが、うちの会社のことより、新空港が間に合わなかったら、沖縄に損害が及ぶ。第一、資材を買い戻そうにも、資金繰りが…と宜保社長は言う。 全部買い戻すより、海に投げ込まれた分だけ買えば良いんじゃないですか?盗まれた分は俺たちが探し出しますから。10日以内に必ず目鼻付けますから、それまでに親会社と掛け合ってください。元はと言えば、竜神に仕事を下げてくだすったお陰なんですからと橘は提案する。 その後、橘と大槻は、地元のクラブ「ショーボート」にやって来る。 煙草をくゆらせたホステスが2人を迎え入れるが、中は、外国人客ばかりだった。 そんな中、ギターを持っていた葉山が、兄貴!と声をかけて来る。樫山も一緒だった。 同じテーブルに付いた橘は、お前たちなんであんな仕事をしてたんだと聞く。 網走を出る時、困ったことがあったら、竜神を訪ねろって兄貴が言ってくれただろ? それで、竜神組に入って仕事をしていたら、親分の事故を知って、何かしかけがあるんだろうと思い、関森に協力する振りをして、ここに残っていたのだと言う。 あの盗んだ資材はどこへ運んだ?と聞くと、北の方の島に運んだんだが、帰りは目隠しをされたんで、島の位置ははっきり分からないと言う。 北の島ってどのくらいあるんだ?と大槻が聞くと、50くらいあると言うので、それじゃ、間に合わんと捜索を諦める。 葉山は、梶野の奴が栄町で取引相手と会うらしいと言うので、橘はすぐにでも行こうと立ち上がるが、取引は明日の昼過ぎなので、今日は久しぶりに飲みましょうやと言うことになる。 そこに、難しいお話し終わった?と言いながら先ほどのホステスが近づいて来たので、大槻は、そのホステスにキスをしようと顔を近づけるが、ホステスは、あんたみたいなヤクザは大嫌い!と拒否する。 その時、顔を触った大槻は、あの女、頬にすごい傷があると橘に耳打ちする。 樫山は、網走が懐かしいわ…と言い出す。 (回想)網走刑務所で入浴し、鬼寅の背中を流してやる橘 (回想明け)翌日、市場に出かける途中、南の海の側を通る時、樫山は、氷の海が懐かしいわねと呟く。 市場には、取引相手を待っているらしい梶野の姿があった。 橘は、お前たちは顔を見られちゃまずいだろ?と言い、葉山と樫山を先に返すと、梶野の後を尾行し始める。 しかし、港に来た所で見失ってしまう。 橘はその時、外国人観光客のズボンから、財布を掏っている一郎の姿を目撃し、捕まえて物陰に連れ込むと、出せよと言って財布を出させる。 そして、掏られた外国人の所に、そこに落ちていたと言うような身振り手振りで返してやる。 無人の岸壁に一郎を連れて来た橘は、日本人の面汚しみてえなことしやがって!例えガキでも我慢できねえ!と叱りつけるが、ちぇっ!と舌打ちした一郎は、粋がって「網走番外地」の歌を歌い始める。 この野郎!と切れた橘は、一郎の身体を突き飛ばし、立て!この野郎!と喝を入れ始める。 その曲がった根性、俺が叩き直してやる!と橘はムキになるが、投げ飛ばされた一郎は、恩だけは忘れちゃいないぜ。約束破ったのは悪かった。でもパスポートを取ったのは兄貴のためを思ってやたんだよ。頼まれたんだよと言い訳しだしたので、泥棒の上に、嘘つきのおまけまでついてる!と橘はさらに逆上し、一郎を何度も突き飛ばす。 すると、徐々に一郎の様子がおかしくなり、立ち上がれなくなったので、このくらいで音をあげやがって…と言いながら、顔をさすった橘だったが、一郎の額が高熱を発していることに気づく。 驚いた橘は、ぐったりとなった一郎を抱えて、近くの医者に連れて行く。 結局、一晩入院することになり、橘は、夜通し、氷を割って氷嚢を作ってやったり看病をしてやる。 そんな中、一郎は、母ちゃん!と寝言を言っていた。 翌朝、椅子に腰掛けてうたた寝をしていた橘は、先に目覚めた一郎から、兄貴、うたた寝していたら風邪を引くぜ、代わってやろうかと声をかけられ目覚める。 すっかり一郎は良くなったらしいが、熱射病だったらしいんで、帽子をかぶってねえと倒れるぞと教え、退院することにする。 一郎が話した、橘を上陸させると大変な事になると言って、パスポートを盗むように言った背の高い男と言うのを聞いた橘は、それが南のことらしいと気づく。 俺の言うこと信用するか?と一郎に言われた橘は、昨日は俺が悪かったと謝り、夕べ、おめえ、寝言を言ってたぞ。母ちゃんって何度もなとからかう。 おめえ、母ちゃん、どこいるんだ?と聞くと、近所のおじさんが言うには沖縄にいるって言うんだと一郎が言うので、どこにいるのか分かるのか?と聞くと、場所は知らないけど目印がある。ほっぺたに大きな傷があるんだと言うではないか。 ほっぺたに大きな傷?と問い返した橘は、友達の所へ行ってみないか?と誘う。 バスに乗って、移動途中、さらに詳しく話を聞こうとすると、左頬に傷があると言った一郎は「テケテケテケ…」とエレキの真似とゴーゴーを踊りだす。 バスの終点になり、ヒッチハイクに切り替えようとした橘だったが、いくら手を上げても車は停まらない。 一郎が、兄貴、軽々しく頭下げるなよと生意気なことを言って来たので、仕方なく歩くことにする。 ようやく繁華街にたどり着き、クラブ「ショーボート」の前に来た橘は、ここでちょっと待ってろと一郎を路上に残すと、自分だけ店の中に入って行く。 外国人客の相手をしていた路子を水原さん!と呼んだ橘は、相手の反応を見て、やっぱりそうかい…と確信すると、あんたの息子来ているよ。一郎って坊主よ…と教えてやる。 一郎が?と驚いた路子に、3つの時にほっぽり出して、うちを飛び出して逃げたんだろ?と橘は、一郎から聞いた話を聞かせる。 私がここにいるの、あの子知ってるんですか?と路子が聞いて来たので、まだ話しちゃいねえと橘が答えると、亭主がヤクザでね…と逃げ出した理由を路子は打ち明ける。 会ってやるんだと橘が勧めると、一郎、会ってくれるかしら?と路子は躊躇するので、密航までしておふくろ探しに来てるのに、会うも会わねえもないじゃないかと橘は言い聞かす。 店の外に出てみた路子は、通りの反対側の歩道で遊んでいた一郎を見つける。 橘が促すと、道路を渡って一郎に近づく。 しかし、いきなり母親から話しかけられた一郎は、噓代、俺の母ちゃん、そんな化粧した女じゃない!と言ったかと思うとその場を逃げ出す。 近づいて来た橘は、事情を聞くと、あの子の夢を壊してしまったの…と悔んでいる路子に、どんな事情があるか知らんが、生みっぱなしにしたんだろ?走って行って抱いてやるんだよ。例え、どんな親だろうと、心の中で親を欲しがらない訳ないだろう。もたもたしてないで行ってやれよ!と橘は言い聞かす。 意を決した路子は、一郎の後を追いかけては知り始める。 やがて、路子が転んだのに気づいた一郎が立ち止まり、路子の方を心配そうに見つける。 一郎!悪い母ちゃんでご免ね。恨んでいるだろうね?思いっきり母ちゃんを叱っておくれ。思いっきり母ちゃんのことをぶっておくれ。もう母ちゃん、こんな化粧とって、誰の前に出ても恥ずかしくない母ちゃんになるよと訴えると、近づいて来た一郎は、痛かったかい?と言いながら、路子の足を気遣う。 次の瞬間、母子は抱き合い、一郎!母ちゃん!と言いながら泣き始める。 そんな親子の対面を、少し離れた所からじっと見つめる橘だった。 その頃、爬竜船(はりゅうせん)競漕、通称ハーリー会場の浜辺で、金のなる木を掴んじゃったからな等と自慢する佐竹からプレゼントをもらって喜んでいた夏子は、そんなあくどいことやってるの?と聞く。 豪田のことで良い情報をつかんだのよ。宜保建設のブツを隠した場所が分かったんだけど、売りつける先は豪田以上の悪党じゃねえと…と考え込むと佐竹に、宜保建設に売り込むのよと夏子が言い出す。 その時、2人は、豪田組の連中に囲まれたことに気づく。 会場なら連れて行かれる2人に気づいたのは、組員と一緒に群衆の中にいた葉山と樫山だった。 関森が、ずっと泳がせておいた佐竹を見つけた梶野らは、佐竹、夏子を始末するため、組員たちと共に船で無人島へ連れて行こうとする。 その時、樫山は、急に下痢を起こしたと言い出し、波止場の陰に隠れたので、梶野は葉山に、てめえがあんまり可愛がり過ぎるからじゃないのか?などとからかい、樫山を置いて船に乗り込んで行く。 樫山は、仲間たちの姿が消えると、すぐに橘に連絡を取りに行く。 無人島に着いた関森は、てめえが、仕事を嗅いでいるってことは承知している。眠ってもらうまでだと島に上陸して言い出したので、殺されると悟った佐竹は逃げ出そうとするが、すぐに捕まり、子分たちが作った首吊り用の綱に無理矢理首を入れられる。 佐竹は首吊り状態になりもがき苦しむが、関森は、不良船員と不良娘の心中って所だと笑っていた。 そんな佐竹を助けようと、葉山が前に出ようとした時、待て!何の真似ですか?と丁寧な口調と、持っていた釣り竿の糸を使って邪魔して来たのは、法被を着た1人の老人だった。 老人は、鬼寅(嵐寛寿郎)だった。 鬼寅は、助けた佐竹と夏子に、俺の子舟がそこにあるんでそれに乗って逃げろ!と勧める。 関森は梶野に、拳銃を持って来いと命じる。 佐竹と夏子は、関森たちのクルーザーに乗り込む。 そんな鬼寅に、ナイフで突きかかって行って組み付いた芝居をした葉山は、鬼寅さん!と耳打ちし、鬼寅の方も顔なじみの葉山と気づく。 鬼寅は、子分たちと戦いながら、浜辺に係留してあった関森たちのクルーザーに乗り込み、後から追って来た組員たちを櫂で殴りつけて行く。 関森は、梶野にも追うように命じるが、梶野は泳げねえと吐露する。 すると、葉山が、俺に任せとけと言うと、クルーザーに向かう。 そんな騒ぎの中、クルーザーの操縦席で寝ていた南が、うるさくて眠れやしないとぼやきながら起きて来る。 それに浜から気づいた関森は、オ~イ!その船、こっちに回してくれ!と叫ぶが、南は、この前はお世話になったな。無人島に置き去りと行くかと答えると、船室に戻ろうとする。 関森は発砲し、南は背中を撃たれて倒れる。 それに気づいた鬼寅が、おい、若いの、しっかりしな。大した傷じゃねえと言い、操縦室に運び込み寝かせる。 どうすりゃ良い?と聞く鬼寅に、南が簡単に操縦の仕方を教える。 鬼寅は、それに従いクルーザーを動かす。 何か言い残す来ないか?と鬼寅が聞いたので、じゃあ、遺言ってことか…と自らの死を覚悟した南だったが、万一ってことがあるから、気にするんじゃねえよと言う鬼寅に、天涯孤独なんで特に言い残すこともないのだが…と呟いた南は、そうだ!もし会えたら、竜神一家の橘ってのがいると言い出す。 橘真一のことか?と鬼寅が驚くと、知ってなさるのか?と南の方も驚いたので、一緒に臭い飯を食った仲だと鬼寅は教える。 あいつは良い男ですよ。俺の良い芝居を見せたかったが、ダメだった…と伝言を頼む。 鬼寅が名乗ると、あんたが、鬼寅さんですか!南ってケチな男です。鬼寅さんに看取ってあの世に行けるなんて、私は幸せだ…と呟いて南は息を引き取る。 鬼寅は、そんな南野以外に、自分が着ていた法被を着せてやるのだった。 その後、何とか、クラブ「ショーボート」に戻って来た関森に、奴はたれ込みますぜ。ふいに飛び込んで来たジジイです。本土から来た赤いシャツの男もいなくなっている、どうも様子がおかしかったぜと梶野が告げる。 樫山からの連絡を受け、港に来ていた橘と大槻は、近づいて来クルーザーに乗っているのが鬼寅だと気づく。 鬼寅は、そんな3人に、笑顔で手を振って答える。 南の死を知った橘は、あんたの良い芝居見せてもらえなくて残念だった。ケリは俺が付けてやる!と南の死体に約束する。 奴ら、身替わりを差し出しますぜと大槻が言うので、サツに任せられない。ケリは俺が付けるとと繰り返した橘は、親爺さん、尾根を拾ってくださいと鬼寅に頼む。 及ばずながら、後見させてもらいやすぜと鬼寅も承知する。 赤い夕日を背に受けて~♪歌の文句通りに、繁華街に向かう橘。 クラブ「ショーボート」にやって来た橘は、上着に来るんで持って来た日本刀を抜くと、豪田組の連中を叩き斬り始める。 やがて、店の外に出て戦い始めたので、近所中の店のホステスたちが、何事かと様子を見に出て来る。 そこに、中国風のマオカラースーツを身につけた鬼寅と、大槻や樫山、葉山たちも集結して来る。 7人殺しの鬼寅だ!竜神組の殺しの証人を見つけるため、仲間に入っていた!と口上を述べる。 勝手に跡目になって、俺に破門状送りやがって…と橘は、関森に迫って行く。 関森は、違うんだ!資材は島に閉まってある。今証拠を見せると言うと、側にいた豪田に斬りつける。 そんな関森斬り付け、とどめを刺そうとした橘だったが、待ちな!こんなゴミクズみてえな奴斬ってムショに行ってもしようがないと鬼寅が制する。 見物人の中に混じってこの喧嘩騒ぎを観ていた路子は、斬られて倒れていた豪田に、あんた!と言って駆け寄ると、驚いた豪田に、もっと驚くことがあるのよ。一郎がいるのよ。あたしを騙して散々食い散らし、あげくの果てに、子供が出来ると捨てた一郎がね…と教える。 私も捨てられた…。あの子もヤクザ予備軍よと言うと、路子は一郎を呼び寄せる。 一郎が姿を見せると、この人、死んだお父ちゃんの友達で、いくら意見してもヤクザから足を洗えなかった人と教える。 我が子の成長した姿を間近に観た豪田は、親孝行するんだぞ…と言い残し息を引き取る。 その様子を見守る橘。 母ちゃんと言って、路子にすがりつく一郎。 雨の港 連絡船に乗り込んだ橘を見送る鬼寅、大槻、葉山、樫山、そして、普通の母親の姿に戻った路子と一郎。 大槻は、兄貴~!元気でな~!と呼び掛け、一郎も、お兄~ち~ゃ~ん!と呼びかける。 まじめにやれよ~!と甲板上から呼びかける橘。 船が動き出すと、一郎は雨の中、お兄~ち~ゃ~ん!と呼びながら走り続け、立ち止まって泣き出す。 甲板からじっと港を見る橘。 埠頭に佇む一郎の姿 完 |
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