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網走番外地 吹雪の斗争

シリーズ第10弾だが、今回はがらりと趣向が変わり、戦後間もない時代を背景にした冒険ロマン風仕立てになっている。

安藤昇、石橋蓮司、梅宮辰夫、菅原文太らが参加しているが、安藤昇が健さんのライバル的存在として重要な役を演じているのに対し、菅原文太は、冒頭、ちらり登場するちょい役風の扱いになっているのがまず興味を惹く。

新東宝が潰れた後、会社を離れた菅原文太は、一時期、安藤昇の事務所に所属していたらしく、その時代を知る人によると、安藤昇の舎弟のようになっていたらしい。

つまり、この作品では、安藤昇について来る形で、菅原文太は東映作品に参加したのではないかと言う気がするのだ。

その後、文太さんの方も、東映の一翼を担うスターになる訳だが、この時期はまだ芽が出ていなかったのかもしれない。

今は大ベテランの石橋蓮司も若い。

前半が、刑務所内での出来事中心で、脱獄してからの後半はがらりと雰囲気が変わり、あたかも西部劇のような印象になっている。

健さんは、ガンベルトを下げ、銃を撃つガンマンスタイル。

特に、クライマックスの追跡劇は、失踪する馬たちのシーンや走る馬からの落馬シーン等も多く、まるで西部劇そのものである。

主人公の橘真一の、今回の設定が今ひとつ良く分からず、憲兵を斬り殺すシーンでは、良家の坊ちゃん風の衣装を着ているし、その後は軍服のような服を着ている。

劇中で用心棒に言っている通り、服役する前は、陸軍大尉だったと言うことなのだろうか?

それにしては、辰兄いらと話す口調は、どう聞いても下っ端のチンピラである。

13年間ムショにいたということらしいので、その間にすっかり、品性が卑しくなってしまったと言うことか?

雪子に話しているときは丁寧語を使っているので、両方の態度を使い分けられると言うことなのだろう。

ヤクザ映画自体、あまり観ていないので、安藤昇自体、観た記憶がほとんどないが、この作品を観た感じ、特に芝居が巧いとか下手と言う感じはしない。

演技的には、他の役者たちとそう変わらないように消える。

と言っても、周囲にいるのが、新人時代の谷隼人や梅宮辰夫では、芝居が達者も何もないと思うが…

その梅宮辰夫、今回は、従来の吉田輝男が演じていたキャラクターを受け継いだような、明るい性格を活かしたユーモア担当を受け持っているが、まだイケメン時代の面影が残っているので、強面タイプの役は無理だったのだろう。

強面タイプの役は、前半は青鬼こと関山耕司やデカ虎こと戸上城太郎、後半は、赤熊こと山本麟一が憎々し気に演じている。

時代劇仕立てになっている分、石井監督も思い切り自由に遊んでいるようで、今回も又、気楽に楽しめる娯楽作品に仕上がっている。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1967年、東映、伊藤一原案、石井輝男脚本+監督作品。

吹雪背景にタイトル

編み笠の顔隠しをかぶせられ、巡査(桐島好夫)に手を縛られた紐の先を引かれ、雪の中を歩かされていた橘真一(高倉健)が、編み笠をちょっと上げて前を観ると、そこには網走刑務所の門が待っていた。

敗戦直後 網走

新入りの42番だ。仲良くやれよと看守が言い、橘を雑居房に入れて立ち去る。

42番です、よろしくと挨拶をした橘に、ケツを出せを言って来たのは、イタチのマサだった。

ここでは、新入りのケツを叩くのがしきたりよと言うので、おとなしく尻を向けた橘に、近くで観ていた蝮(菅原文太)が手加減するなよ、ばっちりやれよと声をかける。

マサが板を振り抜いたとたん、橘が尻を避けたので、板は、座っていた蝮の額を直撃し、蝮は流血する。

怒った蝮は、ここにいるのを誰だと思ってる!この辺じゃにらみのきいた、牢名主のデカ虎(戸上城太郎)様だ!と言って脅して来る。

そのデカ寅が、最近ここも満員になって来たから、病人に出てもらおうと思っていると言い出したので、橘はきょとんとし、奥でさっきから咳をしていた吉(石橋蓮司)が、俺は直りかけだ!大丈夫だと弁解し、急に怯えだす。

手足を伸ばして寝たければ、病人の1人や2人いないと…、心配するな、後から、すぐにこの新入りも逝くから…などと言いながら、ヤスや蝮たちは、吉の身体を床に押さえつけると、紙に水を湿らせたものを、吉の鼻と口の辺りに置いて行く。

一晩中ごほごほやりやがって、寝られやしねえ。これで、傷一つ付かずに天国行きだ…と蝮は言い、後2枚ほどいりますぜとデカ寅に頭を下げる。

デカ寅は、安くないんだぜ等とぼやきながら、落とし紙を2枚手渡してやる。

それを受け取った蝮は、又、その紙を水に浸して、楽にしてやるぜと言いながら、他の囚人たちが押さえつけていた吉の顔の上に乗せて行く。

その時、突然、邪魔して来た橘に気づいた蝮は、この新入りの方から先に始末させてもらいますぜとデカ寅に挨拶をする。

橘は、命はやってやるが、道連れを1人連れて行くぜと言いながら、かかって来た囚人の首をひねって眠らせる。

それを観ていたデカ寅は、怒ったらしく、橘に殴りつけて来ると、橘の身体を持ち上げ、お情けで、念仏を唱える間だけ待ってやると笑う。

体全体を持ち上げられていた橘は、南無阿弥陀仏…と言い、次の瞬間、壁に投げつけられるが、すぐに立ち上がり、デカ寅の背後に回り込むと、首を締め付け始める。

他の囚人たちがかかって来ようとするが、名主さんはあの世行きだぞと腕に力を込める橘。

すると、蝮が、デカ寅を見限ったようなことを言いだしたので、お前さん見放されたぜ。念仏言うまで待ってやるぜと橘はデカ寅の耳元に囁く。

デカ寅は、かかって来ようと近づいていた囚人たちをなだめると、お見それしてすまなかったと謝り、自分は刑期20年を食らっているデカ寅だと名乗る。

次いで、前科8犯で刑期10年の蝮が名乗り、前科13犯で刑期8年食らっていると言うイタチのマサが長々と挨拶するが、態度がでかいんだ!貴様!と橘は叱り飛ばす。

そして、ぐったりしていた吉に手を貸し、奥へ連れて行ってやった橘は、感激して泣き出した吉をいたわってやり、布団を持って来させると、今日から俺たち、ここに寝るけど、文句のある奴は、今のうちに言ってくれよと言い渡し、誰も何も言い出さないのを見届けると、さっさと吉と2人で蒲団に入る。

そんな橘に、しきたりってほどじゃありませんが、罪名刑期をお聞かせ願えませんか?とデカ寅が頼むと、国家機密漏洩、殺人で無期懲役、42番…、つまり死に番よと橘は教える。

外での伐採作業に出かけることになった橘たちだったが、途中で吉が咳き込んで倒れていたので、橘が助け起こしながら、看守を呼んでやるからと励ますが、気をつけてください、青鬼がいますよと吉は警告する。

青鬼と言うのは、粗暴な看守(関山耕司)の事だった。

橘と吉が自分のことを話していることに気づいた青鬼が近づいて、良くも青鬼なんて言いやがったなと橘に因縁をつけて来るが、俺が、看守さんのような良い男のことを青鬼なんて言う訳がないじゃないですか。こいつの顔色が青いって言ってただけですよ。いやあ、男から観ても良い男ですよなどと橘が歯の浮くような世辞を言うので、すっかり青鬼は上機嫌になる。

伐採作業が始まると、テント内で休んでいた青鬼の所に、マキを運んで来たデカ寅と蝮が、42番の奴、先生のことを青鬼だとか何とかぼろくそ言ってますよと噓を告げ口する。

あいつ…、焼き入れとくとするかと青鬼が考え込むと、蝮が、例の奴で始末したらどうでしょう?と入れ知恵をする。

その提案を面白がった青鬼は、吉と橘が切っていた気の側に来ると、この木の上まで登って揺するんだ。その方が能率が良いんだよと命じる。

いくら能率的でも命がけじゃないですか!と橘は抗議し、吉は、木登りだけは勘弁してくださいと怯える。

しかし、聞きそうにもないと悟った橘は、やっぱり青鬼だな、登ってやるよ。ただし、俺1人でたくさんだと言うと、自分だけ木に登り始める。

てっぺん付近まで登った橘は、下で愉快そうに見上げていた青鬼、デカ寅、蝮の3人に、もたもたしてるとつぶされるぞ!と叫びながら、木を揺さぶりだす。

その時、近くにいた他の囚人たちが、青鬼ら3人の背後にそっと丸太を置いて逃げる。

やがて、橘が揺すった木が3人の方に傾いて来たので、慌てて後ずさろうとした青鬼たちは、丸太に躓き、転んでしまい、その上に大木が落ちかかって来る。

橘は、何とか雪の上に飛び降りて無事だったが、橘、蝮、デカ寅の3人は瀕死の重傷を負ってしまう。

雑居房に戻って来た囚人たちは、罰として懲罰房に入ることになった橘のことを思い出し、あいつ、気っ風のいい奴だったなと懐かしむのだった。

第二懲罰房に橘を入れた看守(沢彰謙)は、前にここに入った前科13犯の奴は、独房に入れられて3日目で、涙をポロポロ流し、その後10日したら、首をくくったよと脅して来たので、何言ってやがる!と粋がった橘だったが、看守が出て行くと、中は棺桶のように真っ暗で、耐えきれなくなった橘は、畜生!殺せよ!とわめき続ける。

その内、聞こえる!あの変な音が聞こえる、否、そんなはずはない。俺はどうかしてるんだ!と自問自答始めるが、その時、床板の一部が盛り上げり、下から見知らぬ外国人のような髭だらけの男が顔をのぞかせる。

何だあんたは?と橘が聞くと、私、もうダメ…、計算狂いましたとたどたどしい日本語で言って来るが、外から人が来た気配がしたので、誰か来たぜ、話は後だと言って、外国人を逃がす。

入って来たのは、左手が利かなくなったらしき青鬼で、もう囚人いびりも出来なくなったようだなと橘が苦笑すると、貴様ももう永久に雑居房には入れないぞ!と言いながら、持って来た食事を床にぶちまけて、せっかく持って来てやった飯を食う食わないはてめえの勝手だ。嫌でももういっぺん会うだろうな。ただし、この次会うときは、てめえは口聞けなくなっているだろうがな…と嘲りながら、看守と青鬼は出て行く。

その後、しばらく1人で孤独に耐えていた橘だったが、ああ、話がしてえ…、あの男一体どうなったんだろう?と先ほどの外国人を思い出すと、床板を上げ、その下に出来ていた穴を通って、別の独居房に入り込む。

そこには、先ほどの外国人がベッドに寝ており、良く来てくれましたと喜ぶ。

どっか悪いのか?とベッドに近づくと、どこも全部…、あなた若い、私もうダメ…、13年掘り続けました。私、もうじき死ぬでしょう。あなた、私の棺桶に入って逃げなさい。ここでは、棺桶は夜遅くに出します。それしきたり、私知ってますと言う。

俺に出来ること、何でも言ってくれよと橘が勇気づけると、あなた良い人。日本人全部悪い人、思ってた…と外国人が言うので、何か訳がありそうだな?と聞くと、私、何の罪で捕まったか分からない。ある日、仕事で樺太行きました…と話しかけた時、外国人の懐から音楽が鳴りだす。

外国人は、時刻になると音楽が鳴る懐中時計を取り出し、看守が食事を持ってきます。次はこれが鳴りだした時、来てください。誰もいませんと教え、自分が持っていた時計を橘に手渡す。

橘は、又来るからな、元気出せよと言葉をかけ、又穴を通って、自分の懲罰房へと戻る。

そして、無実の罪か…、樺太で…と今聞いたばかりの話を思い出していたが、樺太?と何かを思いついたような顔になる。

その時、もらった懐中時計がメロディーを奏で始めたので、橘は、穴を通って、外国人の部屋へと向かう。

その頃、外国人は死亡し、棺桶に入れられていた。

橘が部屋にたどり着いた時には、棺桶だけが取り残されていた。

蓋を開け、中に横たえられていた外国人の顔を覗き込んだ橘は、無実と言っていたな…、死んでも死に切れないだろう。

あなた大丈夫です。逃げられます、棺桶には言って逃げなさい…と言っていた外国人の言葉が蘇った橘は、脱獄するにはそれしかねえと決意する。

その夜遅く、看守は、吉ともう1人の囚人に棺桶を引かせ、刑務所から出て行く。

途中、もう1人の囚人は看守にべんちゃらを言い、棺桶の運搬を吉に押し付けると、自分たちは先に帰って酒を飲もうと相談する。

看守は吉に、1人で始末して来いと言い出し、どうやるのか聞くと、崖からオホーツク海にほっぽり出すのよと教える。

仕方なく、吉は1人で棺桶を引っ張って崖に向かうが、中に入っていた橘は、どうしよう…と考え、開けてくれよ〜!助けてくれ〜!と棺桶の中から蓋を叩いて知らせようとするが、吹雪の音にかき消されて、引っ張っている吉の耳には届かない。

やがて、崖に到達した吉は、棺桶を落とし、棺桶はオホーツク海に沈んで行く。

地獄の底まで沈みやがった…、そう吉は、側に座り込んでいた橘に話しかける。

もう大丈夫ですよ、42番さん、しかし、ビックリしましたよ、突然、棺桶の中からあんたが飛び出して来たときは…と笑顔で話す吉だったが、まだ咳をしていたので、おめえ、身体弱いんだから、用心するんだなと橘はいたわる。

青鬼も寅も、ああなってしまったんで大助かりですよと感謝した吉は、持っていた金を橘に渡そうとする。

橘は受け取ろうとしなかったが、零下30度の中を逃げるんだ。必要になりますよと吉が言ってくれたので、ありがたく受け取ることにする。

その後、橘は馬に乗って、北の果てノシャップまでやって来る。

「黒熊酒場」の横を走りすぎようとしていた橘は、突然、何者かが放った投げ縄に身体を取られ、落馬してしまう。

何するんだこの野郎!と投げ縄を投げた男に詰め寄ると、馬が可哀想だからな。これじゃあ、オシャカになってまうじゃねえか。あんなに急いでるのは、脱走犯か追いはぎ、そんな所だよ…。痛くない腹を探られねえようにしろよってことだよと、橘の腹を触りながら笑いかけて来たのは、牧(梅宮辰夫)だった。

仕方なく酒場に入った橘は、店内がうるさいので、バクダンをホステスからもらって飲みながら、何なんだい、あいつら?と聞くと、極東貿易の用心棒たちだと言う。

それでも、うるさいのが嫌いな橘はすぐに店を出ようとするが、懐に手を入れて、金がなくなっていることに気づく。

さっきの牧が、腹を探っている時すったに違いなかった。

その牧は、既に馬に乗って出発していたが、橘から掏った金が、たった1円しかないことに気づき、がっかりしていた。

まごついていた橘の様子に気づいた用心棒の1人が近づいて来て、消防団がこんな所に何のようなんだ?と橘が着ていたコートについた記章を観ながら因縁をつけて来る。

これを知らないのか?と呆れた橘は、陸軍大尉だよ!と教えて、殴りつける。

店内は騒然となるが、その時、1本のナイフが飛んで来て柱に突き刺さったので、いきなり飛び道具とは卑怯だぜと、用心棒の1人が、とある客席を睨みつけると、立ち上がって来た男は、持っていたナイフをひらめかせ、2人の用心棒の服を斬り裂いてみせると、この男の勘定だと金を置いて店を出て行く。

その直後、橘は腰に下げていた拳銃を撃って、落ちていた木材を天井まで跳ね上げてみせる。

木材は、1人の用心棒(八名信夫)の頭に落下して来る。

そして、天井から綱で下がっていたとっくりのヒモを撃ち落とし、傾いたとっくりから流れ出た酒を、テーブルの枡で受け止めた橘は、一口口にし、安もんばかり飲んでやがるな、こいつら…と言い残して店を出る。

店の前で、馬に乗りかけていた先ほどの男に、おめえさんには借りが出来ちまったなと話しかけると、ここら辺は荒っぽいんだ。あんまり粋がらない方が言いぜと男は言う。

こっちは迷惑してるんだ。あんな連中、1人で片付けられたのに…と橘が不愉快そうに言うと、じゃあ、勘定はどうする?と男は言うので、あんなはした金が惜しいのかい?と橘がからかうと、じゃあ、そのはした金を、今耳をそろえて返せるかい?一銭を笑い者は一銭に泣く…、昔の人は良いことを言ってるぜと言い残し立ち去って行く。

取り残された橘は、何だあの野郎、難しいこと言いやがって…とぼやくが、その時、懐に入れていた懐中時計に気づくと、馬で後を追って行く。

そして、男にその時計を投げ与えると、さっきのカタに、そいつを預けとくぜ。売りゃ、捨て値でも、倉付きの家買って、お釣りが来るってもんだと粋がった橘は、さっきの貸しを返すときのために、住まいを教えといてくれと頼む。

男は、網走番外地点と言いたい所だが、住所不定だ。この辺の賭場で、人斬り轟(安藤昇)と聞いてくれ。たいてい分かるはずだ、俺は太く短く生きるのが主義だと言い残し差って行くので、そう言うのが粋がっているって言うんだよ、バカ!と橘は吐き捨てる。

その頃、アイヌで弓の名人の若者タニー(谷隼人)と赤熊(山本麟一)は、極東貿易社長の家にやって来た牧に、人斬り轟ってのがお前を追っているのか?と聞き、それらしき男が馬で近づいて来たので、タニーに矢を射たせる。

しかし、轟は飛んで来た矢をドスで斬ると、平然と近づいて来て、馬から下りるとタニーを殴りつけて来る。

そして、タニー、赤熊、牧の3人に、手を引いてもらうと威嚇するが、俺たちもダイヤの話を聞いて来たんだと穴熊が睨み返して来たので、眠らせてやるよ、3人ともな…と答えた轟だったが、ダイヤを処分したら、半分は俺だ。後の半分はお前たちで好きにしても良いと言い出す。

そして、後は社長夫人の部屋は調べるだけと言う赤熊に、1人で行かせろ。後はユニでも浸かって待つことにしようと轟は提案する。

その屋敷にやって来て二階に上がって来た橘は、社長夫人の部屋に侵入しかけていた牧と出くわす。

牧の方も、おっ!と驚いたので、てめえ、スリばかりか、こそ泥もやるのか?と橘は嫌味を言う。

牧の方も、てめえをこそこそ入って来たじゃないかと言い返すと、俺がこそこそ入って来たのは、怪我させちゃいけない奴を気遣ってのことだ。ふけろよ、早く!と橘は言い、2人がもみ合っていると、廊下に飾ってあった仏像が大きな音を立てて、廊下に転がり落ちる。

慌てた牧は、窓からロープ伝いに逃げ出し、一緒に逃げようとした橘には、おめえと一緒だとヒモが切れる!と言い、下に降りるとさっさとロープを回収してしまう。

橘は、人の気配を感じ、扉の横に立つと、社長婦人の部屋の戸が開き、外の様子を見た社長夫人雪子(宮園純子)が、明日主人が帰るまで、騒ぎ立てないようにねと、何事かと集まって来た使用人たちに言いつけ、戸を閉めようとした時、靴を戸の隙間に差し込み、橘は、その姿を現す。

雪子は、突然、目の前に現れた橘の姿を観て驚愕したようだった。

(回想)森の中に笑いながら駆け込んだ雪子に、嬉しそうに追いかけて行った橘は、雪子の手を取り手袋を外すと、良いもの上げるよと言いながら、その薬指に指輪をはめてやる。

ありがとうと答えた雪子と橘は、かつて結婚を誓い合った恋人だったのだ。

(回想明け)もう、お会いできないと思っていましたと雪子が言うと、13年、長かったよと橘が答える。

あなたは生きていらっしゃらないって聞いてたんですと雪子が言うので、誰に聞いたんです?と橘が聞くと、主人や、皆さんそうおっしゃってましたと言う。

で、結婚したって訳だ…、極東貿易に分に過ぎた奥さんがいると聞いていたが、あんたのことだったのか。昔の橘って男は消えてしまった…と寂し気に橘は打ち明ける。

雪子は橘にすがりつこうと近づくが、人妻はご主人に誤解されるようなことがあっちゃいけませんよ。近いうちに又来ます。ちゃんとした頼み方でねと言い残し、橘は去って行く。

馬を走らせていた橘は、乗っていた馬を乗りつぶしてしまったらしく、途中で馬から下りていた牧を見つけて停まる。

北海道と言う温泉宿があるんだと、牧が橘に話しかけて来たので、財布を返せと言うと、たった1円しか入ってないくせに、おめえ、とっぽいなと牧は呆れ、橘は、おめえ、仲間はいるのか?と聞く。

すると牧は、ああ、お前と組めば…と言い出したので、ばかやろう!2人より1人の方が儲けは大きいぜと橘は、拒否する。

すると、牧が、ガンベルトから銃を抜こうとしたので、先に銃を向けた橘は、冗談だよと笑う牧に、ベルト外せよ、俺は冗談が嫌いなんだと命じる。

牧は、俺は冗談が好きなんだがな〜とぼやきながら、ガンベルトを外し、橘に渡すと、馬の上から、橘は、倒れていた馬に向けて発砲し、殺してしまう。

なんてことするんだ!手当てして、農耕馬にでも売れば金になったのに!と牧は怒るが、俺はこれ以上、苦しめさせたくなかったんだと言い残し、自分は馬を走らせ去って行く。

取り残された牧だったが、あの野郎、良い格好しやがって…、しびれた!と感心する。

温泉宿の部屋で、橘から預かった懐中時計のメロディーを聴いていた轟だったが、別室でそれに気づいた穴熊は、あの時計は、南海の秘蔵の品だ。奴は回し者かも…と言い出し、タニーに、やれ!と命じる。

タニーは、廊下越しに、轟のシルエットが写っていた障子目がけて矢を放つが、次の瞬間、当たったと思った轟が障子を開け、まだ懲りねえのか!と睨みながら、穴熊たちの部屋にやって来る。

俺を南海の回し者と思ったのか?と睨む轟に、穴熊は慌てて、あんたが持っている時計は南海が自慢している有名な時計なんだと弁解する。

一方、宿の温泉に浸かっていた橘は、何故もう少し待ってくれなかったんだ…と雪子のことを思い出していたが、そこに、笑顔の牧が裸で入って来る。

橘と牧が、温泉の中でもめていると、うるせえぞ!お2人さん、静かにしてくれよと言いながら入って来たのは轟だった。

時計を取り返しに来たのか?と轟が橘に聞くと、手を引いてもらうよと橘が命じて来たので、そう出られると、こっちも引きたくなくなると轟は反論し、湯船の中に立ち上がった2人はじっとにらみ合いを続ける。

その真ん中で、湯に浸かっていた牧は、両者の股間を見比べると、自分の股間を覗き込み、良い勝負だと妙な感心をする。

外に出た橘は、轟と決闘することになり、素手で行こうと提案する。

昼間、助けてやったのに…と轟が苦笑すると、助けてやった?また、頭、もつれて来たよと答えた橘は、近くに落ちていた木材を放り投げ、銃をぶっ放して弾き飛ばす。

すると、轟の方も、ナイフを次々に空中の木材に命中させて行く。

それを、トウモロコシをかじりながら見物していた牧は、かっこいい!と感心する。

そんな2人の勝負を、建物の陰から観ていた赤熊は、今なら消せる!とタニーをけしかけていた。

また、やられたらどうする?とタニーは臆病風を吹かせるが、奴に分け前の半分を取られていいのか!と赤熊は喝を入れる。

しかし、タニーが言うことを聞かないと観た赤熊は、自ら猟銃を轟の背中に向ける。

その時、戦っていた橘は、地面に置いていたガンベルトから銃を引き抜くと、発砲する。

轟は自分を撃ったかと思い立ちすくむが、すぐに、背後に隠れていた赤熊の猟銃を弾き飛ばしたのだと知る。

出て来いよ!と赤熊らに呼びかけた橘は、結構な仲間だなと轟に言うと、これで貸し借りなしだぜと告げ、赤熊を殴りつけ、立ち去ろうとしたので、轟は懐中時計を投げて返す。

轟は赤熊に対し、おめえは熊じゃなくて狐だな。たっぱり礼をさせてもらうぜ、仕事が済んだらなと言うと、その場で赤熊の股間を蹴り上げる。

ある日、極東貿易社長南海の屋敷の庭先では、用心棒たちが大きな肉を焼いていた。

屋敷の中は招待客で溢れ、極東貿易創立記念の挨拶を南海が始めるが、あまり挨拶は得意ではないようで、途中で壁に飾ってあった銃を取り出すと、屋敷の中に立てられた蝋燭等を次々と撃ち落として行き、挨拶に代える。

そんな屋敷に近づいた赤熊やタニーらは、窓から中を覗き込み、雪子の胸を飾っている十字形のダイヤのネックレスを確認していた。

南海は雪子に、今では村長も役場もわしに一目も二目も置いている。その内中央に打って出て、お前を名流婦人にするぞと約束し、金さえあれば何でも出来ると豪語するが、何故か雪子の顔色が悪いので、どうしたんだと尋ねる。

雪子は、ただ、怖いんです。自分だけ幸せになって良いのかと…と言い訳するが、その時、軍服姿の橘が入って来て2人に近づく。

そして、雪子を観た橘は、奥さん、お約束通り、又現れましたよと挨拶すると、南海に対しては、奥様良くご存知のものです。あなたも私のことご存知のはずです。ゆっくり思い出して頂きましょうか?と謎めいたことを言うと、持って来た懐中時計を差し出して見せる。

(回想)憲兵隊が、橘の父橘兵衛(相馬剛三)を拷問しているのを、戸の向うからこっそり覗き込む南海。

橘兵衛はロシア人マルコフと共謀し、日本軍の機密をロ軍に通報、長男真一も加担していたとの疑いがかけられていたのだった。

その後、憲兵たちの部屋にやって来た真一は、その場に置いてあった日本刀を抜くと、良くもお父さんを!と叫びながら、父親を拷問した憲兵(久保比佐志)に斬りつける。

斬られた憲兵は、俺じゃない!南海が訴えたんだ!と血まみれになりながら弁解し、真一はその場を逃げ出す。

南海は、拷問に耐えかね自ら首を吊った兵衛の身体から、懐中時計を盗み出していた。

(回想明け)思い出して頂きましたか?と慇懃無礼な態度で橘が南海に話しかけると、出張先の樺太で、土産にこの時計を買って帰るほど親密な関係だった、マルコフ紹介のマルコフと父は殺された!と言う橘の言葉が他の客に聞こえるのを恐れた南海は、人気のない所に招く。

父は拷問に耐えかね自ら首を吊り、俺は脱獄と殺人を犯した。親父をリンチした憲兵を斬ってやったんだ。

零下30度の中で、マルコフさんも死んだぜ…と橘が教えると、わしゃ知らん!憲兵たちが悪いんだ!と南海は言い訳をする。

満州事変が起きたときだったから時代が悪かったんだと言う南海に、会社乗っ取りを企んでいたお前には、おあつらえ向きの時期だったんじゃねえのか?と責める橘。

2人が話し合っている中、タニーや赤熊たちは、雪子を窓から襲撃し、さらって行っていた。

死んでもらうぜ!と言い、銃を橘が向けると、南海は卑怯にも、近くにいた芸者を立てにして逃げようとする。

そんな南海の側頭部に銃を突きつけ、旦那、静かになさってくださいと命じたのは轟だった。

その時、奥様が大変だ〜!と騒ぎが起き、庭にいた用心棒たちが、雪子をさらって逃げ出した牧や赤熊やタニーたちを、馬で追いかける。

一緒に馬で逃げていた牧は、道に置いた木材に発砲し、火をつけて道を遮断しようとする。

橘と轟も、馬で後を追うと、二手に分かれよう!納沙布岬だ!と仲間たちに呼びかける。

峠を走る橘たちとそれを追う用心棒たちの馬。

橘は、誘拐され、気絶したまま馬に乗せられている雪子を思い、女は放してやれよ〜!と呼びかけるが、轟たちが聞かないので、見損なったよ、女を盾にするとはと言いながら、後を付けて行く。

馬で追って来た南海が発砲し、轟が落馬するが、すぐに橘が自分の馬に引き上げてやる。

泣きっ面させると黙っちゃいられない性分なんだと、礼を言った轟に答える橘。

用心棒たちが背後から発砲して来たので、馬を走らせながら、橘も応戦する。

あらかじめ、タニーは矢を放ち、牧はダイナマイトを次々に背後に投げて行く。

そのダイナマイトを、熊たちが崖の上からライフルで撃って爆発を起こす。

次々と、道に落としたダイナマイトが爆発して行く。

追手がひるんだ隙に、牧は、雪子を馬に乗せ、再び逃げ出す。

一方、もっと矢を射てとタニーを呼び寄せた赤熊は、崖の側にやって来て下を向いて矢を射ようとしたタニーを、いきなり蹴落とす。

タニーは、崖の途中で引っかかり、シャモはいつもいつも…と、騙されたことを悔しがる。

雪子を乗せたマサの馬と、轟を後ろに乗せた橘の馬に追いついて来た赤熊は、タニーがやられたぞ〜と叫ぶ。

それを聞いた橘は、引き返すことにする。

やがて牧は、乗りつぶしたらしい。ゆっくり休ませようと言い、馬を止めると、雪子を雪原に降ろす。

その雪子に近づいて来た赤熊は、女はババアになるが、ダイヤは年取らないとつぶやき、もう1人消せ、お前は鞭が効かないからなと呟くと、いきなり牧を撃つ。

そこに、どうしたんだと言いながら橘と轟が戻って来たので、赤熊は銃を、気がついた雪子に押し付けながら、余計なことは言うなよと口止めをする。

赤熊は、こいつが独り占めしようとしたんで始末したと言い訳するが、雪子が、噓です。この人こそ裏切ったんですと証言する。

それを聞いた轟は、俺はこの落としまえを付けると言いながら、倒れた牧に近づく。

橘は、銃を向けて来た赤熊を撃ち、銃を弾き飛ばす。

牧を抱え起こした轟は、虫の息の牧にドスを握らせ立たせる。

そして、牧を支えながら、赤熊の方に近づいて行く。

赤熊は、頼む!止めてくれ!と命乞いしながら後ずさりするが、とうとう、牧の持ったドスに刺されて絶命する。

牧!しっかりしろ!と呼びかけた橘は、どうだ?少しは気が晴れたか?と聞く。

大分な…と答え牧は、気に入ってたんだぜ、おめえって男を、これで、頭のもつれがほどけたよ…と言い残して息絶える。

立ち上がった橘は、連れてく訳に行かねえからな、温かくしてやるぜ…と言いながら、自分が着ていたコートとフードを脱いで、牧の死体の上にかけてやる。

その時、馬に乗った南海が銃を撃ちながら接近して来る。

銃弾は轟に当たるが、轟は倒れながらナイフを投げ、南海の左腕に刺さる。

南海は、まだ死んでいなかったタニーをロープで引きずって来ていた。

そのロープを銃で斬り、立てと命じた南海は、逃げ出そうとしたタニーに銃弾を浴びせる。

そして、橘、お前にも一発撃たせてやる。この音楽が終わったら撃つんだと言いながら、あの懐中時計を取り出す。

懐中時計は美しいメロディーを奏で始まるが、それが鳴り終わった瞬間、南海が発砲すると同時に、横っ飛びに飛んで、落ちていたライフルを拾った橘も撃つが、次の瞬間がっくり膝を折る。

南海は、撃ち終わったライフルを馬の腹に付けたホルダーに収め、自分は馬から下りて来ると、雪子の方に近づきながら、雪子と呼びかけるが、そのまま雪の中に倒れ込む。

その頭部付近から血が流れ出す。

一方、跪いていた橘の方も立ち上がるが、片足を撃ち抜かれたらしく、足を引きずりながら雪子に近づくと、あなたを不幸にすることは分かっていた。こうせずにはいられなかったんです。許してくださいと詫びる。

雪子の方も、あなたはあまりにも苦しみ過ぎたんです。あなたも、お父さんも、マルコフと言う人も…、あなたには何の罪もないんですと慰めるが、もう一生会うこともないでしょう。忘れてくださいと言い残す。

私は、あなたも主人も、みんな不幸にしてしまいました。許してくださいと雪子も謝し、泣き出す。

橘は、轟の死体の方へ向かうと、銃を地面に突き刺し、それに帽子をかぶせて墓標代わりにする。

雪子の方も、南海の遺体の頭部に積もった雪を払い、コートの襟を持ち上げてやる。

「網走番外地」の主題歌が流れる中、馬に股がった橘は、雪原を遠ざかって行くのだった。