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宇宙兄弟

コミック原作の実写化映画。

原作は知らないので、あくまでも映画としての感想。

宇宙飛行になると言う夢を素材に、一見「愚兄賢弟」風設定と「サクセスストーリー」を組み合わせたような内容になっている。

「愚兄賢弟」とは言っても、その愚兄の方は決して「生活無能力者」とか「ダメな人間」というわけではなく、「大人になると子供の頃の夢を諦める」普通の大人であって、どちらかと言うとかなり優秀な部類に入る方だと思う。

ただこの話では、「子供の頃の夢を諦めず実現した弟」の方が英雄視されているので、その比較対象として「ダメ」に見えるだけに過ぎない。

そして、この愚兄には「弟に対するコンプレックス」が胸の中に残っているからこそ、更なる高みを目指し始めるのだ。

こうした行動は、本当にダメな人間には出来ない事は明らかだろう。

つまり、昔から少年コミック辺りにありがちな「自分の才能に気づいていない天才ヒーローが、努力してその才能を開花させるサクセスストーリー」と言った方が良いのかもしれない。

その骨格に、「宇宙飛行」に関する様々な「豆知識」のようなものがまぶしてあると言う印象である。

展開自体は、何だか途中、色々はしょったような印象は受け、その分、ダイジェスト版でも観ているようなあっけなさはあるものの、初心者向けドラマとしてはそれなりに分かりやすい映画になっていると思うし、娯楽映画としての出来もまずまずと言った所ではないだろうか?

前半で紹介される、細かい所は大雑把な日々人と細かい事に良く気がつく六太と言う個性の違いが後半の伏線になっていると思われたが、後半を観る限り、全く生かされていないのが不思議な気がする。

劇中に登場するロケット発射シーンは、ハリウッドの「アポロ13」辺りを意識したような作りなのだが、なかなか良く出来たVFXなので、それなりの予算はかかっているように感じる。

その分、俳優の芝居の方は、「密室ドラマ」のような部分をクライマックスに持って来ており、やや地味な展開となっている。

この地味な展開は観る人によっては意見は別れそうで、後半にハリウッド的な派手な展開を期待していた人は肩すかしを食うかもしれない。

善くも悪くも日本映画にありがちなまとめ方と言う印象である。

月面でのシーンも平行して出て来るが、こちらも何だか地球上のスタジオで撮りましたと言ったような地球の重力感ありありな雰囲気なのが若干気になるが、それでも良く健闘している方ではないだろうか?

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

2012年、「宇宙兄弟」製作委員会、小山宙哉原作、大森美香脚本、森義隆監督作品。

夜中、河原で遊ぶ2人の子供。

ヒビト!おれは先を調査する!と言うと、先に進んで行ったのが兄のムッちゃんこと南波六太であった。

兄とは常に弟の先を行くものである!

タケノコニュータウン裏の原っぱで雨蛙発見!

自分で見つけた雨蛙のことを録音しようとしていたムッちゃんは、近づいて来た弟のヒビトが、何だあれ?と空を見上げながら叫ぶ声を聞き、自分も弟の横に立って空を観ると、不思議な発光体が空中に浮かんでおり、それは急にジグザグに動いたかと思うと、月に向かって飛び去って行く。

2人が唖然としながら見送っていると、なあムッちゃん、将来、おれ…、宇宙飛行士になって月に行く事に決めたよと言い出し、ムッちゃんは?とヒビトが聞いて来る。

ムッちゃんは、おれは…とちょっと答えをためらっているかのように見えた。

夜空をバックにタイトル

(ガガーリンからアポロなど、宇宙開発の歴史を簡略になぞるタイトルバック)

2015年 NASA

集まった世界中のマスコミを前に、月面移住計画の為の初期段階ロケットが近々発車される事が発表されていた。

荷物はすでに送り込まれていると言う。

やがて質問に立った記者が、月に長期滞在と言うと、地球外生命との接触の可能性もありますねなどと俗っぽい質問をして来る。

すると、それまで中央で説明していた男が、その分野の話なら彼の方が向いているでしょうと言って紹介したのは、次のロケットで月に向かうロケットの搭乗者の1人、大人になっていた南波日々人(岡田将生)だった。

彼は、日本人初の月面歩行者と言う事で今注目を浴びており、子供の頃にUFOを観た事も良く知られていたからだった。

マイクを持ち上げると、ハウリングが起こったので、司会者がマイクを持ち上げないでと注意すると、日々人は、今のは宇宙との交信音でしたなどとジョークを言いながら、スタンドにマイクを戻す。

日本人初の月面歩行者になる事を誇りに思っています。

僕より先に月に立つのではないかと思っていた男が今ここにいないのが残念です…と日々人は発言する。

その頃、大人になっていた兄の南波六太(小栗旬)の方は、カーデザイナーとして企業に勤めていたが、自ら進めていたコンセプトカーデザインは頓挫していた。

その事で苛ついていた六太は、後ろでNASAの記者会見を熱心に観て女子社員たちに近づいて来た上司(西村雅彦)が、こんなの国家予算の無駄使いなんだなどと分かったような批判を始めたので、完全に頭に血が上ってしまい、その上司に近づくと、頭突きを食らわしてしまう。

尻餅をついた上司は、即刻、首だ!と六太を指差す。

ファストフードの店で、アルバイト募集中のチラシを見つけた六太は、なんとかしようと、再就職口を見つけるため、何社もの面接に向かうが、現在31歳で、前はコンセプトカーのプロジェクトリーダーをやっていましたが、上司とのトラブルがありまして…などとハキハキと答えても、この髪型、何なの?ふざけているの?などと、母親譲りの天然パーマの事を指摘されたりするくらいで、手応えは全くなかった。

六太はまだ両親と実家暮らしをしており、その日は母親の誕生日だったらしく、ハッピバースディ、私~♬などと自分で歌いながらケーキの火を、父親(益岡徹)の前で吹き消していた。

二階のベッドにうつぶせで寝転んでいた六太にも、そのケーキのお裾分けが来るが、信じられないくらい薄いものだった。

「無職の六太 ファイト」と書いた紙が添えられていた。

母親がケーキと一緒に持って来たのは郵便物で、送り先には「JAXA」と書かれていた。

満月が見えるベランダに出た六太は、フロリダにいる日々人に電話を入れてみる。

ムッちゃん、久しぶりじゃない?と元気の良い日々人の声が聞こえて来た。

日々人は愛犬を連れ、近所の素人野球を観に来ていたのだった。

何でこんな余計なことするんだ?と迷惑そうに六太は言い、おれには10年やってきた時同社開発って言う仕事があるんだ。宙に浮くのが君の仕事なら、地に足をつけているのがおれの仕事だと伝えるが、忘れたの?約束…と日々人の声が聞こえて来る。

2006年7月のテープ聞いてみなと日々人は言って電話を切る。

それは、子供時代に2人で録音していたカセットテープの事だった。

部屋に取っておいた子供時代のテープを探し、再生してみる六太。

7月9日10時…と、子供時代の六太自身の声が聞こえて来る。

タケノコニュータウン裏の原っぱで雨蛙発見!と言う六太の声の後、何だあれ?と言う子供時代の日々人の声がした直後、訳の分からない雑音が入っていた。

マジかよ…と今さらながら驚く現在の六太。

なあムッちゃん、将来、おれ…、宇宙飛行士になって月に行く事に決めたよ!とラジカセから聞こえて来た声は、子供時代の日々人だった。

ムッちゃんは?と聞いた日々人に、おれは…、おれは…と答えあぐねている六太の声。

お前が月に行くのなら、兄ちゃんはその先を行く。おれは火星に行く!宇宙飛行士になる!一緒に宇宙に行くぞ!と少年六太は答えていた。

大人の六太は、カセットテープと一緒に仕舞ってあった、宇宙図鑑や宇宙関係のフィギュア、望遠鏡や自分たちが付けていたノートの類を見つけ、あの頃を思い出して微笑む。

私はかつて宇宙飛行士になりたかった。本気で宇宙に行きたかった…と六太の声が言う。

しかし、いつの日か理解した。宇宙に行けるのは一部の特別な人だけだと…

まっすぐ走り続けた弟から目をそらし、私は私なりに行きて来たつもりだった…

だけど…、私だって…、くっそー!全然、変わってねえな…

(回想)つくば宇宙センター

JAXAのビデオルームにその日参加していたのは、少年時代の六太と日々人の2人だけだった。

解説役の権俵お姉さんがガイドを始めようとすると、六太と日々人が同じ事を暗唱し出す。

この宇宙大好き兄弟の事はJAXA内でも評判になっており、それを覗きに来たJAXA職員星加正(堤真一)と鶴見鉄太郎(吹越満)は、何度もここを訪れ、完全にガイドが言う台本を暗記している兄弟に感心すると共に、将来を楽しみにしていた。

ビデオ上映が始まると、それを自分で持って来たビデオカメラで写そうとするので、権俵さんは、それはダメよと注意しかけるが、場内には2人しかいないので、結局黙認することにする。

それをこっそり覗き見し、困ったもんだ…と呆れながらも、星加は、でもああ言うのが、将来宇宙飛行士になったりするんだよな…と呟く。

(現在)六太は、日々人が勝手に応募したJAXAの面接を受けに来る。

面接官になっていた星加は、君は南波日々人のお兄さんだね?宇宙飛行士としては先輩になる訳だけど、その事に関してはどう思う?と聞くと、椅子に座ったときから、ずっと椅子のねじをいじっていた六太は、それは当然聞かれるだろうと思ってましたので、3日3晩かけてレポートを書いてきました!読んでくれますか?と答える。

六太が退室した後、コピーが用意されていた六太のレポートを読まされる事になった面接官たちは、弟に対する劣等感丸出しだね…と感想を述べるが、星加は、実は、面接社が座る椅子の1つを事前にわざと緩めておいたんです。それに気づいたのは彼だけでしたと指摘する。

注意散漫とも言えるが?と面接官たちは呆れるが、これが乗務中の宇宙飛行士だったとしたらファインプレーだよと星加は言う。

応募者789名のうち、面接と実技の第1次試験で45名に絞られた。

第二次試験の酸素マスクを装着しての高度想定耐久テストにやって来た六太は、隣に先に座っていた可愛い女性が、本来六太用のマスクを装着していたのでさりげなく注意しそのマスクを取り戻すが、ごめんなさい!緊張してたもんで…と謝って、その女性が返して来たマスクを付けるのは間接キスをするようで嬉しくなるのだった。

休憩時間、庭に座って、勉強用のカード等再確認していた六太に、日々人さんのお兄さんですよね?と話しかけて来た受験者仲間の若者がいた。

良いですよね、試験の中味、あらかじめ分かっているんだから…、そこに書いてあるんですか?などと、嫌味を言って来たので、六太が返答に窮していると、側に座っていた、別の受験者が、その言い方は失礼じゃないか!そんな事で有利になるほど試験は甘くないよと弁護してくれる。

嫌味を言った連中はしらけたのか、その場を去って行き、弁護してくれた受験者は真壁ケンジ(井上芳雄)です。31ですと六太に自己紹介する。

その真壁が言うには、今回の受験者のうち、この2次試験を受かる可能性が一番ありそうなのは、伊東せりか(麻生久美子)と言う女性で、お医者さんらしい。そして、この2次試験で6~7人に絞り込まれると言う。

仲良くなった真壁と一緒にシャワーを浴びていた六太は、自分の事で最近発見した事は何ですか?と言う質問にはどう答えたと聞いてみる。

真壁は、元々小説はあまり読まずに来たのだが、最近、2歳の娘に読み聞かせするために本を読むようになり、また読書の楽しさを知るきっかけになりました。子供の好奇心を失わなければ大人になっても楽しめるんだと言う事を知った自分を発見しました…と答えたと言い、君は?と逆に聞いて来る。

六太は、みんなより良くシャンプーが泡立ちますと答えたのだが、さすがにそれを真壁に教える勇気はなかった。

試験を終え帰りかけた六太は、壁に飾ってあった宇宙飛行士の写真の最後に、弟日々人の写真がある事に気づき、その右隣のスペースに、宇宙飛行士になった自分の写真が飾ってある情景を妄想をする。

しかし、その自分の写真の髪の部分にブクブクシャンプーの泡が湧いて来たように見え、思わず現実に戻る。

やっぱ無理だな…、さらばJAXA!そう呟く六太だった。

その後、日々人から電話が入り、2次試験終わった?と聞かれた六太は、女性たちが側を通りかかったのに気づくと、こんな試験受かんなきゃ南波家の恥だろうが!と見栄を張って答える。

すると南波は、今からNASAまで来てよと言い出す。

渡米し、NASAに向かった六太は、久々に日々人と再開するが、その前に自分に駆け寄って来た犬を抱いて、お前の犬なのか?と聞く。

「アポ」と言う名前だと日々人は教える。

日々人は立派な家に住んでいたので、六太は感心する。

しょっとして「アポロ」から取って「アポ」なのか?と気づいた六太は、お前は昔から、小さな事になると大雑把だったからなと言い、部屋のカーテンのフックの配分を間違っているのを直してやったりする。

サボテンも水をやるのが面倒だから買ったんだろうけど、値札も剥がしてないし…、こんな事で1週間後に月なんかに行って大丈夫なのか?と兄らしく注意する。

そんな六太の言葉をニコニコとして聞いていた日々人は、六太に渡す缶ビールは、あらかじめ良く振っておいたので、庭でプルトップを開けた六太は噴射した中味にビビる。

庭のチェアに横になり星空を見上げた六太は、何年振りだろう?こうやって星を見上げるのって…と呟く。

そして、右手を空に伸ばして親指を立て、夜空の月をその親指で隠して観ていた六太は、トム・ハンクスがやっていただろう?「アポロ13」で…と言う。

それを聞いた日々人も思い出したようで、やってた!と喜ぶ。

あそこに弟が行くと考えたら何となくおかしな気分だ…と六太は言うと、何言ってるんだ。ムッちゃんも行くんだろう?と日々人は言う。

あのさ…、正直言おう。おれ…、多分落ちた…と六太は打ち明ける。

それを聞いた日々人は、つまんねえよ、ムッちゃんと答えるが、六太は、そんな日々人に、すげえよ、お前はと褒める。

又そんな事言って、閉じこもって!一緒だよ。少なくとも、おれがここにいるのは、ムッちゃんがいてくれたからだ。ちなみに19年振りだよ。こうやって夜空を見上げるのは…と日々人は言う。

(回想)少年六太は、クラスメイト3人に下校時、河原に連れて来られ、小川の浅瀬に突き飛ばされていた。

早く言えよ。僕はUFOを観たとクラスで噓を言いましたって!とクラスメイトから迫られる。

川に尻餅をついていた六太は、僕は嘘をついていました…と言ってしまう。

その日、勉強部屋で机に座っていた六太は、またUFOを観に行こうと言う日々人の誘いを断っていた。

六太は、ちょっとクラスのみんなを驚かす事が出来たからそれで良いんだ。

日々人は、ビデオを見せたら、もっとびっくりするじゃんと誘うが、おれとお前でUFOを観た。だったらさ、おれとお前の胸の中にあれば良いんだと言って、六太は、左胸に付けていたNASAバッジを右手の拳で叩いてみせる。

(現在)翌日、日々人は、生命維持装置を確認、事故にあって倒れた同僚の宇宙服に、自分の酸素ホースを繋ぐ最終訓練をやっていた。

その間、日々人の自宅のソファでくつろいでいた六太は、ちょっと離れたテーブルの上に載っていたスナックを取ろうとして容器ごとカーペトの上にぶちまけてしまう。

慌てて、散らばったスナックを拾い集めようとした時、ソファのしたに置いてあった封筒を発見する。

その中には、「ムッちゃんへ」と書かれた手紙が入っていた。

それは、宇宙飛行士としての通例らしかったが、万一の時を想定した遺書だった。

「この9年間、いつかムッちゃんも来ると信じて、おれは宇宙を目指してきた。待ちくたびれて死んじゃったみたい。例え死んでも、おれは宇宙のどこかでムッちゃんの到着を待っている。 日々人」と書かれてあった。

それを読んだ六太は、また手紙を封筒に戻し、そっとソファの下に戻すと、テーブルの角に、自分の頭をこつんと当ててみて落ち込むのだった。

いよいよ、日々人の乗った月ロケットアルテミス号発射日がやって来る。

注目の的は、日本人初の月面歩行者になる「サムライ・ボーイ!」などと、テレビレポーターが実況中継している前をうっかり横切ってしまう六太。

大勢の見物客の中にいた両親と落ち合った六太は、他の飛行士と共に現れた日々人の姿を観る。

日々人は、群衆の前に出て来た両親に気づくと微笑む。

母親は、お土産は月の石よ!と呼びかける。

父親は、ペットボックスに入れて持って来た「アポ」を差し出して見せる。

日々人は最後に六太に目をやると、右手の拳で右胸を軽く叩き、ムッちゃん、行かねえのかよ?とからかって来たので、六太は思わず、行ってやるよ!先に行って下見しいてくれとくれ。ガスの元栓はおれが締めといたぞ!と声をかける。

その直後、六太は、ま、兄としては100点だろと呟く。

その時、父親が持っていたペットボックスの蓋が開いており、「アポ」がいなくなっている事に気づく。

観ると、「アポ」は走って逃げ出していたので、慌てて六太は後を追いかける。

やがて六太は、見知らぬ場所に到達し、そこで「アポ」を捕まえるが、ロケットの発車時間まで後10分しかない事に気づくと、慌てて戻ろうとする。

その時、横の建造物の上から、こっちへ来い、ブロッコリ!と呼びかける外国人の声が聞こえたので、何なんだよ、オールドマン?と六太が英語で聞くと、いっぺんに2つの事は出来ないぞなどと言うので、一応、鉄梯子を登って、その老外国人がいる屋上に登ってみる。

すると、そこからロケット発射塔が良く見えたので、六太は感激する。

老外国人は、ここはアポロ以前に使われていた古い管制塔だと言う。

六太は、あれにはおれの弟が乗っていると教えると、ロケットを発射させるエネルギーには色んな気持ちが入り交じっているんだとその老外国人は言う。

それは人間の魂だ。NASAのスタッフの英知とプライドや見守るものたちの希望…、そうしたものが、あの2千トンの鉄のかたまりを宇宙へ運ぶんだ。お前の気持ちも、あのロケットを打ち上げるエネルギーになるんだと言うその老外国人に興味を持った六太は、あんたは誰なんだ?と聞くと、遠い昔、月を歩いた事がある者さ…とその「アポロ11号」の元宇宙飛行士バズ・オルドリンは答える。

そうした中、アルテミス号が発射する。

唖然とした様子でその発射を観ていた六太は、上空に飛んで行くロケットを目で追いながら、屋上の上に仰向けに倒れる。

おめでとう!日々人!

宇宙空間で燃料ロケットが切り離され、第2エンジンが点火される。

操縦席に乗った日々人は、終始笑顔だった。

ようこそ宇宙へ、日々人…と同乗者が語りかけると、来ちゃったよ、宇宙…と日々人は呟く。

子供の事から夢見た世界にとうとうたどり着いた瞬間だった。

月へ行こう!

アルテミス号は、月へ向かう。

その頃、JAXAでは、第2次試験の合否を巡って、星加がただ1人、他のメンバーが落とそうとした六太を、何とか合格させようと粘っていた。

他のメンバーたちは、何であの男にこだわるんだ?と首を傾げるが、夢があるじゃないか!兄弟で宇宙だぞ!と星加は力説する。

その時、あると思います!夢!あの2人、小さい頃からずっとJAXAに通い詰めていましたと星加の意見に賛同して来たのは、ガイド役の権俵だった。

しかし、権俵には投票権はなかった。

それでも、彼女の言葉は、審査メンバーたちの気持ちに変化を及ぼしたようだった。

日々人が日本人初の月面着陸する場面は、同乗者が撮るビデオ映像がテレビでも流され、日本の実家に戻って来ていた両親も茶の間で見入っていた。

二階では、六太が受け取ったJAXAからの封筒を開きあぐねていた。

日々人は月面に着地すると、感激のあまり、大きく飛び上がると「ムーンジャンプ」してみる。

ヒューストンの管制センターに歓声が上がる。

テレビで観ていた両親も喜んでいたが、その時2階から大きな音が聞こえて来る。

家の外へ飛び出した六太は、やった~!!と道を駈けながら叫んでいた。

JAXAからの通知は、第2次試験の合格を知らせる内容だったからだった。

南波六太、真壁シンジ、伊東せりか、溝口大和(新井浩文)、古谷やすし(濱田岳)、福田直人(塩見三省)の6人が2次合格者だった。

彼らに与えられた最終試験は、10日間、宇宙区間と同じ0.8気圧に調整された金属モジュール内で、全員が外部との接触を一切断った閉鎖環境で生活すると言うものだった。

そして、彼らの生活は四六時中、管制センターで監視されていること、全員左手手首に付けられたバンドは外さないこと、この試験の結果で、2~0名の宇宙飛行士候補生を選別することなどを鶴見がモニターを通じて説明する。

真壁は、取りあえず自己紹介でもしませんか?と発言するが、自分は友達ごっこをするつもりはないのでと言われてしまう。

2日目、食事を一緒のテーブルでする6人だったが、六太はちらちら伊東せりかの方に目線をやっていたので、それに気づいた小柄な古谷は邪魔をして来る。

彼らが食べ終わった食事状況も、外に出された容器の状態を写真に収められ、全部記録されていた。

その後、全員に出された課題は、かなり面倒なものだった。

そして、その日の終わりには、全員、他のメンバーたちの行動をノートに採点する事も義務づけられていた。

3日目

その日から6人は、3人ずつ、2つのグループ分けをされ、2035年に向けた月面基地の模型と実行計画をまとめると言う課題が与えられる。

10年後に実現可能である事が条件だった。

A班になったのは、六太、せりか、古谷の3人、B班が、真壁、溝口、福田の3人だった。

六太は、最高のムーンベースを作りましょう!と張り切る。

その頃、月面では日々人が作業を続けていたが、5年間も地上で訓練を繰り返していたので、問題なく作業は進み、1度くらいは事故が起きて欲しいなどと悪いジョークを言うほどだった。

日々人は、早く見に来いよ、この景色を…と、地球にいるムッちゃんに、心の中で呼びかけていた。

8日目

さすがに、6人のメンバーにストレス状態が出て来る。

福田は1人、瞑想中だった。

ストレスも出るさ…とモニターを見ながら星加がつぶやくと、経験者の言葉は重いな…と隣で一緒にモニターを観ていた鶴見が言う。

かつて、同じ試験で落ちた経験のある星加は、20年前のおれはデリケート過ぎただけさと負け惜しみを言い、そのストレスから、誰が一歩抜きん出るかだ…と言う。

鶴見は、そろそろ出してみるか?緑のあれ…と意味深な表情で星加の顔を観る。

個人用モニタールームに呼ばれた六太は、これは全員に頼んでいるのだが、アンケートに答えてもらいたいと言う星加の言葉に頷く。

この中で、宇宙飛行士として一番ふさわしいのは誰ですか?と星加は聞いて来る。

六太はちょっと考えると、一番ふさわしいのは、真壁ケンジと伊東せりかですと言い、2人の長所を述べ始める。

しかし、星加がなるほど…と聞き終えようとすると、ちょっと待って下さいと言い出した六太は、よく考えてみると、他のメンバーもふさわしいような気がしますと言い、夫々の良い所を思い出し始める。

星加は感心したように、良く観ているな、ありがとうと閉めようとする。

すると、困ったことに一番宇宙へ行きたいと思っているのは、この僕なんですと、六太は付け加える。

参考にさせてもらうよと笑った星加は、君にグリーンカードが出ているよと最後に告げる。

外からモジュール内に入れられたグリーンのカードには、今作りかけている両チームの宇宙基地の模型を君が分からないように破壊する事。

そして、その事は絶対他言してはいけない事。

…と書かれていた。

それを読んだ六太は悩むが、その夜、指示通りに模型を破壊するしかなかった。

9日目

誰や〜!と壊れた模型を発見して叫んでいたのは古谷だった。

その声で、6人のメンバーが集まって来ると、やったん、誰や!B班の中の誰かやと言う事は分かってるなどと古谷は決めつけるように言い出す。

そう言われたB班の3人は、何を証拠に…!と反論するが、六太は冷静に、もう1度最初から作りましょうと提案し、その場を収めようとするが、今度やったら許さんからな!と古谷の怒りは収まらないようだった。

その夜、壊した本人である六太は、1人ベッドで悩んでいた。

最後の日

何でおれにこんな事を…とぶつぶつ言いながらも、真壁に会うと、犯人誰だと思う?などと聞いて来たのでどぎまぎするが、もし、お互い犯人が分かったとしても握手しようと言われたので、ちょっと安堵するが、その時、B班の模型も壊されている事が福田に発見される。

昨日の理屈から言えば、A班の誰かが腹いせにやった事になるのだが…と溝口が皮肉を言う。

その時、犯人探しは止めよう。6人で1人なんですからと真壁が中に入って来るが、まだリーダー気取りなんですか?と溝口が反感むき出しで言って来る。

そんな溝口の態度に古谷も呆れ、6人のメンバーたちの間に気まずい空気が張りつめる。

その頃、月面者では、日々人がダミアンと一緒に月面ローバーに乗り移動していた。

足下にある修理マニュアルを取ろうと、日々人が身をかがめた次の瞬間、前方に道がない事に気づくと、ダミアンにストップと声をかけるが、間に合わず、月面ローバーは巨大なクレーターの崖を飛び出し落下してしまう。

実権モジュール内で、懸命に、月面基地の模型作りに専念していた六太は、モニター室に来るよう呼ばれる。

落ち着いて聞いて欲しいのだが、2時間前、月面のローバーがトラブルを起こし消息を絶った。

これは緊急事態だ。試験を中断するか、ここに残るか判断して欲しいと星加が伝えて来る。

今、我々JAXAは、最悪の状況を考え、行動していると告げられた六太は呆然とする。

月面では、クレーターの底に投げ出された日々人が気絶していた。

今、かぐや3号の情報をヒューストンに送っている所だと星加は続けるが、考えていた六太は、続けます。僕はこのまま試験を続けます。今ここを出ても、僕に出来る事は何もありませんから…、なぜなら、僕は宇宙にいないから…と答える。

星加は、分かった。君の選択を尊重しよう。他のメンバーたちには知らせない。通常通り、試験に戻りなさい、良いね?と告げ、六太は素直に、はい…と答える。

みんなのいる部屋に戻った六太は、模型作りを再開するが、その時、福田がめまいを起こしたらしく倒れる。

それを観たせりかは、休みましょうと提案するが、溝口が困りますね…と言い出し、また、メンバー間に嫌なムードが広がる。

その様子を見かねた六太は立ち上がると、もう止めましょう。僕からみんなに話したい事がありますと言い出す。

それを聞いた真壁は、何を言い出すんだ!と緊張する。

その様子をモニターで観ていた鶴見が、グリーンカードの事を話すつもりか?言ったら即失格だ

おれは…と言いかけた六太は、部屋の窓から見える偽の宇宙空間の写真を見つめ、しばらく考え込む。

どんだけ引っ張んねん!と古谷が切れる。

おれはUFOを観た事があると六太は続ける。

日々人と一緒に観たんだ。それからおれは、宇宙が大好きになって…。でもさ、ガキの頃に宇宙やUFOって言っても、誰も相手にしてくれなくて…。だからこの試験、毎日楽しくて仕方なくて…。宇宙に行きたい奴は、俺たち以外にもたくさんいるはずなんだ。だから、俺たちはもっと宇宙の話をしよう!と言う。

それを聞き終えたせりかは微笑み、私も子供の頃、変人と言われていたの。父と一緒にISSの通貨を観るのが楽しみで…。特殊衣料の研究をしている私は、無重力の中で新薬が出来ないかと思っているの。残念ながら、父には間に合わなかったけど…と言う。

その後、真壁や他のメンバーたちも、自分と宇宙の関わりに付いて語り出し、それを、モニターを通じて、管制センターの星加と鶴見もじっと聞き入っていた。

福田は、実はおれ、20年前と5年前にも、この選抜試験受けてるんだ。落ちたんだけどね。でもやっぱり子供の頃肩の想いを捨てきれなくてね…。家族も呆れて離れて行った…。もう54だ…と告白する。

それを聞いていた溝口は、ジョン・グレンは77歳で宇宙へ行ったんですから、54歳なんてまだ若いですよと声をかける。

この条件で、宇宙の話をしようか…かと鶴見が呆れたように呟くと、だから宇宙の話をしたんじゃないですか?不思議なスケールの男だ。生きててくれよ、日々人くん…と星加は祈る。

月面では、気絶していた日々人が目覚めていた。

起き上がると、右足を負傷しているようだった。

すぐに、左手に装着していた生命維持装置兼通信装置でヒューストンを呼びかけるが、応答はなかった。

日々人は、その場から、持っていた照明弾を打ち上げる。

その照明弾は、ヒューストンの監視センターでも確認され、日々人は生存しており、巨大なクレーターの底にいることが判明する。

しかし、日々人が付けている体温調節装置では、月の夜のマイナス50度と言う温度には耐え切れそうにもなかった。

日々人も、迫って来た夕暮れの闇に気づく。

監視センターでは、日々人の体温がみるみる低下している様子がモニタリングされていた。

残るパディら2人の乗務員が、別の月面ローバーで、日々人救出に向かっていたが、到底間に合いそうになかった。

壊れた月面ローダーの運転席に挟まれていたダミアンを引っ張り出した日々人は、クレーターの急斜面をダミアンの身体を担いで登ろうとする。

しかし、すぐに滑落してしまう。

六太たちの試験は全て終わり、全員、モジュールから10日振りに出て来る。

鶴見は、最後の面接ですと全員に告げる。

六太は思わず、昼間の空にうっすら見える月を見上げ、遠いな〜…と呟く。

面接室で星加と向かい合った六太は、10日間ごくろうさまでした。質問は1つ。今の君には酷な質問かもしれないが、これは全ての宇宙飛行士が向き合う事ですと前置きし、死ぬ覚悟はありますか?と聞かれる。

月面では、日々人は凍り付いたマスクの中で、ムッちゃん…と言い、泣いていた。

面接室の六太は、もちろん、あります!と一旦答えるが、すみません、噓つきました。本当は死ぬ覚悟なんてないんです。もし死ぬ瞬間になっても、ぎりぎりまで行きていたいと思う。最後の最後の瞬間まで考えると思いますと答える。

弟と…、日々人とずっと昔に約束したんです。でもおれは情けない兄で…。約束を守るには、この試験をやり遂げる事が目標だったんですと六太が補足すると、その約束の内容まで知っているよ。5年前、その場所で、日々人くんが存分に聞かせてくれたんだ。やっぱり兄弟だ…と星加は嬉しそうに教える。

その後、権俵さんが、六太を管制室へ案内しかけるが、突然、建物の入口から飛び出した六太は、上空に浮かぶ月に向かって走り出し、泣きながら、バカヤローと叫ぶと転ぶのだった。

月面では、凍死寸前の日々人が、もうろうとした意識の中で、ムッちゃん…。助けに来ねえじゃないかよ…と呟いていた。

日々人〜!約束したじゃねえか!死ぬな〜!!と、月に向かって叫んでいた。

月面で、目を閉じていた日々人には、寝るんじゃねえよ、日々人!と言う六太の声が聞こえていた。

(回想)寝るんじゃねえよ!日々人!と叱る少年時代の六太に、だって眠いんだもん…と、一緒に外で空を見上げ、疲れていた少年日々人はうとうととしかけていた。

すると、少年六太は、兄ちゃんがクイズを出してやる!宇宙クイズ〜!と言い出す。

すると、わ〜い!と急に日々人は元気になる。

(現在)月面で気絶していた日々人は目を開け、微笑んでいた。

見上げると、目の前には、巨大な地球が地平線から登って来ていた。

すげえよ…、ムッちゃん…、地球を観る日々人は泣いていた。

巨大な地球に向かって手を延ばす日々人。

JAXA構内にいた六太は、ずっと月を見上げていた。

月面の日々人は、右手の拳で自分の左胸を叩いていた。

そして立ち上がった日々人は、また、ダミアンを肩に抱えると、地球の方向に向かって歩み始める。

(回想)1961年、宇宙的に何があったでしょう?

少年六太がクイズを出すと、ガガーリンが宇宙を飛んだ!と日々人が答える。

1969年は?アポロ11号!

1993年は?ドーハの悲劇の年、ムッちゃんの誕生日だ!

1961年のガガーリンの姿から、現在までの宇宙開発の状況が次々と登場する。

ユーリ・ガガーリンや、アームストロング船長は想像しえただろうか?

かつて彼らに憧れていた兄弟が、今、新たな宇宙史の道を切り開こうとしています。

そうしたレポーターの声の中、宇宙飛行士になっていた六太は、奇跡の生還を果たした弟の日々人と並んで、新たな月ロケットに乗り込もうと今歩いていた。

日々人、待たせたな!と話しかけた六太は、日々人の一歩前を歩く。

JAXAの壁に飾られた日々人の写真の横には、新しい宇宙飛行士候補生、南波六太、伊東せりか、真壁ケンジの写真もあった。

今、そのせりかと真壁は、ヒューストンでロケット発射を見守っており、あの元宇宙飛行士バズ・オルドリンも、あの場所からも守っていた。

JAXAの監視センターには、発射を見守る溝口、古谷、福田の姿もあった。

リフトオフ!

六太とJAXAを乗せた月ロケットは無事発射する。

月面に記された足跡。

こちらヒューストン、気分はどうだい?

月面に降り立った六太と日々人は、一緒に月面に日本の国旗を立てていたが、その時、日々人!あれ!と六太が叫ぶ。

日々人がその指の方向に目をやると、子供の頃に観たのと同じようなUFOが飛び去って行くのが見えた。