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東京原発

会議室を中心とした密室ドラマと核ジャックパニックを同時進行の形で描いたブラックユーモアものだが、巧みに金がかかりそうなシーンは避けてあり、低予算作品なりに巧くまとめた作品になっている。

テーマは原発賛成でも反対でもなく、両方の意見を巧く引用し、自分たちが一番恩恵を受けていながら一番無関心な東京都民に、原発の是非をきちんと考えさせる必要性があるのではないかと言う問題提起になっている。

2004年の作品だが、既にこの時点で原発が地震に弱い事、電力会社が発表している宣伝文句等はほとんど怪しい等と指摘している事は、今観ると衝撃的である。

しかし、この映画を観ている人は少ないだろうし、東日本大震災に伴った原発事故でも東京は壊滅的な被害が出なかったため、天馬都知事が最後に言う「世界一無関心な東京都民はすぐ忘れますよ。過去の事なんか関心ないんですから」と言うセリフは、そのまま今も進行中だし、これからも当分変わらないままだろう。

では、これは東京都民だけの映画なのかと言うとそうではない。

原発事業が地元に落とす金を頼りにしようとする弱い立場の地方の映画でもあるのだ。

原発の問題は確かに難しく、簡単に賛成、反対と二者択一できるものではないような気がする。

この映画を観る限り、原発ばかりに予算を投じて来た従来の政府のエネルギー政策の偏りに問題があるのは明らかだが、では今後どうやって、その偏りを修正していけば良いのか?

単純に原発を廃止すれば解決する問題でもない事は確かだ。

未曾有の大災害となった東日本大震災を契機に、今こそ日本全体が解決の道を本気で探らなければいけない大命題だろう。

テーマ性はともかく、娯楽映画としてもなかなか面白く出来ており、密室での論争ドラマと言う形の展開は、限定したベテランたちの味わいある芝居の力もあり、退屈せずに観ていられる。

核ジャックの部分は若干付け足し的で、サスペンス性は希薄だが、やや単調になりがちな密室ドラマに膨らみを持たせている。

後半トレーラーが、都庁に間近い新宿界隈をぐるぐる迷走しているように見える演出は、都内の土地勘がない地方の観客にも巧く伝わっただろうか?

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

2004年、「東京原発」フィルム・パートナーズ、山川元脚本+監督作品。

※この映画のセリフの中には原発に関する色々な専門用語などが出てきていますので、本来は正確に記さなければいけない部分ですが、いつも通り曖昧な記憶に頼った再現に過ぎず、正確なセリフではありませんので、決してそのままの内容を鵜呑みになさいませんように…

トレーラーが、深夜、どこかの敷地から出発する。

運転しているのは中村(塩見三省)と言う中年男だった。

トレーラーが発車した後、敷地の入口が閉ざされる。

黄色いパーカーを着た少年が、パソコンの前で、大量のビタミン剤のようなものを飲んでいた。

パソコン画面には、ドラム缶のようなものが積まれたどこかの空き地で、黄色いパーカーの少年がカメラに向かって走って来る映像が写っていた。

マスコミに囲まれジョギングをしていたのは、東京都知事天馬(役所広司)だった。

そのままマスコミを引き連れ東京都庁前まで走って来た天満都知事は、都庁内に入る。

新宿駅の混雑

車で移動中だった津田副知事(段田安則)の携帯にメールが入り、午後2時から緊急会議があるとの連絡だった。

同じく呼び出しを受けた佐伯政策報道室長(田山涼成)は、都庁内の会議室に向かう。

6時半にいつものホテルで…と、密かに愛人に電話をしていた大野財務局長(岸部一徳)も、呼び出しを受け、会議室に向かう。

指のストレッチ運動をしていた石川都市計画局長(菅原大吉)も会議室へ。

パソコンで出会いサイトを観ていた泉環境局長(吉田日出子)も会議室へ。

今日は何を言うんですかね?今日のメンバーはこれだけなんですかね?などと会議室に集まって来た局長たちらは、人気の高さを背景に時々爆弾発言を発表する天満都知事のことを警戒していたが、津田副知事も、何も聞いてないんですと不安げに答えるしかなかった。

その天満都知事は都知事室で、呼び寄せたトレーナーから足のマッサージを受けていたが、ジョギングをする等と公表したことを早くも後悔していた。

風邪で発熱したらしく、額に冷却パッドを当てている特別秘書の及川(徳井優)は、今日の発言は下手をすると都知事の政治生命に関わりますと忠告するが、天満都知事は、会議室の連中に風邪をうつされてはたまらないから君は来なくて良いと命じて1人で会議室に向かおうとする。

そんな天満都知事に及川は、昨夜自分が懸命に用意しておいた、プレゼンテーション用の資料を無理矢理持たせ、津田さんは手強いでしょうから、念のために松岡さんにも来てもらった方が…と言葉をかけるが、自信家の都知事は、必要ない!と言って断る。

会議室にやって来た天満都知事は集まっていた局長たちに、都の財政を一気に立て直す方法を見つけたよ!と言いながら、東京に原子力発電所を誘致するんだと突然発表する。

タイトル

その都知事の言葉を聞いた佐伯政策報道室長は、まさか本当じゃないですよね?とあっけにとられたようだった。

泉環境局長も、どうして原発なんです?と問い返す。

天満都知事は、先ほど及川特別秘書から受け取った資料の中から1枚のフリップをテーブルの上に出してみせると、テープで隠されていた「1」の部分を引っ張りながら、「原子力施設設置振興特別措置法」と言う妙に長ったらしい書き込みを見せる。

いわゆるばらまき法案のようなものでしょう?と大野財務局長が指摘すると、そう、それのばらまかれる方に廻ると言う事ですと天満都知事は頷く。

日頃からお追従が巧い大野財務局長が、なるほど!交付金を受け取るんですなと感心したように頷く。

私の意見が暴挙かどうか、記者会見で発表してみましょうと天満都知事が先走ると、津田副知事が、こういう問題はもう少し議論した方が…と横やりを入れる。

いや、だらだらと議論をするより行動あるのみです!と天満都知事が言うと、ではなぜ、私たちを呼んだんです?と津田副知事は問いかける。

その言葉には反論できなかった伝馬は、渋々と言う感じで持論に付き合う事にする。

確か、ドイツは原発を廃止したんですよね?と言う意見が出ると、フランスから電力が買えますからと反論した伝馬都知事は、他の国は関係ないんですよ!自分の国の問題なんですからといら立つ。

確か、東海村で臨界事故がありましたよね?と誰かが聞くと、あそこは原発じゃない!と伝馬都知事は反論する。

しかし、そんな事を発表したら、都民の大半が反対するのでは?と佐伯政策報道室長が心配する。

すると、それがどうした?反対する奴らに言ってやれ!お前等電気いらんのかって?と伝馬は怒鳴りつける。

確か、日本の電力の3分の1は原発なんですよね、テレビで言ってましたと石川都市計画局長が好きなテレビの話を引用する。

思い切って停電にしてみるか?そうすれば電気のありがたさが身にしみるだろうと都知事が真顔で言う。

今、都市機能はほとんどコンピューターで制御しています。電気がなくなったら、ガス、水道、回転寿し、パチンコ、自動販売機、カラオケ…、ほとんどあらゆるものが機能しなくなると局長たちは想像し出す。

でも、東京で作らなくても…と泉環境局長が呟くと、そこですよ!東京の電力、どこで作っているか知ってるか!そのためにどれだけ自然破壊をしていると思っているのか?と伝馬都知事が吼える。

原発建設のため山や川を崩し、そこで行われていた一次産業も衰退する…、それもこれも、都民が湯水のように電気を使うからなんだ!その点、東京はもう自然が壊されている…と都知事は力説する。

観光名所になるかもしれませんね?はとバスに見物してもらいましょう。そのコースに都庁も加えててんなどと大野財務局長と石川都市計画局長が、すっかり都知事の意見に丸め込まれたように賛同する。

気がつくと、天馬都知事がタバコに火を点けようとしていたので、泉環境局長がここは禁煙です!と注意する。

今までの都知事の発言を吟味していた津田副知事は、休憩しましょうと提案する。

中村が運転するトレーラーは走り続けていた。

黄色いパーカーの少年は、銀座の和光の時計前に来ていたが、折から向こう側を自転車で通る2名の警官に目を留める。

休憩時間中に、会議室の外に出ていた津田副知事は、携帯で誰かを呼び出していた。

大野財務局長と石川都市計画局長は、マスコミの発表した場合、今の都知事人気だったら出来るかもよなどと話し合っていた。

その横に立っていた笠岡産業労働局長(平田満)は、今日、及川特別秘書が来てないでしょう?と聞く。

風邪で病院に行かせたらしいと聞くと、この半年間、及川さん、環境局にゴミのことを調べさせていたでしょう?と笠岡は大野等に言い、ただの噂ですが…と予防線を張る。

泉環境局長は寒そうに部屋を出るとき、エアコンの温度調節を上げて出て行く。

ちょうど昼時、トレーラーはどこかの空き地に荷物を下ろし、空になった荷台の上で運転手の中村がビールを飲んでいたが、そこに、同じように昼間からビールを飲んで近づいて来た同業者らしき渋谷(渡辺哲)が声をかけて来る。

中村が、今日この仕事初めて4日目なんだけど…と打ち明けると、おたくやっぱり…リストラされたの?などと聞いて来る。

それには答えず、今日、運んで来た積み荷って何でしょう?と中村が聞くと、良いじゃないそんな事…、お金、通常の2倍貰えるんだから…と言いながら、缶ビールを旨そうに飲むと、今から飲みに行く?と誘って来るが、中村は、いや、まだ仕事がありますからと運転席に戻ろうとするので、まだ働くの?と渋谷が呆れると、昼の仕事は賃金が3倍なんですと打ち明ける。

積み荷も3倍危険なんだけどね…と渋谷は呟く。

その渋谷の背後には、放射能マーク入りのドラム缶が大量に積んであった。

休憩後、津田副都知事は、地方と東京都では財政規模が違いますと発言していた。

天馬都知事は、先ほどのフリップを再びみんなに見せ、「2」の所の隠しテープを剥がすと、その下には、莫大な経済効果と書かれてあった。

日本の電気代って、世界でも高いって知っているか?と天馬都知事は質問する。

アメリカの4倍もするんだと知った大野財務局長らは唖然とした様子。

なぜ日本の電気料金は高いのか?それは電気事業が独占である事を良い事に莫大な借金しているためだと都知事は指摘する。

笠岡産業労働局長が、負債は30兆円にもなりますと教えると、全員硬直する。

発電所は山や海に作っているから建設費も莫大にかかっているんだ、それが全部消費に廻ってみろと指摘する天馬都知事。

フリップに書かれた最後の「3」の隠しテープを剥いだ都知事だったが、「エネルギーの…」と言う部分までで後は剥がれてしまったので、ああ!とため息をつく。

何で原子力発電所って海に面しているか知ってるか?と天馬都知事は聞く。

冷却水を流しているんでしょう?と津田副知事が答えると、原発で作っている熱のうち、利用されているのはたった30%で、残り70%の廃熱は海に捨てている。

東京原発では、その無駄になっている温排水を熱パイプで東京中に張り巡らすので、CO2も作らず、東京中が冷暖房都市に生まれ変わるんだと天馬都知事は力説する。

それを聞いてた泉環境局長は、温排水は安全なんですか?と疑問を口にする。

これまでにも何億トンも海に捨てられて来た水が危険なはずがないだろう!と天馬都知事は自信満々に答える。

コ-ジェネレーション(エネルギーの高効率利用)ですよと津田副知事が説明すると、ああ、コ-ジェネ…と泉環境局長は納得したので、他の局長たちが不思議そうに観ると、省エネの推進の担当をしているのは環境局なので…と泉は答える。

原子力発電でそんな事と出来るんですか?と泉環境局長が驚くと、20年ほど前、通産省が、全国に小型原発を作ろうって言ってた事があるような…と、笠岡産業労働局長が自分の特製資料ファイルの中から古い資料を探す。

彼は、徹底したアナログ人間のようだった。

そも、20年もかかって実現しなかった所を観ると、何か問題があったんでしょうねと泉環境局長が呟くと、20年も前だったから実現しなかったんだ。今だったら出来るよ。何より、原発を作れば莫大な経済効果、金だ!何千億も金を生み出すのが原子力発電所だ。東京に持って来る意義は大きいと天馬都知事は言う。

どこに建てるんです?と笠岡産業労働局長が聞くと、佐伯政策報道室長も、東京にそんな広い場所ないでしょうと同意する。

当然、奥多摩辺りだろう…と大野財務局長が言うと、あなたは先ほどからの話を聞いてなかったんですか?環境破壊を防ぐために東京に持って来ると言う話をと呆れる。

東京で土地を買おうとすると賠償代が田舎の何十倍もかかるじゃないかと誰かが呟くと、新宿中央公園だと天馬都知事が言う。

全員、会議室の窓から、裏に見える中央公園を眺めながら、こんな所に建てちゃっていいんですか?こんな狭い所に…と唖然とする。

福島に視察に行ったんですけど、100万坪くらい敷地が必要だったような…と泉環境局長が思い出すと、その内の大半は緑地等のスペースなので、小型原子力発電所ならここで十分なんだ。何なら日比谷公園でも良いんですよ。お堀の水が冷却水に使えますからと天馬都知事は冗談を言う。

不適切な六ヶ所でも2兆円もかけて再処理工場が建ったじゃないか!と天馬が言うので、六ヶ所って、不適切な場所なんですか?と泉が聞くと、十勝沖地震で大津波が襲って来た場所であり、後ろには八甲田火山群が連なっていて、両脇には米軍飛行場や自衛隊の実弾演習場があるんだぞと天馬都知事が言うと、東京にも地震は来ますけど…笠岡産業労働局長がさりげなく口を挟む。

中央公園は地震の時の避難場所じゃないですか!と泉環境局長も思い出すが、地震なら原子力発電所の中が一番安全なんだよ!と都知事は言う。

確か、原発って関東大震災の3倍の地震が来ても大丈夫なように作ってあったり、活断層の上には作らないようにしていると、確か電気会社のHPに書いてあったような…と石川都市計画局長が曖昧な記憶を元に発言する。

住民投票にでもなったら…と言う心配の声には、勝手にやらせておけば良いんだ!議会工作は出来てるから…と天馬都知事は言い出す。

東京に原発を作る事になれば、失業者対策にもなりますねと笠岡産業労働局長は思いつく。

タレントを使ってキャンペンしましょうなどと、メンバーたちの中に楽観論が生まれ始める。

それに気づいた津田副知事は、こういう問題は、専門家の意見も聞いた方が良いんじゃないかと提案すると、原発は絶対安全だと言う専門家に聞きましょう、松岡と言う男だと言い返した天馬都知事は、会議室備え付けの電話をかける。

車を運転中だった松岡原子力安全委員(益岡徹)は、天馬からの電話を受けると、今、MOX燃料をフランスから極秘に運んでいる最中なので…と困った様子だった。

それを聞いた天馬都知事は、MOX燃料と言えば…と思い出したようなので、そうです、プルサーマル利用のためのプルトニウムを再処理したものですと解説した松岡原子力安全委員は、福井で使う事になったのですが、住民の反対運動が起こったので、船で東京に入港させ、裏をかいて陸路で運ぶ事になったんです。絶対この事内緒ですよと説明する。

内緒って、都知事が知らないんじゃまずいだろうと天馬は憤慨し、責任者は誰なんだ!と怒鳴りつけるが、国がやる事に責任者なんてある訳ないでしょう?と松岡原子力安全委員はうそぶく。

その船はどこに着くんだ?と天馬が聞くと、お台場だと言うので愕然とする。

これから現地までトレーラーで敵の裏をかいて運びますと言う松岡の言葉を聞いた天馬都知事は、まれじゃまるで「一の谷の合戦」じゃないか!と呆れるが、その会話をいつものようにノートに書き写していたのは笠岡産業労働局長だった。

そちらには5時くらいにならないと行けないと言う松岡に、ここにいる奴等、原発の事何も理解してないんだ。原発が絶対安全だってことを、この電話で言ってやってくれと都知事は頼むが、同じ頃、先ほど、津田副知事が呼び寄せた別の専門家が都庁に到着していた。

天馬都知事がテーブルの上に置いた受話器の側に集まったメンバーたちを前に、原発は絶対安全です。危険性等限りなくゼロに近くなりますと受話器から松岡の声が聞こえて来るが、電話を聞いていたメンバーたちは、限りなくゼロってどのくらいなんだ?良く分からないからごまかしているんじゃないか?などと疑問の声が上がる。

その時、部屋に到着したのは、奇妙な毛皮のコートを着込んだ中年男だった。

東大の榎本教授(綾田俊樹)ですと津田副知事が紹介する。

中村が運転する空の輸送トラックは走り続けていたが、疲労がたまった中村は、運転しながらウトウトしかけていた。

黄色いパーカーの少年はお台場に来ていた。

女子トイレから出てきた泉環境局長を、外で待ち受けていた津田副知事は、及川さん、泉さんの所に最近通っていたんじゃありませんか?と問いただす。

それを聞いた泉は、何を言い出すかと言うような顔つきで、いくつ年が違っていると思っているんですか?と不倫の事でも指摘されているような目つきで反論する。

そんな事じゃなくて、環境局に通っていたでしょう?と津田が聞き直すと、ゴミの分別の事ですよ、プロジェクトXとか言って…と泉環境局長は答える。

それは都知事の指示なんでしょうね?と津田が聞くと、そりゃそうでしょうと泉も答える。

その頃、お台場に着いた中村は、新しい荷物を積み終えていたが、トラックの後ろに放射能マークが付いたシールを貼り付けていた依頼主の松岡原子力安全委員が、急いでくれ、1分でも遅れたら金は払わないからと中村に念を押していた。

それを聞いて焦った中村は、荷物を固定するゴムが、1カ所緩んだままなのに気づかないまま運転席に直行すると、トラックを出発させる。

再び都庁内の会議室では会議が始まっていた。

榎本教授は、地震に対する原発の安全性の話から始まる。

原発建築の基準となっているのは、関東大震災の時の東京中心部の300〜400ガルと言う数値なんですと言う説明を聞いていた局長たちは、関東大震災って、東京が震源地じゃなかったんですか?と素朴な質問をする。

榎本教授は、震源地は相模湾沖で川崎では900ガルだったと記憶していますと説明する。

ガルと言うのは?と聞かれた教授は、揺れの加速度の単位ですと言い、今ある原発の内、浜松原発の耐震基準が600ガルである以外は、平均400ガル程度ですと持って来たグラフを見せながら言う。

そのグラフの800ガルの上に、赤いラインが引いてあったので、それは何ですか?と聞かれた教授は、兵庫県南部地震の時の数値ですと答える。

それは、高速道路などが横倒しになった1995年の阪神・淡路大震災の事だった。

記憶に新しいあの大震災が再び原発の近くで起これば、今ある原発はどれも耐えきれないと言う事だった。

原発が安全と言うのは噓なんですと断定する榎本教授の言葉に背を向け、伝馬都知事は椅子を窓側に向けたままあくびをしていた。

今まで国民は騙されていたんですねと津田副知事が教授に尋ねる。

でも、原発を使わないと電力が足りなくて停電しちゃうんでしょう?と聞かれた教授は、停電しませんと断言する。

でも、テレビでそう宣伝していたんじゃ…と石川都市計画局長が問いただすと、原発は電気の供給の調整が出来ません。

だから常にフル稼働せざるを得ないのですが、火力や水力は発電能力の2~4割しか稼働していないのでタップリ余力があります。

日本の原発を全部停めても、真夏の電力消費のピーク時以外は、火力、水力などで賄えますと教授は説明する。

泉環境局長は、暗に脅かされていた訳ねと納得し、石油ショックの頃、石油は後30年って言ってたはずだけど、もう30年経ってますよねと思い出す。

石油は後30年、ウランを使えば千年以上エネルギーを確保するって聞いてますがと言う石川都市計画局長の意見を聞いた大野財務局長は、ああ「もんじゃ」ねと答え、「もんじゅ…」ですけどと石川都市計画局長からたしなめられる。

「もんじゅ」は、火災事故を起こして以来再開されていませんねと誰かが呟く。

確か、原子力発電などへのエネルギー転換が始まったのはオイルショックの頃だったような…と誰かが言うと、笠岡産業労働局長がさっと挙手し、原子力の予算が使われ始めたのはオイルショックのはるか前、1954年からですと指摘する。

原爆が落とされて10年も経ってない頃じゃないか!と津田が怒りを込めて吐き出す。

いつの間にか始まってたのねと泉環境局長も意外そうに言う。

オイルは発電の他にあらゆるものに使われますが、原発が生むのは死の灰だけですと言う教授は、1gのプルトニウムは、一般人の年間被爆許容量の18億人分に当たりますし、核分裂を起こしやすいので、テロにも使われますと危険性を強調する。

MOXと言うフランスとかに再処理させたものを輸入していますが、再処理というのは使用済み核燃料の中からウランとプルトニウムだけを取り出す作業のことで、そのあとに残るさらに高レベルな放射性廃棄物とともにこれから日本に返還されてくる契約になっており、放射能がなくなる訳ではありません。

高い金を払ってゴミまで送り返されているのか…と唖然とする局長たち。

そればかりではなく、さらに重大な問題が発生するのですと榎本教授は続ける。

プルトニウムの使い道がないんですよ。プルトニウムは核兵器の材料なので、使用しないと核拡散に繋がるんでまずい…

だから、プルサーマルに切り替えた訳か…と納得する局長たち。

核燃料サイクル事業はウラン用に作られた現在の原子炉でプルトニウムを核分裂させて発電する計画なんですが、コストも危険性も高い上に、使用中も使用済み核燃料のプルトニウムは出来るので、その絶対量は減らないんですよと榎本教授は淡々と話す。

輸送トラックを運転していた中村は、何故か、一般道の酒屋の前の自動販売機でワンカップ酒を飲んでいた。

そこはどうやら新宿の近くのようだった。

会議室では、泉環境局長がした放射線の危険性について、病原体と同じく、漏れたら隠したい連中には都合が良いものなんですと榎本教授が答えていた。

東海村の事故のときに亡くなった方は、チェレンコフの光を観てしまったんでしょう。

18シーベルトも浴びていたそうですから、1年間の許容量の1万8千倍だった訳で、亡くなった方は83日間戦った末、亡くなったそうです。

その担当医師は見たこともない症状が次々起こったと放射線による細胞破壊の恐ろしさを語っておられた…と榎本教授は続ける。

ウラン燃料は核分裂すると1億倍くらいになる。全国のプールは満杯です。毎年千トン単位で増え続ける死の灰は処理できません。それで、地下に埋めようとしています…と説明する教授の話を聞いていた大野財務局長が、ロケットに積んでロケットごと宇宙に捨てれば良いんじゃないと冗談を言う。

それを宇宙科学事業団がやるんでしょう?と誰かが茶化すと、世界中がこの問題は先送りしているんですと榎本教授が嘆く。

そんな中、天馬都知事はと言えば、勝手に煙草等吸っており、みんなに気づかれると、不機嫌そうに、休憩だ!と宣言する。

その頃、松岡原子力安全委員は中村運転手から電話を受け、都内で道に迷ってしまったと聞いて驚いていた。

地方出身で都内の道に暗い中村は、いつの間にか一般道に降りてしまい、高速への乗り口が分からない等と言っていたが、その公衆電話からは、西新宿のスバルビルが見えていた。

高速の乗り口を教えた松岡原子力安全委員は、台場駅からゆりかもめに乗っていたが、その松岡の隣に座っていたのは、黄色いパーカーの少年青山透(後藤昴)だった。

そのとき、風邪の診察に来ていた病院前にいた及川特別秘書から携帯に電話が入ったので、プルトニウムのトレーラーが行方不明になったと伝える。

及川は、やっぱり原子力しかないか…と呟く。

次の駅で、慌てて電車を降りた松岡だったが、徹は、松岡が席に落として行った携帯を見つける。

溜池から霞ヶ関で高速に乗れば良いだろうと、トレーラーの所にやって来た松岡からの指示を受けた中村は、東京にも溜池があるんですかなどと答えていたが、その2人がトラックの外で話している隙に、松岡を追って来た透は、反対側からトラックの運転台にこっそり乗り込んでいた。

その直後、運転席の方に近づいて来た中村と松岡は、バックミラーに駐車禁止の札が付けられている事に気づくが、中村は松岡から責められ、それを無視して発車させることにする。

その直後、初めて中村は、助手席でパソコンをいじっている見知らぬ少年に気づく。

何やってるんだ。降りろ!と言いながら、トラックを停めようとした中村だったが、透は見かけない銃のようなものを突きつけて来る。

何だそれ?玩具か?とバカにした中村だったが、透はその銃を窓から外に向け発車すると、他の車の窓ガラスに当たったのか、衝突音が聞こえて来たので、本物だと気づき青ざめる。

都庁の外に出て、飲み物を飲んで休息していた佐伯政策報道室長は、津田副知事に、広島のご出身でしたね?と聞いていた。

祖父母たちが被爆していますと津田は答え、被爆国である日本に、今、原発が50基以上もあるなんて信じられませんと呟く。

横で聞いていた大野財務局長が利権だよと口を挟んで来る。

でも、原子力を怖がるのも神経質過ぎるだよ。何でもかんでも信じる奴いるでしょう。安全だってCMでもやっているじゃないですか…と石川都市計画局長が言うと、そうだよ、ロシアじゃないんだから…と大野財務局長。

すると、情報公開では日本はロシアにも劣ると、1999年の核廃棄物に関するデンバー国際会議でアメリカが批判していますと笠岡産業労働局長が口を挟んで来る。

会議室に戻って来た佐伯政策報道室長は、そう言えば、チェルノブイリって、その後、どうしてるんでしょうと呟くと、当時、現場で作業した86万人の内、5万5000人が死亡、残りの87%が何かしら発病していると言う記事を見せられ、ウクライナだけでも20万人が犠牲と言われていますと説明した榎本教授は、そのチェルノブイリ事故の影響が及んだ範囲のグラフを元に、浜松原発で事故を想定した場合のグラフを見せると、東京を含む日本の中心部のほとんどが円の中に含まれていた。

津田副知事は、この辺で決を採りましょうと提案する。

透がジャックした中村の運転するトレーラーは、国会議事堂の辺りを走っていた。

一体どこへ行くんだ?と怯える中村に、このトレーラーに爆弾を仕掛けたと透は告げる。

その時、透が持っていた松岡の携帯が鳴り出し、早く来てくれよと言う天馬都知事の声が聞こえて来る。

黙って聞いていた透は、通話後に表示された発信者である都知事の名前と電話番号を目にしていた。

東京原発に賛成する方に挙手したのは、大野財務局長、石川都市計画局長、佐伯政策報道室長、笠岡産業労働局長の4人だった。

地方には作っている原発なのに、何で東京だけはダメなんだ?国のやり方を傍観しているのは、賛成しているのと同じなんだと天馬都知事は突っ込む。

リスクが多過ぎますと榎本教授が反対する。

電力会社に個人が払う命のリスクは同じじゃないか?人口5000の村でも1千万の都民でも、背負う命のリスクは同じだろう?と言ってるんだ!と天馬都知事は語調を強める。

電力の恩恵を一番受けている東京が、そのリスクを他の土地に押し付けて良いのか?と言う天馬に、都民にそのリスクを背負えと言うのですか?と津田副知事が聞くと、それが嫌なら電気等使うな!と天馬都知事は怒鳴る。

何か、この部屋暑くないか?と大野財務局長が言うと、そう?とエアコンの設定を先ほど上げた泉環境局長がとぼける。

燃料電池等の別のエネルギーがあるのでは?と津田副知事が言い出すと、泉環境局長もゼロゼロエミッションカー!と嬉しそうに言う。

燃料電池は分散発電のことで、他にもコジェネレーション発電、マイクロ発電もありますが、実用化が遅れていますと榎本教授が解説する。

その時、アナログ人間だとばかり思われていた笠岡産業労働局長が、石川都市計画局長が持ち込んでいたパソコンをいじっているのをみんなが気づき驚く。

国家予算のほとんどは原子力に使われており、新エネルギーには雀の涙ほどだと言う事が分かり、どうやらエネルギー事業は利権でがんじがらめになっている事が浮き彫りになってくる。

今さら、国を挙げて新エネルギーに取り組んでいる他の国に敵う訳ないだろう…と口を挟んだのは天馬だった。

及川さんがこの場にいないんですが…と言い出した津田副知事が、榎本教授に燃料電池にはゴミも使えるのでは?と質問すると、確かに紙や生ゴミから水素を取り出せますと言うではないか。

「バック・トゥ・ザ・フューチャー」と言う映画の「1」ではプルトニウムを使っていた車が、「2」では生ゴミをエネルギーにしてたよなと石川都市計画局長が思い出す。

及川さんは生ゴミを調べていたんですよね?実は水素エネルギーを考えているんでしょう。それが可能になれば、膨大なゴミ処理に悩まされている東京は資源の宝庫になりますから…と津田副知事が発言すると、さすが津田さん、気がつきましたか…と言いながら、部屋に及川特別秘書が入って来る。

このままでは、世界のエネルギー革命に日本は乗り遅れます。傍観しているのは賛成しているの事に等しい…と津田副知事が言うと、だから都知事は、東京への原発誘致を公言しようとしているのですと及川が答える。

なるほど!それを知れば、都民も無関心ではいられなくなる。反対運動が起こり、議論も起こる。国の決定事項は国民投票になります。都知事はマジョリティーを逆手に取って原発に反対させようとしているのです。

そんな事したら都知事の政治生命は終わるかもしれません。でも、この国からチェレンコフの火が消えた時、誰がその火を消したかはみんな知るでしょう。

国民主導で国家プロジェクトに楯突くってことになりますが…と佐伯政策報道室長が言うと、突如、良いんです!と声を挟んだのは笠岡産業労働局長だった。

都庁に入って25年になりますが、こんなやりがいがある事は初めてです!と興奮しながら語る。

他の局長も頷き、泉環境局長も面白そうじゃない!と笑う。

津田副知事は、やりましょう!と都知事に賛成する。

透は、トレーラーの助手席で何か作業を終えたようで、これでOKとほくそ笑む。

笠岡産業労働局長は榎本教授に、先ほどノートに書き留めておいた天馬都知事が松岡原子力安全委員にかけていた電話の断片的な専門用語の事を尋ねていた。

「MOX燃料」などと言う書き込みを読んだ教授は、プルトニウムをお台場からどこかに運ぶと言う事でしょうと教授が教えると、プルトニウムが都内を走っているんですか?と聞いていた局長たちは驚く。

首都高や東名など、しょっちゅう走ってますよと榎本教授はあっさり答える。

そこに都知事が携帯を耳に当てながら入って来て、核ジャックしたと言っていると全員に伝える。

君は何者だ?と天馬が聞くと、透は赤い兎と名乗ったので、側で聞いていた大野や石川らは、赤いキツネ?赤い風船では?などと言い合う。

都庁のHPの都庁マークをクリックしてみろと指示された佐伯政策報道室長は、急いで、部下の木村政策報道室職員(小林麻子)にその事を知らせるが、すぐに思い直して、クリックはするな!と命じるが、電話を受けた木村政策報道室職員は、もうマークをクリックしていた。

パソコン画面には、助手席の透と運転する中村の姿が映し出される。

先ほど、小型カメラを助手席側のダッシュボードに透が仕掛けていたのだった。

自分がドラム缶が積んである空き地で実験しておいた爆破映像を流し、今の10倍の破壊力がある爆弾をこのトレーラーに仕掛けてあると伝えた透だったが。そんな事をしたら、お前も死ぬんだぞ!と天馬が怒鳴ると、分かっているよそんな事…と透はつまらなそうに呟く。

これは自爆テロですよ!と石川都市計画局長がわめく。

要求がある…と透が携帯に向かって言うと、その会話を聞いていた中村が、金と言えと口を挟む。

しかし、お金があっても何にもならない…とその指示をバカにしたように無視した透は、テレビでこの映像を中継してくれたら…と伝えていたが、その時、中村が前方の何かに気づいたように急ブレーキをかける。

その衝撃で、透が持っていたタイマーの床に落ち、スイッチが入ってしまう。

透が怒ると、だって、今、カラスが…と中村は言い訳し、またトレーラーを走らせ始める。

透は天馬都知事に、早くテレビに放映しないと、後1時間で核が拡散するよと脅す。

会議室では、まさか爆発くらいで壊れるようなやわな容器に入ってないですよね?と泉環境局長が聞くと、榎本教授は、爆発を想定したような実験はしてないはずですと答える。

トラックが爆発するとどうなるんです?と聞かれた榎本教授は、屋内に避難していれば放射能で汚染はしないが、水に浸かれば臨界を起こす危険性があります。そうすると、屋内にいても意味はありませんと言うではないか。

映像が常時見える危機管理室に、他の局長たちと一緒にやって来た天馬都知事は、警視庁に連絡してSATを呼べ!自衛隊にもだ!と命じる。

TV放送は?と聞かれた天馬が、NHKに開けてもらいましょうとあっさり天馬は言うので、佐伯政策報道室長は狼狽する。

そこへ、横田基地の米軍が協力すると申し込んで来ていますと職員が駆け込んで来たので、なぜ知ってるんだ?と天馬は驚く。

先ほど、HPの都庁マークをクリックして、パソコン映像を観ていた木村政策報道室職員の机に、他の職員たちも何事かと集まっていた。

官邸の危機管理センターに電話を入れていますが、誰も出ません!と津田副知事が告げる。

佐伯政策報道室長は山田政策報道室職員(山中聡)に、NHKに生放送枠を開けさせるんだ!生だ!生だぞ!と電話で命じていたが、事情を知らない山田は、生、生って、ここは居酒屋じゃないって!と電話を切った後、ぼやくと、ひょっとしてこれの事?とパソコン映像を観ていた木村政策報道室職員が指摘する。

透にテレビで何を言うんだと中村が聞くと、決まってるじゃん、犯行声明だよと答えるが、その姿を映像で観ていた局長たちは、こういう子って、普段は学校で目立たないんだろうな…と分析していた。

透は、運転している中村が、いつの間にかカップ酒を飲んでいる事に気づき、何してるんだ!と驚く。

さっき、自動販売機で飲んだ時、まとめて買っておいた酒だった。

3合一気に飲み終えた中村は、それでどこに行くんだと透に聞くと、都庁だって言ったじゃんと透は呆れたように答える。

トレーラーは歌舞伎町を通り過ぎていた。

中村は酔った勢いで、ダッシュボード上のカメラに向かうと、お母ちゃん!観てるか!保険金降りるぞ!などと呼びかけるが、それを映像で観ていた大野財務局長は、ちゃんと前を観ろよ!と慌てる。

大ガード下に接近したトレーラー。

SATはまだか!と怒鳴る天馬都知事。

その頃、知事の会見まだですか?と政策報道室にやって来たNHKのカメラマン(恩田括)と記者(寺十吾)は、ネット映像を観ていた職員たちが一斉に部屋の外に飛び出して行ったので、自分たちも慌てて後を追う。

酔いが廻って来た中村が運転するトレーラーは、すでに蛇行運転になっていた。

工事中の防御壁にぶつかり、それを引きずったまま走っているうちに、荷台に張っていたビニールが外れ、積んでいたプルトニウム入りのタンクがむき出しになる。

さらに、ダッシュボード上のカメラまで衝撃で床に落ちてしまい、運転席の様子をモニターしていた天馬と知事以下局長らは、一体トレーラーで何が起こっているのか分からなくなる。

天馬たちは一斉に都庁の外に飛び出して行く。

夕方6時25分、落ちたカメラを設置し直していた透は、タイマーの時間が今の衝突のショックで誤作動を起こし、後8分になっている事に気づく。

天馬たちが都庁の入口前に飛び出すと、国旗が揚がっていたポールにトレーラーが衝突しており、折れたポールに付いていた日の丸の旗が荷台のタンクの上に倒れかかる所だった。

運転席の中村と透は、衝突の衝撃でどちらも突っ伏していた。

救急車!と天馬都知事は要請。

大野財務局長らは、トレーラーの背後に何かステッカーが貼ってあるので、何が書いてあるのかと近づいて読むと、放射能マークの下に、「この車両に近づくな」と小さく書かれていたので、近づかないと読めないじゃないか!と怒りながらも慌てて後ずさる。

気絶している透の手元から、起爆装置らしきものを取り上げた天馬都知事は、爆弾処理班はまだか?と聞く。

すると、渋滞に巻き込まれたそうで、今橋ってこちらに向かっているそうですと佐伯政策報道室長が教える。

その時、映画なんかではこういう時、無線で指示を受けるんですよと石川都市計画局長が得意げに教えるが、その無線を車に忘れて来たそうですと佐伯が言う。

仕方ないんで、天馬都知事自ら、ねじ回しを使い、慎重に装置の解体作業を始めるが、その時突然、大野財務局長の携帯が鳴り出し、遅い!私、帰る!と言う女の声が聞こえて来たので、慌てて座を外した大野は、帰れ!と怒鳴りつける。

カバーを取り外してみると、中には赤と緑のコードが入っていた。

教授、どっちを切るか分かりますか?と聞いた天馬だったが、榎本教授は他の職員たちと一緒に都庁の中に逃げ込んで、ガラス戸越しにじっとこっちを観ているだけだった。

赤い兎って言うくらいだから、赤が好きなんでしょうから、赤じゃないですか?

赤が好きなら赤は切らないだろう!

待てよ、誰が赤が好きって決めたんだ?などと、その場にいた局長たちは勝手なことを言い始める。

その時、同時に切るんだ…、ちょっとでもずれたら、爆発するぞ…と、一瞬目を覚ました通るは言い、又気絶してしまう。

今の言葉も本当の事なのかどうか分からなかったが、一か八か、赤と緑のコードを一緒にペンチで挟み切ろうとした都知事だったが、そのやり方だと、一瞬、ペンチの根本に近い方が早く切れませんか?と津田副知事が声をかけて来て、結局、津田と天馬が、それぞれ2本のペンチで、赤と緑のコードを同時に切ろうと言う事になる。

1、2の3の「3」で切るんだぞと念を押した天馬都知事は、一回、タイミングを合わせるテストをやってみるが、やはり微妙にずれてしまう。

しかしもう時間がなかったので、思い切って本番に行く事にし、何とか18秒前でタイマーは止まる。

安堵した都知事たちだったが、その時又目を覚ました透は、何やってんの?それはただのタイマーだよと言うではないか。

驚いた天馬都知事は、トレーラーの下に潜り込み、その下に付けられていた爆弾を外そうとするが、タイマーはあっさり「0」になってしまう。

天馬都知事は、思わずトレーラーの下で死を覚悟するが、何秒経っても爆発する気配はなかった。

助かったんですねと言いながら、車の下の天馬を覗き込んで来た津田副知事は、爆弾のコードが外れてますよと発見する。

何で逃げなかった?と天馬都知事が憮然とした表情で聞くと、これは知事1人の戦いじゃありませんからと言いながら、いつの間にか局長たちが全員トレーラーの横に集まっていた。

絶対爆発するぞなんて言ったけど、やっぱり子供なんですかね?と誰かが問いかけると、この世に絶対なんてあってたまるか!と天馬都知事は呟く。

その直後、ようやく到着したマスコミや警察がトレーラーと都知事たちの元に集まって来る。

トレーラーの横に立った天馬都知事は、運転席に置き去りにされていた携帯が鳴り、すみません、落としちゃったんです!拾ってくれた方ですか?などと聞こえて来た松岡原子力安全委員の声に激怒すると、携帯をその場に叩き付け、足で何度持つ見つけるのだった。

これで原発誘致の必要はありませんね、反対運動が起こりますよと津田副知事が近づいて来るが、こんなこと、世界一無関心な東京都民はすぐ忘れますよ。過去の事なんか関心ないんですからと天馬都知事は答える。

その時、ぽつりぽつりと雨が降って来る。

記者会見場にやって来た天馬都知事は、マスコミを前に、原子力発電所を東京に誘致しますと発表する。

都庁の外は大雨になっており、外に置いてあったプルトニウム入りタンクにも滝のような雨が降り注いでいた。

そのタンクにカメラが近づいて行くと、タンク内で、青白く光るチェレンコフの火が灯った事が分かる。