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探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点

予想外の拾い物と言う印象だった1作目の好評を受けての第2弾。

完成披露試写会での鑑賞の機会を得たが、面白かったのは本編映写前の出演者トークだけ。

満を持しての2作目は、残念ながら、前作の面白さはまぐれだったのか?と疑いたくなるような凡作になっている。

東映テレビ部のスタッフが作っているらしいのだが、どうして、今後シリーズ化できるかどうかの重要な意味合いを持つ2作目で、もっと面白さをパワーアップできなかったのだろう?

これではまるで、続編が出来ただけでも大満足、実はもう1作目で才能も情熱も出し切ってしまいました。この2作目はおまけみたいなものです…と言わんがばかりの印象である。

ゲスト俳優のネームバリューだけ観ても、西田敏行→渡部篤郎、小雪→尾野真千子と言う変化は、1作目は、大泉洋、松田龍平だけでは客が呼べないと考えて盤石の布陣を用意したが、一応の評価を得たので、2作目は、もうゲストの知名度に頼らなくても良いと判断したと言う事だろうか?(別に渡部さんや尾野さんの知名度が特に低いとは思わないが、かと言って、1作目以上に集客力を期待できそうなキャスティングとも思えず、一般的に1作目より成績が落ちがちな2作目にしては地味な印象がする)

前作同様、同じキャラクターが何人も再登場しているが、どのキャラも前作以上のインパクトはなく、また、前作のような人物紹介のようなセリフもないので、この作品だけ観た人は、唐突に登場して来るお馴染みキャラクターが誰なのかと言う識別すらできないのではないかと危惧する。

テレビのシリーズ物なら、途中から観始めても何作か観ているうちに大体登場人物の人となりは想像がついて来ると言う事も可能だろうが、1作1作が勝負となる映画だと難しいのではないか。

話の骨格となる事件の謎も弱く、新たに登場する人物たちも特に魅力的に描かれていると言うほどではなく、全体的に薄っぺらな感じ。

原作にこれのベースとなるような話があったかどうか記憶にないが、映画オリジナルの話だとするとアイデアが乏し過ぎると言うしかない。

骨格となる話が脆弱なのでアクションシーンも空騒ぎにしか見えず、見所と言えば、時々挿入される、大泉洋いじりのおふざけシーンに苦笑する程度。

脱原発とか、いかにも今風の素材を取り入れているように見えながらも、その底辺に流れているのは、妙に古くさいセンチメンタリズムとステレオタイプな職業認識のように見えたりするのは、あまり込み入った話にせず、アクション主体で、話の展開自体は大衆に分かり易くするためなのかも知れないが、その辺の考え方も含め、昔からの邦画の甘さと言うか、感覚の古さも疑いたくなる。

トークショーでも、監督が、今回はアクションは特に頑張りましたと強調していたが、裏を返せば、アクション以外にはあまり自信がないと言う事ではないか?

しかも、肝心のアクション部分に魅力があるかと言えば、せいぜい劇場版の「あぶ刑事」シリーズレベルとでも言えば良いのだろうか?いかにも従来からの東映B級アクションの延長線と言った感じで、迫力不足、アイデア不足な印象は否めない。

おそらく、内容的には、テレビドラマに毛が生えた程度ではないだろうか?(おそらく予算もそんなレベルなのでは?)

1作目と似た構成になっているように見え、なんだか決定的に別物になってしまっているような気がする作品である。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

2013年、「探偵はBARにいる2」製作委員会、東直己原作、古沢良太+須藤泰司脚本、橋本一監督作品。

チャイムの音

遠くに広がる札幌の町並み…

この状況でなければ、素晴らしい景色だ…

俺(大泉洋)は、日の丸飛行隊に憧れていた訳でもない。

そう考えていた探偵は、スキージャンプ台のスタート地点に身を乗り出させられており、今にもこれから滑走させられそうな危険な状況だった。

俺がこの状況になったのを説明するには、時間を遡らなければいけないだろう…

(回想)

俺も良く通っていたゲイバー「トムボーイフレンズ」のマサコちゃん(ゴリ)は、手品が得意な事で有名だった。

その技は徐々に時を追うごとに素人レベルからプロ並みにまでなって来たので、テレビの「マジックコンテスト」で出れば優勝するんじゃないか?と俺たちは冗談半分で勧めるようになっていた。

しかし、マサコちゃんはそれを本気で受け取ったのか、テレビなんかに出ると迷惑かける人がいるから…などと、すでに優勝者にでもなったかのような勘違い発言をして、客たちは笑っていた。

ある日、「トムボーイフレンズ」にやって来た俺は、そこで、ヒロミの名を叫んで荒れている男を見つけ、背後からモップの柄で殴り倒す。

ママのフローラ(篠井英介)が隠れていたカウンターの後ろに入って、事情を聞いていた俺だったが、突然、倒した男が立ち上がり、いきなり拳銃をぶっ放して来たので焦る。

ママのフローラは、裏口から逃げられると教えてくれたので、一緒に逃げ出そうとするが扉が開かない。

そのとき、ママが、ドアの外にビールケースを重ねて置いてあるのと言いだしたので、それじゃ開かないと悟り、俺は狂ったような男の銃弾を浴びる覚悟を決める。

そのとき、入口からふらりと入って来たのが、北大の高田(松田龍平)だった。

空手の達人でもある高田を観た俺は、さっき後ろから殴ったのはそいつ!と男に教えてやったので、銃を持っていた男は高田に向き直るが、あっさり高田にのされてしまう。

高田は、男が落とした銃を披露と、柱にもたれかかって気絶した男目がけ引き金を引く。

すると銃弾が飛び出し、男の頭のすぐ横の柱に穴を開けたので、それまで玩具だとばかり思い込んでいた高田は、驚いて銃を落とす。

俺は、その男の事を、「桐原組」の若頭相田(松重豊)に電話で知らせてやる。

すると、想像通り、その男は桐原組が探していた男だったらしく、駆けつけて来た桐原組の連中がビルの屋上で徹底的に痛めつける。

銃はどうした?と相田が聞いて来たので、捨てちまった…と適当に答えると、そうか…と言うだけで、この男を事を知らせてくれた礼を言って来る。

俺と高田は、貸しにしといてやると鷹揚に答え、その男、どうするつもりだと聞くと、殺しもしなければ生かしもしない。もっと聞きたいか?と言うので、それ以上深入りしない事にする。

その後、マサコちゃんは「マジックコンテスト」の地方予選に出場、そのままトントン拍子に決勝まで勝ち進み、あっさり優勝してしまう。

俺たち仲間たちは札幌のモニター画面でそのテレビ中継を観ていたが、マサコちゃんは、その2日後に殺された…

教会で行われた葬儀には、「トムボーイ・フレンド」の仲間と俺が出席した。

ときたけ てつお 35歳…、これがマサコちゃんの本名だった。

マサコちゃんは、早朝、後頭部を殴られ、住まいのマンション裏のゴミ捨て場に血まみれで倒れていた。

マサコちゃんのアパートで遺品の整理を手伝っていた俺は、部屋に何枚もの同じアーティストのCDが置かれている事に気づく。

それは、河島弓子(尾野真千子)と言うバイオリニストのCDだった。

ママのフローラが言うには、マサコちゃんは音楽や芸術を愛する子だったのだと言う。

しかし、事件の捜査は3ヶ月経っても進展しなかった。

俺はその頃、悪い病気にかかっていた。

探偵は、ある女とベッドインしていたと言う事だった。

その間、俺はすすきのの町にも出られなかった。

夏が終わる頃、俺の病状も快方に向かった。

雨の日、別れる女に追いすがろうとした探偵に、女は冷たく、金もないくせに粋がるんじゃねえよ!と捨て台詞を残して、他の男の車らしきものに乗って去って行く。

探偵は雨の中、みじめに取り残される。

自宅で落ち込んでいた探偵は、ふと机の引き出しの中にあったマサコちゃんの遺品である白いバラの造花を見つけ、自分で自分の頬を叩き始める。

北大の高田の携帯が鳴りだし、街に復帰する。お前も来いと言う探偵からの呼び出しがあるが、こっちはもう少しかかりそうだと外で牛の世話をしている学生たちの様子を見ながら高田は答える。

人口190万の街札幌

俺は、そこのプライベート・アイ…、つまり探偵だ。

タイトル

久々に「トムボーイ・フレンズ」に向かった俺は、ママのフローラに、マサコちゃんの葬儀の時の弔問客リストを見せてくれと頼むが、何故か、ママはその話に乗って来ようとせず、他のホステスたちに話しかけてもみんな何かを避けているように口をつぐんでしまう。

そのよそよそしさに気づいた俺が、俺たちの手でマサコちゃんを殺した犯人見つけたくないのか?と聞くと、ママは、今まで何やってたのよ!私たちずっと供養していたのに…、そのとき、あんた、何にしていた?と責めて来たので、何も言い返せなくなった俺は、黙って店を後にするしかなかった。

その時、店に一隅に座っていた女が、カウンターに置いていたメガネをかけ俺の後を付いて来る。

俺は、すすきので客引きをしている通称モツ、学生、らに声をかけ、マサコちゃんについて何か知らないかと声をかけてみるが、彼らも一様に、その話題を避けようとする。

それでも無理矢理絡んで話を聞くと、ヤバいんだその話…。マサコちゃん、政治家の愛人らしかったので、政治家の闇に触れて消されたんじゃないかと言うではないか。

北海道日報新聞記者松尾(田口トモロヲ)に会って、その辺の所を確認してみると、どうやらガセではなさそうで、地元で原発反対を標榜している二世議員橡脇孝一郎は、松尾同様、裏では有名な両刀使いと言う事らしかった。

橡脇と東京で別れたはずだったマサコちゃんが、その後、テレビに出た…と意味ありげに松尾は言う。

馴染みのバー「ケラーオオハタ」で、橡脇のことで社長に会いたい…と、携帯を持たない俺は電話していたが、その店にも「トムボーイ・フレンズ」にいた女が来ていた。

何やら変装しているようなその女は、その後、俺の後を追って、俺のマンションまで付いて来たが、異変を察知したのか、急いでエレベーターに乗って逃げようとする所を、エレベーター内で待ち受けていた俺は捕まえようとする。

すると、その女は、スタンガンを取り出して俺の股間を攻撃して来たので、殴って気絶させると、ズボンを脱いで股間が無事かどうか確認する。

エレベーターは1階で扉が開き、乗って来ようとしたのは高田だったが、ズボンを脱いでいる俺と床で気絶している女の様子を見て誤解したらしく、さすがにこれはダメだろう…と言うや否や、俺に殴り掛かって来る。

部屋に運び込みんだ女の顔を観ていた高田と俺は、マサコちゃんが好きだったバイオリニスト河島弓子ではないか?と言い合っていたが、その声で女は目を覚まし、男2人が近くにいるのに気づき、近づいたら、チ○ポ噛み切ったるからな!などと超下品な言葉を口走ったので、やっぱり違うだろうと俺は呟く。

その後、弓子はよほど腹が減っていたらしく、馴染みの喫茶「モンデ」でナポリタンにむしゃぶりつく。

さらにお代わりまで頼んだので、露出狂のウエイトレス峰子(安藤玉恵)に注文すると、俺の耳元に近づいて来た峰子が、こんな女のどこが良いのよ!などと聞いて来たので、あの子、まだ日本に慣れてないんだと弓子にはごまかす。

弓子は、マサコさんは自分に取って大切なファンだったが、警察の捜査が全然進展せえへん!誰かが動けば、後に続くものが出て来るはずなどと大阪弁でまくしたて、俺と高田が無言で聞いているだけだったので、橡脇の事も含め、私1人でやるとまで言い出す。

俺は呆れて、正気か?ファンのためにそこまでやる?と問いかけるが、ファンの支えでこれまでやって来れたと言う事もあるのだと弓子は反論する。

そこまで言われた俺は、あんたは動くな。その代わり、金を出して俺を雇ってくれ。事件は俺とこの相棒でやると伝えると、承知したらしい弓子は、分かった事は教えてくれと頼むと、こちらの連絡先を聞いて来たので、俺は、たいていここにいると言って、バー「ケラーオオハタ」の名刺を置いて行く。

事件の依頼を受けた探偵が最初にすることは…

「モンデ」を出た俺と高田は一緒にあくびをし、俺は一旦自宅マンションに帰って体力温存のため熟睡する事にする。

その時、ドアチャイムが鳴り、いきなり入って来た桐原組の連中に殴りつけられて、今ここのスキージャンプ台に連れて来られたと言う次第である。

(回想明け)

ジャンプ台にスキーを履かされ、腹にロープを撒かれて身を乗り出されていた俺に、マジックハンドの玩具に持たせた携帯から聞こえて来たのは、相田の声だった。

ジャンプ台の下で、車に乗った社長こと桐原組組長(片桐竜次)の横に立っていた相田は、社長に何か話があるそうだな?と聞くので、俺は、マサコちゃんのことを調べたいんだと答える。

すると、車の後部座席に乗った社長の反応を観た相田が、お会いになるそうだと答えて来たので、ブッチョら、俺をロープで支えていた子分たちはロープを引っ張って、俺をジャンプ台から外そうとするが、その時、腹を縛っていたロープがほどけ、俺はそのままジャンプ台を滑り落ちてしまう。

これには、今まで側で支えていた子分たちも、下で観ていた相田もあっけにとられるが、ジャンプした俺はどう言う訳が着地に成功してしまったので、相田は、やるな…と妙な感心をしてしまう。

社長の車に乗せられた俺は、この桐原組の組長こそが、昔、橡脇の父親を刺し殺した張本人だった事を知っていたので、その息子が元愛人を殺すような事をするだろうか?と聞いてみるが、あいつの血を引いたガキならそのくらいするだろうと言う返事だった。

話を聞き終えた俺は車を降りると、お嬢さん、最近バレエを習っておられますと社長に教えると、そうか、ヨーロッパにやらなきゃいかんな…などと相好を崩し、それまでの強面が噓のような親バカのデレデレ顔になったので、車が走り去った後、残っていた相田に、親バカってあそこまでなれるもんか?と聞いてみる。

相田は、橡脇に喧嘩を売るような真似をするんじゃねえ。新藤艶子には気をつけろ。先代の女だった女帝だから、息子のためなら何をするか分からんと忠告してくれる。

マンションに帰ると、部屋の中には、高田、ゲンちゃん、モツ、学生等が勝手に入り込んでいた。

どうやら、俺が部屋からブッチョたちに拉致された際、鍵をかけ忘れていたので、自由に入れたようだった。

客引きトリオが訪ねて来た理由は、学生が事件の夜、マサコちゃんのマンションから戻って来る橡脇孝一郎の姿を目撃した事を教えに来たためだった。

その後、おっかない兄さんたちが動き出したので、怖くなって今まで話せなかったが、これからは勇気を出して協力すると学生は言う。

その後、高田と共に、橡脇孝一郎の事務所の向かいのビル横の階段に登っていた俺は、さっきの奴、学生って言うんだ?と聞かれたので、女房をピンサロで働かせ、息子に暴力を振るっているダメな奴だけど、見た目が学生みたいだからそう呼ばれているんだろう?と教える。

じゃあ、モツは?とさらに高田が聞いて来たので、モツが好きだからだろう?とちょっと苛つきながら俺は答える。

高田はそんな俺のこと等気にしていない様子で、誰かが動けば、続くものがあるって本当だな…と呟く。

橡脇事務所の入口が見張らせる踊り場に到達した俺は、入口から出て来て車に乗り込むすごい髪型の新藤艶子を確認すると、それを写真に収める。

その後、高田と一緒に外で晩飯を食っていた俺だったが、何か思いついたか? 橡脇をやっつける方法?と高田から聞かれても、何も…と答え、共同便所が開いたと店主から教えられたので、外の便所に小便をしに行く。

用便中だった俺を便器の前から引きづり出したのは、全員マスクで顔を隠した一団だった。

その中の一人はバットを持っており、マルカーノ!等と言いながら、昔の野球選手のスイングの真似をして、他の仲間に押さえられた俺の腹を打って来る。

その時、携帯を観ながら店から出て来た高田に気づいた俺が呼びかけるが、高田は俺の方を観ても又携帯を観始めたので、俺は無視かよ!と癇癪を起こす。

ようやく、高田が駆けつけてくれて、正体不明のマスク軍団相手に戦い始める。

俺は、近くに停めてあった車の下に潜り込んで隠れようとするが、軍団の連中がその車を力技でどけてしまう。

らちがあかないと判断した俺と高田は、その場を逃げ出すと、ちょうど走って来た路面電車に乗り込む。

席に座った高田が、原因、お前らしいぜ。新聞屋のおっさんが言ってた。お前狙われるって…と言い出したので、すぐに、高田の携帯を借りて松尾に電話を入れてみると、俺の名で警察に橡脇を調べろと言う電話があったので、今や俺は、橡脇陣営と反橡脇陣営の両方から狙われていると言う。

警察に電話したのはもちろん俺ではないが、これで橡脇が事件に関係しているのは確実だろうと俺は判断する。

その時、次の停留所で、大勢のマスク軍団が乗り込んで来る。

まさか、こんな所で襲っては来ないだろうと期待もしたが、連中にそんな常識は通用しないようで、俺と高田は、路面電車の中で連中と戦うはめになる。

ワンマンカーの運転士は、車内ではお静かに願いますと言うだけで電車を停めようとしないばかりか、乗降口のドアを開いたものだから、俺は連中に押されて、車外に落とされそうになる。

その時、電車の横に並走して来た軽トラの荷台に救われた俺だったが、トラックの荷台に乗っていたのは、桐原組のブッチョだった。

高田も飛び移り、電車に乗っていた連中を置き去りにして逃げる事が出来た。

サウナで待っていた相田は、お前は、橡脇グループ、反橡脇グループ、フリーの3派から狙われていると教えてくれるが、熱さ慣れしていない俺は早く部屋を出たかった。

スーツを着たまま、護衛としてサウナ部屋の中で立っていたブッチョは、その場でふらついて倒れてしまう。

フリーってのは何だと聞くと、これをきっかけに男を売ろうとする奴らの事だと言う。

相田は、これで、先日の借りを返した気でいるらしく、待合室に妙なのがいたから、裏口から出て行けと忠告してくれる。

その相田が用意してくれたらしき黄色い妙な服を着た俺がバー「ケラーオオハタ」に来てみると、弓子と高田がのんきにオセロをやっているではないか!

俺の名を騙って警察に電話をしたのお前だろ?と俺は弓子に詰め寄るが、弓子は大阪弁でまくしたてて来るだけだった。

そこに、マスクをした客が入って来たので俺は緊張するが、高田は、風邪が流行っているだけだとのんきに答える。

しかし俺は、出よう!ここも危ないと2人に言い聞かせる。

俺たちは、本名安太郎ことフローラに会いに出かけると、どんな風に脅かされたのか教えてくれと頼む。

今でも話したくなさそうだったママだったが、ビリヤード場に来ると、渋々と言った感じで、トオルと言う子を覚えている?と言い出し、スマホ画面でホステスの男の子の顔を見せると、マサコと仲が良かったのよと言う。

そのトオルがマサコから、新宿にいた時、橡脇と出来たんだって聞いてたので、それを店でぽろっと言っちゃったらしいのよ。

で、そのトオル君は?と聞くと、消えたのだと言う。

それ以来、ママたちも怯えてしまったと言う事らしかった。

一緒に話を聞いていた高田は、オホーツク海に沈められちゃったかな?などと悪い冗談を言い、怯えたままは俺に抱きついて来る。

実家がどこか分かるか?と聞くと、確か、室蘭の製鉄所の団地だって言ってたと言う。

その後、室蘭に向かう事にした俺が待っていると、高田が例のポンコツ車に乗ってやって来たので、俺は思わず、これ、車検取ってる?と聞いてしまう。

取りあえず、俺たちはすすきのを離れた方が良さそうだしな…と弓子に説明して車に乗り込むと、何故か弓子も一緒に乗って来ようとしたので、断ろうとすると、自分が依頼人だから等と言い出す。

その時、高田が、こちらに気づいて駆け寄って来る男三人を発見したので、ヤバいと判断、やむを得ず弓子も乗せると、車を発進させる。

ポンコツ車は何とか無事動いてくれる。

翌朝、俺等は室蘭に到着していた。

車を降りた弓子は港でカモメ等を眺めていた。

その後、俺たち3人は、それらしき団地で、トオルの家を見つけようとするが、団地は大きく、とても見つけられそうにもないと諦めかけた矢先、女みたいな男だけど…とヒントを与えると、あっさりちよちゃんの息子さんだと分かり、今は、美容見習いをやっているとの情報を得る。

取りあえず、俺は、今来ている妙な服を着替えようとブティックに行ってあれこれ着替えてみるが、結局、これと言ったものがなく、安い兄ちゃん風の服で我慢する事にする。

トオルがいるらしき店にやって来た3人だったが、店はまだ閉まっていた。

そこに、買い物から帰って来た青年が、俺たちの姿を観るなり逃げ出そうとしたので、慌てて追いかけ、俺たちはフローラの仲間だ!店で会った事あるだろうと呼び掛け、何とかトオルを落ち着かせると店に戻る事が出来た。

一応、俺の髪をいじってもらおうとしてみたが、これはボクの手には負えません…と言われたので、諦める事にする。

すすきのから逃げて来た経緯を聞くと、店で橡脇とマサコの話をした後、客に誘われホテルに行くと、そこに別の男2人が待ちかまえており、200万円を出して、すすきのから出ろ!今度会ったらお前の命日になるぞと脅されたのだと言う。

橡脇事務所の入口を撮った写真を見せ、その時の男がこの中にいるか?と聞くと、すぐにトオルは、新藤艶子の背後写っていた男を指差す。

決まりだな…と高田が呟く。

話を聞き終え、店を帰りかけた俺たちだったが、後を追って来たトオルは、奴等から受け取った金を使って下さいと良い、100万を渡して来る。

全額渡したいけど、半分は母親に上げてしまったのだと言う。

俺は助かる!俺たちすかんぴんだからと言ってそれを受け取ろうとするが、弓子が、その金は今後のためにあなたに必要になるから取っておきなさいと余計なことを言いだしたので、トオルもその言葉に従い、俺はやむなく、その100万を返すしかなかった。

別れ際、トオルは、マサコちゃんとは同じ室蘭出身同士で仲が良かったと言うので、マサコは東京出身じゃなかったのか?と俺が聞くと、ここ出身と言う事は隠していたのだと言う。

何でだろうな?と高田も疑問を持ったようで、マサコの実家は分かるか?と聞くと、確か、家の窓から海と工場が見えてたと言ってたとだけトオルは思い出す。

しかし、その言葉だけで場所を特定するのは難しかった。

それらしき場所を巡ったり、昔の事を知っていそうな年輩の人に、ときたてつのすけと言う男の子がいた家を知らないか?と聞いてみたりしていたが、ときたさんの家と言ったら、あれは女の子じゃなかったかいな?などとらちがあかない。

その時、高田が、女の子みたいな男の子だったんじゃないか?と聞くと、ようやくときた家の事を思い出したらしき老婆は、奥さんが病気で亡くなった後、亭主の方が子供を置き去りにして家を出て行ってしまったので、その後は、親戚にでも引き取られていったのじゃないかと思わぬ事を言い出す。

どうやら子供時代のマサコちゃんは、親に捨てられ、1人で生きざるを得ない哀しい過去を背負っているようだった。

何とか、その元マサコちゃんの実家らしき家を見つけるが、観る影もないあばら屋だった。

海辺に来た俺は、嫌がる高田を無視して車の上に寝そべって海を眺める。

弓子は、流木で砂浜に落書きをしていた。

探偵ごっこは終わりだと俺は弓子に呼びかけるが、弓子は、辞める…、もうバイオリンを辞める。もう飽きて…、才能ないんや…、引退や!などと言い出す。

俺は唖然とするしかなかったが、何かを吹っ切ったように、弓子は車の側に戻って来ると、中山峠の「あげいも」食べようよなどとわざと明るく話して来る。

結局、その弓子の願いを叶えてやるために、中山峠を通って帰ることにするが、車中で「あげいも」を夢中で頬張る弓子には手こずらされる。

そんな中、運転していた高田が、さっきからずっと追って来ている車がいるんだが…と言い出す。

後ろを振り向いた俺は、その謎の車がどんどんスピードを上げて迫って来ると、俺たちの車にぶつけて来たので、ヤバいと感じる。

その内、後ろの車から身を乗り出して来た男の顔が観えたので、あいつ、何か観たことがあるな…と俺が思い出そうとした時、その男はマシンガンを撃って来る。

俺は焦って、ダッシュボードの中に入れていた銃を取り出し撃ち返そうとする。

しかし、背後にはもう車の姿はなかった。

次の瞬間、ボンネットに乗ってフロントガラスから俺等を覗き込んで来たさっきの男に気づく。

スピード上げて俺たちの車の横に付けた車から飛び移って来たらしい。

ボンネット上の男はフロントガラスを撃ち抜いて来るし、敵の車は背後からぶつけて来る。

高田は何とか、ボンネット上の男を振り落とそうとするが敵もしぶとくしがみついて離さない。

俺たちの車と敵の車は、露天商の店をぶっ壊して山の斜面を下り、俺たちは、何とかボンネット上の男を振り落とすと、敵の車は藁の山に突っ込んで停まる。

しかし、俺たちの車もエンストを起こしてしまい、もうそれ以上の走行は無理のようだった。

俺は、もう車、買い替えろ!と高田に怒鳴りつける。

ボンネットの男は又マシンガンを撃って来たので、俺も銃で応戦するが、互いに弾は当たらないまま、両者とも弾切れになってしまう。

やがて、藁に埋もれていた車から降りて来た敵は、そろってこちらに迫って来ようとするが、そこにサイレン音を響かせてパトカーが近づいて来たので、俺たちはそちらに近づく。

俺は弾切れの銃を思いっきり相手に投げつけ、マシンガンの男の顔面に命中させる。

どうかされたんですか?と警官に聞かれた俺は、車が故障して、あの親切な人たちに助けてもらっていたんですと説明したので、棒を持って迫って来ていた敵たちは、慌てて棒を背後に隠して作り笑顔を作り、そのまま近づいて来なくなる。

俺たち3人はパトカーに乗せてもらい、追って来れない彼らをその場に残し立ち去る。

先ほど銃が顔面を直撃したマシンガンの男は、鼻がへし曲がり、両目から血の涙を流し、口からは泡を吹いて悔しがる。

札幌に戻って来た弓子は、殺到したマスコミを前に、仕事を放棄して勝手な行動をとってしまった事を謝罪する。

同行していたあちらの2人は?と聞かれた弓子は、行動を共にしてくれた友人ですと紹介し、取材を近くで眺めていた俺と高田を無理矢理テレビカメラに映し出させる。

弓子としては、俺たちの顔を公にする事で、敵のおおっぴらな襲撃を防ごうとする意図らしかった。

自分が写っているニュースをテレビで観ながら、俺と高田は飯を食っていた。

その時、「トムボーイ・フレンズ」のヒロミから電話が入る。

店に行ってみると、いつぞやのマスク軍団が店を選挙しており、あのバットを持った男が昔の選手の名を挙げながら、ママを殴りつけていた。

ヒロミは、俺を呼び寄せた詫びを言うが、俺は、そんな事は気にせず、お前、最近の選手知らないだろ?年が分かるぜと挑発しながら、バットの男の前に進み出る。

テレビに写ったから、二度と手出しはしねえとでも思ったか?俺たちはそんな事関係ねえんだよ!とバットの男は凄む。

俺は、余裕を見せ、「イッツ ショータイム!」と大声を出すが何事も起きない。

どうやら打ち合わせが巧く行ってなかったようだ。

やむなく、俺はマスク軍団と殴り合いを始めざるを得なかった。

やがて店内の照明が消え、ミラーボールが廻り始め、突然、店内にスプリンクラーが放水し始める。

その時、ようやく店に中に入ってきた高田は、ビールケースが邪魔だったんだよと遅れた言い訳をすると、マスク軍団を倒し始める。

大半の敵を倒し、残っていたバット男に近づいた高田だったが、次の瞬間、バット男が振り抜いたスィングで頭部を殴られてしまう。

それに気づいた俺は焦って駆け寄ろうとするが、高田は急に飛び起き、キック一発バット男をけり飛ばしてしまう。

血の出た側頭部を触りながら、痛えよ…、油断した…と弁解する。

マサコちゃん殺したのお前たちか?と倒れていたバット男に俺は詰め寄るが、バット男は違いますと急に低姿勢に否定する。

橡脇の部下か?と聞いても、私は運送屋で、そんな人の事は知らないと言う。

金で雇われたのか?と聞いても、私たちは有志の集いであり、ただの市民ですなどとバット男は言い、脱原発を推進したいだけですなどと言うだけだった。

その後、松尾に会いに行った俺は、橡脇のことを書けよと頼んでも聞く耳を持たないような松尾の及び腰にいら立って帰りかけるが、その時、バラの花束があったそうだ…と松尾が喋りだす。

橡脇がその花束を買った事の裏も取れていると教えてくれた。

俺は、マサコちゃんが室蘭で親に捨てられ、その後、どうやって生きて来たのか知りたいんだ。分かったら教えてくれと言い残して俺は帰ることにする。

橡脇事務所の向かいのビルの踊り場で高田と会った俺は、20分経ってもお前が出て来なかったら乗り込むと言う、あまり当てにならない高田の言葉を聞いて、事務所に乗り込むことにする。

そこにいた新藤艶子は、今忙しいと言いながらも、こちらが強気に出ると、いくら欲しいの?といきなり言い出す。

室蘭の少年が200万だったらしいから、俺は2倍貰おうか?と冗談で返すと、その場で本当に金を用意しそうなそぶりを見せたので、ゆすりたかりのチンピラと一緒にするな!奥にいるんだろ?と言いながら歩き始めると、その奥のドアが開いて橡脇が顔をのぞかせ頷いて来る。

ようやく橡脇孝一郎(渡部篤郎)と対面した俺は、私が殺したと思っているんだろう?、テレビに出たのを観て会ったのは確かだと、橡脇から先に告白される。

しかし、花束を渡し、忙しいんでしょう?もう行ってとマサコに言われたので、握手だけして別れたと言う。

それを聞いた俺は、廻りはそう思わなかったんだ…と俺が指摘すると、新藤は否定したが、新藤すら全て把握している訳ではないと橡脇は言う。

俺を襲って来た奴も、あんたを信じた市民と言ったよと俺は教え、あんたが石に躓いたら、誰かが嬲り殺しにするのか!と迫ると、私には私の役割がある…、今私が倒れたら今まで積み重ねて来た事が水の泡になってしまう。私を信頼してくれる人がいる限り…などとぐだぐだ言うので、あんたは人が信じられないから、薄汚い札束を集めてるんだろが!と俺は切れる。

しかし橡脇は、金が目的ならこんなことできないよと言いながら、部屋の隅に積まれた段ボール箱の1つを取って床にぶちまける。

そこには数多くの投書が散らばっていた。

私を応援する手紙は民衆の意思なんだ。私はその先頭に立たされているだけなんだ。やり遂げなければ行けないんだと言う橡脇は、もし、内の中に人殺しがいたら、私はどんな罰でも受ける。3年でカタを付けて見せるから、それまで仕事をさせて欲しいと言う。

マサコは悲しむだろうと思わないのか?と俺が問いかけると、如何に思うときれいごとを並べ。私は人間としての言葉を捨てたんだ。私は政治家になったんだと言うので、ピエロの間違いじゃないのか?と俺が皮肉ると、それも本望だとまで言う。

その時、新藤艶子がわざとらしく、開け放っていたドアをノックして注意を牽くと、お見えになりましたと橡脇に伝える。

それは、子供たちが、原発廃止希望を書いた自分の作文を橡脇に手渡す所を取材陣が囲むと言うパフォーマンスショーだった。

俺は黙って、事務所を後にするしかなかった。

喫茶「モンデ」で、弓子と高田と落ち合った俺は、橡脇に宣戦布告して来たとうそぶき、刑事訴訟しよう。証言台に立つ商人もいるからなどと作戦を打ち明ける。

誰かが動けば、後に続いて来るものがいるって、あんたが言ってたじゃないかと俺は説得するが、黙って聞いていた弓子は、おもろいな…と言いながら立ち上がると、私はこれからマネージャーと会ってこれからの事を話し合うから…、さよなら…と言い残し帰って行く。

案外あっさり納得してくれたように思うけどな…と高田も、若干釈然としない結末だった感じをにじませるが、俺とすすきのの街に繰り出す。

大きなモニタースクリーンに、橡脇は大通公園で、これから演説会を行うと言う告示を流していた。

その時、客引きの学生が俺に近づいて来て、あんな奴をやっつけるのに出来る事があったら何で言って下さいと声をかけて来たので、高田と3人で昼間っから酒を飲みにいく事にする。

酔って来た学生は、絶対、橡脇をぶっ潰しましょう!などと意気盛んだったが、俺は何となくすっきりしないやけ酒気味だった。

その内、学生は、あいつマサコちゃんに花束等渡しやがって…と言い出したので、それを横で聞いていた俺は何か違和感を感じ、何で花束の事を知ってる?警察以外には知られていないはずだけど?第一、お前は、橡脇がマサコちゃんのマンションから帰って来る所を観たんだろう?と突っ込むと、学生は、マンションに向かう所だったかな?聞き間違えですよと訂正して来たので、だったらもっと変なんだ。橡脇はあのマンションにタクシーで行ってるんだと俺は矛盾点を指摘し、お前か?お前なのか?と学生に迫る。

学生は必死に笑ってごまかそうとしていたが、お前が殺したんだな!と俺がとどめを刺すと、このクソ便利屋が!と急に逆上して俺の首を絞めて来る。

横で飲んでいた高田があっさり学生を殴り倒してくれたので、何でだよ?何でお前なんだ?と俺が信じられないように問いつめると、ゴミを捨てたんだよ。あんな女の格好している奴なんてゴミだろう?くだらない手品なんかでテレビに出やがって…と憎々し気に学生は吐き捨てる。

マサコちゃん、テレビに出たの、みんなを楽しませて来たからだよと俺は言い聞かそうとするが、俺もそうやって来たんだけど、こっちはず〜っとどん底だったんだ。あいつ、俺より良い部屋住みやがって…。だから処分したんだよ。あれ、燃えるゴミだべ?と学生は笑いかけて来る。

(回想)マンション裏で橡脇から花束を受け取り別れたマサコが1人余韻に浸っていると、その背後から忍び寄って来た学生が、トンカチでマサコちゃんの頭部をめった打ちにして斬殺する。

(回想明け)狂ったように笑い続ける学生を観ていた俺は、何なんだよ…と呆然とするしかなかったが、急に店を飛び出し、表の通りに走って逃げようとした学生は、走って来た車に撥ねられ、その場で即死してしまう。

そこに駆けつけた俺と高田は、取りあえず、依頼人への報告を優先させる事にし、高田の携帯を借りて、弓子のマネージャーを呼び出し、弓子さんと連絡を取りたいと申し出る。

しかし、電話に出たマネージャーは、弓子は携帯もバイオリンもここに置いたまま、まだ帰って来ていないと言うではないか。

さっき、マネージャーに会いに行くと言って別れたんですが…と俺が説明すると、そんな予定はないと言う。

訳が分からないまま電話を切った俺だったが、すぐに又、松尾から電話が入り、マサコちゃんの過去を調べていたらすごい事が分かったと言う。

父親が失踪した後、マサコちゃんは東京の親戚に引き取られたんだが、折り合いが悪く、そこを飛び出すと、10代で新宿に出て店で働きだしたらしい。

そして、そこで稼いだ金は、ある人に送っていたんだ。

それは、大阪に引き取られた彼の妹なんだと言うではないか!

全てが分かった探偵は、高田と共に大通公園に走り出していた。

妹のバイオリンのレッスン料を出していたんだ!と松尾が言うマサコちゃんの妹とは河島弓子に違いなかった。

室蘭で会った老婆が迷っていた、女の子だったのではないかと言うときたけ家の子供の記憶は、女の子のような男の子ではなく、男の子と女の子の2人だったのだ。

大通公園では、 橡脇孝一郎の演説会が始まっており、彼の支持者たちが大勢詰め掛けていた。

その中に、バイオリンケースを手にした弓子も混じっていた。

弓子は、演説を終え、支持者たちの中で握手をし始めた橡脇に近づきながら、ケースの中からナイフを取り出す。

その時、公園にやって来た俺と高田は、手分けして弓子の姿を探し始める。

高田は、群衆の中央部に立っていた報道カメラ用のやぐらによじ上り、弓子の姿を見つけると、俺の方に合図を送って寄越すが、声が届かない。

高田は、やぐらの上まで昇り、そこにいたスタッフのかけていたメガネを取り上げると、そのメガネのレンズで太陽光を俺の顔に当てて注意を牽くと、弓子のいる位置を手振りで教える。

俺は群衆の中をかき分けて弓子に近づく。

弓子は、橡脇のいる場所の目の前まで迫っていた。

弓子がナイフを前に突き出して進みかけると、横から飛び出して来た俺が彼女を抱きかかえる。

彼女のナイフは、俺の腹に突き刺さっていた。

どうして…?と呆然とする弓子に、探偵は依頼人を守らなきゃならないんだ…、厄介な事にさ…と俺は答える。

そんな俺たちを取り残し、橡脇と彼の支持者たちは移動して行く。

橡脇はちらりこちらを振り向いたようだったが、後ろ向きの俺の背中と、俺に隠れた弓子には気づかないようだった。

俺は入院するが、幸い内臓には傷が付かなかったようで、担当看護婦にまでからかわれる始末だったので、見舞いと称して、傷を縫った直後の俺を笑わしに来ただけの高田に、退院するぞ!と俺は宣言する。

バー「ケラーオオハタ」に戻った俺は弓子と再会し、これからどうする気だ?と聞くと、探偵の助手でもやろうかな…等と言うので、断るよ。間に合っていると答えた俺は、あんたはあんたの世界に戻った方が良い。マサコちゃんもそれを一番望んでいるはずだと俺は言い聞かす。

プロになって成功したら、お兄ちゃんを呼ぶ。一緒に暮らそうってずっと言ってたんだ…。でもお兄ちゃんは、俺のことはふせとくんだ。俺がいることが分かったら、何もかも水の泡だからなって…。そんなことあらへんよね?でも私は結局、お兄ちゃんを呼ばなかった…。私やねん、お兄ちゃんを見捨てた張本人は私やねん!と弓子は自分を責め始める。

うぬぼれんじゃないよ!と俺は叱りつける。あんたが呼んだとしても、行かなかったと思うよ。だって、マサコちゃんはすすきので最高の仲間たちに囲まれていたんだから…。これだけは言っておく。マサコちゃんは、最高の人生送ったよ…

その後、俺は、久々にステージに立って演奏する弓子の姿を会場の一番後ろで見守っていた。

ステージに立っていた弓子は、バイオリンを手にして緊張しているようだったが、兄が呼びかける声が聞こえたようで、自然とバイオリンを奏でだす。

子供時代、親に捨てられ、兄1人妹1人だけになった時、ずっと彼女にバイオリンを勧め、その演奏を褒め、勇気づけて来た少年時代の兄の事が思い出され、自然と、弓子の表情に笑顔が戻って来る。

そんな弓子が立ち直った姿を確認し終えた俺は、そのまま黙ってコンサート会場を後にすると、すすきのの街に戻って行く。

ビルの屋上であった高田が珍しくタバコを勧めてくれた。

優しいっすね…と言いながら、ライターで火をつけてもらった俺は、何気なく夜空を見上げ、落ちて来た雪に気づくと、又冬だな…と呟く。

すると高田は、雪って、何だかワクワクしないか?等と言いだしたので、子供だな、お前は…と俺はからかう。

その後、バー「ケラーオオハタ」に戻って来た俺と高田は、いつものように、マスターからピース缶と太田胃散の薬を受け取り、2人でオセロを始めるのだった。

エンドロール

後日、観光馬車を見張っていた俺は、馬車が動き出したので、車を走らせるよう高田に命じるが、エンジンをかけた瞬間、ボンネットが爆発して煙を噴き出す。

買い替えろって言ったよな?と俺が苛つくと、買い替えたよと高田が言い訳するので、どう観ても前と同じ車だろ?と俺は突っ込む。

同じ色の車を買っただけだと、なおも高田は引こうしないので、今度買うときは真っ赤な奴買ってくれ!と俺は切れてしまう。