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太鼓たゝいて笛吹いて

喜劇役者も出演している旅芸人一座ものだが、喜劇と言うよりは、ある集団に集まった人間模様と言った感じの人情話である。

さすがに、菊田一夫原案、小国英雄脚色だけに、幼い頃生き別れた母子と言った通俗な話が出て来るが、べたべたとしたありきたりのお涙頂戴物にもなっていないので安心して観ていられる。

アクション等はない展開だが、劇中劇の形で披露される「仮名手本忠臣蔵」や「塩原多助」と言ったお芝居の内容もなかなか興味深いし、いつものまじめな青年イメージとはひと味違う色悪を演じている小泉博や、いつも悪役のイメージが強い上田吉二郎が意外に律儀そうな宿の主人を演じていたりするのが珍しい。

藤原釜足が良い役所を演じているのが嬉しいし、先頃亡くなった千石規子も、どこかずるいような達観したような大人の女を演じており、地味な役所ながら印象に残るキャラクターになっている。

若くまじめ一方の堅物風侍を演じている土屋嘉男、ユーモラスな下っ端役者コンビを演じている三木のり平、有島一郎などの助演も手堅い。

後に大映に移る中田康子が、塩沢ときと同じポジションの脇役を演じていたり、平田昭彦や久慈あさみが出番が少ないながら重要な役所を演じていたりと、この当時の映画好きにはなかなか面白い内容になっている。

主役のおけいを演じている宮城まり子は、劇中設定の20代前半と言うには、かなり年増に見えてしまったりするが、その辺は当時の人気者と言う事で気にしないようにする部分なのだろう。

宿場町や芝居小屋のセットは、明らかにどこかの場所に作ったオープンセットなのだが、意外としっかり作られており、それなりに製作費を注ぎ込んでいるらしいと推測できる。

当時の宮城まり子人気が今ひとつ分からないので、今この作品を観ると、強力な動員力を持ったスター不足だったのではないか?との疑問もあるが、全体的に地味な印象ながら、味わい深い佳作になっている。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1958年、東宝、菊田一夫原案、小国英雄脚色、杉江敏男監督作品。

江戸時代

藪原宿と言う小さな宿場町

触れ太鼓を担いでいる団七(三木のり平)、団八(有島一郎)と共に、その太鼓を打ちながら町中に興行を知らせ練り歩いていた旅芸人市川団九郎一座の下働きであるおけい(宮城まり子)は、本陣「つるや」の店の前で、すれ違った武士にぶつかり転び、無礼だぞ!河原コ○キの分際で!と怒鳴りつけられるが、一緒にいた奥方風の女性がその連れの侍を諌め、大丈夫ですか?と優しく声をかけて来たので、もったいないと恐縮する。

その触れ太鼓を興味深気に観ていた小料理屋「たきのや」の使用人おてつ(中田康子)が店の中にいたおきよ(塩沢とき)に、又あの芝居が来たよ。女将さんは?と聞くと、下諏訪に出かけたと言うので、あれほど血道上げていたくせにさと呆れる。

興行が行われる新田の空き地までやって来たおけいらだったが、太鼓を担いでいた団七と団八は、その場にいたのが数人の子供だけだと知ると、もう声を上げるのも面倒くさくなって止めてしまう。

町中の人ごみを練り歩いても、怒鳴られるだけだったからだ。

一方、「つるや」に泊まった先ほどの奥方とお付きの侍は、主人の宇兵衛(上田吉二郎)が部屋に挨拶に来ると、自分は用人左内(土屋嘉男)と名乗り、このお方は、尾州藩士大沢頼母の妻お梶様(夏川静枝)であると紹介する。

お梶は、尋ね人があって当地に来たのだが、20位の娘で、両親を知らぬ者がこの辺に住んでいないだろうか?当時、火事騒ぎに取り紛れて、子供を見失った母が私ですと打ち明ける。

それを聞いた宇兵衛が、それは捨て子…と言うような事でございますか?と首を傾げながら聞くと、左内は、そのようなあからさまな言い方をするでないと叱りつけるが、お梶は、そのようなものですと肯定する。

新田の空き地にある掘建て小屋を、芝居小屋兼住まいにすることにした団九郎一座だったが、その外で、おけいは、1人夕食の準備をしていた。

そこに、一座の座頭、団九郎の息子の若旦那こと団之丞(小泉博)が近づいて来て、お前、町に行って「たきのや」は廻って来たか?と聞き、おたきから連絡があったら知らせるんだぞ。親爺には内緒だぞと言いつける。

小屋の中に入ってきた団之丞に、義母に当たるおしの(千石規子)が、少しは芸に身をいれたらどうなんだい?と嫌味を言い、父親の団九郎(三津田健)は、女遊びが過ぎる息子に、稽古を付けてやるから、芝居の公演中は外を出歩くんじゃないと釘を刺す。

楽屋では、おけいを呼び寄せた役者の阪東彦右衛門(益田喜頓)が月代を剃るように命じるが、隣で化粧をしていた女形の中村扇升(堺駿二)も、おけいにお歯黒を出すよう命じたため、両者でおけいの取り合いになる。

中村万若(沢村いき雄)は、おれの印籠はどこにやったとおけいに聞くし、おけいは身体がいくつあっても間に合わないくらいこき使われていた。

そんな楽屋にやって来た阪東梅蔵(藤原釜足)の妻おとく(久慈あさみ)は、下座の簾が破れているよとおけいに修理を命じると、楽屋の中にいた二枚目役者の中村新之助(平田昭彦)に目配せをすると、亭主の梅蔵に、親方の衣装を調べたかい?と声をかけ、楽屋から追い出すと、芝居がはねたら、いつもの水車小屋で…と新之助に耳打ちする。

そんな女房の怪し気な様子を、梅蔵は気づいていた。

おけいが下座の簾の破れを修繕していると、またが月代はまだかと呼んで来るし、そろそろ出番が近づいたぞ、飯はまだかとと言われて、初めて、外に鍋を焚きっぱなしにして来た事を思い出し、慌てて確認に行くが、飯を焦がしてしまった事に気づくと、炭を1つ中にいれて、役者たちの所へ持って行く。

おしのに、飯を焦がした詫びをすると、炭を入れておけば良いんだよと言ってくれるが、その飯鍋から飯をよそって食べていた中村扇升が、知らずに炭を口に入れてかじってしまう。

夕方になり、おけいが拍子木で、開幕合図である二丁を入れる。

そんな中、下諏訪に出かけ、先乗りの案配を観て来た頭取弥兵衛(藤尾純)が戻って来て、手島屋こと嵐権十郎一座が興行を行っていた。

諏訪巌守様の初見を江戸で受けたお礼と称しているが、その評判を聞いた近隣の殿さまたちも、皆、江戸で評判の手島屋に声をかけたようで、これから先々、自分たちが行く所には手島屋が先に興行を張っていくようだと、団九郎に報告する。

それを聞いた団九郎は暗澹たる思いに駆られる。

江戸の人気役者が興行をした後に、自分たちのような田舎芝居が行っても客が来るはずがなかったからだ。

いよいよ舞台の幕が引かれ、出し物である「忠臣蔵」が始まる。

おけいは、役者たちの準備の手伝いから、自分自身も端役の1人として舞台に上がったりと、八面六臂の忙しさ。

梅蔵の女房のおとくが、三味線に合わせ語りを担当していた。

出番を待っていた団九郎 は、団之丞の相手は「たきのや」と言う料理屋の女将らしいが、あの女は太夫元であるつるやさんの女らしい。このままにしておくとどんな事になるのやら…と案じていた。

客席には、「たきのや」のおてつとおきよが来ていたが、女将のおたきの姿は見えないことを、舞台に上がっていた団之丞は観察していたので、団之丞は女将さんを探しているみたいだけど、江戸の役者を引っ掛けようと下諏訪まで行ったとは知らないで…とおてつとおきよは、ひそひそ話をして笑い合う。

そんなおてつとおきよも、舞台に贔屓の女形中村扇升が登場すると、大喜びして声援を送る。

塩谷判官高貞を演じていた中村新之助が、切腹を前に、由良助はまだか?と何度も聞くお馴染みのシーン。

その頃宿場の「つるや」では、女中がお梶と左内に、今、村はずれで芝居をやっています。退屈しのぎにご覧に行かれてはどうですか?と勧めていたが、左内は、そんな下賎なもの…と憤慨するが、お梶の方は、芝居なら近郷近在の者も集まっているやも知れないと思いつき、出かけてみる事にする。

芝居小屋では、猪役の団七がかぶり物をかぶったまま、団八相手にキセルのタバコを吸いながら、役者は女にモテると言ったって、俺たちゃまだ人間の役もやった事がなく、当たり役と言えば猪か馬だ。女が出来ないのも当たり前だと愚痴をこぼし合っていた。

その時、団八が突然、お前、おけいの事をどう思っている?と言い出す。

大根の尻尾でしかないおけいだけど、おれはあれで我慢しようと思う。一応、お前が気がない事を確かめたかっただけなんだと言うので、団七は急に焦り出す。

そんな中、お梶が「つるや」の女中と左内を連れて、小屋にやって来たのに気づいたおけいは、あのお優しい奥方様が来たよと嬉しそうに呟く。

舞台では、未だ姿を見せない大星由良助に会うのを諦めた塩谷判官が、腹に刀を突き刺した時、ようやく由良助が駆けつけて主君の最期を見届けるシーンをやっていた。

瀕死の塩谷判官は、由良助にこの刀が形見じゃと伝えた後、自分で首を斬り果てる。

その腕から刀を懐紙に挟んで受け取った由良助が、その場を立ち去ろうとするが、その時、由良助がばったり倒れ込んだので、舞台上で芝居をしていたおけいたちは驚愕する。

もちろん、それは芝居ではなかったからだ。

すぐさま幕が引かれ、客には頭取が割り札を渡し、又来て貰う事にし、倒れた由良助役の団九郎は寝かせられる。

座員たちは、いつも通り、芝居がはねた後は、町の料理屋「おたきや」で酒を飲んでいた。

阪東彦右衛門と中村扇升は、得意の隠し芸「皿回し」を披露していた。

その後、中村万若はおてつ、扇升はおきよがしがみつき、私と一緒になりなさいよなどと口説かれていたが、そんな中、団七と団八だけは蚊帳の外だったが、そんな2人に料理を運んで来た醜女の女中が憧れなの等と言い出したので、2人は複雑な気持ちになるが、女中が新之助さん連れて来て!と言うので、自分たちの事ではな方と知り、がっくりする。

それを聞いていた彦右衛門は、あいつはいけねえ、罪深い事をしやがるからな…と呟く。

その頃、村はずれの水車小屋で落ち合っていたおとくと新之助は、近くに人の気配を一瞬感じながらも、抱き合いながら、一緒に足抜けをする相談をしていた。

新之助は、亭主持ちであるおとくを誘った事に一抹の罪悪感を抱いていた。

亭主の阪東梅蔵は、おとなしく良い人間だったからだ。

水車小屋の窓から、そんな2人の様子を密かに覗き観ていたのは、その梅蔵だった。

芝居小屋の前の小川で、歌を歌いながら夜遅くまで洗濯をしていたおけいは、酔って帰って来た団之丞が不機嫌そうである事に気づく。

どうやら、会いに行った「おたきや」の女将が、嵐権十郎一座の若手をあさりに下諏訪に行った事を知り、自分が捨てられたと悟ったからのようだった。

小屋の中に入った団之丞は、おけいを呼び入れると、酌をしろと言いながら、じっとおけいを見つめるので、さすがにおけいも身の危険を感じる。

みんな女を抱いて寝るのに、おれだけが膝を抱えて寝ろって言うのか?と言う団之丞に、おけいは、私のような者では…と恐縮しながら逃げる。

そんな義理の息子の醜態を、おしのが部屋の外で密かに聞いていた。

「おたきや」で酔って寝ていた団八が目を覚まし、団七を探して隣の部屋に入ると、そこにはおきよと抱き合っていた中村扇升がいたので、詫びを言って別の部屋に入ろうとすると、そこでも役者と店の女が抱き合っていた。

団七がいないことに気づいた団八は、先に帰ったと女中から聞くと、嫌な予感がしたので、自分もすぐさま小屋に帰ることにする。

すると、案の定、先に小屋に戻っていた団七が、表で洗濯物を干していたおけいに、お前は大根の尻尾なんで、この先一生待っていても男なんて出来ないだろうけど、おれはお前で我慢するよなどと口説いているではないか。

それを聞いた団八は、おれが言ったことをそのまま使いやがって!と言いながら、団七につかみ掛かり、2人は小屋の外でもみ合う。

そんな2人を他所に、小屋の中でいつの間にか寝入ってしまった団之丞に、おけいはそっと羽織をかけてやるのだった。

数日後、病床に付いていた団九郎が逝ってしまう。

雨の中、残された役者たちで、今後の話し合いが行われるが、その場に、おとくと中村新之助の姿がない事にみんなは心配する。

すると、梅蔵が、あの2人はも帰って来ません。駆け落ちしたんでさぁ…。かみさんと言ったって仲人を立てた訳でもないんですから…と言い、頭取に話を初めて下れと頼む。

一同はちょっと動揺するが、頭取は、座頭と二枚目がいなくなったのではどうしようもなく、一寸先は闇だ。もう一座を解いてしまおうかとも思ったが、太夫元に借りがあるし…と一座のみんなに説明するが、その時、今日も町に出ていた団之丞が帰って来る。

その頃、「たきのや」の女将おたき(草笛光子)も、成合の宿のとある宿にカゴでやって来ていた。

そのおたきの動静を探っていたのは、つるのや宇兵衛からの頼みで監視していた地回りの吉五郎(田島義文)だった。

雨が上がったので、「つるや」に逗留していたお梶と左内は、旅立とうと準備をしていたが、そこに挨拶にやって来た宇兵衛が、あまり卑しい者なので、今まで申し上げなかったのですが、今村はずれにいる旅芸人役者の中の娘が捨て子だったと思います。20年前、宿が火事のときも、あの一座がかかっていたような気がしますと申し出る。

その後、宇兵衛に会いに来た吉五郎は、おたきの奴、成合の宿で乳くり合ってたぜ。団之丞の奴を痛めつけますと報告する。

その頃、その団之丞は、おれのような者は消えた方が良いんだなどと呟いていた。

その小屋に訪ねて来たお梶は、対面したおしのに、20年前に生き別れた子供に持たせたお守り袋には、「大沢頼母の娘 けい」と書いてあったはずです。そして聞けば、こちらにいる娘の名もおけいだとか…と打ち明けていた。

しかし、話を聞いたおしのは、うちのおけいは、ちゃんとした百姓から身代金を払って貰い受けた娘ですと答える。

それを聞いたお梶は、確かに、実の娘であったとしても、20年も経って、今さら親子と言うのも身勝手な話…と自戒すると、小屋を後にして帰ろうとするが、その時、当のおけいは、表で料理をしており、食べられない大根の尻尾を切って、側の小川に捨てている所だった。

その姿を目にしたお梶は、溜まらなくなって近づくと、これを私だと思って…と言いながら、自分の簪をおけいに握らせて急ぎ足で帰る。

いきなりの事に驚いたおけいだったが、お梶の後を追おうとすると、同行していた左内が立ちふさがり、黙っておけいを止める。

その様子を小屋の影から観て、頷いていたのは阪東梅蔵だった。

その直後、問屋場の若衆等が乗り込んで来たと知らせを受けたおしのは、団之丞とおけいを呼んでおくれと命じる。

2人がおしのの部屋に来ると、お前たちはすでに夫婦になっているようだが、祝言するんだよといきなり言い出す。

そこに吉五郎たちが乗り込んで来て、団之丞を借りて行くぜとおしのに告げるが、おしのは、何の話だね?団之丞なら、このおけいと祝言する所だよと答えたので、吉五郎は、これが花嫁だとよと仲間たちに言い、驚いてしまう。

その話を聞いた団七、団八も仰天していたが、梅蔵だけが落ち着いており、女将さんの思惑だよと言う。

しかし、団之丞は、あんなのに脅されて引っ込んでいる団之丞じゃねえやと啖呵を切り、小屋を飛び出して行く。

おしのは、その場に残っていたおけいに、お前は承知なんだね?と念を押し、おけいはもったいないとその申し出を受けるのだった。

それを聞いたおしのは、お前は今後、私の娘になるんだから、例えどんな所から声をかけられても、決して私を棄てないだろうね?と確認すると共に、女にモテない役者じゃ人気が出ない。私も死んだ亭主から随分泣かされて来た口だが、お前も役者の女房になる以上覚悟はしておくんだよと念を押すのだった。

その後、又役者たちを集めた頭取は、亡くなった団九郎の追悼公演をやる事になったと伝える。

語りをやるべき、おとくがいなくなったので、おけいはその代わりまで勤める事になる。

追悼公演の客席には、珍しくおたきが姿を見せていた。

そして、猿回し約の阪東彦右衛門と猿役の団七、団八に出番を知らせるおけい。

そんな芝居小屋の表にやって来た篭屋が、入口付近にいた梅蔵にお迎えに参りましたと言う。

その日の芝居も無事に終わり、おけいは客を送り出す拍子木も打っていた。

そんなおけいに近づいて来た梅蔵が、これ、団之丞にだと言って手紙を手渡して来たので、芝居を終えて裏に戻って来た団之丞に黙って渡すおけい。

その手紙を読んだ団之丞は、おけいが運んで来た着替えを観るなり、こんな汚い下着を着せようと言うのか!と怒鳴りつけ、衣装を足蹴にする。

おけいは素直に詫びながら、真新しい下着を持って来る。

そんな従順なおけいを観ながら、おれがおたきに会いに行くのがそんなに辛いか?と嫌味を言うが、おけいは、問屋場の人たちに見つからないようにと注意するだけだった。

迎えに来ていた駕篭に気づいたおしのは、団之丞かい?と座員に聞く。

一座の存続を手島屋に掛け合いに行っていた頭取が戻って来て、こんな時、新之助でもいてくれたら…と悔みながら、手島屋は今、身体の具合を悪くしたらしく、さる湯治場にいるのが、その一座に入れて欲しいって新之助が願い出たそうだが断られたそうです。もう八方ふさがりですよと落胆しながらおしのに報告する。

その話を横で聞いていたおけいはそっと座を外すと、

ちょうど、団之丞を乗せた駕篭が町に向かって出て行く所だったので、それを見送っていた団七と団八は、いくら役者の女房の宿命とは言え、これじゃああんまりだと、新妻のおけいに同情していたが、そこにやって来たおけいは2人を外に連れ出すと、力を貸して欲しい。これから手島屋に会って、一座の事を頼むつもりだと言うので、2人は仰天してしまう。

そんな事を無理だよと尻込みする2人に、やってみなければ分からないじゃない!とおけいは答える。

それでも、病気療養中の身で会ってくれないんじゃない?と弱音を吐くのだった。

「きのや」と言う当時宿で手島屋に会わせてくれと頭を下げていたのは、団九郎一座を足抜けした中村新之助とおとくだったが、応対に出ていた手島屋の番頭清三(山田巳之助)は、親方に会いたいと言われても、下諏訪の舞台で気分が悪くなり湯治に来ているのだから、今後は取り次いでくれるなの宿の主人に言いつけて下がってしまったので、取りつく島もないと知った新之助とおけいは、力を落とし宿を後にする。

その2人は渡る橋の下に隠れていたのがおけいと団七と団八だった。

新之助たちが門残払いされた様子を聞いていた団七は、これじゃあとっても手島屋にお目にかかれないか…と諦め顔だったが、団八の方は闇に紛れて忍び込むしかないかと呟く。

夜になって暗くなると、おけいと団七、団八は宿の庭先に忍び込み、宿の主人庄右衛門(瀬良明)が入る部屋が目的の手島屋がいる部屋だと見当をつける。

庄右衛門が養生していた嵐権十郎(河津清三郎)の加減をうかがうと、疲れがたまっていただけのようで大分良くなったと言いながら、もう普通に立って振る舞っていた。

上手な女の按摩がいますと庄右衛門が勧めると、呼んでもらいましょうと権十郎は頼む。

庄右衛門は店先にいた番頭に、おしげ呼んでくれと頼む。

その会話を庭先の木の陰で聞いていたおけいは、自分がその女按摩に成り済ますと言い出し、団七と団八に何事かを耳打ちする。

やがて、その女按摩(浪花千栄子)がやって来る。

店の勝手は良く知っていたので、女中が松の間まで手を引こうとしても、それを振り払って1人で向かう。

そのおしげを途中で呼び止めたのは団八だった。

おしげは、ここは桜の間では?と不審そうに立ち止まるが、団八は適当にごまかして、自分は手島屋の番頭で、中で主人が待っていると言って招き入れる。

部屋の中の布団の上で待っていたのは団七だった。

団七と団八がおしげの足止めをしてくれている間に、おけいは松の間に、目をつぶって入るが、すぐ前に置いてあった火鉢に躓いてしまう。

惜し気に身体を揉んでもらい出した団七は、側に座っていた団七に、おい番頭!煙草と命じる。

団八の方は最初知らん顔をしていたが、あまりにしつこく言うので、仕方なく、自分のキセルに煙草を詰めて、つまらなそうに団七に渡してやる。

すると、揉んでいたおしげが、権十郎さんと言えば江戸でも有名な役者さんだそうですが、偉い絞ってはりますな?と言い、安い煙草の匂いがしますと鋭い事を言い出したので、慌てた団七は、これは番頭のだから…とごまかそうとする。

しかし、感の鋭いおしげは、団七の身体の線を探りながら、これは権十郎の身体ではないと言う事に気づき始める。

一方、権十郎本人の肩を見よう見まねで揉んでいたおけいの方も、あんた、按摩じゃないね?私も役者としてメ○ラの所作は覚えて来たつもりだよと指摘され、もはやこれまでと観念して頭を下げていた。

おしげは大声で、偽物!と騒ぎ出していたので、団七と団八は部屋の外に逃げ出す。

その後、団九郎一座と合流して芝居をすることにした権十郎は、おしのや頭取を始めとする一座の者を集め、団九郎さんと言えば役者として兄弟のような仲間、その一座を助けるのは、おけいさんから事情を聞かなくても、知っていればやるつもりでしたと説明し、それでも全員雇うわけに行かないから承知して欲しいと前置きし、大道具や小道具係など必要とする役割の人間を聞く。

ところが、大道具は喜助(谷晃)が自分ですと名乗るが、小道具はおけいが自分ですと名乗り、その後の囃子方、チョボなどもほとんどおけいが兼ねている事を知った権十郎は呆れたようだった。

さすがに、江戸の人気役者手島屋こと嵐権十郎の舞台と言う事で、小屋の規模も違えば、満員札止めになるほど超満員の客席の様子も、団九郎一座とは桁違いだった。

頭取がまず登場し、団九郎追善興行の口上を述べると、幕が開き、嵐権十郎十八番中の十八番「塩原多助」の芝居が始まる。

こんな大舞台に出た経験がなかった団七と団八は、馬役の格好で緊張のあまり震えて出番を待っていた。

塩原多助役の権十郎に引かれ、馬役の2人も舞台に登場する。

馬の青を引いていた多助は、途中で梅蔵扮する友人の円次と出会う。

売りに行こうとしていた青がなかなか言うことを聞かないと太助が嘆くと、円次が変わって引いてみると動くので、そのまま円次が馬の青を引いて歩いて行く。

その舞台を舞台袖から観ていたおしのは、感激して泣いていた、

一方、吉五郎たちに見つかり追われていた団之丞は、追善興行をやっている芝居小屋の中に紛れ込み、手ぬぐいで顔を隠しながら、舞台の芝居を観始める。

舞台は場面転換し、草むらに隠れていた賊が、青を連れて近づいて来た円次の前に現れ、いきなり刀で突いて逃げ去ってしまう。

そこに遅れてやって来たのが多助で、道に倒れていた円次に気づき、驚いて抱き起こすと、血まみれになっているではないか。

語りを演じていたのはおけいだった。

芝居小屋の外では、団之丞を追って来た吉五郎一味が、ここへ逃げ込みやがったのかな?と言いながら楽屋裏に侵入して来る。

舞台上の多助は、侍が家に入り、嫁や姑に手を付けたと漏らし、自分の義母とその娘である自分の女房が自分を殺させようと計り、間違って円次を突いてしまったと気づき、嘆き悲しむが、瀕死の円次は、ここに600両あるから持って逃げてくんろと金を差し出し、そのまま息絶える。

吉五郎たちは舞台裏の楽屋を覘き回り、団之丞を探していたが、ある部屋の中では、亡き夫の位牌を拝んでいるおしのが1人でいたので、団之丞はどこだ?宿の出入口は全部塞いだから逃げられねえぜと脅す。

舞台では、買い主の多助と別れる事を動物ながらも悟ったのか、馬の青も泣いている事に気づいた多助が感激し、女房のおえいが亭主のおれを殺そうとするだよ。これが別れだよと語りかけ、その青をその場に残して花道に去って行くクライマックスを演じていた。

観客は皆泣いており、大拍手の中、芝居は終わる。

大舞台を無事勤め上げた団七と団八が舞台裏に引き下がって来ると、待っていた仲間たちが良かったよと声をかけてくれ、同じく下がって来た手島屋までもが、自分もこれまで江戸で何度もこの役をやっているが、今日くらい見事な馬は初めてだと声をかけてくれたので、感激した団七と団八はその場で泣き出してしまう。

その頃、団之丞は、おたきを待たせていた宿に戻って来ていたが、どこに行っていたのさ?一座に行ってたんだろう?と見透かされる。

お前さん、随分人を踏みつけにしてくれるね。そんなにおけいが恋しいんじゃ、さっさと帰って元の鞘に戻りゃ良いじゃないかと毒づくおたきは、私は自分の店を捨てて来たんだよと恨み言を言う。

さらに、ここであんたに捨てられるくらいなら、お前さんの手にかかって殺された方がましさ等とまで言うので、黙って聞いていた団之丞は、お前がそこまで言うのなら死のうか?手を貸そうか?と答える。

おたきがさすがに固まっていると、吉五郎たちが部屋になだれ込んで来る。

すると、助けが来たかのように吉五郎ににじり寄ったおたきは、私は騙されてここに連れて来られたんですよと被害者面をして言い逃れようとしたので、それを唖然としながら観ていた団之丞は、部屋の行灯を倒すと、窓から屋根伝いの外へ逃げ出し、吉五郎たちもその後を追う。

芝居がはねた団九郎一座の面々は、いつものように料亭で酒を飲んで楽しんでいた。

阪東彦右衛門と中村扇升コンビによる皿回しの芸もいつも通りに行われていた。

そこまで愉快そうに付き合っていた権十郎は、病み上がりの身体なのでと詫びを言い、先に自室に戻って行く。

その後を付いて行ったおけいが、部屋の前で今日の礼を言い、お休みなさいませと挨拶をして帰ろうとすると、ちょっと話があると言って、権十郎はおけいを部屋の中に呼び入れる。

番頭役の清三は気を利かして出て行こうとするが、あんたも一緒に利いてくれと権十郎は止める。

そして権十郎は、おけいに対し、お前さん、おれの女房になってくれないかと言い出す。

それを聞いたおけいは驚き、私のような大根の尻尾…と言うので、権十郎がその意味を聞くと、大根は他の部分は全部食べられるけど、尻尾の部分だけは捨てるしかない役立たずの部分と言う事で、ずっとそのように呼ばれて来たとおけいは説明する。

しかし、権十郎は、あんた、自分の値打ちを自分で分からないだけだと説得しようとするが、おけいは、私には夫があるんです。団之丞と言う…と言い訳する。

その時部屋に入ってきたのは、おけいの後を付いてこっそり部屋の前で中の様子をうかがっていた阪東梅蔵だった。

梅蔵は、自分も、本日のお礼を言いに来たのだが、障子の外で話を聞いたもので…と言い訳し、おけいの方を観ながら、実は、お前の本当のおふくろさんが芝居小屋に来ていたんだ。ところが、女将さんが団九郎親子の損得づくと吉五郎たちを追い払う方便として祝言等と言っただけで、亭主と言ったって、団之丞の奴は、祝言の後、お前に手も触れてないじゃねえかと言い聞かせようとする。

しかし、おけいは驚いた様子も見せず、例え実の親があると言っても、私がそこに行っても、今さら娘になれる訳ではないもの…と呟く。

そうした話を黙って聞いていた権十郎は、今の話はなかった事にしよう。でもこれで、お前さんが又好きになったよとおけいに語りかけ、梅蔵に、おけいの事は頼みます。何かのときはいつでも私を訪ねて来て下さいと声をかける。

おけいと一緒に部屋を後にした梅蔵は、お前はバカだよ。だが良い娘だ…と褒める。

おけいは、お梶から貰った簪を手で触っていた。

料亭では、団七と団八が、どちらが自分の顔にたくさんのキセルをぶら下げられるかを競い合っていた。

おけいは、芝居小屋に戻って来て、客席の後片付け等始めかけるが、その時、舞台裏の方から自分の名を呼ぶ団之丞の声が聞こえて来る。

驚いて、舞台裏に駆け込むと、無人の部屋の片隅に、血まみれの団之丞が倒れているではないか。

おれはお前に会うまで死に切れなくて戻って来たんだ…と言う団之丞は、吉五郎たちに痛めつけられたらしく、もう眼が見えねえよと言う。

おれはお前から逃げてばかりだった…。お前が嫌いだったからではなく、お前があまりに良過ぎて、一緒にいられなかったんだ…と打ち明けた団之丞は、おれはお前が可哀想だと言う。

それを泣きながら聞いていたおけいも、私も若旦那がお可愛そう…と同情する。

おけい、おあいこだな…と呟いた団之丞はその場で息絶える。

団九郎親子を共に失ってしまった座員たちとおしのは、雪が降りしきる追分宿のあばら屋で、もはや食べるものも尽きて、全員どん詰まりの状態だった。

団八と共に布団に潜り込んで寝そべっていた団七は、みんなで首吊ろうか等と言い出すが、それを聞いた団八は、お前立てるか?と言い返す。

その時梅蔵が、おけい、お前はもう俺たちに義理立てしてここに残っていることないんだ。お前の実の親は尾州藩五万石大沢頼母と言う人だ。そこへ帰りなさいと説得する。

そして他の座員たちには、みんな江戸へ行くか?権十郎さんが、何かの時には自分を頼って来いと言ってくれたから、権十郎さんを頼って行くんだと提案する。

しかし、路銀がないと彦右衛門が寂し気に呟く。

すると、おかいが、お金なら私が作ります。これを売れば…と言いながら、髪に挿していた簪を抜いてみせる。

すると、おしのが、何を言うんだい!それはお前のお母さんの…と言って止めようとする。

その後、一座は江戸に向かって旅を続けていた。

おけいの紙にはもう簪が付いてなかった。

そんな中、いつの間にか、団七と団八の姿が見えなくなっていたので、みんなは心配するが、荷車の先頭を歩いていた頭取は、探すなと言うかのように首を振って先を急ぐ。

その団七と団八は、近所の農家の梅の枝を一本追って持ち帰ろうとした所を、その梅の持ち主の爺さん(高堂国典)に見つかり怒鳴られていた。

困った団七と団八は、どうしてもこれがいるんです。お金はないので、私たちの芸で許して下さいと謝ると、おどけた踊りを踊りながら後ずさって行く。

それに気づいた近所の子供たちも集まって来るが、やがて爺さんと子供たちは愉快そうに笑い出す。

団七と団八は、先行していた一座に追いつくと、おけいを呼び止め、目をつぶってみなと言い、その髪に今取って来た梅の枝を刺しながら、俺たちゃ甲斐性なしだから、おけいちゃんが打った簪の代わりに、これしかあげられないんだと説明する。

それを観た一座のみんなは笑顔になり、間近に迫った江戸の方向へ進み始めるのだった。