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ロマンス誕生

雪村いづみ主演の音楽映画。

宝塚映画製作だけに、ふんだんに舞台シーンが登場する。

そのセットがなかなか洒落ており見物。

日劇で小夜子が踊るシーンは、巨大なタンバリン型のセットが作られているのだが、その縁には青いネオン管が付いていると言う粋なデザイン。

最後の小夜子の踊りのシーンは、大きな燭台のセットで、これもファンタジックで素晴らしいし、かぐや姫姿になったいづみが歌うシーンのセットも見事。

美空ひばりは本人役でゲスト的に登場しているが、中村メイコの歌のシーンがあるのは貴重。

ひばり同様、子役時代から映画にも登場している中村メイコだが、「田舎のバス」と言う曲がヒットしたのは1955年らしく、この映画でドレス姿になって歌うシーンは、今で言う完全なアイドルイメージである。

歌が下手なくせに歌手志望の、どこか左巻きの娘を演じている環三千世のキャラも珍しい。

ちょっと前歯が大きい「リス顔」のような人で、美人と言えば美人かも知れないし、可愛いと言えば可愛い部類に入るタイプの女優さんのような気がするが、主役タイプではない。

この時代の映画には何本も出演しているが、この作品でのとぼけた三枚目的なキャラクターはなかなかユニークで印象に残る。

おしとやかなお嬢さん風の役よりも、こう言ったはつらつとしたコメディエンヌ風の役が多かったら、もっと人気が出ていた人ではないかとも思うが、東宝系の役者さんって、大体、同じような型にはめられた役柄が多いので、環三千世さんは、大抵、ヒロインの引き立て役風(準美人とか準可愛い系)のお嬢さんのような役柄が多かったような気がする。

雄二役の山田真二も、甘いイケメン歌手として昔から人気があった人らしく、ひばり、チエミ、いづみらが出て来る映画には、良く一緒に出ていた方である。

美貌の若者と言う点では、当時、山田真二クラスの俳優が東宝にはいなかったと言う事もあるのかもしれない。

さらにこの作品には、「ゴジラ」(1954)でデビューした宝田明も、バンマス兼歌手の役で登場し、その美声を披露している。

宝田明もイケメンなのだが、ひばりやいづみ等と並べると、ややお兄さん世代風のイメージだし、出演する作品の路線もやや違うと言う事で、3人娘もののボーイフレンド役としては定着しなかったのかもしれない。

劇中のショーのシーンで、唐突に登場する小坂一也の「青春サイクリング」の歌も貴重。

後ろで自転車に股がり踊っているダンサーたちの髪型が昔風なのがちょっと気になったりするが、小坂一也の見た目はいつの時代もあまり変わってない事に気づく。

ただ、この人の歌が巧いのかどうかはちょっと微妙。

素人判断では、今聞いても、かなり下手なような気がするのだが…

容貌もお世辞にもかっこ良いとは思えず、当時、人気があった事が不思議な人の1人だ。

女性の目からすると、可愛いタイプの男の子だったのかもしれない。

ストーリー的には、古いタイプのお涙頂戴パターンなのだが、ターゲットがティーン向けの音楽映画と言う事もあり、これでも感動した当時の若者も多かったのではないかと思う。

ティーン向けらしく、この手の3人娘系の映画には明治製菓が良くタイアップしており、この作品でも随所に商品がこれでもかというくらい登場している。

飛び入りでステージに呼ばれたいづみが歌いだすと、何故か、その歌用の踊子がいきなり登場したり、小夜子が飛び入り参加したはずの最後のショーでも、ちゃんと衣装やセットや踊子が準備されていたりと、理屈で考えるとおかしな部分も多いのだが、その辺は音楽映画のお約束として割り切り、若きいづみやひばりの歌や芝居を楽しむべき作品だろう。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1957年、宝塚映画、 長瀬喜伴脚本、瑞穂春海監督作品。

鉄橋を渡る列車

通路側の席に腰掛けていた花村まさみ(雪村いづみ)は、実家のある大阪に帰る所だったが、手元に明治チョコレート等持っていたが、反対側の通路席に座っていた大学生らしき青年が、ちらちらまさみの方を観てにや付くので、それに気づいたまさみは、横浜駅に到着した時、わざと無視するようにデッキに向かい、シュウマイを買おうとする。

所が、彼女が出した紙幣を観た売り子が、釣り銭が今ないのでと言うので困っていると、横に立った先ほどの青年が、100円ね?と確認してシュウマイを買ったので、てっきり自分のために金を立て替えてくれたものと勘違いし、ありがとうと言ったまさみだったが、その青年は君に買ったんじゃないよと困惑顔をして自分の席に戻ってしまう。

結局、まさみはシュウマイを買いそびれたまま自分の席に戻って来るが、その時、自分で閉めたドアにスカートが挟まれた事に気づかなかったまさみは、スカートを隣の青年から引っ張られたと勘違いして、失礼ね!と言いながら思わずビンタしてしまう。

その弾みで、青年が食べようとしていたシュウマイが床に落ちてしまうが、その時になって、まさみはスカートはドアに挟まっており、又しても自分の勘違いだった事に気づき、ごめんなさい!と謝ったものの、席に着いても青年の事が気になって落ち着かなかった。

大阪駅では、まさみを出迎えに来た友人の春子(環三千世)が、おっす!と改札係に挨拶をしただけで構内に入りかけたので、改札係から、ただで入ったらあかんがなと叱られ、表に出され、ちょっと入るだけやないか!とむくれていた。

やがて、まさみの列車が到着し、春子は会う事が出来るが、まさみはあの青年が付いて来る事に気づくと、バツが悪そうに、ハルコをせかして駅前からバスに乗る。

バスの車内で、列車の中の失敗談を聞いた春子は何だと呆れるが、自分はまさみのお父さんに会って、今日、まさみが帰って来る事を聞いて来たのだと言う。

何でも春子は、思い切ってステージに出ようと思うねん等と言い、まさみの父親が支配人をやっているキャバレーで歌手になりたいと申し込んだらしい。

あんたはどうやねん?と春子から聞かれたまさみの方も歌手になる夢は持っていたが、父親から、歌を歌うのは趣味だけにしておけと常々言われていたので、うちはダメと答える。

その後、春子は、バスの中で延々下手な歌を歌い始めるのだった。

キャバレー「ロマンス」の支配人花村大作(日守新一)は、電話が入っていると言われ電話に出ると、それは娘のまさみからで、今、自宅に帰って来たと言う連絡だった。

春子に会ったんですって?とまさみが聞くと、あれ、少しおかしいんやないやろか?と花村は言うので、後ろで春子が耳をそばだてている事を意識しながらも、そんなこと…あるわよと答えるしかなかった。

それでも、春子から頼まれたので、お父さんの所のショーに出たいって。歌聞いてくれる?とまさみが聞くと、巧い訳あらへん。顔観りゃ分かると花村は答える。

あの子、真空地帯の多い顔しとるやろ?左巻き違うか?とまで言う花村は、再度、春子さんを雇ってと頼むまさみに、あかんと答える。

電話を切ったまさみが、お手伝いさんからお風呂の用意が出来たと言われたので、いつの間にか姿をくらました春子を探していると、もうとっくに浴室の中に入っていた。

「ロマンス」の支配人室にいた花村の元にやって来た靴磨きのチャア公(中村メイコ)は、頼みもしないのに靴を磨いてやろう等と言いながら馴れ馴れしく机の所へ来ると、うちの歌、聞いてくれないか?歌の才能、あんやないかと思うなどといきなり売り込みを始めたので、呆れた花村は、聞かんでも、顔観りゃ分かると言ってボーイに追い出してもらう。

ボーイに、おっさん、出世、せえへんど!と言いながら放り出されたチャア公とすれ違いに、「ロマンス」にやって来たのは、社長の高田竜造(小川虎之助)だった。

その高田が乗って来た高級車を観たチャア公は、触ってみようと手を延ばすが、その場にいた運転手(三木のり平)から追い払われたので、また、おっさん、出世せえへんど!と憎まれ口を叩く。

支配人室にやって来た高田は、ちょうど昼食時で、花村がマムシ(うな丼)を食べているのをみると、そんなもん食べてたら商売にならん。わしはいつも昼は素うどんやと注意する。

花村は恐縮しながらも、これは自分の金で食べているのですが…と言い訳すると、当たり前や、会社の金使うてマムシなんか食べられたら、店潰れてしまうわなどと言うので、花村は、今後は素うどんにいたしますと答えるしかなかった。

帳簿を見せてみいと言われた花村が、帳簿を手渡すと、売上が落ちている事に気づいた高田がそれを指摘すると、来週のショーは新趣向にしたいと思い、今、植村小夜子と一緒に京都に出ている美空ひばりに出てもらうので、当たる事間違いなしですと太鼓判を押す。

出演料は?と聞かれたので算盤を差し出してみせると、これは千か?と高田が聞くので、万ですと花村は答える。

それを聞いた高田は、あかん、金を使わんとやるのが商売やと言い、煙草はあるか?と言うので、シガレットケースを開けて花村が差し出すと、高田は、その中に入れていた煙草を全部抜き取って、自分用のシガレットケースに移し替えてしまう。

そして、損をした時は責任取ってもらえますか?と言うので、花村ははいと答える。

その頃、まさみは、春子を連れて、おばさんと呼ぶ小池喜代(藤間紫)の店で豚カツを食べていた。

春子は、一旦家に帰ったら?と勧めるまさみに、うちには電話あらへんし、実は家出して来たねんと言い出し、しばらくまさみの所へ置いてくれと言うので、まさみは半分呆れながらも承知するしかなかった。

そこに喜代が茶をもってやって来たので、このおばさんは時々、うちのお父さんの店に踊りに行くのよと春子に紹介する。

踊れるんですか?と春子が驚くと、ジルバでもマンボでも何でも…と笑って喜代は答える。

今日も行かない?とまさみが誘うが、今、女中さんが国に帰ったので、手が足りないのだと喜代が言うと、おばさんがお父さんと結婚してくれたら良いなと思っているのとまさみは告白する。

でも、お父さん、おばさんで3人目だしね…と再婚を気兼ねしている風にまさみが言うと、私かて4人目やでと喜代はおどけて教える。

そんな喜代が、前のお母はんの事知ってるのやろ?とまさみに聞き、まさみが頷くと、ほな、お姉さんがいはる事も?と聞いたので、まさみが驚くと、どないしょ、話して悪かったやろか?と喜代は慌てる。

翌日、自宅で出かける準備をしていた花村は、店から電話をもらい、先に到着していたと言う美空ひばりの支配人大原なる人物(有島一郎)から、契約書類を整えて待っていますと言うので、すぐに参りますと返事をすると、朝から下手な歌を歌っている春子を追い出すように、あんじょう、断っときなさいとまさみに言い残して、出かけて行くのだった。

その花村の言葉が聞こえたらしく、気がつくと、春子はしょんぼりしており、やっぱりうち、美空ひばりには敵わんのやろか…と言うので、チャンスなんていくらでもあるから出直して来たら?とまさみは慰める。

すると春子は、ここで置いてくれる?うち、行くとこ、あらへんと言い、まさみちゃん、ちょっと庭貸して等と言い出す。

何の事かとまさみがいぶかしがると、いっそ死んだろか思うねんと言う春子は、庭の木の枝振りを褒めるので、まさみは、そんな考え、スマートじゃないと叱りつけるのだった。

「ロマンス」にやって来た花村は支配人室で待っていた大原に、用意して来た小切手を見せると、出先なんで、現金で貰えないだろうかと大原が言う。

銀行は近くなので、すぐに用意してきますと、ボーイに小切手を現金化させに行かせる。

待っている間、大原は、今芸能界にいる一流所はたいてい自分が面倒を見てきましたから、次は植村小夜子辺りでどうでしょう?などと勧めて来る。

すっかり喜んだ大原は、美空ひばりショーの事はさっそく通信にでも流しましょうと約束し、明治の缶ジュースなど出してもてなしながら、私も首がかかっていますので…と説明する。

その後、高田社長から電話が入り、契約はすんだかと聞かれたので、花村は今すみましたと報告する。

その横では、受け取った札束を嬉しそうに勘定する大原がいた。

高田は、夕方か夜、店に寄って契約書を観ると伝える。

高台の庭先で歌を歌っていたのは、列車でまさみからビンタをされた青年だった。

その青年を、雄二(山田真二)!と家の中から呼び寄せたのは、今、花村に電話をしていた高田社長だった。

実は、雄二はその1人息子で、東京で経済を学んでいるのだが、遊んでばかりいるらしいダメ学生らしいと分かり、父親から、東京へ遊びにやってるにゃない!と叱られる。

ところが、いざ出かけようとした高田は、運転手が具合が悪いと言っているとお手伝いから言われ戸惑う。

そこにやって来た運転手に、どないや?と聞くと、ちょっとクラクラ…等と言うので、風邪か?と聞くと、クラクラするのは目の方で…などと言う。

怠けといたらあかんで。風邪なんか寝ていたら直るんやと高田が叱ると、熱い素うどんでも食べて寝ておりますと運転手は皮肉を言う。

高田は、何のために運転の免状をもろうとるねんと雄二に言い、運転手の代わりをするよう言いつける。

雄二は父親の乗った車の運転手代理として出発するが、次はどこに行くのかと尋ねると、キャバレー「ロマンス」と言う店で、最近手に入れたんやと言う。

雄二は、キャバレー等これまで全く興味がなさそうだった父親が、そんな商売まで手を拡げた事に驚いたようだった。

「ロマンス」に着いて、父親を降ろした雄二が車の外に出ると、店の外で靴磨きをしていたチャア公が近づいて来て、今日は運転手が違うやないか?乗せてくれんか?と気安気に声をかけて来る。

雄二があっさり良いよと言ったので、驚いたチャア公は、あんた出世するでと褒め、さっそく後部座席に乗り込むと、夢を観る〜♬と歌を歌い始める。

すると、その巧さに雄二の方が驚き、チャア公の歌に聞き入り、歌い終わったチャア公に拍手する。

その時、「ロマンス」にやって来たのが、まさみと喜代で、雄二を発見したまさみは、もう運ちゃんになってるわと驚く。

雄二の方は、まさみに気づかず、歌の勉強をするなら東京だよとチャア公に勧める。

「ロマンス」のステージでは、バンマス兼歌手の矢部一郎(宝田明)が歌っていた。

そこに、雄二も、「美空ひばり」の大きなポスターが貼ってあるのを観ながら、店の中に入って来る。

テーブル席に座って、喜代と一緒に観ていたまさみだったが、その姿に気づいた矢部は、自分の歌が終わると、今、マネージャーの令嬢が来られましたので、歌って頂きましょうと勝手に発表してしまったので、まさみは照れるが、とうとうステージ上に引っ張りだされる。

困るわ、矢部さん…と躊躇するまさみに、趣味でなら大丈夫ですよと矢部は勧める。

仕方なく、まさみは得意の歌を披露し始める。

すると、ステージ両脇から踊り子たちが登場し、ステージを盛り上げる。

歌い終わったまさみが、テーブル席にいた喜代を誘って一緒に踊ろうとフロアに出ると、そのまさみの手を握って引き寄せたのが雄二だった。

まだ、堪忍できないの?と、列車の事をまだ恨んでいると思い込んだまさみが聞くと、踊ったら、堪忍しますよと言って雄二は踊り始める。

あんた不良?とまさみが警戒すると、君も不良みたいだねと雄二も答える。

君、ここの支配人の娘なんだってね?と聞いて来た雄二は、君のお父さんは頭悪いね。センスも悪いね、このホール等と悪口を言い始めたので、ここでそんな事言ったら、ひっぱたかれるわよ!とまさみは怒る。

その時、外から車のクラクションが聞こえて来たので、呼んでるわよとまさみが知らせると、慌てて雄二は飛び出して行く。

車の側でクラクションを鳴らしていたのは、花村支配人を連れた高田だった。

運転手が車を離れてちゃいかんじゃないか!と高田が叱ると、花村も同じように叱りつける。

すると、高田は、これはわしの倅の雄二じゃと教えたので、青くなった花村は、これは失礼な事をしましたと雄二に謝罪する。

そんな花村に、こいつはキャバレーに興味を持っているようだから、今後店に入れたらあかんと釘を刺す。

花村親子が車で帰ると、お嬢さんと小池さんが来ておられますとボーイが花村に知らせに来たので店に戻る。

一方、車で帰っていた雄二は、後部座席の父親に対し、あの支配人は人を得ていない。適任者はいます。僕にやらせて下さいと運転しながら頼むが、あっさり断られる。

その後、支配人室に戻って来た花村は、聞き覚えのない人物から電話を受け、大原昭太郎(上田寛)と名乗られたので当惑する。

その相手が言うには、最近、お宅の店で美空ひばりが歌う等と言うデマが飛んでいるので迷惑している。自分は美空ひばりの支配人だが、ひばりさんはそんな話は全く知らないと言っていると言うではないか。

驚いた花村は、こちらはちゃんとひばりさんの支配人の大原昭太郎と言う人物と契約をすませており間違いないと反論するが、電話の相手が、自分こそその昭太郎だと言い、ひばりさんに電話で出てもらいましょうか等と言うので、焦りながらも、電話では顔が見えないから電話に出ても分からないと反論する。

それでも、ああ言うでたらめを通信に流されたり、ポスターを勝手に作られたのでは困ると相手は強く不快感を示すので、相手の京都の宿を聞き、後日、連絡する事にした花村だったが、電話を切ると、えらいことになりよった…と青ざめる。

そこに、まさみが入って来て、喜代さんと踊ろうと声をかけて来るが、お父さん、それどころやないと答えた花村の顔色を観たまさみは、父にとんでもない事が起きた事を察するのだった。

花村は、あいつの所へ電話しようと呟く。

その後、お喜代の店に花村はやって来るが、いつの間にか、その店で働いていた春子が、外出中と言うので、仕方なく帰って行く。

春子もさすがにその花村の姿を観ると、何か心配事でもあるの?と聞くしかなかった。

後日、再びキャバレー「ロマンス」にやって来た雄二は、店の前に立っていたボーイに、高田だよと名乗ると、前店の前にいた靴磨きの子、今日はいないの?と聞く。

チャア公の姿が見えなかったからだ。

その後、勝手に支配人室に入り込んだ雄二は、誰もいないので支配人の机に座ると、かかって来た電話に、自分が支配人だと噓を言ってしまう。

すると、相手は、芸能通信社の記者らしく、そちらの店で美空ひばりさんが出ると言うのはデマだと聞きましたが?などと言うので、絶対間違いありませんと雄二は答えて電話を切る。

ところが、又又、別の内信部からも、同じような事を聞かれ、こちらは美空ひばりから直接聞いたと言って来たので、、何かの間違いですよと答えて電話を置いた雄二だったが、さすがにこれは妙だと気づく。

自宅に戻った花村から、詐欺に会ってしまった事を聞いたまさみは、いつも、顔を見れば分かるなんて言ってたくせに、その人がいかさま師だってことを見抜けなかったの?と呆れ、その場に来ていたお喜代も、自分のちっぽけな店で良かったら抵当にして、金を作って下さいと申し出るが、花村は、心配なのはお金の問題だけの話やない。責任問題や、私の…と沈み込む。

その時、まさみは、お父さん、ショーやったら、私も春子も出るわと提案するが、今秋は、美空ひばりやないとあかんのやと花村は言い、潔く責任取るしかないやろ…と言いながら、庭の木を眺めたので、お父さん、変な事考えちゃ嫌よ。枝振り良いななんて思ってるんじゃないでしょうね?と、先日春子が言っていた事を思い出し言い当てる。

その後、店に戻る花村に、弱い気を起こさないでね。自動車に気をつけてねと見送るまさみ。

「ロマンス」の支配人室にやって来た花村は、突然部屋に入ってきた雄二から、実は妙な事を聞いたんだけどと言われ、部屋に貼ってあった美空ひばりのポスターを指しながら、これね、取りやめになるの?と言い当てられたので、若旦那!どこでそれを!と驚いた花村は、もう隠し立てできないと悟り、とんでもないへまをしてしまって…と詐欺師に騙された事を打ち明ける。

それを聞いた雄二は、何だ、美空ひばりがキャバレーに出るなんて変だと思ったと軽くいなし、そのくらいの事で、責任取る事ないよ。この辺に質屋ない?うちには入らない骨董がたくさんあるから、あれを1つか2つ売れば…などと言いだす。

驚いた花村は、それはお父様のものですと断ろうとするが、どうせ、親爺の遺産はいずれ僕のものになるんだから、僕が自分のものをどうしようと自由だよなどと雄二は答える。

しかし、お金の問題だけではございませんと花村は肩を落とすと、父は当分ここへは来ないよ。今朝の飛行機で東京へ行ったからと教えた雄二は、一つ、僕にこの店をやらせてみてよ。前からこんな仕事をやってみたかったんだと花村に頼み込む。

京都

まさみは、思い切って、美空ひばり(本人)に会いに来ていた。

しかし、一緒に面会した支配人の大原昭太郎が、お父さんが可哀想なのは分かりますが、同情は同情、ビジネスはビジネスですから。私は、美空さんの芸に少しでも不利だと思われるようなものは受けられないんですと言って、キャバレー出演は出来ない事を告げる。

横に座って話を聞いていた美空ひばりも、申し訳なさそうにしていた。

その時、来客中とは知らず、部屋に入ってきたのは売れっ子ダンサーの植村小夜子(淡路恵子)だった。

まさみが諦めて帰り、大原も用事で出かけると、今までの話を少し聞いていた小夜子が、花村さんて方、マネージャー?名前は?と聞いて来る。

名刺を貰っていたとバッグの中を確認してみたひばりが、花村大作の名刺を見せ、ご存知なの?と聞くと、小夜子はためらわず、父ですわと答える。

かねがね話には聞いていたひばりは驚き、あなたのお母さんが捨てられたと言う?と聞くと、小夜子が頷いたので、じゃあ、今の人、お母さんは違っても妹さんと言う事だったのねと気づいたひばりは、私、出るわ、キャバレー。お父さん、お困りなのよと言い出す。

しかし、小夜子は、キャバレーなんて出ない方が良いわ。ひばりちゃん、今の私の話、聞かなかった事にしてと止める。

そこへ、高田はん言う方がお越しです。キャバレーの社長はんのボンボンやそうでと宿の者が知らせが来る。

京都から帰宅したまさみは、父が辞職願いを用意している事に気づく。

まさみ、あんたにはすまんこっちゃ思うてますと花村が詫びるので、まさみは努めて明るく、いざとなったら学校辞めて働くわ。これから、私が働いて、2人のために、お父さんとお喜代おばさん…、違った、お母さんのために…と伝える。

花村は、せっかく大学に入った娘からそんな事まで言ってもらい、心から感謝する。

その時、電話がかかって来たので、花村が出てみると、相手は雄二で、ひばりさんからOKが出た。しごく簡単に承知してくれたと言うではないか。

それを聞いた花村は、まさみ、えらいこちゃ!ひばりさんがショーに出てくれはるんやと伝える。

その後、新聞に、美空ひばりが、キャバレーの初出演という記事が載る。

その記事を、まさみは自宅で、お喜代、春子と共に読んでいた。

雄二は自宅で父親の高田に、ショーは当たりますよと確約する。

お前は、支配人の事を人を得ておらんと言うたが、わしは見込みがあると思うとったと事情を知らずに威張るので、雄二は、僕の不明でしたとおとなしく父を立てる事にする。

そして、下手に出ながら、今度、高田産業で大宣伝やったらどうでしょう?と提案する。

その会そのものでは金をとらないんです。ギブアンドテイクですよ。実業者として、経営経済学の見地から、何でも儲かりゃ良いじゃなく、これからは、人や社会に奉仕して、人や社会から感謝される。僕はお父さんに、文化勲章くらい貰えるような父親になって欲しいんですなどと力説する。

それは誰の考えや?マルクスやないやろな?アカはいかんで…などと言いながらも、自分の手帳に、今息子から聞いたばかりの「ギブアンドテイク」と言う言葉を書き留めていた。

その日、雄二が玄関先にいると、まさみが訪ねて来て、若旦那様に用事があると言う。

何の用?と聞いた雄二だったが、運転手のあなたなんかに言うことじゃないのよとまさみはむくれ、あんたなんか怖くないわ。みんな若旦那様に言いつけてやるから!と睨みつけると、玄関で、応対に出て来たお手伝いさんに取り次ぎを頼む。

一緒に付いて来た雄二は、お手伝いさんにウインクしながら、応接間にお通ししてと命じ、自分は奥へ引っ込む。

まさみが椅子に腰掛け待ちながら、お手伝いさんに若旦那の事を聞くと、今の方が若旦那様ですが?と言うではないか。

驚いたまさみは、また大失敗した事に気づくと、そそくさと帰りかけるが、そこにブレザー姿に着替えた雄二が出て来て呼び止める。

仕方なく、これまでの無礼を詫びたまさみに、お父さんに聞いたんですか?と聞いた雄二は、あれは決してお父さんのためじゃないんですよ。ひばりさんは、何も言わずにあっさり出ますって言われたんです。その前に、あなたも行かれたんですね?僕はああ言うのをやりたかったんだと話す雄二は、僕はやりたいプランがあったんですと続ける。

実は東京に僕のバンドがあるんですが、君も一緒にやってくれる?一昨日君の歌を聞いた者だから…と雄二が聞くので、でも父が…とまさみがためらうと、僕も歌いますよ。アイデアがあって…、公園で雨が降っているんです…と舞台の構想を述べ始める。

いつの間にか、まさみは、雨のそぼ降る公園に、透明な傘をさしてやって来ると、「雨に歩けば」を歌っていた。

そこに、青とピンクの傘を持った踊子が続き、その後ろから、コートを着た雄二が近づいて来る…

いよいよ美空ひばりの出演日

キャバレー「ロマンス」店内は既に超満員だった。

高田社長は、大入りやなと大満足。

息子の雄二の方は、お喜代とテーブル席に座っていたまさみの所に来るとお喜代に遠慮するが、もうすぐお母さんになる人よと紹介して、雄二を隣に座らせたまさみが、この前の話、宝塚劇場で決まったと教える。

雄二の方も、東京の連中を呼んで来ると伝える。

やがて、いよいよ美空ひばりが登場し、赤いランプが〜♬と「君はマドロス海つばめ」を歌い始める。

歌い終わったひばりに、ステージにやって来たまさみが花束を渡す。

それを高田社長の隣で観てた花村は、あれが私の娘でございますと紹介すると、高田は、ええ娘やなと感心する。

まさみが、来て下さってありがとうと礼を言うと、ひばりの方も、歌わせてもらってありがとうと言う。

すると、バンマスの矢部が、もう一曲お願いしますとひばりにリクエストしたので、ひばりは、古い錨が〜♬と「波止場だよ、お父つぁん」を歌いだす。

京都の旅館では、植村小夜子が飛行機の切符が手に入ったとひばりに教えに来るが、ひばりは、会わせたい人がいるの、会ってくれるわね…と言いながら、大阪から連れて来た花村を連れて来ると、この方が、あなたのお父さんなのよと紹介する。

小夜子の姿を観るなり、静子!と呼びかけた花村は、私があんたのお父さんや。美空さんに聞いてびっくりしたんや、お前が植村小夜子とは…と話しかけるが、小夜子が目も合わせようとはせず、せっかくですけど、私には父はいませんと言う。

それを聞いた花村は、そうやろ…、今さら父やと出て来られる身でもない…と肩を落とす。

小夜子は、どんなにお母さん、苦しんだか…と言うので、何一つ父親らしいことしてやれなんだ。今さら、父親でございますもないもんや。静子の元気な顔を見られただけでも十分や、元気でやんなさいや…と言い残し、花村が立ち去ろうとすると、さすがに小夜子も、あの…と言いかけるが、何や?と花村が振り返ると、いいえ、どうぞお帰りくださいと言うだけだった。

その後、大阪に戻り、「ロマンス」の支配人室で素うどんの昼食を取っていた花村の所へまさみがやって来て、おばさんに聞いたんだけど、京都のお姉さんに会いに行ったんだって?私も会いたいわ。私、1人で行って来ると言うので、お前は会わん方が良い。もうあの人は東京に帰ってしもうたと花村は答える。

私、行くわ!私を東京にやって!とまさみは頼む。

東京 日劇

植村小夜子は舞台の巨大なタンバリンのセットの上で踊っていた。

踊り終わって舞台袖に戻って来た小夜子に、係員が、妹さんがお見えですので、お部屋の方に案内しておきましたと言いに来る。

部屋で待っていたまさみと会った小夜子は、花村まさみです。京都の宿で会った時、お姉様とは知らなくて…、でも会いたくて、矢も盾も溜まらなくなって…と言うまさみに、私、本当はあなたに姐と呼んで欲しくありませんと、鏡に向かいながら冷たく返事をする。

しかしまさみは、いいえ、私たちはたった2人の姉妹じゃありませんか!どうして妹と呼んで下さらないの?と食い下がる。

お父さんの会った時、本当は甘えたかったの。父を知らずに育っただけに…、でも、私って意固地なのね。苦労した母の事を思うと、あなたたちと打ち解ける事が出来ないのよと小夜子は吐露する。

がっかりしたまさみは、もし、お姉様が許して下さるなら、今度のお父様のショーに出てもらうつもりだったんですと言うと、部屋を出て行く。

外で待っていた雄二は、気落ちして出て来たまさみに様子をみると、大丈夫だよ。僕たちだけでやろうよと慰めながら、一緒に帰路につく。

その時、劇場の隅で、靴を並べて売っているチャア公と出会ったので、喜んだ雄二は、お前、東京に出て来てたのか!と声をかける。

チャア公の方も驚いたようで、運ちゃんも東京に来てたんか!と言いながら近づくが、お前も一緒に来いと言う雄二から、半ば強引に引っ張られ、靴はその場に置いたままで連れて行かれる。

高田産業主催の「音楽の夕」と言うイベントが、宝塚劇場で行われる。

幕が上がると、最初に歌い始めたのは矢部一郎だった。

夜は腕の良いマジシャンだもの〜♬

舞台裏では、ドレス姿の春子が、次はうちの出番やと言いながら出ようとするが、雄二がまだ後やと言って止め、チャア公に指示を出す。

すっかり、娘らしいドレス姿になったチャア公が、舞台で、男はみんなドラ猫ばかり〜♬と歌い始める。

舞台裏では、お喜代がまさみの舞台衣装の気付けを手伝っていた。

なかなか出番が来ない事にいら立った春子は、うちはいつ出してくれるねん!とすねていた。

舞台では、自転車に乗った若者(小坂一也)が「青春サイクリング」を歌い始める。

緑の風もさわやかに〜♬

満員の客席の最前列に、花村と高田社長が腰掛ける。

舞台の成功に満足げな高田は、ギブアンドテイクやと偉そうに花村に教える。

続いて舞台に登場したのは、高田雄二だった。

それを観た高田は、雄二やないか!と驚くが、実はこの会は若旦那様の御発案でございますと花村がそっと耳打ちする。

歌い終わった雄二は、今、社長がいらっしゃいましたから、ご挨拶をお願いしますと舞台上から呼びかけたので、高田は席を立ち、後方の客席に向かって会釈する。

息子からそうおだてられては、もう高田も文句は言えなかった。

雄二は、次は花村まさみさんですと紹介する。

舞台は竹林のセットになっており、かぐや姫の衣装で登場したまさみは、プリンセス・バンブー♬と歌い始める。

天女たちが降りて来て、かぐや姫姿のまさみに羽衣かけると、みんなで月への坂道を上って行く。

舞台袖に戻って来たまさみに、お姉さん来てくれたよと雄二が知らせる。

すでに舞台衣装に着替えていた小夜子が出て来て、まさみちゃん、ごめんなさい。ひどい事言って…、お姉さんを許してねと詫びると、お姉さんにもお手伝いさせてねと頼む。

そこへ、又春子がやって来て、うち、この次、この次て、眠うなるわとぼやく。

舞台に出た雄二は、植村小夜子さんが駆けつけて下さいましたと客席に知らせる。

大きな燭台のセットの中で踊る小夜子。

それを観た花村は、あれも大した人気なんだなと感心する高田社長に、あれもわての娘でございましてと教えると、ちょっとと言って席を立つ。

雄二は、舞台袖から姉の踊りを観ているまさみやお喜代、その横にやって来た花村たちに、美空ひばりさんから電報が届いて、お姉さんと再会できて良かったですねとメッセージを伝える。

嬉しい夜やな…と花村が感激すると、お喜代も、私も大きな娘が2人出来たんやと喜ぶ。

そこに踊り終わった小夜子が近づいて来て、お父さん!と言いながら、花村に胸に飛び込む。

良う来てくれたな…と感謝した花村も泣いていた。

すみません。わがままばかり言って…と謝る小夜子も泣いていた。

「明治チョコ クラッカー」のネオンが輝く会社の横を走る夜汽車

雄二と共に東京に帰ることになったまさみは、連結部分に雄二を連れて来ると、目をつぶって自分の頬を差し出す。

以前自分がぶったお詫びを従っていたのだ。

優しく雄二がビンタすると、そんな弱くなかったわとまさみが抗議するので、強めに叩くと、今度は痛い!と怒るので、雄二は、ごめんね、まさみちゃんと謝るしかなかった。

列車は一路東京に向かっていた。