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江利チエミ主演のアイドル音楽映画で、内容は良くあるスター誕生物語である。

スター誕生の裏で、表舞台から去って行く過去のミュージシャンの末路が描かれているのも良くあるパターンだが、ユーモア、ペーソス、両方得意な有島一郎が見事に演じ切っている。

宝塚映画製作なので舞台の中心は大阪であり、洒落たセットを使ったレビュー風の歌唱シーンが随所に登場する。

ゲストには当時の東西のお笑い人気者が登場しているのもティーン向けのサービスだろう。

ただし、キネ旬データでは、愚連隊やもりの鉄=八波むと志、愚連隊ざりがにの謙=由利徹、愚連隊むかでの松=南利明の記載があるが、彼ら脱線トリオは登場していないし、逆に、地回り役の大村崑と茶川一郎の名が書いてない。

江利チエミと小泉博が共演しているので、つい実写版「サザエさん」シリーズを連想するが、1958年の8月12日公開と言う事は、同年8月26日公開で、同じく宝塚映画製作で大阪が登場した「サザエさんの婚約旅行」とほぼ同時期撮影だった事が分かる。

花菱アチャコとイケメン歌手の山田真二、環三千世などが両方の作品に登場しているのはそう言うつながりだからだろう。

江利チエミと雪村いづみが共演しているのは、美空ひばりとの3人娘映画も連想させ、実際、この映画には、当時の3人娘映画等の歌謡アイドル映画とタイアップしていたらしき明治チョコレートや缶ジュース等が登場している。

タイアップなのかどうか不明だが、冒頭から日本テレビのテレビ塔と「日本テレビ放送網」と壁面に書かれた局の建物がはっきり登場する。

さらに、劇中のフランク永井の事務所のシーン、壁には「フランク永井と淡路恵子」が共演するショーのポスターが貼られている。

美術班が作った小道具の一種だろうが、本編に登場しない「淡路恵子」が、名前だけでも登場する意味が良く分からなかったりする。

当時は、そう言う宣伝を、さりげなく画面に仕込む興行的意味があったのかもしれない。

雪村いづみ方の歌唱シーンでは、パーマをかけたショートヘアスタイルでボーイッシュなファッションで歌っているのに、何だか、おばさん風に老けて見える。(芝居部分は普通に若い)

宝田明はともかく、山田真二の歌唱シーンも珍しいように思う。

元々、俳優と言うより歌手の方が本業だった方かもしれないが、歌のシーンでは、濃いアイシャドー等メイクを施した顔で歌っている。

丸山(美輪)明宏のシスターボーイの影響だったのだろうか?

フランキー堺のドラム演奏や、ステージで1人で歌っているシーンなども、今となっては貴重な映像である。

堺正章の実父である堺駿二や夫婦漫才のミヤコ蝶々、南都雄二、最後にちらり登場する若水ヤエコ等、懐かしい顔のオンパレード。

冒頭でナレーターを務めていたフランキー堺が、途中から本人役で登場したり、二等車に載っていた娘が三等車の娘と切符を交換するエピソードがオチに繋がっている所等、アイデアも豊富で、洒落た音楽映画になっており、宝塚映画の真骨頂とも言うべき作品かもしれない。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1958年、宝塚映画、須崎勝弥脚本、杉江敏男監督作品。

ここは花の都パリにあるエッフェル塔…じゃなくて、日本のテレビ塔のようです。

そのテレビ局(日本テレビ)に出前を持って来た江利チエミ似の八木ヒサミ(江利チエミ)は、胸に一物を持っていた…(…とフランキー堺のナレーションが入る)

中華料理店「珍萬軒」のマスター(柳家金語楼)は、今出前に行かせた注文主からまだ来ないと文句の電話を受け、帰って来たもう1人の出前娘みどり(山田珠代)にヒロミに会わなかったか?と聞くが、知らないと言われ、首を傾げなら(フランキーの、テレビを付けてみなさいと言う声が聞こえたかのように)店のテレビを付けてみる。

すると「明治提供 のど自慢大会」で鐘が鳴る音と、マイクの前でその鐘を鳴らして嬉し気なヒサミが写っている事に気づく。

司会者から職業を聞かれたヒサミが中華料理屋と答えたので、今日は公休日ですか?と司会者は聞くが、出前の途中なのでマスターから怒られると思うので、あなたから言ってよとヒサミは司会者に甘えるが、それは無理だと悟ると、マイクを前に、マスターごめんなさい!そんなに怒らないでよ。私絶対ジャズシンガーになってみせるわ!とテレビ越しに謝る。

しかし、顔をしかめたままそれを観ていたマスターは、一言、首です!とブラウン管に向かって言い渡す。

胸に一物手に荷物…、「珍萬軒」を首になったヒサミは鞄を持って、時々出前で出入りしていた「黒田興行」と言う会社に向かう。

そして、社長の黒田(小泉博)に会うと、自分の歌を聴いてくれと頼むが、彼女の歌をこれまでにも聞かされた事がある黒田は無視しようとする。

そんな黒田を前に、最後にお願いします。これになったんですとヒサミは、首を斬るジェスチャーをしながら必死に頼む。

その時「黒田興行」に入って来たのは、有島一郎似の松井英三(有島一郎)だった。

松井は元トランペット吹きだったが、ペテン師的な性格が災いし身を持ち崩していた。

そんな松井が黒田の前に来て、今や芸能界は新人時代、プロデューサーは新人発掘を求めているが忙しくて時間がない。今こそ、スカウトの必要性があり、私なら埋もれた天才を発見できます!などと、自分が芸能スカウトの仕事をしたいと売り込むが、それを聞いていた黒田は、良い所に来てくれたと言うと、横に立っていたヒサミを、埋もれた天才さと言いながら紹介する。

ヒサミは松井によろしくお願いしますとすがりつこうとするが、黒田にからかわれたと感じた松井は帰りなさいとヒサミを遠ざける。

ヒサミが部屋を出て行くと、今話題のフランク永井ね、私が見いだしたんだよ。進駐軍のトラック運転手だったんだなどと言いながら、黒田の机の電話を勝手にかけると、フランク永井を呼んでくれと誰かと話し始める。

そんな黒田産業にマネージャー榊原(三原秀夫)とやって来たフランク永井(本人)は、入口前に座り込んでいたヒサミがかじりかけていたパンに足を引っかけ床に落としてしまう。

フランク永井はヒサミにごめんねと謝り部屋に入って行く。

そのフランク永井が黒田の前に来たので、まだフランク永井相手に喋っている1人芝居をしていた松井は、本人を目の前にし、慌てて部屋を出て行く。

その松井を待っていたヒサミは、帰る松井の後を追いかけて、歌を聴いてくれと懇願、とうとうビルの屋上で歌を披露する。

いい加減迷惑そうだった松井だったが、ヒサミの歌を聴いているうちに表情が変わり、イケる!絶対に売れる!と太鼓判を押す。

それを聞いたヒサミは飛び上がり、思わず、鼻の下をかく癖を出してしまうが、そんな癖は止めるんだとすぐに松井から注意されてしまう。

さっそく「珍萬軒」で注文したラーメンの丼で新しい船出の乾杯をした2人だったが、事情を知った店のマスターは、このお代は餞別代わりでいらないよと言ってくれる。

もちろん、ヒサミもそのつもりでこの店にやって来たのだった。

東京は競争が激しいからな…と、さっそく売り込み方を考え始めた松井に、大阪行こうか?とヒサミは提案し、それが良いかもしれないと松井も賛成する。

さっそく2人は列車で大阪に向かう事にする。

三等車に隣り合った2人が席で眠っていると、二等車からやって来たのは、雪村いづみ似の花村むつみ(雪村いづみ)だった。

むつみはヒサミを揺り起こすと、自分の切符と交換してくれないかと奇妙な依頼をして来る。

しかし、二等車に常々乗ってみたかったヒサミは、憧れの青切符を観て舞い上がり、すぐに交換する事を承知する。

二等車の指定席にやって来たヒサミは、さっそくリクライニングスイッチを押して席を倒してみるが、その振動で、隣で寝ていた老人大久保(堺駿二)が目覚め、隣の席に今までいたお嬢様は?と驚いたように聞いて来たので、降りたわよと噓を言うと、すっかりその言葉を信じたらしく、慌てて停車駅で降りて行ってしまう。

さすがに噓を言った事を反省したヒサミは、窓から降りた老人に噓よ!と声をかけるが、もう大久保老人は降りて行った後だった。

そこへ、先ほどのむつみが戻って来て、良いのよあれで。私家出したのに連れ戻される所だったの…と事情を打ち明け始める。

(回想)むつみは、気の乗らない見合い相手(三木のり平)と両家の両親を前に、着物姿で琴の演奏を披露する羽目になるが、嫌になったので、いきなりジャズ風の演奏をしてしまい、見合い相手は、そのリズムに合わせ身体を揺すらせながら困惑するし、慌てた父親の花村伝兵衛(花菱アチャコ)は、こら、止めなさい!と注意する。

(回想明け)気が乗らない見合いを何回も父親から勧められたので家出したのだが、今の大久保老人に飛行機で先回りされていたのだとむつみは言う。

話を聞いたヒサミは、私も、そのひどいお父さんを説得してやるわ!と協力を申し込み、実は大阪に行っても泊まる当てがなかったんだと本音を打ち明ける。

大阪に着いた松井とヒサミとむつみは、タクシーでむつみの実家に到着すると、松井だけ降りて、じゃあ、大阪城でなと、今後の待ち合わせ場所を2人に告げる。

その足で松井が向かったのは、むつみの父親が経営する化粧品会社「花村天狗堂」の社長室だった。

しかし、部屋の前に座っていた秘書ゆり子(環三千世)は、今、社長は大事な会議中なので会えないと断る。

その会議とは、ライバルである「ラブミー化粧品」の女社長竹内虎代(清川虹子)が、互いの会社を合併して、社名は今風の「ラブミー」にしないかと言う申し出だったが、今時「天狗堂」ないだろうとバカにされた花村は、うちは創立80年の老舗なので、お得意さんはたくさんおますのやと言い、申し出を断る。

そんな花村を鼻で笑いながら、また、とうはん、家出しなはったんですって?とむつみの事をわざとらしく聞く。

それを聞いた花村は、わしの事はともかく、娘の悪口は言われとうない!と怒りだすが、そのとき、部屋に勝手に入り込み、お嬢さんは今御自宅の方に送り届けましたと花村に告げたのは松井だった。

虎代はさっさと帰ってしまうが、その場に残った見知らぬ松井を前にして、花村は本当か?と確認する。

ちょうどそこに、自宅から電話が入り、むつみが戻って来たとの知らせを受けたので、ひとまず松井の言葉を信じた花村は、むつみを連れて来た未薄めと言うのは?と聞く。

松村は、自分の妹ですと噓を言うが、打ち合わせが巧くいったと感じ、自分の煙草を差し出すが、花村はノースモーキング、煙草は吸いませんねんと断る。

何か礼をせんといかんが…と花村は言い出すが、それを聞いた松井は、そんなもんもはいりませんと拒否し、何もいらんのかいと花村が話を収めかけたので、志くらいなら…と言い出す。

その頃、花村家では、むつみの母親千代子(汐風享子)が、ヒサミに志として金の入った包みを差し出していたが、それを拒否したヒサミは、むつみさんを自由にしてやって下さい。ジャズを…と板飲む。

しかし千代子は、とんでもないと言う顔で、うちは、お花にお琴など純和風で育てています。その方が高う売れますまどと言うので、呆れたヒサミは、それじゃあ家出するのも当たり前だわと言い残し、そのまま帰ってしまう。

一方、花村の方は、自社製品のポマード1ダースを礼代わりに渡そうとしていたが、松井は、自分の髪は自然に身体から出て来る油で間に合ってますから…と断ると、脂性か?そんmんあんが一番うちみたいな所は困るんや…とぼやいた花村は、その場にいたゆり子に、ポマード1ダース分の原価を割り出させ、それとほぼ同額の3000円を渡そうと手配する。

ところが、ゆり子が金の入った封筒を花村に持って来たとき、又もや自宅から電話がかかり、むつみが又家出したと言うので、こんな事やることないと自分で言いながら、引き出しに封筒をしまい込んでしまう。

金を取り損なった松井が、マサミたちと落ち合う約束だった大阪城へ向かうが、2人の姿はなかった。

戸惑いながらも、天守閣から望遠鏡で周辺を見回してみると、偶然、アパートの窓の所に一緒にいる2人の姿を見つける。

大家山田(南都雄二)が契約書を作りに部屋を出て行くと、ヒサミは松井との約束を思い出して、慌てて部屋を飛び出そうとするが、そこにその松井本人がやって来たので、どうしてここが分かったの?と驚く。

松井が帰りましょうと言うと、この部屋はむつみが私たちのために借りてくれたのと、権利金を出してもらった事をヒサミが説明する。

そのとき、山田が契約書を持って来たので、松井は宜しくと挨拶し、時々遊びに来て下さいなどと互いに話し始めるが、そこにやって来た山田の女房(ミヤコ蝶々)が、こんな所で何しとるん?早よ飯を焚け!と夫に命じたので、山田は松井の手前、誰が飯なんか焚くんや!と抵抗するが、女房の迫力の前には虚勢もすぐに崩れ去り、焚きますと従順な態度になり、女房共々出て行く。

むつみは、私も時々、ここを隠れ家にさせてもらうわと言い残して、一旦自宅へと変える。

しかし、家に帰ったむつみは、父親や大久保老人を前に、花村天狗堂ともなれば、みんなあなたの事を品定めしているのよ。たくさんある見合い写真の1枚くらい観たらどうなの?と千代子から嫌味を言われる。

むつみは無視していたが、そこへ、「ラブミー」のとうさんこと、虎代の娘でむつみと仲良しの竹内令子(峯京子)が遊びに来る。

令子はむつみに、今日は謝りに来たの。家の母さんがあなたのお父さんとやりおうたんですってねと詫びるが、親たちは親たち、私たちは仲良くしましょうと言うと、いつものように2人で一緒に編み物を始める。

令子は手袋、むつみは靴下を編んでいたが、互いに誰のを作っているの?と詮索し合うが、互いに本当の事は言わなかった。

(回想)むつみは、プールから上がった憧れの彼の濡れた足形をこっそり計って、靴下のサイズの参考にしていた。

令子の方も、プール横で腕立て伏せをしていた彼の濡れた手形を計って手袋を作っていたのだった。

(回想明け)むつみに借りてもらったアパートの真ん中をカーテンで仕切り、互いに蒲団に入ったヒサミと松井だったが、もう寝たのか?と話しかけ、カーテンの下から覗いてみた松井は、ヒサミが寝ていたので、広い世間で俺って男を信用してくれるのはお前だけなんだな…と苦笑して自分も寝る事にする。

その言葉を聞いたヒサミは、狸寝入りしていた目を明け、微笑むのだった。

数日後、お土産片手にむつみがアパートに遊びに来るが、1人留守番をしていたヒサミの様子を見るなり、松井の売り込みが巧くいっていない事を知る。

それでもヒサミは、いざとなったら、流しデモやるわと気丈な所を見せる。

そんなヒサミを元気づけようと、むつみが自分の歌を披露する事にする。

ちょうどそこに顔を見せた大家の山田もヒサミと一緒に窓際に腰掛け、むつみの歌を聞くことにする。

(大きなハート形のセットを前に)半鐘を鳴らせよ!火事だよ!とむつみは歌を歌いだす。

しかし、下の部屋で昼寝をしていた山田の女房は、そんなむつみの歌で目を覚ましたので、不機嫌そうに、こんなんやったら出て行ってもらわなあかん等とぼやきながら、むつみやヒサミの部屋にやって来ると、そこに亭主がいたので、洗濯しなさいと叱りつける。

すると、また、何で俺が洗濯せなあかんねん?と抵抗していた山田だったが、女房のにらみの前にはすぐに従順になり、すごすごと一緒に部屋を出て行く。

それとすれ違う形で帰って来た松井の様子を見たむつみは、ダメだったんでしょうと当ててみせ、ヒサミは、良いわよ。今夜から流しをやるからと決意を述べる。

道頓堀界隈を流し始めた松井とヒサミだったが、1週間経っても、ろくな仕事にありつけなかった。

そんな2人に地回りらしきチンピラ2人(大村崑、茶川一郎)が因縁をつけて来て、誰の許可得とるねん?と聞いて来たので、松井は空に浮かぶ月を指してみせる。

すると、お月さんやたら仕方ないな…と一旦は納得するかに思えた相手だったが、じゃあ、メスとオスの猫の泣きまねをしてみいなど無理強いしてくる。

ヒサミはやってやるわよと言い出すが、それを制した松井は、出世前の娘に傷を付けられないと言うと、自ら猫の泣きまねをして見せる。

すると、猫は層やないわい、良う観とけ!と言った地回りは、自分たちで互いにネコの鳴きまねをしだし、どっちが巧いかと言う身内同士の勝負になってくる。

通りがかりの通行人たちは面白がって野次馬になり、当人たち2人は、互いのネコの泣きまね勝負に夢中になったので、松井はヒサミの手を取ってその場を逃げ出す。

2人はいつしか、小さな屋外ステージがある無人の公園にやって来る。

ヒサミ…、何だか俺たち2人きりのような気がするな…と、松井が寂し気に語りかけると、ヒサミがしっかりしたまなざしで見つめ返して来たので、にらめっこでもするかとごまかす。

2人は成り行きでにらめっこをし、つい笑ってしまった松井は、景気直しに歌おうかと誘い、ヒサミは小さなステージ上に立つと、松井のギター演奏で歌い始める。

すると、たまたま近くを通りかかっていた学生たちが興味を惹かれたのか観覧席に座り込み、恋のマルティーニ♬と歌うヒサミの歌に参加する。

ヒサミが歌い終わると、その学生の中の代表が自分は田島章(宝田明)と名乗り、自分たちは学生のジャズバンドで、自分はバイトでキャバレーでトランペットを吹いているものだと自己紹介すると、今度、あなたたちの事を支配人に話してみましょう。明日開店前に3人で店に行きましょうと言ってくれる。

しかし、翌日、松井らに会ったキャバレー「ゴールデン・ウェイブ」の支配人(田武謙三)は、松井の高慢ちきな言動を嫌ったらしく、採用しようとは言わなかった。

それでも、ヒサミの歌に惚れ込んだ田島は、ヒサミたちが帰った後も支配人室に残り、いっぺんだけでもステージに立たせてみて下さい!と必死に説得を試みる。

一方、松井とヒサミはがっくりしてアパートの部屋に戻って来るが、ヒサミは、あの学生さん、ちょっとイカしたな…と笑顔で呟いたので、松井はちょっと複雑な表情になる。

そこに田島がやって来て、今夜のテストの結果で契約してくれるそうです!と支配人を口説き落とせた事を報告する。

ヒサミは感激し、思わず田島に近づき手を取って感謝する。

そんな所に来合わせたのがむつみで、田島は自分の高校の先輩やし、音楽と水泳をやっていると、旧知の間柄である事をヒサミに教える。

松井は、お茶でも入れようか…と言ってヤカンを手に廊下に出るが、コンロに火をつける彼の表情は寂し気だった。

そのとき、部屋の中から若者3人が歌う声が聞こえて来る。

大家の山田も、その声を聞きつけ、嬉しそうに階段を上がって来る。

その夜、「ゴールデン・ウェイブ」の楽屋で、真っ赤な貸衣装を着て出番を待つヒサミと松井は、嬉しそうにそわそわしていたが、そこに入って来た支配人は、この娘の舞台取りやめや!急にフランク永井の特別出演が決まったんやと言う。

店内のテーブルでヒサミの出番を待ち受けていたむつみと令子は、ヒサミがなかなか登場しないので不思議がっていた。

楽屋に入って来たフランク永井は、その場にいた松井に驚き、やあ、松井さんと声をかけて来る。

そして、赤いドレスを脱いでいたヒサミの顔を見たフランク永井は、どこかで会ったような気がして考え込むが、すぐに支配人に呼ばれステージに向かってしまう。

ちぇっ、こっちは浮くか沈むかの瀬戸際なんだぞ…とぼやきながら、松井とヒサミは楽屋を出て帰りかけていた。

ステージではフランク永井が歌い始めるが、戻って来た支配人が2人を呼び止め、あんたら出番や!鶴の一声や!フランクさんのご指名だ!と伝える。

驚いて立ち止まった松井とヒサミの前に、歌い終わったフランク永井がステージから戻って来て、良かったですね。いつかパンを落とした事、これで許して下さいねと声をかけて来る。

フランクさん、ありがとう!と松井は頭を下げるが、昔あなたにお世話になりましたから…。私は今でもあなたのトランペットは素晴らしいと思いますよとフランク永井は優し気に答える。

感激した松井は、私は人の悪口は言い慣れているが褒めるのは慣れてなくて…と照れながらも、日本一!と小さな声でフランク永井に声をかける。

ヒサミは念願のステージで歌う事が出来、支配人にも認められたのか、その後は「ゴールデン・ウェイブ」の専属歌手となる。

一見、夢が叶ったようだったが、松井の表情は冴えず、ステージでヒサミが歌っている間、1人寂し気にカウンターで酒を飲んでいた。

しかし、ヒサミの方は嬉しくて仕方なく、その日も店に観に来てくれたむつみと令子のテーブルに合流し、ステージで歌い始めた田島の姿にうっとりするのだった。

田島、令子、ヒサミ、みつみたちは意気投合し、その後、淡路島までフェリーで遊びに出かける。

砂浜で馬跳びごっこを始めるが、馬になった田島を飛び越えるとき、むつみは好き!と声をかけ、次に跳んだヒサミは大好き!と声をかけ、戸惑った田島が身体を起こそうとした所にぶつかって来た令子は、いじわる!嫌い!と言う。

田島は、そんな3人娘の言動に首を傾げるしかなかった。

ヒサミはアパートで、ナイトキャップを編み始める。

そんなヒサミを横目に観ながら、そろそろ他のキャバレーに移るか?その方がギャラも上がるし、いくつか声もかかっているんだと提案するが、でも、田島さんに悪いわ…、今歌えるのは田島さんのお陰よと反論し、店に出かけようとするので、今日の晩飯何を作ろうか?と松井が聞くと、私、外で食べる!と嬉しそうに答えるヒサミの顔を観た松井は表情を曇らせ、トランペットでチャルメラの音を出してみたりする。

ヒサミは、公衆電話から田島に電話するが話し中で繋がらない。

同じ頃、むつみも田島に電話を入れていたが、こちらも話し中で繋がらず苛ついていた。

田島に長電話をしていたのは令子で、今日3時に会う約束をする。

次に電話が繋がったむつみが会う時間を確認すると、3時過ぎにしてくれと言われたので、何でそんな中途半端な時間なの?3時にして頂戴!と指示し、最後に電話が繋がったヒサミも、3時10分過ぎと言う田島の返事に戸惑い、3時きっかりにしてよ!と頼む。

プール脇で田島に会ったヒサミは、持って来た手編みのナイトキャップを田島に渡し、今度は手袋と靴下を編むわと約束するが、そのとき、彼らの両脇から令子が持って来た手袋とむつみが持って来た靴下が差し出される。

田島は3つのプレゼントをもらえたので、お礼を言うのもいっぺんですんだので助かるよと惚け、水泳仲間の玉宮一郎(山田真二)から呼ばれたので、泳ぎに戻る。

最初に田島と出会った小さな屋外ステージで待っていた松井は、呼び出した田島が来たので、今度ヒサミを東京で一花咲かせたいんだが…と言うと、ますます応援しますと田島が答えたので、やっぱりな…、好きなら好きと言ってくれ。分かってるんだと松井は確認する。

しかし田島は意外そうに、ヒサミさんにはぐんぐん延びて欲しいだけですと恋愛感情等ない事を明かす。

でもヒサミは君の事…、分かってるんだろう?と松井は問いかける。

翌日、心斎橋脇のオープンテラスで田島と会う約束をして集まっていたヒサミとむつみは、今日こそどちらかが意中の人として指名されると予想していたので緊張していた。

1つのものを2人が取り合ったらどうなると思う?とヒサミが牽制すると、恋愛は恋愛、友情は友情とむつみは答え、どんなことがあっても友情は守りましょうと互いに約束し合う。

しかし、そこにやって来たのは田島ではなく玉宮だったので2人はがっかりする。

玉宮は田島の代理できたと言い、白羽の矢は…令子さんなんですと伝える。

一緒に失恋したヒサミとむつみは、公園のシーソーに乗っていた。

ヒサミの方は、これで恋の重みがなくなったので軽くなったわと明るく言い、むつみの方は対称的にがっくり気落ちしていた。

ヒサミが先に帰ると、シーソーに1人残っていたむつみは寂し気に歌い始める。

歌い終わったむつみは、誰かがシーソーに乗って来たので持ち上げられる。

反対側に乗っていたのは玉宮だった。

そして、どうして田島を好きになったんです?と玉宮はぶしつけに聞いて来たので、降ろしてよ!とむつみは不機嫌そうに頼むが、言うまで降ろしませんと玉宮は意地悪を言う。

良い人だからよとむつみが答えると、いつから好きになったんです?と又玉宮が聞いて来たので、1年前からや。年頃になったからよ。次から次へと見合いさせられ嫌になっていたと言う事もあるわとむつみは本音を明かす。

なるほど…、理不尽な封建主義に対するレジスタンスみたいなものですね?と納得した玉宮は、ボクの事聞いてない?ボクも君の見合い写真を持っているんだけど、君の方の見合い写真の中にボクもいるはずなんだよと言うではないか。

しかしむつみは、シーソーを降りると、逃げるようにその場を去って行く。

アパートに帰って来たヒサミに、松井は用意していた明治の缶ジュースをコップに開けて勧める。

すると、ヒサミがそのジュースを一気飲みしたので、そんなやけ酒みたいな飲み方は止めなさいと松井は注意する。

それでもヒサミは、私は、失恋すると歌手は歌がうまくなるって言うのでむしろ嬉しいわと負け惜しみを言って、窓辺に立つと発声練習を始める。

そんなヒサミの気持ちを察した松井は、なるほどね…と呟く。

その頃、帰宅したむつみの方は、見合い写真の中に玉宮の姿を認めて微笑んでいた。

東京を出るとき、ラーメンで乾杯をした時のカチンと言う音、覚えているわ…、あの時はもっと夢があったわよねとヒサミが言うと、松井もその時を思い出し、ボクも東京に帰りたいよ。いつまでも大阪の酔っぱらいの相手ばかりしてられないからね。それには金!良いスポンサーを見つけなきゃと張り切る。

「ラブミー」の社長竹内虎代に会いに行った松井は、言葉巧みにヒサミのショーのスポンサーになってくれと焚き付ける。

虎代が1万円くらいなら…と答えると、すぐさま「天狗堂」の花村伝兵衛に会いに行き、その金額を教える。

すると、ライバル心むき出しの花村は、それならうちは2万出そうと言い出す。

松井は、その金額を又虎代に教えに行く。

すると、虎代も負けじ魂を出して5万と答え、その後もこの方法で両者の金額を吊り上げて行き、虎代に100万出させようとする。

虎代は、名もない新人だけに100万はね〜…と不安そうだったので、「有楽町で会いましょう」のフランク永井と一緒ではどうでしょう?と松井は言い出し、それならと虎代に承知させる。

キャバレー「ゴールデン・ウェーブ」には、「特別出演 フランキー堺」の文字と似顔絵が描かれた看板が貼り出されていた。

本物はもっと二枚目だぞ!えっ?じゃあ出てみろって?よ〜し…(と、フランキー堺のナレーション)

ステージでは本物のフランキー堺が歌っていた。

その後、支配人は、ヒサミをあるテーブルに連れて来て客に紹介する。

その客とは、「黒田興行」の黒田だった。

フランキーに勧められて聞いたんだけど、巧いじゃないか。ボクに以前の償いをさせてくれないか?東京に出てみないか?と黒田は言い出す。

しかしヒサミは、その件に関しては、松井さんに一任していますと答えるだけだった。

その頃、松井は、東京の「フランク永井事務所」にやって来て、マネージャーの榊原に、2、3日貸してもらえないかと相談するが、榊原は、その場にいた他の担当者たち同様いら立っていた。

向う三ヶ月くらいスケジュールが詰まっており、とても身動きできないと言うのだ。

スケジュールを押さえているのは誰なんです?と松井が聞くと、黒田さんだよと榊原は苦々しそうに答える。

ヒサミは、アパートにまで乗り込んで来た黒田に対し、松井さんには夢があるんですと説明していたが、あの男には君を売り出す力がないよ。今はマスコミを機敏に掴んだ方が勝つんだと黒田は説得していた。

でも、松井さんを置き去りにする訳にはいきませんとヒサミが言うと、それじゃ、歌手として自殺するようなものだと黒田は言い聞かす。

それでも私は、人と人との結びつきを大切にしたいんですとヒサミは答え、そうした2人の会話を部屋の入口前で黙って聞いていたのは、東京から戻って来たばかりの松井だった。

松井は部屋には入らず、肩を落としたまま静かに立ち去って行く。

その後、ヒサミ、むつみ、令子、玉宮、田島らが集まり、ヒサミのリサイタルをうちらでやろうとむつみが提案し、全員賛成する。

早速、令子は母親の虎代に会いに行き、天狗堂の二代目に負けても良いの?と焚き付ける。

一方、むつみの方も父親の花村に、ラブミーに負けて良いの?と焚き付けていた。

そして、互いの社長室の電話を通じ、むつみと令子は、リサイタルの共同開催を親たちに了承させた事を確認し合う。

その夜、「ゴールデン・ウェイブ」の楽屋にいたヒサミやむつみたち仲間の元を訪れた黒田は、東京に行かないかね?松井君が行けと言っても?成功を祈ると連絡があり、松井君が考えたショーの台本が届いた。そして、このトランペットは田島君にやってくれと言われた。この企画構成を生かしてやるんだと黒田は強調する。

それを聞いたヒサミは泣き出す。

いよいよ東京の大劇場で、天狗堂、ラブミー共同開催の「八木ヒサミショー」が始まる。

劇場前には「特別出演 フランク永井 フランキー堺」の看板を掲げられていた。

ヒサミの楽屋には、むつみや令子も来ており、良かったな、ヒサミちゃん、東京に行けるようになってと言葉をかけていた。

ステージでは、フランク永井が「東京ダーク・ムーン」を歌っており、客席には、花村伝兵衛と竹内虎代が並んで観ていた。

令子は田島と一緒に楽屋に来ていた。

そんな中、玉宮が、山田真二と雪村いづみが出てくれる事になった!と報告に来て、みんなはステージ脇に覗きに行く。

ステージでは、確かに、メイクをした山田真二が歌っていたが、あまりに玉宮とそっくりだったので、むつみらは玉宮と山田の顔を見比べて不思議そうな表情になる。

続いて登場した雪村いづみは、あまりにもむつみそっくりなので、今度は玉宮や令子が不思議そうに両者を見比べる。

すっかりステージに満足していた虎代は、ここらで握手でも…と、隣の花村に手を差し出すが、花村は、あかん!と拒否する。

次は、田島が、波止場のセットで歌い始める。

そして、いよいよ八木ヒサミが登場し、2人の男性ダンサー(中野ブラザーズ)を前に「ビギン ザ ビギン」を歌いだす。

そのとき、劇場背後のドアの影から、劇場内を覗き込んで来たのは松井だった。

ヒサミが歌い終わると、松井は思わず拍手をして喜ぶ。

客席では、いつの間にか、虎代と花村も無意識に手を取り合って喜んでいた。

トリを飾るのは、フランキー堺のドラム演奏だった。

そこに、「終」の文字が出たので、まだまだ終わりじゃない!(と、フランキー堺のナレーションがかぶさる)

東京から大阪に帰る夜汽車の三等車にやって来たのはヒサミだった。

彼女は、1人の娘(若水ヤエ子)に、自分の二等車の切符と交換してくれませんか?と願い出る。

すると、そのいかにも地方出身者らしき娘は喜び、東北から大阪に出て3年間女中をしていたんだけれど、フィアンセから手紙が来て帰って来いと言われたので帰る所なんだけど、駅について三等車から降りるのは恥ずかしかったからけど、二等車は高いからお金がもったいなくて、降りる時だけ二等車の出入口を使おうと思っていた所だったのなどとくどくどと言い訳をしながら二等車へ移って行く。

三等車の席に座ったヒサミは、隣でコートをかぶって寝ていた男のポケットから、自分のリサイタルのパンフレットが覗いていたので、嬉しくなり、松井さん?と声をかける。

すると、コートの下から覗いたのは確かに松井だったので、どうして来てくれなかったんです?とヒサミは責める。

松井はつい、これはいかんよと、ヒサミの癖である鼻の下をかく癖がステージでも直っていなかった事を指摘したので、え?やっぱり来てくれていたのね!とヒサミは感激する。

松井は、あ、バレたか!と慌てるが、そんな2人を乗せた列車は富士山の横を通り過ぎていた。