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お父ちゃんは大学生

小沢昭一と南田洋子主演のハートウォーミングな人情喜劇。

義理の息子になった信吉に対し、父親としての体裁ばかり気にかけ、一家の大黒柱になると言う自覚がない正太と、その子供っぽい甘さを厳しく指導して行こうとする、しっかり者と言うか、姉さん女房的な存在として加奈子の対比が描かれて行く。

浅草のおばさんに、急に子供が2人になったようで大変…と愚痴をこぼす辺りに、加奈子の大人としての本音が見える。

劇中では加奈子の年齢が明かされていないので、26歳だと言う正太とどっちが年上なのか判断できないが、やはり結婚すると、女性の方が夫に対してまでも母親的な存在になると言う風刺なのかもしれない。

全体的に微笑ましい話なのは分かるが、8年も大学に通っているダメ学生の正太が、どう言うきっかけでビューティーインストラクターの加奈子と知り合うようになったのかとか、加奈子が子持ちになったいきさつとか、基本的な部分の説明がないため、何となく、加奈子が、正太との結婚に踏み切れなかったり、執拗に正太の奇術を禁止してしまう辺りの心理が分かりにくくなっている。

通常、これだけ奇術の事が前半の方で何度も会話に出て来ると、クライマックスで、その奇術が思わぬ役に立ち、加奈子の目を覚まさせる…と言う展開になるのではないか?と言う予感もあったが、そう言う事もなく、伏線になっていないのも拍子抜けする。

複数の脚本家が参加しているので、やや構成に難があるのかもしれない。

おそらく自分1人の稼ぎだけでは将来性に不安を感じたのか、途中、一旦は1人息子を浅草のおばに渡そうと迷ったりもしている加奈子だから、正太はもうプロ並みなのでうちに任せてもらえないか?と芸能社から誘いを受けた時に、承知しても良さそうにも思えるのだが、おそらくは、そう言う不安定な自由業をやらせるよりも、ちゃんと正太には大学を卒業してもらい、一般的な会社員のような安定した職業に就かせたいと言う手堅い気持ちがあると言う事なのだろう。

この時代の日活作品ではお馴染みだが、この作品でも、タイアップ企業名や商品名が具体的に出て来る。

それは、加奈子が勤めている「コーセー化粧品」であったり、劇中で、加奈子が商品名をわざとらしく言う「新パイレン錠」なる薬だったりする。

正太と信吉が頭を叩く「ペコちゃん人形」など、タイアップなのか判断に苦しむものも出て来るが…

今の感覚で考えると、加奈子1人の稼ぎで一軒家が借りられるだろうか?…等と言う素朴な疑問点などもあるが、西部劇ごっこに少年マンガ…、当時、子供たちの間で流行っていたものが描かれている所や、セーラー服姿の松尾嘉代などは、ちょっと貴重。

主人公の特長を分かりやすくするためと言うこともあるのだろうが、大学生が制服姿と言うのも、時代を感じさせる部分ではある。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1961年、日活、滝口速太+大木崇史+ 山内亮一脚本、吉村廉監督作品。

小学校に登校して来た信吉(新沢輝一)は、校門の前にいた女の先生に、新しいお父さんが来るんだよ!と挨拶し、教室に入っても、クラスメイトたちに、お父さん来るんだ!と教え、大学8年生なんだ!と…付け加える。

タイトル

信州一の名家として知られる畑中熊太郎(左卜全)は、帰郷して結婚することを報告した息子の正太(小沢昭一)を前に、そんな事より、まず大学を卒業しろ!第一、うちは名家として知られる家なのに、子持ちの女なんかを貰う奴があるか!嫁は自分等がふさわしい相手を見つけてやる!と怒鳴りつけていた。

一緒に話を聞いていた母親のトラ(田中筆子)は、あなただって私と結婚したのは19の時だったじゃないですかと取りなそうとするが、時代が違う!と一蹴した熊太郎に、正太は、僕はもう26なんです!と言い張るが、熊太郎は、お前はその女に騙されているんだ!とこちらも聞かない。

これ以上話し合っても無駄だと感じた正太は、絶対結婚します!と言い残し、家を出ようとするが、その時、妹の洋子(松尾嘉代)が帰って来たので、両親を頼むと伝えると、信州一の頑固親爺!と捨て台詞を残して家を飛び出して行く。

それを見送り、もう学費は出さんぞ!と怒鳴りつけた熊太郎は、なんて頑固な奴なんだ…と呆れるのだった。

後日、とある喫茶店の一室で、「畑中正太と桂木加奈子」と書かれた結婚披露宴に出席していたのは、畑中のクラスメイトの大学生たちと信吉だけだった。

時間がないので、友人代表として後輩の上田(木下雅弘)が挨拶を始めるが、肝心の新郎新婦がまだ来ていないので、やりにくいからと言い、信吉を新郎の席に座らせると、テーブルに置いてあったケーキに目を奪われた信吉は、僕がこれを食べて良いの!と喜ぶ。

その頃、正太は、子連れでの結婚に踏ん切りがつかない加奈子を説得していた。

加奈子は、結婚する条件として、正太が趣味でやっている奇術をやめて、学校を卒業する事を約束させる。

学費は自分が稼いで出すと言うのだ。

正太は誓うよと返事をするが、その手のひらには、いつの間にか癖になっていた奇術の玉が出現していたので、慌てるのだった。

その後、正太と加奈子は新婚旅行に向かう列車に乗っていたが、2人とも、1人置いて来た信吉が、寂しくて泣いているんじゃないかと案じていた。

しかし、後輩で学生結婚をしていた上田保雄と章子(谷川玲子)のアパートに預けられていた信吉は、ギターを弾きながら陽気に歌っていた。

その時、正太と加奈子が部屋にやって来たので、上田と章子は、あれからまだ3時間しか経ってませんが?と驚くが、信吉の事が心配で、横浜から戻って来たと説明した正太は、新婚旅行は日を改めて、信吉と一緒に行く事にしたと信吉の頭をなでながら言うと、信吉の方は、僕、新婚旅行なんか行きたくないよと困った顔をする。

ある朝、信吉は、なかなか起きない正太を起こそうとしていたが、正太は一旦起きかけてまだ二度寝していたので、信吉は正太の敷き布団を引っ張って転がす。

外に転がり出た正太は頭を目覚ましにぶつけてしまい、その目覚ましの音でようやく目を覚ますと、信吉起きなさい!などと息子に声をかけるが、その信吉はとっくに起きている事に気づき驚く。

一緒に登校した信吉は、小学校の前で大学に向かう正太に、しっかり勉強するんだよと声をかけるのだった。

講義に出席した正太が鞄の中を開けると、中から出て来たのは小学生用の教科書だった。

一方、信吉の方のランドセルには、大学の教科書が入っていたので、こちらも困っていた。

コーセー化粧品のビューティーインストラクターをしている加奈子は、新人たちに、客に商品を勧めるマニュアルを教えていたが、新人たちから、ご主人もその方法で手に入れたんですか?とか、そちらの話の方を伺いたいですなどとからかわれていた。

大学では、正太が、奇術大会への出場を後輩たちから懇願されていたが、もう出来ないんだと断り、校内で金貸しをしていた新井から、100円を借り受けようとするが、順番だと言われ、長い列の後ろに並ばされる。

信吉は、正太から買ってもらったハーモニカを友達の明夫たちに吹いて自慢していた。

正太が、慣れない湯色の準備をしている所に帰って来た加奈子は、鍋が焦げ付いている事を指摘、料理は自分がやるから、お風呂に行って来たら?と勧めたので、正太は信吉を連れて銭湯に向かう。

銭湯では、近所の明夫も太った父親と一緒に入っており、その身体を洗ってやりながら、今度自転車を買ってやるとその父親が明夫に約束していたので、同じように信吉の身体を洗ってやっていた正太は、自転車か…とライバル心を燃やすのだった。

ある日、インディアンの真似をして、ガンマン役の信吉等近所の子供たちと遊んでやっていた正太は、崖から転がり落ち、膝を擦りむいてしまう。

家に帰り、信吉からヨーチンを傷口に付けてもらっていた正太は、赤チンの方が良くないか等と躊躇していたが、無理矢理、傷口にヨーチンを塗られ、息子の手前、痛みに我慢するしかなかった。

近所で拾って来た犬を飼いたいと言い出した信吉のために、張り切って犬小屋を作ってやりながら、一緒に、犬の名前を考えてやっていた正太だったが、ジョンか太郎はどうかと提案した信吉に対し、熊ってどうだろう?妥協して、熊太郎は?などと答えていたが、それは自分の父親の名前である事に気づく。

おまけに、完成した犬小屋には、入口がない事を信吉から指摘され、又作り直すはめになる。

そこに帰宅して来た加奈子は、誰が面倒みるの?と犬を飼う事に反対するが、信吉が面倒を見ると約束すると、勉強の方もよろしく!と2人に言い聞かし、承諾するのだった。

その夜、同じ机に向き合い、互いに勉強していた正太と信吉だったが、隣の部屋にいた加奈子の目を盗みながら、信吉は正太にマンガを手渡す。

しかし、正太が、マンガを読みながらつい笑い出してしまうので、すぐに見つかり、「覆面太郎」と「少年白馬隊」のマンガはその場で没収されてしまう。

その後、加奈子が紅茶を入れて、2人に持って来てやると、もう2人とも居眠りをしている事に気づき苦笑するが、正太のノートには自転車の絵が書かれているのを見つける。

大学対抗野球大会に応援に出かけた正太だったが、息子の信吉も一緒に連れて行ったため、応援団席で小さな信吉はもみくちゃになってしまう。

それでも、その夜は、正太の家で後輩たちを招き、祝勝会を開いたので、信吉も上機嫌で参加していた。

例年、その日は正太が後輩たちにおごる習慣だったためで、加奈子は、嫌な顔一つせず、近所の酒屋にツケで日本酒を2本、追加で買いに出かける。

そんな加奈子に、また、見知らぬ学生が数人、畑中家への道を聞いて来たので、加奈子はさらに1本、日本酒を追加してもらう。

自宅では、正太が、カウボーイの真似をして、OK牧場の決闘を浪曲風にアレンジした演芸を披露していたが、酒を買って戻って来た加奈子に気づくと、小声ですまんなと感謝するのだった。

加奈子は、新パイレン錠があるから平気!と笑顔で答える。

しかし、翌日、加奈子は、浅草で店をやっている叔母(清川虹子)を訪ね、2万を借り受けていた。

20人もの学生に飲ませたんじゃ大変ねと同情する叔母だったが、うちには子供がいないから、信吉をうちにくれないか?あんたたちはまだ若いんだから、子供はこれからいくらでも作れるだろうと言うのだ。

その頃、信吉と正太は、ライオンと像はどっちが強いかを議論しながら近所を歩いてていたが、途中で、ペコちゃん人形を見つけると、つい面白がって正太が頭を殴ると、信吉も真似して殴る。

正太は調子に乗って、さらにペコちゃんの頭を殴っていると、店の主人に怒鳴られてしまう。

1人自宅いた加奈子は、玄関先にやって来た学生アルバイトから、押売を迫られていた。

職業柄、チャンネルの5番等と言う商品を安いヘアトニックと見破ると、相手は学生服を脱ぎ、背中の刺青を見せながら凄み始める。

その時、帰宅して来た正太は、玄関先から聞こえて来る押売の怒鳴り声に怯えながらも、信吉に何事かを耳打ちする。

先に玄関に入って来た信吉は、お父ちゃんがピストル強盗捕まえたんだってと言うので、すぐにその意味を悟った加奈子も、お父さんは?と聞き、もうすぐ帰って来るよ信吉が答えているので、横でその会話を聞いていた押売は、慌てて逃げて行く。

途中、すれ違った正太が学生アルバイトだと噓を言うと、その家はダメだ、ポリ公の家だ!と言いながら、押売が逃げ去って行くので、作戦が成功した正太は笑ってしまうのだった。

後日、信吉と加奈子を連れて親子で動物園に出かけた正太だったが、象はいるが、肝心のライオンが何故か見当たらなかったので、楽しみにしていた信吉は、ライオンが観たいとだだをこね出す。

すると、正太は、自分がライオンの檻に入り、ライオンの真似をして見せる。

それを観た加奈子は恥ずかしがるが、近くにいた修学旅行らしき女学生の一団も面白がって集まって来る。

その女子高生の中にいた1人が、兄さん!と正太に声をかけて来るではないか。

なかなかその呼び掛けに気づかなかった正太だったが、良く観ると、それは信州から出て来た、妹の洋子だったので驚く。

檻から出た正太が、妹から事情を聞くと、明日の自由時間の時に脅かしてやろうと思っていたの…と洋子は、わざと兄には黙って上京した事を話す。

信吉は、このお姉さんは僕の何?と聞いて来たので、加奈子がおばちゃまよと教えると、随分若いおばちゃまだな〜…と信吉は感激する。

信州に戻った洋子が、お姉様から預かって来た父親の好物の海苔を土産として渡そうとすると、熊太郎は、怒って捨てろ!と言うので、トラが、それじゃあ、この海苔は、豚の餌にでもしましょうと持ち去ろうとする。

すると、熊太郎は、豚に海苔の味は分からん!とまた、叱りつけ、何がお姉様だ!このままでは、正太の奴、その女と別れんぞ!今から上京する等問い出したので、この時間に東京行きの列車等ないし、明日は消防署の寄り合いがあるし、明後日は…などと夫の予定がぎっしり詰まっている事を教え、なだめようとする。

フランス語の授業を受けていた正太は、何かの本を読むのに夢中になっているあまり、教授(藤村有弘)から肩を叩かれ、驚いて、中国語を読んでしまう失態を見せる。

教授から何の本を読んでいるのかと取り上げられると、それは児童心理学の本であった。

ある日、正太は、信吉の授業参観に出かける。

その頃、コーセー化粧品に乗り込んだ学生たちが、加奈子に、正太の奇術大会参加を許して欲しいと頼んでいたが、加奈子は頑として承知しなかった。

1年4組の信吉の授業が始まるが、日頃の疲れが出たのか、教室の後ろで、明夫の太った父親の隣で座っている間、ついうとうととしてしまい、明夫の父親の方に頭を預けてしまう。

やがて、明夫の父親の方も居眠りを始めてしまったので、それに気づいた信吉は、そっと床を四つん這いになって後ろに来ると、父親を起こそうとする。

その時、急に先生が、「畑中君!」と名前を呼んだので、驚いて「はい!」と返事をして急に立ち上がったのは、父親の正太の方だった。

ある日、1人、家の掃除の途中だった加奈子の方は、信吉のマンガを読んで面白がっていたが、信吉が帰って来たので、慌てて箒の下に隠そうとする。

しかし、信吉が、それ、面白かった?と聞きながら、隠しきれなかったマンガの本が加奈子の足下に残っていたので、加奈子はバツが悪くなる。

正太は、喫茶店で落ち合った後輩の新井に、授業のノート取りや代辺を頼んでいた。

がめつい新井は、しっかり料金を要求し、その場の支払も正太に押し付けて来ながら、バイトの口ならあると言い、藤田芸能が奇術をしたら3000円くれると言って来ていると教えるが、さすがに、それは出来ないんだと正太は断るしかなかった。

後日、明夫は、デブの父親から自転車を買ってもらい、公園でそれを得意げに乗り回していたが、それを観ていた信吉は、寂しそうに1人ブランコに乗っていた。

その信吉の姿を近づいて来た正太も目撃し、自転車欲しいか?と聞くが、正太は気丈にも欲しくないよと答えるのがいじらしかった。

その夜、正太は、夢の中でも自転車の事を考えていた。

翌日、近所の自転車屋に行ってみた正太は、中古で一番安い自転車でも3800円もする事を知り、店の主人(由利徹)に、3000円にならないかと交渉するが、2万3500円もする新車の方を勧められたりする。

それでも、正太が粘っていると、3500円にならしてやっても良いと主人が言ってくれたので、思わず、正太は買った!と言ってしまう。

その後、正太は、加奈子との約束を破り、奇術の余興をやる事になるが、途中、藤田芸能社の社長から舞台裏に呼ばれ、次の落語をする人間が遅れているので、奇術を伸ばしてくれと頼まれる。

正太は、500円上乗せしてくれと条件を出し、何とか3500円を手に入れる事が出来る。

そのギャラをもらって、自転車屋に向かった正太だったが、彼が店に入る直前、正太が買う予定だった自転車が3800円の定価で売れてしまう。

それを知った正太は、僕の3500円はどうなるんだ!と店の主人に詰め寄るが、主人は、定価で売れたものは仕方ないし、車輪が付いてないフレームだけの自転車に空気入れをおまけに付けるから3500円でどうだ等と勧めて来る。

一方、デパートで化粧品のデモンストレーションをしていた加奈子に面会人があり、藤田芸能社の社長なるその人物は、ご主人を私に任せてもらえないか?あれは立派なプロだと頼むが、加奈子は拒否する。

その日、帰宅した加奈子は、自転車を買ってやりたかったんだと言う正太に、信吉が欲しいものをどんどん買って与えていたらわがままになってしまう。そんな事より、今は阿多な地震が大学を卒業する事が先よと説教する。

しかし、納得できない正太は、いきなり家を出ると言い出したので加奈子は驚くが、正太は、止めてくれると思っていた加奈子が止めないので、自ら口に出してしまった手前、家を後にするしかなかった。

上田の家に泊めてもらう事にした正太だが、父親を慕った信吉が1人で訪ねて来たので、お母さんはどうしている?と聞くと、泣いていたと言う。

確かに加奈子は泣いていたが、それはタマネギを切っていたからだった。

信吉は、犬の次郎も連れて来ると言い出したので、上田は困惑するが、その後、1人で自宅に戻って次郎を抱えて持って行こうとした信吉は、あっさり加奈子から見つかり、明日にしたら?お父ちゃんどうしていた?と聞かれる。

信吉は、お母ちゃんが1人だと可哀想だと言っていたと教え、そのまま自宅に戻る事にする。

深夜、なかなか戻って来ない信吉の事を案じた正太は、一旦寝ていた布団から抜け出して、外に出ようとするので、起き上がった上だが、もう自宅で寝ていますよとなだめるが、一緒に付いて行ってやれば良かったと悔いた正太は、自宅まで様子を見に帰る。

すると、信吉の靴が置いてあったので安心するが、家の中でアイロンをかけていた加奈子は、サイレン音をさっき聞いていた事もあり、庭先で正太が立てた物音に気づき、物差しを手に握りしめ、怖々外の様子を覘く。

加奈子に観られてはまずいと思った正太は、思わず木の陰に身を隠すと、猫の鳴きまねをしてごまかそうとするが、すぐに正太の声だと気づいた加奈子は、野良猫ね?おなかが空いてるのだったら、中に入ってらっしゃいと笑いながら声をかけ、木の陰の正太も、思わず猫の声真似で「はい」と答えるのだった。

ある日、大学から帰って来る途中だった正太は、犬の次郎を連れて信吉がやって来たので、どうしたんだと聞くと、今家に浅草のおばさんが来ていて、僕をもらいたいって言っていると寂し気に教える。

帰宅した正太は、浅草のおばさんに、信吉を手放すのは、父親として反対します!と庭先から声をかけるが、あなたはお父ちゃんと呼ばれて嬉しいのかもしれないが、実際は子供と遊んでいるだけじゃないと加奈子は反論するし、私は3人のことを想って言ってるんだよとおばさんも言い聞かすが、興奮している加奈子、正太、おばさんは、最初こそ、近所の手前、小声で話し合っていたが、ついつい大声になってしまう。

やがて正太は、信吉を探しに行くと言ってその場を離れるが、広場の土管の中に次郎と一緒に踞っていた信吉を発見する。

一緒にその土管の中に入った正太は、信ちゃんは僕の子供だからと言って、信吉を慰めるが、もう少しここにいようと言うと、信吉からおばさんが怖いの?と逆に聞かれてしまい、ちょっとねと本音を打ち明ける。

その頃、浅草のおばさんは、何か言いたげな加奈子に対し、子供を渡したくないんだろう?分かってるよ。良い旦那様じゃないのと笑いながら帰って行く。

その後、夜の7時20分になっても正太と信吉が戻って来ないので、心配した加奈子は表に探しに出かけ、上田の家に訪ねてみるが、いないと知ると、途方に暮れる。

土管の中にいた正太は、信吉から、僕は小学生、お父ちゃんは大学生、僕たち学生同士だと言われ、思わず握手する。

そして、信吉が吹いていたハーモニカを借りて自分も吹いてみた正太は、今度の学芸会では、「故郷の空」の独唱をするんだと言う信吉のために演奏をしてやる。

その直後、公園を通りかかった加奈子は、土管の中から聞こえて来るハーモニカと信吉の歌う「故郷の空」を聞き、中を覗き込むと、2人とも疲れて眠り始めているのを発見し微笑む。

信吉の小学校の学芸会の日、正太は張り切って、自分で特大の握り飯をこしらえたり、ズボンを後ろ前にはいたりして、そわそわしながら加奈子と共に出かけようとしていたが、その時、玄関先にやって来たのは、父親の熊太郎だった。

お前は親の気持ちが分からんのか!と言う熊太郎に、正太も負けじと、僕もお父ちゃんなので分かりますと反論する。

お前はその女と別れるんだ!と家に上がり込んで居座ろうとする熊太郎に、呆れ果てた正太は、では、留守番をお願いしますと言い残し、自分等用に用意していた握り飯を置いて、さっさと出かけて行く。

やむ終えず、1人留守番をしていた熊太郎は、信吉の玩具のピストル等で遊んでいたが、やがて握り飯を食おうとするが、あまりの大きさに驚き、今時の女は…とぶつくさ言いながら頬張りかける。

その時、玄関先に電報が届いたので受け取る。

そこには、「頑固親爺上京す、警戒せよ 洋子」と書かれてあったので、俺の方が先に着いているんだと呆れる。

学芸会では、いよいよ信吉が舞台に登場し、「故郷の空」の独唱が始まっていた。

客席で、正太と加奈子が座ってそれを観ていると、その後ろの席に、いつの間にかやって来た熊太郎が座ったではないか。

すると信吉は、何故か、歌を途中でやめてしまう。

場内がざわめき出したので、正太は思わず舞台袖から壇上に上がると、先生が弾いていたオルガンの影からハーモニカで演奏をし始める。

その姿を観て喜ぶ加奈子。

すると、それに勇気づけられたように、信吉は又「故郷の空」を歌い始め、あろう事か、熊太郎までが大きな声でそれに唱和し始めると、会場中の父母たちも歌い始める。

やがて歌い終わり、万雷の拍手が巻き起こると、舞台中央の信吉と、ピアノの横に立った正太は一緒に頭を下げるのだった。

後日、信州の実家で、洋子と熊太郎が碁をやっている所に、母親のトラが嬉しそうにやって来て、正太たちが帰って来ますよと教える。

それを聞いた熊太郎は相好を崩し、自転車はもう買ってあるか?とトラに確認すると、孫を引き取って、田舎に住ませるか等と提案するが、正太も加奈子さんも承知しやしませんよとトラは呆れる。

その後、やって来た信吉は、おじいちゃんから買ってもらった新しい自転車に乗り、洋子がそれを押してやる。

その後ろから、すっかり仲直りした熊太郎、トラ、正太、加奈子等が、嬉しそうに連れ立って歩いて来るのだった。