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君は恋人

暴漢に襲われ目を負傷した浜田光夫の映画復帰作であり、日活オールスター映画にもなっている。

現実の撮影所の様子から始まり、やがて劇中劇風に本編が始まり、途中で一旦終わりかと思わせて、最後に話をひねると言う、楽屋落ち的な楽しく凝った演出になっている。

1966年の「青春ア・ゴーゴー」と同じような主要キャストにも思えるが、妙にまじめな青春ドラマで、若干不完全燃焼っぽかった「青春ア・ゴーゴー」よりは、個人的に好みの作風になっている。

気に入った要素の1つは、可愛い盛りの和泉雅子がヒロイン役で出ている事。

「ザ・スパイダース」が井上順を加えたフルメンバーになって登場しており、彼らのキャラクターに合わせたおふざけ展開になっている事。

この「おふざけ演出」に関しては、観る人の好みで評価は分かれる部分だと思うが、日活特有のナンセンスコメディの楽しさが久々に出ており、コメディ好きな私としては大いに気に入った。

ただ、「ご祝儀映画」「イベント映画」としてハチャメチャ風になっているのは良いにしても、「劇中劇」の趣向が成功しているかと言うと微妙な所で、後半、テレビの公開番組「九ちゃん!」に出演している光夫は、映画「君は恋人」に主演している俳優の浜田光夫なのか、映画の中の人物矢代光夫なのか判然としなかったりする。

九ちゃんから、怪我の方はもう良いの?と聞かれている所は、現実の浜田光夫でも、石戸組に殴り込み、怪我をして入院後、歌手になった劇中の八代でも当てはまるのだが、映画の方はどう?と九ちゃんが聞き、今、ラストシーンを撮っていますと光夫が答えているのだから、これは俳優の浜田光夫として出ているシーンと言う事だろう。

ところが、九ちゃんと光夫が「君は恋人」を歌っているのを客席で嬉しそうに観ているのは、どう観ても、劇中の恋人雅子である。

そうでないと、ラストの、光夫と雅子が手を取り合って代々木近辺を走る場面の意味がない。

ひょっとしたら、歌手になった劇中の八代光夫は、映画の仕事もしていると言う事なのか?

そう解釈すると、「ヨット鉛筆」のCM撮影をしている最中、ザ・スパイダースと会っているのも、劇中の八代光夫のその後の姿と言う事になるのだろうか?

俳優浜田光夫として出ていると思われる一見現実風の場面も、俳優が映画用に演じている演出と言う事もあり、虚々実々、考えれば考えるほど理解不能なシュールな展開である。

日活オールスター映画としては、「幕末太陽傳」(1957)の頃よりは若干世代交代した、60年代スターたちメインの顔ぶれだと感じる。

吉永小百合、高橋英樹、渡哲也と言った今でも活躍中のスターの若き日の姿に親しみは感じるが、やはり「幕末〜」の頃に比べると、当時の若手中心の顔ぶれは、フレッシュながらも若干小粒になったと感じないでもない。

正直な所、この作品のスターの中で、当時一番人気があったのは、テレビでもお馴染みだった「ザ・スパイダース」だったのではないかとさえ感じる。

映画人口が激減していた60年代当時、銀幕のスターたちの人気が、徐々に、テレビの人気者たちに食われて行っていた印象があるからだ。

前半、シリアスタッチで進行していた話が、途中からスパイダースが加わり、ハチャメチャな展開に変化したり、スパイダースの出演シーンが、他のゲストたちに比べると長目なのも、そう言う背景があるような気がする。

そのスパイダース同様、ゲスト出演にしては出演シーンが多く、役柄的にも重要なポジションにあるのが克美しげるで、こちらのキャスティングにはちょっと意外な感じがある。

確かに、当時、人気歌手の1人ではあったが、スパイダースほどの人気や動員力があったとも思えないからだ。

実際、当時人気があったスパイダースに主演映画は何本もあるが、克美しげる主演映画なんて記憶にない。

とは言え、アニメ「エイトマン」の主題歌を歌っていたほどの克美しげるのその後の衝撃的な転落人生を知る世代としては、この映画に映し出される彼の全盛期の頃の姿を久々に見られるのは感慨深いものがある。

同じく、舟木一夫や、確か当時、石原プロモーション所属だったと記憶している再デビュー当時の黛ジュン、荒木一郎らのヒット曲シーンも懐かしい。

黛ジュンは、この作品でも歌っている「恋のハレルヤ」がヒットしながらも、レコード大賞新人賞を取れなかったので、その雪辱とばかりに、翌年、いかにも賞狙いを意識したような「夕月」などを発表、その狙い通り、「天使の誘惑」でレコード大賞を獲得したと記憶している。

ジャニーズが歌って踊る姿も貴重。

改めて、この当時のあおい輝彦を観ていると、ちょっと「V6」の岡田准一に似ていなくもない、目鼻立ちのはっきりした濃い顔立ちをしている。

また、この作品で「新人」とクレジットされているトン坊役の蕃ユミと言う人は、ぱっと見、若い頃の川口晶似の不思議なキャラクターである。

その後あまり名前を聞かない所をみると、早々に芸能界を引退なさったのかもしれないが、違う役柄も観てみたかった気がする。

映画ファンとしては、当時、日活のプロデューサー的立場になっておられたターキーさんこと水の江瀧子さんの姿や、今はマンションに変わってしまい現存していない、劇中に写っている日活の本社ではないかと思われる建物や、当時作られていた日活銀座のオープンセット等の様子が珍しい。

この作品では、実際の新宿歌舞伎町のロケと、オープンセットが併用されており、ロケ風景の方も珍しい。

「東映オデオン座」等と言う映画館はもうないだろうし、「アラモ」などの映画看板も時代を知る手掛かりになる。

ちなみに、吉永小百合の結婚式シーンで、相手の男の姿が全く登場しないのは、やはり、当時の熱狂的なサユリストたちの気持ちに配慮したものだったのだろうか?

この作品では、ヒロイン役の和泉雅子の陽性なイメージに対比させるためか、終始、ものうげな眼差しで、暗い雰囲気の女性を演じており、結婚式のシーンでも幸せそうな雰囲気がなく、何か意味ありげでありながら、何も説明はないと言う謎めいた不思議な役所になっている。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1967年、日活、若井基成脚本、斎藤武市監督作品。

青いオープンカーに乗って日活撮影所にやって来たサングラス姿の浜田光夫(本人)は、本館の中に入ると、色々な衣装を着た大部屋さんたちに挨拶しながらメイク室へと入る。

そこには、川地民夫、松原智恵子、太田雅子(梶芽衣子)、和泉雅子、山内賢ら、いつもの仲間たちが待ち受けており、怪我をして400日も現場を離れていた浜田の復帰を喜ぶ。

鏡台の前に座ると、すぐに、監督が待っていますと言うスタッフの声がかかり、素早くメイクを終えた浜田は、新作の石崎監督(石原裕次郎)に挨拶し、夜の新宿歌舞伎町に見立てられた日活銀座セットの中でのリハに臨む。

石崎監督から簡単な指示を受けた浜田は、路地を歩きはじめ、反対側から来たジーンズ姿のズベ公風娘(太田雅子=梶芽衣子)と肩がぶつかったので、こら!気をつけろ!と凄んでみせるが、逆に、そっちこそふざけんな!と娘から凄まれたので、その迫力にビビリ、すいませんでした…と意気消沈して頭を下げる。

すぐに本番になり、「君は恋人」と言うタイトルが書かれたカチンコが打たれたので、浜田は、リハ通り、雑踏の間を歩き始め、向うから来た娘と肩がぶつかると、こら!気をつけろ!と怒鳴りつけるのだった。

タイトル

歌舞伎町の路地を歩いていた矢代光夫(浜田光夫)は、トンカツ屋「とん吉」から出て来た出前持ちのトン坊(蕃ユミ)とぶつかり、岡持を落とさせてしまう。

トン坊は、店の中にいた姉の雅子(和泉雅子)を呼んで、弁償させて!と頼むが、その時、店の中からも食い逃げ!と言う声がかかり、逃げ出して来た大きなメガネの学生山川(山内賢)が店長の八木(河上信夫)と雅子に取り押さえられる。

結局、山川と光夫は、店の荒いものを手伝う事で弁償代わりにしてもらうが、事情を良く知らない山川は、光夫も自分同様、食い逃げで捕まっていると勘違いし、誤解だと否定する光夫が出した手の指の数が食べたトンカツ数と間違えて、勝手に恐れ入ってしまう。

そんな光夫に何か惹かれるものを感じたのか、雅子は、仕事は何をやっているの?ここで働かない?コックを捜しているのなどと弁償分を働き終わり帰りかけていた光夫に話しかけるが、こんなゴキブリ臭い店なんかに勤めるくらいなら旋盤工にしがみついていたさと打ち明けたので、光夫は何故か旋盤工を辞めたらしい事が分かる。

その話を横で聞いていた山川は、その話、自分がやりましょうか?前、洗濯屋で働いていたから…とトンチンカンな言葉をかけて来るが、雅子は相手にしなかった。

バー「とまり木」に入って来たのは、流しの井上しげる (克美しげる)だった。

そのカウンターで苛つきながら光夫を待っていたのは、石戸組のチンピラこん平(林家こん平)だった。

そこに事故を起こしてしまったもんで…と言い訳しながらやって来たのが光夫で、お前が遅れたので今夜の仕事がパーになったと怒るこん平に、まだ今夜は終わってないからやらせてくれと光夫はすがりつく。

しかたないので、こん平はカードを光夫に渡すと、カウンターにカードを配る練習をさせてみる。

光夫が普通に配っているのを観たこん平は、それじゃダメだと言うと、光夫からカードを受け取り、チョンチョンチョン、今晩お暇?とジェスチャーまじりで自らカード配りの歩き方実演してみせる。

その後、先輩こん平の指導通り、車のワイパーに、「今晩お暇?」と書かれたピンク案内カードを配り歩いていた光夫だったが、同じくカード配りをしていたこん平の方が、うっかり、停まっていたパトカーのパイワーにそのカードを挟んでしまったので、降りて来た高田英樹巡査(高橋英樹)から追いかけられる事になる。

こん平から声をかけられた光夫も一緒に町中を逃げ回る羽目になってしまい、警官の目をくらますために、街角に立っていた似顔絵書き(和田浩治)の前に立って客の振りをする。

警官をやり過ごしたこん平と光夫が、金を払わずに立ち去ろうとしたので似顔絵書きは文句を言うが、さすがにすまないと思った光夫は、女の子を描いてくれと言うと、見本として掲げてあったいくつかの似顔絵の部分部分をヒントとして、モンタージュのようにイメージを伝える。

出来上がった似顔絵を観たこん平は、お前のスケか?と聞くが、中学時代に憧れていた相手だが、結局、声をかける事も出来なかったと光夫は照れくさそうに明かすと、その子を探しているのだが、会える頃には俺は中幹部になりたいな…などと言う。

それを聞いていたこん平は、お前が中幹部なら俺は大幹部になって、故郷新潟に錦を飾りたいななどと夢を語る。

翌朝、似顔絵の主吉永百合(吉永小百合)は、とある教会の中でオルガンを弾いていた。

その演奏に合わせ、教会の中で賛美歌を歌っていた信者の中に井上の姿もあった。

アパートに帰って来た井上は、隣の部屋に住んでいる雅子から、朝食まだでしょう?と声をかけられ、店の残りもののトンカツを手渡されたので、いつも悪いな…と感謝する。

その頃、光夫は、酒を飲んで遅く帰って来たのでまだ布団の中で寝ていたが、母親さち(清川虹子)が、お前、工場辞めたんだって?昨日工場長さんにばったり会ったんだよ。夕べはどこに行ってたんだい?などとしつこく聞かれると、昔の石戸組で、今は石戸興行と言う会社の社員の所だよと説明しながらうるさそうに起き上がる。

しかし、それはヤクザじゃないのかい?ヤクザなんてクズだよと心配してさちが聞いて来たので、旋盤工の方がクズだよ。親爺がそうだったろう?あげくの果てに怪我して…。石戸組で中幹部になれば店を任せてもらえるんだ。そうしたら家でも車だって買えるようになる。俺は金が使えるようになりたいんだ。母ちゃんみたいに人の家を這いつくばって掃除したりしたくないんだと光夫は答える。

しかし、さちが、家政婦で満足しているよと言うので、ふてくされた光夫は、朝飯に用意したあったみそ汁をご飯にかけ、もっとましなおかずはないのかよ!とぼやくと、また布団の中に寝転がってしまうのだった。

石戸組の本拠地「クラブ ジョー」では、ダンサー(殿岡ハツエ)の踊りを観ていた専務の大野(戸田皓久)と中川(近藤宏)を、小山が、社長がお呼びでと声をかけに来ていた。

社長の石戸(宍戸錠)は、外国から来た手紙を見せながら、ラスベガスでギャング同士の会合を開くので来てくれと手紙が来たと自慢する。

そんな脂下がった石戸に、いきなり銃を突きつけた大野は、昔の親分だったら、こっちが抜く前に銃を出していたはずだと嘆く。

一瞬、手を挙げかけた石戸だったが、単に自分の腕を試されただけだと知ると、俺たちはサービス業なんだ。親分等と呼ぶな!社長と呼べとなどと叱りつける。

専務室に戻って来た大野、中川、小山の3人は、こんな事では営業成績も下がるばかりだと頭を抱える。

中川は、間もなく、深江組の親分がムショから出て来るので、このショバを俺たちに奪われた事を知ると奪い返しに来るはずですと言い出す。

いっそ、一思いにやるか?深江とうちの親分を相打ちにさせるのが良い等と密談を交わし、そうなると、深江組の親分が出て来るまで親分を外国なんかに行かせられないと話がまとまる。

それで、又社長室に戻って来た3人が、社長に今店を開けられては、残された自分たちだけでは荷が重過ぎるので…等と言って、旅行を止めさせようと説得するが、急に拳銃を取り出した石戸社長は、見事なガンさばきを見せ、さっき言われたので、ちょっと練習してみたら元の腕にすぐ戻れた等と自慢し、これで文句はねえな?と3人に言い渡すと、大野らに自分の旅行の邪魔をさせないよう釘を刺す。

社長室を出た大野らは、こうなったら、奴の留守中に、荒療治をやるしかない。深江は組の誰かにやらせようと話し合うのだった。

やがて、石戸社長は大野ら幹部らに見送られ、羽田空港からエアフランスの旅客機に乗ってラスベガスに飛び去ってしまうのだった。

「石戸を乗せたジェット機が羽田を飛び立った…」とまで書いたシナリオライターの赤井(渡哲也)は、もう撮影始まっているんだって?と聞きながらお茶を運んで来た妹に、ちょっとボウリング行って来ると言い残して部屋を後にする。

ボウリング場で楽しんでいた赤井だったが、急に場内アナウンスで名前を呼び出され、電話口に出てみると、映画のプロデューサー(水の江瀧子)からで、話の真ん中が辛過ぎるのでもっと甘く書き換えてよと言う注文だった。

赤井は断ろうとするが、その赤井の手から受話器を取り上げた浅田デスク(浅丘ルリ子)が私に任せて下さいとプロデューサーに約束して電話を切る。

赤井は、そんな浅田に、ストライクを出したら書き直してやるよとボウリングをやるように勧めるが、浅田は困ったように、私、ボウリングなんてやった事ありませんと困惑しながらも、仕方なさそうにボウルを投げると、見事ストライクが出てしまう。

がっかりした赤井は、浅田を連れマンションに戻りかけるが、その時、プロボウラーの安田さんが浅田に挨拶をして通り過ぎて行く。

浅田は、実は私、ボウリングキ○ガイなのと正直に赤井に打ち明ける。

自宅に戻り原稿用紙に向かい始めた赤井に、同行して来た浅田デスクは、紅茶に砂糖を入れてやりながら、甘くしてよとねだってみせるのだった。

「石戸社長が外遊して1週間ほど経ったある日…」と赤井は書き始める。

歌舞伎町の「とん吉」前を通りかかった光夫に、「先輩!」と声をかけて来たのは、店で働くようになったらしき山川と雅子だった。

その頃、光夫の心の恋人である百合は、いつものように教会でオルガンを弾いていた。

呼び出されて夜の公園にやって来た光夫は、旋盤工仲間だった舟山(舟木一夫)が1人で待っていた事に気づき用事を尋ねると、工場に戻って来いよ。俺がさみしいからさと言うので、俺はさみしくないぜと言い返す。

いつも2人で、工場裏の運河で歌っていたじゃないかと言いながら、その時の思い出の歌を歌い始める。

しかし、光夫は哀し気に聞きながらも、自らは歌おうとせず、船山、俺は帰らないぞ!旋盤工にはチャンスがないが、この街にはチャンスがある。俺はそのチャンスをつかみたいんだと言い残して立ち去って行く。

残された船山は、1人寂しく歌い続けるのだった。

「とまり木」のカウンターで、アサヒビールをコップに注ぐ手が震えていたのはこん平だった。

そこにやって来た光夫がその様子に気づいて訳を聞くと、武者震いだ。殺しで入っていたムショから出て来た深江組の社長がうちの社長と決闘をすることになったらしい。深江がムショに入っている間に俺たちの組が深江組のショバを奪い取ったかららしいが、外遊中の社長に代わり、今、専務たちが、深江をやる子分を選んでいる最中なので、自分が指名されるかもしれないとこん平は言う。

それを聞いた光夫は、専務に紹介してくれと頼み、俺だって会った事はないと言うこん平を残し、店を飛び出して行く。

その頃、「クラブ ジョー」の地下室では、銃の腕に覚えがある子分たちが集められ、銃の腕前判定している最中だったが、最近撃ち慣れていないこともあってか、全員、的を射抜く事は出来なかった。

そこに飛び込んで来た光夫は、自分にやらせてくれと頼むが、大野専務は、こん平の下で働いているだけで、これまで顔を観たこともなく、銃も撃った事もないと言う光夫を追い払おうとするが、その専務に近づいていた光夫は、専務が手に持っていた銃を握りしめ、自らの身体ごと大野に銃口を押し付けながら、一度も銃を撃った事がなくても、これなら相手をやれるでしょう?と真剣に頼む。

思わぬ行動と度胸を観た大野専務は光夫を気に入る。

家に戻って来た光夫から、思わぬ大金を渡された母親のさちは狼狽するが、これは手付金で、仕事が成功したら、その倍は貰えるんだと言い残して家を出て行く光夫が、何か悪い事をするのだと気づき、止めさせようと後を追いかける。

公園で転んでしまったさちを助け起こしたのは、たまたま出前の帰りで通りかかった雅子だった。

さちから、ヤクザの仲間になって何かやるらしいので止めて欲しいと聞かされた雅子は、驚いて、歌舞伎町の映画館前まで追って行くが、途中で光夫を見失ってしまう。

人影のない資材置き場で待っていた光夫に近づいて来た深江組の深江(深江章喜)だったが、待っていたのが石戸ではなく、代理を名乗った光夫だと知ると、代理にものと命のやり取りはできねえと言い捨てて帰ろうとする。

しかし、決死の覚悟でやって来ていた光夫は、そんな深江に銃を向け近づくと、深江ともみ合いになる。

資材置き場の隅に深江を追い込み、一旦相手に奪われた拳銃を奪い返した光夫は、それを深江に突きつけるが、引き金が引けない。

その時、光夫がドジっちゃいけないと、後を付けて来ていた大野専務と中川が現れ、そのチンピラは役に立つぜ。大事にしてやんなと光夫の事を褒めてやった深江をその場で射殺してしまう。

この大仕事を成功させた光夫はいきなり石戸組の良い顔になり、立場が逆転したこん平を引き連れて街を練り歩くようになる。

「とん吉」の前を通りかかった時、何故かメガネを外して水をまいていた山川が、光夫の足下に水をかけてしまったので、こん平が叱りつけると、店の中から出て来た雅子が、話があると言って光夫をその場から連れ去ってしまう。

それを観たこん平は、偉くなると女にまでモテやがって…と悔しがる。

崖下に教会が見える近くの公園にやって来た雅子は、お母さんに心配かけてはダメよ。あなたがお金を持って来た夜、深江組の親分が殺されたじゃない。石戸組の人が出頭したけど、あれは身替わりだって八木さんが言ってたわと光夫に迫る。

しかし、光夫は、そんな忠告に耳を貸さず、さっさと立ち去ってしまい、姉を心配してやって来た妹のトン坊が、神様にお願いしてみない?と声をかける。

雅子とトン坊が恐る恐る教会の中に入ってみると、そこには1人でオルガンの練習をしていた百合が1人残っていたので、信者じゃなくても祈って良いかと聞くと、構いませんよと言って百合は出て行く。

バー「とまり木」に中川と来ていた大野専務は、酒の質をもっと落とたり、女にサービスをさせてもっと客に酒を飲ませ、儲けを増やせと小山にハッパをかけていた。

小山はママの時江(南寿美子)に酒を出させるが、大野が口にした酒もひどいものだったので、専務に出す酒の質を落とす奴があるか!と小山は叱りつける。

そこに入って来た流しの荒川(荒木一郎)が歌を歌いだしたので、今、流しの所場代はいくら取ってる?と小山に聞き、10%と聞いた大野は、もっと取るんだと命じる。

もっと景気のいい奴を頼むとリクエストされた荒川は、「いとしのマックス」を歌うが、帰り際、ママから金を受け取ると、あまりの額が少ない事に気づき文句を言う。

しかし、今所場代が上がったとこなんだ!と凄んだ石戸組の子分から殴りつけられる。

石戸組が所場代を上げて、新宿での流しがやりにくくなったと言う噂はたちまち広がり、渋谷で流していた4人組(ジャニーズ)に、オカマ風のマネージャー(岡田眞澄)は、あんたたちに新宿に戻って来て欲しいと依頼する。

事情を聞いた4人組は、やってみるか!と承知する。

雅子とトン坊が一緒に公園を抜けて帰りかけていた時、トン坊が持っていた楽譜の束を落としてしまったので、2人はそれを拾い集めてる。

そこにやって来た光夫が、その楽譜の一枚を拾い上げ、自分も、中学時代、音楽部の女の子と話したくて御苦学したので楽譜が読めるのだと打ち明ける。

でも、その女の子は、声をかける前に転校してしまったのだとも。

雅子は、この楽譜はアパートの隣に住んでいる長篠お兄さんのものだと教えると、何だ、流しかと光夫がバカにしたので、そこに近づいて来た渋谷からやって来た4人の流しが、流しで悪かったな。お前、歌えるのなら歌ってみろよと光夫に挑戦して来る。

すると、光夫はその場で歌いだし、結構巧かったので、雅子も流したちもすっかり見直してしまう。

雅子は嬉しそうな顔になり、お兄さんに紹介してあげると言葉をかけるが、あんたって、本当にお節介だな…と言い残して、光夫はその場を立ち去ってしまう。

翌日、東映オデオン座近くのゴーゴー喫茶「pirate」のステージでミニスカートの歌手(黛ジュン)が「恋のハレルヤ」を歌っているのに合わせ、ゴーゴーを踊っていたこん平を外に連れ出した光夫は、流したちが結束して、家には関係ねえ店ばかりを廻り始めたんだと知らせ、何とかするんだとハッパをかける。

「とん吉」では、流しの井上が、レコード会社のディレクター葉川良次(葉山良二)を連れて一緒に食事をしていた。

雅子は井上から、連れの男が音楽関係者だと聞くと、歌の巧い人がいるの。聞いてもらえませんか?と話しかける。

その話を聞いていた山川は、自分のことを言われたのかと勘違いし、雅子さんとなら「2人の銀座」じゃなくて「2人の新宿」でいけますねなどと喜ぶが、雅子は完全に無視する。

葉川は、良いですよ。いつでも連れていらっしゃいとすぐに快諾してくれる。

そんな会話を聞いていたトン坊は、よっぽどあいつの事好きなんだな?と雅子をからかうが、あいつって誰ですか?と気になる様子で山川が絡んで来る。

歌舞伎町の石戸組の縄張り区域を、わざと歌いながら流していた4人の流したちは、石戸興業をやっつける稽古をしようと話し合い、路上で踊り始める。

踊り終わった4人組に、付近を見回っていたこん平が、何やってやがる!と因縁をつけに来たので、4人組ともみ合いになる。

泣いてくれるな〜♬と歌いながら歩いていた流しの井上は、4人組が逃げて来たので、石戸組のシマに出入りするなと言ったはずだと注意する。

4人組が、僕たち、渋谷に帰らせてもらいます。毎晩こんな事やってられませんから…と弱音を吐くと、新宿はどうなる?俺たちがスクラム組んで、新宿を歌声が溢れる街にしようと励ますと、4人組の1人(あおい輝彦)が、俺、残るよ…と言い出し、他の3人も考え直したように、すみません。弱音を吐いたりしてと謝り、井上の差し出した手に自分たちも手を合わせる。

とあるスタジオで、赤いミリタリールックでスチール撮りをしていた「ザ・スパイダース」(本人たち)の面々は、ポーズ中、マチャアキ(堺正章)が胡椒を撒いたのでくしゃみをしだし、撮影が台無しになる。

他のメンバーは怒りだし、マチャアキが謝って、気を取り直してもう1度撮影し直そうとした時、パーテーションで区切られた隣のスペースからもくしゃみが聞こえて来たので驚いて観に行ってみる。

そこには、仲良しの浜田光夫が「ヨット鉛筆」の新製品「ヨットプロ」のCM撮りをやっている所だった。

仕事の事を聞かれた光夫は、ほら、聞こえて来るだろう?流しの歌が…とスパイダースの面々に話しかけ、全員、その場で耳をすましてみる。

歌舞伎町を歌いながら歩いていた流しの井上に目をつけた太田専務は、あいつを始末しよう。この間のチンピラにやらせようと中川と相談しあう。

その後、光夫を呼び出した小山は、この仕事に成功したら、お前を幹部にしてやると持ちかけながらドスを手渡す。

光夫は一瞬迷いかけるが、すぐに俺にやらせて下さいと願い出てドスを受け取ると、井上を尾行し始め、周囲に人気がない夜の公園に来た所で、振り向いて気づいた井上目がけぶつかって行く。

腹を刺された井上は噴水に落ちて水の中に倒れる。

これで幹部になれると喜んで、「とまり木」に戻って来た光夫だったが、店の中から聞こえて来る、こん平と小山の話をドアの前で聞いてしまう。

小山は、戻って来たら光夫を警察に突き出すつもりだ。あいつはまだ石戸組に正式に入っている訳じゃないから、この件は組とは無関係だなどと言っており、それを聞いたこん平が、いくら何でもその仕打ちはひどいんじゃないですか?と抗議し、小山から殴られていた。

そこに飛び込んで来た光夫は、驚く小山にドスを突き刺し、兄貴!と驚いて呼びかけたこん平を無視して逃げる。

「とん吉」の前を通りかかった光夫を見かけた雅子は、嬉しそうに、あなたに話したい事があるのと声をかけるが、光夫の強張った表情と、手に付いた血に気づくと黙り込んでしまう。

光夫が去った直後、店から八木が出て来て、今、ヤクザが刺されて病院に担ぎ込まれたそうだと雅子に教える。

石戸組の大野専務と中川がいる部屋にやって来た光夫は、専務さん、あんた小山に、俺を幹部にしてやるって本当に言ったのか?と迫り、小山はやったぜ、この俺が…と打ち明ける。

大野はふざけるな!と怒鳴りつけるが、そんな大野と中川に、光夫はドスを突き刺して行く。

雅子とこん平が、部屋に駆けつけた時、大野を刺した直後、その大野から背中にナイフを突きつけられた光夫が倒れていた。

駆け寄って来た雅子に、すまねえ…、あんたの言う事を聞かなくって…と詫びながら、光夫は目を閉じるのだった…

話を浜田光夫から聞き終えた「ザ・スパイダース」のマチャアキや順(井上順)は、そんな話じゃダメだよ。第一、僕たちの出番がないじゃないか!俺たちが出たら、もっと景気の良い話になるよと言い出し、そのままスパイダースの面々は、シナリオライターの赤井のマンションの前に押し掛ける。

テレビの脚本で忙しいし、今更脚本の直しは出来ないと断った赤井は、部屋に閉じこもって仕事を始めようとするが、外の道でスパイダースが突然演奏を始めたので、うるさくて集中できなくなり、一旦部屋を飛び出してしまう。

朝方戻って来た赤井は、妹に連中はいなくなったと聞き、2時間無駄にしてしまったと文句を言いながら書斎に戻って来るが、原稿用紙に向かったとたん、近くに隠れていたスパイダースが又「バンバンバン」の演奏を始めたので、近所の連中も文句を言いに集まって来るし、根負けした赤井は、窓から顔を出すと、分かったよ、直すよ。勘弁してくれ!と声をかけ、下でそれを聞いたスパイダースの面々は、バンザ〜イ!と歓声を上げる。

赤井は机の原稿用紙に向かうと、「光夫は昔の仲間たちの力を借り、石戸組の本拠地『クラブ ジョー』を襲撃した…」と書き始める。

ダンサーが踊っていた背後のステージ用階段から降りて来たのは、光夫と昔の旋盤工仲間たち(ザ・スパイダース)だった。

彼らは、店内にいた宍戸組の組員たちと大乱闘を始める。

大野と中川は専務室に逃げ込み、後を追って来た光夫に銃を突きつけるが、中川の背後から忍び寄った順が、花瓶で中川の頭を殴りつけ、倒れた中川の銃をマチャアキが光夫に投げて渡す。

その銃を大野に突きつけた光夫だったが、マチャアキが、撃っちゃダメ!素手でやっつけろ!と指示を出したので、その言葉に従い、大野を素手で殴り倒す。

客席に戻ってみると、仲間たちが、石戸組の組員たちを全員縄で縛り付けていた。

それを観たマチャアキと順は、話はこうでなくっちゃね!と満足するのだった。

日本テレビの公開番組「九ちゃん!」の会場では、客席の観客から一斉に「九ちゃん!」と呼ばれた司会者の坂本九(本人)がステージに登場していた。

地震雷火事交通事故…、世の中には災難に会ってくじけてしまう人、雄々しく立ち上がる人など色々います。今日御呼びしたのは、大変な怪我から立ち直られたこの方です!と九ちゃんが、ステージ中央のマイクの前に呼んだのは、俳優の浜田光夫であった。

もう大丈夫?映画はどう?と尋ねた九ちゃんに、光夫は、後、ラストシーンだけが残っているんですと答えたので、では、ご覧頂きましょう、どうぞ!と九ちゃんがキューを出す。

教会で1人神様に光夫の罪の許しを請い、怪我の回復を願っていたのは雅子だった。

そこに、オルガン弾きの百合がやって来たので、雅子は、少し話を聞いて欲しい。教えて頂きたい事がありますと願い出る。

話を聞き終えた百合は、その方、きっと立ち直れますわ、あなたの愛情できっと…と伝える。

今回の事で前科者になったら、又ヤクザの世界に戻るんじゃないかと不安を口にした雅子に、愛が不安と困難を乗り越えさせると思います。あなたの顔に、本当の愛情を感じるからですと百合は励ます。

石戸組に殴り込みをかけて負傷していた光夫は、光夫から腹を刺され入院していた流しの井上と同じ病室の隣のベッドに寝ていた。

その井上が、自分は今回の件を事件にしたくないと事情を聞きに来ていた高田英樹巡査に申し出たので、光夫は前科者ならずにすむ。

看護婦(芦川いづみ)を従え診察した医者(二谷英明)は、井上は左大腿部に傷があり、全治1週間だと伝え病室を後にする。

高田巡査も帰ると、光夫は井上に詫びを言う。

光夫と一緒に「クラブ ジョー」に乗り込んだ元旋盤工仲間たちは、石戸組の連中の隣の牢に入れられていたが、先に釈放される事になる。

中川たちは俺たちも助けてくれ!と出て行くマチャアキたちに声をかけて頼むが、最後に牢を出た順は、「な~んとなく〜、しあわせ〜♬」と笑顔で歌いながら、大野や中川たちが詰め込まれていた牢の前を通り過ぎて行く。

光夫の世話に来ていた母親のさちは、見舞いに来てくれていた雅子やトン坊の前で、皆さんに感謝しなくちゃね…と光夫に言い聞かせながら部屋を出て行く。

光夫も、俺はもう、ヤクザなんかに近づかないからねと約束すると、マーちゃん、これまで楯突いてごめんと雅子に謝る。

照れ隠しに、シャツを洗って来るからねと言いながら光夫のシャツを手に取ろうとした雅子は、そこに置いてあった似顔絵に気づき拡げてみる。

そこに描かれていたのは、あの教会のオルガン弾きの百合であった。

誰?この人?と聞いた雅子に、僕の恋人さ。音楽部にいたっていつか話しただろ?と光夫は明るく答える。

そう…と答えた雅子だったが、病院の屋上で洗濯物を干した後、1人物思いにふける。

光夫さんに教えてあげなくちゃ…。でも、そんな事したら、光夫さんはもう帰って来ない…。でも、そうしなくちゃ…と雅子は悩む。

病室に戻って来た雅子は、思い切って光夫に、私、この方の居場所を知っているの。直ったら案内してあげるわ。だから、早く直ってねと告げる。

退院した光夫を連れ、あの教会にやって来た雅子は、ウエディングマーチの音が聞こえて来たので、あのオルガンを弾いている方よと言いながら一緒に教会の中に入る。

光夫は、そのオルガンの引き手を観るが、それは探し求めている百合ではなく、別の女性(山本陽子)だった。

雅子もそれに気づき呆然とする。

どうやら、結婚式の最中のようだったが、ウエディングドレスに身をまとい、何故か哀しそうな表情でキリスト像に近づいていた花嫁こそ百合だったのだ。

それに気づいたのかどうか、がっかりした光夫は教会を後にし、近くの公園にやって来るとサングラスをかけて涙を隠すと、畜生!やけに目から汗が出るぜと自嘲する。

後について来た雅子も、何と言って慰めれば良いのか迷っていたが、光夫は石のベンチの上に登ると、俺はこんな事くらいでは参りゃしないぜ。何もかも忘れて1からやり直すぞ!やるぞ〜!俺はやってやる!と叫んだので、一緒にベンチの上に乗り、私もやるわ!光夫さんを歌手にするまで頑張るわ!と大声で誓うのだった。

「東芝レコード」のスタジオにやって来た光夫は、中村八大さん(本人)のピアノ演奏で歌い始める。

それを、退院した井上や雅子、ディレクターの葉川と共にブースで聞いていたのは、須藤ディレクター(小林旭)だった。

歌い終えた光夫の印象を葉川が聞くと、契約して鍛えようじゃないか。良い線行ってるよと須藤は答える。

それを聞いた雅子と井上は須藤に感謝するのだった。

(公開番組のステージ)浜田光夫が語った映画のラストシーンを聞き終えた九ちゃんは、良い話だねと褒める。

すると光夫は、入院中、ずっと考えていた実現したい事があり、ぜひ九ちゃんと一緒に歌う事なんだと言い出したので、九ちゃんは笑顔になり、光夫と共に「君は恋人」の歌を歌い始める。

その様子を会場の客席で見つめる雅子。

歌い終わった九ちゃんと光夫はがっちり握手を交わす。

その後、雅子と光夫は、がっちり手をつなぎあって、代々木体育館の近くの道を笑いながら駈けるのだった。